.。改]恋愛成就の洞窟で。.
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#222 [桔妁]
居間に出ると、微かながらに白粉と香袋(多分お雪さんのだろう)の匂いが鼻をくすぐる。
「何か、あったのかな…」
とりあえず、天弥の部屋である客間を覗く。
やはり居ない。
そして、確かに部屋の奥に立て掛けてあった刀がなかった。
念のために部屋を見回したが、やはりない。…余計に、嫌な予感がした。
:08/01/05 00:21 :SH903i :☆☆☆
#223 [桔妁]
「……天弥…」
そのまま表に出て、宛も無く走った。ただ身体が進むままに走った。
気がつくと山に居た。
日はまだ冬で短く、もう西の地へと落ちていた。
東を見ると、暗闇が追い掛けて来ている。…星が、それこそ宝石のように輝いていた。
と、近くから金属が混じり合う、リアルな音が聞こえる。
:08/01/05 00:27 :SH903i :☆☆☆
#224 [桔妁]
少し近くまで歩みよると、カチンと足に何かが当たった。
「…ん?」
拾い上げればそれは、小刀。血も何もついていない、輝く小刀だった。
そして、暗くなりつつあった視界が慣れてきた頃と同時に、目線を金属音の方へ向けた時、繭はその場に固まった。
「……!!」
そこには、生臭い臭いを漂わせて、一人の男を後ろに庇い複数の人と戦う天弥の姿があった。
:08/01/05 01:22 :SH903i :☆☆☆
#225 [桔妁]
白い雪は多分、紅く染まっているんだろう。
庇われている人は動かない。
しばらく見ていると、一人が天弥にやられた。
それに恐れて、あとの人達は逃げて行った。
「………」
:08/01/05 13:39 :SH903i :☆☆☆
#226 [桔妁]
繭はすかさず駆け寄る。
そして、天弥の目の前まで行った。
頬を思いきり叩こうと思った。
けど、天弥は泣いていて叩く気は、何故か失せた。
「…どうしたの?」
天弥の涙は、自分の涙も誘った。
:08/01/05 13:48 :SH903i :☆☆☆
#227 [桔妁]
ふと、さっき庇われていた人の方に目が向いた。
天弥もそちらを向き、冷たい雪の上に、何の躊躇もなくしゃがんだ。
そして、庇われていた人からは息がもうないようで、ピクリとも動かない。
先程より暗いので、繭には誰かも解らない。
そこで、やっと天弥が口を開いた。
「…繭、これ、な…頼、仲…」
:08/01/05 16:07 :SH903i :☆☆☆
#228 [桔妁]
繭は、耳を、天弥を疑った。
「頼仲くん…?え、ま、まさか…」
冗談っぽく笑うと、視界が暗闇に慣れた。
雪の上に、確かに見たのは…
本当に頼仲くんだった。
:08/01/05 16:11 :SH903i :☆☆☆
#229 [桔妁]
「え、な、なんで…」
一日の朝方、確かに気持ちがよさそうに眠る頼仲を見たのに。
「ただ、酔っ払いに絡まれたんだよ…母親の、墓参りの途中だと、思う…。………ごめん、ごめん頼仲…」
天弥が頼仲を抱きかかえて謝るとき、繭は顔を反らさずにはいられなかった。
:08/01/05 17:10 :SH903i :☆☆☆
#230 [桔妁]
――――
―
それから天弥は動かない頼仲を背負い、繭と山を下りた。
時は既に深夜に回っていたので余計に寒く、指はかじかんで、足は霜焼けで酷かった。
でも天弥はそんな事など頭中に無いだろう。
ただ、悔しさだけが腹を巡っていた。
繭は何も、励ましも、ましては話し掛ける事すらも出来なかった。
:08/01/05 22:55 :SH903i :☆☆☆
#231 [桔妁]
天弥の涙は、渇いていた。
繭の涙は、出なかった。出す事さえも出来なかった。
ただ、隣で天弥におぶられている頼仲くんは、本当に眠っているようだった。
天弥の歩くリズムの振動が息遣いによく似ていたからだろうか。
二人は、何の会話も交わさずに町へと着いた。
:08/01/05 23:01 :SH903i :☆☆☆
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