Castaway-2nd battle-
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#231 [我輩は匿名である]
口元に微かに笑みを浮かべながら、迫る拳を切り落とすつもりで剣を振るう。

「…!?」

だが肉を切る手応えは訪れず、代わりに刀身が弾かれるような感覚と鉄を打ったような音が聞こえた。

振るった剣に敵の拳ははね飛ばされはしたものの、切り落とすまでは至っていない。
それどころか、みるみるうちに手首についた傷が治っていく。

「再生…に、硬質化?」

シーナの狼狽に、右の敵が頬を歪ませる。
もう手首の傷は治っていた。よく見れば、その皮膚は僅かに鉛色の光沢を発している。
背後には左の敵がつき、同じく鉛色の拳を構えていた。

⏰:09/09/08 16:52 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#232 [我輩は匿名である]
「うーむ、厄介じゃのう…」

背中越しにリーザの気配を感じながら、ハルトマンは3人を相手にしていた。

3人とも、鉛色の四肢を繰り出してくる。
絶え間なく続く攻撃を弾きながら、ハルトマンはシーナの方を見た。

血気盛んに飛び出したシーナは、敵2人とパリングの嵐を演じている。
拳と刀がぶつかる度に、らしからぬ金属音が響いていた。

「向こうもか。レンサースキルは1人1つだったはずじゃが…これはやはり…」

目の前に迫る蹴りに切り返す。
拳ならず足も金属的な音を発し、大したダメージは与えられない。
むしろ殴った拳が痛かった。

⏰:09/09/08 16:52 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#233 [我輩は匿名である]
「これは劣勢…でしょうかね」

ハルトマンとシーナがパリングの嵐を演じているのとは対照的に、リーザ側は静かだった。

リーザが相手にしているのは、最初に倒れなかった最後の1人。
その敵は、リーザの突きを素手で掴んでいた。

刀身を握り折られる前に、袖口に仕込んであった細剣で目を狙う。
不意をついたその一撃を、野性動物のような反応と俊敏さで避けて、敵はリーザと間合いをとった。

⏰:09/09/08 16:53 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#234 [我輩は匿名である]
敵の気配の中に、何処かで感じたような違和感がある。

「この第六感に来る感じは…まるで…」

ひとつの体に複数のスキル。
誰かがスキルを使っている時の同類にしかわからない感じが、歪なものとなって伝わってくる。


そう、まるで半年前に見た、グラシアのように。
 

⏰:09/09/08 16:53 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#235 [我輩は匿名である]
 
「3人とも下がりなさい!!」

ハルトマン、リーザ、シーナ。それぞれの考え事を、高い声が吹き飛ばした。

声のした方を見ると、1台のシーマが停車している。
開け放した窓から、なにやら筒身のようなものが真っ直ぐこちらに伸びていた。

「あれは…有紗さん?」
「なるほどのう…」
「さっすが!」

状況を把握した3人が、即座に散開し離脱する。

意図に気付いた敵が動き出すのと、有紗が徹鋼弾を放つのは同時だった。

⏰:09/09/08 16:54 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#236 [我輩は匿名である]
狙いはハルトマンとリーザがいた辺り。
直撃せずとも、至近距離で着弾すれば衝撃その他諸々でどうにかなる。

思惑通り、港の舗装を砕き砂煙を巻き上げて着弾した一撃は、その周辺にいた敵を僅かな間混乱させた。
ほんの十数秒だが、それだけで十分。

「乗って!!」

筒身が引っ込み、代わりに有紗が運転席から顔を出し叫ぶ。
言われるまでもなく、といった感じに、3人は一斉にシートに乗り込んだ。

後部座席のドアが閉まるか閉まらないかのうちに、有紗が勢いよくシーマを発進させる。
砂埃が晴れ敵が立つのが見えていたが、それも遠ざかり、やがて見えなくなった。

⏰:09/09/08 16:54 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#237 [我輩は匿名である]
「ふー、危なかった」

「あれは一体何だったのでしょう…?」

ある程度距離を稼いでからスピードを落とし、車は直線道路に入った。

「それにしても有紗、いいタイミングだったぞ」

「実は内藤ちゃんに言われてね♪」

「内藤さん…か。何か知ってるのかな?」

シーナが小首を傾げる。
有紗は、小さなドライブインで車を停車させた。
降りるやいなや、シーナが自販機に向かう。

「ひとつの体に複数のスキル…まるでグラシアのようでした。それが何人もいて…」

「複数のスキル…?」

「間違いないぞ、有紗。『SED』じゃ」

「…!」

⏰:09/09/08 16:55 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#238 [我輩は匿名である]
有紗が睨み付けるようにハルトマンを見る。
ハルトマンはその視線をかわし、笑みを浮かべながら話を続けた。

「確認できたのは2パターンじゃ。携行できるまでは進んでいないじゃろうから、恐らくあのタンカーの中か…」

「…ふふふ」

有紗が目を臥せ、小さく笑う。
それを見たハルトマンも、くっくと含み笑いをした。

「悪いが、根が性悪なもんでの。なに、情報料などは取りはせんよ」

「ありがとう、予定が変わったわ。おかげで暫く退屈せずにすみそうね♪」

⏰:09/09/08 16:55 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#239 [我輩は匿名である]
有紗とハルトマンの会話を横で聞いていたシーナが思考を巡らせる。

「SED…何処かで聞いたことがあるような無いような…」

「どうしたの、シーナ?」

「お姉ちゃん、SEDって聞いたことない?」

「……さぁ」

「うーん、聞き覚えはあるんだけどなぁ」

目的の知れぬ敵との戦闘で、1つのキーワードが浮き彫りになる。
SEDという言葉を知るリーザも、この時はその真の意味を知らない。

故に、シーナの存在が敵にとってキーパーソンとなる事を知らない。
それと同時に数少ない切り札になりうる事も知らなかった。

身近にいる、ある人を除いて。


 

⏰:09/09/08 17:06 📱:P903i 🆔:jTdFI3VM


#240 [我輩は匿名である]
 



時刻は深夜3時になろうかというところ。
市内の中央を横切る幹線道路の脇に点々と灯る街灯を除き、街の明かりはほとんど消えている。
目立った騒音といえば時たま市内を通り抜けるトラックやタクシーの走行音が聞こえてくるのみで、街全体が静まり返っていた。

首都圏から少し離れた、いわゆる生活都市圏である歌箱市では、深夜に外を出歩く者はあまりいない。酔っ払って帰ってきたサラリーマンや夜勤業の者がいる程度だ。
爆音低速で改造車を乗り回し街中を徘徊する人達とも、今のところ無縁である。

⏰:10/03/28 17:06 📱:P08A3 🆔:swSqV4NM


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