こいごころ
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#723 [向日葵]
そんな彼女に、ときどき心苦しくなる時がある。
だから、自分が表現出来る限りの「好き」を彼女に表す。
「許してほしいけど、許してもらえば苦しい。複雑で歪んだこの茉里への感情は、唯一、僕に残った罰なんだ」
「もし、茉里が許すと言ったら……?」
そう言うと、裕之は黙ってしまった。
宗助はふと思う。
茉里はもしかして、自分が「唯一の罰」だと感じている?
だから許せないのかもしれない、と。
:11/05/07 22:25
:SH05A3
:☆☆☆
#724 [向日葵]
それなら、もうそんな役目はやめてやってほしい。
茉里は、そんなことを望んではいない。
沈黙が続いたまま、車が停まった。
停まったのは、またもや茉里の家だった。
「もう遅いし、ご飯食べて帰りなさい。家の人には連絡するといい。……というか、予定は大丈夫かな?」
「はい。今日は母が仕事休みですから、妹は1人にしてないので」
「そうか。今日は悪かったね」
:11/05/07 22:25
:SH05A3
:☆☆☆
#725 [向日葵]
今思った。
裕之の笑った顔は、茉里と似ているんだな、と。
家に入ると、ドアの開いた音を聞いて、馨がやってきた。
「おかえりなさい。……あら?」
不思議そうに宗助を見る。
初めて見る茉里の母に、宗助も思わずじっと見つめ返してしまう。
するとまるで目で話しをきいたかのように、馨は急に納得して、茉里を呼ぶ。
「茉里ー、彼氏さんが来てるわよー」
:11/05/07 22:26
:SH05A3
:☆☆☆
#726 [向日葵]
馨の言葉に、遠くから「ええっ!?」と驚いた声がきこえたかと思うと、茉里が転ぶようにして玄関へやって来た。
「宗助!ど、して……っ」
「僕が夕飯に誘ったんだ。馨、夕飯はたくさんある?」
「ええ。丁度作りすぎたぐらいですから」
「この匂いは……。僕の好物だね」
「正解です」
:11/05/07 22:26
:SH05A3
:☆☆☆
#727 [向日葵]
夫婦の間に流れるやわらかな甘い雰囲気に、見てるこちらが恥ずかしくなりそうだったが、茉里は慣れっこなのか、手招きして宗助を家に入れる。
「ああなったら長いから。ほっといてかまわないよ。いつまでも新婚気分だから」
2階に上がると、木製のシンプルなドアがいくつかあった。
手前から2番目のドアが茉里の部屋のものらしく、茉里はそこを開ける。
妹の華名や栞とは違う、年頃の、しかも彼女の部屋に入るとなると、どこかドキドキするものだとは思うのだが、あっさりと通されれば、ドキドキすることすら忘れてしまっていた。
:11/05/14 22:46
:SH05A3
:☆☆☆
#728 [向日葵]
茉里の部屋は、洗いたての洗濯物のような、優しい匂いがした。
家具もベーシックな色で、宗助は落ち着いて入れた。
妹の華名は、淡いピンクだとはいえ、なんとなく落ち着かないのだ。
ところどころに小さなぬいぐるみがあったり、ポストカードが貼られているのを見れば、落ち着いた部屋にも女の子らしさを感じる。
ベッドが目に入った時に、少しだけドクリと血が熱くなったのは、男ならば仕方ないことだ。
:11/05/14 22:47
:SH05A3
:☆☆☆
#729 [向日葵]
「アイツと……なんの話してたの……?」
そのベッドに、茉里が腰をかけるものだから、宗助は少しドキリとする。
躊躇ないその行動は、宗助を信頼してるからこそだとは思うが(下に親もいるし)、信頼されすぎもちょっと困るものだと、心の中で苦笑いした。
「あのお2人の過去だよ」
「……そう」
「なあ茉里。親父さんを許せないのは、今も変わらないか?」
:11/05/14 22:47
:SH05A3
:☆☆☆
#730 [向日葵]
「……宗助……?まさか、アイツの話に同情したとか」
「そうじゃない」
言葉を途中で遮るように、宗助は否定する。
茉里の近くに座り、思ったことを言ってみる。
「おれは、茉里がもう許したいんじゃないかと思ったから」
「私が……?」
茉里は訳がわからないとでもいうように顔を歪ませる。
「怒らないでくれ。そんなつもりで言ってるんじゃないから」
:11/05/14 22:48
:SH05A3
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#731 [向日葵]
茉里はそれでも、眉根を寄せたままだ。
怒っているというよりは、戸惑っているのだろう。
茉里の心情を確認してから、宗助は言葉を続ける。
「茉里はもしかして、親父さんの思ってることをわかってるんじゃって思っただけ」
「あいつの思い?」
「うん」
「なに?あいつの思いって」
:11/05/14 22:50
:SH05A3
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#732 [向日葵]
「親父さんは……。茉里に嫌われたままでいることが、唯一の罰だって言ってた」
茉里は眉間のしわをさらに深くするが、その目は、どこか悲しそうに揺れていた。
「どうして私が、あんな奴の思うつぼにならなきゃなんないの……。それに、それが罰だと思ってるなら、万々歳よ」
「本当に?」
宗助はじっと茉里の目をみつめた。
問いただすように。
茉里の真意を見出だすために。
茉里の目は透き通っていて綺麗だが、その奥は暗く深くなっている。
彼女はきっと、その闇から出てこれずにいる。
:11/05/14 22:50
:SH05A3
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