†horror†
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#601 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
午前6時―


結局、黒川さんから連絡が来ないまま朝になった。


一睡もしていないせいで私の目はうつろだ。


ふらふらと立ち上がり、おぼつかない足で階段を下りて真っ先に洗面所へ向かう。


眠気はないが、頭がぼーっとする。


ずっと起きているなんて初めての体験で慣れていないせいかもしれない。

⏰:11/10/09 13:11 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#602 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
洗面台で冷たい水で顔をバシャバシャと洗い、鏡で自分の顔を見る。


なんて疲れた顔をしているんだろう。


よく見るとニキビがいくつかできている。


でも今は黒川さんの事だけが気がかりだ。


私は今日、早めに家を出て黒川さんの家をもう一度訪れる事にした。

⏰:11/10/09 13:20 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#603 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
昨日のおじさんの話によると、この家にはおばあさんと黒川さんと、黒川さんのお母さんの3人が暮らしているとの事だ。


家の表札が“佐伯”となっているのが特に気になった。


黒川さんのお母さんは朝から仕事に行くという事なので、今インターホンを鳴らせば出てきてくれる可能性はある。


私は迷わずインターホンを押した。

⏰:11/10/10 19:33 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#604 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
しばらくするとドアが『ギイイイ』と軋む音をたてながら開かれ、中から腰を低くかがめた白髪のおばあさんが現れた。


響歌『あ、あの…』

なんというか、そのおばあさんから伝わってくる不気味な空気と雰囲気に思わず声が震える。


『…………』

おばあさんは警戒した様子で黙って私を下から睨みつけていた。

⏰:11/10/10 19:34 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#605 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
何秒くらい見つめ合っただろうか。


10秒?


20秒?


そんなの数えている余裕なんてなかった。


おばあさんが初めて口を開いたのは、ちょうど私が耐えられず目を背けた時だ。


『……誰だ?』

男性のような低い声で問いかけてきたのは。

⏰:11/10/10 19:35 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#606 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『…あ。わ、私、黒川奈穂さんと同じクラスの村井といいます!』

おばあさんがいきなり喋り出した事に驚いて、しどろもどろに返事してしまった。


少しの沈黙が続いたあと、おばあさんは私の顔と体を交互に見てから『入りな』と言わんばかりの仕草をし中に入っていった。


私も自然に体が動いて、ひきつけられるようにその後についていく。

⏰:11/10/10 19:39 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#607 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
足を踏み出す度にギシギシと音がする廊下を歩いて、このおばあさんのと思われる畳のある和風の部屋に通されて座布団に座る。


他に人のいる気配はない。


部屋を見渡していると、壁に掛かっている古びた時計を発見。


午前7時38分―


黒川さんのお母さんは、朝の7時前にはもう家を出ているのだろう。


あのおじさんの言う通りだ。

⏰:11/10/10 19:41 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#608 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
それにしてもこのおばあさん、ちょっとおかしい人だと近所の人達から思われているようだが、私にはそうは見えない。


なんというか、ただ人とコミュニケーションをとったりするのが苦手なだけのように思えた。


『…茶、いるか?』

そう言って立ち上がろうとするおばあさんに


響歌『あ、いえ大丈夫です。お構い無く…』

と、座ったばかりでまた立たせるのも悪いと思い丁寧に断った。


時間もあまりないので、黒川さんの事を聞いてさっさと学校へ行こう。

⏰:11/10/10 19:55 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#609 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『ええと…おばあさん』


『佐伯…栄(ひで)だ』


響歌『あ、すみません…』

“おばあさん”と呼ぶのに少し抵抗があったので、名前を聞けて安心した。


響歌『あの…栄さんは黒川奈穂さんとどういう関係なんですか?』

なんか雑誌の記者になった気分だ。


栄さんは私の質問に表情を一つ変える事なく答えてくれた。

⏰:11/10/10 19:57 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#610 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
  『…奈穂はアタシの孫だ。とってもいい子で強い子だが、母の実和子はいつも朝っぱらから仕事で帰ってくるのはいつも夜遅い…。寂しいんだろうが、奈穂はそういう感情を母に一度もぶつけた事はない』


響歌『…そうなんですか。あの、ちなみに奈穂さんのお父さんは?』


  『…拓郎はアタシの息子だったが、奈穂がまだ小さい時に事故に巻き込まれて死んでしまったよ』

そう少し寂しげに話す栄さんを見て、辛い事を聞いてしまったなと後悔が襲った。

⏰:11/10/11 23:07 📱:S004 🆔:q2gX470I


#611 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『最後にいいですか? 奈穂さんにはお兄さんもいると聞きました。そのお兄さんは…?』


  『…望(のぞむ)か。望は、すでに独立してもうここにはおらんよ。最近連絡が全くないのが気がかりだが…。ま、元気でやってればいいがな』


響歌『ありがとうございました…。あの、ところで奈穂さんが昨日学校に来なかったんですけど、どこに行ったか知りませんか? 家にも帰ってきてませんよね?』


  『…ああ。昨日、学校へ行ってくると言ったきり帰っていない』

それから彼女が行きそうな場所など心当たりを聞いてみたが、栄さんにはわからないとの事だ。

⏰:11/10/11 23:10 📱:S004 🆔:q2gX470I


#612 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
黒川さんが帰ってきたらすぐ私の携帯電話に連絡をくれるように伝言を頼んで栄さんの家を後にし、早足で学校へ向かう。


その日の夜、再び黒川さんを探す為、彼女の家の周りを歩いている時の出来事だった。


  『…ねえ。村井響歌ちゃん?』

背後から突然私の名前を呼ぶ声が聞こえて後ろを振り返ると、20代前半くらいの背の高い男の人が立っていて私をじっと見つめていた。

⏰:11/10/11 23:15 📱:S004 🆔:q2gX470I


#613 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『だ、誰ですか?』

私には全く見覚えのない男性。


当然の質問をすると男性は『やっぱりか』という表情を見せた。


なにやら気味が悪いので、逃げようと背を向けた時


  『君が探してる人は、黒川奈穂?』

…なぜこの人が黒川さんの名前を?


私は再び男性の方を向き、改めて問いかけた。


響歌『あ、あなた誰なんです…か?』

声が震える。

⏰:11/10/11 23:24 📱:S004 🆔:q2gX470I


#614 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
  『どうでもいいじゃない。それよりも黒川奈穂を探してるんでしょ? 会わせてあげようか?』


響歌『え…?』

黒川さんは生きている?


男性が『ついてきなよ』と言って歩き始めたので、私もその後についていった。



歩いて数十分―


住宅街からだいぶ離れ私の目に飛び込んできたのは、多くの木々と雑草に囲まれた人のいる気配が全く感じられない古く寂れた家…いや、廃屋と呼ぶべき場所。


この中に黒川さんが…?

⏰:11/10/11 23:34 📱:S004 🆔:q2gX470I


#615 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
  『さ、どうぞ』

言われる通りに入口の方に向かい、ドアノブに手をかける。


ドアは佐伯さんの家よりも大きな『ギイイイ』という音と共に開かれた。


そっと中を覗くと、廃屋とは思えないほど家としての原形をしっかりと留めている。


  『靴のまま入っていーよ』

私の後ろで楽しそうな口調で男性が言う。

⏰:11/10/11 23:38 📱:S004 🆔:q2gX470I


#616 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
廊下を靴をはいたまま歩いていくと、奥にある襖と襖の間から小さく明かりがこぼれているのが見える。


『もしかして黒川さん?』と思い、急いでその部屋の前まで駆け寄った。


響歌『黒川さん!』

叫ぶように言いながら両手で襖をサッと開ける。


奈穂『む、村井さん…』

そこに黒川さんの姿はあった。


座椅子に座っていて、なにやら飲み物がはいった紙コップを手にして平然とした表情で私の顔を見上げている。

⏰:11/10/12 00:06 📱:S004 🆔:QnQd350.


#617 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『黒川さん…大丈夫!? 早く逃げなきゃ…』

あの男が黒川さんをここに監禁しているんだと判断した私は彼女の元へ行き、腕を引っ張ろうとしたが…


奈穂『ま、待って村井さん!』


響歌『…黒川さん?』


奈穂『そ、そこに座ってください』

こんな状況で何を言っているのだろう。


早く逃げなければあの男に何をされるかわからない。

⏰:11/10/12 00:10 📱:S004 🆔:QnQd350.


#618 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
その時、私のすぐ横にあの男が立ち、意味不な発言をする。


  『奈穂。村井響歌ちゃんをつれてきたよ』

…え?連れてきた?

私はすぐに男の方を見て当然の疑問をぶつける。


響歌『ど、どういう事ですか…?』


  『奈穂から聞きなよ』

私はどんな状況なのかを理解する為、黒川さんの向かい側に座った。

⏰:11/10/12 00:18 📱:S004 🆔:QnQd350.


#619 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
奈穂『村井さん…私の事心配してくれてたんですね…』


響歌『当たり前じゃん! それよりも、これは一体どういう事なの?』

黒川さんはもの悲しげな表情で語り出す。


奈穂『…私のお母さんはいつも朝から仕事で、夜帰ってきても疲れたと言って私とは全く話してくれないし、いつもほったらかしです。休みの日もお昼からお化粧してどこかに出掛けたりしてるんです』

…もう話が見えてきた気がしたが、今はまだ彼女の話を黙って聞く事にした。

⏰:11/10/12 00:22 📱:S004 🆔:QnQd350.


#620 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
奈穂『でも今ならお母さんが休みの日に何をしに行っているのかわかる気がします。昨日は仕事休みのはずなのに急に仕事がはいったと言って朝から出掛けたので気になって後をつけました。そしたら知らない男の人と待ち合わせしてたみたいで、2人で楽しそうに歩いていったのを見たんです』


響歌『…だから昨日は学校に来てなかったの?』


奈穂『はい…。心配かけて本当にごめんなさい!』

黒川さんの事情は理解した。


全てはお母さんの行動を知る為、そしていずれは自分が行方不明になる事でお母さんに心配して探しにきてもらえるか否かを試していたんだ。

⏰:11/10/12 00:28 📱:S004 🆔:QnQd350.


#621 [輪廻◆Laf0611CWs]
 
 
響歌『それで…お母さんからは?』


奈穂『さっき、ずっと切ってた携帯電話の電源つけてみたけど…お母さんからの電話は一回も来ていなかった…』

子供より仕事が優先な親…

私も彼女の気持ちがわかる。


私のお父さんも似たようなものだから。

⏰:11/10/16 15:06 📱:S004 🆔:IpVLkEZ2


#622 [輪廻]
 
 
そんな仕事ばかりのお父さんが嫌で、小学生の頃に一度だけ家出をした事がある。


お母さんは必死に私を探してくれたけど、お父さんは心配してくれる事も…叱る事すらもしてくれなかった。


だからそういう親に心配をかけさせて、子供の自分ともう一度向き合って欲しいと願う黒川さんの気持ちは痛いほどわかる。


でも―


奈穂『村井さん?』


響歌『……おばあちゃんが心配してるよ。家に帰ろう?』


奈穂『…………』

私がそう言った途端、黒川さんはうつむいて黙ってしまった。

⏰:11/10/16 15:26 📱:S004 🆔:IpVLkEZ2


#623 [輪廻]
 
 
そして、衝撃的な言葉を言い放つー


奈穂『私は…もうすぐ死ぬの』


響歌『…え? 死ぬ…って?』


奈穂『3日前にメールが来たの…。“1週間以内にあなたを殺しに行く”って…』


響歌『そ、そんなのただのイタズラだよ。ほら、チェーンメールってあるでしょ? それと同じようなものだよ』


奈穂『じゃあ…なんで私の名前を知ってるの!?』

ここで初めて黒川さんが声を荒げた。

⏰:11/10/23 10:36 📱:Android 🆔:KFSenJ12


#624 [輪廻]
 
 
奈穂『村井さん教えてよ…』


響歌『それは…』

当然私にはわかるはずもないけど、1つだけ黒川さんの名前を知っている上で送られた方法はある。


響歌『黒川さんの名前を知ってるって事は、そのメールを送ってきたのは黒川さんの知り合いとかじゃないかな…』


奈穂『でも! 知らないアドレスだし…』


頭を抱えて苦しそうにしている彼女に、これ以上何も言う事ができなかった。

⏰:11/10/23 10:52 📱:Android 🆔:KFSenJ12


#625 [我輩は匿名である]
更新されてるー♪
すごくおもしろいです!
これからも頑張ってください(*´ω`*)

⏰:11/10/24 03:09 📱:Android 🆔:OtO7k5iw


#626 [我輩は匿名である]
自演乙。

⏰:11/10/24 17:04 📱:W62P 🆔:☆☆☆


#627 [我輩は匿名である]
>>626
なんでわかるの?機種が同じなだけ。

⏰:11/10/24 17:18 📱:T008 🆔:Qz3X89IU


#628 [輪廻]
すみません、完結までの間オーダー設定させてもらいます。
ーーーーーーーーーー


奈穂『ごめん…悪いけど今日はもう帰って…』


響歌『…黒川さん、明日学校で待ってるよ』

下を向く黒川さんにそう言い残して、廃屋を後にした。


彼女にきた“殺しに行く”というメール。


私は当然半信半疑…というよりもほぼ、ただのイタズラだと思っていた。


でもそれから2日後の夜、私はその光景を目撃することになる。

⏰:11/10/25 13:29 📱:Android 🆔:nQ5kCmAk


#629 [輪廻]
 
 
2日後の土曜日、再び黒川さんに会う為に彼女の家を訪れたが祖母の栄さんから、あれから一度も家に帰ってきていないと言われた。


そうなると黒川さんはあの廃屋にいるはずと思い、暗い夜道を向かって歩く。


そしてあのボロボロの外観が見えてきた時だ。


入口の辺りにうっすらと何人かの人影が見えた。

⏰:11/10/27 01:59 📱:Android 🆔:51fU2zxo


#630 [輪廻]
 
 
人数は3人ほどか。

背の高さから女性ではない事はわかる。


しばらくして中からもう1人、男が出てきた。


暗くてよくわからないけど、その男は何かを引きずっているように見える。


目をこらしてよく見ると、中から引きずり出してきたものが“人”だという事がわかった。

⏰:11/10/28 17:55 📱:Android 🆔:M5pCfIMw


#631 [輪廻]
 
 
私はそんな光景に声が出なくて、同時に嫌な汗が流れる。


怖くなった私は震えた足でその場から逃げようと後ずさりした時、地面にある木の枝か何かが、かかとにつっかかって転んでしりもちをついてしまった。


同時に『ガサッ』と木の葉を踏み潰す大きな音がして、一気に血の気が引く。


恐る恐る廃屋の入口の方を見ると、私の存在がバレてしまったのか、男がゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。

⏰:11/10/28 18:07 📱:Android 🆔:jlIYUM8g


#632 [輪廻]
 
    
立ち上がろうとするものの、震えて思うように立てなくなった私は必死にその場から後ずさりした。


男は段々と私の方へと近づいてくる。


『私、殺される…?』

そんな言葉が頭の中をかけめぐった。


そして、ついに男は目の前にー
 
 

⏰:11/11/08 13:47 📱:Android 🆔:IhCj.3XI


#633 [輪廻]
 
 
暗がりの中でもハッキリとわかった。

男は笑っている。

口元をニヤリとさせているのもしっかりと見えていた。


  『…大丈夫?』

そう言いながら男は私の肩をポンと抑えた。
 
 

⏰:11/11/08 13:55 📱:Android 🆔:IhCj.3XI


#634 [輪廻]
 
 
そしてもう片方の手を差し伸べる。


この人は何を考えているのかわからなかったが、とりあえず立たないとと思って差し伸べられた男の手を握って、その場からゆっくりと立ち上がった。


お尻についた木の葉などを手で払ってから、再び男の顔を見る。


全く見覚えのない顔。

年齢は20代後半くらいか。

黒いフード付きパーカーに黒いズボンと、いかにも怪しい容姿。
 
 

⏰:11/11/08 14:10 📱:Android 🆔:zYkpmFe6


#635 [輪廻]
 
 
響歌『こ、こんな所で何をしてるんですか…?』

思いきって聞いてみると、男はさっきよりも大きく口元を歪ませ不気味に笑いながらこう言った。


  『…ここで僕達を見た事は秘密だよ?』

そう言い残して男は再び廃屋の入口の方へと戻っていった。
 
 
 
 

⏰:11/11/09 11:59 📱:Android 🆔:s3dH2Ves


#636 [輪廻]
 
 
別の男が廃屋の中から引きずり出してきた人が誰なのか知る術はなく、震えた足で回れ右をし、私は逃げるようにして走り出した。


もしあれが黒川さんの死体だったら…?


帰り道でそんな事ばかり考えてしまい、その日は胸騒ぎが収まらなかった。
 
 

⏰:11/11/09 12:13 📱:Android 🆔:muhIY0CY


#637 [輪廻]
 
 
結局その夜は一睡もできずに翌日の朝を迎える。

朝から強く激しい雨が降りしきり、所々で雷の光と共に大きな音が鳴る。


今の私の心はこの空と同じく雷雨が轟いていた。


今日は日曜日。

私は朝ご飯も食べず、ベッドの毛布を頭から被りながら昨夜の事を考えていた。
 
 

⏰:11/11/09 12:37 📱:Android 🆔:hlL3mehU


#638 [輪廻]
 
 
あれは黒川さんなのだろうか?


出会い系殺人ネットの標的としてあの男達に殺されてしまったのか?


それにしても、私に近づいてきた男性はなぜ私を生かして帰してくれたのだろうか?


考えれば考えるほど頭が混乱する。


そんな時、枕元に置いてある携帯電話の着信音が鳴った。
 
 

⏰:11/11/10 17:01 📱:Android 🆔:QCqL1Lm.


#639 [輪廻]
 
 
被っていた毛布を勢いよく払いのけ、携帯電話のディスプレイを見る。


画面には“黒川さん”の文字。

黒川さんからの電話だった。


…黒川さんは生きている?

そんな少なからずの期待をし、一つ息をのんでから通話ボタンを押して電話に出た。


だが向こうが発した声と言葉で、私の期待は見事に裏切られる。
 
 
 
 

⏰:11/11/10 17:03 📱:Android 🆔:QCqL1Lm.


#640 [輪廻]
 
 
『もしもし? 警察の者ですが、少しお話 を伺わせてもらっていいですか?』

嫌な予感は的中した。

黒川さんの携帯電話から警察が電話をかけ てくるという事は…


響歌『あの…黒川さんは…?』

彼女の生死の状態はわかりきっているはず なのに、自分でも認めたくなくて思わず聞 いてしまった。

⏰:11/11/10 17:06 📱:Android 🆔:QCqL1Lm.


#641 [輪廻]
 
 
『今朝方、彼女の遺体が山中で発見されました。遺体から少し離れた場所でこの電話も見つかり、着信履歴から最後に電話があったのがアナタの番号だったので何か知っている事があると思い、こうして電話をかけたのです』

そう告げられた瞬間、私は放心状態になり片手に持っていた携帯電話をぽとりと落とした。


その電話口からは警察の人の『もしもし?』という言葉が何度も連呼されている。


数分そんな状態が続いた後、携帯電話を手に取ると通話はすでに切れていた。
 
 

⏰:11/11/10 17:14 📱:Android 🆔:.54zK52w


#642 [輪廻]
 
 
響歌『黒川さん…』

自分を悔やんだ。

あの時彼女が言った事を私は話半分で聞いていた。


デスカメラの時と同じ。

今回も私の周りで人がまた一人…消えた。


携帯電話に一滴の涙がこぼれ落ちる。


それからは言うまでもなく、大きな声で子供のように泣きじゃくった。
 
 

⏰:11/11/10 17:26 📱:Android 🆔:44gYKaK6


#643 [輪廻]
 
 
私の泣き声に気がついたお母さんも来たけど、いっぱいいっぱいで何も話す事ができずお母さんの胸に飛びついて…とにかく泣いた。



その数時間後、私が迷う事なく向かったのは近くの交番。


昨夜見た事を全て話したんだ。


あの男に『僕達を見た事は秘密』と言われたが、別に忘れていた訳ではない。


くだらない出会い系殺人ネットとやらで亡くなった黒川さんが少しでも浮かばれるなら何だってするって決めただけ。
 
 

⏰:11/11/10 17:28 📱:Android 🆔:44gYKaK6


#644 [輪廻]
 
 
昨日起こった事はおそらくこうだ。


黒川さんはあの廃屋に一人でいた。


そこにあの男達が現れ、黒川さんを殺した。


男達は彼女の死体を山に捨てに行く為、中から死体を出そうとする。


その頃に丁度私が来た。


そして偶然にも私はその場面を目撃してしまう。
 
 

⏰:11/11/10 17:32 📱:Android 🆔:44gYKaK6


#645 [輪廻]
 
 
全ては私の想像に過ぎないけど、少しでも手がかりになればと思って警官に話した。


すると最後に警官から思わぬ言葉が返ってくる…


『話してくれてありがとうね。でも…約束はちゃんと守らないと駄目だよ?』

そう言って深く被っていた帽子のつばをゆっくりとあげる警官。


響歌『…えっ!?』


その警官の顔は、まさに昨夜見たあの男だった―
 
 

⏰:11/11/10 17:34 📱:Android 🆔:44gYKaK6


#646 [輪廻]
 
 
ニヤリと笑うその口元は昨日と全く同じ。


男は制服のポケットから黒い携帯電話を取り出し、私に見せた。


『誰の携帯電話なのかは聞かなくてもわかるだろ?』と言うように男が目で訴える。


響歌『それ…』


  『…当ったり。黒川奈穂のものだよ』

ストラップの部分を持って本体をブラブラとさせながら、からかい口調で言う。
 
 

⏰:11/11/10 23:42 📱:Android 🆔:4CCwSVHs


#647 [輪廻]
 
 
響歌『あなた達が黒川さんを…』

急に怒りが込み上げてきて、気がついたら男に飛びかかっていた。


だけど、戻ってきた別の警官によって私は取り押さえられ事情を聞かれる事に。


あの男はその警官と入れ替えでパトロールに向かった。



最後に私にあの笑みを浮かべて―
 
 

⏰:11/11/10 23:44 📱:Android 🆔:4CCwSVHs


#648 [輪廻]
 
 
 
 
 
追憶・完
 
 
 
 
 

⏰:11/11/10 23:46 📱:Android 🆔:4CCwSVHs


#649 [輪廻]
 
過去篇
>>568-648

お仕事の都合でこれからしばらく更新ができなくなりますm(_ _)m

⏰:11/11/10 23:58 📱:Android 🆔:4CCwSVHs


#650 [我輩は匿名である]
もう書かなくていいよ

⏰:11/11/11 12:09 📱:W62P 🆔:☆☆☆


#651 []
↑お前が書くな

⏰:11/11/11 16:26 📱:P08A3 🆔:GlPGJ8us


#652 [輪廻]
 
 
蓮『俺が引っ越してった後にそんな事があったのか…』


響歌『それからその人に会う事はなかったけど…まさか5年経った今になって会うなんて…』

蓮はそれ以上何も言う事ができず、うつむく響歌を黙って見ていた。


そんな中、蓮の父親がソファから立ち上がり


  『飯でも食べにいくか』

と座る2人を見下ろして言う。
 
 

⏰:11/11/15 23:13 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#653 [輪廻]
 
 
蓮『村井、腹減ってるよな? 近くに美味いラーメン屋あんだけど気晴らしに行くか?』


響歌『…そうだね、食べたい』


蓮『じゃあ決まりだな』

彼なりの気遣いと優しさが響歌の心に大きく響いた。


蓮『近いから歩いてくぞ』

蓮とその父親は行く準備を始め、響歌もソファから立ち上がる。
 
 

⏰:11/11/15 23:16 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#654 [輪廻]
 
 
ラーメン屋は家から5分ほど歩いた所にあり、店内も時間帯が時間帯なので大盛況していた。


とりあえず奥の空いてる席に3人座る。


座るなり蓮がはしゃぐように言う。


蓮『ここのとんこつラーメンは絶品なんだよ』


響歌『あ、私とんこつは無理かも』


蓮『…マジ? もったいねえな』

明るく振る舞う蓮に、さっきまで悲しみでいっぱいだった響歌の表情にも自然と笑みがこぼれてくる。
 
 

⏰:11/11/15 23:18 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#655 [輪廻]
 
 
唯一の気がかりは蓮と蓮の父親の距離感。


ラーメン屋へ向かう途中も2人は距離を置いて歩いていた。


目を合わせようともしない。


蓮の本当の父親ではないので色々と複雑なのだろうけど、響歌はそんな2人といるのが気まずくてしょうがなかった。


いつかわかり合え、本当の親子になれる日が来る事を祈るばかりだ。
 
 

⏰:11/11/15 23:20 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#656 [輪廻]
 
 
3人それぞれ別の味のラーメンを注文し、響歌はそれをじっくりと味わった。


  『2人共、ちょっと聞いてほしい』

ラーメンを早々と食べ終え、コップに入った残りの水を飲み干してから蓮の父が真顔で言った。


蓮は反応せずにただラーメンをすすり、響歌は割り箸を持ったまま父親の方に目をやる。
 
 

⏰:11/11/15 23:23 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#657 [輪廻]
 
 
  『明日、私は1日だけ仕事の休みを貰って警察に行ってこようと思う。剛史を殺したという人にも面会しておきたい。だから蓮、村井さん…君達は気晴らしにこれでも観に行きなさい』

そう言ってポケットから取り出したのは二枚の紙。


響歌が顔を近づけてそれを見てみると、紙には映画と思われるタイトル。


つまり映画のチケットだった。
 
 

⏰:11/11/15 23:33 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#658 [輪廻]
 
 
そして再び蓮の父親の方に目をやると、彼は優しい表情をしていた。


響歌『あ、ありがとうございます…』

そのチケットを一枚受け取り、そっとポケットにしまうと、溢れそうな涙をこらえながら残りの麺をすすった。


響歌には、一瞬だけまるで自分の本当のお父さんのように思えたのだ。


その夜は温かいラーメンと蓮達の暖かい優しさに響歌の心も暖まり、安らかに眠る事ができた―
 
 

⏰:11/11/15 23:36 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#659 [輪廻]
 
 
そのせいか、例の夢を見る事はなく翌日の朝を迎える。


麗奈がいない麗奈の部屋。

明るく話しかけてくれる彼女はもうこの世にはいない。


部屋を出て階段を下りリビングへ向かうと、キッチン側テーブルには椅子に座り脚を組みながら新聞を読む蓮の父親の姿。


リビングのソファには誰もいない。


蓮はまだ寝ているようだ。
 
 

⏰:11/11/19 13:16 📱:Android 🆔:ImaFCg1E


#660 [輪廻]
 
 
響歌『おはようございます』

今できる精一杯の笑顔で蓮の父親に明るく言うと


  『おはよう、村井さん』

と向こうもニッコリと返した。


時計の針は午前7時30分を指した所だ。


ソファに座って、しばらくの間電源のついていない暗いテレビ画面を見つめていると、階段を下りてくる音がした。
 
  
 

⏰:11/11/19 13:20 📱:Android 🆔:ImaFCg1E


#661 [みほ]
あげます(^O^)

⏰:11/11/21 01:54 📱:841SH 🆔:2bkoARcM


#662 [輪廻]
>>661さん
ありがとうございます♪
――――――――――


まだ寝ていると思っていた蓮が起き、洗面所にいるのだろう水の音が聞こえてくる。


そしてリビングに来て響歌の隣に座った。


蓮『…おはよ』


響歌『おはよう』

チラッとだけ彼の顔を見てみると、その表情が重苦しい。
 
 

⏰:11/11/22 12:30 📱:Android 🆔:B6W28UJc


#663 [輪廻]
 
 
響歌『どうしたの? 何かあった?』


蓮『…別に。変な夢見ただけ』


響歌『どんなの?』

何気に聞いてみると、蓮から衝撃的な答えが返ってくる―


蓮『気がついたら麗奈が殺されたあの廃工場にいて…俺の目の前に倒れてたんだ…麗奈が。で、自分の手を見てみたら血まみれのナイフを握ってた』


響歌『…! そ、そんなのただの夢だよ。気にする事なんか…』


蓮『そうだけどさ。なんか嫌にハッキリした夢だったから、一瞬夢か現実かわからなかった』

そう言って机の上のリモコンを手に取り、テレビの電源をつける蓮。
 
 

⏰:11/11/22 12:33 📱:Android 🆔:B6W28UJc


#664 [輪廻]
 
 
そして色々な局のチャンネルボタンを押していて、あるチャンネルで手を止めると


蓮『これ…麗奈の事件のニュースだ』

そうポツリとつぶやいた蓮の声が届いたのか、後ろのキッチンテーブルの椅子に座っていた蓮の父親がバタバタと急ぎ足でテレビの方にやってきた。


画面右上のテロップには


“杉本麗奈さん殺害事件に新展開”と表示されている”


しばらくして画面が現場の廃工場からスタジオに変わり、女性のニュースキャスターが真顔でその事件の新展開について読み上げた。
 
 

⏰:11/11/22 12:41 📱:Android 🆔:QIpXppO2


#665 [輪廻]
 
 
それは、麗奈殺害事件にはとあるサイトが関係しているという事だった。


その話を聞いて響歌と蓮はピンときて顔を見合わせる。


蓮『おい村井! これって…!』


響歌『うん。間違いないよ…デスネット!』

いよいよ、影で蠢いてたそのサイトが世間に姿を現そうとしていたー
 
 

⏰:11/11/22 12:43 📱:Android 🆔:QIpXppO2


#666 [輪廻]
 
 
 
 
 
そして物語は最終章へー
 
 
 
 
 

⏰:11/11/22 12:45 📱:Android 🆔:QIpXppO2


#667 [輪廻]
 
 
某所ー


  『それで…村井響歌の居場所は?』


  『ええ…局員の一人が彼女が住んでいるアパートの管理人…高田幸治を殺し、盗んだ合鍵で部屋を開けましたが、村井響歌はいなかったそうで。しかし彼の報告によると、今は桐谷という知り合いの家にいるようです』


  『桐谷くんの家…。なら村井さんには直接来てもらおうかな。別室に拘束している井本七瀬は彼女とは親友同士。その親友を助ける為なら村井さんは必ずここに来る。それも桐谷くんと一緒に…』
 
 

⏰:11/11/22 12:55 📱:Android 🆔:QIpXppO2


#668 [輪廻]
 
 
響歌と蓮の2人はその日のお昼、昨夜蓮の父親から貰った映画のチケットを持って映画を観に行った。


あるメールに気がついたのは、映画を観終わりロビーで携帯電話の電源をつけてからだ。


響歌『蓮! これ見て…!』

隣にいた蓮にそのメールを見せると、彼も驚いた顔をした。

メールには件名に“井本七瀬”とあり、添付されていた画像には薄暗い部屋で手足を縛りつけられて拘束されている女性の姿があった。


七瀬とはしばらく会っていなく、もうこの世にはいないと思っていた響歌はすぐに


響歌『ナナ…!』

とロビーで叫ぶように言った。
 
 

⏰:11/11/22 13:18 📱:Android 🆔:APO5AGiI


#669 [輪廻]
 
 
蓮『村井落ち着け! メールに何か書いてないか見てみろよ』

言われた通りに再びメールを見ると…


“村井響歌 親友の井本七瀬を助けたいなら本日午後7時にお前が通っていた中学校の一階体育倉庫へ来い”

と書かれていた。


響歌『中学校…?』


蓮『俺達が通ってた中学校? そこに井本がいるって事だよな? 村井、行こうぜ!』


響歌『待って。7時になってから私一人で行く』

響歌が真顔でそう言うと、蓮はさっきよりも驚いた顔をする。
 
 

⏰:11/11/22 20:29 📱:Android 🆔:Wgrk0EI.


#670 [輪廻]
 
 
蓮『何言ってんだよ! 向こうはデスネットの関係者で…何人いるかわからないだろ! そんなトコに一人で行かせられるか!』

周りの人目を気にせず大声を張り上げる蓮だが、響歌は首を横に振って話を続ける。


響歌『ありがとう蓮。でも、これは私が決着をつけるべきなの』


蓮『どういう事だよ…?』


響歌『ナナが自分が通ってた中学校で捕まってるって事は…』

蓮の質問を無視して独り言のように言う響歌を見て蓮は


蓮『もういい! 俺は警察に電話してから中学に行く! だからお前はじっとしてろ!』


響歌『ちょっと蓮! ここから中学校までどれだけ時間が…!』

止める間もなく蓮は全速力で走り去っていったー
 
 

⏰:11/11/22 20:31 📱:Android 🆔:Wgrk0EI.


#671 [輪廻]
 
 
その場に一人残された響歌は、携帯電話を握りしめながら考えた。


自分自身が見ていた夢は今の七瀬と同じ状況。

暗闇で手足を縛られ身動きがとれないあの感覚ー


そしてそこからゆっくり近づいてくる人物―


親友である七瀬の苦しみを自分も夢で感じていたとでもいうのだろうか。


響歌『私が…行かなきゃ…私が…』

気がついたら自分も走り出していた。


数分前に走り去っていった蓮を追うようにしてー
 
 

⏰:11/11/23 11:52 📱:Android 🆔:pL7Ejq9k


#672 [輪廻]
 
 
そんな響歌は電車で、通っていた中学校から一番近い駅に向かった。


時間の針は指定された午後7時より5時間早い午後2時を指す。


  『次は〇〇駅〜』

目的地の駅の名前が車内アナウンスで流れると共に、電車を降りる準備をした。


そこから中学校まで歩いて20分かかる所を全速力で走り、10分ほどでその中学校に到着。


日曜日というだけあって周りに生徒はいないが、グラウンドの方からは部活の練習をしているのか、人の走る音やボールを打つ音などがしている。


響歌『変わってない…』

校舎の外観を見上げてポツリと言う。
 
 

⏰:11/11/23 11:56 📱:Android 🆔:pL7Ejq9k


#673 [輪廻]
 
 
いやいや、と首を振って正面玄関へ向かったが鍵がかかっていたので裏口へと回る。


幸い裏口には鍵がかかっていなく、すぐに入る事ができた。


入るなり靴を履いたまま体育館のある一階の奥へと歩いていく。


体育館の入り口の大きな扉を目の前に、一つ深呼吸してから扉に手をかけ中に入った―
 
 

⏰:11/11/23 11:58 📱:Android 🆔:pL7Ejq9k


#674 [輪廻]
 
 
そこにはとても懐かしい空間が広がっていた―


体育館のなんともいえない独特な匂い、ピカピカのワックスがかかった床、バスケットゴール、奥にはステージと懐かしさが蘇るようだった。


来るように指定された体育倉庫は向かってステージの左側にある扉の向こう。


人のいるような気配はないが、きっとあそこに七瀬がいると直感で思い、ワックスがかった床をキュッキュッと音を鳴らしながら体育倉庫に向かって歩き…


そっと手を伸ばし、扉を開けようとした瞬間だった―


  『…誰ですか?』

後ろから誰かが呼びとめた。
 
 

⏰:11/11/23 12:02 📱:Android 🆔:pL7Ejq9k


#675 [輪廻]
 
 
振り返った先には、一人の体育教師と思われる赤いジャージを着た小柄な女性。


その顔を近づいてよく見てみると…


響歌『もしかして…青山先生?』

思い出したように言うと向こうは


  『そうですけど、あなたは一体どなた?』

と知らないような口振りで聞き返してきた。
 
 

⏰:11/11/23 12:54 📱:Android 🆔:LofcQDC2


#676 [輪廻]
 
 響歌『あ、私はここの卒業生で村井響歌です。あの、体育の青山先生ですよね? 私の事覚えてませんか?』


  『…覚えがあるような、ないような…』

青山はしばらく響歌のガン見しながら思い出そうとするも…


  『ごめんなさい、やっぱり覚えてないみたい。それにしてもこの学校の卒業生がここに何か用なの?』

少しショックを隠し切れなかった響歌だが、今はそんなショックを受けている場合ではないと、あのメールの事を青山に話した。
 
 

⏰:11/11/24 14:04 📱:Android 🆔:vAQlkjmo


#677 [輪廻]
 
 
  『それが…この体育倉庫なのね?』

話し終えると青山は納得した表情を見せた。


響歌『それで、一緒に中を見てもらえませんか?』


  『いいわよ。じゃあ鍵を持ってくるから少し待ってて』

そう言って青山は駆け足で出ていった。


響歌『(ナナ…今助けるから…無事でいて)』

心の中でそう何度も無事を祈る―
 
 

⏰:11/11/24 14:07 📱:Android 🆔:vAQlkjmo


#678 [輪廻]
 
 
しばらくして鍵のチャリンという音を鳴らしながら青山が戻ってきた。


  『さ、これで』

鍵を渡された響歌が早速、体育倉庫の扉を開けるー


響歌『ナナ!』

中に踏み込んで周りを見回すと…そこには七瀬どころか人、一人いない。


響歌『誰も…いない?』

それほど広くない体育倉庫を隅々まで見たが七瀬や、人がいたかもしれない痕跡など一切見つからなかった。
 
 

⏰:11/11/24 14:09 📱:Android 🆔:vAQlkjmo


#679 [輪廻]
 
 
  『誰もいないみたいね…』

青山が首をかしげながら不思議そうな顔で言う。


その場でしばらく呆然と立ち尽くしていると、外からバタバタと何人かが走ってくる足音がし…


そこに現れたのは…蓮と、その父親、警官の3人だった。


蓮『村井! 井本は!?』


響歌『誰もいなかった…』


蓮『なんてこった…。一体どこに行ったんだよ!』

念のためと警官に改めて倉庫内を調べてもらったが、七瀬に関する手がかりは何も見つからず…教師の青山を除いた4人は一度中学校を出た。
 
 

⏰:11/11/24 14:12 📱:Android 🆔:vAQlkjmo


#680 [輪廻]
 
 
  『とにかく何もなくて安心しましたよ。ただのイタズラでしょう…って、あなたはあの時の!』

響歌の顔を見た警官が言う。


響歌『…え?』

まさかあの男なのかと思ったが、顔も声も似ても似つかないので内心ホッとしてから改めて警官の顔を見つめた。


響歌『……あ』


蓮『え、何? また知り合いなの? お前どんだけ警官の知り合いがいんだよ』

響歌と警官を交互に見てから少し呆れたように言う蓮。
 
 

⏰:11/11/25 11:35 📱:Android 🆔:67PQu/8w


#681 [輪廻]
 
 
響歌『あ、うん。前にね私の住んでるアパートでバイト先の先輩だった人の事でちょっとあって…』


蓮『この人は大丈夫なんだろうな?』

警官を凝視しながら言い、思わず身構えるような体勢をとったが


響歌『だ、大丈夫だよ。前は怒られちゃったけどね』


蓮『…ならいいけど』

視線を反らし頬をポリポリと掻きながら言う。


  『では私はこれで』

警官は軽く敬礼をすると、門の前に停車していたパトカーに乗り込み、その場を去っていった。
 
 

⏰:11/11/25 11:41 📱:Android 🆔:67PQu/8w


#682 [輪廻]
 
  
蓮『で…どうする?』

パトカーを見送った蓮が振り向きざまに問う。


響歌『…7時になったらまた来る。それまでは一人でいさせて…』


蓮『大丈夫か? デスネットの局員がいつお前の所に現れるかわからないぞ?』


響歌『うん、怖いけど…ちょっと頭の中整理したいから…』


蓮『…そっか。じゃあ7時なったらこの校門の前で待ち合わせな』

響歌は一人で、蓮は父親の方をチラリと見てから一人と、3人バラバラでその場を後にした。
 
 

⏰:11/11/28 01:53 📱:Android 🆔:eTVAsnjM


#683 [輪廻]
 
 
響歌『まだあるかな…』

呟きながら響歌が向かった場所は、5年前に出会った高校生、黒川奈穂が住んでいた家だった。


あの晩の出来事以来一度も行く事がなかった場所。


あれから5年、どうなっているのかを確認したかったのである。


その次に向かう場所も決まっていた。


記憶だけを頼りに住宅街を進む。


ここらへんだ、と思った所で足を止め周りを見る。
 
 

⏰:11/12/03 21:17 📱:Android 🆔:J1uuGu7.


#684 [輪廻]
 
 
しかしそこには真新しい家が立ち並ぶばかりで、5年前とは全く違う景色が広がっていた。


改装でもしたのかもしれないと、その辺の家の表札を一つ一つ見ながら歩く。


だが結局見つける事はなかった。


諦めて、現在どこかで拘束・監禁されている井本七瀬の家へ向かおうとした時、とある家の庭先で植木の手入れをしているおじさんが目に入る。


その顔をよく見ていると、なんだか見覚えがあるように思えてきて、気がつくと響歌の足はそのおじさんの元へと向かっていた。
 
 

⏰:11/12/03 21:19 📱:Android 🆔:J1uuGu7.


#685 [輪廻]
 
 
近づいて声をかけようとしたが、その前におじさんの方が響歌にいち早く気がつき、話しかけてきた。



  『ありゃアンタは…』

おじさんはそう言ってしばらく響歌の顔をじっと見つめ…


そして言った―


  『……誰だい?』


響歌『…………』

2人の間に少しの沈黙が続く。
 
 

⏰:11/12/03 21:23 📱:Android 🆔:VYuta37U


#686 [輪廻]
 
 
響歌『あ、あの…ちょっと聞きたい事があるんですけど…』

無理矢理話題を変えるように聞いた。



  『はあ、なんでしょ?』


響歌『この辺に佐伯さんというおばあさんが住んでいる家はありませんか?』

響歌の質問に、呑気そうな顔のおじさんの表情が一瞬にして真顔へと変わった。


  『ああ佐伯のばあさんね…。あまりこんな事言いたくはないが、いつからか精神に異常をきたしてしまって、いわゆる精神異常者になったと聞いてるよ』


響歌『そんな…』


  『ちなみに家はもうないよ。何年も前に取り壊されちゃったから』

その事実を聞いた響歌は愕然とする他なかった。
 
 

⏰:11/12/03 21:28 📱:Android 🆔:d9g0KFLk


#687 [輪廻]
 
 
響歌『それで栄さんは? もしかして…』

聞くのが怖かったが、口が勝手に動いていた。


  『ああ心配はしなくて大丈夫だよ。死んだ訳じゃないから』

さっきまでの真顔が消えたおじさんは今度はあははと笑い出しながら答えた。


響歌『…………』

そんな不謹慎な言動に、5年前に会ったおじさんはやはりこの人だと確信する。


頬をひっぱたきたい気持ちを抑えつつ、響歌は更に質問を続けた。
 
 

⏰:11/12/03 21:32 📱:Android 🆔:CO5cPd9o


#688 [輪廻]
 
 
響歌『家は取り壊されたって言ってましたよね? じゃあ栄さん達はどこに行ったんですか?』


  『んーとね…孫の奈穂ちゃんという子のお母さんは知らない男の人とどこかへ引っ越してったみたいだよ。ばあさんの方は知らないねぇ…。で、アンタはなに、ばあさんの知り合いかなんかかい?』


響歌『あ、いえ…そういう訳では』


  『あ、そう。まぁ家がなくなった訳だからアパートかどこかでひっそりと暮らしてると思うよ』

おじさんは再び笑いながら言うと、腰を抱えながら自分の家へと帰っていった。
 
 

⏰:11/12/03 21:40 📱:Android 🆔:CO5cPd9o


#689 [輪廻]
 
 
5年前に、一緒に住んでいた孫の黒川奈穂が謎の男達に殺害され、いつしかその母親も家から出ていった。


今も一人きりで寂しく暮らしていると思うと胸が切なくなってくる響歌。


だが彼女の居場所がわからない以上、どうする事もできない。



響歌『精神…異常…か。え、精神異常?』

おじさんの家の庭を後にし、七瀬の家に向かっている最中、その言葉が心にひっかかった。


響歌にはなんとなく覚えがあるような気がしたからだ。


何日前…いや何ヵ月も前にそのような精神に異常をきたした者に関わった心当たりが―

 
 

⏰:11/12/03 21:43 📱:Android 🆔:CO5cPd9o


#690 [輪廻]
 
 
しかしそのひっかかったものが喉元まで来ているというのに、そこからつかえて思うに思い出せなかった。


その事を思い出そうとしながら歩いていると、やがて七瀬の家が目に入る。


早く七瀬の事を家族に知らせなければとドアの方に駆け寄ってインターホン押す。


しばらくしてドアの向こうからバタバタと足音がして、ドアが開かれ七瀬の父親が姿を現した。


  『誰ですか、今ちょっと取り込んでて…』

父親のとても焦った様子を見た響歌は、すでに七瀬の事を知っているんだと悟ったわ。
 
 

⏰:11/12/03 21:47 📱:Android 🆔:1CJ.kMZk


#691 [輪廻]
 
 
響歌『あ、あの私、ナナ…七瀬の友達の村井響歌というんですが…』


  『七瀬の…?』

名前と七瀬との関係を言うと、父親の肩の力が抜けると同時に焦りの表情が少しずつ消えた。


響歌『七瀬の事聞いてますか?』


  『…という事は君も? なら話が早い。ちょっとあがってください』

そう言って七瀬の父親は響歌を家の中に招き入れた。
 
 

⏰:11/12/06 01:26 📱:Android 🆔:qM0P5oK6


#692 [輪廻]
 
 
居間へと通され、響歌に缶コーラを差し出すと、早速話を始めた。


 『実はお昼の12時頃、家に知らない女の人から電話がかかってきたんですよ。
用件を聞いて驚きました』

ここまで言うと一旦息をのんで、付け加えるように続けた。


  『女の人は“お前の娘を拘束した。お前の娘は人殺しだ”と、いきなりこう言ってきた訳ですよ』


響歌『ナナが……人殺し?』


  『ええ。もちろん何かのイタズラだとは思ったのですが…しばらくしたら電話口に怯えた声の七瀬が…』


響歌『な、ナナは何か言ってましたか!?』

大きな声を出し、身を乗り出す響歌。
 
 

⏰:11/12/06 01:30 📱:Android 🆔:zBPY2wCg


#693 [輪廻]
 
 
  『いやそれが…よく聞き取れなくて。
デスカメラがどうのこうのとは言っていたような気がするんですが、一体何の事やらサッパリで』


響歌『デスカメラ!?』

再び張り上げた響歌の声に、向こうは少し驚いたように体をピクリとさせつつも聞き返す。


  『もしかしてデスカメラとやらをご存知で? 』


響歌『は、はい。まだ中学生の時に流行っていたカメラで…それで写された人は一週間以内に死ぬと言われていたものです』


  『まさか!そんなカメラがこの世にあると?』


響歌『私も最初は信じてませんでした。
でも、ナナがそのカメラで担任の先生を写して……あ!』

響歌はここで何かを思い出したように口をポカーンとさせた。
 
 

⏰:11/12/06 01:33 📱:Android 🆔:zBPY2wCg


#694 [輪廻]
 
 
  『ど、どうかしたの?』

そんな響歌に、あたふたしながら尋ねる彼。


響歌『七瀬が人殺しというのは…多分、そのデスカメラで撮られた担任の先生が死んだからだと思います』


  『ああ…それなら知ってますよ。
でもそれは確か交通事故が原因と聞いてるけど…』


響歌『そうですけど 、事故はデスカメラで撮られた後に起こったので、電話の人も、七瀬が人殺しだと思ったんじゃないでしょうか…?』


  『う〜ん、僕には到底信じられないんだけども…』

七瀬の父は腕を組んで難しい顔をし、考え込みはじめた。
 
 

⏰:11/12/06 01:37 📱:Android 🆔:zBPY2wCg


#695 [輪廻]
 
 
そんな響歌も、差し出された缶コーラに一度も手をつけずに考え込む。


刻々と時間が過ぎていく。


最初に沈黙を破ったのは七瀬の父。


  『そうだ! 警察に連絡しましょう! これは立派な誘拐事件なのだから、さすがの警察も動いてくれるでしょう!』

よほど娘の事が心配なのか、少々鼻息を荒くしながら言う。


響歌『でも…そういうのって警察に言ったら逆に危ないと思います。
あの、ナナの事は私に任せてくれませんか?』

そう言って昼間響歌の携帯電話に届いたメールを彼に見せた。
 

⏰:11/12/06 01:40 📱:Android 🆔:WPLx6m3c


#696 [輪廻]
 
 
  『これは…七瀬!』

文章を見た後に、添付された、拘束されている七瀬の画像を見た父はかなり驚いた様子で、思わず片手に持っていた響歌の携帯電話を床に落とす。


響歌『だ、大丈夫ですか?』


  『やっぱり警察…警察に電話しよう!』

そう言って動揺する彼は、背後の棚に置かれた電話の子機に手を伸ばしたが、それを響歌はとっさに電話のある棚の前に立ちはだかって阻止した。


響歌『おじさん落ち着いてください!』


  『落ち着いてなどいられるか! 娘が誘拐されたんだ!』


響歌『その七瀬を今まで放っておいたのは誰ですか!?』

響歌のその一声で、彼は伸ばしていた手をゆっくりと引っ込めた。
 
 

⏰:11/12/06 01:43 📱:Android 🆔:WPLx6m3c


#697 [輪廻]
 
 
数分して、なんとか落ち着きを取り戻した彼に、響歌はホッと胸を撫で下ろしてから再び話をはじめた。


響歌『ナナは高校を中退してから家を出て行ったんですよね? 一体何があったんですか?』


  『七瀬は…高校2年生までは普通のよい娘だった。
だけどある時、通っている学校の先輩の恋人ができたと言って一度だけ家に連れてきた事があるんですよ。
でもその男は、七瀬とは全く釣り合いそうもないチャラチャラとした感じの男だった。
当然、僕と妻は反対した。
それからですよ、七瀬が変わっていったのは…。
高校も途中で辞めてしまってからは、深夜遅くになっても家に帰らない事が多くなって』


響歌『結局、最後まで2人の交際は認めなかったんですか?』


  『ええ。相手があんな男じゃ七瀬は幸せになれない…そう思いました。
何度も何度も反対し続けた結果、ある日突然、出ていくと言って家を飛び出して行ったわけです』


七瀬の話を聞いた響歌の目からは涙がこぼれていた。
 
 

⏰:11/12/06 01:57 📱:Android 🆔:Z9IqkvF6


#698 [輪廻]
 
 
響歌『どうして人を見た目で判断するんですか…?
ナナはナナで十分幸せだったはずなのに…』


  『ああ…反省していますよ。
僕も妻もつまらない意地を張っていたんだと。
だから一刻も早く誘拐犯の元から助け出して謝りたい』


響歌『私もナナの友達として助けたいです。
だからお願いがあります。
警察には連絡しないでください』


そう言うと、頭を深く下げた。


  『でも、君一人でどうやって…』

当然の疑問をぶつける彼に対して響歌は頭をゆっくりと上げ、真剣な顔で彼を見つめて言った。


響歌『その誘拐犯には心当たりがありますから。
…ナナは必ず助けます。
だから、おじさんはここでナナの帰りを待っていてください』


響歌の覚悟は決まったー
 
 

⏰:11/12/06 02:01 📱:Android 🆔:Z9IqkvF6


#699 [輪廻]
 
 
午後6時50分ー


辺りはすでに薄暗く、道には仕事帰りらしき男女が忙しなく行き交っている。


そんな人通りを抜け、響歌は中学校へと急ぐ。


やがて校門が見えてくると、その前には既に蓮の姿があった。


響歌『蓮!』


蓮『おお、村井』

小走りで蓮の元に駆け寄る。


響歌『ごめん…待たせちゃって』


蓮『いや俺もさっき来たばっか。
それよりお前どこ行ってたの?』


響歌『うん、ナナの家。
ナナのお父さんと約束してきた。
絶対助けるって』

2人は同時に校舎を見る。

時間は指定の午後7時を少し過ぎた所だったー
 
 

⏰:11/12/06 02:32 📱:Android 🆔:wzxJ86gw


#700 [輪廻]
 
 
蓮『裏から行こうぜ』


響歌『うん』

2人は静かな足音で裏口へと回った。


鍵は開いていたので、靴のまま中へと入る。


昼間来た時とは雰囲気がまるで違うように感じた。


蓮『村井、体震えてるけど大丈夫?』

暗く静かな廊下だが、蓮の小声は大きく響くように聞こえた。


響歌『だ、大丈夫…。
暗い所が苦手なだけだから…』


やがて体育館の扉が見えてきた。

蓮がそっと扉に手をかけると…


蓮『鍵…開いてる。よし行くぞ』

そのまま片手で扉を開けたー
 
 

⏰:11/12/06 02:48 📱:Android 🆔:y67ie0Q.


#701 [輪廻]
 
 
体育館内は暗闇に包まれている。


蓮『電源ってどこだっけ? 何も見えね』


響歌『確かあっち側だったような…』

入り口近くの壁から手探りしながら左方向へと進む。


響歌『あ、これかも』

4つほど並んだ小さなレバー型のスイッチを見つけ、それを全て上に引き上げた。


館内に少しずつ明かりが点いてくる。


蓮『早く体育倉庫に行こうぜ』


響歌『ナナ…!』

2人は奥にある体育倉庫へと走った。
 
 

⏰:11/12/06 12:41 📱:Android 🆔:RnKB4e/I


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