―温―
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#316 [向日葵]
静流だった。

「……何?」

込み上げる寂しさ、悲しさ、嫉妬をなんとか噛み砕いて出た言葉がそれだけだった。

{あー。実はさ、今日帰れないかもしんないんだ。ちょっと父さんに代わってくれる?}

「……。」

ここで、源さんが帰って来ないって言ったら……静流は帰ってきてくれるのかな……。

受話器を持ったまま、そんな事を考えた。

⏰:07/09/13 01:16 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#317 [向日葵]
「あ……っ……。あのね……。」

{静流?まだ?}

その声でハッとした。
私は何を言うつもりだったんだ……。

{ゴメン双葉。もーちょっと待って。なぁ紅葉}

「源さんには私から言っとくから。」

ガチャン!

私は素早くそれだけ言って受話器を勢いよく置いた。

良かった……。彼女さんの声が聞こえて……。
聞こえてなかったら、私言ってた。

⏰:07/09/13 01:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#318 [向日葵]
私は……そんな事してはいけないのに。

どんよりしながらテーブルの上にある白い箱を見つめた。
見つめながら、壁に寄りかかって、力なくズリズリ床に座りこんだ。

*****************

ツー……ツー……。

電話を切られた携帯を見ながら静流はボーッとしていた。

何ショック受けてんだ俺……。
紅葉が冷たくあしらうのなんかいつもの事じゃん。

そっか……電話って表情見えないから、余計にか……。

⏰:07/09/13 01:24 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#319 [向日葵]
「静流……?」

そっと呼びかける声に静流は反応した。

「あ、ゴメンな。始めよっか。」

すると双葉はにこっと嬉しそうに笑って頷いた。

「じゃあ、はい。プレゼント。」

小さな袋を渡された。
小さなラッピングのリボンを外して中を出すと、革製のブレスレットが入っていた。

ウキウキしながら静流は手首にはめて、双葉に見せた。

「ど?!」

「ウン。似合ってる!」

⏰:07/09/13 01:29 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#320 [向日葵]
静流は双葉の頭を撫でて「ありがとう」と言った。
双葉は照れながらそそくさとテーブルへ向かう。

「じゃーん!静流の好きな物、作ってみましたー!」

「おー!すっげぇ!」

テーブルには唐揚げやサラダ、刺身と色々並んでいた。
そして端には中くらいの箱が。

「何それ。」

「あ、これ?これはケーキ!後で食べようね!」

「……。」

無言になる静流をどうかしたのかと見つめる双葉。

⏰:07/09/13 01:33 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#321 [向日葵]
その視線に気付くと、静流はそっと微笑んだ。

「いや、紅葉がな、ケーキは食べられるのかなぁって思ってさ。」

「……そう。…私、飲み物取ってくる。」

そう言って、双葉はキッチンへ向かった。
冷蔵庫の前では、少し落ち込む双葉の姿があった……。

ザ―――……

まだ梅雨は終わってないと言う様に、急に雨が降ってきた。

*********************

雨だ……とソファーで膝を抱えて寝転びながら思った。

⏰:07/09/13 01:37 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#322 [向日葵]
夕方から夜に近づいていく為か、雨雲のせいか、空は暗くなってきた。

リビングでは電気をつけてもないし、自然の光だけ。
と言っても、明るくないのは確かだけど。
雨の音が、家のシーンとした静けさを消してくれるからなんだかホッとする。

起き上がって、肩越しにチロリとテーブルを見る。

さっきと全く変わらない位置に、箱はあった。

これを見たら、静流はきっと申し訳なく思ってしまう。そして源さんは何故帰って来なかったのかと怒ってしまう。

⏰:07/09/13 01:42 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#323 [向日葵]
私はゆっくりと立ち上がって、箱に近づいた。

そして開ける。

綺麗な赤いイチゴと、デコレーションされた生クリーム……。

手を出して、ケーキへダイブさせた。
掌で、ケーキを掴む。

グチョッと音を立てながら、ぐちゃぐちゃになったケーキを口へ運んだ。
甘ったるくて、まだ完全な体じゃない私の体はケーキを拒否していた。

……でも。

「――……っんぐ!」

⏰:07/09/13 01:46 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#324 [向日葵]
吐くのを必死に堪えて私はケーキを飲み込んだ。
吐かない様に口元を押さえて、よろよろてキッチンまで行く。

コップに水をくんで、一気にケーキを流しこんだ。

そしてまた水をくむ。

これで、丸々一個ケーキを食べてやるつもり。

なんだか意地になってきた。

痛い……痛い……。
胸、凄く苦しい。

ケーキを口に含んでは、水を飲みを繰り返した。
でも一向にケーキは減らない。

⏰:07/09/13 01:54 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#325 [向日葵]
「ん……っう、うっ……。」

吐きそうな声に、鳴咽が混じった。
ケーキが……しょっぱい。

「うぅ……っ。ズッ。うぇぇ……。」

顔が、生クリームと涙でぐしゃぐしゃになる。
それでも、ケーキを食べる手も涙も止むことは無かった。

どうしてこんなに泣かなきゃいけないの?
私知ってる。
泣いても何も変わらない事。

だってずっとそうだった。

⏰:07/09/13 01:58 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


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