こいごころ
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#451 [向日葵]
なんだかホッとしたような、でも来てほしくなかったような、よくわからない気持ちが、胸の中をいっぱいにする。

「あー、ごめんごめん。続きやろっか」

「いい。やっと途切れて一段落したし、今から夕飯の買い出しに行く。加賀、付き合え」

呼ばれて、ぼんやりしていた茉里は、宗助のほうを「え?」といったふうに見る。

「だったらあたしも……」

栞も当然のように立って、一緒に行こうとしたが、宗助に止められた。

⏰:10/03/01 03:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#452 [向日葵]
「おまえはいらん物まで買うからいい」

「買わないから!」

「いい。そんなに大人数でも邪魔なだけだ。」

そう言われて、栞はしゅんと肩を落とす。

「でもあたし……力あるし……」

「俺のほうが、お前よりずっとある」

それで話をきるようにして、まだ座り込んだままの茉里を引っ張り立たすと、上着と財布を持って、そのまま出ていった。

いつも手を繋ぐが、今はなんだか素直に繋げなかった。

⏰:10/03/01 03:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#453 [向日葵]
それに気がついた宗助は、少し後ろにいる茉里を振り返る。

「どうした?」

「え?あ、……ううん、なんでも」

拗ねているように、自分が唇を突き出しているのがよくわかった。

宗助はなにも悪くないのに、2人っきりになった途端に、胸の中がぐちゃぐちゃになりだした。

「栞がなにかしたか?」

「なにも……」

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#454 [向日葵]
言ってから、いつの間にか食いしばっていた歯が緩み、唇がわなわなと震え出した。

心配したように、宗助が茉里を覗き込む。

「なんで……泣く?」

宗助の手が、頬に優しく触れる。触れられれば、余計に涙が流れ出す。

いやだ。
こんな自分、宗助に嫌がられる。

宗助の過去を聞いても、その場にいなかった。
出会ってすらいない。
そんな自分は、あきらかに蚊帳の外で、せつなくて、はがゆい。

⏰:10/03/01 03:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#455 [向日葵]
でも1番嫌なのは、宗助の過去すら自分のものにしたがる、ひどい独占欲の自分。
醜い、いや、消えてよこんな感情。

「加賀、別に迷惑だなんて思わないから、言って?じゃないと泣く理由がわからなくて、俺どうしたらいいかわからないよ」

いつまでも、ただ声を押し殺して泣く茉里に困惑して、宗助は優しく、まるで子供に話すみたいに茉里に話しかける。

その優しさが、宗助の家に来てから荒んでいた心を、柔らかくしてくれる。

⏰:10/03/01 03:36 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#456 [向日葵]
「ごめん……。だって嫌だったの」

「何が?」

「宗助を、1番好きなのは、私なのに……っ」

会話が成立していないが、宗助はその言葉だけで、茉里がどうしたのかわかった。

まだ栞が引っ越していない頃、いいなと思った女の子ががいた。
多分両思いだったと思う。

すると、栞はいち早く察知して、妨害した。
それを知ってる

⏰:10/03/01 03:36 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#457 [向日葵]
だからか、茉里の言葉足らずの言い分を、理解してくれたのだろう。

「知ってる。だから、気にするな。大丈夫だから」

でも宗助は、そんな彼女を可愛く思い、柔らかく微笑む。

頭を撫でるが、まだ茉里の涙は止まらない。

そして泣いたことで、甘えたがっているのか、彼女は宗助に要求する。

「ハグがいいっ」

撫でていた宗助の手が不自然に止まり、固まる。

⏰:10/03/01 03:37 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#458 [向日葵]
「……ごめん。なんか聞こえなかったていうか、耳が言葉を受け付けなかったというか……」

こういうところが、またいい。
彼女がいたことのある男子なら、きっとなにも言わなくても抱きしめてくれているかもしれない。

でも、そんな宗助だから、茉里は好きなのだ。

涙もおさまり、茉里は笑顔になる。

「買い物、行こっか」

歩き出すが、宗助は歩き出さない。茉里の背中をじっと見つめ、そしてハッとすると、茉里の腕を引っ張る。

驚く茉里の頭を寄せ、そのまま抱きしめる。

⏰:10/03/01 03:37 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#459 [向日葵]
要求したくせに茉里は、急な宗助の行動にうろたえ、思わず胸を押し返して、距離を作る。

「な、なになに!どうしたの!」

さっきまでの空気とは違い、宗助は真剣に茉里を見つめる。

「アンタはふざけて甘えれても、本当に甘えたいときは甘えないだろ。それを我慢する必要なんかないんだ。俺が……いるから」

その言葉が、温かく胸に広がる。どうして、そうやって、1つずつ私の心を暴いていってしまうのだろう。

嬉しくて、幸せで、どんどん好きになっていく。

好きって気持ちに上限がなくて、自分でもどこまでいくかわからない。

⏰:10/03/01 03:38 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#460 [向日葵]
でもせっかくだからと、その胸に顔をうずめて、その暖かさを確かめる。

しばらくして、顔を上げた。

「ありがとう……」

それから仲良く手を繋ぎ、歩き出した。

・・・・・・・・・・・

なにあれ……。

華名の部屋の窓から、茉里と宗助を見ていた栞は、眉間に深くシワを寄せた。

泣くなんて卑怯だわ。

⏰:10/03/01 03:38 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#461 [向日葵]
あれじゃあたしが悪者みたいになるじゃない。
それでなくてもあたしはハンデがあるっていうのに。

カーテンを掴み、力を入れすぎて、その手が震える。

しかも宗助から抱き寄せるなんて。
あの宗助が、誰かを抱き寄せるだなんて……っ。
そんなの、見たくなかったのに。

あの女…………っ!

「栞……ちゃん……?」

栞の様子がおかしくなったのに気づいた華名が、栞の背中に呼びかける。

⏰:10/03/01 03:38 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#462 [向日葵]
「あ、ごめん、なになに?」

振り返った時、窓の外に向けていた鬼の形相を捨てて、いつもの優しく人懐っこい笑みに戻す。

「紅白終わったらねえ、初詣にいかなあい?」

「うん、もちろん」

「やったあ!」

「ところで、あの人、いつまでいるの?」

「えー?茉里ちゃん?可愛いよねえ。宗兄ともお似合いだしい」

話が噛み合っていないが、栞にとって、そんなこと今はどうでも良かった。

⏰:10/03/01 03:39 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#463 [向日葵]
ど、こ、が!
あたしのほうが若いし、可愛いし、こんっなに一途じゃない!

「華名……、あたしよりも、茉里さんがいいんだ……。寂しいな……」

そう言えば、優しい華名は、悲しそうな顔をして、栞に抱きつく。

「そんなことないよお!栞ちゃんだって大好きだもおん!」

「じゃあ、あたしがこの家の家族になってもいい?」

つまりは奥さんになりたいという意味だが、華名はわからず、首を少し傾けながら微笑む。

⏰:10/03/01 03:39 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#464 [向日葵]
「心配しなくても、栞ちゃんはもう家族みたいなものだよお。もちろん、本物の家族になってくれたら、お姉ちゃんが出来たみたいでうれしいけどお」

「茉里さんは?」

「茉里ちゃんもお姉ちゃんみたいで大好きだけどお、その前に、華名の初めてのだーいじなだーいじなお友達だものお」

そうよ、あたしはまだまけてなんかない。
あたしは家族みたいに近しい存在でも、あの人は所詮友達、彼女、つまりは他人止まりなんだもの。

その前向きな解釈に、さっきまでのむかついた気持ちはマシになった。

あの人よりも、あたしのほうが優位に立っている。
まだ、諦めるのは、早い。

⏰:10/03/01 03:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#465 [向日葵]
―――――――…………

買い物に行って、元気が回復した、……とは言えなかった。

「宗助、ガラスのお皿出していいー?」

「ああ」

夕飯の用意を、宗助と一緒にやろうと思っていた茉里は、キッチンの中にいる宗助と、そこに自分がいるはずの場所にいる栞とを見る。

納得がいかない。
どうして割り込まれなきゃならないのだろう。

⏰:10/03/18 13:07 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#466 [向日葵]
30分前のことだった。

夕飯のメニューも決まり、キッチンに一緒に立った茉里。

あ、なんか新婚みたい。

だなんて浮かれながら手を洗っていると。

「ちょっと宗助!」

少し甲高い声が聞こえた。

「お客様になにやらせてるの。料理なんて、招待した側がやるものでしょ!」

「あ、いいのいいの。私がやりたいって言ったから」

⏰:10/03/18 13:07 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#467 [向日葵]
そう言う茉里の言葉を無視して、栞はにっこりと笑って茉里に言う。

「あたしの方が勝手もわかりますから、茉里さんは座っててくださいな。お客様なんですから」

と、半ば強制的に引っ張られ、近くのソファに座らされた。
料理が出来ない華名も、もうすぐ紅白だからと、録画の準備をするために座っている。

「茉里の口に合う料理を宗助と作りますね」

あっという間にポジションを奪われ、茉里は肩をがっくりとさせた。

⏰:10/03/18 13:08 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#468 [向日葵]
そして今に至る。

「茉里ちゃん、茉里ちゃん」

華名が新聞を広げ、紅白出場する人達の欄を指差す。

「茉里ちゃんは、好きな人出る?」

「あ、うん。この人達大好きだよ」

茉里は、男性アーティストのトップバッターを指した。

「ファンクラブも入ってるし、ライブも行くんだー」

「すごーい!今度華名も連れていってえ」

⏰:10/03/18 13:08 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#469 [向日葵]
「もちろん!華名ちゃんは?」

「華名はこの人お」

女性アーティストの中盤あたりに出てくる人物を指す。

「へー。聞いたことないなあ」

「今度CD貸すよお」

「加賀誰が好きってー?」

キッチンから宗助が会話に入る。新聞を持った茉里は、宗助のところまで行き、さっき指したアーティストを教える。

⏰:10/03/18 13:08 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#470 [向日葵]
すると、宗助が驚く。

「マジで?俺も好きだよ」

「すごい!じゃあ今度皆でライブ行っちゃう?」


盛り上がりかけた時、何かが落ちる音が聞こえた。
隣を見れば、栞が足を押さえてうずくまっていた。

どうやら用意しようとしていたガラス皿が、足の上に落ち、強く打ったらしい。

「だ、大丈夫?」

茉里が急いで駆け付ける。

⏰:10/03/18 13:09 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#471 [向日葵]
「大丈夫です……。ごめんなさい……」

青い顔をする栞は、明らかに大丈夫ではなさそうだった。
心配していると、栞は目を潤ませながら宗助のほうを見る。

「宗助え……、手当てしてくれる?」

宗助は仕方がないなというふうに栞のところまで来て、立たせるために手を貸す。

「加賀と華名……。……華名、栞の手当て、してやってくれ」

その言葉に、栞は目を見開く。

「な、なんで?あたしは、宗助に頼んだのに!」

⏰:10/03/18 13:09 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#472 [向日葵]
「華名のほうが手当ては綺麗にしてくれる。足なら尚更、歩くのに邪魔にならないよう綺麗にしたほうがいいだろ」

「でも……っ」

「うだうだ言ってる暇があるなら、さっさと行け」

冷たく引き離した宗助は、ソファに座り、もう華名のことには構わない様子だ。

それに気分を害し、青ざめていた顔が反対に赤くなった栞は、本当に足が痛いのかというぐらいスタスタとリビングをあとにした。
華名もあとに続く。

「そんな冷たい言い方しなくても……」

と言いながらも、宗助がここに残ってくれるのが嬉しい。

⏰:10/03/18 13:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#473 [向日葵]
「じゃあ、ついて行けばよかった?」

意地悪な問いに口を尖らせた茉里は、宗助の隣に座る。

「そういうわけじゃ……」

「だってアンタ、行かないでって顔してたように見えたからさ」

「うん……。ごめん、思った」

「なんで謝んの。いつものアンタなら、それで当たり前みたいな言い方するくせに」

おかしそうに、でも意地悪そうに笑う宗助に、ドキリとする。

⏰:10/03/18 13:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#474 [向日葵]
「心配しなくても、俺はアンタしか見てないし」

「……名前呼ぶのためらうくせに、そういうクサイ台詞は言えるのね」

「やかましい」

親しみのある力加減で、茉里の頬をつねる。
おかしそうに茉里が笑うと、宗助と目が合う。

茶目っ気を含んだ宗助の目が、切なげな雰囲気を漂わせる。
その目をじっと見つめているうちに、2人の距離が縮まっていた。

⏰:10/03/18 13:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#475 [向日葵]
つねられていた指が緩まったかと思えば、その手は、優しく頬にそえられる。

眼鏡かけたままキスって出来るのかしら……?

ふいに思った疑問は、今の状況にはどうでもよすぎて、頭のどこかへいってしまった。
前髪が触れ、吐息と体温を近くに感じる。

まつげ……長いなあ……。

そう思ったのを最後に、ゆっくりと目を閉じた。

「茉里……」

宗助が、名前を呟く。

すると、足音が近づいくるのが聞こえ、2人同時に目を開ける。
開ければお互いの顔がすぐそこにあり、うろたえ、素早く離れた。

⏰:10/03/18 13:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#476 [向日葵]
耳に、心臓があるみたい……。
うるさい……すごく……。

「栞ちゃんの手当て終わったよお」

「あ、そう!お疲れ様!」

絶対に顔が赤い。
それを知られたくなくて、テレビを見てるふりをしながら華名にちらりと視線を向け、またテレビを見る。

隣の宗助を盗み見れば、そっぽを向いていた。
しかし、その耳は、これ以上ないくらい真っ赤になっていた。

さっきみたいな甘いやりとりを、茉里は何度か経験したことがある。
しかし、その甘い雰囲気に浸りすぎて、相手をちゃんと見ていなかった気がする。

⏰:10/03/18 13:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#477 [向日葵]
手や、近くに感じる体温。
触れる柔らかな前髪。
潤んで自分を映し出す黒い目。
自分の名を呟く、低く、甘い声。

全てを意識し、全てが頭を真っ白にさせた。

こんなの、本当にキスしちゃったらどうなるんだろう……。
キスだけじゃない……。
もしも……。

そんなことを考えてしまうだけで、熱が出そうだ。

むずがゆい感情を、どうすればいいかわからなくて、茉里は立ち上がり、近くにいた華名をギュッと抱きしめた。

⏰:10/03/18 13:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#478 [向日葵]
[13]君は大切な友達

新年になり、自分の部屋でぼんやりと過ごしていたミュシャは茉里からのメールで初詣に行くための準備をしていた。

神社はミュシャからも近い場所なので、ミュシャも行くと返事をしたところだ。

階下のリビングにいる両親に一言言ってから家を出れば、初詣に向かうのか帰るのか、人がぽつぽつといる。

歩くこと20分、神社近くになればなるほど、ガヤガヤとした声が聞こえる。

⏰:10/04/26 22:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#479 [向日葵]
「あ、来た来た。ミュー!こっちだよー!」

鳥居近くの階段に、ミュシャに向かって大きく手をふる茉里。
その少し後ろに宗助と、知らない女の子が2人いた。

茉里はミュシャを待ちきれなくて、小走りで迎えにいくと、満面の笑みを向けた。

「あけましておめでとー!今年も仲良くしてねっ」

「あけおめ。こちらこそ」

2人で笑みを交わしていると、宗助が後ろから声をかける。

「おーい。2人の世界に入るなよ」

⏰:10/04/26 22:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#480 [向日葵]
ミュシャはにやりと笑いながら宗助たちの元へ行く。

「妬くな妬くな。女にまで妬いてたらアンタ身がもたないわよ」

「いや妬いてないから」

「それはそうと、こちらのお嬢さん方は?」

ミュシャは華名と栞に目を向ける。

ミュシャに見とれていた華名は、ハッとして、にこりと笑う。

「はじめましてえ。宗兄がいつもお世話になってますう、妹の華名といいまあす」

「栞です。宗助とは幼なじみで、昔から仲良くしてます」

⏰:10/04/26 22:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#481 [向日葵]
「久瀬ミュシャ。茉里の幼なじみよ」

自己紹介もすんだところで、一同は階段を上って、上にある境内を目指す。
当然、茉里は宗助と並んで行くと思いきや、隣を陣取ったのは幼なじみの栞だった。

ご丁寧に宗助の袖を少しだけ掴んでいる。
隣にいる茉里を見れば、ミュシャの視線に気づき、苦笑いを浮かべる。

それだけで全てを理解したミュシャは、宗助に声をかける。

「おい、多分彼氏の笹部」

「多分て……」

「彼女が流されそうになってるぞ。手を繋いでリードしなさい」

茉里の手を掴んで引っ張り、宗助の元へやる。

⏰:10/04/26 22:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#482 [向日葵]
「頼むから、迷子にならないでくれよ」

「そんなヘマしません!」

憎まれ口を叩きながら、2人は仲良く手を繋ぐ。
茉里はそっとミュシャを振り返ると、ミュシャはウィンクをした。

「余計なことを……」

右斜め後ろから、低い呟きが聞こえた。

なるほど、あなたはそういう性格。

栞をチラリとみる。

⏰:10/04/26 22:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#483 [向日葵]
大方、この栞とやらに邪魔されたりしたのだろうとミュシャは思った。
でなければ茉里があんな表情を見せないだろう。

「あのう……」

おずおずという風に、華名がミュシャに話し掛ける。

「ん?」

「ミュシャさんにはあ、彼氏さんとかいらっしゃるんですかあ?」

「ううん。いた時もあったけど、今はいないかな」

「へえ。意外ですね」

⏰:10/05/15 23:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#484 [向日葵]
そう言ったのは栞だ。

本性がわかってしまったのもあってか、人懐っこそうな笑顔が、ミュシャには白々しく見えて仕方がなかった。

そしてさっきのこともあってか、ミュシャは栞から敵と判断されたようだった。

「ミュシャさん素敵だから、百戦錬磨っぽいですよね。なんていうか……男には困らないというか」

真っ正面から喧嘩をふっかけるのか。

本人たちしか、言外にある罵った言葉はきこえない。
つまり今、栞はミュシャに、「男遊びしてそうだ」と、「淫らな女」だと言ったのだ。

そんな密かな戦いをしているだなんて知らない華名は、大人の恋愛をしているミュシャに尊敬の眼差しを送る。

⏰:10/05/15 23:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#485 [向日葵]
「か、華名も……ミュシャさんみたいになれますかあ……っ!」

「他人のマネなんてしなくていいのよ。自分にあった恋愛をちゃんとすればいいわ」

「華名を好いてくれる人はいるでしょうかあ……」

「いるわよー。むしろ華名ちゃんみたいなタイプなんか、無駄に気取ってて嫌なタイプよりかは全然モテるんだからねー」

トドメとばかりに言ってやれば、栞は何を言い返そうかと悔しそうに歯噛みした。

喧嘩を売る相手を間違ってんのよ。

ミュシャは栞をちらりと見ながら思った。
そして今度は前を歩く2人を見る。

⏰:10/05/15 23:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#486 [向日葵]
幸せそうに笑う茉里と宗助。
つい最近まで殺伐としていた空気を持っていただなんて誰が思うだろうか。

でもミュシャは、あんな茉里よりは、恋愛バカと言えるような茉里の今のあの気の抜けた顔のほうが断然良かった。

もう、自分の無力さを知るのは、こりごりだ。

今も、昔も……。

――――――――…………

委員会で遅くなった小学生のミュシャは、ぶつぶつ言いながら自分の教室を目指していた。

⏰:10/05/15 23:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#487 [向日葵]
ったく、誰もやろうとしないから私がやるはめに……。

イライラしながら教室につくと、同い年の友達より背が高いミュシャは、皆が見にくいであろうドアの窓から、教室の中を見る。

誰かいる……?

目をこらすが、オレンジ色の光が差し込んでるせいで、眩しくて見えない。

とりあえず入らなきゃ始まらない。

ガラッと開けると、教室にいた人物が振り向いた。
振り向いたのは、ミュシャもよく、いや、知りすぎているぐらいの人だった。

⏰:10/05/15 23:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#488 [向日葵]
「あ、ミュー……」

茉里だった。
大人っぽくもあり、小学生らしい可愛らしさもそなえている彼女は、少し気取っている自分よりも魅力があった。

それ故に、好きになる男子も数知れなくはない。
女子にも好かれている。

「あ、委員会?お疲れ様」

「うん」

ランドセルに筆記用具を入れ、帰り支度をする。
そんなミュシャを、ぼんやりとみつめる茉里。
ミュシャがランドセルを背負っても、茉里は帰るそぶりを見せない。

⏰:10/06/06 23:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#489 [向日葵]
そういえば、この頃変に帰るのを嫌がってる気がしなくもないわね。

今日はたまたまミュシャが委員会があって一緒に帰ることは無理だと思っていたが、それ以外の日は、なぜか一緒に帰ろうとはしなかった。

時計をちらりと見れば、もう4時半を過ぎている。
子供っぽい男子ならば一目散に帰り、5時までには帰ってくるようにという親の言い付けを守っている頃だというのに。

それに、どこか上の空だし。

「帰らないの?」

ミュシャが訊く。

⏰:10/06/06 23:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#490 [向日葵]
「夕日が綺麗だから……」

きっぱりとしない否定は、逆に言ってしまえば帰ることを拒絶しているかのようにも聞こえた。

言ってくるまで訊かないつもりだったがもう限界だ。

「何かあったの?」

その言葉を聞いた途端、わずかに口元に笑みを残していた茉里は、悲しみに口を震わす。

そして、涙を静かに流し始めた。

⏰:10/06/06 23:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#491 [向日葵]
「お父さん……がね……」

ぽつりぽつりと紡がれたのは、まだ幼い親友を苦しめる出来事だった。

―――――――――…………

「おい久瀬!」

自分の世界から帰ってきたミュシャは、呼んだ宗助を見る。

「なに」

「勝手に行動するな。はぐれたらどうするんだ……って言っても遅かったか……」

⏰:10/06/06 23:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#492 [向日葵]
後ろを見れば、華名はいたが、栞がいなかった。
おそらく人波に紛れてどこかに行ってしまったのだろう。

「いやむしろいない方が……」

「え?なに?」

「いや別に。……ってか、アンタこそ茉里はどうしたのよ」

「いるじゃないか、ちゃんとここ……」

と振り返った宗助の後ろは、知らない人達が行き来してるだけだった。
固まり、言葉をなくす宗助。

⏰:10/06/06 23:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#493 [向日葵]
あまりのコントのような状況に、腹を抱えて笑い転げたくなったミュシャだが、宗助の前で素の自分をさらけ出すのには抵抗があった。

携帯をコートのポケットから出し、電話をするが、多分気づいてないのだろう、出てくれない。

その後何回かかけ直したが、やっぱり出ないので、諦めてメールを打つことにした。
神社の階段の横に、確か公園があったので、そこで待つと入れる。

⏰:10/06/06 23:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#494 [向日葵]
ミュシャ達も、その場に向かう。

屋台などがある近くのベンチで、華名だけが座り、ミュシャと宗助は立ったまま待つ。

「あ、そういえば宗兄いー」

ゆったりとした口調で、華名は宗助に話し掛ける。

「茉里ちゃんを好きになったきっかけってえー、なあにいー?」

思わず噴き出す宗助。そして咳込む。

「そ、そんなこと、なんで兄弟で語り合わなきゃならないんだよ!」

⏰:10/06/06 23:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#495 [向日葵]
「あらいいじゃない。私は1人っ子だから、そういうの憧れるけど」

「兄と妹だと、話題だって違うだろ。せめて兄貴とするならまだしも、なんで妹と……」

「男尊女卑いー。兄弟なんだからそんなのなしだと華名は思いますうー」

「男尊女卑て……」

頬を可愛らしく膨らませて、バタバタと足を振り、華名は茉里との馴れ初めをねだる。

⏰:10/06/06 23:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#496 [向日葵]
宗助からしてみれば、それはすごく難しいことのようだ。

まあ、コイツ変に格好つけだからな。

ミュシャは兄弟のやりとりを、1歩離れて面白そうに見る。
宗助は茉里にしろ華名にしろ、女の子には振り回される運命らしい。

もちろんミュシャは振り回してなどいない。
いつだって宗助よりも優位に立つことを考えている。

「ねえー、なんで付き合おうと思ったのー?」

⏰:10/06/06 23:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#497 [向日葵]
華名に頭を抱えはじめる宗助。

そんな2人を見つめながら、ミュシャはまた、昔に思いを馳せる。

そう、いつだって、相手より優位に立った。
その思いは、あの頃から変わらなかったけれど、より一層、強いものにはなった。

どんな時でも、私が守ってあげると。

―――――――――…………

まだ自分達にはわからない、でもわかる世界が、そこにはあった。

⏰:10/06/06 23:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#498 [向日葵]
茉里の話を聞いて、信じられないという思いで茉里を見つめていた。

あの優しく紳士らしい茉里のおじさんが、浮気……?
何かの間違いでは……?
でも、1回や2回の話ではないみたいだし……。

ポタポタと雫のしたたる音が聞こえる。
目の前で、茉里が静かに泣いている。

自分の家族が、壊れるのではないかという不安。
母の悲しそうな姿。
裏切りを繰り返す父。
その怒りを、どうすればいいかわからない迷い。

⏰:10/06/09 00:19 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#499 [向日葵]
この子は、1人で戦ってたの?

両親にも言えない。
かと言って、友達にも言えない。言ったところで、知恵の少ない自分達は、何も解決出来やしない。

ミュシャは、なんとも言えない気分で茉里を見つめる。
それは次第に怒りに変わり、そして絶望に変わった。

力になれない。
何も出来ない。
苦しんでいた友達に気づけなかった自分が、腹立たしい。

私は、今のこの子に、何が出来る?

⏰:10/06/09 00:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#500 [向日葵]
そう思う前に、ミュシャは茉里を抱きしめていた。
力一杯。
そして、茉里と同じように、静かに涙を流す。

ごめんね。
ごめんね。
守ってあげられなくて。
気づいてあげられなくて。
力になれなくて。

ごめんね……ごめんね……。
なんども、胸の中で繰り返す。

口にすれば、安っぽい言葉になってしまう気がして、出来なかった。
だから、抱擁でそれを示す。

⏰:10/06/09 00:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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