2年A組
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#101 [我輩は匿名である]
雨の中、傘をさして向かいのマンションから出てきた男性。

「うっちー…?」

ジャケットのポケットに手を入れ、どこかに出かけていく誠の姿を、彩はじっと目で追う。

「彩?内村君がどうかしたの?」

「え、ううん。どっか行くみたいだったからさ。…大丈夫かな」

周りでこのような事件が起きている中、1人で出かけるには危険すぎる。彩は不安そうに、離れていく誠の背中を見つめる。

「彩って、本当内村君好きだよね」

春香のその言葉に、彩は思わずきょとんとする。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#102 [我輩は匿名である]
「はぁ!?」

「だってそうじゃん。今もじーっと見てるんでしょ?内村君の事」

「みっ、見てないよ!」

「嘘。絶対見てたね、その慌てっぷり」

春香がからかうように笑う。

「内村君のどこがいいの?ほとんど笑わないし、『話しかけるな』ってオーラ出しまくりじゃない?」

「そうでもないよ?そんなオーラ出てるかなぁ」

彩は「うーん」と首をかしげる。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#103 [我輩は匿名である]
「女子はみんな怖いって言ってたよ?たまに『かっこいい』って言ってた子もいたけど」

春香の心の底からの疑問を聞きながら、彩は幼いころの事を思い出した。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#104 [我輩は匿名である]
「うっちー?」

まだ小学校低学年だった頃。あの日も今日のような雨だった。

学校の帰り道、一緒に帰っていた誠が、ふと足を止める。

その視線の先には、道路の端にぽつんとある黒い影。

誠は何も言わず、それに近づいていく。彩もまた、興味津々でついていく。

しかし、それが何なのかわかった時、彩はついてきたことを後悔した。

それは、車に轢かれたらしい子猫の死体だった。

「…かわいそう」

動かない子猫を見て、誠はぽつりとつぶやく。

⏰:11/11/04 16:23 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#105 [我輩は匿名である]
「…そうだね」

悲しそうな誠を見て、彩も目を伏せる。

「…俺、お墓作ってあげる」

少しして誠が言った。彩は驚いた。しかし、すぐに彩も「うん。私も手伝う!」と大きく頷いた。

そんな彩を見て、誠はちょっと嬉しそうに笑った。

今と比べて、幼いころの誠はよく笑っていたと、彩は思う。

彩が誠の傘も手に持ち、誠が濡れないように頑張って2本の傘を支える。誠は小さな体で、重たい子猫の体を抱える。

家の近くの公園の隅に埋めてあげよう。そういう話に決まった。

何歩か進んだとき、背後から声がした。

⏰:11/11/04 16:23 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#106 [我輩は匿名である]
「うわ!きったな〜い!!」

2人はびっくりして振り向く。そこには、他の女子とは違うピンクのランドセルを背負った小松千佳と、彼女に従う女子たちが意地の悪そうな笑みを浮かべて立っていた。

「何あれ?」

「げぇっ!ネコだよ!ネコの死体!内村君と塩見さん、気持ち悪〜」

「ネコが死んでるのの何が気持ち悪いんだよ!」

カッとなったらしく、誠が声を荒げた。同感だった彩も、腹を立てて彼女たちをにらみつける。

「こわっ。行こ行こ!」

「明日みんなに言わなくちゃ!」

そう言って、その女子たちは笑って走り去っていった。

⏰:11/11/04 16:24 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#107 [我輩は匿名である]
何も悪いことをしていないのに、まるで後ろ指を指されたような感じがして、彩の目に涙がこみ上げてくる。

「…塩見、嫌なら帰っていいよ」

泣きそうな彩を見て、誠が声をかける。

しかし、それでは彼女たちに負けた気がして、彩は大きく首を振った。

「…じゃあ、行こ」

2人はそれから何も言わずに公園へ行って子猫を埋め、少し太くて長い木の枝を土に挿して帰った。

⏰:11/11/04 16:24 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#108 [我輩は匿名である]
その次の日、早くも、2人が子猫の死体を埋めた話が教室中に回っていた。

目が合うとすぐに逸らしてしまう子や、こちらを見ながらこそこそと話をする子ばかりだった。

彩はおそるおそる、隣にいる誠を見る。

しかし、誠は冷めた表情で、何も言わずに自分の席に着いた。

⏰:11/11/04 16:25 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#109 [我輩は匿名である]
そんな話はすぐに忘れられ、学年が変わる頃には、彩の周りに今まで通り友達が集まっていた。

誠が他の人間と距離を置くようになったのは、おそらくそれからだ。

しかしそれでも、龍也のように心を許した相手とは、よく接しているように思う。

彼を変えたのもまた、小松千佳だったのかもしれない。

⏰:11/11/04 16:25 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#110 [我輩は匿名である]
「彩?」

話の途中だったのに気づき、彩はハッと、いつの間にか下がっていた頭を上げる。

「ごめん、…なんだっけ?」

「もー。何かあったのかと思っちゃうじゃん」

「ごめんごめん!…昔の事、思い出しちゃって」

「昔の事?」

中学から友達になった春香は、この話を知らない。

彩はまだ誰にも話した事のないこの話を、初めて春香に聞かせた。

「へぇ…そんな事があったんだ」

⏰:11/11/04 16:26 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#111 [我輩は匿名である]
「うん。多分、うっちーをみんなが『怖い』って思うようになったのは、それからだと思う」

「まぁ、そりゃね…。小松さん、そんな時からすでに問題児だったんだね。…なんか、殺されても仕方ない気がしてきた…」

彩は少し黙り込む。こんな事を言ってはいけないのかもしれない。しかし、春香になら言える気がした。

「…私ね、小松さんが死んだって聞いた時、……正直…いい気味って思った」

今までずっと心に秘めていた感情。口にすることはないと思っていた。

何もしていないのに後ろ指を指され、噂され、彼女のせいで誠も変わってしまった。

今の誠が嫌いなわけでも、そこまで『変わったな』と思う事もない。しかし、もしあの一件がなかったら、誠は今頃、友人に囲まれる明るい性格だったかもしれない。

そう思うと、彼女が憎かった。

⏰:11/11/04 16:27 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#112 [我輩は匿名である]
言ってから、しばらく春香から返事の言葉は発せられなかった。

「…ごめん、嫌な事言ったね。忘れて」

彩はいつものように明るい声でそう訂正する。

「なんか、暗い話しちゃったね。今度はちゃんとした話しよ!…じゃあ、またね」

春香からの返事が怖くて、彩は一方的にそう言って電話を切った。

しばらく、胸に残るもやもやを感じながらベッドに座り込む。

静かになった携帯電話を見つめる。何気なくそれを見る彩の目に、携帯電話が表示する『14:53』の文字が映る。

しばらくして、今度は違う人物に電話を掛けた。

⏰:11/11/04 16:27 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#113 [我輩は匿名である]
「もしもし」

5回ほど呼び出し音が鳴って、誠が電話に出た。

「…うっちー?」

「俺にかけてきてるんだから、わざわざ聞くなよ」

いつも通りの誠の声を聴いて、何だか肩の力が抜けた気がする。

「何だよ」

「さっき、出かけるのが見えたからさ。…どこ行くのかなぁと思って」

「……別に」

誠は短く答える。

⏰:11/11/04 16:28 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#114 [我輩は匿名である]
彩はムッと頬を膨らます。

「せっかく心配して電話かけてあげたのに、冷たいなぁ」

「電話かけてほしいなんか言ってないぞ」

「きーっ!むかつく!」

「はぁ?何なんだよ…。用がないなら切るぞ」

「あっ待って!」

本当に切られる気がして、彩は声を上げる。誠のため息が、スピーカーから漏れてくる。

「…あの…」

「何」

⏰:11/11/04 16:28 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#115 [我輩は匿名である]
「…気を付けてね。ちゃんと帰って来てよ」

彩は少し下を向いていった。受話器から、今度は鼻で笑うのが聞こえてきた。

「お前、俺がそんなすぐ死ぬと思ってんのか?」

「わからないじゃん。誰が狙われてるのかわからないのに」

「心配しなくても、俺は死なねぇよ。…じゃあな」

あ。彩が声を出す前に、電話が切れてしまった。

その自信はどこからくるんだ。一瞬呆れたが、むしろそれを聞いて少し安心した。

彩はちょっとだけホッとして、携帯電話を机に置いた。

⏰:11/11/04 16:29 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#116 [我輩は匿名である]
その日の夜21時頃。家族とともにテレビを見ていると、家の固定電話がけたたましくなり始めた。

母親が立ち上がって受話器を手にする。

彩がなんとなくその様子を見ていると、少しして、母親の顔から血の気が引いていくのがわかった。

驚いて、彩も電話の親機のもとに歩いていく。

「…彩」

「…何?」

「同じクラスに、小山凛ちゃんっていたわよね…?」

「いるけど…どうかしたの?」

⏰:11/11/05 21:49 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#117 [我輩は匿名である]
「……さ…刺されたって…」

彩は自分の耳を疑った。

「刺された…?」

その言葉だけを繰り返す。

ショックも大きいが、彩の中で、恐怖が一気に膨らんだ。

この高校の生徒も、とうとう狙われ始めた。そう思うと、体が小刻みに震えだす。

「…幸い、たまたま通った人がすぐに通報してくれたみたいだから、けがで済んだそうよ」

電話を終え、母親が彩に言う。

⏰:11/11/05 21:49 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#118 [我輩は匿名である]
「…犯人は…?」

彩は俯いたまま尋ねる。

「まだ…捕まってないそうよ」

「…そんな…」

彩はふらつき、壁にもたれかかる。そのまま、よろよろと歩きながら自分の部屋に入り、ドアにもたれて座り込んだ。

なぜ、今回は凛だったのか。犯人はいったい何がしたいのか。彩の頭の中で、いろんな疑問が浮かんで巡る。

ふとベッドに目をやると、無防備にぽんとおかれた携帯電話が見えた。

⏰:11/11/05 21:50 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#119 [我輩は匿名である]
彩は素早くそれに駆け寄り、南里に電話を掛ける。

1分ほど粘ると、呼び出し音が止まった。

「はい」

「あの…この間警察署でお話しした、塩見彩です」

「…あぁ、この間はありがとうございました」

南里はご丁寧に礼を言う。

「いえ…。そんな事より、凛ちゃんが刺されたって、本当ですか?」

彩の問いに対し、南里のため息が聞こえてくる。

⏰:11/11/05 21:51 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#120 [我輩は匿名である]
「えぇ。誰に聞いたんです?」

「連絡網で回ってきました」

「そうですか…」

「いつですか?いつ、どこで?」

彩は畳み掛けるように問い詰める。

「今日の昼過ぎです。15時前じゃないかと。場所は中央公園です」

南里は淡々と答えた。ここで隠しても、どうせ報道でばれると思ったのだろう。

⏰:11/11/05 21:51 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#121 [我輩は匿名である]
彼女の答えに、彩はある事を思い出した。

「15時頃…」

春香と電話し終わった時、彩の携帯電話が示していた時間は、確か14時53分。その時間にどこかへ出て行った誠。

ありえない。彩は、なぜその考えに至ったのか、自分でも理解できなかった。

「…塩見さん?」

急に黙り込んだ彩を心配して、南里が声をかける。

「え?あ、すみません。…何でも…ありません」

「…あなた、何か知ってるの?」

⏰:11/11/05 21:52 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#122 [我輩は匿名である]
南里の口調が変わる。彩はドキッとし、体を硬直させる。

「…何も知りません」

「…そう。もし何かあったら、どんな小さなことでもいいから必ず教えてください。…必ず、ね」

南里はそう念を押す。

「…わかりました」

「ありがとうございます。…それでは失礼します」

南里は忙しいのか、すぐに電話を切った。

彩は思った。“今ので、今後きっとマークされる”、と。

⏰:11/11/05 21:53 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#123 [我輩は匿名である]
それは…?

彩は思い切って、『発信』のキーに指を置いた。

自分で確かめれば済むことだ。彩は心に決め、電話を耳にあてる。

「もしもし」

いつもと変わらない誠の声がする。

「…あのさ…」

彩は深呼吸しながら口を開く。

「凛ちゃんの事…聞いた?」

⏰:11/11/05 21:54 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#124 [我輩は匿名である]
「あぁ…さっき連絡網で回ってきた」

「…そっか。でも、何で中央公園なんかで…」

「…中央公園?」

「うん。さっきあの女の刑事さんに聞いた」

「…ふうん…」

誠は、まるで何かを考え込むように低い声で返事を返す。

「…それでさ」

彩はまだドキドキしながら本題に入る。

「今日のお昼、…どこ行ってたの?」

⏰:11/11/05 21:55 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#125 [我輩は匿名である]
「…あぁ、お前が電話かけてきた時か。……散歩」

「絶対嘘だよね」

「…まぁ…。…今は言えない」

予想するよりも意味深な答えが返って来て、彩はさらにショックを受ける。

「…どういう事?何で?」

「だから、言えないって言ってるだろ」

「じゃあいつ言ってくれるの!?」

なかなか言わない誠にしびれを切らし、彩はつい怒鳴るように声を上げた。

電話の向こうから、声が聞こえなくなってしまった。

⏰:11/11/05 21:55 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#126 [我輩は匿名である]
ちょっとムキになりすぎた。彩も困り、黙る。

「…明日」

「え?」

「明日言うよ。…これで満足?」

「…うん…」

「…じゃあな」

怒らせてしまっただろうか。電話を手に持ったまま、彩はうなだれる。

どうして自分たちがこんな思いをしなければならないのか。いつまで続くのか。

彩はため息をつき、しばらくそのまま動けなかった。

⏰:11/11/05 22:00 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#127 [我輩は匿名である]
次の日。目を覚ました彩の携帯電話に、誠からメールが届いていた。

『11時に、マンションの公園で待ってる』

「…へ!?」

ボサボサの頭を左右させてようやく見つけた時計の指す時刻は、11時10分。

「ちょっと…無理だって!」

彩は飛び起き、とりあえず着替える。

そして歯を磨き、朝食も摂らないまま家を飛び出した。

彩の住むマンションと誠の住むマンションの間に、小さな公園がある。子どもたちが遊ぶには少々物足りないが、主婦たちがおしゃべりしたり、1人で静かな時間を過ごすにはうってつけの場所である。

息を切らして公園のそばまで来てみると、ベンチに座って誠が待っていた。

⏰:11/11/05 22:04 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#128 [我輩は匿名である]
「なんだろうなぁ?」

2人の頭の間から男の声がした。

そろって素早く振り向くと、無精ひげを生やした40歳くらいの男が笑いながらこちらを見ている。

ほんのり煙草のにおいが漂ってくる。

「何だよ、あんた」

誠がきつく睨みつける。

「こういうモンだ」

男は動じず、ジャケットの胸ポケットから警察手帳を出して2人に見せる。

手帳に書いてある名前は“土谷信一”。

⏰:11/11/05 22:11 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#129 [我輩は匿名である]
不審者だと思っていた2人は、一瞬安堵の息をつく。

しかし、彩はすぐに表情を引き締めた。

「警察の方が何の御用ですか?」

「ちょっとあなたたちに聞きたいことがあってね」

今度は、土谷の背後から南里が現れた。

それも、あの時とは違い、腕を組み、冷たい表情を浮かべて。

「…内村誠くん。あなた…昨日の15時前ごろ、どこにいた?」

「…俺を疑ってるのか?」

2人の会話に、彩も黙っていられなくなった。

⏰:11/11/05 22:12 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#130 [我輩は匿名である]
「ちょっと待ってください!何でうっ…内村君が疑われなきゃならないんですか!?」

「映ってたんだよ。昨日15時過ぎの中央公園の近くの防犯カメラに、こいつの姿がな」

土谷が早くも勝ち誇ったような顔で誠を指さす。

しかし、誠は全くそれに反応せず、じっと土谷を見ている。

「カメラに映ったから何だっていうのよ!」

彩は我慢できなくなって、誠の代わりに反論する。

しかし、自分で言ったその言葉に違和感を覚え、ふと声を押し出すのを止めた。

「防犯カメラ…」

そう。今回の事件「だけ」、防犯カメラに“容疑者”が映った。

⏰:11/11/05 22:13 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#131 [我輩は匿名である]
今までは防犯カメラにさえ犯人らしき人物は映っておらず、捜査が難航していると、テレビのニュースや新聞で目にした。

彩にはそれが、どうしても引っかかる。

「何をしていたの?あの公園付近で」

「あんた達に話すような事じゃない」

「それは私たちが判断します」

「“黙秘権”って知ってるか?」

「…おい、あんまり大人をなめるんじゃねぇぞ」

彩が考え込む横で、誠と、南里と土谷が静かな言い合いを続けている。

⏰:11/11/05 22:14 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#132 [我輩は匿名である]
「あーもううるさい!!!」

3人を無理やり黙らせるように、彩が大声を上げる。おそらく、2棟のマンションにも響いただろう。

急に声をあげられて、3人とも目を丸くする。

「うっちーをいじめる前に、私の質問に答えてください!何で今回だけ犯人が防犯カメラに映ってたんですか?今まで映ってなかったんですよね!?今度の事件だけカメラに映ってるなんて、おかしいと思わないんですか!?

言っときますけど、うっちーは変なところで馬鹿みたいに頭切れるんだから、今までは防犯カメラに映らなかったけど、今回は映っちゃうなんてヘマするようなマヌケじゃありませんから!!」

彩はものすごい剣幕で土谷に食って掛かる。その迫力に、土谷も思わず後ずさる。

⏰:11/11/05 22:15 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#133 [我輩は匿名である]
その後ろでは、彩の主張を聞いてか、南里が深く考え込む。

「……確かに…そう言われてみればそうね…」

「あんた達、本当に警察かよ?もうちょっとよく考えてから出直して来な」

誠もポケットに手を入れて言い返す。

「俺からも1つ聞くけど、中央公園の防犯カメラ見てるんだったら、その近くのショッピングモールの防犯カメラにも、ちゃんと目ぇ通してるんだろうな?」

まるで相手をあざ笑うかのような笑みを浮かべて、誠も反撃に出る。

「ショッピングモール…?」

南里と土谷が、黙って目を合わせる。

ただの高校生2人に指摘されて何も言い返せないようでは、警察の信用を失いかねない。

南里と土谷は苦虫をつぶしたような顔で、無言のまま、傍に止めていたパトカーに乗ってその場を去っていった。

⏰:11/11/05 22:15 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#134 [我輩は匿名である]
「何なのよ!あの2人、もう1回交番のお巡りさんから出直した方がいいんじゃないの!?」

逃げるように走り去ったパトカーを見て、彩が鼻息を荒くする。

彼女のそんな様子を見て、誠は小さく笑った。

「…で、昨日の話だけど」

「…あぁ、そうそう」

2人は気を取り直して、またベンチに座る。

誠は言いにくそうに頭をかいた後、重い口を開いた。

「…これ、買いに行ってたんだよ」

恥ずかしそうに、置いていた紙袋をぽんと彩の膝の上に置く。

⏰:11/11/05 22:16 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#135 [我輩は匿名である]
「何?これ」

袋の中を覗くと、可愛くラッピングされた何かが入っている。

「何なに?プレゼント!?」

彩は目を輝かせて誠に向き直る。

「そりゃ…プレゼントだろ、どう見ても」

もはや恥ずかしさを通り越して顔をひきつらせながら誠が答える。

「でも、何で?」

「何でって…。今日お前の誕生日だろ」

きょとんとしている彩に、呆れて肩を落としながら誠は言った。

⏰:11/11/05 22:24 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#136 [我輩は匿名である]
そう言われて初めて、彩は今日の日付を思い出した。

今日5月25日は、彩の17回目の誕生日だ。

「あ〜っ!そうだ!今日私の誕生日じゃん!!」

「忘れてたのか…?」

「うん!!」

大きく頷く彩に、誠はため息をつく。

「やったぁ!ねぇねぇ、開けてもいい?」

「…家帰ってから開けろよ…」

⏰:11/11/05 22:25 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#137 [我輩は匿名である]
「いいのいいの!」

誠の返事が返ってくるより先に、彩は早速それを取出し、丁寧にラッピングをはがす。

中には、音楽プレイヤーに接続して曲を流すと踊りだす、ぬいぐるみ型スピーカーが入っていた。

「!!!!!」

全く言葉にならない声を上げながら、彩は箱のままそれを抱きしめる。

見るからに幸せそうな彼女の表情に、誠もまた、ほっとしたように笑みをこぼす。

「ありがとー!
こういうの欲しかったんだぁ❤記念すべき1曲目何かけよー?」

「演歌」

「絶対やだ!」

2人はしばらく、そのベンチに仲良く座って楽しそうに話していた。

⏰:11/11/05 22:26 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#138 [我輩は匿名である]
「盲点でしたね」

一方、南里と土谷は苛立ったような顔でパトカーに乗っていた。

「盲点というより、焦りすぎて全然見えてなかった感じだな」

「…そう…ですね」

「悔しそうだな」

「当たり前です!容疑者かと思ってた人間に、しかも普通の高校生に、あんな風に馬鹿にされるなんて」

こういう所は、やはりキャリアらしい。明らかに土谷よりも悔しがっている。

⏰:11/11/07 21:37 📱:PC/0 🆔:V2jgNdus


#139 [我輩は匿名である]
「でも、あの2人の言う事はごもっともだったな。確かに、今回だけ防犯カメラに映ってたのは、おかしいと言えばおかしい」

「…また白紙に戻ってしまいましたね」

「初心に戻っていいじゃねぇか」

「…意味違いませんか?」

「似たようなモンだろ」

2人は気持ちを落ち着かせるように話をしながら、警察署に戻って行った。

⏰:11/11/07 21:37 📱:PC/0 🆔:V2jgNdus


#140 [我輩は匿名である]
月曜日。彩たちが通う高校は、今日から1週間全授業を中止し、凛が事件に巻き込まれたことを受けて、全ての生徒の登校を禁止した。必要時以外の外出も控えるようにと、昨日の連絡網で回ってきた。

ホッとしたような、でも少し残念なような複雑な気持ちで、彩は自室から外の景色を眺める。

凛の様子を見に行きたいが、今はやめておいた方がいいだろう。事件直後という事もあって、面会できないかもしれないし。

そんな事を、ただボーっと考えていた。

「みんな何してるのかなぁ…?」

⏰:11/11/14 21:57 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#141 [我輩は匿名である]
誠は机に向かい、パソコンで調べ物をしていた。

内容は、3年ほど前に騒ぎになっていた、ある事件の容疑者の事。

老若男女構わず何人もの人間を刺殺し、現在も逃亡中の連続殺人鬼。

葛城歩。25歳男性。

わずか半年で被害者は19人。全員死亡している。

彼の潜伏先まで突き止め、接触までできたのに取り逃がしてしまった警察に対し、多くの非難の声が寄せられたことも、よくニュースで取り上げられていた。

その記事1つ1つに目を通していた誠のそばで、携帯電話のバイブが鳴り出した。

⏰:11/11/14 21:57 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#142 [我輩は匿名である]
誠は発信者の名前を確かめ、電話に出る。

「もしもし」

「あー誠ー?元気?」

かけてきたのは司。同様の被害が多く出ているため、彼の高校も休校になっているらしい。

「あぁ、一応な」

「そりゃよかった。この間さぁ、警察に連れてかれちゃって参ったよ」

「2Aは全員連れて行かれて事情聴取されてる」

「らしいね。ったく、もうちょっと他に方法ないのかな?結局その後も小山やられちゃってるし」

⏰:11/11/14 21:58 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#143 [我輩は匿名である]
呆れたように司は言う。

「昨日俺と塩見の所にまた来たんだよ、警察。言い返したら逃げてったけど」

「へ?何で?」

「小山がやられた時に中央公園の近くにいたからな」

「…そりゃ怪しまれるだろ、どう考えても。何してたんだよ」

「…誕生日のプレゼントを買いに」

「あぁ、塩見?お前冷たいフリしてそういう事はちゃんとするよな」

「一応、な」

誠は少し恥ずかしそうにむすっとして答える。

⏰:11/11/14 21:58 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#144 [我輩は匿名である]
「…ところで、進んでる?そっちは」

「今調べてるとこ。お前は?」

「さっぱり。まぁ、俺みたいな一般人がわかるぐらいなら、先に警察が見つけ出してると思うけどな」

「どうだろうなぁ?結構抜けてそうだぞ?防犯カメラもろくに見てねぇ奴らだし」

「…大丈夫なのかな?この国…」

「さぁな」

2人はそろってため息をつく。

⏰:11/11/14 21:59 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#145 [我輩は匿名である]
「またなんかわかったら連絡するよ」

「うん、こっちも。ちゃんと生きといてくれよ?お前狙われそうなキャラだから心配だわ」

「何だよそれ」

「はははっ。じゃあな」

電話はそれで切れてしまった。

相変わらず自由奔放な彼に、誠は小さく笑い、電話を置いてまたパソコンに向き直った。

⏰:11/11/14 21:59 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#146 [我輩は匿名である]
「あー暇暇暇!!」

「皐ちゃん声大きいよ」

皐と美穂も、暇つぶしに電話をしていた。

ストレスがたまっているのか、いつもに増して声が大きい皐に、美穂は真顔で電話を耳から遠ざける。

「いいね、事件に関係してない人は」

美穂は羨ましそうに言う。

「警察に呼ばれたりしないし、びくびくしなくていいし」

「まぁね。ほんと、いつ終わるんだろうね?この事件。マジいい迷惑」

「そうだね…」

⏰:11/11/14 22:00 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#147 [我輩は匿名である]
皐はにやっと笑う。

「みんなの恋愛事情も見れないしねぇ」

「誰の?」

「あんた達だよ!!どこまで鈍感なの!?」

皐に怒鳴られ、美穂はまた受話器を話しながらきょとんとする。

「え?私?彩ちゃんじゃなくて?」

「彩もあるけど!」

「そういえば、皐ちゃんは?好きな人とかいないの?」

美穂がコロッと話を変える。

⏰:11/11/14 22:00 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#148 [我輩は匿名である]
「わ、私は…」

すると、珍しく皐が言葉を濁した。

美穂は首をかしげる。

「私は…ないよ」

「嘘だぁ。皐ちゃんがそんな声出す時は大体怪しいよ」

「…うるさいなぁ」

「何々〜?美穂ちゃんが聞いてあげるよ〜?」

⏰:11/11/14 22:01 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#149 [我輩は匿名である]
美穂は楽しそうに笑う。

「いいよ!…どうせかなわないんだし」

「え?」

「…なんでもない!」

「ふうん…」

変なの。美穂はかなり気になったが、皐の態度を考えると、それ以上は聞けなかった。

⏰:11/11/14 22:01 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#150 [我輩は匿名である]
「何しに来たんだよ」

土谷は腕を組んで睨む。

「だってよー、学校いけねぇと暇でさー」

頭の後ろで手を組んで、つまらなさそうに龍也が言う。

「だからってうかつに出歩いてんじゃねーよ!」

「だって俺関係ねーもーん。そう言うんならさっさと捕まえろよな!」

2人は警察署内でにらみ合う。

「あの…どなたですか?」

静かに、南里が2人の間に割って入る。

⏰:11/11/16 21:36 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#151 [我輩は匿名である]
南里を初めて見る龍也は、目を丸くして彼女を見る。

「あぁ、こいつは俺が面倒見てる寺田龍也」

「どうも」

龍也は急におとなしくなって、ぺこっと頭を下げる。

「そうだったんですか」

「…あんたは?」

「あぁ失礼しました。私は警視庁捜査一課の南里由紀と言います」

⏰:11/11/16 21:36 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#152 [我輩は匿名である]
「(…美人…)」

「おい、鼻の下伸ばしてんじゃねーよ」

「のっ、伸ばしてねーよ!俺にはちゃーんと…」

「ちゃーんと、何だよ?」

土谷にニヤニヤ笑われ、龍也は内心「やべぇ」と口をつぐむ。

「…じゃっ、俺帰るわ」

「あ!?おいこら!」

土谷の声を振り切って、龍也は走って警察署を出た。

⏰:11/11/16 21:36 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#153 [我輩は匿名である]
「(…いや、別に言ってもよかったんだけどな…)」

思わず逃げてしまったが、龍也はふと思う。しかし、何だか急に恥ずかしくなった。

「…あ〜あ、つまんねぇなぁ…」

龍也はポケットに手を突っ込んで、ふと空を見上げてつぶやいた。

⏰:11/11/16 21:37 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#154 [我輩は匿名である]
毎日、そんな日が続いた。退屈で、でも安心な日々。

6日たったこの土曜日も、そんな日になるはずだった。

春香は財布に入れていたCDの予約券を手に、それを眺める。

予約の期限が今日で切れてしまう。本当は学校帰りに買う予定だったのだが、学校に行けなくなってしまい、買いに行くタイミングを完全に失っていた。

「…今日ぐらいいいよね。どうせ明後日からまた学校始まるんだし」

春香は立ち上がり、部屋を出る。

「お母さん!CDだけ買いに行ってきていい?すぐ帰ってくるから!お願い!」

台所で、母親に向かって手を合わせる。

⏰:11/11/16 21:37 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#155 [我輩は匿名である]
母親は少し考えた末、「すぐ帰ってくるのよ?絶対人通りが多いところだけを通りなさい」と了承してくれた。

「ありがとう!行ってきます!」

春香は大喜びし、鞄を持って家を飛び出す。

幸い、ここからCDショップまではそう遠くなく、大通りを通るので安全だ。

春香は久しぶりの外出に、なんとなく心躍らせながら歩く。

ただの買い物でこんなに開放感を覚えたことは、おそらく今までなかっただろう。

無事にCDショップに到着し、念願のCDを買った。

⏰:11/11/16 21:38 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#156 [我輩は匿名である]
「(やっと買えたー♪)」

袋に入ったCDを大事そうに鞄に入れ、店を出る。

そこで、ふとあることを思いついた。

「(…せっかくだし、ちょっとだけ本屋にも行こうかな)」

そういえば、雑誌も買いたかったっけ。春香は迷ったが、どうせすぐそこだし、と歩を進める。

同じ大通りの、少し先に行ったところに本屋はある。

⏰:11/11/16 21:38 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#157 [我輩は匿名である]
土曜日という事もあり、だいぶ混雑している。人をよけながらなんとか歩く。

「(あ、そういえば彩にメール送ろうと思ってたのに、すっかり忘れてた)」

ぼーっとしていると、突然全く関係の無い事を思い出すのは、よくある事である。

この間電話した時には、変な空気で終わり、ずっとそのままだった。

あの時、何て答えればいいのかわからなくて、黙り込んでしまった。きっと、彩は少なからず気にしているだろう。

「(帰ったらメール送ろう)」

そんな事を思っていると、向こうから歩いてきた男性にぶつかりそうになった。

「あっ…すみません」

目の前で止まったため、ぶつかりはしなかった。

⏰:11/11/16 21:38 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#158 [我輩は匿名である]
「こちらこそ」

愛想よく、目の前の黒髪の男性が笑う。

ホッとして、春香も小さく笑い返す。

その直後。

胸元に鈍い痛みを感じた。

春香はどうしたんだろうかと視線を落とす。

そして、自分の目を疑った。

目の前の男性の手が見える。そしてそれに握られているナイフも、それが自分に突き刺さっているのも、そこから溢れ出る赤い液体も。

⏰:11/11/16 21:39 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#159 [我輩は匿名である]
「心配しなくても、心臓に刺さってるからあんまり苦しまずに死ねるよ」

男性がにっこり笑う。

「バイバイ」

そして、素早くナイフを引き抜き、ポケットに入れた。

それ以上何も言えないまま、春香はその場に倒れ込む。

そうなってやっと、周りの人が気付いた。多数の悲鳴が上がり、騒然とし始める大通り。

男性は人の流れに乗り、その場から消えた。

こんなことなら、わざわざCDを予約なんてしなければよかった。期限が切れても、月曜日の学校帰りまで待てばよかった。薄れゆく意識の中で、春香は後悔した。

⏰:11/11/16 21:40 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#160 [我輩は匿名である]
春香ちゃああん(;_;)

⏰:11/11/16 21:45 📱:W62P 🆔:cvuFfvFM


#161 [我輩は匿名である]
彩の携帯が鳴る。ディスプレイを見ると、南里からの電話だ。

「もしもし」

「あ…突然ごめんなさい。南里です」

「こんにちは」

この間の事は水に流すとするか。彩はいつものように挨拶する。

「塩見さん…あなた、長谷部春香さんととても仲が良かったそうね」

南里の声は、どことなく暗く聞こえる。

「え?はい、いつも一緒にいましたけど」

春香がどうかしたのか。彩は首をかしげる。

⏰:11/11/22 19:27 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#162 [我輩は匿名である]
「どうかしたんですか?」

「………亡くなったわ」

南里のその一言に、彩は思わず息を止める。

一瞬、彼女が何を言ったのかわからなくなった。意味が分からなかった。

「…いつ…?」

「今日の昼、13時半頃です」

「どこで?どうして!?」

彩は全然信じられず、ただ何度も問いかける。

⏰:11/11/22 19:27 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#163 [我輩は匿名である]
「…駅前の国道です。歩道で、…胸部を一突きされて」

彩は全身の力が抜け、あやうく携帯電話を落としそうになった。

また事件の被害者が増えた。1人ずつ、自分の周りの人間が消えていく。彩はもう、我慢できなくなった。

「…どこですか?」

「…何がです?」

「…春香がいるところ」

彩は南里から、春香の遺体が近くの警察病院に搬送されたことを聞いた後、すぐに電話を切って家を飛び出した。

⏰:11/11/22 19:28 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#164 [我輩は匿名である]
外に出るのが怖いなど、今はこれっぽっちも思わなかった。

「塩見!」

マンションを出たところで声がした。向かいのマンションを見上げると、3階のベランダから誠が顔を出している。

「どこ行くんだよ?もう暗くなるぞ」

「…春香が…」

「…聞こえないから降りる。ちょっと待ってろ」

誠はそう言うと、いったん姿を消し、すぐにマンションから出てきた。

⏰:11/11/22 19:28 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#165 [我輩は匿名である]
「何て?」

「春香が…春香が、…殺されたって…!」

今にも泣きだしそうな様子の彩に、誠の表情が曇る。

「…いつ?」

「今日、駅前の大通りで…。私、警察病院まで行ってくる!」

「待てよ!」

慌てて走り出そうとする彩の手を、誠がつかんで止める。

「お前、1人で行く気か?“狙ってくれ”って言ってるようなもんだぞ!?」

「でも!」

⏰:11/11/22 19:29 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#166 [我輩は匿名である]
「落ち着けよ!今から走って行ったら暗くなる!…タクシーかなんか拾うぞ」

思わぬ言葉に、彩はきょとんとする。

「え?うっちー…一緒に行ってくれるの?」

「…1人で行かせられないだろ。そんな話聞いちまったら」

「…うっちー…」

今まで張りつめていたような気持ちが緩んだように、彩の目に一気に涙が浮かんできた。

「…泣くなよ。まだ早いだろ。…病院行ってから泣け」

「…うん…」

彩は必死にそれをこらえて、誠と一緒にタクシーを拾って病院に向かった。

⏰:11/11/22 19:29 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#167 [我輩は匿名である]
財布の有り金をはたいて、病院に着くころにはもう暗くなっていた。

時間外の受付から病院に駆け込む彩の前に、意外な人物が現れた。

「…皐ちゃん!」

「彩!?内村君まで!」

廊下でばったり出会った3人は、思わず足を止める。

「何してるの?こんなところで」

「いやぁ、暇だから小山さんのお見舞いでもって思ったんだけどさ。面会断られちゃって」

「そりゃそうだろ。病院なんか誰でも入ってこれるんだぞ」

呆れたように誠が言う。それを聞いて、皐は複雑な顔で視線を外す。

⏰:11/11/22 19:30 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#168 [我輩は匿名である]
「そういう彩たちは?」

「私は…」

「塩見さん」

皐の後ろから、南里の姿が見える。どうやら彩たちを待っていたかのようだ。

「南里さん!」

彩は南里に駆け寄る。一緒についていく誠に、気になる皐もわけもわからずついてくる。

「春香は!?」

「……こっちよ」

南里は多くは語らず、彩たちを案内しようと歩き出す。

⏰:11/11/22 19:30 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#169 [我輩は匿名である]
素直についていこうとする彩の肩を、誠が軽く掴む。

「……大丈夫か?親友の死体見ることになるんだぞ」

「…私はこの目で見るまで信じない」

南里が嘘をつくような人間でないのは、彩も大体知っている。しかし、春香が死んだなんて、どうしても信じたくなかった。

信じるには、自分の目で見てからだ、と。

階段を下り、着いた先は霊安室だった。

ここに来た時点でもう間違いないだろう。誠は思ったが、何も言わずに彩の後ろからついて行く。

⏰:11/11/22 19:30 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#170 [我輩は匿名である]
皐は皐で、“春香”という人物も知らないまま何となくついて来ている。

ある部屋の前で、呆然と長椅子に座り込んでいる、春香の家族がいるのが見えた。

「…彩ちゃん」

春香の母親が気づき、声を漏らす。

「おばさん…」

しかし、春香の母親はそれ以上何も言わず、黙って下を向いた。

南里が立ち止まる。

「…長谷部春香さんは、この先よ」

⏰:11/11/22 19:31 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#171 [我輩は匿名である]
そう言って案内された向こうには、白い、重そうな1つのドア。

彩と誠は、静かにドアを開け、部屋に入る。

2人の前には、よくドラマで見るような、顔に布をかけられて横たわる1体の人間。

彩はしばらくそこに立ち尽くしたが、ゆっくりとそれに近づく。

誠はそれ以上歩を進めようとはしない。ただ、彩の後ろ姿を見つめている。

震える手で、彩はその布をめくる。その瞬間、その頬を一筋の涙が伝った。

少し色白だが、それは、今まで修学旅行や彼女の家に泊まりに行った時に見た寝顔と変わらなかった。

ただ一つ。呼吸をしていない事を除いて。

⏰:11/11/22 19:31 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#172 [我輩は匿名である]
春香の顔を見ていると、まるで自分の時間まで止まったような、奇妙な感覚がして、彩は静かにまた布をかけ直した。

そして、何も言わずにその部屋を出る。

「…南里さん」

「はい」

「…ちょっと…お聞きしたいことがあります」

彩は生気のない顔で言う。

南里はちらりと春香の両親に目をやった後、「場所を変えましょう」と言って、階段を上って再び1階に上がる。

⏰:11/11/22 19:32 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#173 [我輩は匿名である]
「…あぁ、来たんだな」

今度は、南里の足らしい土谷が現れた。

さすがに今回ばかりは、土谷はいつものふざけた態度ではない。

彩は俯いたまま、静かに口を動かす。

「…何なのよ…」

彩の震える声に、南里や土谷、誠、皐は黙って彼女を見る。

すると、彩が急に顔を上げ、険しい表情で南里に掴みかかった。

⏰:11/11/22 19:32 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#174 [我輩は匿名である]
「あんた達何してたのよ!?今まで何人死んでると思ってるのよ!!」

目を真っ赤に充血させて、彩は大声で怒鳴りつける。南里の表情から、驚きと困惑の色が滲む。

「あんた警察でしょ!?警視庁から来たお偉いさんなんでしょ!?だったらさっさと終わらせなさいよ!こんな事件!!

大事な友達がみんな被害にあって!学校にも行けない!自分だっていつ狙われるかわからない!こっちはもう気が狂いそうなの!!毎日毎日怖くて仕方ないのよ!!」

「塩見」

誠が制止に入るが、彩は強くその手を振りほどく。

「何で黙ってるの!?何で捕まえられないのよ!!うっちーを犯人扱いしてる暇があったら、もっと力入れて調べなさいよ!!」

「嬢ちゃん」

今度は土谷が、誠とは違い力強く彩の手をつかみ、南里から引き離す。

⏰:11/11/22 19:33 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#175 [我輩は匿名である]
怒り、恐怖、悲しみ…。いろいろな感情が入り混じって、彩はぼろぼろと泣きながら息を切らす。

しかし、それでも再度、南里や土谷をきつく睨みつける。

「…私はもう、警察なんか信用しない。もうあんた達なんかに頼らない!」

叫ぶように言うと、彩は土谷を突き飛ばして外へと走り出した。

誠たちもそれを追って病院を出て行った。

⏰:11/11/22 19:33 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#176 [我輩は匿名である]
壁にもたれかかったまま、南里は下を向いて黙り込む。

土谷も苛立ったように頭を掻き、ため息をつく。

「…あの子の言う通りですね」

南里は笑って言う。しかし、その目にもうっすらと涙が見えた。

「本当…私は何をしているんでしょうね…。…こんな事では…警視庁捜査一課なんてとても名乗れませんよね」

力なく話す南里に、土谷は何も言えず、ただ黙って彼女を見つめる。

⏰:11/11/22 19:34 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#177 [我輩は匿名である]
「…すみません。…今泣きたいのは、私なんかじゃないのに…」

南里はそう言いながら、何度も涙をぬぐった。

「…そう思うなら、行こうぜ。俺たちには、泣いてる暇なんかねぇよ」

「…はい」

そう言うと、2人は黙って歩き出した。

⏰:11/11/22 19:34 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#178 [我輩は匿名である]
「塩見!」

誠が追いつき、彩を止める。

彩はやっと、脱力したように足を止めた。

「もう嫌だ…」

彩は両手で顔を覆い、泣きじゃくり始めた。

「何でこんな事になっちゃったの…?何で私たちがこんな目に遭わなきゃいけないの!?私たちは何もしてないのに!」

怒りの矛先をどこにも向けることができず、彩はやるせなくなって誠の胸にもたれる。

誠は何も言わずそれを受け止め、黙って泣き続ける彼女をじっと見つめる。

2人の様子を、皐は1人、複雑な気持ちでそれを見た後、音を立てずにその場を後にした。

⏰:11/11/22 19:34 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#179 [我輩は匿名である]
次の日。いまだに何も考えられず、ベッドで膝を抱えて座っている彩のもとに、出かけるような格好をした母親がやってきた。

「彩、お母さんちょっと学校行ってくるから」

「…何で?」

どうして急に。彩は少し顔を上げる。

「緊急の保護者会でね。『いつまで授業を中止したままなのか』って抗議する親が増えてるから、話し合うらしいのよ」

「は…?」

彩は愕然とする。昨日にもあんな事件が起きたばかりなのに、授業うんぬん言っている場合か。

「だから、家から一歩も出ちゃだめよ。終わったらすぐ帰ってくるから」

母親は心配そうにそう言って出かけて行った。

⏰:11/11/24 23:49 📱:PC/0 🆔:Oj25pFvo


#180 [我輩は匿名である]
彩はその親たちの思考が理解できず、憤ったように手を握り締める。しかし、少ししてそれをほどいた。

確かに、皐や龍也のように、事件に関係しない生徒からすれば迷惑な話だろう。その親たちだって、授業が進まないことに怒り出すのも無理はない。

どんどん狂っていく。自分の周りの環境も、人間たちも、自分も。彩はまた、膝を抱える。

どうすればこの事件が終わるのだろう。

ボーっとそればかり考えていると、彩はふと、ある事を思い出した。

『次は誰だと思う?』

いつしか、誠が司と話している時に聞こえた言葉。

⏰:11/11/24 23:49 📱:PC/0 🆔:Oj25pFvo


#181 [我輩は匿名である]
もしかしたら誠は、この事件について何か知っているのかもしれない。

彩は誠に電話を掛ける。

「もしもし」

いつもの声で、誠が電話に出る。

「…うっちーさぁ」

彩は暗い声のまま、単刀直入に言う。

「この事件の事、何か知ってるよね」

「…は?」

急によくわからない質問をされ、誠が思わず聞き返す。

⏰:11/11/24 23:49 📱:PC/0 🆔:Oj25pFvo


#182 [我輩は匿名である]
「どういう意味?」

「ちょっと前、梶浦君と事件の事話してたでしょ?…何か知ってそうだったから」

「別に…何も知らねぇよ」

「『次は誰だと思う?』って、この事件が続く事知ってたじゃない」

彩が言うと、図星だったのか、誠が黙り込んだ。

やっぱり。彩は確信し、彼の返事を待つ。

「…何となく、続きそうな気がしただけだよ」

「“気がした”だけで、あんな真面目そうな顔で喋る?うっちーはともかく、梶浦君があんなに真面目そうに話すのって初めて見たよ?」

⏰:11/11/24 23:50 📱:PC/0 🆔:Oj25pFvo


#183 [我輩は匿名である]
「お前が初めてなだけだろ」

「…何で教えてくれないの?」

彩はより低い声で問い詰める。

「私だって…私だってこんな事件、さっさと終わってほしい…!終わらせれるなら終わらせたい!警察が信用できないなら、私たちが自分でどうにかしなきゃ!私たち、いつ死んじゃうかわからないんだよ!?」

「わかったから、ちょっと落ち着けよ」

焦りからか、どんどん止まらなくなり始めた彩を誠が止める。

誠に言われ、彩はやっと口を閉じる。ここまで口に初めて、自分がここまで追い詰められていたことに気が付く。

以前から恐怖は抱いていたが、春香が亡くなったことで、さらにそれが膨らんできている。

⏰:11/11/24 23:50 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#184 [我輩は匿名である]
「…もう一回言うけど、俺も司も、事件の事は何も知らない。ただ調べてるだけで」

「…何を調べてるの?」

「…誰にも言うなよ。下手すると狙われるかもしれないから」

『狙われるかもしれない』。その一言に、彩は躊躇する。

誰かに言うつもりはないが、どんな情報なのかと思うと、自然と心拍数が上がる。

「…うん」

彩は決心して、大きく頷く。

「…何年か前、この辺で殺人事件があったの覚えてるか?刃物で刺されて十何人かが殺されたやつ」

⏰:11/11/24 23:51 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#185 [我輩は匿名である]
「…そんな事件あった?」

「あった。…今、家か?」

「え?うん」

「…俺の家来れるか?電話だとめんどくさい」

「…大丈夫かな」

「防犯カメラの前では事件は起こらない」

「…そっか。…じゃあ、行く」

「エントランスで待ってるから」

⏰:11/11/24 23:51 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#186 [我輩は匿名である]
「うん。わかった」

彩は電話を切り、家を出る。

大丈夫だとは思っても、やはり外出するのは怖い。足早に階段を下りて、誠の待つ向かいのマンションに走る。

彩がエントランスに到着すると同時に、誠もやってきた。

「早いな」

「当たり前じゃん!怖いもん!…で、何するの?」

「家に入ってからな」

外では話したくないようで、誠はきっぱり言い放った。

しかたなく彩も黙り、ひたすら歩いて誠の家までたどり着いた。

⏰:11/11/24 23:51 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#187 [我輩は匿名である]
「おじゃましまーす」

「今は俺以外誰もいないから、適当にくつろいでいいぞ」

「くつろぎに来たんじゃないし」

「…まぁそうだけど…」

2人はそう言いながら、誠の部屋に入る。

「…相変わらず何もない部屋だね」

きょろきょろしている彩を尻目に、誠は自分のパソコンの電源を付ける。

「塩見、ちょっとこっち来い」

⏰:11/11/24 23:52 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#188 [我輩は匿名である]
「ん?」

棚に積み上げられたCDを眺めていた彩は、誠の隣に来て彼のパソコンを覗き込む。

画面には、ある殺人事件の記事と容疑者らしい男性の顔写真が映し出されている。

黒い短髪で、一見普通の、その辺にいそうなその男性の写真に、彩は「あ」と声を漏らす。

「この人、ニュースで見たことある!」

「さっき俺が言った、何人も刺して殺した殺人犯、葛城歩」

誠に説明されて、彩はやっと思い出した。そういえば、この近辺でよく殺人事件が起きていた時期があった。

⏰:11/11/24 23:52 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#189 [我輩は匿名である]
被害者には一切接点はないが、共通点が1つ。被害者全員が、ナイフか何かで胸部を一突きされてほぼ即死だったこと。

その容疑者として名前が挙がったのが、この写真の男、葛城歩だった。

警察がもう少しで捕まえられるという所で取り逃がしたというニュースを見て、中学生ながら「みっともない」と思ったものだ。

「でも、何で今頃この事件なんか調べてるの?」

「…この事件と今回の事件、似てないか?」

誠にそう言われて、彩は「うーん」と首をひねる。

確かに、人気のない暗い道で事件を起こしている事や、凶器が刃物であるという事、方法が同じだという事は酷似しているようにも見える。

しかし、なぜ彼が自分たちを狙うのかわからない。

⏰:11/11/24 23:53 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#190 [我輩は匿名である]
「言われてみれば似てるけど…何でこの人が私たちを狙うの?」

「そこまでは俺も知らない。でも、俺たちが中学2年になって何か月かしてから、こいつの事件が全くなくなった」

「…私たちのクラスの子が、この人と何かあったかもしれないって事?」

「そうじゃないかと、俺と司は思ってる。…思ってるだけだけどな」

「…うっちー警察やった方がいいんじゃないの?」

彩は真面目な顔で誠に言う。

「命かける仕事なんかしたくねぇよ。…お前、何か飲む?」

「お茶ほしい!」

彩の返事に、誠は部屋を出て行った。

⏰:11/11/24 23:53 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#191 [我輩は匿名である]
彩は椅子に座り、パソコンとにらめっこする。

中学2年の時、特にこんな事件に関係した生徒はいなかったはずだ。なのに、なぜこの葛城が自分たちを狙い、殺す必要があるのか。それだけがわからない。

もちろん男子高校生のただの予想にすぎず、何の確証もないのだが、全く見当がついていない警察を見ていると、誠の話を信じたくなる。

そんな事を考えていると、麦茶が入った2つのグラスを持った誠が戻ってきた。

「ねぇうっちー。犯人この人かもしれないって、警察に言った?」

「言ってねぇよ。一般人が気付くぐらいなんだから、あいつらだってわかるだろ」

「わからないかもしれないよ!だってあの人たち、何もわかってなかったじゃん」

「まぁそうだけど…」

誠は、グラスを1つ彩に手渡しながら返事をする。

⏰:11/11/24 23:54 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#192 [我輩は匿名である]
ベッドに座って麦茶を飲む誠を、彩はじっと見つめる。

「…もしかして」

グラスから口を離し、誠が言う。

「警察に黙って、自分で捕まえようとか思ってるんじゃないよな」

「…わからない」

彩は視線を外す。

「自分で捕まえられる何て思ってないし、そもそも犯人に会いたくない。でも…あの人たちに言って、本当に捕まえてくれるのかもわからないし…」

「…俺たちは、一応言うつもりだ。無能でも、警察は警察だからな」

⏰:11/11/24 23:54 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#193 [我輩は匿名である]
「そうだよね…」

「…塩見、女刑事の電話番号知ってたよな?」

「あの時名刺もらったじゃん」

「どっかいっちまってさ」

「何してんの!?もー…」

彩は持ってきた携帯電話を操作し、南里の携帯番号を表示する。

「かけようか?」

「いいよ、自分のでかける」

彩の携帯を見ながら、誠は自分の携帯電話で南里に電話をかけ始めた。

⏰:11/11/24 23:54 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#194 [我輩は匿名である]
「はい、南里です」

「…あんた達に犯人扱いされた内村誠ですけど」

相手が出て早々ケンカを売るような言い方の誠を、彩はひやひやしながら見る。

「あぁ…あの時はごめんなさい」

「冗談ですよ。こうでも言わないとわかってもらえないと思って」

「(…絶対怒ってる…)」

顔は真顔だが、明らかにあの時の事を怒っている。彩は誠を見て思った。

「刑事さんたちに、ちょっと話があって」

⏰:11/11/24 23:55 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#195 [我輩は匿名である]
「話…?」

南里の疑り深い声が、誠の携帯電話を通して彩にも聞こえる。

「…犯人なんじゃないかなぁと思う人が1人いるんですけど」

「…急に何かと思ったら…。本当に言っているの?」

「嘘だと思うんなら電話切りますよ」

「(…怖いよこの2人…)」

誠の隣に移動して電話の内容を聞く彩は、ちょっと肩を縮める。

「…誰?参考程度に聞いておくわ」

⏰:11/11/24 23:55 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#196 [我輩は匿名である]
「3〜4年前、この辺で殺人事件を起こしてた葛城歩って、覚えてます?」

「……えぇ、覚えてるわ。でも、なぜ彼だと?」

「手口が似てるから。…あと、俺たちが中学2年になってから、全く事件が起きなくなったから、もしかしたら何かあるんじゃないかと思って」

「…確かに、手口は似てるわね。でもあなた達のクラスメイトと彼は、何も接点なんてないでしょう?」

「今までの被害者もなかったはずですよ」

「よく調べてるのね」

「そりゃ、自分の命にかかってることですからね」

⏰:11/11/24 23:56 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#197 [我輩は匿名である]
「…いいでしょう。葛城は葛城で逮捕しなきゃいけない人間だし、こっちでも調べてみます。ありがとう」

「お願いします。俺たちもこんな事、もう嫌なので」

「そうね。それじゃあ、また何かあったら言ってください」

2人の電話はそれで終わった。

「これでいいだろ。…何だよ、その疲れ果てた顔は」

「…疲れるよ、うっちー達の電話聞いてると」

「?」

静かな言い合いを聞いていたような気がしてうなだれる彩に、誠は不思議そうに首をかしげた。

⏰:11/11/24 23:56 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#198 [我輩は匿名である]
その日の夜、保護者会に行ってきた母親から、“今日から1週間以内に新たな事件が起きなかった場合、午前中に限って全授業を再開する”という意見で決まったという事を聞いた。

1週間は、意外と早く過ぎて行った。その上、まるでその情報を犯人たちも知っていたかのように、事件が全く起こらなかった。

⏰:11/11/26 21:04 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#199 [我輩は匿名である]
月が替わった6月8日。ようやく彩たちが学校に行けるようになった。

それで彩達の緊張が和らぐわけではないが、久しぶりに友人たちに会うと、少しだけ気が休まる。

「彩ー!!」

登校して早々、皐が抱き着いてきた。

「おはよ」

「久しぶり!もう超暇だったー!」

よっぽどストレスがたまっていたのか、いつもに増してさらに声が大きい。

⏰:11/11/26 21:04 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#200 [我輩は匿名である]
「あっ、内村もおはよ!」

「…おはよ」

眠そうな顔の誠は、短く挨拶してさっさと自分の教室へ行ってしまった。

「もしかして一緒に来たの!?」

「え?うん、1人じゃ危ないから…って」

「そうなんだ」

そう言った皐の笑顔がなぜか、彩には暗く見えた。

⏰:11/11/26 21:05 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#201 [我輩は匿名である]
「彩ちゃーん!皐ちゃーん!」

今度は美穂が教室にやってくる。

すると、ちょうど同じタイミングで入ってきた忍とぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい!」

美穂はそれだけ言って、小走りで彩たちの所へ走ってくる。

「久しぶり!元気だった?」

「元気だったよ!美穂は!?」

「私もー!」

仲良く抱き着いている2人を見て、彩はほっとしたように笑う。

⏰:11/11/26 21:05 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


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