こいごころ
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#551 [向日葵]
泣いてもいたけど、それはヤキモチなだけで、栞に面と向かってやめてくれとは言わなかった。
それは憐れみからくるものなのかもしれない。
それでも茉里は、栞の気持ちをわかって、我慢して、黙っていたのかもしれない。
でも栞は、自分がそんな同情的になることを許せなかった。
「馬鹿馬鹿しい!悲劇のヒロインきどり?そんなので気を引こうだなんて、計算高い人だこと!」
「じゃあ訊くけど」
:10/10/11 12:50
:SH05A3
:☆☆☆
#552 [向日葵]
ミュシャの凛とした声が、やけに保健室に響いた。
その荘厳とさえ言える空気が、栞の口を閉じさせる。
「アンタは笹部の幸せを願ったことはあるの?」
栞は目を見開いた。
「誰だって、色んな生き方があるから否定はしない。でもそんな風に私の友達を否定するなら言わせてもらう。アンタは、自分が犠牲になってでもいいと思えるぐらい、誰かの幸せを、願ったことはあるの?」
ない。
ないに決まっている。
:10/10/11 12:50
:SH05A3
:☆☆☆
#553 [向日葵]
だって宗助は、自分と結ばれると思っている。
結ばれなきゃいけないと思っている。
だって、ずっとずっと好きだったから。
宗助が自分を好きになってくれないなら、邪魔をして、し続けて、最後までそばにいた自分と、一生いればいい。
そう思っていた。
例え宗助が、悲しい思いをしていようとも。
「じゃあ教えてよ……」
:10/10/11 12:51
:SH05A3
:☆☆☆
#554 [向日葵]
栞はうつむく。
大粒の涙が、スカートにいくつも吸い込まれていく。
嗚咽が漏れそうになる。
我慢すれば、唇が震えた。
食いしばれば、まるで寒いかのように、歯が小さくカタカタと鳴る。
「あたしどうすれば良かったのよ……」
小さい頃から、宗助と結婚するのは自分だと思っていた。
その宗助が、自分ではない人を選んだ。
:10/10/11 12:51
:SH05A3
:☆☆☆
#555 [向日葵]
そして自分を好きにはなってくれないことを知ってしまった。
もう、どうすることも出来なかった。
幸せなんて、祈りたくもなかった。
「あたしばっかりが取り残されて……、これ以上あたしに惨めになれって言うの……?」
ミュシャは黙ったまま栞を見つめる。
栞にとってその沈黙が助けになった。
:10/10/28 13:11
:SH05A3
:☆☆☆
#556 [向日葵]
ミュシャがこれ以上言葉を投げかけてきて、それを言い返せば、まるで子供のように大声をあげて泣いてしまいそうだったから。
今なら、少しのプライドと、見栄で、しゃんと立つことが出来る。
栞は少しフラついた足で、保健室を出た。
―――――――………………
[アンタは笹部の幸せを願ったことはあるの?]
さっきからミュシャの言葉が頭をぐるぐる回っている。
離れてくれないそれは、まるで呪いのようにも感じた。
:10/10/28 13:11
:SH05A3
:☆☆☆
#557 [向日葵]
泣き腫らした顔では教室に帰れないので、栞は屋上にいた。
残りの授業をサボって、ただここで涙を流していた。
下では、生徒が下校している。
仲のよい友達同士、笑い声をあげて、楽しそうに帰っている。
自分も、素直にああして帰れない。
出来ないのは……恐がってる自分のせいだ。
栞はひそかにここへ来たことを後悔していた。
:10/10/28 13:12
:SH05A3
:☆☆☆
#558 [向日葵]
もう何も出来ないではないか。
宗助とのことも、もう無駄だということと向き合ってしまった。
あとは、それを認めるか、それでも邪魔をするかしかない。
そうして考える度に、ミュシャの言葉が頭をよぎり、さっきからもう何度も同じことを繰り返していた。
「栞?」
聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこには宗助がいた。
「どうしたんだ?その顔っ!」
:10/10/28 13:12
:SH05A3
:☆☆☆
#559 [向日葵]
心配そうに栞のもとに駆け寄る。その姿を見るだけで、胸がいっぱいになる。
こんなに好きなのに、どうして届かないの……っ。
「宗助の馬鹿ぁ……っ!!」
心配したのに、いきなり罵声を浴びせられて、宗助は目が点になった。
宗助が近くまで来た途端、栞は理性というタガが外れて、思ったことしか口に出せないようになった。
:10/10/28 13:13
:SH05A3
:☆☆☆
#560 [向日葵]
「勝手に彼女なんて作らないでよ!あたしのこと、妹みたいにしか思ってないのわかってるけど、いい加減気づいてよ!あたし、あたし……っ、宗助が好きだったのに……っ!」
宗助は少し驚いたような顔をしてから栞の声に静かに耳を傾けた。
「大好きで……、いつか、宗助のお嫁さんになるって本気で思ってたあたしって……ただの馬鹿じゃない!ただのガキじゃない!どうして……っ、どうしてあたしじゃダメなのよ!どうして、突然出てきたあの人なのよ!」
「栞……」
:10/10/28 13:13
:SH05A3
:☆☆☆
#561 [向日葵]
「もうちょっと待っててよ!そしたらあたし、宗助と釣り合えるぐらいの女の子になってた!なれてた……っ!なのに……、な、な……、なのにいいーっ!」
保健室では堪えることが出来たのに、本人を前にすると、もう無理だった。
ただ駄々をこねる子供みたいに、「なんでよーっ!」と叫びながら大声で「うわーん!」と泣いてしまった。
言いたいことが溢れる度、一際声が大きくなった。
幸せを祈るってどうしたらいい?難しくて、難しすぎて、あたしには、もうわからない。
:10/10/28 13:14
:SH05A3
:☆☆☆
#562 [向日葵]
喉の奥が、焼け付くように痛い。
胸の奥も同じくらい痛かった。
もどかしいこの気持ちを、一体どこに持っていけばいいかわからなくて、気がつけば右手に力をいれて、振り上げていた。
渇いた音が、もう暗くなり始めた空に響いた時、栞は初めて宗助を殴ったことに気がついた。
ハッとして、宗助を見上げたが、彼は怒りもしないで栞をじっと見つめていた。
「ごめんな……」
:10/11/14 12:51
:SH05A3
:☆☆☆
#563 [向日葵]
そう言いながら栞の頭を優しく撫でる。
「それだけ好いてくれてたのは、栞がオレを兄貴として懐いてくれてるからだとずっと思ってた。だから、気づいてやれなかった」
今まで、そうやってなだめられることはあったが、こんなに優しい声を出す宗助は初めてだった。
例えそれが同情でも、栞はもう良かった。
宗助が、ちゃんと耳を傾けてくれているだけで、もう良かった。
「栞の気持ち、嬉しいよ。正直、時々お前はわからない時があるから、こうやって吐き出してくれて良かった」
:10/11/14 12:51
:SH05A3
:☆☆☆
#564 [向日葵]
髪の毛の間を、宗助の指先が時々とおる。
その感触が、今だけ自分を女の子として扱ってくれていることが、栞にはよくわかった。
不器用な宗助。
でもそんな彼だからこそ、栞は好きになったのだ。
あの人も、そうなのかな……。
一瞬浮かべる、柔和な笑顔が眩しい。
:10/11/14 12:52
:SH05A3
:☆☆☆
#565 [向日葵]
初めて会った時から、彼女がまとう穏やかな雰囲気は嫌いじゃなかった。
なんと言ったって、あの華名が懐いているんだから、決して悪い人ではないということはわかった。もしかしたら仲良くしたかったのかもしれない。
そう言い出すのは、時間がまだかかりそうだけれど。
頭を撫でている宗助の手を、栞はゆっくりと握る。
一瞬、まるで何かを祈るようにしてギュッと力を入れた後、栞は屋上を後にした。
――――――――…………
「あ、宗助え」
:10/11/14 12:52
:SH05A3
:☆☆☆
#566 [向日葵]
もう誰も残っていない教室に、茉里はいた。
今朝のくだらない喧嘩はミュシャによりおさまり、もうすっかり喧嘩をした気配すら漂わせていない茉里は、課題のプリントをしていた。
「今日部活休みで良かったー。急に宗助いなくなるんだから、皆に居場所きかれても困るとこだったよ」
身支度をする茉里に、宗助は何も言わずゆっくりと近づく。
「久瀬は?」
「ミュー?ミューならとっくに帰ったけど」
:10/11/14 12:53
:SH05A3
:☆☆☆
#567 [向日葵]
栞が屋上にいるのを教えたのはミュシャだった。
もちろん、ミュシャは居場所を知ってたわけではないが、栞の性格を考えた時、そんな予感がした為、イチかバチかで宗助に言ったところ、ビンゴだったのだ。
ミュシャは無言で宗助に訴えたのだ。
決着をつけなさい、と。
「そっか……」
力無く言う宗助に、茉里は首を傾げながらマフラーを巻く。
「さ、暗くなるし帰ろう帰ろーう」
:10/11/14 12:53
:SH05A3
:☆☆☆
#568 [向日葵]
鞄の紐を持つと同時に、宗助が、肩に頭をのせてきた。
彼が甘えてくるのが珍しいのと、何かに傷ついて弱っているのが見てとれた。
「…………ごめん」
ボソリと呟いたその言葉は、誰に向けられたものかわからない。
けれど茉里はなんとなく、自分に言っているのではないとわかった。
理由はきかない。
いずれ彼はポロポロと話し出すだろうから。
だから今の願いはただ1つ。
「寒いから、あったかくして帰ろうね……」
茉里はギュッと宗助を優しく抱きしめる。
:10/11/14 12:54
:SH05A3
:☆☆☆
#569 [向日葵]
願いはただ1つ。
幸せに、笑ってて下さい。
―――――――――…………
涙がいつまでも枯れなかった。
これが枯れた時、今度は違う自分になっているのかしら。
そう思いながら、栞は鞄をとりに教室へ向かった。
すると、まだ教室に明かりが灯っていた。
覗くと、今日喋りかけてきた女の子の中の1人が、ポツリと座っていた。
そして栞を見つけると、優しく笑った。
:10/11/14 12:54
:SH05A3
:☆☆☆
#570 [向日葵]
「あ、良かった帰ってきて。あのままどこに行ったかわからなかったから、下校時間まで待っておこって思ってたんだ」
その優しい顔は、どこか華名と、あの人を思い出すような、柔らかなものだった。
栞はその子の手をギュッて握った。
「……ありがとう……」
人は1人では生きていけないという言葉をよく耳にする。
栞はその言葉は嘘だと思っていた。人は本気になれば、1人でも生きていけると思っていた。
:10/11/14 12:54
:SH05A3
:☆☆☆
#571 [向日葵]
けれど今、その言葉の意味を知る。
その優しさが、いつか偽りのものになってもいい。
今は、その気持ちの温かさが、私に力をくれるから……。
:10/11/14 12:55
:SH05A3
:☆☆☆
#572 [向日葵]
[15] メール
相手の顔が見えないメール。
絵文字や顔文字は入っていても、本当の気持ちは、わからない。
だから返ってこなくなると、不安で、怖くて……。
:10/12/27 22:07
:SH05A3
:☆☆☆
#573 [向日葵]
心躍る修学旅行まであと1週間。
行き先はあの某有名キャラクターがいる夢の国。
完全攻略の本まで買って、茉里の頭は1週間後のことでいっぱいだった。
……のだが、その1週間前に、ささいな出来事から、また喧嘩が始まった。
話を聞かされたミュシャは、呆れを通り越して最早笑いが込み上げてきて、机を叩きながら爆笑していた。
「くだらなっ!くっだらないくっだらないくっだらない!」
「連呼しなくてもわかってるわよ馬鹿ー!」
:10/12/27 22:07
:SH05A3
:☆☆☆
#574 [向日葵]
机を笑いながらバシバシ叩くミュシャに対し、茉里は怒りながら机を叩く。
自分でもわかってる。
こんなくだらないことで喧嘩するなんて馬鹿らしい。
そうと思っていても、額に1度浮かんだ青筋は消えてはくれないもので……。
「大体ね、普段でもあんまり喋らない奴が、メールで饒舌になるかっていうの。ってかそういう奴がいても嫌だわ」
そう、ことの発端はこの“メール”なのだった。
:10/12/27 22:08
:SH05A3
:☆☆☆
#575 [向日葵]
茉里の絵文字いっぱい文字いっぱいのメールに、宗助は短文の文字のみで返信する。
もちろん茉里はそれが嫌ではないし、宗助と話しているみたいで好きだ。
ならば電話をすればいいだけの話なのだが、茉里は短文であっても、返信がくる時間を待っているのが楽しくて仕方ないのだ。
それに口下手な宗助でも、メールでは少し話してくれる量が多くなるかと期待していたのだ。
結果的にはやっぱり話している時と同じだったが。
:10/12/27 22:09
:SH05A3
:☆☆☆
#576 [向日葵]
そしてなにが喧嘩へと変わったかと言うと、茉里がいつもの通りそ、の日のメールの最後に「宗助大好き」といれてメールを送ると、返信がこなかったのだ。
宗助は必ず「おやすみ」や「また明日」などと返してくれるはずなのだが返ってはこなかった。
なにか用事があるのかもと、お風呂に入ったり、たまっていた見たかった映画のDVDを見たり過ごしていたが、結局その日に宗助からのメールはこなかった。
あいにく、次の日は日曜。
部活も休みの日で、宗助に問いただすことは出来ず、ならばとかけた電話も、結局は繋がらず仕舞い。
:10/12/27 22:09
:SH05A3
:☆☆☆
#577 [向日葵]
月曜になって早速きいてみれば、電池切れだった上、やりとり最中にソファの上で寝てしまい、あげくの果てにはソファの間に携帯を落としていた。
携帯がないことに気づいたのも、日曜の夜に外食をしようという時に携帯を持っていこうとして気づき、外食から帰ってきてから探しまわって見つけた頃には、日曜の11時。
充電しながら初めて茉里のメールに気づくが、内容を読めばもう終わりのメールだったので、返さなかった。
:10/12/27 22:10
:SH05A3
:☆☆☆
#578 [向日葵]
普通ならそれで「ああそうだったんだ」と済むところだが、茉里の虫の居所が悪かった為、宗助は一方的に責められ、そのままだ。
茉里も冷静になれば言い過ぎたし、自分勝手だったが、だけれど……。
と堂々巡りしているうちにもうすぐ放課後。
部活があるので嫌でも顔をあわせる。
「加賀」
条件反射なのかなんなのか、茉里は振り向いてしまう。
そんな自分が悔しいのか、口を波のように歪ませて、じとっと宗助を見る。
「なによ……」
:10/12/27 22:10
:SH05A3
:☆☆☆
#579 [向日葵]
「悪かったから……、そろそろ普通どおりに戻らないか……?」
「じゃあ今後は加賀じゃなくて、茉里って呼んで……。それで許す」
「茉里」
躊躇うかと思いきや、あっさり呼ぶので、準備をしていなかった茉里の心臓は元気よく跳ねた。
悔しい……。
許してしまう自分が悔しい。
でも、口がニヤけて仕方ない。
もういいや。
:10/12/27 22:11
:SH05A3
:☆☆☆
#580 [向日葵]
「私も言い過ぎたしっ。なっかなーおりぃー!」
仲直り出来てはしゃぐ茉里を、宗助は優しい目でみつめる。
本当は、いつも嬉しいんだ。
君が最後に綴ってくれる、あの言葉。
――――――――…………
「茉里先輩ー、お茶っ葉がもうなくなりますー」
後輩マネージャーが、茉里に言ったのは、練習が終わって片付けを始めた時だった。
:11/01/01 21:10
:SH05A3
:☆☆☆
#581 [向日葵]
「あー!そうだったぁぁ!わっすれてたよ!先生もう帰っちゃったよね!?」
周りを大袈裟に見回す茉里に、同級生のキャプテンの綾香が言う。
「さっき出て行ったとこだから、職員室にまだいるんじゃない?一緒に行こうか?」
「あー、ゴメンネーッ」
バタバタと忙しなく走っている途中、宗助にどこで待ってて欲しいか言うのを忘れたと気がつく。
戻ろうか一瞬迷うも、汗をかいているのに、胴着の上からベンチコートを着ただけの綾香を付き合わせているので、その考えは諦めることにした。
職員室の戸に手をかけようとすると、向こうから誰かが開けた。
瞬時に手をひっこめる茉里の前にいたのは、栞だった。
:11/01/01 21:11
:SH05A3
:☆☆☆
#582 [向日葵]
栞は一瞬目を見開いたが、すぐに落ち着いた表情を見せ、そして仄かに笑い、茉里に会釈した。
「部活ですか?」
話しかけられるとは思ってなかったので、その言葉が脳に届くまで時間がかかった。
「あ……、うん、そう」
「栞ちゃーん」、先生プリントくれたよー
後ろから、おさげを揺らして、きっと同じクラスだろう女の子がきた。
栞はその子に向かってこくりと頷く。
:11/01/01 21:11
:SH05A3
:☆☆☆
#583 [向日葵]
「頑張ってくださいね」
茉里の横を通り、友達と歩いていく栞を見ながら、咄嗟に茉里は叫ぶ。
「一緒にマネージャーやらない!?」
栞と友達は足を止めて、ゆっくりと振り返る。
「楽しいよ、剣道部っ。皆優しいし面白いし、もし他の部活入る予定がないなら……」
自分の話しをちゃんと聞いてくれる栞が怖くて、だんだんと声が小さくなっていく。
:11/01/01 21:12
:SH05A3
:☆☆☆
#584 [向日葵]
栞は友達になにか言うと、1人だけで茉里の前まで歩いてきた。
少しだけ背の高い茉里を見上げ、困ったように笑う。
「あなたって変わった方ですね。今、あなたの魅力に気づいた気がします。」
「あの……」
「あなたと宗助が幸せそうなところ、私に見ろっていうのですか?」
「あ……」
なにも言えなくなった茉里に、栞は優しく微笑んだ。
「冗談ですよ。もういいんです。いつか、あなたにも色々話さなきゃならないと思ってましたし。けど、部活のことはもう少し保留で」
:11/01/01 21:12
:SH05A3
:☆☆☆
#585 [向日葵]
「では」と栞は頭を下げ、待つ友達のところまで歩いて行った。
そんな栞を見て、茉里は栞が変わったと思った。
明るい口調の中に、落ち着いた雰囲気を感じさせる彼女は、自分がしらない間に宗助と何かあったのかもしれない。
そういえば2週間程に、宗助が珍しく自分に甘えてきたというか、寄りかかってきた。
そのことを思えば、より一層宗助がいとおしくなって、なんだか泣きそうになった。
:11/01/01 21:13
:SH05A3
:☆☆☆
#586 [向日葵]
宗助を、絶対幸せにするからね……。
ずっとずっと、笑い合えるように……。
少し潤んだ目をこすって、茉里は職員室に入った。
――――――――…………
「茉里先輩って宗助先輩と付き合ってるんですよね?」
後輩が訊いてきたので、笑顔で茉里は頷いた。
「宗助先輩ってどんなんなんですか?草食男子っぽいですけど」
「まあ、皆が見てるまんまっていうか」
「キスするんですか宗助先輩でも」
:11/01/01 21:13
:SH05A3
:☆☆☆
#587 [向日葵]
期待の眼差しで見られるが、宗助とキスをしたのはあの初詣だけだ。
手はよく繋いだりするけれど、別にキスして欲しいとは思ったことはない。
そういえば、宗助のキスはぎこちなかった……。
でも優しくて、柔らかくて、温かくて……。
思い出せば、茉里は顔が真っ赤になり、それを見た後輩たちは「いーーなああーっ!」と大合唱した。
宗助は好きだって言いたくなったり、抱きしめたくなったり、キスしたくなったりしないのかな……。
:11/01/01 21:16
:SH05A3
:☆☆☆
#588 [向日葵]
……なんかそれって、私がめちゃくちゃしたいみたい。
いつの間にそんなスケベになったんだ私……。
「宗助先輩とのデートってどんな感じなんですか?」
恋愛話が大好きな後輩たちはまだ訊いてくる。
さっきの興奮がさめないのか、茉里にどんどん寄ってくるものだから、茉里は壁に背中が当たり、行き場をなくす。
「付き合ったばっかりだし、そんなにデートとかしたことないよ」
:11/01/16 01:15
:SH05A3
:☆☆☆
#589 [向日葵]
「そうなんですか?」
「付き合いたてなら、ベッタリなイメージなんですけどねー」
「ハイハイ!この話はまた今度!」
綾香はパンパンと手を鳴らして、後輩たちの注目を集めると同時に、会話を打ち切った。
「下校時間までにここの灯りが消えてないと、キャプテンの私が注意されるんだからね」
後輩たちは渋々といったように各々カバンを持ち始める。
茉里はひそにかにホッとため息をついた。
:11/01/16 01:15
:SH05A3
:☆☆☆
#590 [向日葵]
1歳しか変わらないのに、どうしてこの子たちはこんなにも元気なんだろう……。
でも1歳だけでも、その1歳が自分たちにとって大きいことを茉里は知っている。
先輩が、そうだったから。
とても大人のように思えて、逆に自分がすごく子供のようにも思えて嫌だったあの頃。
……ああ、そうか……。
:11/01/16 01:16
:SH05A3
:☆☆☆
#591 [向日葵]
茉里は静かに笑った。
私、あの時のこと、自分が思ってるよりも辛かったのかもしれない。
もう宗助が自分を好きでいてくれるってわかってても、実はすごく怖いんだ。
初詣の帰り、離れたくないと言ってくれた宗助。
それでも私……。
ごめんね、宗助……。
私、不安が拭いきれないんだ。
もう、この不安は、拭えることは出来ないの。
:11/01/16 01:16
:SH05A3
:☆☆☆
#592 [向日葵]
臆病者。
茉里は自分をなじりながら、宗助に会いたいと、皆との挨拶もそこそこに走る。
校門が見えてくると、人影が見えた。
足音に気づいたように、その人影が動くと、薄く微笑む。
茉里はもう待ちきれなくて、飛ぶように宗助に抱き着いた。
そんなことするとは思わなかったので、宗助は2、3歩よろけながら茉里を受け止める。
:11/01/16 01:17
:SH05A3
:☆☆☆
#593 [向日葵]
「ちょ、なんだいきなり……っ!……茉里?」
何も言わず、力一杯宗助を抱きしめる茉里をおかしく思った宗助は、茉里頭を軽くぽんぽんとする。
下校時間が過ぎたとは言え、まだ学校から出てくる生徒はいる。
宗助は出来るだけ人に見つかりにくい場所にうつる。
「また……ネガティブモードにでも入った?」
「……まあ、そんな感じ……」
:11/01/16 01:19
:SH05A3
:☆☆☆
#594 [向日葵]
「曖昧な返事だな」
「だって……」
宗助は茉里の髪を優しく撫でる。それだけで、茉里のネガティブな気分は消えていったが、甘えたくなって、このままでいた。
宗助がいると、ずって甘えたくなって困る。
溶けてしまいそうな感覚になる。
「で、どうしたらそれは治るの?」
「このままいてくれたらいい」
「帰りたいんだけど……」
「じゃあキス」
:11/01/16 01:23
:SH05A3
:☆☆☆
#595 [向日葵]
宗助はきっと茉里がもう大丈夫なことは知ってる。
同時に茉里が甘えたがっているのもわかっていた。
街灯のわずかな光をたよりに、宗助は茉里の唇に指先を触れる。
場所を確かめ、ゆっくりと唇を重ねる。
茉里は本当に溶けそうになりながら、さっきの後輩との会話中に、自分が思ったことを思い出すと、自分から顔を押し付けるように力をいれる。
:11/01/16 01:27
:SH05A3
:☆☆☆
#596 [向日葵]
宗助は戸惑ったように体を少し引くが、その分茉里が距離を詰める。
もっとと思うのは、私だけ?
メールも、言葉も、行動も……。
問いかけるようにキスをする。
宗助はしばらく戸惑っていたが、急に茉里をぐっと引き寄せる。
唇に火がついたような熱さを感じていると、宗助はまるで食べるみたいにキスを繰り返す。
今度は茉里が戸惑う番となった。
え?え?
そ、宗助、どうしたの……っ?
:11/01/22 23:16
:SH05A3
:☆☆☆
#597 [向日葵]
そう思っている間にも、息ができないくらいになってきた。
特別激しいわけでもない。
むしろゆっくり、なだめられるように、でもまるで茉里がその気になるのを誘うかのような口づけをする。
ま……待って……っ。
そして茉里は、自分で誘ったような行動をしたくせに、驚いて思わず顔を背けてしまう。
息を吐く度、白くなって2人の間をさまよう。
「そ……宗助……?」
「……悪い、ちょっと制御出来なくなってた」
宗助は照れたように、でも少し意地悪そうに笑う。
制御……。
:11/01/22 23:16
:SH05A3
:☆☆☆
#598 [向日葵]
それはつまり、宗助もちゃんと思ってくれてるということだ。
自分ばかりではなく。
宗助の場合、きっとそういう雰囲気を作るのが苦手なんだろう。
それにしても……。
茉里はかくりと体がくだけそうになる。
幸い宗助が茉里に腕をまわしていたため、倒れることはなかった。
なんて、官能的な……っ。
宗助は茉里が初めての彼女だ。
だからこんなキスはしたことないはずなのに。
一度知ってしまえば、もうくせになりそうなぐらい甘い口づけに、茉里は体の力がなくなりそうな感覚になる。
:11/01/22 23:16
:SH05A3
:☆☆☆
#599 [向日葵]
「せ……いぎょ、しなくても……別に……」
やはり自分ばかりが余裕ないように感じて、茉里はつい強がってみる。
「顔を背けたくせに、なに言ってんだ」
……完敗だ。
「元気なった?もう立てる?」
意地悪なさっきの口調にくらべ、優しい口調で茉里に問う。
ネガティブな気持ちを無くしたくて、甘えたことを忘れていた。
忘れるぐらい、刺激が強かった。
「うん、買い物……行こっか」
:11/01/22 23:17
:SH05A3
:☆☆☆
#600 [向日葵]
顔がまだ熱いし、足もなんだかふわふわしているが、茉里は宗助と手を繋いで、頼まれていた買い物を買いに行くことにした。
――――――――………………
家に帰ってきた茉里は、キスの余韻がまだ残っているのか、ベッドの上で寝転がってぼうっと天井を見ていた。
宗助……。
さっきからずっと宗助に会いたいと思っている。
ほんの数十分前に別れたばかりなのに。
その気持ちを抑えるように、さっき「買い物付き合ってくれてありがとう」とメールを送ったばかりだ。
:11/01/22 23:17
:SH05A3
:☆☆☆
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