Castaway-2nd battle-
最新 最初 🆕
#1 [◆vzApYZDoz6]
スレ立てとかないと忘れそうなんで…

これで2作目です
初作『Castaway』↓の続編です
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/6763/

感想はこちらに
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3130/

ちなみにコテコテのバトルファンタジー小説です
それから多分、かなり更新が遅くなるかもしれませんorz
数少ない読者さんに申し訳ない…

⏰:08/02/22 18:19 📱:P903i 🆔:mObuoUVw


#2 [◆vzApYZDoz6]
時系列は同じくして、地球とは違う次元にあるもう1つの世界。
別次元の地球とも言えるその世界は、その世界の住人からはディフェレスと呼ばれている。

ディフェレスの環境については、およそ地球と大きな違いは無い。しかし、ディフェレスには地球の人間に無い、特殊な力を持つ人間が存在した。
DNAの二重螺旋構造に特殊かつ独自の配列パターンを持ち、その遺伝子から発せられる特異細胞により、その身に様々な能力を保持・発現する人間。

『普通の人間とは違う』事から、彼らはレンサーと呼ばれた。

⏰:08/02/22 18:47 📱:P903i 🆔:mObuoUVw


#3 [◆vzApYZDoz6]
彼らレンサーがいつ頃から出現したのか、それは分からない。
遥か昔には人は皆レンサーだったとする説、何らかの原因による突然変異、異種生物との交配。
諸説は様々だが、今現在確かにレンサーは存在している。

歴史上、彼らの能力はとても重宝された。
何もない所から火を起こし、水脈の在処を探し当て、天気を予測し聞こえないものを聞く。
彼らのそんな多種多様な能力は、生活の役に立ち、戦の役に立ち、人々の役に立ったからだ。
それは科学が爆発的に進歩した今でも変わらない。

そして極少数だが、地球にもレンサーは存在した。

⏰:08/02/23 00:51 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#4 [◆vzApYZDoz6]
地球人のレンサーについては、更に謎が多い。
能力を持つ人間自体が少ない上に、能力を自覚し発現できる人間も殆どいなかったので、地球の歴史にはレンサーに関するものは全く残されていない。

ディフェレスの歴史にも、地球人レンサーの記録は僅かしかない。
その僅かな記録に残る地球人レンサーの殆どは、ディフェレスの人間によって地球からやって来た。
故に呼び出した地球人レンサーの顛末は、ディフェレス側の記録に全て残っている。

だが、1人だけ後生の記録が残っていない地球人レンサーが居た。

⏰:08/02/23 01:04 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#5 [◆vzApYZDoz6]
その人は、最初にディフェレスに来た地球人。
ディフェレスがある危機に曝された時に現れて、ディフェレスを救ったと伝説史に名を残すレンサー。
性別はおろか本名すら分からないその人を、ディフェレスの人々は『ジオ』と呼称した。

ジオについて分かっている事は1つだけ。その身に保持する強力な能力。
自由に空間を創造する能力。そして、創造した空間や既存空間への『通行』を支配する能力。
能力を使われた人間は違う空間に飛ばされ、その世界から遭難する。キャストアウェイと名付けられたその能力。

現代の地球に、その伝説の力を持つ1人の女の子がいる。

⏰:08/02/23 01:20 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#6 [◆vzApYZDoz6]
ジオの出現により、ディフェレスは地球、地球人レンサー、そして地球人レンサーの持つ強力な能力の存在を同時に知る事になる。
危機を乗り越えた当時はジオと地球は神聖視されたが、平和になってしまえばそれを忘れるのが人間。
ディフェレスは地球人レンサーを探し、呼び出し、能力を本人の意思と関係無く様々に使った。

やがてそれでは飽き足らず、その能力を我が身に入れようとする者が出始めた。彼らはある研究機関を秘密裏に立ち上げ、地球人レンサーとその能力の研究を行った。
研究の結果、能力を司る遺伝子に地球人だけに見られる特殊な細胞が発見された。

⏰:08/02/23 01:28 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#7 [◆vzApYZDoz6]
そして、その細胞を遺伝子に組み込まれた1人の子供がいた。
子供はその身に保持する細胞により強力な能力を発現。
子供はある時、謀反を企てる。
過ぎた力が生む業火。研究者達はその業に焼き払われた。

青年になったその子供は、やがて世界を手に入れようと暗躍する。
彼…グラシアが持つ能力により戦力は着実に肥大していく中、彼は最後の仕上げに地球人レンサーの能力捕縛を目論見るが、それは成功せず彼は失脚する。

その際に捕縛対象になったある男女の高校生。
1人は、伝説の力を持つ女の子。
もう1人は、やがて訪れるだろう危機の元凶からディフェレスを救った男の子。

⏰:08/02/23 01:41 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#8 [◆vzApYZDoz6]
「…物体の落下速度は落下距離に比例して大きくなる。これを求める式として落下し始めてからの時間x秒と落下距離ymとの間に…ん?」

ここは歌箱市にある、特に何の変哲もない普通の高校の、数学の授業中の教室。
勿論、変哲のある普通じゃない高校なんてありはしないが、通う人や働く教師が普通とは限らない。
今授業を進める数学教師こそ、まさにその『普通じゃない』人間の1人。
彼は、半年前にディフェレスの存亡をかけて戦った者達の内の1人。
今ではこの高校で数学教師と3年1組の担任を務めている彼の、本当の名はバニッシ。
地球では内藤 篤史と名乗る、異世界の住人。

⏰:08/02/23 02:08 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#9 [◆vzApYZDoz6]
何事もなく平和に進む授業中の教室、その窓際の机に突っ伏して寝ている、1人の男子生徒がいた。

「Zzz……」
内藤「…また川上か。…えー、落下距離ymとの間におよそy=5xの2乗の関係がある。落下速度の変化を求めるにはこの関係をf(x)=5xの2乗の関数に…」

授業中にも拘わらず爆睡する男子生徒の名は、川上 京介。
その身に保持する強力な能力のお陰で、半年前にディフェレスの存亡に巻き込まれた地球人。
ディフェレスの危機の元凶を倒したレンサー。
今では自分の能力を自分で捨て去り平和に授業を受けている、2人目の『普通じゃない』人間。

⏰:08/02/23 02:22 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#10 [◆vzApYZDoz6]
半年前の因果もあり内藤は京介の卒業まで担任を務める予定だが、当の京介といえば最近は居眠りばかり。
本当に卒業できるのか謎だが、その因果のせいか内藤にはどうにも怒る気になれない。
3年が始まって最初の頃は隣の女子生徒が起こしてくれたが、あの様子ではもうそれも無さそうだ。

「Zzz…」
内藤「…えー、関係を使うんだが、今日は瞬間の値ではなくxが一定数変化する時の平均変化率を…なんたらかんたら」

女子生徒の名は浅香 藍。
京介と共に半年前の戦いに巻き込まれ、その身に宿す伝説の力のせいで誘拐までされた、3人目の『普通じゃない』人間。

⏰:08/02/23 02:36 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#11 [◆vzApYZDoz6]
藍も、半年前の戦いの後に自分で能力を放棄した。
今では男女として良い仲である京介と共に、学生として平和に授業を受けている。
最近は京介と一緒に居眠りばかりだが、やはり例の因果か内藤は藍も起こす気になれなかった。

内藤「全くあいつらは寝てばかりだな…」

京介はともかく、藍は寝てばかりいるが成績は無駄にいいので、何とも説教のし甲斐がない。
内藤は、もしかしたら地球滞在が1年延びるかもしれないな、とわりと本気で考えながら、微妙な表情で授業の終わりを告げるチャイムの音を聞いた。

⏰:08/02/23 02:54 📱:P903i 🆔:PHS6DFog


#12 [◆vzApYZDoz6]
陽もだいぶ西に傾いてきた時間。
高校の1階。独特の匂いが漂う保健室の奥のから、カチャカチャと陶器が擦れる音がする。
カップに飲み物を注いでいるのだろうか。やがて白い蒸気が音の出所からゆっくり上がり、辺りに広がる紅茶の香りが保健室の薬品臭を消し去った。
陶器の音が止む。
湯気が溢れる3つのティーカップを乗せたお盆を両手で持って、白衣を纏った1人の女性が奥から姿を見せた。

「本当に京介ちゃんと藍ちゃんは寝てばっかりなんだからね♪」

彼女はディフェレスの住人で、本名はアリサ。
地球では内藤 有紗と名乗る、4人目の『普通じゃない』人間。

⏰:08/02/24 03:05 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#13 [◆vzApYZDoz6]
有紗は半年前の戦いでは、母親を人質に取られていた為に京介らと敵対していた。
今ではすっかり内藤と仲睦まじく、半ば無断で地球に来て内藤と同棲生活を送っている。
ちなみに苗字は『内藤』だが、結婚はしていない。

有紗「寝るのはいいけど、もう少しバレないように寝たら?♪」

声のイントネーションが高いのは彼女の癖。
そのせいでどこか楽しそうに聞こえる独特の声を発しながら、保健室の片隅にあるテーブルにお盆を置く。
熱い紅茶が淹れられたカップを自分の席の前に1つ置き、もう2つを前の席に座る2人の前に置いて、有紗は席についた。

⏰:08/02/24 03:12 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#14 [◆vzApYZDoz6]
京介「どうも。…数学は寝るなっていう方が無理だよ」
藍「左に同じくです。紅茶、いただきますね」
有紗「どうぞー♪まぁ確かに数学はしんどいわねぇ♪」
京介「だろ?だから寝てるの」
藍「京ちゃんは数学以外でも寝てるじゃない」
京介「そりゃお前もだろ」

席に座り紅茶の入ったカップを啜るのは京介と藍。
2人は授業が全て終わった放課後にこの保健室で、怒る気のない内藤に代わって有紗に説教を受けていた。
これはほぼ毎日の事で、今では説教とは思えないような雑談になっている。
そのおかげもあってか、京介と藍、保険医である有紗の3は、実に仲が良かった。

⏰:08/02/24 03:14 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#15 [◆vzApYZDoz6]
有紗に関しては、この説教タイムの為に何故か3人分の紅茶と茶菓子まで持参するほど。
この説教と題した雑談は、内藤の業務が終わり有紗が帰る夕方6時頃まで続く。
放課後の3人での雑談は、殆んど日課のようになっていた。

有紗「藍ちゃんは寝てばっかりなわりに勉強できるわよねぇ♪家で勉強してるのかしら?♪」
藍「そんなにしてないですよ」
京介「右に同じく。あっ、ケーキ貰っとこ」
有紗「あら、言ってる事が藍ちゃんと一緒♪仲良いわねぇ♪」
京介「それはもう、愛のなせる技だよ」
愛「何言ってるのよもう!」
京介「サーセンw」
有紗「…本当に仲良いわね…♪」

⏰:08/02/24 03:17 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#16 [◆vzApYZDoz6]
雑談の最中に保健室のドアが開き、内藤が姿を現した。

有紗「お疲れさまー♪」

有紗が内藤に飛び付く。
内藤は特に避けようともせず腕に抱き付かれ、そのまま紅茶のカップと茶菓子を片付け始めた。

京介「…2人も負けず劣らず仲が良いと思うけど」
藍「そうよね」
内藤「いや一応お前らも教え子だし、俺もどうかと思うんだが…」
有紗「そんなのいいじゃない♪」

終始微妙な顔をする内藤がカップと茶菓子の片付けを終え、いつも通り解散する。

この時はまだ気付いていなかった。
半年前の戦いは、まだ終わっていない事に。
この平和な生活がもうすぐ終わる事に。

⏰:08/02/24 03:19 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#17 [◆vzApYZDoz6]
冷気が、道が、白い景色が、次々と流れていく。
ここはもう1つの世界、ディフェレス。その中の北国ローシャ。
それはマフラーの排気熱を纏い、吹き荒ぶ凍嵐を切り裂いて、雪煙を撒き散らし走っていた。

胸部と脚部の2つのコクピット。流線型の人形フォルム。漆黒に染められた巨大なアルミフレーム。
それは、合体した2台のバイクだった。

あの戦いから半年。
一度解散したメンバーが再び集う。
兄弟が駆る鉄の巨人は、双子の女剣士と諜報員を乗せて、かつての決戦地へ走っていた。

本来なら味方である1人の人間と、剣士が忘れてきた1本の刀を回収しに。

⏰:08/02/26 02:05 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#18 [◆vzApYZDoz6]
ジェイト兄弟は半年の間に、バイクを大掛かりに改造した。
合体した状態では、胸部と脚部それぞれのコクピットは1人乗りだったが、装甲展開時に後部座席をコクピットに取り込むようにした。
結果、今の巨人は6人乗り。
胸部に兄弟の弟ジェイト・ブロック、双子の剣士シーナとリーザ、脚部には兄弟の兄ジェイト・フラット、ラスダン。
自動操縦を可能にしたおかげで、普通の移動ぐらいならば運転は不要になった。
兄弟は腕を組んでふんぞり返り、流れていく外の景色をボンヤリと眺めている。

こうして眺めていると、いつかの要塞は思ったより街に近い事に気付く。

⏰:08/02/26 03:15 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#19 [◆vzApYZDoz6]
半年前の戦いの最終舞台となった要塞基地。
聳え立つ山々に囲まれたそこへ行くには、山の中腹にあるトンネルを通る他に道はない。
そのトンネル付近からは、靄に隠れながらも薄ぼんやりと近くにある街の全景が見えている。
バイクに翼でも付けて空から行けば早かったかな、等と栓の無い事を考えている内に、巨人はトンネルに入った。

フラット『もうすぐだな』
ブロック『うん…』

指向性の通信マイクでその会話を交わしたきり、通信はない。
5人全員がどこか複雑な気分を抱いたままで押し黙り、それでも巨人はその漆黒の体躯をトンネルの闇に同化させ、長い無機質にトンネルを走り続ける。

⏰:08/02/26 03:17 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#20 [◆vzApYZDoz6]
やがて見えてきた出口の、小さな光。
それはすぐに全体に広がり、暗闇続きの視界を白ませる。
目が慣れてくる頃には、巨人の足は止まっていた。

周囲には切り立った山々が聳え立つ。
自然が作り出した盆地の中央に、人間の手によって作られた基地。
その基地の中央に構える要塞は、今はミサイルと爆弾により廃墟と化している。
春先とはいえ北国で、更に標高も低くはないそこは、まだ雪に覆われていた。

巨人がゆっくりと地に膝をつく。
胸部、脚部のコクピットの前面をカバーしていた装甲が前に開き階段状になる。そこから、5人が寒さに身震いしながらも降り立った。

⏰:08/02/26 03:19 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#21 [◆vzApYZDoz6]
ブロック「…寒いな」
リーザ「寒いですね」
フラット「もうちょい厚着すりゃ良かったな」
シーナ「あら、冷暖房完備にしたからコートなんて要らねぇぜ!って言ったのは誰だったっけ?」
フラット「降りなきゃいけない事忘れてたんだよ…」
ラスダン「さ、早いとこ行こう」

ラスダンが肩を竦めながら、廃墟要塞へ無防備に歩き出す。
シーナとリーザも平然とそれに続くが、ここは元要塞。どこに敵がいるか分からない。

ブロック「おい、いきなり行くなよ。危ないだろ」
ラスダン「大丈夫、誰もいないよ。少なくともこの基地周辺はね」
ブロック「はっ?…あ、そういやそうだったか」

⏰:08/02/27 02:41 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#22 [◆vzApYZDoz6]
ブロックが今更ながらラスダンの能力を思い出す。

その身に特殊な能力を保持するレンサー。
その能力は総称してレンサースキル、揶揄してスキルと呼ばれる。

ラスダンのスキルは『サイレントハッカー』。
特定した場所の様子を、頭の中で映像として見る事ができる。
遠い場所ほどノイズが掛かるが、目の前の生き物なんかなら胃の中身までも見る事が可能。
一定範囲内の全体視も可能で、ラスダンが頭の中で見ているこの基地の全景に、ここにいる5人以外の人影は無かった。
一応ブロックが胸部コクピットに戻り、動体感知器を確認するが、やはり敵は居なさそうだ。

⏰:08/02/27 02:42 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#23 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「そう言う事。さ、早く行こう」

ラスダンが意地悪く笑いながら、再び歩を進める。
そもそもラスダンを連れてきたのは、そのスキルで探し物を見つけるためだ。
サイレントハッカーを使えば、瓦礫の中にある刀や人など容易に発見出来るだろう。
発見出来るだろうが。

ラスダン「クルサは…生きていないかな、さすがに」

ラスダンの表情が少し曇る。
クルサは半年前の戦いでグラシアに体を支配され、生きた人形とされていた。
最終的に支配は解けたが、ミサイルと爆弾で潰れる要塞の瓦礫からラスダンとハルキンを守るため、その身を犠牲にした男。

⏰:08/02/27 02:43 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#24 [◆vzApYZDoz6]
クルサは、ラスダンの目の前で瓦礫に被われた。
普通に考えて生きてはいないだろうし、そこにあるのは悲惨に潰れた遺体だけだろう。
いや、半年も経っているのだから、既に肉は朽ち骨となっているかも知れない。
だが、身をはって助けてくれた人間をそのまま放置する事はできない。
せめて、手厚く葬ってやり、墓標の前で礼を言いたい。
恐らくハルキンも同じ気持ちで、探してこいと言ったのだろう。

ラスダン「…先に刀の方を探そう」

探し物は、恐らくすぐに見つけられる。
ラスダンは、感傷に浸っている今にクルサの遺体を直視すれば、泣きそうな気がした。

⏰:08/02/27 02:44 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#25 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「なんでよ?」
ラスダン「いいから」

気分的に何と無くだが、泣いてる所は見られたくなかった。
シーナはそれを分かっているかのように、ふふっ、と鼻で笑う。

シーナ「全く変なとこで臍曲がりねー」
ラスダン「いいからさ。どこに落としたの?」
シーナ「あれは確かハル兄弟と戦った時だったから…右側手前の連絡通路じゃないかな」

シーナが記憶の糸を辿る。
ハル・ラインに心臓を貫かれ、普通なら死ぬ場面。
ほとんど自分の意思とは関係なく立ち上がり、自分の限界を越えた能力で傷は癒え、いつの間にか手に握っていた刀は血を吸い染まっていた。
あれは一体何だったのだろうか。

⏰:08/02/27 02:45 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#26 [◆vzApYZDoz6]
ただ、自分の姉であるリーザは、この半年間ずっと同じ事を言っていた。
忘れた刀を早く取りに行こう、と。

シーナ「ま、いっか」

刀が手元に戻ってきたら姉に聞いてみよう。
そう考えた所で刀を忘れたと思しき場所に着いたので、さっさと思考を打ち切った。

連絡通路は1階にある。上に屋根も無いので、瓦礫はあまり積もっていなかった。

フラット「瓦礫で潰れてるんじゃ…とか思ってたけど、大丈夫っぽいな」
シーナ「まぁ、潰れてても打ち直すし大丈夫よ」
リーザ「…瓦礫があったとしても潰れてない筈ですよ」

リーザが呟いた言葉の意味を、シーナはその時はまだ理解できなかった。

⏰:08/02/27 02:46 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#27 [◆vzApYZDoz6]
ラスダンが目を閉じて、頭の中で瓦礫の奥を探る。
シーナとリーザはその様子を黙って見つめ、ジェイト兄弟は興味無さげに明後日のほうを向いていた。

5分程経っただろうか。
ラスダンは相変わらず目を閉じたままで、何も言わない。それどころか、眉根を寄せて口をへの字に結び、どんどん表情が険しくなっている。
やがて浅く長い溜め息吐き、頭を掻きながらゆっくりと瞼を上げた。

ラスダン「駄目だ」
シーナ「へ?」
ラスダン「いくら探しても刀が見つからない」

ラスダンは言いながら手を前にかざし、ノートパソコンを具現化。
キーボードを少し叩き、2人に見せるように画面を向けた。

⏰:08/02/27 02:47 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#28 [◆vzApYZDoz6]
画面に写っていたのは瓦礫の内部。
だが一部分だけ、円形に切り取ったようにぽっかりと瓦礫が無い。
そしてその周りに積もる瓦礫も、一部分だけ同様に瓦礫が無い。
まるで円形の部分から瓦礫を砕いて脱出したかのように、瓦礫の無い部分が一筋の道となって続いていた。
そして何より、円形の部分の中央に、どす黒く変色し固まった血溜まりがある。シーナはすぐにそこがどこか分かり、隣のリーザと顔を見合わせた。

画面に写されているそこは、シーナとハル・ラインが戦った場所。
刀を忘れてきた場所。
その映像が示す事。
刀は、誰かによって持ち去られた可能性がある、という事。

⏰:08/02/27 02:48 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#29 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「どう思う、これ?」
シーナ「さぁ…でも刀が勝手に動くわけないしね…」
リーザ「…あの刀が人の手に渡ったら不味いわ」
シーナ「…お姉ちゃん、何か隠してない?」

シーナの刀。それは昔リーザから譲り受けたもの。
だがリーザがその刀を振るっていた姿は、シーナは見たことがない。
そしてシーナも、その刀を使ったのは半年前の戦いが初めて。
元々性能は抜群だったが、リーザからは大事に保管しておいてと言われたからだ。
あの刀は、血を吸っていた。血を吸って強くなっていた。

なぜ、大事に保管すべき刀を、血を吸い上げる得体の知れない刀を、シーナに渡したのか。

⏰:08/02/27 02:48 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#30 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あの刀…一体何なの?そう言えば銘も無かったわね」
リーザ「……」

リーザは答えず、パソコンの画面を睨んだまま、顎に手を当てている。
顔は少し青ざめている。
その様子を見て話したがっていないと思ったのか、ラスダンがノートパソコンを閉じて口を割った。

ラスダン「とりあえず話は後。まだクルサも探さなきゃいけないしね」

そう言って歩き出す。ジェイト兄弟も同様に、クルサが埋まっている地点へ向かう。
そこへ着くまで、リーザは終始押し黙ったまま。
それは、後に来るかもしれない災いを否定する、隠蔽ための沈黙だった。

⏰:08/02/27 02:55 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


#31 [◆vzApYZDoz6]
1階ロビー跡付近に到着し、ラスダンが再び目を閉じる。
さっきの連絡通路とは違い、ここは瓦礫だらけ。
探すのにも一手間いるし、見つけて瓦礫を掘り起こすのは大手間だろう。
それを考えてか、ジェイト兄弟がバイクを取りに戻っていった。

5分経った。ジェイト兄弟が巨人を走らせ戻ってきたが、ラスダンは依然目を閉じたまま。
更に5分。ラスダンはやはり目を開けない。それどころか、顔はどんどん険しくなる。
刀を探していた時と同じだ。
やがてラスダンがゆっくりと瞼を上げる。
まさかいないのでは、と誰もが抱いた思考は、的中した。

ラスダン「…駄目だ、見当たらない…」

⏰:08/02/28 05:08 📱:P903i 🆔:cgwrsj8w


#32 [◆vzApYZDoz6]
ジェイト兄弟が巨人で瓦礫を吹き飛ばしても無駄だろう。
万が一クルサが居たら、と考えても主砲一発は使えないし、何よりラスダンの能力なら目の前の瓦礫の大部分を透視できる。
クルサがそこに居ないのは間違いない。
問題は、なぜクルサ、そして刀が無いのか、という点。

シーナ「クルサが刀を持ってどっか行った、とか?」
ブロック「まさか。瓦礫の山に飲まれたんだぜ、普通動けないだろ」
フラット「と言うことは…誰かが何かの目的でクルサと刀を持ち去った。とか…」

その仮説が成り立つとすれば、持ち去ったのは一体誰なのか。
5人が揃って瓦礫を見上げた。

⏰:08/02/28 05:09 📱:P903i 🆔:cgwrsj8w


#33 [◆vzApYZDoz6]
目の前の瓦礫は、元は要塞。
半年前の戦いで敗れたグラシアが何処かから発射させたミサイルによって崩壊した。
今の今まで考えていなかったがそもそもあのミサイルは一体何処から発射されたのか。
いや、考えた者ならいるかもしれないが、ただ発射用の基地があっだけたと思ったのだろうし、それが妥当だ。

しかし、この要塞に似た施設が幾つもあるのかもしれない。ミサイルを発射したのはその施設の1つかもしれない。
その可能性は高かった。グラシアは世界征服を企んでいた。本拠要塞1つで済む組織な訳がない。
同じような要塞なり研究所なりが存在しても、全くおかしくない。

⏰:08/02/28 05:10 📱:P903i 🆔:cgwrsj8w


#34 [◆vzApYZDoz6]
組織というのは、大きければ大きいほど潰れにくい。
小さな組織であれば命令系統さえ潰せば瓦解するが、大組織となると違う。
命令系統が無くなっても、必ずその代わりを為す者が決められている。
そして代わりの者は普段の活動では表側に顔を出さない。
グラシアのミサイル発射は、命令系統である司令官変更の引き金。
それはつまり、グラシアが倒された事は他の仲間と、ラスダン達が知らない新たな組織の司令官に、既に知れている、という事。

シーナ「奴らの仲間…?だとしても、クルサや刀を持ち去る必要は無いんじゃない?」
ラスダン「……もう1つ、気になる事があるんだけど」

⏰:08/02/28 05:12 📱:P903i 🆔:cgwrsj8w


#35 [◆vzApYZDoz6]
ラスダンが眉を潜め、瓦礫を見上げて呟く。

ラスダン「……グラシアも見当たらないんだ」

全員が、絶句する。
屋上で藍を撃ち殺そうとしたところを京介に体当たりで阻止されたグラシアは、その勢いで屋上のフェンスを破って落下した。
要塞内部の爆発とミサイルがその直後にあったので、誰も彼の生死を確認していない。
彼はダメージを負った上に7階建て要塞の屋上から落下したのだ。普通なら確認しなくとも死んでいるだろう。

だが、もし生きていたら。

彼は当然仲間を呼んで、体を治療し傷を癒す。
そして自分を殺そうとした者達に、いつか必ず報復を実行するだろう。

⏰:08/02/28 05:13 📱:P903i 🆔:cgwrsj8w


#36 [◆vzApYZDoz6]
彼もレンサーで、支配者と呼ばれる階級を持っている。
支配者のスキルは、身体強化が自動で付加される。
グラシアが生きている可能性は低くなかった。

要塞には数え切れない程の監視カメラがあった。
グラシアがシーナとハル・ラインの戦いを見ていたら、忘れていった刀を持ち帰り、その特殊な力を研究する。

クルサが奇跡的に生きていたら。
恐らく仲間達に捕まり、またグラシアに支配され利用される。
もしかしたら、見せしめに殺されるかもしれない。

ラスダンが、脳裏に浮かんだ嫌な想像を必死に振り払う。
だが、漠然としたは不安感はどうしても消えなかった。

⏰:08/02/28 05:14 📱:P903i 🆔:cgwrsj8w


#37 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「…とりあえず戻ろう。会長に報告しないと」

会長というのは、グラシアが司令官の組織『ウォルサー』に対抗すべく生まれた組織『バウンサー』の司令官、ハルキンの事。

ハルキンは地球人レンサーの研究所でグラシアと共に地球人の細胞を組み込まれた人間。
ハルキンは強い能力を発現できず、失敗作として処分された。
しかし死にはしなかった。
そしてバウンサーでは、グラシアを唯一知る事と努力した末開花した強さで、絶大な信頼を得ていた。
ラスダンは彼なら何とかする、と確信を持っていた。

ハルキンが今、その心を揺れ動かされる人と相対している事など知らずに。

⏰:08/02/28 05:15 📱:P903i 🆔:cgwrsj8w


#38 [◆vzApYZDoz6]

時間は少し遡り、ちょうどラスダンらが要塞跡地に到着した頃。
ハルキンは左手に花束を持ち、愛犬のスティーブを連れて散歩に出ていた。

着いたのはバウンサー本部から少し離れた、丘の上。
若々しい草が茂る広大な土地に、様々な墓標が数え切れない程並んでいた。
その中の一ヵ所に、同じ形をした墓標が幾らかある。
花束から花を1本抜いて、その墓標の前に添えていく。
やがて一通りその作業を終えて、墓地から外れた丘の一番高い場所へ歩いていった。
その高台から見える景色は、密かにハルキンのお気に入り。
近くにあった木の側に腰をおろし、もたれ掛かって目を瞑る。

⏰:08/03/01 00:06 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#39 [◆vzApYZDoz6]
目を閉じたまま上を見上げ、視覚以外で自然を感じる。
澄んだ空気。時折聞こえる鳥の囀り。心地好い風。それに呼応する木々のざわめき。
目を開ければ、もたれ掛かっている木の葉の木漏れ日が目に染みる。
高台から眼下を見渡せば、悠然と、だが美しく聳え立つ山々に彩られた鮮やかな緑が目に入る。
これがもし地球ならなかなかの癒しスポットだろう。
日常の喧騒から隔絶された空間は、時間が止まってるようにすら感じた。

ハルキン「…ここに来たのも久しぶりだな」

先程花を添えた墓標は、昔の仲間達。
少年期に過ごした研究所から共に逃げ出した失敗作。

⏰:08/03/01 00:07 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#40 [◆vzApYZDoz6]
連れ去られた時の事はあまり憶えていない。
だが、そのお陰で人生が狂ったのは忘れない。
無理やり訓練を受けさせられ、勝手に手術を施されて他人の細胞を組み込まれ、その果てに出来上がった自分は失敗作。
強者になれなかったレンサーたち。

ハルキン「7人いたな…俺と似たような落ちこぼれが。だから力を合わせて逃げたんだ」

こればっかりは忘れられない。
処分されると聞いて、密かに立てた脱出計画。苦労して確保した脱出経路。
逃げる途中で捕まった仲間。
必死に走る背後で撃ち殺された仲間。
最後まで残ったハルキンともう1人、ハルキンより少し年上の少女。

⏰:08/03/01 00:09 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#41 [◆vzApYZDoz6]
もう少しで逃げられる、というところでハルキンを海に突き落とした少女。
人生で最初にハルキンを裏切った人。その直後に追手に撃たれて死んだ人。
一緒に逃げる、という約束を破った人。

ハルキン「生きていたら俺の嫁さんにでも…なってないかな」

あまり思い出したくない思い出だ。
無理やり振り払って、再び景色を眺めた。
最近は思い出すことも無かったのに急に思い出したのは何故か。
長いこと墓標に訪れなかった自分に対する、仲間達の悪戯だろうか。

ハルキン「…さっさと帰るか」

また来るから夢には出てくんなよ、と心の中で呟きながら、ゆっくりと立ち上がった。

⏰:08/03/01 00:10 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#42 [◆vzApYZDoz6]
伸びをして隣に目をやる。
犬と言うにはあまりに大きすぎる愛犬スティーブが、気持ち良さそうに眠っていた。
体毛は全身薄い紫。気が立っている訳でもないのに普段から少し逆立っている。
体長はハルキンより遥かに大きく、足を折って寝ているというのに背中の位置がハルキンより高い。
もはやそれは犬というより毛皮を纏った恐竜だが、寝ている表情は何とも犬らしい。
起こすのも可哀想かな、と思いハルキンが再び座ろうとした、その時。

スティーブが弾かれるように飛び起きた。
姿勢を低くしていっそう毛を逆立たせ、ハルキンを挟んだ向こう側を睨み付ける。

⏰:08/03/01 00:11 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#43 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「どうした?」

ハルキンがスティーブに向き合う。低い唸り声を上げるその表情は、まさに野生の獣。
その巨体も相まって、普通の人間なら一目散に逃げ出しそうな恐ろしい雰囲気を放ちながら、頻りに何かを睨んでいた。

しかし、睨まれている何かは逃げなかった。
そして、スティーブの視線をハルキンが辿る前に、静かに口を開いた。

「…元気にしているようだな、ハルキン・イリサウス」

高く透き通った、だがしかし芯のあるしっかりとした声。
そして不意に呼ばれた自分のフルネーム。
驚いて振り返ると、少し離れた木の影に、声の主が立っていた。

⏰:08/03/01 00:13 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#44 [◆vzApYZDoz6]
体に脹らみのある、女性的なシルエット。
顔は陰になってよく見えないが、そのシルエットは自分の事を、知る人は少ないフルネームで呼んだ。

ハルキンはまだ物心がつくかつかないかという頃に、事故で両親を無くした。
身寄りも無かったために孤児院に預けられ、そしてすぐに研究所に連れていかれた。
孤児院の人は自分のフルネームは知らない。研究所の人間は研究者も集められた子供も殺された。
今生きている者で自分のフルネームを知る者は、せいぜい内藤ぐらいだ。その内藤は今、地球にいる。
つまり、ディフェレスに自分のフルネームを知る人間は、1人としていない筈だ。

⏰:08/03/01 00:14 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#45 [◆vzApYZDoz6]
もはや最後に口にしたのはいつか思い出せないフルネームだが、昔は確かに知る者はいた。
今生きている者以外でフルネームを知っているとすれば――

ハルキン(――7人の失敗作?いや、確かに死んだ筈だ。だがこの懐かしさは…)
「…どうした?声を聞かせてくれ」

そう言って陰から出てきた女は、初めて見る顔だった。
だが、その顔に懐かしさがこみ上げてくる。
その容姿が、忘れずにいた記憶に訴えかけてくる。

その女の髪は青かった。否、それは黒すぎる黒髪。
あまりに黒く美しいストレートヘアーは、黒すぎて青く見えた。

⏰:08/03/01 00:16 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#46 [◆vzApYZDoz6]
そして、細身ではあるが1流アスリートのように鍛え上げられた無駄のない身体。
もし生きていれば、目の前の女に似て、尚且つ自分のフルネームを知る者を、ハルキンはたった1人だけ知っている。

ハルキン「……セリナ…?」
セリナ「憶えていてくれたか。大きくなったな…って私が言うのも変か」

セリナが人差し指で頬を掻きながら小さく笑う。
その動作も、小さな笑い声も、昔研究所で共に過ごしたあの少女を連想させた。

ハルキン「…いや違う。セリナ・リアリエト・ミルヴァーナは、間違いなく俺の目の前で撃たれて死んだ…俺は疲れているのか?それともまた死んだ仲間の悪戯か?」

⏰:08/03/01 00:16 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#47 [◆vzApYZDoz6]
セリナ「撃たれたさ。撃たれたけど、死にはしなかった。実験と訓練のせいか、紙一重で急所を避けてしまったから…」

そう言ってセリナは着ている服のボタンを外した。
はだけた胸にいくつか傷痕がある。心臓のそば、気管支や肺の隙間。
恐らく身体中にあるであろうその傷は、確かに銃による物にも見えた。

ハルキン「急所を避けて『しまった』…?」
セリナ「そう。生き延びてしまった。だがこうしてまた会えたのは幸運なのかもな。…会わない方が、良いのだろうけど」

つい数分前に昔の事、彼女の事を思い出したのは、仲間の悪戯ではなく仲間の予兆だったのか。

⏰:08/03/01 00:18 📱:P903i 🆔:F11dzLbg


#48 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンにとっては、この再会は嬉しかった。
しかし、さっきまで晴れていた空が雨を降らせた。
それは幸運ではない。そう天が言ってるかのように。

ハルキン「…本当に…セリナなのか?」
セリナ「うん?もう昔みたいに呼んではくれないのか?」
ハルキン「この歳で『セリナお姉ちゃん』は恥ずかしいからな。…生きていたのは良かったが、なぜ会いに?」
セリナ「良かった、か…そうでもないがな。…お前に謝りたかった」
ハルキン「謝りたかった?」
セリナ「お前を海に突き落とした。あの冷たいローシャの海に、な。…私はお前を裏切ったんだ。死んだと思っていた…ごめんな、ハルキン」

⏰:08/03/03 04:43 📱:P903i 🆔:zBYy/l0.


#49 [◆vzApYZDoz6]
そんな事か。
なぜあの時自分を突き落としたのか、そんな事もうとっくに分かっている。
あの時海に逃がしてもらえなければ、撃たれて死んでいたのは自分だろうから。

そして、目の前の女性はやはり本物のセリナだ。
ハルキンが知る『セリナお姉ちゃん』なら、どんな理由があるにせよハルキンを海に突き落とした事をすごく悔いていた筈だから。
十数年ぶりに出会った彼女は、連れられた研究所で優しくしてくれたセリナのままだった。

ハルキン「…よせよ。俺を助けるためにやったんだろう?恨んじゃいないさ、むしろ感謝している」

⏰:08/03/05 03:38 📱:P903i 🆔:/Un8CKCQ


#50 [◆vzApYZDoz6]
セリナ「だけど、お前は私と逃げたかったんだろう?一緒に逃げて、どこか静かなところでお姉ちゃんと2人で平和に暮らすんだ、と幼いお前は言っていた」
ハルキン「……よしてくれ、恥ずかしい」

確かにそうしたいと本気で思っていたし、口に出して言った記憶もある。
だからこそ、自分を助けるためだと分かっていても、突き落とされた事に裏切られた感があったのも事実だ。
一緒に居たのは研究所で過ごした時だけの短い期間だったが、セリナは他の誰よりも自分を理解してくれているのだろう。

2人の様子を見ていたスティーブが警戒を解き、雨に濡れた体を豪快に身震いさせた。

⏰:08/03/05 03:39 📱:P903i 🆔:/Un8CKCQ


#51 [◆vzApYZDoz6]
セリナ「…そいつは?」
ハルキン「犬だ。でかいのは…まぁ気にするな」
セリナ「…そうか」

スティーブが前屈みの姿勢から後ろ足を折り、寝そべって前足に顔を乗せる。
なんとも眠たそうな目をしながら、ハルキンにそっぽを向いた。
犬なりに空気を読んで早く話を終わらせろと言ってるだけなのか、セリナは敵ではないと判断したのか。
どちらにしろハルキンは、スティーブの態度に応えられそうにもない。
ハルキンとしても、セリナが純粋に会いに来てくれただけならどれ程良かったことか。
恐らく、そうはいかない。そう分かっていても、今のハルキンには問うぐらいしかできなかった。

⏰:08/03/05 03:39 📱:P903i 🆔:/Un8CKCQ


#52 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「まさかそれを言うためだけにわざわざ?」
セリナ「それなら良かったがな。分かるだろう、あの後私がどう生き延びて、なぜここに居るかが」
ハルキン「…十中八九、研究所の奴らに治療されたんだろうな。その後はあまり考えたくはないが、そういう訳にもいかんか?」
セリナ「いかないよ。私はきっと、お前の敵だから…」

悲しそうに微笑むセリナは、おそらくあの時に研究所の連中に治療され、道具として使われたのだろう。
だが、あの研究所の連中はグラシアが全滅させた筈だ。
もしグラシアに拾われていたのだとしても、そのグラシアも半年前に京介らの手によって倒された。

⏰:08/03/05 03:40 📱:P903i 🆔:/Un8CKCQ


#53 [◆vzApYZDoz6]
それならば、少なくとも自由ではあるはずだ。

セリナ「それは違う。お前達はグラシアを倒したつもりだろうが、奴は死んでいない。ウォルサーも生きている」
ハルキン「あいつとウォルサーが生きている?」
セリナ「ああ、奴も治療されたんだ。私と傾向は違うがね。ウォルサーの方は、新たな司令官が着任した事で統制が執れている」
ハルキン「しぶといな、連中も。何とも面倒だ奴らだ」
セリナ「気を付けろ。理由は知らんが、新着の司令官もスキル収集に着手している。地球へ帰った2人も諦めていない」

セリナが言うには、新しい司令官はグラシア以上にスキルに執着しているらしい。

⏰:08/03/05 03:41 📱:P903i 🆔:/Un8CKCQ


#54 [◆vzApYZDoz6]
そもそもグラシアの目的は世界征服で、スキル収集はその為の手段に過ぎなかった。
だが新着の司令官は、むしろスキルの収集に目的があるらしい。
司令官の情報は分からない。今までグラシア以外には顔を出していなかったらしく、何を求めてスキル収集を行うかは分からない。

そして、司令官はグラシアと京介らの戦いも見ていた。
京介と藍の強力なスキルや、心臓を貫かれて回復したシーナの異常に強い回復スキル、内藤や有紗らパンデモ一族のスキルなどを狙っている。
それどころか、地球にごく僅かに存在する、ハルキン達が知らない他のレンサーも狙っているらしい。

⏰:08/03/05 03:42 📱:P903i 🆔:/Un8CKCQ


#55 [◆vzApYZDoz6]
更にはディフェレス。
パンデモ一族のスキル『ライフアンドデス』は他人のスキルを使う事ができる。
パンデモ一族はより使えるスキルを増やすため、20歳になるとスキル収集のためにディフェレス各地へ旅をする。
その為、パンデモにはディフェレス中の様々なスキルが集まっている、と言っても過言ではない。
司令官は、その様々なスキルを狙っている。事実上、パンデモの集落をまるごと狙っていると言ってもいい。

もし、ディフェレスや地球でそれらが現実となれば、一体どうなるのか。
地球の京介と藍は、自分で消去したスキルを復活させるために人体実験を繰り返されるだろう。

⏰:08/03/05 03:42 📱:P903i 🆔:/Un8CKCQ


#56 [◆vzApYZDoz6]
ディフェレスでは、シーナの強力な回復力は滅多に見られない。テストと称して何度も切り刻まれるだろう。
何も知らないパンデモはあっという間に占拠され、スキルを奪われる。奪われてしまえば用済みだ。

ハルキン「…させるわけにはいかんな」
セリナ「そうだろう。既に地球やパンデモに何人かのエージェントが送られている。気を付けろ、私もいつかは牙を剥くぞ」
ハルキン「…分からないな。そんなことを俺に教えるなら、既に組織を裏切っているだろう。なぜウォルサーに居続ける?」
セリナ「…あの時お前を裏切った私は、もうお前の傍にはいられない。そういう運命なんだ」

⏰:08/03/05 03:43 📱:P903i 🆔:/Un8CKCQ


#57 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「……俺は裏切られたとは思っていない」
セリナ「…お前は、いい子だ。どうかお前は、そのままでいてくれ」

セリナが目を伏せて、雨降る丘を下りはじめた。

ハルキン「…行くのか?」
セリナ「これ以上勝手に動くと怪しまれるし…行かねばならない理由もある」
ハルキン「行かせない、と言ったら?」

2人の視線が交錯する。
身構えはせず、目だけで訴える。力ずくでも行かせない、と。
セリナは全て分かっているかのように、悲しいような、嬉しいような、怒っているような、複雑な目をしていた。

セリナ「…行かせてくれ、とお願いする」
ハルキン「…………」
セリナ「…………」

交錯する視線は揺るがない。

⏰:08/03/09 00:48 📱:P903i 🆔:IRJGZ9R2


#58 [◆vzApYZDoz6]
耳に入るのは、降り頻る雨のノイズだけ。
まるで2人をこの世界から切り離すかのように、雨が2人を濡らした。
時間が止まったのかと錯覚するほど、静かに、瞬き1つせず互いが互いを見つめていた。

その最中、視線はセリナに向けたまま、ハルキンの中で過去の記憶が甦る。
逃げ出したあの日も、こんな雨が降っていた気がする。

先に視線を外したのは、ハルキンだった。
セリナは目を伏せて、苦い表情でうつ向くハルキンを尻目に丘を下りていく。
その間、2人の視線は1度も交わらなかった。

セリナと決別したあの日も、こんな雨が降っていた気がする。

⏰:08/03/10 19:14 📱:P903i 🆔:tHds.fh2


#59 [◆vzApYZDoz6]
スティーブが再び身震いする。
スティーブが撒き散らす水飛沫が、既に濡れているハルキンをさらに濡らした。

ハルキン「…寒い、な…」

小さく呟いたそれは、肉体的な意味だけではない。
それでもスティーブはその巨体を摺り寄せて、鼻で小さく鳴いた。
ハルキンはスティーブの頭を撫でてやり、歩き出す。

春先の雨だが、ひどく冷たく感じる。
そう感じる事と、先程のセリナとのやり取りとは、決して無関係ではないだろう。
ならばせめて、自分の仲間がいるあの暖かい場所に居たい。
ハルキンは濡れた髪をかきあげ、スティーブを連れて丘を下りていった。

⏰:08/03/10 19:15 📱:P903i 🆔:tHds.fh2


#60 [◆vzApYZDoz6]


場面は戻り、要塞跡地。
刀とグラシアが消失した件とその見解を、本部に戻りハルキンに報告する。
その提案で、5人はジェイト兄弟のバイクの元に戻ろうとしていた。

ラスダン「…待って!」

だがその歩みは、戻ろうと言い出したラスダンの一声によって止められる。
他の4人は一瞬意味を考えたが、それは広域レーダーにもなるスキルを持つラスダンの言葉。
容易に解答を得て、シーナとリーザは身構え、ジェイト兄弟はバイクに向かって走った。

ラスダンが視ていたのは、1台の乗り物とそれに乗る2人の人間。
それらは既に、基地の入口であるトンネルの中を走ってきていた。

⏰:08/03/10 19:18 📱:P903i 🆔:tHds.fh2


#61 [◆vzApYZDoz6]
ジェイト兄弟が巨人に乗り込み、ハンドルソケットに手を入れる。
シーナとリーザは剣袋から持ってきた刀を取り出し、腰に据える。
恐らく敵であろう者の襲撃に備えて、5人は完全な臨戦態勢に入った。

次第にトンネルから聞こえてくる爆音。
その音はジェイト兄弟の駆る巨人のジェットエンジン音と酷似している。

やがてトンネルから出てきたのは、純白のバイクだった。
バイクと呼ぶには大きすぎるフォルム。流線形のそれが展開し、装甲が運転席を完全にカバーする。
続いて前面にせり出す、青い光を湛える2つのカメラアイ。
その姿はまさに、2輪の白狐と言うに相応しい。

⏰:08/03/13 22:50 📱:P903i 🆔:O1YrPz6M


#62 [◆vzApYZDoz6]
ブロック「バイクにガスタービンエンジンなんて搭載するアホは俺達以外にはいないと思ってたんだけどなぁ」
フラット「ベースバイクはY2Kか?俺達はスカイウェイブだっつーのに…どこぞの金持ち技術オタク、って訳じゃ無いよな、流石に」

白狐が、トンネルからこちらへゆっくりと走ってきた。
やがて数メートルの距離を開けて相対し、巨人の文字通りのヘッドライトと白狐のカメラアイが睨み合う。
そこで初めて、白狐の背に運転手とは別の人間がしがみついている事に気が付いた。
白狐から飛び降りたその男の左手には、シーナとリーザには見覚えのある刀が握られている。

⏰:08/03/13 22:50 📱:P903i 🆔:O1YrPz6M


#63 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「…その刀、なんであなたが持ってるのかしら?」
「譲ってもらったのさ。この刀を拾った奴からな」
シーナ「そう。その刀は私のものなんだけど」
「……お前はこの刀が何か知っているのか?」

男が鞘から刀を抜き、歩いてくる。
シーナもそれに倣って、刀に手を掛けた。
たがしかし。

「この刀は君のようなお嬢さんには危険だ」

体が動かない。
呼吸は出来るし、視線も動かせるが、それ以外のパーツが脳の指令を聞いていないように動かない。
男が、シーナの少し前で構えるリーザの横を通り過ぎる。
リーザも動かないあたり、シーナと同じ状況なのだろう。

⏰:08/03/13 22:52 📱:P903i 🆔:O1YrPz6M


#64 [◆vzApYZDoz6]
やがてシーナの目の前まで迫り、切っ先を首に突き付けた。

「さて…ここでお前を殺すこともできるが」
シーナ「…!」

薄皮が浅く裂け、シーナの首から血が滲み出る。
相変わらず体が動かないシーナは睨み付ける事しかできなかった。
男は冷ややかに鼻で笑い、刀を握る手に少しばかりの力を入れる。

「威勢はいいけどな。まぁ…縁が無かった、とでも…」
ブロック「おっと、ソロッと動くなよ」
フラット「切ったら斬るぜ?」

巨人がいつの間にか出していた両刃剣の刀身を、男の後頭部に突き付ける。

「おっと」

飄々とした男の声と同時に、微かに響く駆動音と無線音声。

『…動くな』

⏰:08/03/13 22:55 📱:P903i 🆔:O1YrPz6M


#65 [◆vzApYZDoz6]
兄弟が目だけ前にやる。
白狐の後部装甲から2対6門の機関銃がせり出していた。
左側の3門が巨人を、右側の3門がシーナとリーザとラスダンを、既に捉えている。
シーナに刀を突き付けた男に気を取られた、その刹那の間にバルカン砲を出した早さ。
バイクの性能以上に、操縦者の腕の高さが窺い知れた。
再び機械音声が響く。

『落ち着きたまえ。私達は君達を殺す目的で来た訳じゃない』

恐らく白狐のコクピットから外部スピーカーを使って話しているのだろう。
だが目の前の男が刀を突きつけているのに、殺す目的じゃないと言われてもにわかには信じ難い。

⏰:08/03/16 02:46 📱:P903i 🆔:qJhRwrcU


#66 [◆vzApYZDoz6]
『まぁ、とにかく下がるんだ』

君達が私達を信じられないのは分かる。
そう言いながら、操縦者がバイクから降りてきた。
戦闘の意思はない。そう示すかのように。

バイクから降りた操縦者は、一言で言って気高い印象を受けた。
すらりとした体型で、身長は高め。切れ長の目に鼻筋が通った、整った顔立ち。
左頬には星のペイントをしている。風に靡く金髪の長いストレートが、辺りの雪景色によく映えた。

刀を突き付けていた男も渋々退いた。と同時に、シーナ達の体に自由が戻る。
男は睨み付けるシーナを無視して刀を鞘に納め、操縦者の元へ歩いていく。

⏰:08/03/16 02:46 📱:P903i 🆔:qJhRwrcU


#67 [◆vzApYZDoz6]
「さて…一応自己紹介でもしておこうか。私の名はフォックス、といってもコードネームだがね」

見た目通りに気高い声で話す白狐の操縦者、フォックス。
その横で刀を持つ男がイライラした様子で腕を組んでいた。
フォックスと違いガッチリとした体格で、なかなか威圧感のある風貌を保っていた。

フオックス「彼はオリオット、同じくコードネームだ。さて…先刻は済まなかったね」

フォックスがさらに1歩前に出る。
あまりに無防備なフォックスを警戒し、ジェイト兄弟はハンドルを握る力を強めた。
しかしふと思い直す。相手は得物であるバイクを降りて無防備だ。

⏰:08/03/16 02:47 📱:P903i 🆔:qJhRwrcU


#68 [◆vzApYZDoz6]
そんな相手に対して、なぜこうも警戒しなければいけないのか。
こういう時はビビった方が負け。ジェイト兄弟は、今まで幾度も戦ってきた経験でそれを知っている。
力を抜き、2人同時に巨人から降りて歩き出す。
他の3人も慌ててそれに倣った。

フォックス「いい度胸だ。それでこそバイク乗り、というものだ」
ブロック「そりゃどーも。伊達に場数は踏んでないからな」
フォックス「これは君達のバイクかい?まさかリリィ以外に連動可変フレームシステムを取り込んだバイクが存在するとは…」
フラット「リリィ?」

フォックス「正式名称リリィ・ザ・スターフォックス。私の駆る、白い狐だ」

⏰:08/03/16 02:48 📱:P903i 🆔:qJhRwrcU


#69 [◆vzApYZDoz6]
ブロック「なるほど?それでコードネーム・フォックス、か」
フォックス「ご名答。…フォルムは人形か。なかなか素晴らしいものがあるが…試させてもらいたい」
フラット「…!?」
フォックス「リリィ!!」

フォックスがジェイト兄弟と向き合ったまま叫ぶ。
と同時に僅かな駆動音がした。

シーナ「まさか…」

僅かな駆動音は、すぐさまリリィが構える機関銃の回転音に変わる。
照準は5人に向けられて、高速回転する弾創から銃弾が発射された。

リーザ「まずいっ…!」

普通の銃弾なら刀で弾き落とす事もできただろう。
だが、相手はシーナやリーザが持つ刀など容易く千切り折る6門のバルカン砲。

⏰:08/03/16 02:49 📱:P903i 🆔:qJhRwrcU


#70 [◆vzApYZDoz6]
恐らく、どんな能力者でも防ぐのは難しい。
それでも防がなければならないが、その思考が邪魔をして動きが一瞬固まった。
その隙を見逃さず、銃弾が雪煙を撒き起こして5人に迫る。

ラスダン「やばっ…」

シーナ、リーザ、ラスダンが、思わず固く目を瞑る。
銃弾が自身に迫る刹那の最中。3人は確かに聞いた。

ブロック「ジェイトッ!!」
フラット「スペシャルッ!!」

目を瞑った暗闇の中で、ジェイト兄弟の叫び声を。
続けざまに、鉄と鉄のぶつかり合う重奏音を。

目を開けた先にいたのは、悠然と佇む兄弟。
そして、銃弾を防ぐ黒い巨人の姿があった。

⏰:08/03/16 02:50 📱:P903i 🆔:qJhRwrcU


#71 [我輩は匿名である]
あげます(o>_<o)
頑張って下さい(=^▽^=)

⏰:08/04/02 18:15 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#72 [◆vzApYZDoz6]
>>71
半月も放置して本当すみません…w
ぼちぼち更新していこうと思います

⏰:08/04/03 13:56 📱:P903i 🆔:xEGH5/Ds


#73 [◆vzApYZDoz6]
白銀の視界に浮かぶ、漆黒の装甲。
無人のコクピット内で、液晶パネルが点滅する。
巨人が体を屈めて、腕を開くように、その巨躯で5人を守っていた。

誰も乗っていない巨人は沈黙したまま、尚も銃弾を弾き続ける。
雪煙の中で、無音でヘッドライトを光らせた。

乗れ、と。

ブロック「試させてもらう、とか言ったな?まぁ、ざっとこんなもんよ」
シーナ「…勝手に、動いてる…?」
フラット「装甲強化、音声による遠隔操作、自立行動可能なAIシステム…座席増やして自動操縦機能つけ足しただけじゃないんだな、これが」
ラスダン「…もっと早めに言ってほしかったな、それ」

⏰:08/04/03 14:50 📱:P903i 🆔:xEGH5/Ds


#74 [◆vzApYZDoz6]
「いや、まさか本当に戦闘になるとは思ってなかったしな…」
「バイクから降りて撃つ、ってのはセコいんじゃねーの?フォックスさんよぉ」

フォックスは目を伏せて小さく笑い、横髪をかきあげた。
ふわりと靡く金髪が、妙にリリィに似合っている。

「我が愛機のCIWSを退けるその装甲、そのヒトガタ…素晴らしいな」

「なるほど、堂々の無視か」

「ああ、すまない。どうにも好きな物には見境なくハマってしまう癖があってね」

「そんなの関係ないだろ」

「いい度胸もあるようだ。実に良い。…どうだね、私の元へ来ないか?」

⏰:08/04/03 14:54 📱:P903i 🆔:xEGH5/Ds


#75 [◆vzApYZDoz6]
「あんたは…グラシア側の人間なんだろ?そいつはちょっと無理な話だ」
「そうか…残念だ」

「……」

手を伸ばせば互いに触れられるような距離で会話を続けるジェイト兄弟とフォックスを、少し後ろでラスダン、さらに少し下がってシーナとリーザが見ていた。

3人とも、フォックスとオリオットへの警戒は怠っていない。
オリオットがレンサーであることは先刻のやり取りで分かっているが、フォックスもレンサーだとしたら至近にいるジェイト兄弟が危ない。
そして、その可能性は十二分にあった。

兄弟とフォックスから一番近い場所にいるラスダンが、静かに手首を丸める。

⏰:08/04/04 23:51 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#76 [◆vzApYZDoz6]
いざとなれば、袖に仕込んである特殊警棒で割って入るつもりだった。
それは後ろのリーザとシーナも同じ。

「あー…ところで後ろの彼女。オリオットの刀を持っていたのは君だったかな?」
「…?それがどうか…」

注意がシーナに向けられるのと同時に、ラスダンが警棒の留め具をはずそうと手をかける。
だが、動かそうとした指が途中で止まり、ピクリとも動かない。

反射的にオリオットを睨んだが、退屈そうに下を向いていてこちらに気付いていないようだった。

「今はオリオットは能力を使ってない。…かといって、私の能力でもないがね」

⏰:08/04/04 23:52 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#77 [◆vzApYZDoz6]
フォックスが悠然とラスダンの方へ向かってくる。
恐らくジェイト兄弟も同じ状態なのだろう、正面を向いたまま動く気配がなかった。

フォックスがラスダンの手首をつかみ、警棒の感触を確認する。
無言でラスダンを一瞥して、何もせず再びシーナの元へ歩きだした。
ラスダンと同様に動かないシーナの顎をつかみ、クイッと持ち上げる。

「ここで、この娘を殺すこともできるが…」
「!?」
「そんな卑怯な脅しをかけてまでして手に入れるべき人材でもなし…まぁ、縁がなかったのだろうな。私と君達は」

フォックスは顎から手を離し、何気なく腕時計を確認してリリィの座席に戻った。

⏰:08/04/04 23:52 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#78 [◆vzApYZDoz6]
フォックスがリリィのコクピットからラスダン達を眺めた頃に、ようやく体の自由を取り戻す。
だが、何もできなかった。
圧倒的なものを目の前にしたときのような、絶対的な敗北感があった。

「さて、ジェイト兄弟と言ったか。私は君達を気に入ってるし、そのバイクも気に入ってる。次に会うときは…敵になってくれるなよ?」

爽やかささえ感じる笑顔を浮かべ、リリィのエンジンをかけた。
オリオットがシーナを一瞥してリリィに飛び乗り、そのままリリィは雪原を駆けて去っていく。
クルサも見つからず刀も奪われ、それでも5人はただ睨むことしかできなかった。

⏰:08/04/04 23:53 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#79 [◆vzApYZDoz6]
去っていくリリィに舌を出すシーナをよそに、ジェイト兄弟は苦い顔で舌打ちをした。

「あの野郎余裕かましやがって…俺達の負けかよ」
「うーん、フォックスにオリオット、か。グラシア側の関係者っぽいし…2人とも悔しいだろうけど、帰って会長に報告しないと」
「…っ!」

兄弟が思わず反射的にラスダンを睨む。
ラスダンはそれを分かっていたかのように、毅然とした眼で睨み返した。
兄弟が力なく視線を落とす。これではただの八つ当たりだ。
情けない。

「いや、悪かった。早く戻らないとな」
「…悪かったね」

⏰:08/04/04 23:54 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#80 [◆vzApYZDoz6]
「なに、俺達は諦めちゃいねぇよ」
「会長に報告して、そんでからすぐに追いかけてやる。…さぁ、早く帰るぜ」

ラスダンに背を向けて、バイクのもとへ歩いていく。
恐らくこちらからフォックスに会うことはできないだろう。
だが、フォックスが『次に会うときは』と言っていた以上、向こうからやって来る可能性はある。

もしも。もしもまた、あのフォックスに会うことがあるならば。
兄弟の声が揃った。

「次、フォックスに会うそのときは…」
「…あの余裕ヅラをボコしてやらねぇとなぁ?」

⏰:08/04/04 23:55 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#81 [◆vzApYZDoz6]

「お姉ちゃん、どうなの?」

去っていくリリィに向かってひたすら『あっかんべ』のポーズをしていたシーナが、不意にリーザに話しかけた。
物思いにふけっていたリーザはそのまま少し考えて、口を開く。

「待っていれば向こうからやって来るでしょう?そのときに…」
「じゃなくて、あの刀はなんなの?」
「…そうねぇ…まだ確証が持てないし、確かめないと…」

うつ向いて、またさらに思案にふける。
現時点で何も分かっていないシーナは、心にあるもどかしさを口にできなかった。
それが表に出たのか、少し不機嫌そうに口をへの字に結んで眉根を寄せる。

⏰:08/04/04 23:55 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#82 [◆vzApYZDoz6]
几帳面な姉に比べて、少し大雑把なシーナ。
普段でも考えるよりに先に行動に移すシーナが口を開いて出た言葉は、ある意味シーナらしかった。

「じゃあさ、もう刀がどうとか何でもいいから、私はどうすればいいわけ?」

リーザは少し驚いたようにシーナを見つめたあと、嬉しいような呆れたような笑みを浮かべた。

「とりあえず一旦帰ってから…祖父の家に行きましょう」
「じいちゃんの?」
「確認しなきゃね…戻りますよ」

ほら、とエンジンがかかっているバイクを指す。シーナもそれに倣ってバイクに向かう。
黒い巨人が雪を撒いて駆け出し、基地を後にした。


⏰:08/04/04 23:56 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#83 [◆vzApYZDoz6]



ラスダン達がウォルサー基地跡を後にしたのとほぼ同時刻の、パンデモの集落。

今は地球にいる内藤と有紗の出身地でもあるこの場所は、言ってしまえばド田舎だった。

集落があるのはディフェレスの西端。
盆地となっていて周囲を切り立った谷に囲まれているせいで、意図せずとも外界から隔離された地域になっていた。

それにより集落外からの物資調達がほぼ不可能なため、集落の民がそれぞれで作物などを作り、それを集落内で持ち合わせる事によって生活している。

建物のほとんどが高床式の木造、道具などもすべて手製の木造で、文明の利器などは見当たらない。

⏰:08/04/08 22:46 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#84 [◆vzApYZDoz6]
だが、集落の中心に位置する1軒の建物内だけは、近代化が進んでいた。

その建物は木造だが、鉱製品の発電機が据え置かれている。
内部は外観とは180度反対で、白い床にタイルの溝が縦横無尽に走っていた。

中にはパソコンやプリンター、モニターに通信機といった設備が調っている。
パンデモ内ではあまり耳にしない電子音が響いていた。

そこは、パンデモのいわゆる『外交湾』であった。
いくら外界から隔離されているとは言え、外界との連絡や情報交換は必要だ。

そのために、集落の長の家にもなっているこの建物内に、近代設備をこしらえている。

⏰:08/04/08 22:47 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#85 [◆vzApYZDoz6]
その中で、無線通信機を耳に当てて話している男がいた。

男の名は、バッシュ・ユーメント。
バニッシ・ユーメント、つまり内藤の父親であり、50歳でパンデモの43代目の若き族長となった人物でもあった。

『……そういうわけだ、頼むぞ。まぁ、お前族長なんだから大丈夫だろう?』
「てめぇ…他人事だと思ってやがるな」

通信機から聞こえるあっけらかんとした声。
バッシュは額に手を当てて呆れたような仕草をした。

「パンデモの人間はざっと100人はいるぞ? 制圧なんて、本当なのか?」
『俺もできるなら嘘と思いたいさ。だが、そうもいかないらしい』

⏰:08/04/08 22:48 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#86 [◆vzApYZDoz6]
「その100人全員がレンサーでもか?」
『敵さんは大組織だからなぁ。その気になりゃ、人はいくらでも集められるだろ』

相変わらず他人事のように話す声に呆れ、バッシュが首根っこを掻きながら、眉間にしわを寄せた。
ため息をつき、分からんな、と再び通信機に向かって話しだす。

「その組織の存在は認める。こういった事態のときのために、わざわざ家を改築して通信機やらパソコンやらを調達してあるんだ。外界からの助け船をいつでももらえるようにな」

『なら、いったい何を疑ってるんだ?』
「わりと本気でお前の頭だが」
『ぶち殺すぞ』

⏰:08/04/08 22:49 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#87 [◆vzApYZDoz6]
バッシュが、怖い怖い、と言いながら受話器に繋がるコードをいじくりだした。
バッシュが疑っているのは敵の規模と、その目的だ。

『目的なら言ったろ、スキル収集。敵の大将は他人のスキルを使えるんだ』

「その能力も、支配権を得たスキルの所持者から離れてしまうと意味がないんだろう? 人数の問題から考えても、そこまでしてやるメリットが見当たらない」

数人のレアスキルを狙っているだけなら、過去にグラシアがイルリナをさらったときのように少人数ですむ。
しかし、パンデモ全員のスキルを狙うなら、集落をまるごと制圧するぐらいでないと無理だろう。

⏰:08/04/08 22:50 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#88 [◆vzApYZDoz6]
さらに、パンデモの民は全員がレンサーだ。
レンサー1人で、普通の武装した人間だけなら5人は相手にできるだろう。

バッシュやイルリナなどの手練れもいる事から考えて、武装しただけの普通の人間なら制圧するのに最低1万人は必要になってくる。
かといって、それだけの大規模な集団を動かせば、外界からの助力が入り制圧は不可能になる。

『穏便に済ますなら、多少の人数はいるだろうな』
「ネイティブレンサーがそんなに数集まると思うか?」
『普通に武装した連中かもしれんぞ』
「だから、それならさすがに外界から助け船が出るっての」
『まぁそれはそ──プツッ』

⏰:08/04/08 22:51 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#89 [◆vzApYZDoz6]
「おい、どうした?」

通信が突然途絶えた。
話しかけても、通信機はなんの反応も示さない。
バッシュは舌打ちをしながら、乱暴に受話器をほうり投げた。

と同時に、バッシュの視界の端、窓の外で異変が起こった。

空の端にノイズが走る。
そのノイズは増えていき、パンデモの集落上空を少しずつ黒で染めていった。
バッシュが窓に張り付き集落を見渡すころには、既に正方形に展開したノイズがパンデモ全体を覆っていた。

「なんだ…?」

バッシュが空を睨む。
太陽が薄れていき、昼過ぎだったはずの集落が夜の景色へと変わっていく。

⏰:08/04/08 22:51 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#90 [◆vzApYZDoz6]
否、星が出ていないのだから夜ではない。
パンデモが闇に包まれている、と言った方が正しいだろう。
文明の利器が存在しない集落内では、バッシュがいる家以外はまったく光が見当たらなかった。

だがしばらくすると、薄れていた太陽が元に戻っていく。
景色は明るくなり、何事もなかったかのように普段どおりのパンデモの風景に戻っていった。

「消えた…? 日食、じゃないよな」

少し気にしながらも、窓から離れた。
イルリナに先程の通信内容を伝えるために家を出る。

この時、敵の大軍がパンデモのはるか地下で蠢いていることなど、バッシュには知る由もなかった。

⏰:08/04/08 22:52 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#91 [◆vzApYZDoz6]

パンデモの端に位置する修練場に、集落内には絶対に存在しない、車が停めてあった。

修練場を囲む崖沿いに止められた、大きめのワゴン車。その車内。
スモークが貼られた後部座席の窓から、男が1人、回復していくパンデモの日光を眺めていた。
その隣であぐらをかいて目を閉じる、もう1人に向かって話しかける。

「トビーちゃん、うまーくやったじゃねぇのぉ」
「…日光…風…例外、設定調節…固定…」

陽気な声の男からトビーと呼ばれた人間は、男か女かはよく分からない。
と言うのも、髪が長すぎて顔が見えず、声も男か女か釈然としないものだからだ。

⏰:08/04/08 22:53 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#92 [◆vzApYZDoz6]
ちょうど貞子のような風貌のトビーは目を閉じたまま、しばらく呟き続けていた。

「…電波……う…ん…調節が難しい…」
「なーに、いい感じだったさぁ。しばらくここでゆーっくりしときなぁ」

そう言って男は、ダッシュボードから煙草を取り出し上着のポケットに入れていく。
携行する煙草は20箱、1カートン。
ポケットにぎゅうぎゅうに煙草を詰め終わると、最後に手元にあるハンチング帽を被って車のドアを開けた。

「さぁーて、それじゃあちょっくら行ってきますかねぇ」

トビーに向かって、ヒラヒラと陽気に手を振る。
その男の名はロモといった。

⏰:08/04/08 22:54 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#93 [◆vzApYZDoz6]
「…もう、行くの…?」
「連中、もう着く頃だろ? 大丈夫さぁ。何か欲しいもんあるか?」
「…オレンジジュース…」
「そんなんでいいのかぁ? よーし、探してきてやるよ」

ロモがトビーの頭を撫で付け、車のドアを閉める。
去っていくロモを見送ってから、トビーはノートパソコンを立ち上げた。
連絡用のメールアドレス宛に『第1段階完了。ロモ、任務開始』と書いたメールを送り、ノートパソコンを閉じた。

窓から外の景色を眺める。
太陽の光は車内に射し込んでくるし、外の木々は風で揺れている。

自分のスキルがうまく発動していることを、トビーは実感した。

⏰:08/04/08 22:55 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#94 [◆vzApYZDoz6]

トビーのスキル、それは『マイルーム』。結界内の空間を自分の『部屋』とする能力。
部屋に入る権利を決めるのはトビーであり、例外設定さえしなければ太陽の光だろうが風だろうが、勝手に入ることは許されない。
その上、部屋の様子は外からは一切分からない。

つまり、結界で覆われ、トビーの『部屋』となったパンデモは、外界からのいかなる干渉も受け付けない。
パンデモで何が起きようとも、邪魔は一切入らない状態になった。

同時に、パンデモのはるか地下で蠢いていた大軍が、地上を目指して進行を開始する。

パンデモに、最初の危機が訪れようとしていた。


⏰:08/04/08 22:56 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#95 [◆vzApYZDoz6]



「ちっ…だめだ、繋がらないな。なんで急に通信切れたんだ?」

ロモがワゴン車を出てどこかへ向かったのと同時刻、バウンサー本部。

かつての仲間たちの墓参りを終えて帰ってきたハルキンが、突然交信が途切れて以来さっぱり応答しなくなった通信機をいじっていた。

それも、上半身裸の格好で。

「しかし通り雨だったとは…あのタイミングで降るとか空気読みすぎだぞ、雨の野郎」

わりと大きな声で独り言を呟きながら、まだしずくが滴っている髪を首にかけたタオルで無造作に拭き上げる。
どうやら、雨に濡れてしまったので1度シャワーを浴びたらしい。

⏰:08/04/11 22:22 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#96 [◆vzApYZDoz6]
最後にもう1度通信を試みてみるが、やはり応答はない。
ハルキンは諦めて受話器を置いた。

(…連中は確か、パンデモも狙うつもりだったな)

セリナとの会話を思い出す。
地球、そしてパンデモに既に刺客が向かっている、と忠告されたが、よくよく考えれば昔の仲間と言えどセリナは敵だ。

制圧する事をわざわざ伝えたのは自分への温情だろうが、それでも準備は万端整っていたと考えてもいい。

最悪、通信が途切れたあの瞬間に、通信機の向こうのバッシュが敵の手に掛かった可能性すらある。

(…俺も、今すぐに行くべきか…? だがそんなにすぐに制圧できるものか?)

⏰:08/04/11 22:22 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#97 [◆vzApYZDoz6]
通信が途絶えたあの瞬間にすでに制圧されていた、というのは最悪のケースではあるが、可能性は低い。
すでに敵の手が伸びておりバッシュがそれに気付かずやられたのだとしたら、通信が何もなくいきなり途絶えるのは不自然だった。
普通なら、物音や声などが聞こえていても、おかしくはない。

そしてなにより、パンデモには集落全体の動きを把握できるスキルを持つ、あるレンサーがいる。

それらを踏まえると、現段階ですでに敵の手に落ちているとは考えづらい。

通信が途絶えた理由は、単なる電波障害を除けば1つしか考えられなかった。

(──敵の結界、か…やはり動くべきだな)

⏰:08/04/11 22:23 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#98 [◆vzApYZDoz6]
考察にふけっていたハルキンが立ち上がった、ちょうどその時。
外から、聞き慣れた駆動音が耳に入ってきた。

「帰ってきたか。いいタイミングだな」

最初は小さな音だったそれは、徐々に大きくなっていく。
やがてバウンサー本部の前に、マフラーの排気音とけたたましいエンジン音を抱えた漆黒の巨人が膝をつく。

バイクから降りた5人が、エレベーターを上がりハルキンのいる部屋に入ってきた。
と同時に、ジェイト兄弟がすっとんきょうな声をあげる。

「ちょ…なんで裸なんだよ」
「俺の勝手だろう」
「いや関係ないし。とりあえず服着ようぜ」

⏰:08/04/11 22:24 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#99 [◆vzApYZDoz6]

「フォックスにオリオット、か…」
「敵と見て間違いないと思う。クルサも結局見つからなかったし、悪いことばかりだよ」

着替え、というより普通に服を着ていくハルキンに、ラスダンが基地跡での事のあらましを説明する。

ラスダンの話を聞くにつれ、パンデモ制圧の件は近いうちに間違いなく起こるだろうと確信する。
しかし、ハルキンにはもう1つ気になることが残っていた。

「こちらからは地球には行けないのか?」
「地球に? どういうこと?」
「実はな…かくかくじかじか」
「会長、それじゃ分からないよ」
「お前…もうちょっと空気読め」

⏰:08/04/11 22:24 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#100 [◆vzApYZDoz6]

「地球とパンデモが?」
「ああ、すでに幾らかの刺客も放たれているらしい」

服を着おわり、今度はハルキンがセリナとの事を説明する立場に変わった。

「その話は信用できるの?」
「ああ……間違いないはずだ」
「うーん…新たな指揮官に、グラシアとセリナ、もしかしたら他にも…敵が増えてばっかりだ」

ラスダンが呻きながら苦笑いを浮かべる。
ハルキンは一呼吸置いて、顎をさすりながら再び話し出した。

「しかし参ったな…地球と往き来できるスキルを持つのはクルサだけだったよな?」
「いや、例の『ゲッター』も持ってたはずだよ」

⏰:08/04/11 22:25 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#101 [◆vzApYZDoz6]
「そうか…奴を忘れていた。なら地球はとりあえずは大丈夫だろう」

ハルキンは自嘲ぎみに鼻で笑い、立ち上がる。
話が終わるのを待っていた4人に声をかけた。

「リーザ、シーナ、お前らはじいさんの家に行くんだったな?」
「ええ、そのつもりです」
「ならこれ持っていけ」

そう言いながら、ハルキンは2つの物をリーザに手渡した。

「無線機と…ゲートキャバですか?」
「呼んだら来い、って事?」
「そういう訳じゃないが…一応な」

さて、と間を置き、今度はジェイト兄弟に視線を向ける。

「お前ら2人と、それからラスダン。一緒にパンデモに行くぞ」

⏰:08/04/11 22:25 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194