こいごころ
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#101 [向日葵]
いらない言葉まで、吐き出してしまいそうだったから。

「茉里ちゃん、どうかした?」

バスに乗ったとき、千早先輩が声をかけてくれた。

優しい先輩。
好きな先輩。
尊敬できる先輩。

今日で、最後なのに……。

どうしてこんな醜い気持ちでいっぱいにならなきゃいけないの……?

「なにもないですよ。なーに言ってんですか!」

宗助の視線を感じた気がした。

でも見なかった。

⏰:09/05/07 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#102 [向日葵]
宗助が自分を心配しているはずなんてない。

変質者の時、助けてくれたからって、思い上がっちゃいけない。

あれ……?
でも、あの時なんで宗助いたんだろう……。

いいや。

なんだか、今は考えるのが面倒くさい。

茉里は席に着くと、顔を背けて目を瞑った。

次に目が覚めたとき、気持ちの入れ換えがちゃんと出来ている事を祈って。

⏰:09/05/07 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#103 [向日葵]
――――――――…………

「茉里ちゃん、起きて」

綾香に起こされた茉里は、寝たりないとばかりに目をこする。

どれくらい寝たのかと、携帯を見れば、まだ15分くらいしか寝ていなかった。

「なに?」

「高速に乗ったから、そろそろ先輩に最後の言葉おくろうよ」

引退の時の決まりごと。

先輩方にお疲れ様の意味を込めた贈り物と手紙。

それを今から渡そうと言ってるのだ。

⏰:09/05/07 23:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#104 [向日葵]
「じゃあ、次期キャプテン候補の宗助に言ったら?」

「茉里ちゃんメールで呼び出してくれない?ここで呼んじゃったらバレちゃうし、私メアドしらないの」

仕方ないから、茉里はメールを作成。
素っ気ない文章で呼び出す。

《ちょっと来て》

ただそれだけ。
少しして、宗助が返信してきた。

《なんで?》

《いいから来て》

⏰:09/05/07 23:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#105 [向日葵]
また返す。
するとしぶしぶといった感じで、宗助がやって来た。

「……なに?」

「用事があるのは綾香。私じゃないから」

可愛くない態度。

茉里は自分でも思った。

たった15分の睡眠は気分をいれかえちゃくれなかった。

そっぽを向いて、窓の外の景色を眺める。
それでも聞き耳を立てる。

段取りはこうだった。

⏰:09/05/07 23:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#106 [向日葵]
・先輩方を後ろの席に集める。
・1、2年の順番に先輩に手紙などを渡す。
・渡し終えたところで、全員で「3年間お疲れ様でした」と言うらしい。

「よし、じゃあ私が言うよ。先輩方ー!ちょっと聞いてくださーい」

綾香が説明をしている間、宗助がこちらを向いた。
窓ガラスでそれが見え、茉里はドキリとして、必死に窓の外を見た。

「加賀、酔ったのか?」

「……私、酔った事ないから気にしないで」

茉里は宗助を振り切るように、1年生にさっき2人が話していた事を説明する。

⏰:09/05/08 00:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#107 [向日葵]
今は、素直に宗助と話せない。

勝手だけれど、宗助を傷つける発言をするよりはきっといいに違いない。

誰も悪くない。
悪いのは、“仮彼女”の枠を窮屈と考えてしまう茉里自身だ。

馬鹿みたいだ。
自分で自分の首を絞めてるだなんて。

準備が整った。
先輩方に手紙などを渡す。

茉里が渡すのは、皮肉にも千早先輩だった。

「お疲れ様でした……」

⏰:09/05/08 00:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#108 [向日葵]
「茉里ちゃんも、いつもマネージャーとしてありがとう。茉里ちゃんが作ってくれるお茶、いつもおいしかったよ」

無邪気に笑いかけられれば、泣きたくなった。

ああ……宗助の好きな人とか、今は関係ない……。

私は、この人と2年間、一緒に過ごせて良かった。

先輩たちに席を譲った為、茉里たちの席もバラバラになった。

茉里は隣に宗助がきてびっくりした。

⏰:09/05/09 00:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#109 [向日葵]
無意識なのか、ただここが空いていたからか。

笠井キャプテンが、茉里たちに向けて言葉を贈る。

「2年生とは約2年間、1年生とはほんの少しの時間だったけど、とても楽しかったです。仲間は、一緒の目標に向かって進む為に大切な存在です。来年、皆で一致団結して、頑張って下さい。ありがとうございました」

バス内が、拍手でいっぱいになる。
皆して、涙を流す。

宗助を見ると、目元が光っていたけれど、それが涙なのかは分からなかった。

⏰:09/05/09 00:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#110 [向日葵]
この部活に入れて、心から嬉しいと思えた。

―――――――…………

1つの小さな行事を終え、移動するのが面倒くさいと皆言ったので、その場の席で着くまで過ごす事になった。

ほとんどが、泣き疲れたりで睡眠タイムに入った。
しかしこんな時に限って眠気が来ない。
茉里は困っていた。

さっき寝るんじゃなかった……。

しかも隣はあのままだから宗助なのだ。

宗助も、寝ずに起きている。

⏰:09/05/09 00:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#111 [向日葵]
何を話していいか分からなくて、茉里はやっぱり窓の外を見つめる。

「なんで……」

「へ?」

宗助が独り言のように呟いた。

「なんで先輩を好きになったかって、前に訊いたよな」

「あ、ああ……、うん」

「弱いとこ、見せなかったからさ……守ってあげたかったんだ」

遠くを見つめるようにして、まるで思い出話をするように、宗助は話を続ける。

⏰:09/05/09 00:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#112 [向日葵]
「先輩は、俺にだけ見せてくれた。それが、特別な気がしたんだ。……でも、先輩を本当に守ってやるのは、俺じゃないんだ……」

スッと、雫が宗助の手に落ちる。
宗助が、涙を流す。
たくさん、次々と……。

「今日まで、部活の中では、俺は特別な存在だったかな……」

本当は、もっともっと泣きたいのだろう。
でも泣けない。
自分の気持ちをさらけ出すわけにはいかないから。

でもこうやって、茉里の前だけで泣くのは、少なくとも部活内では特別と認めてくれてるからだろうか?

⏰:09/05/09 00:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#113 [向日葵]
それでもいい……。
窮屈でも、我慢する。
嫌な態度とるかもしれない。
それでもいいから……。

「泣かないで……」

茉里は宗助の頭を撫でる。
まるで、試合会場で、先輩の頭を撫でる宗助自身のように。

あの時の宗助みたいに、私は今、宗助を支える事は出来ているだろうか。

ほんの数ミリでも、この気持ちが伝わっているだれうか。

でも今は、その涙を止めてほしい。

胸が苦しくなってしまうから。

⏰:09/05/09 00:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#114 [向日葵]
宗助はされるがままに静かに泣き続ける。

そうやって、涙も枯れた時、宗助が笑顔であってほしいと茉里は思った。

しばらくして、気が済んだのか、目をぐいとこすって、宗助が顔をあげた。

「格好悪い……。男がマジ泣きとか……引くよな……」
茉里は首を傾げる。

「男だからって、泣いちゃ駄目なんて、私は思わないよ?」

宗助は茉里を珍しいものでも見るようにして、薄く笑った。

「そっか……」

⏰:09/05/09 00:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#115 [向日葵]
少しずつ、元気が戻ってきてるみたいで良かった。

茉里はホッとして、微笑む。

「そういえば……さっき、随分とピリピリしてたけど、なんで?」

ギクリと体を震わす。

「き、気のせい……」

「じゃなかったアレは」

「別に、宗助には関係ないでしょ!」

そう言えば、宗助は眉を寄せて不機嫌そうにする。

「な、なに……」

「関係ない……ね。気遣っちゃいけないんですか……?」

⏰:09/05/09 00:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#116 [向日葵]
「まったまたー。大して気にしちゃいないでしょ?」

ほっといても私は嫌いになんかならないんだから。

「……そうでもないよ」

え……。

茉里はドキッとする。

「元気ないのは、やっぱり気にはなるからね」

茉里は顔が赤くなるのを感じた。
それを見た宗助は、目をまん丸くさせる。

「なんで赤くなるの……?」

「え……いや……」

「い、言っておくけど、別に他意はないからな……っ?」

⏰:09/05/09 00:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#117 [向日葵]
「わ……分かってるよ!」

今日は忙しい1日だなと、茉里は思った。

怒ったり、悲しんだり、すねたり、嬉しかったり……。

宗助が相手だと、自分がどんなタイプの人間かわからなくなってしまいそうだ。

「あ、私も訊きたい事があるのっ!」

「……なに?」

「どうして前、変質者に襲われた時、宗助いたの?」

宗助はそれを訊かれるとは思ってもみなかったみたいで、頭をポリポリとかく。

⏰:09/05/09 00:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#118 [向日葵]
バツが悪そうな顔をしながら、ため息を吐く。

「……内緒」

「なにそれっ。嘘でも心配だったからとか言えばいいのにっ!」

「嘘でも言ったら調子に乗るから嫌」

「あっそ!」

すねた茉里は、なにか飲もうと鞄を開ける。
乱暴に鞄の中をあさっていると、中から何かが落ちた。

「なにこれ」

宗助が拾って、見る

「え?」

それは、会場で渡された、メールアドレスが書かれている紙。

⏰:09/05/10 22:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#119 [向日葵]
茉里は顔が青くなる。
浮気者だと思われたらどうしようと、動きを止める。

「ああ、会場で言ってた奴ね」

「聞いてたの?」

「いやでも耳に入ってきた」

宗助はそれを返す。
茉里は外のファスナーがあるポケットにそれを素早くポイと入れる。

「かっこよかった?王子様のような沢口は」

「私は……興味ないもん。これだって勝手に……」

⏰:09/05/10 22:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#120 [向日葵]
「メールくらいすればいいじゃない。他校と交流を深めるのだって大切だしね」

茉里の胸が、また鋭い痛みに襲われる。

何も……わかってない。
興味がないのは、宗助しか見てないからなのに。

茉里は悲しくなってうつむく。

まだ……伝えたりないのかな……。

「宗助……」

静かに茉里は口を開く。

「今日、先輩と帰りなよ」

⏰:09/05/10 22:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#121 [向日葵]
「え?前も言っただろ。先輩は彼氏と帰るって。そりゃ今日は休日だから、どうするかしんないけど……」

「いいじゃん。後輩との最後の帰りって言えば、きっと帰ってくれるって」

「……アンタは?」

口をキュッと結ぶ。
顔を上げて、微笑みを作る。

「仮彼女になに気遣ってんのよっ。馬鹿だね宗助はっ」

本当に馬鹿。
そんな優しさいらない。
いらないけど欲しい。

⏰:09/05/10 22:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#122 [向日葵]
本音と建前が、頭の中で戦う。

本当の馬鹿は、私だ……。

―――――――――…………

次の日。

先輩を交えてのミーティング。

今日は新しい練習メニューや、新しいキャプテンの発表がある。

茉里はいつもは宗助と道場へ来るが、今日は1人で来た。

朝も、いつもの公開告白は無しだった。

後から宗助が来て、茉里をちらりと見たが、茉里は1度も宗助を見ようとはしなかった。

自分でも驚くほど、茉里は落ち込んでいた。

⏰:09/05/10 22:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#123 [向日葵]
だから今は、宗助とまともに話せないと思った。
昨日の帰りみたいに、駄目な態度をとってしまうと思った。

全てが終わり、それぞれに帰る準備を進める。

その時、宗助が茉里の腕を引いた。
茉里がまるで怯えるように宗助を見るので、宗助は腕をすぐに放す。

「お前、なんか変だぞ。どうかしたか?」

「……なにも?宗助は心配性なんだから」

⏰:09/05/10 22:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#124 [向日葵]
「いくら俺が先輩しか見てないからって、そんな嘘通じると思うな」

困った事になったと、茉里は視線を泳がす。
すると、道場の入り口に、ミュシャがいるのが見えた。

「ミュシャ!どうしたの?」

逃げるように、宗助から離れる。

「帰ろうとしたら、茉里の知り合い見つけたから連れて来たのよ」
「知り合い?」

ミュシャが「こっち」と言えば、柱の陰からその人物が現れる。
その人を見て、茉里は口をあんぐりと開けた。

⏰:09/05/10 22:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#125 [向日葵]
「こんにちわ」

その人物とは、あの沢口 優真だった。
相変わらずの、柔らかな笑みを浮かべている。

「な、何をして……っ!」

「メールくれないから、遊びに来ちゃったんだ」

そんな……っ。

突然の来訪者に、茉里はただただ驚くしか出来なかった。

――――私は、本当にあなただけだった。
それでも、他の人を見つめる事をしていたら、あなたに辛い思いさせなくて良かったかな……。

⏰:09/05/10 22:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#126 [向日葵]
[4]突然の来訪者

今日は、茉里たちの代になって初めての休日。
……のはずだったのだが、予定が変更した。

茉里の高校、西高校で練習試合が入ったのだ。

その試合校に、茉里は複雑な心境でいた。

それもこの間、北高校のキャプテンである沢口が、わざわざ直談判しにきたのだ。

先生には、前もって言っていたらしく、あとは部員に聞いてくれと言われて来たらしい。

いつもの人数より、今日は遥かに多い。

⏰:09/05/10 22:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#127 [向日葵]
2つでいつも足りるヤカンのお茶は、すぐに無くなってしまう為、茉里は何度もウォータークーラーを往復していた。

ひたすら水が溜まるのを待っていたとき、視界に紺色の道着と手が現れる。

茉里が後ろを向くと、そこにいたのはにっこりと笑った沢口優真がいた。

「精がでるね」

「おかげさまで。もう休憩ですか?」

「うん、10分ね。加賀さんと話したかったのに、どこか行ってしまったから、探してたんだ」

「水分補給したいなら隣のウォータークーラーをどうぞ」

⏰:09/05/10 22:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#128 [向日葵]
素っ気なく、だけどにっこりと言う。
「離れろ」と言外でいいながら。

「水分はもういいんだ。僕はもともと汗をせんなにかかないから」

「そうですか」

棒読みもいいところな返事だ。

「メールしてくれないの?」

「なんのことです?」

これまたにっこりと笑って言う。
襟元にささったメールアドレスはもらってないのと同じようなものだと茉里は思っている。

ヤカンの蓋をして、持とうとすると、両方をひょいと沢口に持っていかれる。

⏰:09/05/13 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#129 [向日葵]
「ちょっと!返してください!」

「同い年なんだし、敬語やめない?」

「聞いてます?か・え・し・て!」

まるでじゃれあっているとでも思っているのか、沢口はにこにこと楽しげに笑っている。

対照的に茉里はイライラして、堪忍袋の緒が切れかけだった。

「もうっ!いい加減に……」

「沢口」

聞き慣れた声がした。
宗助だった。

「次にやる試合の事で、話したい事があるんだけど」

⏰:09/05/13 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#130 [向日葵]
茉里はホッとする。

これで解放される。

沢口は残念そうにヤカンを茉里に返すと、そのまま宗助と行ってしまう。
ホッとしながら、茉里はその一方でため息をつきたくなった。

別にさっきのは、助けてくれたわけじゃない。
キャプテンとして、沢口を呼びに来ただけだ。

満杯になったヤカンを持って歩き出す。
なんだか筋肉がついてしまいそうだ。

――――――――――…………

「加賀、たすき付けてくれ」

⏰:09/05/13 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#131 [向日葵]
赤く長いたすきを茉里に差し出したのは、宗助だった。

スコアを付ける準備をしていた茉里は、ファイルを一旦置く。
少し背の高い宗助は、背を向けるとちょっと屈んでくれる。

なんで、こんな普通なんだろう……。

ついこの間、あんなにぎくしゃくしていたのに、1日経てば宗助はいつも通りに戻っていた。

安心したような、物足りないような、茉里はそんな気分だった。

「随分と、気に入られてるな」

「なにが?」

「沢口」

⏰:09/05/13 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#132 [向日葵]
茉里は思いきり眉根を寄せる。

「嬉しくないよ」

「顔は申し分ないし、性格も良さそうじゃないか」

「竹刀で顔面を思いっきり殴られたいの……?」

どうしてそんなひどい事言うのよ……。

出来たという合図に、背中を叩くが、いつもの叩く強さより遥かに強く叩いた。
宗助は少し呻くが、茉里はそんな事知る由もなかった。

「どうかした?茉里ちゃん」

「なんで?」

⏰:09/05/13 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#133 [向日葵]
「目がつり上がってる」

茉里は目元を揉みほぐす。
自分だって、こんな顔したいわけじゃない。

「そういえばね、千早先輩が今日見に来てくれるんだって」

あっ、そ……。

茉里の心は更に荒んでいった。

黒板に、チョークで自分たちのチームの名前を書く。

「僕らのも書いてくれる?」

きた……。

激しい脱力感に襲われる。

「自分で書いてください」

「加賀さんの字、きれいで見やすいから」

⏰:09/05/13 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#134 [向日葵]
もういい……。

書こうと手を上げたとき、ふわりと誰かの手が重なる。
そしてチョークを抜き取られる。そばに立たれれば、漂ってきた香りで誰だか分かる。

「アンタは上、うまく書けないだろ?変わる」

「……宗助はノッポだもんね」

ギロリと睨まれたが、茉里は知らんぷりをする。
顔を背ければ、我慢していたかのように顔の体温が一気に上昇する。

手が触れた……。
もっと別の取り方があるだろうに、なんで……。
自分ばかり、うろたえる……。

⏰:09/05/13 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#135 [向日葵]
たまには宗助も、自分の事でうろたえてしまえばいいのに……。

触れたところが、まだ熱を持っている。

――――――――…………

試合を開始し、20分程が経過した。
男子の試合。
黒板に結果を書いていると、次の番の宗助が見に来た。

「1……2……、ここで、あ、そっか……」

なにやらブツブツと言いながら、決まった技の本数を数え、今やっている試合を見る。

「ほぼ互角ね」

⏰:09/05/13 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#136 [向日葵]
「まあな。とくに沢口は強い……」

嫌味でも意地悪でもなさそうだが、茉里は苦い顔をする。
しかし、宗助の言う通り、沢口の剣道はきれいだった。
他の北高の部員と違い、経験がない茉里でさえ、その技の1本1本が磨かれていると思った。

でもやっぱり……。

「私は……宗助の剣道の方がす……」

「頼むから、今あまりふざけた事言わないでくれ。集中したいんだ」

ふざけた事……か……。

⏰:09/05/13 02:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#137 [向日葵]
そりゃこの状況で言うセリフではないかもしれないけれど、あんまりだ。

茉里は下唇を噛む。
また黒板に向き直った時、道場の戸が開いた。

「あ、茉里ちゃん」

「千早先輩っ」

現れた千早先輩に、宗助は振り向く。
千早先輩は黒板をみて、試合状況を確認すると、宗助の方を見る。

「ちょっと、ここらでバシーンと決めなさいよ!」

「分かってます。でも、相手は沢口ですから……」

「ああ、あの子強いよね。でも、自信もちなさい。アンタの方がいい剣道してるわっ」

⏰:09/05/13 02:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#138 [向日葵]
茉里が言いたかった事を、先輩はあっさりと言ってしまった。

宗助は止めなかった。
言ってほしかったのかもしれない。
宗助は黙って頷く。

集中出来ないんじゃ……なかったの?

皮肉にも、先輩が来た後の宗助の試合は、内容も結果も申し分なかった。

また10分休憩が入る。
ヤカン2つ分のお茶を入れ終えた茉里は、補充でまた出て行く。

靴を履き替えるところまで来たとき、腕を引かれた。

宗助だ。

⏰:09/05/17 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#139 [向日葵]
なにか、苦しそうに顔を歪めている。

「お茶なら今から行くとこだよ」

「……そうじゃない。さっきの事で」

「さっき?なんの事?」

意外なほど、茉里の顔は冷静だった。
だから宗助は困る。

「宗助はなにか悪い事したの?」

「……気が……する……」

「いらない心配するなら、先輩と喋って来たら?」

茉里は踵をかえす。
宗助はそれ以上追っては来なかった。

⏰:09/05/17 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#140 [向日葵]
ヤカンに水を入れながら、茉里はぼんやり考える。

どうしたら伝えれるのかな。
まだ、宗助の中で、私の想いは軽いものなのかな?

重い想いって、どんなのだっけ?

言われてきたけれど、分からない。
分からないから、それ以上の表し方が分からないのかもしれない。

気を緩めたら、泣きそうだけど、宗助の立場からすれば、好きな人とから誉められるのは嬉しい事だから、仮彼女とか、中途半端な位置にいる茉里よりは、集中出来るのだろう。

むしろやる気すらおこる。

⏰:09/05/17 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#141 [向日葵]
だから、どんなにひどい事を言われても、全ての怒りを向けることが出来ない。

気持ちは、分かるから。

大きく深呼吸する。

落ち込んでいても、仕方がない。自分は、自分のやり方があるのだから。

――――――――…………

今日の日程が終了した。
各々片付けにかかる。

「あ、宗助!一緒に帰らない?」

千早先輩が言う。
茉里はその言葉を耳にしながら、お茶を配っていた。

一向に、宗助のオーケーの返事が聞こえない。

⏰:09/05/17 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#142 [向日葵]
自分に気を遣ってるのだと分かる茉里は、さりげなく席を外す。

今日は1人コースだ。

そう思いながら、歩いて更衣室へ向かう。

「お疲れ様」

脱力する気もなくなった。

しつこく声をかけられ続けられたら、嫌でもその声の主が分かってしまう。

「なにか?沢口さん」

「だからさ、敬語やめない?」

後ろから茉里の前へ回り込んだ沢口は、どれだけ失礼な態度をとってもその微笑みを崩さない。

まるで能面だ。

⏰:09/05/17 01:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#143 [向日葵]
「一緒に帰らない?」

「私は1人で帰りたいので」

「ちょっと会話すれば、お互い色々分かるじゃない」

茉里はキッと沢口を睨む。

「知りたくもないの。私は好きな人がいるし、他の人なんて考えたくないの。迷惑な……」

そこまで言って、茉里は言葉を止める。
気づいてしまった。
自分は沢口をどうこう言える立場じゃない。

茉里だって、同じなのだ。

⏰:09/05/17 01:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#144 [向日葵]
けれど茉里は、アピールして続けいて、いつか振り向いてくれればいいなどと言って、仮彼女として、宗助そばにいることをゆるされている。

でもこれは、今、沢口がやっている事と同じようなもので、茉里自身、けれが迷惑と感じているなら、宗助だって迷惑を感じているのかもしれないのだ。

そんなこと、気づきたくもなかったのに……っ。

八つ当たりのように、茉里は沢口を睨んだ。

「とにかくもうやめて!」

茉里は更衣室へと走って行く。

⏰:09/05/17 01:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#145 [向日葵]
遠くで沢口が呼んだ気がしたが、無視した。

ホントに、仮彼女でいていいの?
アピールするどころか、宗助にますます嫌われているんじゃ……。
だから今日、あんな事を言われて……。

自問自答しながら、更衣室で鞄を取ると、またすぐに出て、今度は駅へと走って行く。

頭がうまく回ってくれない。

少しして、茉里はゆっくりと歩き出した。

今更……こんなに深く考えても仕方ないのかもしれない。

⏰:09/05/17 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#146 [向日葵]
他に好きな人を作れば、きっと楽な道を選べる。

でも好きな人は……作るものじゃないから……。

ほら、こうやって、また理屈をこねてしまう。

自分はこんな風でしか、恋愛が出来ないから。
そんな簡単に、諦めるなんて、したくないから。

「……もうっ……」

今、自分がどういう考えを持てばいいか、分からなくなってる。

ため息をひとつ吐いて、足のスピードを速くしようとした時だった。

⏰:09/05/17 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#147 [向日葵]
勢いよく、肩を引かれる。

「なに、先に帰ってんの……」

息を切らせた宗助が、そこにいた。

「宗助……」

気の抜けた声で、彼の名を呼ぶ。

「なんで……。先輩は?」

「彼氏と会うから、やっぱり一緒に帰れないって」

なんだ。それでか……。

「……それもあった。けど、気になったから」

「なにが?」

「アンタが」

⏰:09/05/17 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#148 [向日葵]
茉里は目を見開く。

私を……?

「さっき、やっぱり俺の言葉が間違ったと思ったから」

「さっき?」

「ふざけた事だなんて……言ったから」

茉里は顔を伏せる。
いつになく大人しい茉里に違和感を覚えた宗助は、首を傾げて茉里をじっと見る。

「いいの。気にしてないから」

「嘘だ」

「ホントだもん」

⏰:09/05/19 01:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#149 [向日葵]
「いい加減にしろっ」

宗助は声を荒げる。
茉里はびくりと体を震わす。

「なに気にしてるか知らないけど、不満があるなら言ってくれなきゃ、俺が気になるんだよ。これでもアンタの事、色々心配してんだからなっ!……ってか、これ前も言っただろ」

ほらね、やっぱり諦めるなんて出来ない。

「ふざけた事なんて言って悪かった……。俺は、加賀の俺に対する……好意を、ふざけてるなんて思ってないから」

⏰:09/05/19 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#150 [向日葵]
顔を見れば、声を聞けば、姿を見つければ、やっぱり思ってしまう。

「先輩は褒めただけだけど、アンタは、好きだなんて言おうとするから……。ちょっと恥ずかしかっただけ……っ!」

乾いた地面に、雨粒のような雫が2、3滴落ちる。

「……加賀?どうした?」

気づけば、茉里は泣いていた。
ただ、その涙がどこからくるものかわからなかった。

切ない、もどかしい、嬉しい、愛しい……。

⏰:09/05/19 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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