消えないレムリア
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#262 [ぎぶそん]
皆で夕飯を食べた後、私は和美の部屋で彼女とまりやの3人で談笑をした。
1時間ほどして部屋に戻ると、彼はシャワーを浴びていた。
あいつの裸ってどんなのだろう。ふとそんな疑問が頭をよぎる。
上半身は知ってる。下着しか履いてない姿も、微妙に見たことがある。
それ以上は――想像しようとした自分に嫌悪した。
こんなことを考える自分が変態に思える。
そうすると彼がシャワーを浴びる音までもが、どんどん卑猥なものに聞こえてきた。

たまらず部屋を出て、1階まで下りた。
談話室のソファで座っていると、雪さんがアイスコーヒーを出してくれた。
少しずつそれを飲んでいると、階段から足音が聞こえる。
そちらに目をやると、タオルを首にかけた真織が下りてきていた。
「あ、いた」
彼も私の隣に座ると、雪さんは彼の分のアイスコーヒーを出した。
私は横目で彼を見る。彼はアイスコーヒーの中にミルクと砂糖を入れ、マドラーでかき混ぜていた。
乾かし方が不十分だったのか、髪がまだ濡れていた。長くも短くもない睫毛を見つめる。
視線を下げ、唇を見た。
リップクリームを塗ってるみたいに、つやつやとしていた。
――私はこの唇と何度もキスを……。
胸が熱くなる。

⏰:12/08/12 04:50 📱:Android 🆔:wfeWLSss


#263 [ぎぶそん]
ひとりでに心臓が高鳴っていると、雪さんが話しかけてきた。
「あれ、昨日も一緒だったよね?お2人はいわゆる“カップル”なのかな?」
「いえ、違います!」
私は両手を激しく振った。
「この人がただ僕につきまとってるだけです」
「それはこっちの台詞!」
私は彼にそっぽを向いた。
「ふふふ。まるで『修一』と『里奈』みたいね。あ、『殺意の月下美人』ってゲーム知ってるかな?」
「知ってます。このペンションがモデルになってますよね」
彼が答える。
「まあ詳しい。あたしは開発当時ここにいなかったんだけどね。でも、未だにゲームのファンの人がここに足を運んで来るのよ。ううん、ほとんどのお客さんがそう」
「俺もあのゲーム好きです。あれを越えるサウンドノベルゲームはないと思ってますから」
2人はその後もゲームについて話し込む。私はゲームの内容を知らないので、話についていけなくなった。
「あーあ、あたしも2人みたいな青春を送りたかったなあ。高校を卒業してからずっとここで働いているから。だからお2人は学生生活、悔いのないようにね」
最後にそう言うと、雪さんは去っていった。

アイスコーヒーを飲み終えた後、彼が夜道を散歩しないかと言ってきた。
2人で外に出ると、夏の夜風がひんやりと身体に当たった。
少し歩いて、テニスコートの近くにあるベンチに座った。
「蚊に刺された」
彼が腕を掻く。
「知ってる?蚊に刺された時に出来るこの膨らみは、蚊の唾液なんだぜ。これが痒みを引き起こすってわけ。うわ、これは結構な唾液の量だわ」
彼の腕の一部分はぷっくりと膨らんでいた。彼がその部分を激しく掻く。
私は彼の言動がおかしく思えてくすくすと笑った。

⏰:12/08/12 05:17 📱:Android 🆔:wfeWLSss


#264 [ぎぶそん]
「掻いて」
彼が自分の腕を私の元に伸ばしてきた。
言われたとおり、刺された箇所を爪を立てて小刻みに掻いてあげる。
「あんたって、本当華奢だよね」
彼の細い腕をじっくりと観察した。
「食べても太らないみたい」
「いいなあ。体重何キロなの?」
「確か56キロだったかな」
「身長はいくつ?」
「175」
「175センチで56キロは痩せてるの?」
「多分痩せてる方だと思う」
ふーん、と適当に相槌を打った。
また1つ2つ彼のことが知れたことに、ささやかな喜びを感じた。

「そっちは身長いくつ?」
「162だよ」
「体重は?」
「教えない」
「じゃあ胸のサイズ」
「そんなの教えるわけないでしょ!」
彼の唐突な質問に焦った私は立ち上がった。
「知ってるよ。Dでしょ?」
「何で知ってるの!?」
私は声を張り上げた。
「前洗濯物干してる時にブラジャーのタグ見た」
「勝手に見たの?変態!」
怒りと恥ずかしさで彼の身体を何度も叩く。
「誤解しないで。たまたま目についたんだよ」
「うるさい!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
執拗に叩き続けていると、彼が私の手首をぐいと掴んだ。

⏰:12/08/12 22:12 📱:Android 🆔:wfeWLSss


#265 [ぎぶそん]
そのまま彼は私の身体を抱え込み、私を膝の上に座らせた。彼の右手が私の左胸を包む。
「なあ、俺だったら触ってもいいんでしょ?前言ってたよね」
駄目、とは言えなかった。
「Dってでかいの?」
「知らない……」
「触ってみるとでかく感じる。見た感じもでかいけど」
彼の手がわずかに動く。
「小原さんよりは小さいよ」
「いや、このくらいでちょうどいいよ」
突然の触られように困惑したけれど、拒もうとは思わなかった。
彼に異性として見られている嬉しさでいっぱいだったから。

数分ほどそのままの状態でいると、近くで人の気配があることに気がついた。
数メートル先で、雪さんがこっちを見ていた。
「あ、ごめんなさい。2人が外に出たきりで心配だったから見に来たの……」
私は大慌てで彼から離れるように立ち上がった。
私と彼はすぐさまペンションに戻ることにした。

足早に部屋に戻り、ずっと閉じていた口を開いた。
「雪さんにやばいところ見られちゃったね」
「別にいいじゃん。もう後1日で帰るんだし」
「その後1日が気まずい。でも雪さんとも後1日でお別れか。あの人、すごくいい人だよね」

⏰:12/08/12 22:32 📱:Android 🆔:wfeWLSss


#266 [ぎぶそん]
私は気を取り直してお風呂に入った。
お風呂から出ると、彼がベッドの上で寝転んでいた。
「こっち来て」
私は彼と同じベッドに寝た。
「今日の下着は何色?」
「あんた、それ毎日聞くの?」
昨日と同様、彼が私の着ているシャツをめくる。
この動作をされるのも2回目だからなのか、抵抗感はほとんどなかった。
「ピンクか」
彼は私の胸元を真剣な顔で見ると、私の胸を人差し指で軽く押した。
「何これ、すげえ。弾力で跳ね返るんだけど」
非常に感激した様子で、位置を変えながら何度も押した。
私は自分の胸に彼の指の感触がある度どきどきした。
そうしてふつふつと情欲が湧いてくる。

「……したくならないの?」
彼の指の動きが止まる。
「だって、かなめのお父さんと約束してるから」
「そのことだったら、黙っていればばれない、と思う……」
「ばれなきゃ何してもいいって考えはよくないでしょ。約束は約束」
彼の反論があまりにも正論すぎたので、自分がとてつもなく惨めに思えた。
「俺だって一応男だし、やりたくないわけじゃないよ。でも、まずはかなめのお父さんの信用を得たいから」
彼は私のシャツを下ろした。
「大切な人を大事にしたいって気持ち、男になれば分かるよ」
彼がもの悲しげに背を向ける。
前、“出来ない”と言っていたのは、もしかして私のことを大切に思ってくれているから?
私はこの上ない嬉しさから目頭が熱くなった。

⏰:12/08/12 23:01 📱:Android 🆔:wfeWLSss


#267 [ぎぶそん]
その思いから、私は彼の背後にぴたりと身を寄せた。
「軽はずみなこと言ってごめんね」
彼がゆっくりと振り返る。
「俺の方こそ、近頃軽率な行動ばかりしてて悪かった」
彼は私を強く抱きしめた。
「大事にするから、ずっと俺のそばにいて」
「うん」
私の顔が熱くなる。心で嬉し涙を流した。

私は愚かだった。
とりあえず関係を持てば、彼が自分のものになると思っていた。
性が乱れた現代の若者社会の中で、貞操をきちんと守る自分たちが神聖に思えた。
彼とは焦らずゆっくり進もうと決めた。
それがどんなに周りから見て遅いペースだとしても、私はそれでじゅうぶん満足できるし、幸せだ。

次の日の朝。6時前にひとりでに目が覚めた。
1階に下りると、雪さんがフロアを掃除していた。
「あ、おはよう。昨日はごめんなさいね」
「いえ、こちらこそ。昨夜はお見苦しいところを見せてごめんなさい」
私は彼女に頭を下げた。
「あの、実は、彼は私のルームメイトなんです。だから時々あんな風に悪ふざけをしていて……」
聞かれてもいないのに言い訳をはじめる自分がいた。
雪さんはモップで床を拭きながら、おだやかな顔をする。
「彼のこと、好き?」
「え!?まあ、嫌いじゃないですけど……」

⏰:12/08/13 22:39 📱:Android 🆔:74fGVW1s


#268 [ぎぶそん]
「あたしもね、高校の時同じクラスにすっごく仲がいい男の子がいたの。ある日の放課後、その彼に突然キスされちゃってね。あたしは彼に恋愛感情があったから嬉しい気持ちもあったけど、その時の関係を壊すのが怖くて、それからもずっと彼とはどっちつかずのまま過ごしてた。
そしたら彼、地方に転校することになったの。あの時の出来事は今でも後悔してる。結果的に彼と離れ離れになっても、気持ちだけは伝えるべきだったって」
雪さんがごしごしと床を拭く。その横顔が、とても寂しげに見えた。
昨日の夜彼女が、学生生活を悔いのないよう過ごして、といったのはそんな過去があったからなのだろうか。

「あ、そうだ。『殺意の月下美人』はやったことある?」
「いえ、ないです」
「よかったらやってみない?きっと『里奈』に感情移入できると思う」
そんな風に言われると、「里奈」というキャラクターに興味が湧いてきた。
雪さんはモップを壁に立て掛けると、ロビーの奥からゲーム機を取り出した。
私はそれを大事に抱えると、彼女に礼をしてまた2階へと上がった。

部屋に戻ると、彼がベッドの上で布団にくるまったままテレビを観ていた。
彼の視線が私の手元に移る。その目が輝く。
すぐさま一緒に「殺意の月下美人」をプレイしてみた。プレイをするといっても、私は彼が操作するのを隣でただ見るだけ。
犯人は覚えてるけど話の内容はほとんど忘れた、と彼が眉間にしわを寄せてぼやく。

⏰:12/08/13 23:07 📱:Android 🆔:vUJkAdPk


#269 [ぎぶそん]
横書きの文章が画面いっぱいに映る。
彼がそれを一字一句声に出して読み上げる。
話に聞いていたとおり、物語は修一という大学生の視点で描かれていた。
里奈もすぐに登場する。修一は山道でヘビを掴まえると、それを持ったまま里奈をおどかした。
里奈は最初はびっくりしたものの、馬鹿じゃないの、と逆にそのヘビを彼から奪った。
確かに、私ももし真織にこんなことをされたら、里奈と同じように返すかも知れない気がした。
架空の人物に一気に親近感を抱いた。
序盤で2人が山奥のペンションに入る。
文章の後ろに映る建物が、本当にこのペンションそのままなので身震いに似た感動をした。

やがて私の集中力が切れ、隣にいる彼を横目で見る。
雪さんは好きな彼に思いを伝えなかったことに後悔をしたと言っていた。
つまり、私にはそうならないようにね、と助言してくれたのだろう。
男と女の関係は、なぜ付き合うか付き合わないかの2択に絞られなければいけないのだろう。
付き合うとか付き合わないとか、そんなに重要なことなのかな?
私は今のままでいい。彼との関係につける名前もなくていい。“宙ぶらりん”でも構わない。

ただ、彼を失いたくはない。
支配したいし、征服したいから。
彼のことは歪んだ目で見てるのかも知れない。
そして、性的な目でも見てる。
時々表れる首すじ、やや出っ張った鎖骨、細くて長い指、しなやかな腰つき。
至近距離で毎日見て、女としての本能が黙っていられない。
1人の男としてじゅうぶん魅力的な体をしているのに、彼はまだ女を知らない。そんな微笑ましい食い違いがあると、ますますそそられる。

⏰:12/08/14 00:36 📱:Android 🆔:J.Y.UXss


#270 [ぎぶそん]
夜は一部のメンバーと雪さんを交えて、談話室でババ抜きやお喋りをして過ごした。
「そうだ。真織くんってギター弾くんだよね?雪さん、ここにギターってありませんでしたっけ?」
まりやがそう言うと、雪さんどこからかアコギを持ってきた。
真織がそのギターを持つと、2年の女子たちが、あれ弾いて、とか、あれ歌って、と騒ぐ。
彼はちょっと考え事をしてから、ギターを弾きながら小さな声で何かを歌う。
これは以前彼から聞いた話なのだけど、ある程度ギターの技量がある人は、だいたいの曲を楽譜を見なくても弾けるようになるらしい。なぜなのかは本人もうまく説明できないそうだ。
有名な曲なのか、ほとんどの女子が一緒に口ずさんでいた。私はその歌を知らなかったけど、リズムにインパクトがあっていいと思った。

彼が歌い終わると、皆が大きな拍手をする。女子たちは彼にとても感心していた。
周りに褒められると、彼は照れた顔で謙遜する。
皆、一見爽やかな好青年に見えるかも知れないけど、こいつは昨日私の胸を触ったんだよ。と、心の中で叫ぶ。
初めはその態度の変わりようにむかついたけど、今は逆に楽しさを感じている。
私には気兼ねなく素顔を見せてくれるんだと思うから。 

10時すぎに一斉に解散すると、真織と2人で外に出た。彼はベンチに座り、辺りを一瞥してから煙草に火をつける。
「気楽に煙草を吸えないのが辛い。早くハタチになりたいわ」
「合宿、楽しかった?」
私は立ったまま彼に話しかけた。
「うん、来て良かった。でも写真部には絶対入らない」
「皆には後でうまくごまかしておくよ」
私は口に手を当てて笑った。

⏰:12/08/14 01:28 📱:Android 🆔:J.Y.UXss


#271 [ぎぶそん]
彼が上目遣いで私の顔を見る。
「サークルは続けるの?」
「うん、とりあえず」
「それがいいと思う。せっかく入ったんだから」
私も彼の隣に座った。
「でも私、写真やカメラがそんなに好きなわけじゃないんだよね。あんたは音楽に特撮にバイクに、夢中になれるものがたくさんあるでしょ?私にはそれがない」
「別に無理に好きにならなくてもいいんじゃない?サークル活動のメインが、仲間づくりでもいいと思う。動機なんてそんな重要じゃないでしょ。俺だって、端からかっこよく見えるかなって理由でギターはじめたし」
「ありがとう」
私は大きく笑った。

彼が煙草を吸い終わると部屋に戻って、私はすぐにシャワーを浴びた。
「今日の下着は白でーす」
お風呂から出て、私は彼の前で着ているシャツを思いきりめくった。
なぜか両親の顔が浮かぶ。1人娘が異性の前でこんな下品なことをしていると知ったら、彼らはショックで寝込むに違いない。
「超かわいい。もうベージュは絶対着けないで」
また彼と寄り添って寝た。

翌日。朝食を取ってから、皆で竜之介さんたちにお別れの挨拶をした。私は特に雪さんにお礼の言葉を述べた。
その後すぐ戻りのバスに乗った。バスが発車してからすぐに、隣の席の真織はぐっすりと眠っていた。
私はそっと彼の手を取った。
彼とはいつも一緒にいられるとは限らない。
だったら私はその日が来るまで、この手をただ握るだけ。

⏰:12/08/14 01:56 📱:Android 🆔:J.Y.UXss


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