― 短編箱 ―
最新 最初 全
#69 [栢]
ぶ キ よ ウ
_
:09/10/11 23:28 :D905i :yXrxNsNQ
#70 [栢]
じいちゃんは穏やかな人だった。
やっぱり昔の人だけあってか
頑固で無口なとこもあったけど
お酒とタバコが大好きで
酔っぱらうといつも
同じ昔の思い出を楽しそうに話してた
だけど
だんだんとじいちゃんは
表情をなくし言葉をなくした
:09/10/11 23:32 :D905i :yXrxNsNQ
#71 [栢]
ある時からじいちゃんは
ご飯を食べると
口の周りを汚していた
ご飯粒が口元についているのにも
全く気づかない。
口の場所がわからないのか
箸をうまく口に運べない。
何より
目が虚ろになっていて
私はそれに恐怖さえ覚えたものだ
:09/10/11 23:35 :D905i :yXrxNsNQ
#72 [栢]
じいちゃんのことは
単純に優しいから好きだった。
だけど
それを見たときから
なんだか嫌になってしまって
"汚い"と思うようになった
病気だとかそんなことも思わなくて
くちゃくちゃぼろぼろと
食べてる姿が不快だったから
:09/10/11 23:39 :D905i :yXrxNsNQ
#73 [栢]
「じいちゃん、これ食べる?」
お姉ちゃんが
修学旅行で買ってきたお菓子を
じいちゃんにあげた。
すると横からばあちゃんが
「いいんだよじいちゃんは!
どうせ食べらんないんだから」
と少し強めに言った。
じいちゃんは
食べたそうな顔をしていた
だけど言い出せないのか
黙ってタバコを吸い始めた
その姿を見るのがなぜか辛かった
見ていられなかった
:09/10/11 23:44 :D905i :yXrxNsNQ
#74 [栢]
それから
じいちゃんに決定権はなくなり
どんどん無口になっていった
それに比例するかのように
じいちゃんの行動が
おかしくなっていくのを
あたしは薄々感じていた。
:09/10/11 23:47 :D905i :yXrxNsNQ
#75 [栢]
相変わらず
ご飯粒を口元にくっつけてみたり
名前を呼ばれても
反応しなくなったり‥
終いには
ポットをやかんと間違えて
火にかけてしまったのだ。
底が真っ黒に焦げて溶けたポットを見て
ばあちゃんはじいちゃんに
怒鳴り散らした。
じいちゃんは
何も言わなかった
:09/10/11 23:51 :D905i :yXrxNsNQ
#76 [栢]
じいちゃんが
"ボケ"ていることがわかった私は
だんだんと切なくなり
かわいそうだと思うようになった。
あの時じいちゃんは
悲しいと思ってたかはわからないけど‥
かわいそうに感じて
厳しく言うばあちゃんを
嫌うようになった。
ばあちゃんはじいちゃんのこと
嫌いなんだ 、と‥
:09/10/11 23:53 :D905i :yXrxNsNQ
#77 [栢]
ある日
学校から帰ってくると
じいちゃんが家にいなくて
ばあちゃんに聞くと
「入院したんだよ」
とあっさり言われた。
じいちゃんがいなくなって
清々してるのか‥
更にばあちゃんへの憎悪は
大きなものになり
家が居心地悪かった。
:09/10/11 23:56 :D905i :yXrxNsNQ
#78 [栢]
"肺に水がたまってしまう病気"
詳しい病名は
まだ私も小さかったから
教えてもらえなかった。
:09/10/11 23:59 :D905i :yXrxNsNQ
#79 [栢]
お見舞いに行って
私は病室に入るのをためらった
じいちゃんは助からないと
どこかでわかっていたから‥
年も年だし
仕方ないとは思っていたけど
弱った姿を見たら
泣き出してしまいそうだった。
:09/10/12 00:00 :D905i :8HWp1nKk
#80 [栢]
お姉ちゃんに背中を押され
病室に入ると
ぐったりとした
たくさんの機械や管に繋がれた
じいちゃんがいた。
「ほらじいちゃん!
お見舞いに来てくれたんだよ!」
ばあちゃんが言うと
酸素マスクの下で小さな声で聞こえた
「ありがとう‥」
:09/10/12 00:04 :D905i :8HWp1nKk
#81 [栢]
久しぶりに聞いた声は
安定感を失っていた。
細く弱々しくなり
呂律がよく回っていなかった。
酔っぱらうたびに
げらげらと楽しそうに笑って
テンポよく話していたのに‥
そんな姿は
どこにももう見当たらない
:09/10/12 00:06 :D905i :8HWp1nKk
#82 [栢]
泣きたくなった
いや、少し泣いてしまっていた
笑うでもなく
辛そうにするでもなく
無表情なじいちゃん
何を思っているんだろう。
:09/10/12 00:15 :D905i :8HWp1nKk
#83 [栢]
水が飲みたくても
許されなかったじいちゃんは
白いコットンのようなものに
水を染み込ませて
それを吸っていた。
一生懸命、
「もっと飲みたいなぁ」と
わがままを言った。
もちろん
飲ませてはもらえなかったけど‥
人間らしいじいちゃんを見て
私はほっとした
:09/10/12 00:21 :D905i :8HWp1nKk
#84 [栢]
じいちゃんが
ばあちゃんの手を握り
途切れ途切れに話し始めた。
退院したらばあちゃんと
山に登って紅葉を見て
それから魚釣りをして‥
じいちゃんは
柔らかく笑っていた。
:09/10/12 00:24 :D905i :8HWp1nKk
#85 [栢]
「じいちゃん頑張ってね」
お姉ちゃんが
じいちゃんの手を握って
別れを告げている時
私はひとり
黙って病室を出た。
なんだか恥ずかしかった。
ただそれだけの理由で
じいちゃんにさよならを言えなかった
</Font>
:09/10/12 00:27 :D905i :8HWp1nKk
#86 [栢]
じいちゃんはなんで
あんなにキツいことを言うばあちゃんを
好きでいられるんだろう‥
不思議でならなかった。
何日かして
学校で授業を受けていたら
先生に呼び出された。
じいちゃんが亡くなった
:09/10/12 00:55 :D905i :8HWp1nKk
#87 [栢]
わかってはいたけど
驚いて言葉がでなかった。
目の奥が熱くなる。
すぐに帰る支度をして
お母さんの迎えを待っている時
ついに泣き出してしまった
信じたくなくて
夢だ夢だと言い聞かせてみたが
止まらない涙
:09/10/12 00:58 :D905i :8HWp1nKk
#88 [栢]
病室に駆け込むと
真っ白なベッドに
白いきれいな顔をした
じいちゃんが眠ってた。
私はその場に泣き崩れた。
声をあげて泣いた。
苦しかったはずなのに
じいちゃんは
あの柔らかい笑顔のままだったから
:09/10/12 01:01 :D905i :8HWp1nKk
#89 [栢]
治すために入院したのに
水だって我慢したのに
どうして死んじゃったの?
ばあちゃんと
紅葉見て魚釣りするんでしょ?
じいちゃん‥、
なんとか言ってよ
:09/10/12 01:03 :D905i :8HWp1nKk
#90 [栢]
その場に
ばあちゃんの姿はなかった
私はそれからずっと
自分の部屋に引きこもって
泣き続けた。
大好きだったじいちゃんが
もういないのだ
:09/10/12 01:05 :D905i :8HWp1nKk
#91 [栢]
それから
お葬式がやってきた
じいちゃんの写真が
きれいなお花に囲まれていた
無口な人だったけど
いろんな人に慕われていたんだろう
たくさんの人が参列していた
その間も
ばあちゃんは泣いていなかった
やっぱり‥、
:09/10/12 01:08 :D905i :8HWp1nKk
#92 [栢]
静かに眠ったじいちゃんの周りに
たくさんのお花と
大好きだったタバコを入れた
しっかりと蓋を閉めて
釘が打たれた。
そして運ばれていく‥
:09/10/12 01:11 :D905i :8HWp1nKk
#93 [栢]
あのばあちゃんが泣いていた
小さな体を
さらに小さくして
顔が崩れてしまいそうなくらい
くしゃっとシワを寄せて
ぼろぼろと涙を流していた
じいさん、じいさん‥
ただただ繰り返すだけだった
:09/10/12 01:13 :D905i :8HWp1nKk
#94 [栢]
じいちゃんは
白い煙になって天国に行った
これから長い旅に出るのだと
お坊さんが言っていた。
そして
紅葉の季節になる
:09/10/12 01:14 :D905i :8HWp1nKk
#95 [栢]
ばあちゃんが
近所の友達と家の居間で話しているのが
たまたま耳に入った。
「最初は信じられなかったよ
ほんとだってわかると
追いかけて逝きたくなっちゃうね
寂しいもんだ‥
癖でじいさんの湯飲みにも
お茶を入れちゃうんだから」
ばあちゃんは
確かにじいちゃんを愛していた
:09/10/12 01:18 :D905i :8HWp1nKk
#96 [栢]
「ひどいことを言ってばかりで
後悔してるよ‥
じいさんに嫌われてしまったね」
ばあちゃん、私知ってるよ
じいちゃんは確かに
ばあちゃんのこと愛していた
:09/10/12 01:21 :D905i :8HWp1nKk
#97 [栢]
じいちゃんが亡くなってから
私はお母さんから
手紙を受け取った
じいちゃんからの手紙。
"じいちゃんはとても不器用です
ばあさんはもっと不器用です。
あなたも不器用です。
だけどそこがまたいいのです
ばあさんは寂しがり屋だから
ん話し相手になってあげてください
きっと喜びます
じいちゃんはばあさんを
愛しています。
恥ずかしいので
秘密にしておいてください。"
:09/10/12 01:25 :D905i :8HWp1nKk
#98 [栢]
じいちゃんは不器用だった
誰よりも不器用だった
だけど一途な人だった
とても素敵な人だった
じいちゃんが亡くなってから
もう3年。
今でもばあちゃんは
じいちゃんのことを楽しそうに
幸せそうに話してくれます。
:09/10/12 01:28 :D905i :8HWp1nKk
#99 [栢]
>>69-98実話です
フィクションじゃなくて
ごめんなさい(´・ω・`)
夫婦ってすごいなーって
感じました ^^*
じいちゃんのこと尊敬してます
:09/10/12 01:30 :D905i :8HWp1nKk
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194