街がスカーレットに染まる時
最新 最初 🆕
#40 [ぎぶそん]
昼近くになりお互い空腹を感じた頃に、目についたパスタ屋に入り昼食を取った。

その後延々と街を走り続け、夕方、町外れの人気のないバス停のベンチに二人で腰かけた。近くの自販機で彼が買った同じ缶コーヒーを二人して口にする。

「前付き合ってたっていう写真部の彼とは何が理由で別れたの」
「何であんたにそんなこと言わなきゃなんないの」
「別に。一同居人としてただ聞いてみただけ」

辺り一面、田んぼだらけの景色が夕焼け色に染まっていく。

⏰:09/10/14 19:52 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#41 [ぎぶそん]
「…縁がなかったからじゃない。ただそれだけのこと」
「未練は?」
「微塵もない」
「冷めてるね」
「他人のことに首突っ込んでばかりいないで、あんたの方はどうなのよ」
「内緒。あんたには絶対言わない」
「別に言わなくていい」
「何それ。足立さんって時々うざいですよね」
「あんたの方がうざい。おまけに生意気だし」
「クールだと言って」
「うざっ」

都会から離れた閑寂な町並みの中から、二人の抑揚なく羅列し続ける話し声だけが聞こえる。

⏰:09/10/14 20:14 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#42 [ぎぶそん]
「足立さんは夢とかあるんすか?法学部に在学中ってことは将来は弁護士?検事?裁判官?」
「…検事」
「ヒュー。あんまり夜遅くまで連れ回したりしたら怒られるなこりゃ」

缶コーヒーを飲み干すと、彼はその空いた缶をくずかごに投げ入れた。

「真織は夢とかあるの」
「んー。普通のサラリーマン」
「普通だね」
「でね、副業として作家の仕事にも手をつけんの。家に帰ってから毎日少しずつ原稿を書き上げていってさ。実際の所はそれが一番の夢」

やや興奮ぎみに将来を語る彼の横顔を、私は瞬き一つしないで見ていた。

⏰:09/10/14 21:09 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#43 [ぎぶそん]
「ほんなら、暗くなる前に我が家へと帰りましょうかぁ。検事の卵さん」
ベンチから立ち上がった彼が、履いているジーンズの後ろをはたく。

後ろポケットに繋がっているチェーンには色んな鍵がじゃらじゃらと着けられていて、その中には共同生活初日に私が渡した合鍵も混じっていた。
二人の繋がりをそこはかとなしに再確認する。

「…他に好きな人が出来たって言われたからだよ」
来る時と同じように彼の後ろでバイクを跨ぎ、彼の腰に腕を回した。
さっきは何とも思わなかったけど、何か後ろから抱きついてるみたいだ。

⏰:09/10/15 01:46 📱:N703iD 🆔:3eQlVeR.


#44 [ぎぶそん]
「へ?」
彼が気持ち、顔を後ろにやる。
「彼と別れた理由」
私がそう付け加えると、彼は何もせず何も言わないままでいた。

「私と出会った全ての人間は、いずれ私の前から姿を消すんだ。あんたも例外なしにね。
いつかあなたも、良い意味でも悪い意味でも私の前からいなくなる」 

花や草木はたちまち枯れゆき、動物や生き物はやがて死ぬ。
全ての物事が皆、終わる方向へと進んでいく。

人と人との出会いも、別れゆく運命を無邪気に辿って行く。
後どのくらい、自分の元から過ぎ去っていく背中を黙って見届けるのだろう。

⏰:09/10/15 02:14 📱:N703iD 🆔:3eQlVeR.


#45 [ぎぶそん]
「でも、少なくとも今の俺はかなめの目の前にいる。
そーんな遠い先のことより、今日の夕飯のことでも考えましょうや」

そう言い残した後、彼がバイクにエンジンをかけた。
一時間ほどいた場所から、たちまち二人の男女は離れていく。

彼が先ほどの台詞を、どんな顔をして言ったのか見たかった。
見知らぬ土地に、私は理由のない一粒の涙を置き土産として落とす。

元来た道をひたすら追っていくだけのドライブの最中、彼の後ろで私は今晩は何が食べたいかだけを考えていた。

⏰:09/10/15 02:37 📱:N703iD 🆔:3eQlVeR.


#46 [ぎぶそん]
翌日から、前期の講義が開始となった。
予想どおり、同じ部屋に住んでいながら私と真織が接する時間も一日の半分以下となった。

一週間が経ち、久しぶりに一緒に家で夕飯を食べた。
茶碗に白いご飯にお茶漬けの素と沸騰した湯をかけただけのものを、箸の音を立ててかきこむ。

「俺友達出来たよ。同じ学科の椎橋孝太郎って奴」

会話はもっぱら、お互いの近況のことで、第一声に彼が私にこう報告した。
顔には出さないけど、嬉しそうなのが伝わる。
私には何だか、それが自分のことのように嬉しかった。

⏰:09/10/15 02:57 📱:N703iD 🆔:3eQlVeR.


#47 [ぎぶそん]
「今日二人で軽音学部の見学もしてきた。
そんで、今週の休みにエレキを買うつもりなんだけど、良かったらかなめも一緒に来ん?」

茶漬けを一粒残らず食した彼が、携帯をいじりながら会話を続ける。
椎橋君って子と連絡取ってんのかな。

「私、ギターに関する知識なんて全くないよ」
「俺があるからいい」
気がつけば、彼は煙草を一本吸っていた。

さっきからこの部屋からは、彼がかけたスピッツのアルバム曲が延々とコンポのスピーカーから流れている。
この部屋がどんどん音楽に染まっていく。

⏰:09/10/15 03:17 📱:N703iD 🆔:3eQlVeR.


#48 [ぎぶそん]
日曜日。真織と二人で街へと赴く。
そこで、真織の友人の椎橋君という子と初顔合わせをした。
染めたての茶色い髪と、真織とは対照的なへらついた顔が印象的だった。

「こちらは、前言ったルームメートの足立かなめさん。」
真織が彼に紹介したところで、そこで私は改まって椎橋君に頭を下げた。
私のこと、予め彼に言ってたんだ。

「えっ、女の人だったんだ!てっきり名前からして男かと思ってた」
椎橋君が垂れた目を大きく見開く。

⏰:09/10/15 03:31 📱:N703iD 🆔:3eQlVeR.


#49 [ぎぶそん]
「俺も最初は男かと思って色々事を運んでたら、住むことが決まった後で女って知って。
まあ女みたいな名前の俺が言うことじゃないけどな」
真織がその場で一服、といった感じで煙草を吸いだす。
反対の手には携帯灰皿を持っていて、その中にこまめに灰を落とす。

名前だけでは性別が断定出来ない二人。
そうじゃなかったら、私たちの運命はどうなっていたのかな…。

真織がその煙草を吸い終わって、私たち三人は駅の近くの建物の五階にある、都内では最大の広さとなる楽器屋へと向かった。

⏰:09/10/15 19:53 📱:N703iD 🆔:3eQlVeR.


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194