消えないレムリア
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#11 [ぎぶそん]
私はリビングまで彼を招き入れると、彼に飲み物を出そうと冷蔵庫を開けた。
その彼はリビングに腰を下ろすや否や小さな箱から煙草を1本取り出し、慣れた手つきで煙草の先にライターの火を着けた。
そして、一息ついた様子でふうと煙を吐く。

ちょっと、まだ18歳でしょ。何、堂々と煙草なんか吸ってるのよ。
少し頭に来たが、出会って早々関係がこじれるのは避けたいのでぐっと堪えた。

「はい」
私は作り笑いで彼に麦茶を差し出した。

⏰:12/06/02 21:20 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#12 [ぎぶそん]
彼は煙草を吸い終わると、ダンボールから荷物を出して整頓をし始めた。

「これ、この部屋の鍵」
その途中、私は彼に合鍵を渡した。
彼はジーンズのポケットから革製のキーケースを取り出し、早速鍵をその中に入れた。

それから一言も会話をすることなく、彼は黙々と作業に取りかかっていた。
私はベッドの上で雑誌を読みながら、時々視線を彼の方にやった。
彼は衣類をひたすらたたみ、収納ボックスにどんどん押し込んでいた。
複数の収納ボックスが、どんどん壁際に配置されていく。

広かったこの部屋が、彼のお陰でどんどん狭くなる。

⏰:12/06/02 21:32 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#13 [ぎぶそん]
18時を過ぎた頃、彼が立ち上がった。
「この近くにコンビニある?」
「アパートを出て正面にある信号を渡ったら、すぐ目の前にあるよ」
キーケースと財布を手にして、彼は部屋を出た。

彼が外出している間、私はダンボールの中を覗いてみた。
その中にはミドリムシという変な名前のバンドのCDと楽譜の本が大量に入ってあった。

私は音楽にはあまり興味がない。
興味を持たない理由は特にないが、私には趣味という趣味がほとんどない。
カメラを持つ自分の姿がかっこいいんじゃないかという不真面目な理由で大学の写真部に入部したが、それもすぐに飽きて、ここ半年はほとんど部室に顔を出していない。

だから、こうして好きなことに打ち込める真織くんを羨ましく思う。 

⏰:12/06/02 21:45 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#14 [ぎぶそん]
ダンボールの中をよく見ると、片隅にソフトビニールで出来た怪獣の人形が入っていた。
何だこれ。少し疑問に思ったが、気にも止めないことにした。

その後、20分ほどして彼が戻ってきた。
リビングに着くとすぐにコンビニの袋から煙草と弁当を出し、テーブルの上に置いた。

「あんたもどうぞ」
彼が私に弁当を差し出してきた。
あんたって。少しは年上のことを敬いなさいよ。
でも、私の分まで買ってくれたことは素直に嬉しかった。
「ありがとう。お金払うよ」
私は鞄から財布を取り出そうとした。

⏰:12/06/02 21:56 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#15 [ぎぶそん]
「いいよ。俺のおごり」
私のことには目もくれず、彼がどさっと大きな音を立てて座った。

彼は無愛想でとっつきにくい。
何だか、普段笑っているところが想像できない。

その後、時計の針の進む音が聞こえる中で、お互い黙々と弁当に手をつける。
気まずい。 そう感じ、テーブルの上にあるテレビのリモコンに手を伸ばした。

電源ボタンを押すと、ちょうどニュース番組の最中だった。
特集で、新生活を快適に送るグッズだとかを紹介していた。まるで興味がない。
でもその新生活とやらを送る彼は、一度もテレビに目を向けることなく弁当を食べていた。

⏰:12/06/02 22:04 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#16 [ぎぶそん]
19時になると、彼が口を開いた。
「チャンネル変えてもいい?」
「どうぞ」
私は彼にリモコンを渡した。

彼はチャンネルを回すと、「音速戦士ステレオマン」という特撮テレビ番組でちょうど止めた。
その番組の陽気なオープニングの曲が、リビングに流れ始める。

――何これ。こんなの観るの?
可笑しさのあまり、私は思わず吹き出しそうになった。
そこで、彼の荷物に怪獣の人形があったことを理解した。
大人びた外見からは想像も出来ない、意外な趣味を垣間見た。

⏰:12/06/02 22:18 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#17 [ぎぶそん]
彼は箸を動かすのをやめ、テレビに釘付けになっていた。
彼をそんなに夢中にさせるものがどんなものか気になり、私もその番組を観てみることにした。

まず、宇宙からやって来た巨大な怪獣が街を破壊し、人々を恐怖に震え上がらせる。
そして主人公の青年がステレオマンとやらに変身をし、怪獣並に巨大化する。
最後にステレオマンがバイオリンみたいな武器で怪獣をやっつけ、再び街に平和が戻る。

単純明快な内容だけど、まあつまらなくはないと思った。
こんな夢や希望に溢れた物語が好きなんて、彼もそんなに悪い奴じゃなさそうだと思い始めた。

⏰:12/06/02 22:28 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#18 [ぎぶそん]
番組が終わり弁当を食べ終えると、彼はまた荷物を整頓する作業に取り掛かった。
荷物もだいぶ片付いたようで、部屋の隅で空になったダンボールが山積みになっていた。
それから彼は収納ボックスの上に怪獣の人形をいくつも並べ始めた。
しかしそれだけではスペースが足りなかったのか、私の本棚の上にまでも人形を並べる始末になった。

――ちょっと待て!そんなもん置くな!
心の中でそう叫んだが、彼に文句を言う筋合いはない。
だってこの部屋はもう私だけのものじゃなく、彼と私のものになったんだから。

殺風景だったこの部屋が、一気にフリーダムな空間へと姿を変えた。

⏰:12/06/03 08:58 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#19 [ぎぶそん]
その後、気がついたら私はベッドの上で雑誌を片手に眠っていた。
時計の針は10時を指していて、私は慌てて湯沸し器のボタンを押しにいった。

10分後、お風呂が沸いたことを告げるアラームが鳴った。
「お風呂入ったら?」
「まだいい」
彼のために普段入れないお風呂を入れたのに、そっけなく返された。
自分の行動に空回りさを感じながら、私は彼より先にお風呂に入ることにした。

脱衣室で服を脱ごうとした時、ふとある想像が働いた。
――もしかして、私がお風呂に入ってるところを覗くんじゃ?

彼も一応男の子。油断は出来ない。
音を立てず脱衣室の扉を開け、リビングにいるであろう彼の様子を見た。

⏰:12/06/03 09:08 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#20 [ぎぶそん]
彼はベランダに出て、外の景色を見ながら煙草をふかしていた。
考えすぎか。鍵もかけず、私は安心してお風呂に入ることにした。

身体を洗って湯船に浸かり、今日一日の出来事を振り返ってみた。
今日は人生でも特に最悪な一日だった。
同居人は女の子かと思ったら、まさかの男の子。
未成年でありながら煙草は平気で吸うし、つっけんどんな態度だし、敬語は遣わないし生意気だ。
そのくせ特撮が好きだったりして、予測不能な部分もある。

もう、訳が分からない。
でも、決して嫌いという訳ではない。

⏰:12/06/03 09:20 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


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