.。改]恋愛成就の洞窟で。.
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#302 [桔妁]
柳園の目の前には倉が。
そして彼女は知らずのうちにその中へと侵入することを許されて、中にいた。
そこに広がるのは薄暗い中に微かに光る太陽の光と、時たまに舞う埃、沢山積まれた雑貨たちであった。
ただそのどれにも、柳園は目に止めはしなかった。
ただ一番上に忘れられたように置かれた、その本だけを除いては。
:08/04/04 01:13 :SH903i :☆☆☆
#303 [桔妁]
「…これが、今回の……」
それを手にする所で、柳園は慶に肩を揺すられて目を覚ましてしまった。
「慶、駅着いたの?」
夢見後の柳園は少し人格が変わる。…先輩の慶にも容赦なしに素っ気ない無表情な顔で、冷酷に言い放つ。
「…何か、見たのか?」
それを知る部員は特に何もおかしいとは思わない故に言葉を続けた。
:08/04/04 01:17 :SH903i :☆☆☆
#304 [桔妁]
「ん、部長…。本でしたよ。なんかボロボロな倉の中に置かれた。」
徐々に戻りつつある自意識の中で、その夢の記憶を辿り、柳園は言った。
「早速、ミステリー?」
くくっと嬉しそうに部長は微笑んだ。慶は明らかに冷たく、部長を見た。
「…もしも部長が部長じゃなかったら蹴りたいっス。」
そして無邪気な部長にそんな言葉を浴びせた。
:08/04/04 01:22 :SH903i :☆☆☆
#305 [桔妁]
―――――
―
寒い、寒い夕方だった。
なのに身体はポカポカしていて、家に居る所ではなかった。
そしてそれに付け加えて苛々の止まらない繭はとうとう家を出た。
「外なのにポカポカするっ………」
向かうは無意識ながらにきちんと意志を持ち、頼仲の墓であった。
:08/04/04 01:25 :SH903i :☆☆☆
#306 [桔妁]
死人に口無し。
頼弦に話すのも何か恥ずかしいので頼仲の所へ向かい、独り言を喋ろうと思っていたのであった。
――――
―
暁と別れ、再び落ち合った頼弦に酒を持たされて言われた。
「…天弥殿、今日は月が綺麗だから外で呑もう。」
そんな話は繭の知らない事。
:08/04/04 01:29 :SH903i :☆☆☆
#307 [桔妁]
―――…。
「…ははは、何か変だよねぇ…ごめんね、頼仲くん…」
繭はといえば、頼仲の墓前で泣き笑いをしていた。
気が付けば、夏が過ぎ秋が流れて冬を越してきていた。
一周分の季節を此処で、過去で過ごしてきていた。
皆と、天弥と。
:08/04/05 00:19 :SH903i :☆☆☆
#308 [桔妁]
「…早川先輩、もう表情が思い出せないんだもん…」
しばらく色々と繭は墓石(大きな岩だけど)に語りかけていれば、不意に後ろに気配がした。
繭はそちらの気配を確認しようと振り向こうとした。
だが、驚きの声によりそれは止められた。
「振り向くな、」
「―――…!?」
:08/04/05 11:28 :SH903i :☆☆☆
#309 [桔妁]
―――――――
――
「寒っ!!頼弦山ん中に用事があるとか言ってたけど…何だ?」
しばらく二人で呑んでいた訳であるが、突然頼弦は山の中へと入って行った。
確かそっちは頼仲の墓…。
「俺放って、弟の墓参りか!?」
いても立ってもいられなくなってきた天弥は墓へと向かった。
:08/04/05 11:43 :SH903i :☆☆☆
#310 [桔妁]
――
―――――――――
(そん、な…)
繭は言われた直後から微動さえ出来ない状況に居た。
「そうそう、振り向いたら、いけんよ?……繭、」
少し、訛ったような口調が繭の耳に入ってくる。
「な、…よ、頼仲くん……!?」
:08/04/05 12:18 :SH903i :☆☆☆
#311 [桔妁]
繭の心臓は以外にも静かに、静かに動いていた。
「何、泣いとるんじゃ?…やっぱり天弥じゃなくて、わしにしておけば、繭は泣かさないのに。」
「い、いやだな…頼仲くんはもう死んじゃってるし…。」
不思議と、普通に話が出来た。
…頼仲の声は少し低く聞こえたが、温かいものであった。
:08/04/05 12:25 :SH903i :☆☆☆
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