消えないレムリア
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#62 [ぎぶそん]
夜の11時。電気を消し、一緒に布団に入った。
今日も色々な出来事があった。
少し疲れを感じながら、昨日と同じように身体を壁際に寄せ、彼に背を向けた。
「なあ」
いきなり彼が私の肩を揺さぶってきた。
何か話があるのかと思い、振り返る。
「今思い出したんたけど、あの時のこと覚えてない?」
「何のこと?」
「俺とかなめ、一度だけ餓鬼の頃に会ったことがあるじゃん」
彼の突然の告白に、私は目を見開いた。
そして、彼はこう話す。
今から10年以上前。その日、真織の父親は、幼稚園生だった真織を連れてみどりさんの家を訪ねた。
でも大人たちが話し込んでいる間退屈だったので、真織はこっそり家を出て近くに公園があるのを発見したらしい。
そして、その公園に偶然私もいた。
歳の近い私たちは自然と一緒に遊ぶことになった。
でも私が彼の持っていた怪獣の人形のしっぽの部分を壊し、彼をひどく泣かせてしまった。
彼は私のことが嫌になり、逃げるようにみどりさんの家に戻ったという。
:12/06/07 23:45
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#63 [ぎぶそん]
彼が鮮明な記憶で説明するが、全く覚えていない。
残念なことに、私は物覚えがよくなく、昔のことはほとんど忘れている。
みどりさんの家の近くにいたということは、私もその日みどりさんの家に行ってたのだろう。
でも、そのみどりさんの家に行ったことすら覚えていない。
私と真織が出会ってたなんて、たぶんみどりさんも知らない事実だろう。
でも、もう1つ考えられることがある。
「その子本当に私?他の人と勘違いしてるんじゃないの?」
「いや、間違いなくかなめだよ。その子、“あだちかなめ”って名乗ってた。だからここに来る前親父から”あだちかなめ“って聞いた時、前にどこかで聞いた覚えがある気がしてた」
:12/06/07 23:59
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#64 [ぎぶそん]
「そうなんだ。全く記憶にないけど、人形を壊したりしてごめんね」
私ははるか遠い昔の出来事の件を謝った。
「別にもう怒ってないよ。餓鬼の頃のことだし。でも、あの人形気に入ってたんだよな」
彼がため息をつく。
そんな風に言われては、見に覚えのない罪でますます罪悪感を感じる。
もう一度謝ろうとした時、彼が私の頬に手のひらを当て親指でなぞった。
――気安く触るな!
そう怒鳴ろうとしたが、思いがけず緊張して全身が硬直してしまった。
彼がいつになく優しい目をしているからだ。
「かなめ、あの時と顔が全然変わってねえな」
「悪かったわね。あんた、記憶力よすぎ。気持ち悪い」
冷たい言葉を言い放つとは裏腹に、私の心はどきどきしていた。
:12/06/08 00:15
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#65 [ぎぶそん]
「こうしてまた会うってことは、俺ら何か縁があるのかもな」
彼は少し微笑むと手を離し、私に背を向けた。
無愛想で冷たい彼が、縁とか目に見えないものを信じてるなんて鳥肌が建つ。
お互い共通の知人がいるんだし、今までどこかで出会っていてもおかしくはない。
それだけのことなのに、何少しにやにやしてんのよ。
私は真織と縁があっても、全然嬉しくないから!
不幸だ!悲劇だ!災難だ!あー私可哀想。
でも初対面の男の子の持ち物を壊すなんて、子供の頃の私もなかなかひどいな。
それにしてもその頃の彼の泣きっ面、忘れたとは悔しい。
この憎たらしい同居人が、どんな顔して泣いてたのか気になる。
今はこんなにたくましく成長してるけど、小さい頃は弱々しかったのかな。
私は時の流れの早さを感じながら、大きな彼の背中をしばらく見ていた。
:12/06/08 00:37
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#66 [ぎぶそん]
【※65 正しくは“鳥肌が立つ“です】
:12/06/08 00:51
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#67 [ぎぶそん]
翌日。約束どおり、昼過ぎに佐奈が部屋を訪れた。
インターホンが鳴りドアを開けると、小柄な佐奈がみかんがいっぱいに入った紙袋を重そうに持っていた。
春休み中に髪を染めたのか、最後に見た時よりもますます色が明るくなっていた。
パンツ姿が多い佐奈が、今日はロングスカートを穿いていた。
そして、いつもよりもチークが濃い。真織と会うため、気合いを入れてきたのだろう。
玄関で、佐奈と真織が体面をした。
「初めまして。毛利佐奈です」
「どうも。伊藤真織っていいます」
真織を見る佐奈の目がきらきらと輝く。
好みだったのだろう。
:12/06/08 20:09
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#68 [ぎぶそん]
佐奈は部屋に入ると、辺りを見回しながらこう叫んだ。
「珍しいね!かなめの部屋が片付いてるなんて」
いつも汚いままの状態で平気で佐奈を上げていたので、しっかりと整理整頓された部屋を見て驚いていた。
でも真織の前ではしっかりとした自分を演じていたので、彼女の素直な発言には冷や汗が出た。
佐奈は棚に置いてある人形を手に取った。
「何これ?真織くんこういう趣味があるの?かわいい」
佐奈の目一杯の笑顔に、真織が恥ずかしそうにたじろぐ。
そんなはにかんだ笑顔、私には絶対見せてくれないのに。
別に見たくもないけどさ。
:12/06/08 20:22
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#69 [ぎぶそん]
真織がトイレに行った間、佐奈がすかさず私に話しかけてきた。
「ちょっと、彼すごくかっこいいじゃん!あんな子と一緒に住んでるなんて羨ましいなあ」
「勘弁してよ。あんな奴、ちっともかっこいいと思わない。こっちはすごく迷惑してるの」
とは言え、真織と一緒に住んでよかったと思うことが1つだけある。
それは生活の調子がぐんと良くなったことだ。
掃除をし、洗濯をし、自分で食事を作る。
朝は早く起き、夜は11時前には寝ている。
まだ2日しか経っていないけど、前の自堕落で腑抜けた生活よりははるかに充実していた。
:12/06/08 20:35
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#70 [ぎぶそん]
真織がトイレから戻ってくると、3人でテーブルを囲んでおしゃべりを始めた。
佐奈が興味津々そうに真織に話し掛ける。
「うちらと同じ大学に通うんだよね?何学部に進学するの?」
「理工学部です」
そういえば、こいつのことまだ何にも聞いてなかったな。
まあ、詮索するほど興味もないけど。
「サークルは何か入るの?」
「一応、軽音楽部に入る予定です」
佐奈がベランダ付近に置いてあるギターケースの存在に気がついた。
「もしかしてギター弾くの?佐奈、ギターが出来る男の人ってかっこいいなあって思う」
おい、ちょっと待て。
この前はサッカーが出来る男の人はかっこいいって言ってなかったか?
本当気まぐれだなあ。
:12/06/08 20:47
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#71 [ぎぶそん]
「……足立さんは何かサークル入ってるんすか?」
真織が私に尋ねてきた。
よそよそしく“足立さん”なんて呼んじゃって。
「かなめはね、写真部に入ってるよ。
でも、同じ部の先輩に失恋してから部室に行ってない」
私の代わりに佐奈が答えた。
「ちょっと待ってよ。別に失恋なんかしてないし」
「前、渋沢先輩のことが好きって言ってたじゃん。先輩に彼女が出来た時、がっかりしてたじゃん」
「してないしてない!」
私は首を大きく横に振った。
私が写真部に行かなくなった理由。
単純にカメラに飽きたからでもあるが、もう1つ気がかりなことがあるからだ。
それは、同じ写真部にいる1つ年上の渋沢優哉先輩のことだ。
:12/06/08 20:59
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