こいごころ
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#547 [向日葵]
「振り向いてくれないってわかっちゃったら、邪魔するしかないじゃない!宗助がいっちゃわないように引き止めるしかないじゃない!」
泣きたくなかった。
なのに吐き出してしまったら、一緒に何年分かの押し止めていた思いまでもが溢れ出た。
止まることを知らないかのように、涙が顎から胸元へ、そして床へと落ちていく。
「どうせ茉里さんだってそうでしょ!?振り向いてくれないと思ったから宗助の想いを邪魔したんでしょ!?だってあの2人の在り方は、おかしいもの!」
お腹の痛さも忘れ、肩で息をしながらミュシャをにらむ。
ミュシャは静かにそのふっくらとした唇を開いた。
:10/09/07 00:02
:SH05A3
:☆☆☆
#548 [向日葵]
「私が茉里のこと話すと、アンタは信じないでしょ」
「当たり前じゃない」
「それでもいいわ。私は話すだけ。アンタは……そうね、先生が教科書を朗読してるとでも思っておきなさい」
吐き出すものを吐き出して、栞は少し楽になったのか、また椅子に座る。
「茉里はね、邪魔なんてしなかったわ。本心はしたくてしたくて仕方なかったでしょうね。でも、好きな気持ちには、色々と敏感な子だから」
:10/10/11 12:48
:SH05A3
:☆☆☆
#549 [向日葵]
「敏感……?」
栞は鼻声の小さな声でおうむ返しした。
でもミュシャは質問を受け付けないのか、人差し指を唇にあてて、続きをきけと示した。
「何があっても、手出しはしなかったわ。いつも笹部の背中を押しながら、いつも心の中で泣いてた。茉里はね、自分が例えどうなろうと、相手が幸せであればいいって子なの」
「そんなの……っ!」
「いい子ちゃんぶってるって思う?でも本当なの。だからアンタは信じないだろうって言ったのよ。朗読は続けてもいいかしら?」
:10/10/11 12:48
:SH05A3
:☆☆☆
#550 [向日葵]
まだ言いたいことはたくさんあったが、黙ることにした。
ミュシャには口では勝てないと悟っているからだ。
それでも勝ちたいと思うのは、ただの負けず嫌いな自分。
「100パーセント、相手の幸せを願えるのは無理でも、あの子は願うでしょうね。むしろ100パーセント願えない自分が嫌になってきて、結局は100パーセント願っちゃうのよ。だから、心の傷も深い」
そんなの建前かもしれない。
でも栞はわかっていた。
大晦日の時、茉里は複雑な顔はしても、栞を責めることはなかった。
:10/10/11 12:49
:SH05A3
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#551 [向日葵]
泣いてもいたけど、それはヤキモチなだけで、栞に面と向かってやめてくれとは言わなかった。
それは憐れみからくるものなのかもしれない。
それでも茉里は、栞の気持ちをわかって、我慢して、黙っていたのかもしれない。
でも栞は、自分がそんな同情的になることを許せなかった。
「馬鹿馬鹿しい!悲劇のヒロインきどり?そんなので気を引こうだなんて、計算高い人だこと!」
「じゃあ訊くけど」
:10/10/11 12:50
:SH05A3
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#552 [向日葵]
ミュシャの凛とした声が、やけに保健室に響いた。
その荘厳とさえ言える空気が、栞の口を閉じさせる。
「アンタは笹部の幸せを願ったことはあるの?」
栞は目を見開いた。
「誰だって、色んな生き方があるから否定はしない。でもそんな風に私の友達を否定するなら言わせてもらう。アンタは、自分が犠牲になってでもいいと思えるぐらい、誰かの幸せを、願ったことはあるの?」
ない。
ないに決まっている。
:10/10/11 12:50
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#553 [向日葵]
だって宗助は、自分と結ばれると思っている。
結ばれなきゃいけないと思っている。
だって、ずっとずっと好きだったから。
宗助が自分を好きになってくれないなら、邪魔をして、し続けて、最後までそばにいた自分と、一生いればいい。
そう思っていた。
例え宗助が、悲しい思いをしていようとも。
「じゃあ教えてよ……」
:10/10/11 12:51
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#554 [向日葵]
栞はうつむく。
大粒の涙が、スカートにいくつも吸い込まれていく。
嗚咽が漏れそうになる。
我慢すれば、唇が震えた。
食いしばれば、まるで寒いかのように、歯が小さくカタカタと鳴る。
「あたしどうすれば良かったのよ……」
小さい頃から、宗助と結婚するのは自分だと思っていた。
その宗助が、自分ではない人を選んだ。
:10/10/11 12:51
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#555 [向日葵]
そして自分を好きにはなってくれないことを知ってしまった。
もう、どうすることも出来なかった。
幸せなんて、祈りたくもなかった。
「あたしばっかりが取り残されて……、これ以上あたしに惨めになれって言うの……?」
ミュシャは黙ったまま栞を見つめる。
栞にとってその沈黙が助けになった。
:10/10/28 13:11
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#556 [向日葵]
ミュシャがこれ以上言葉を投げかけてきて、それを言い返せば、まるで子供のように大声をあげて泣いてしまいそうだったから。
今なら、少しのプライドと、見栄で、しゃんと立つことが出来る。
栞は少しフラついた足で、保健室を出た。
―――――――………………
[アンタは笹部の幸せを願ったことはあるの?]
さっきからミュシャの言葉が頭をぐるぐる回っている。
離れてくれないそれは、まるで呪いのようにも感じた。
:10/10/28 13:11
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