微妙な10センチ。〜最終〜
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#651 [あき]
ブラウン管の中では、お昼過ぎたワイドショーが流れていた。
無言で見つめる二人に、まず初めに口を開いたのは彼だった。
『驚いた?』
当たり前過ぎる質問に、私はやっぱり、そう答える。
『かなり。よく此処だってわかったね〃』
いわゆる、遠距離交際。しかも別れ話をしにきた相手に私は苦笑いで答える。
『駅からタクシーに乗った。』
『そっか。タクシー代かかったでしょ〃』
『以外に遠いんだよな〃』
『だって田舎だもん。』
:09/10/19 03:11
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:UVKG06YQ
#652 [あき]
彼がくしゃくしゃに握りしめていたのは、アパートの住所メモだった。
交際がスタートした頃、送りたいものがあると聞かれた住所。
初めて届いたのは、あの出張で、土産に持たせてくれたあのご当地グルメ。
帰路に着き、食してみるととても美味しかった。それを無邪気に伝えると、彼は、真空パックになったそれを送ってくれた。
男女としての交際がスタートしてからは、何度となく、彼は装飾品を私に送り寄越した。
そのメモなんだろう。
:09/10/19 03:21
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#653 [あき]
『この住所じゃさ、そんな事俺わかんないものなぁ〃』
『前に来た時は、此処来てないもんね。』
確かに、私が住む市には新幹線も止まる大きな駅がある。
国宝があったりする、ちょっとした観光地。
それだけ大きな市なのだ。
だけど、実は私が住む街は、その中心都市から、高速道路を車で四十分。その大きな心臓駅からローカル線に揺られて数駅分。
同じ市でも、都会と田舎。
そんな距離もあり、彼がこの地方に来た時も、私は此処には呼ばなかった。
夜はホテルに泊まったのだ。
そんなこんなで、実情を知らない彼は、市内にあると思ったんだろう。
怒りに任せて新幹線に飛び乗り、怒りに任せてタクシーに乗った。
タクシー運転手にしたら、有難いお客様だったに違いない。
:09/10/19 03:36
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#654 [あき]
久しぶりに会わせた顔が隣に座る。
遠く離れた地に住む彼が、突然にこの街に現れ、部屋に現れた。それだけ、彼の中の[あき]という存在は強かった。けれど、彼が求める[あき]には、私はなれない。
怒りに満ちた彼は、今は冷静に、私の話を聞いている。
いや、聞こうとしている。の方が正しい表現なのかもしれない。
彼の指や背中が、小刻みに震えている事に、私は気付いていたし.
それが、怒りの現れだという事も。
この先に、待っている彼の怒号も。
わかっていた。
けれど、もう彼の愛の強さに私の心は悲鳴を上げていた。
:09/10/20 01:57
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#655 [あき]
話を終えると、彼は一呼吸置いて、煙草に火をつけた。
私は静かに灰皿を差し出す。
『ようはあれだ。あきは俺の為に、その生活を変えようとはしたくないって事だな。だから別れたいと。』
またあの、低く地獄から聞こえるような声が、私の心臓を掴んだ。
『そうゆう事じゃない。ただ、もっと私を信じて欲しかたし、私を尊重して欲しかったっ…』
『ああっ!?ただ遊びたいだけだろ!?こっちで男とチャラチャラとよ!!!』
荒々しく、ガツンとテーブルを叩く。
ビクリと体が固まる。
怒号と大きな音が、また幼き頃の自分と重なり合って大人の自分をまた萎縮させた。
:09/10/20 10:08
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#656 [あき]
『やめて…大きな声出さないでっ』
『ああっ!?聞こえないっ!!この部屋にも何人男を入れたんだよっ!!俺だけじゃねーだろ!!』
『そんな訳っ…』
返す言葉も聞かずに怒りに満ちた彼に腕を捕まれた。捕まれた腕を咄嗟に引っ込め本能的に、体を後ろに仰け反らせ、彼から逃れる。
『ごめんなさい!殴らないでっ!!あきが悪いからっ!』
幼き自身が、姿を表す。咄嗟に頭を隠し、ただ、目の前の大きな怪物に怯え許しをこい、だからと言って震える体で痛みに耐える準備。
:09/10/20 10:17
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#657 [あき]
『馬鹿にするのもいい加減にしろよっ!!』
頭を隠した腕をまた捕み力付くで引き寄せる。よろけた体は、彼に簡単によりかかった。
『ごめんなさい!ごめんなさい!!』
幼きあきは、ただ必死にこれから我が身に降り掛かるんであろう痛みに耐える準備を初め、無駄だとわかりながらそれでも、許しを得ようと必死に訴える。
怒りに満ちた彼には、その姿は、ただ怒りを助長させるだけだった。
:09/10/20 10:23
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#658 [あき]
遠く離れた場所から、電波を通しての怒号。
怖くない。
私は、怒りを克服したんだと。
そう感じていた。
だけど、本当は、ただ遠く離れた場所に守ってもらってただけ。
殴られる事はない。
そんな安心感が、彼の怒りにはあった。
私は、それをただ、強くなれたんだと勘違いしていた。
:09/10/20 10:29
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#659 [あき]
『お前はいつもどうして俺の言う事が聞けないんだ!!』
『ごめんなさいごめんなさい…』
睨み付けるように顔を覗き込むその目の恐怖に私は、視線を合わせられなかった。
幼きあきは、ただ震えて小さくなるばかり。
ギロリと睨まれる目に、私はただ震えるばかりだった。
:09/10/20 10:56
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#660 [あき]
そうか。この人。
私のお父さん…あの怪獣に似ているんだ。
幼き頃、彼が姿を表す度に私は体が萎縮して小さく震えた。
大きな音と、お母さんの泣き声。
それに耳をふさいで小さな妹弟と三人部屋の隅で丸くなった。
あの記憶に似ている。
大きな男が、大きな音を立てて私の前に来る。
本当のお父さんは優しいはずなのに、あきが悪い子だから。
あきのせいで、お母さんが殴られて。
あきのせいで、妹弟が殴られて。
あきが駄目な子供だから。
お父さんはあきを殴る。
あの記憶に似ている。
:09/10/20 11:10
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