消えないレムリア
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#142 [ぎぶそん]
唐揚げが入った皿が配られた。
久しぶりに見た好物に、私は目を輝かせた。
1人暮らしをしてから、贅沢な値段に感じる唐揚げはほとんど食べていない。
私は早速その唐揚げを1つ食べた。
柔らかい食感の後に、口いっぱいに肉汁が広がる。
この脂っこさが、何とも言えない至福を感じる。
私は白ご飯と交互に唐揚げをいくつも食べた。
でも、食後の最後にじっくり味わおうと1つだけ残した。
「食べないの?ちょうだい」
彼がその唐揚げを割り箸で掴み、口に入れた。
彼が気楽な顔をして口をもぐもぐとさせる。
私は怒りを通り越して、殺意が芽生えそうになった。
でもその場の楽しい雰囲気を壊してはいけないと、ぐっとこらえた。
心の中で彼のはらわたに何度も包丁を突き刺し、気持ちを静める。
死ね。死ね。無言で何度も叫んだ。
:12/06/16 01:11
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#143 [ぎぶそん]
席の途中から、彼は明らかに酔っていた。
「俺らよく一緒に寝てるんです」
彼が私の肩に片腕を回してきた。
「本当?ラブラブだなあ」
目の前の男性がにやける。
「嘘です!そんなことありません!」
私は私たちを見ている周りに否定する。
「今日も帰ったら一緒に寝よう?な?」
彼がもう一方の腕を私の肩に回し、しがみついてきた。
「こいつ酔って嘘言ってます!皆さん信じないでください!」
「ラブラブだなあ、ラブラブだなあ」
目の前の男性は呂律が回っていなかった。
周りも皆錯乱状態で、顔が赤かったりふらふらとしていた。
明日になったら何も覚えていないだろう。とりあえずその場で安心する。
でも、1つ隣のテーブルで座っている里香ちゃんの突き刺さるような視線は、私をとても寒気立たせた。
:12/06/16 01:22
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#144 [ぎぶそん]
午後10時。にぎやかな雰囲気のまま打ち上げが終了した。
「お疲れさまでした」
私は周りがいう2次会とやらには行かず、居酒屋の前で皆に別れを告げた。
正常な意識のない彼に自分の肩を貸して、アパートまで歩く。
彼の足元が何度もふらつくので、うまく歩行できなかった。
酔った彼はかなり饒舌だった。
「哲雄がこないだパチンコで6万負けたって。馬鹿だよな。俺、パチンコする奴の気が知れない」
「それさっきも聞いた」
「今度椎橋たちがミドリムシのライブに行くって」
「それも聞いた」
もう。何で私がこんなことをしないといけないのよ。
通りすがりの人たちに白い目で見られる中、彼を抱えてアパートを目指す。
:12/06/16 01:31
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#145 [ぎぶそん]
その後、やっとの思いで自分の部屋に到着した。
「ちょっとそこで待っててよ、布団出すから」
リビングの電気を点けず、彼を一旦床に座らせようとした。
「一緒に寝よ」
その直後彼が抱きつき、そのまま私を押し倒した。
そして私に覆い被さり、私の顔を両手で持った。
「かなめ、かわいい」
その瞬間、自分の唇を私の唇に押しつけてきた。
それは、私の生まれて初めてのキスだった。
味はなく、柔らかくて生ぬるい感触がするだけ。
「やめてよ!」
私は彼を足で蹴り飛ばした。
彼は意識を取り戻すことなく、そのまま寝始めた。
私は恐怖で身体がぶるぶると震えていた。
油断していた自分も悪いけど、本当に悔しい。
ファーストキスを夢見ていたわけじゃないけど、まさかこんな不意打ちで迎えるとは思わなかった。
あいつは、今この世で1番やりたくない相手なのに。
私は自分のベッドの布団に潜り、声を殺して泣いた。
でも彼にまた風邪でも引かれたら面倒だと思い、彼の身体にそっと布団をかけた。
こんな時でも彼に気を遣わなきゃいけないのは、本当に虚しかった。
:12/06/16 01:47
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#146 [ぎぶそん]
次の日。私は一睡も出来ずに朝を迎えた。
「あれ?何で俺こんなところで寝てんの?いつ帰った?」
床で寝ていた彼が起き上がった。
私も上半身を起こす。
「覚えてないの?昨日のこと……」
「全然。打ち上げのこともほとんど覚えていない」
なんということだ。
私はあんなに嫌な思いをしたのに。
私は彼を睨んだ。
視界に彼の唇が入る。
昨日私にキスをした、忌々しい唇が。
私の怒りが再び込み上げてくる。
「あんたね、昨日この部屋で私にキスしたのよ。私、初めてだったのよ。どうしてくれるのよ」
私はなりふり構わずその場で泣いた。
私の目から大粒の涙がこぼれる。
彼に初めて見せた涙だった。
「ごめん、もう酒は飲まない。本当にごめんな」
彼は両手を合わせて謝ってきた。
私は何も言うことなく、彼に背中を向けて布団を被った。
彼が何度も謝るが、私は聞く耳を持たない。
:12/06/16 01:58
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#147 [ぎぶそん]
その後、リビングに彼の気配はなくなった。
やがて遠くから彼がシャワーを浴びる音が聞こえる。
彼と住むようになって、初めてわだかまりが出来た。
彼はお風呂から出て、ちょっとしてから静かに部屋を出た。
私は布団に潜り、いつまでも泣いていた。
何で何も覚えてないのよ。
酔ったら、その気がなくてもキスが出来るものなの?
そう思ってなくても、「かわいい」って言えるものなの?
何でキスをした?私じゃなくてもキスしてた?
全く記憶がないのなら、真意を知りたくても知れないじゃない。
:12/06/16 02:05
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#148 [ぎぶそん]
夜、何もせずベッドに座ったままでいると彼が帰ってきた。
「これ、あげる」
彼が私に小さな白い包み紙を渡してきた。
赤いリボンを解き、中に入っていた赤い箱を開けてみた。
そこにはハート型のネックレスが入っていた。
私はそれに少し感激した。
一応、異性から初めて貰ったプレゼントだった。
これを買うために部屋を出たのだろうか。
結構高かったんじゃない?
どんな気持ちで選んだ?
私はそのネックレスを見てにっこりとした。
私の怒りと悲しみはだいぶ和らいだ。
床で立ちっぱなしでいる彼が口を開く。
「やっぱり俺、他の部屋を探すわ。もうかなめのこと傷つけたくないし」
彼は煙草の箱とライターを持って、ベランダに出ようとした。
:12/06/16 02:17
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#149 [ぎぶそん]
「ちょっとこっちに来なさいよ」
私は彼にベッドに座るよう呼んだ。
彼が黙って私の隣に座る。
私はすさまじい形相をしたまま、何も言わずに彼の肩に両方の腕を回した。
そして目をつむり、自分の唇を思いきり彼の唇に押しつけた。
5秒くらいだろうか。とても長く感じた。
そして唇をそっと離し、手の甲で自分の唇を拭く。
「どう?ちょっとは私の気持ちが分かった?こんなことされたら、すごく嫌でしょ」
「……うん。すげえ嫌な気持ちになった」
彼は私の目を見てはにかんでいた。
何さ、笑ってるんじゃないわよ。
私は顔を反らした。
私は顔を背けたまま彼に話しかけた。
「あんた、キスした時私のことを“かわいい”って言ってたわよ。どうせ本音じゃないだろうけど」
「かわいいと思ってるよ」
彼が私の手を握る。
:12/06/16 02:25
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#150 [ぎぶそん]
私は振り返って彼の顔を見た。
「だって、ミグピーに似てるし」
「何よそれ!不細工って言いたいの?」
「何言ってんの、ミグピー超かわいいじゃん。“ミグピーに似てる”って、俺にとっては最高の褒め言葉だよ」
私は彼の手を払って、ベランダに出ようと立ち上がった。
「あのさ」
彼の言葉で立ち止まる。
「俺がキスしたっていうの全然覚えてないけどさ、俺も……そのキスが初めてだったから」
「あっそ」
私はベランダに出て、窓を閉めた。
そんな報告、わざわざしなくていいから。
むしろ彼のファーストキスの相手が自分だと知って、気分が悪くなった。
あんたって垢抜けた外見の割に堅物なんだね。
お互いあれが初めてだったなんて、笑える。
私は星の見えない夜空を眺めながら、長い時間顔を緩ませていた。
:12/06/16 02:35
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#151 [ぎぶそん]
その日以来、彼はますます私にべたべた触るようになった。
彼は毎日のように一緒に寝たがり、私はそれを必死で拒んだ。
大人びた外見にそぐわない甘えようは、本当に気持ちが悪かった。
私は徹底して彼を避けた。
近くに寄ったらすぐに蹴り飛ばし、話しかけられてもそっけなく返した。
それと同時期、私は彼に貰ったネックレスを毎日着けて学校に行っていた。
でも彼にそれを愛用してるとは思われたくないので、アパートに帰った時はいつも玄関に入る前に外して鞄に直していた。
その日の昼休み学食でまりやと一緒に席を探していると、複数の友達といる彼とばったり会った。
「それ、着けてくれてるんだ」
彼が口元を緩ませて、私の首元を指す。
しまった、と思った。
:12/06/16 22:42
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