消えないレムリア
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#21 [ぎぶそん]
同じ大学の友人に、毛利佐奈という子がいる。
入学当初に行われたオリエンテーションの時、偶然席が隣どおしになったことがきっかけで仲良くなった。
以来この1年間、彼女とはいつも一緒にいた。
佐奈は飽きっぽく気まぐれな性格で発言がころころと変わるので、しょっちゅう私を悩ませる。
でも私は佐奈のことが大好きだ。
たぶん、私は自分の周囲をかき乱す人物が好きなんだと思う。
だから真織くんのことも嫌とは思っても、本当に嫌いになることはないだろう。
:12/06/03 09:30
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#22 [ぎぶそん]
お風呂から出ると、彼はベランダの窓に背もたれ、アコースティックギターを弾きながら小さな声で歌っていた。
音楽に興味のない私だったけど、なぜかその姿に興味をひかれた。
私はタオルで濡れた髪を拭きながら、彼の近くに寄った。
「どうこう言ったって 僕もいつか星になる 星になる
その一粒を 君に見てほしい 見つけてほしいんだ」
今日一日私に見せた態度と言葉遣いとはほど遠い、優しく柔らかな声で歌う。
「それ、『ミドリムシ』ってバンドの曲?」
「知ってるの?」
「ううん。荷物の中に楽譜があったのを見たから」
荷物を勝手に見たことを怒られると思ったが、彼は気にもとめない様子でまたギターを弾きだした。
:12/06/03 09:39
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#23 [ぎぶそん]
彼の歌った曲の歌詞が気になったので、私は近くで開いていた楽譜を覗いてみた。
「星座の居場所」というタイトルのようだ。
『所詮、この世界では、僕は大勢の中の一人なのだろう。
彼女も、星の中から偶然、僕を見つけただけなのさ。
こぐま座も、おうし座も、本当はただの点さ。
どうして、僕たちは、無関係な星を結びたがる。
輝いて、輝いて、朝になるまで、輝いて。
その一粒を、僕は見ている。見ているから。
僕だって、星の数から偶然、彼女を見つけただけなのに、
どうして、僕たちは、一つになりたがる。
輝いて、輝いて、灰になっても、輝いて。
その一粒を、君に見てほしい。見てほしいんだ。
どうこう言ったって、僕もいつか星になる。星になる。
その一粒を、君に見てほしい。見つけてほしいんだ。』
:12/06/03 09:49
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#24 [ぎぶそん]
句読点が多く、短編小説を読んでいる気分になった。
でも、嫌いじゃない。むしろ好きかも。
何となくそう思った。
「好きなの?このバンド」
「別に」
彼が顔を背けた。きっと、本当はすごく好きなのだろう。
「さてと。風呂入ろうかな」
ギターをケースにしまい、彼は向こうに行ってしまった。
彼がお風呂に行っても、私はその場で「星座の居場所」の歌詞を繰り返し読んでいた。
この現代社会において個性的な人は異端とされ、罵られる。常に他人と同じであるように求められる。
この曲はそういった世の中を疑問視するメッセージが込められてると感じた。
:12/06/03 09:58
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#25 [ぎぶそん]
それから私はノートパソコンを立ち上げ、「ミドリムシ バンド」で検索をかけてみた。
ミドリムシ。静岡県出身の4人組からなるロックバンド。
ボーカルの斎藤正裕とギターの小松貴也を中心に、高校時代に結成。
その5年後、メジャーデビュー。
昨年の夏、念願だった初の武道館公演を果たす。
ほとんどの楽曲をボーカルの斎藤正裕が手掛ける。
今年2月、「星座の居場所」が深夜ドラマのエンディングに抜擢。初のタイアップ。
こんなバンド、聞いたことないけど結構有名なのかな。
物知りの佐奈なら知っているかも。
大学が始まったら聞いてみよう。
:12/06/03 10:09
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#26 [ぎぶそん]
ふと、バンドの公式サイトに載ってあったボーカルの斎藤正裕の顔が目についた。
年齢は大体30手前だろうか。まだまだ若い感じ。
黒髪で毛先にゆるやかなパーマがかかった髪型は、今ここにいる真織くんとまるで同じだった。
きっと、真織くんはこの人に憧れているのだろう。
誰かを目指してその真似をするなんて、生意気な性格にしてはかわいいところがあるじゃない。
ボーカルの色白で綺麗な肌も、真織くんに似ていた。
でも、ボーカルの人の方が断然に優しそうな感じだ。
真織くんは冷たそうで近寄りがたい雰囲気だもん。
:12/06/03 10:21
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#27 [ぎぶそん]
パソコンを閉じ、ベッドの上で雑誌を読んでいると彼がお風呂から出てきた。
そして、はっとした様子でつぶやいた。
「やべえ。今日、こっち来て布団買うの忘れてた」
そして、彼はベッドの上で寝そべっている私の元に寄ってきた。
「布団、半分借りていい?明日ちゃんと買うんで」
彼が私の目を見て言った。
流石にそれはまずいんじゃないかと思った。
仮にも、男と女だし。
「えっと、その……」
私が戸惑いながら答えを出せずにいると、呆れた様子で彼が口を開いた。
「何、照れてんの。こっちはあんたのこと、全く女として見てないんだけど」
:12/06/03 10:33
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#28 [ぎぶそん]
カチン。頭の中でそんな音が聞こえた。
「好きにすれば」
私だけ変に意識して馬鹿らしい。こっちだって、あんたのことなんかこれっぽっちも男して思ってないんだからね。
私は彼に背を向け、身体を壁際に寄せた。
彼は部屋の明かりを消すと、身体の向きを私とは正反対にして布団に入ってきた。
「……大学ってどんなところ?」
暗がりの中、向こう側からこんな質問が聞こえた。
私に物事を尋ねてくるなんて、どういったものの心境だ?私は少しからかってみることにした。
「そんなことも知らないの。勉強するところに決まってるでしょ」
「それは分かってるわ」
彼が私の背中を足で蹴ってきた。
「痛い。何するの」
私も対抗すべく彼の身体を激しく蹴り返した。
:12/06/03 10:44
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#29 [ぎぶそん]
「この野郎」
彼が起き上がり、全体重をかけて私の身体にのしかかってきた。
その重さは胸を一気に圧迫した。
「苦しい?」
上にいる彼がへらへらと笑う。
ちょっとやめてよ。暗闇でこんなに密着されたら、流石に緊張する。意識する。
心臓が破裂しそうなくらい、ばくばくと鳴る。
もー。やっぱりこいつ大嫌い。
「降参。降りて」
恥ずかしいのと息が苦しいのとで、私はすぐに助けを求めた。
彼は身体をすぐに離し、そのまま私と同じ向きで隣に寝込んだ。
:12/06/03 10:51
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#30 [ぎぶそん]
ちょっと、なんで一緒の向きになってるのよ。
私は咄嗟に彼に背中を向けた。
落ち着け、私。そうよ、こいつはいわば弟みたいなもんよ。
弟と同じ布団に寝て、わざわざ緊張する姉がどこにいる?
何でもない。何でもない。これは、取るに足らない日常。
乱れた呼吸を整えるべく、私は心の中で自分に暗示をかけ続けた。
「あんた、今日から来る同居人が女だって思ってたでしょ?」
息も少し落ち着いた時、後ろから彼の声が聞こえた。
:12/06/03 11:00
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