消えないレムリア
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#272 [ぎぶそん]
8月26日。久しぶりにバイト先に顔を出すと、うっとうしい奴が入ってきていた。
名前は大川龍平。歳は17歳で、近くの高校に通ってるらしい。
自分で手入れをしているのか眉毛が細く、傷んだ髪は襟足が長い。ピアスの穴もたくさん開けていて、見るからに素行が悪そうだ。
言葉遣いも敬語とため口が入り混じっていて、最初の挨拶をした途端馴れ馴れしく話しかけられた。

龍平はとにかく自分語りが好きなようで、こちらが訊いてもないのにお喋りをはじめる。
中学の時はワルかったとか、酒と煙草がやめたいけどやめられないとか、初体験は中2の時だったとか、今まで14人の女と寝たとか、女を落とす時の口説き文句とか。
バイトが終わってからも、彼のマシンガントークは続く。
根本的に人間性が合わないなと思いながら、彼の話に適当に相槌を打つ。
「俺、年上の女の人がすげえ好きなんすよね。だから、どうにかして泉さんと1発やれないかなって思う」
ちょっと。目の前にいる私も、一応あなたより年上なんですけど。
まあ、ハナからそういう対象に見られなくてほっとするっちゃするけどさ。
そんな龍平を隣にして痛感する。私は真織といる時どんなに心が安らげているかって。

アパートに戻ると、真織が台所で夜ご飯を作っていた。
今日のメニューはうどんのようで、沸騰したお湯の中に入れた麺をひたすらかき回している。
私は帰って早々、後ろから彼に抱きついた。
「どうしたの急に?」
彼が今日も自分の近くにいると思うと安心する。
いよいよ明日は彼の誕生日だ。自分なりに祝って喜ばせてあげたい。 

⏰:12/08/14 23:05 📱:Android 🆔:J.Y.UXss


#273 [ぎぶそん]
今日もいつもと変わらず、11時すぎに彼とともにベッドに入った。
暗がりの中、ケータイの待ち受け画面で何度も今の時刻を確認する。
夜の12時。待ち受け画面の表示が8月26日から8月27日へと変わった。真織の19歳の誕生日がやって来た。
当人は私の隣で熟睡していた。
日付が変わったと同時に「おめでとう」と言いたかったけど、無理に起こすのは気が引けるのでしない。
静かに立ち上がり、鞄に入れっぱなしだった彼への誕生日プレゼントを取り出した。
そして台所の下の棚を開け、それをフライパンの上に置いた。

朝、朝食のロールパンをかじりながらニュース番組を観た。
彼は雲1つない天気の中、ベランダで洗濯物を干している。
20分前に目を覚ましてから、歯を磨いても顔を洗っても、ずっと気持ちが落ち着かなかった。
洗濯物を干し終えた彼が戻って来て、昨日の夜からずっと言いたかった言葉を彼に告げた。
「台所の下の棚、開けてみて」
彼が怪訝そうに言われた場所に向かう。向こうの部屋から、扉を開くと同時に彼の「えっ!」とびっくりしたような声が聞こえた。
「ハーレーのミニチュアじゃん。これどうしたの?」
彼が箱を持って戻ってきた。
「19歳の誕生日おめでとう」
「覚えてくれてたの?俺の誕生日」
彼はあぐらをかいて床に座ると、箱から6種類のミニチュアを取り出した。
「ファットボーイだ。こっちはCVOかな」
ミニチュアの1つ1つを、鑑定士のように色んな角度からじっくりと見る。
顔は喜色満面の笑みで溢れていた。

⏰:12/08/15 23:57 📱:Android 🆔:IffePLSg


#274 [ぎぶそん]
彼がここに初めて来た日は、無愛想であまり笑わない子なのかと思ってた。
でも、意外にも彼は結構な頻度で笑う。自分の感情を素直に表現するのだ。
私は彼の笑顔については快く思っている。
笑うということは、楽しいということだから。
彼は私といて楽しいんだ。友人の少ない私にとっては、そう思ってくれる人がいるのはかなりの財産だ。

昼になり、私たちは大学の近くにある個人経営のカフェに入った。
店長がパリで修行の経験があるらしく、店の名物である手作りケーキは雑誌にも紹介されるほどの評判らしい。
と、甘いものに目がない佐奈が、以前大学の帰りにこの店の前で言っていた。
真織の誕生日をどう祝おうか考えた時、ふいに彼女のその言葉を思い出した。
そしてこの店のケーキを食べようと思い立ったのだ。

こじんまりとした店内は女性客ばかりで、男性客は真織だけだった。
彼はそんなことはお構いなしに中央の席に座る。彼はいつも人の目を全くといっていいほど気にしない。
だから人前で恋愛経験がないことも何のためらいもなく正直に話すし、1人暮らしの女の部屋にも平気で住み着けるのだと思う。
彼はなんというか、珍獣だ。とことん変わっている。見た目はちょっとおしゃれな男子大学生って感じなのに。
そして私は今日もそんな珍獣と一緒に過ごしている。

⏰:12/08/16 00:39 📱:Android 🆔:ljn1uonY


#275 [我輩は匿名である]
楽しみに読んでいます。話が深く面白い! 頑張ってくださいね(。'―'。)

⏰:12/08/16 01:28 📱:SH906i 🆔:DN8won3k


#276 [ぎぶそん]
【※275 匿名さん ありがとうございます。すごく励みになります】

彼はテーブルに立てかけてあったメニューを広げる。
「今日は私のおごり。遠慮せず何でも食べて」
私は黄色いテーブルクロスの上に財布を置いた。
「それじゃあフルーツパフェにしようかな」
「誕生日なんだから、ケーキを食べなさいよ。そのために連れてきたのに」
「何でも食べてって言ったじゃん。今はパフェの気分なんだよ」
「じゃあそれでいいよ。私も同じのにする」
今日の主役は彼だ。今日1日は彼の気持ちを優先させよう。
私はベルで店員さんを呼んだ。

注文を終えると、彼は就職の面接に来たかのようなきちっとした姿勢で、でも落ち着きなくそわそわとしていた。
「どうしたの?」
「ほら、俺の誕生日ってちょうど夏休みの期間にあるだろ?ちっちゃい頃は涼二や他の友達を家に呼んで誕生日会を開いてたけど、だんだんと家族からも祝ってもらうことなんてなかったから懐かしくて」
彼の上半身が前後に小刻みに動く。
「誕生日プレゼントあれで良かったかな?他に思いつかなくて」
「うん、すげえ嬉しかった。親父にバイク買ってもらった時より何万倍も」
いやいやそれはない。ミニチュアはせいぜい1万、あんたのバイクはその100倍の値段じゃない。
でも、まあ、それくらい嬉しかったってことよね。私はふっと笑った。

⏰:12/08/16 23:08 📱:Android 🆔:ljn1uonY


#277 [ぎぶそん]
御盆に乗った2つのフルーツパフェが、若い女性店員の手によって運ばれてきた。
彼はいただきますと手を合わせると、目の前のパフェを精密な機械で動いてるかのように、同じペースで同じ量をひたすらぱくぱくと食べる。
私は自分の分のさくらんぼを彼にあげた。彼はすぐに嬉しそうな顔でぱくっと食べた。
その動作がおかしかったから、パイナップルもりんごもあげた。彼は、サンキュー、と言ってむしゃむしゃと頬張る。
変な子。単純で素直で心がすれてなくて、でも煙草を吸うんだよね。

私は彼より先に食べ終え、トイレに入った。
トイレから出ると、全部食べ終えた彼がカードのようなものを手にしていた。
近くで確認すると、私の財布から学生証を取り出していた。
「勝手に見ないでよ」
取り返そうとしたけど、彼に拒まれた。
「今より髪長いね」
彼にそう言われて思い出した。大学1年の春は胸くらいまで髪が伸びていた。
「受験生の時は美容院に全く行かなかったから伸びっぱなしだった。去年の夏にばっさり切ったかな、あまりにも暑かったから」
彼は学生証を財布に戻し、そして財布を私に返した。
「どうかな?長いのと短いの、どっちが似合ってる?」
私は笑顔を作り、両手で左右の髪を引っ張った。
「どっちでもいいんじゃない」
彼は無表情で下を向いた。どうでもよさそうだ。
「そう言われるのが1番困る」
「じゃあ短いの」
「本当にそう思ってる?」
「うん」
彼は無表情のまま頷いた。
私たちの話し声が聞こえたのか、右隣の席にいる2人組の女性にくすくすと笑われた。
やめやめ。こんな会話、付き合いたてのカップルみたいじゃん。

⏰:12/08/16 23:35 📱:Android 🆔:ljn1uonY


#278 [ぎぶそん]
たちどころに会計を済ませ、店を出た。外は冷房の効いた店とは違いいやな熱気がむんむんとしていて、あまりの蒸し暑さに全身がうだる。コンクリートも床暖房みたいに熱くなっていた。
「どこか行きたいところある?」
首筋の汗をハンカチで拭いながら、彼にたずねた。
「家がいい。家が1番落ち着く」
ちょうど私もそう思っていたところだ。
キンキンに冷えた部屋でキンキンに冷えた麦茶を豪快に飲みたい。
夏はそれが1番快適な過ごし方な気がする。

私たちはたちまち彼のバイクでアパートに戻った。
生温かい空気が部屋中にたちこもっている中、冷蔵庫で冷やしていた麦茶をごくごくと喉の音を立てて飲んだ。
2人でベッドに寝転ぶ。3分前に入れた冷房が、ひんやりと上半身に当たる。

私の提案で「キラーアイランド」の続きを観た。
夏休み開始からこつこつと観始めて、今はもうシーズン2の中盤まで鑑賞していた。
リズを殺人鬼に殺されたトーマスは、今度は無人島に元から暮らしていたレイラ(無人島に人が住んでいたのはシーズン1の最終話に判明)と親密な関係になった。
トーマスとレイラが森の中に走り込むと、2人がお互いに服を脱ぎ出した。
これはまずい。長年の勘からすぐに2人がいやらしいことをすると感じ取った。
私は急いでリモコンを取り2倍速で早送りをした。はげしい動揺で口の中がからからに渇く。
再生ボタンを押すと、主人公のニックがロイドというお爺さんと森の中を散策するシーンになっていた。
後ろを振り返る。彼は口を開けて眠っていた。
あれ、このシチュエーション、前もあったな。私は顔がほころんだ。
私は彼を起こさず、そのままドラマの続きを1人で観た。

⏰:12/08/17 21:54 📱:Android 🆔:t/xoF1WI


#279 [ぎぶそん]
全部観終わってDVDのディスクを取りだそうとした時、後ろから声がした。
「卵焼きが食べたい」
振り返ると、彼は寝そべったまま目を開けていた。
「分かった。じゃあスーパーの惣菜コーナーで買ってくる」
そろそろ夕飯の準備をしなければいけない時間だった。
「いや作って。甘いのがいいな」

卵焼きといえば溶いた卵を焼いて巻く、一見言葉にすれば簡単だけど、これが意外にも一筋縄じゃいかない部分がある。
そう思わされたのが小3の時。興味本意で試しに作ったら、表面を焼きすぎてパサパサしたものが出来て、とても萎えた。

私はさっそく料理の本を持って台所に立った。
ボールに卵を割り、醤油、塩、砂糖とともにかき混ぜる。
余熱した鍋に油を引き、卵を流し込む。
もういいかな、と思えるタイミングで奥から手前に3つに折りたたむ――
本に書いてあるとおりに、彫刻とか陶芸とか芸術作品を作るような気持ちで、息を吐きながら慎重に作業する。
そうして表面に茶色い焦げ目が斑についた、一応卵焼きといえる卵焼きが完成した。

⏰:12/08/17 22:08 📱:Android 🆔:t/xoF1WI


#280 [ぎぶそん]
食卓にハンバーグやナポリタン、お子様ランチみたいなメニューが並ぶ。
ハンバーグの味には自信があった。彼がここに来てから、かれこれ5回は作ったからだ。
ハンバーグは彼の好物。誕生日の日に必ず作ろうと、必要な材料は前日に買い込んでいた。
ちなみに、ナポリタンは私の好物である。
彼はいただきますを言うと、まっさきに卵焼きを一口食べた。
「うまいじゃん」
眠そうだった彼の目にみるみる活力が湧く。お世辞ではなさそうだ。
「主婦とか向いてんじゃない?」
「それはいくら何でも褒めすぎだよ」
「っていうか、俺らって夫婦みたいなもんだよな。一緒に暮らしてるし」
私は拳を握ってテーブルを思いきり叩いた。そのわずかな衝撃で彼の身体がびくつく。
「いい加減にして」
彼に睨みをきかせて言った。
「ごめん」

その後ドラマの続きを観て、お風呂に入って、一緒にベッドに入ってと、いつもと変わらないまま1日を終えることになった。
ベッドに入ってすぐ、彼が私の身体に覆いかぶさってきた。
「キスしてもいい?」
「え?いいけど」
「舌入れてもいい?」
「えっ……うん」
彼にキスをされると、口の中で彼の舌が私の舌にまとわりついてきた。柔らかくてぬるぬるとしてて、不思議な感触がする。
私はただちに彼の身体を離した。
「やっぱりやめて」
合宿の時は自分から誘おうとしたのに、なんて無様なのだろう。
でもこのキスをするのは相当恥ずかしい。ん、とか変な声が漏れるし。
「ごめんな」
暗がりだけど、彼が悪そうにしているのが分かる。
もしかして、昼間ドラマで早送りした箇所、私たちがいつかやろうとしてること、さっきのキスより強烈だったりする? 

⏰:12/08/17 22:37 📱:Android 🆔:t/xoF1WI


#281 [我輩は匿名である]
なんで女の子はいきなりキレるんですか?キレ方がヒステリックに感じてしまうのですが(;ω;)
すごく面白いのにそこだけ気になってしまって・・・ゴメンなさいm(__)m

⏰:12/08/17 22:51 📱:SH906i 🆔:qKQghMv6


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