こちら満腹堂【BL】
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#570 [ひとり]
それはこちらに背を向けていた三田さんとアキにかけられたものだったが、小突き合いをしていた二人は気づかない。ノジコさんは声のボリュームを上げた。
「三田!アキ!あんた達も夜はべぇやんちだからね!!わかった!!?」
聞き分けない子供を叱る母のような口調に、ようやく気付いた二人は、やや驚いたような顔の後『はい』と首を縦にふった。
その動作までが示し合わせたかのように似ていて、また余計な考えに飲み込まれそうになる。
そのモヤモヤを切り刻むように、手元のキャベツを千切りにして気を紛らわせた。
:10/02/26 21:29 :F01B :ssYbzadU
#571 [ひとり]
夜、時間はとっくに十二時を超えている。
満腹堂は基本『客が帰るまでが営業時間』というスタイルをとっている。事前によし皆で飲もうなんて決めた日に限って客足の引きが遅いなんてのは、よくある事だ。
「もうすぐ一時なるし」
「とっとと出て〜」
「酒家にあるん?」
皆思い思いに喋りながら店を出ると、もう春一番も訪れた後の今日の日はとても暖かだった。
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:10/02/26 21:47 :F01B :ssYbzadU
#572 [のん]
:10/02/27 08:51 :SH01B :WMPPJQms
#573 [ひとり]
>>572のんさん
安価ありがとございます(´ω`)
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:10/02/28 09:08 :F01B :xlO7LqJU
#574 [ひとり]
>>571長谷部さんちは駅の反対側で、民家のやや奥まった所にある。バイクを牽いたりチャリをゆっくりジグザグに漕いだり、皆でのたくらと目的地へ向かう。俺の横には津久井がいた。
「その後どうなん?」
「まぁ、ぼちぼち」
片思いしていた例の相手とお付き合いを始めたんだと、津久井にはもちろん報告してあった。
それを自分の事のように喜んでくれた津久井は気を遣ってか、あまりオフの日に誘ってこなくなった。シフトも今月はうまい事ズレていたりして。だからこんな風にゆっくり話すのは、久々の事だ。
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:10/02/28 09:09 :F01B :xlO7LqJU
#575 [ひとり]
「照れんなって、順調なんしょ」
まぁ、確かに順調と言えば順調だし、そうでないと言えばそれもまた然りだ。
「・・ぼちぼち」
繰り返したら、突っ込まれた。
「何だよハッキリしないなぁ、何かあった?」
津久井が俺の立場ならどう感じるんだろうって思ったら『実は・・』って切り出しそうになった。でも俺達の前には、三田さんとアキが、ノジコさんと三人で歩いている。聞かれやしないかと思うと、とてもじゃないが言えない。
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:10/02/28 09:09 :F01B :xlO7LqJU
#576 [ひとり]
「いや、まぁ、ぼちぼちなんだよ」
「ふーん」
俺の濁した物言いから察してくれたらしい。津久井がそれ以上突っ込んでくる事はなかった。
長谷部さんちに着くと、皆ぞろぞろといつも決まりの畳部屋に向かう。そこは長谷部さんの寝床であると同時に、俺達満腹堂スタッフの宴会場でもあった。
皆慣れた様子で好き勝手座ったり寝転んだり、曲をかけたり。そんな中で一人だけ浮き足立った感の否めない奴が一人。アキだ。
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:10/03/01 09:02 :F01B :vbyvgOo6
#577 [ひとり]
目を大きくして辺りを伺っている。確かに誰でも他人の家に初めて上がった時は、大抵興味津々で、色々見てしまうものだ。アキがそうして好奇心の色を貼り付けた目で観察する部屋の中、何かに視線が止まって、動かなくなった。
それから傍に腰を下ろしていた俺に身を寄せて、耳打ちしてくる。
「ねね、ゆうちゃんゆうちゃん」
「ん?」
「あれあれ、あれって卒アルだよねきっと?」
控えめに指差す先には、確かに卒業アルバムらしいかっちりした濃紺の本が一冊。漫画がごちゃごちゃ詰め込まれた本棚の中に、居心地悪そうに収まっていた。
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:10/03/01 09:03 :F01B :vbyvgOo6
#578 [ひとり]
「多分そうなんじゃね」
今まで気にした事もなかったが、よくよく見ればそれ以外にもアルバムたらしき本が数冊、漫画と漫画の間にあるのを見つけた。
「あれ見たい!長谷部さん、あそこにあるのアルバムですよね?」
「え、あぁ、そうそう」
いいタイミングでリキュールやサイダーを両手に抱えて部屋に入って来た長谷部さんに、アルバムが見たいとアキがせがんだ。
「別にいいけど、笑わないでね」
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:10/03/01 09:04 :F01B :vbyvgOo6
#579 [ひとり]
長谷部さんは快く了承してくれる。それから運び込んだアルコールを数個あるコップに注ぎ分けて、サイダーやら牛乳やらと割りながら
「他の写真も同じ棚にあるから、好きに見ちゃっていいぞ」
と、漫画で飽和状態の棚を顎でさした。
「やった、ありがとうございます」
アキは待ってましたと言わんばかりの素早い動作で嬉しそうに目当ての棚を物色し始める。すると
「ちょ、バカお前それはやめとけって!」
俺の右隣で寛いでいた三田さんが、突然声を張った。
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:10/03/03 08:57 :F01B :vBSyG5To
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