2年A組
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#101 [我輩は匿名である]
雨の中、傘をさして向かいのマンションから出てきた男性。

「うっちー…?」

ジャケットのポケットに手を入れ、どこかに出かけていく誠の姿を、彩はじっと目で追う。

「彩?内村君がどうかしたの?」

「え、ううん。どっか行くみたいだったからさ。…大丈夫かな」

周りでこのような事件が起きている中、1人で出かけるには危険すぎる。彩は不安そうに、離れていく誠の背中を見つめる。

「彩って、本当内村君好きだよね」

春香のその言葉に、彩は思わずきょとんとする。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#102 [我輩は匿名である]
「はぁ!?」

「だってそうじゃん。今もじーっと見てるんでしょ?内村君の事」

「みっ、見てないよ!」

「嘘。絶対見てたね、その慌てっぷり」

春香がからかうように笑う。

「内村君のどこがいいの?ほとんど笑わないし、『話しかけるな』ってオーラ出しまくりじゃない?」

「そうでもないよ?そんなオーラ出てるかなぁ」

彩は「うーん」と首をかしげる。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#103 [我輩は匿名である]
「女子はみんな怖いって言ってたよ?たまに『かっこいい』って言ってた子もいたけど」

春香の心の底からの疑問を聞きながら、彩は幼いころの事を思い出した。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#104 [我輩は匿名である]
「うっちー?」

まだ小学校低学年だった頃。あの日も今日のような雨だった。

学校の帰り道、一緒に帰っていた誠が、ふと足を止める。

その視線の先には、道路の端にぽつんとある黒い影。

誠は何も言わず、それに近づいていく。彩もまた、興味津々でついていく。

しかし、それが何なのかわかった時、彩はついてきたことを後悔した。

それは、車に轢かれたらしい子猫の死体だった。

「…かわいそう」

動かない子猫を見て、誠はぽつりとつぶやく。

⏰:11/11/04 16:23 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#105 [我輩は匿名である]
「…そうだね」

悲しそうな誠を見て、彩も目を伏せる。

「…俺、お墓作ってあげる」

少しして誠が言った。彩は驚いた。しかし、すぐに彩も「うん。私も手伝う!」と大きく頷いた。

そんな彩を見て、誠はちょっと嬉しそうに笑った。

今と比べて、幼いころの誠はよく笑っていたと、彩は思う。

彩が誠の傘も手に持ち、誠が濡れないように頑張って2本の傘を支える。誠は小さな体で、重たい子猫の体を抱える。

家の近くの公園の隅に埋めてあげよう。そういう話に決まった。

何歩か進んだとき、背後から声がした。

⏰:11/11/04 16:23 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#106 [我輩は匿名である]
「うわ!きったな〜い!!」

2人はびっくりして振り向く。そこには、他の女子とは違うピンクのランドセルを背負った小松千佳と、彼女に従う女子たちが意地の悪そうな笑みを浮かべて立っていた。

「何あれ?」

「げぇっ!ネコだよ!ネコの死体!内村君と塩見さん、気持ち悪〜」

「ネコが死んでるのの何が気持ち悪いんだよ!」

カッとなったらしく、誠が声を荒げた。同感だった彩も、腹を立てて彼女たちをにらみつける。

「こわっ。行こ行こ!」

「明日みんなに言わなくちゃ!」

そう言って、その女子たちは笑って走り去っていった。

⏰:11/11/04 16:24 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#107 [我輩は匿名である]
何も悪いことをしていないのに、まるで後ろ指を指されたような感じがして、彩の目に涙がこみ上げてくる。

「…塩見、嫌なら帰っていいよ」

泣きそうな彩を見て、誠が声をかける。

しかし、それでは彼女たちに負けた気がして、彩は大きく首を振った。

「…じゃあ、行こ」

2人はそれから何も言わずに公園へ行って子猫を埋め、少し太くて長い木の枝を土に挿して帰った。

⏰:11/11/04 16:24 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#108 [我輩は匿名である]
その次の日、早くも、2人が子猫の死体を埋めた話が教室中に回っていた。

目が合うとすぐに逸らしてしまう子や、こちらを見ながらこそこそと話をする子ばかりだった。

彩はおそるおそる、隣にいる誠を見る。

しかし、誠は冷めた表情で、何も言わずに自分の席に着いた。

⏰:11/11/04 16:25 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#109 [我輩は匿名である]
そんな話はすぐに忘れられ、学年が変わる頃には、彩の周りに今まで通り友達が集まっていた。

誠が他の人間と距離を置くようになったのは、おそらくそれからだ。

しかしそれでも、龍也のように心を許した相手とは、よく接しているように思う。

彼を変えたのもまた、小松千佳だったのかもしれない。

⏰:11/11/04 16:25 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#110 [我輩は匿名である]
「彩?」

話の途中だったのに気づき、彩はハッと、いつの間にか下がっていた頭を上げる。

「ごめん、…なんだっけ?」

「もー。何かあったのかと思っちゃうじゃん」

「ごめんごめん!…昔の事、思い出しちゃって」

「昔の事?」

中学から友達になった春香は、この話を知らない。

彩はまだ誰にも話した事のないこの話を、初めて春香に聞かせた。

「へぇ…そんな事があったんだ」

⏰:11/11/04 16:26 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


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