Castaway-2nd battle-
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#101 [◆vzApYZDoz6]
「そうか…奴を忘れていた。なら地球はとりあえずは大丈夫だろう」

ハルキンは自嘲ぎみに鼻で笑い、立ち上がる。
話が終わるのを待っていた4人に声をかけた。

「リーザ、シーナ、お前らはじいさんの家に行くんだったな?」
「ええ、そのつもりです」
「ならこれ持っていけ」

そう言いながら、ハルキンは2つの物をリーザに手渡した。

「無線機と…ゲートキャバですか?」
「呼んだら来い、って事?」
「そういう訳じゃないが…一応な」

さて、と間を置き、今度はジェイト兄弟に視線を向ける。

「お前ら2人と、それからラスダン。一緒にパンデモに行くぞ」

⏰:08/04/11 22:25 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#102 [◆vzApYZDoz6]
「俺らもパンデモに?」
「足が要るからな」
「てめぇ!」

大振りに激昂するフリをする兄弟をうさんくさそうにかわし、ハルキンが歩き出す。
エレベーターのボタンを押して、振り返った。

「まぁそれは冗談だが…途中でラスカを拾うぞ」
「あら、その必要はないわよ」

すぐに上がってきたエレベーターの扉が開く。
そこには腕を組み、仁王立ちするラスカがいた。

「ラスカ? 家に帰ってたんじゃなかったのか」
「こんなことだろうと思ってね」

ハルキンは満足げに鼻で笑い、全員エレベーターに乗り込んだ。

⏰:08/04/11 22:26 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#103 [◆vzApYZDoz6]

ジェイト兄弟が先に巨人形態のバイクに乗り込み、エンジンを吹かす。
その間、ハルキンとラスカは本部の裏手にまわり、スティーブのいる小屋へ行っていた。

「ラスカ、スティーブを連れていくからな」
「了解。任せといて」

巨大な犬のスティーブをハルキンが引き連れ、ジェイト兄弟の元へ戻る。
スティーブを見た兄弟が普通に嫌そうな顔をしたが、ハルキンとラスカは構わずにバイクに乗り込んだ。

「よし、出発だ!」

ハルキンの声を合図に兄弟がスロットルを回し、巨人はパンデモに向けて走り出す。
間を置かずにスティーブが身をかがめ、後を追って駆け出した。

⏰:08/04/11 22:26 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#104 [◆vzApYZDoz6]

「なーんか、後発が多いよね私達」

一足先に行ったハルキン達を見送りながら、シーナが呟いた。
隣にいるリーザが少し考えてから、呟く。

「まぁ…最近はね」
「ずっとじゃない?」
「いいから行きますよ」

どうでもいいといった声を出しながら、リーザが先程ハルキンに渡されたものを1つ取り出す。
とても薄い立体映写機のようなそれを地面に置いた。

「あれ? お姉ちゃんのゲートキャバじゃないよね、それ」
「でも行き先にはちゃんと祖父の住む場所が記録されてますわね…どういう事かしら」

⏰:08/04/11 22:28 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#105 [◆vzApYZDoz6]
「んー、まぁ何でもいいじゃん」
「あら…言い出したのはあなたでしょう」

2人は言いながら、ゲートキャバと呼ばれたそれの上に乗る。
途端にゲートキャバを中心に、地面から淡いピンク色をした光の筒が噴き上がる。
シーナとリーザが完全にその光に包まれると、光の筒が徐々に細くなっていく。

やがて完全に光がしぼんだ頃には、ゲートキャバ、そしてシーナとリーザの姿は、そこから消え失せていた。


⏰:08/04/11 22:28 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#106 [◆vzApYZDoz6]


時間軸は少し戻る。ハルキンが、かつての仲間がいる丘へ向かっていた頃。

地球では、それぞれが日曜日の午後を満喫していた。

⏰:08/04/15 03:55 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#107 [◆vzApYZDoz6]

─有紗の場合─

「う…ん、ちょっと、うるさいわよ……ふぁー……」

内藤の自宅を間借りして生活している有紗は、階下からの物音で目を覚ました。

時刻はちょうど午後1時を過ぎたあたり。
普通に寝すぎだが、布団から体を起こしても目が開いていないあたり、就寝するのが遅かったらしい。

しかし次の日が休みで、しかも恋人と同棲状態なんだから、まぁ当然と言えば当然……いやいや。

有紗が寝ぼけまなこをこすりながら隣を見ると、普段なら爆睡しているはずの内藤がそこにいない。

単純に1階にいるのは内藤だろうと考え、ゆっくりとベッドから立ち上がった。

⏰:08/04/15 03:56 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#108 [◆vzApYZDoz6]
体に巻いた掛け布団のすそを引き摺りながら階段を下りると、案の定すでに身支度を整えた内藤がいた。

「どっか行くの?」
「たまの休みぐらい1人でゆっくりさせてくれ」
「まぁいいけど。浮気じゃないでしょーね?」
「今から愛車とデートだから、浮気だな」
「はいはい…行ってらっしゃーい」

ごきげんな様子で家を出る内藤にヒラヒラと手を振って見送る。
シャワーを浴びるか遅めの朝食を摂るかで迷ったが、眠いのでもう少し寝ることにした。

鍵も閉めずに2階へ上がり、身を投げるようにベッドイン。そのまますぐに寝息が聞こえてきた。

まったくいい御身分である。

⏰:08/04/15 03:57 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#109 [◆vzApYZDoz6]

鳴り響くインターホンのチャイム。

最初は1分に2、3回。だが次第に音が鳴る間隔が短くなっていき、終いには間を空けずに連続で鳴り響く。

「…あーもう、うるさいわねぇ!」

有紗がそれに耐えかねて目を覚ましたのは、もう陽も傾きかけた夕方5時半。

有紗は再び体に掛け布団を巻いて、欠伸をしながら1階に下りていく。

せっかくの休日を無駄にしすぎじゃないかと思ってしまうが、ぶつくさと文句を垂れているあたりを見ると、本人には別段そういう気はなさそうだ。

その間も、寝ぼけまなこがぱっちり開かれる気配はない。

まったくあきれた低血圧である。

⏰:08/04/15 03:58 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#110 [◆vzApYZDoz6]
1階に下りる間に、インターホンが鳴りやんだ。
さすがに連打は失礼だとでも思ったのだろうか。

となると、ドアの先にいるのは知り合いだろうか。

もし宅配便のお兄さんだったりしたらどうしよう、とかなり今更な心配をしながら、玄関のドアノブに手を掛ける。
そのまま遠慮がちにドアを開けた。

来客の顔を見て、少し不機嫌そうだった顔がたちまち嬉しそうな表情に変わる。

それはもう、声も上機嫌になるというものだ。

「……あらー、いらっしゃい♪」

その来客があわてふためいている事などお構いなしに、家へ招き入れようと振り返った。

⏰:08/04/15 03:59 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#111 [◆vzApYZDoz6]

─藍の場合─

「ちょっと、ケツ! 丸見えだから!」
「京ちゃん…顔がやらしいよ」
「それなら有紗さんになんとか言ってくれ」
「……ヘンタイ」

『ヘンタイ』に対しなにやら必死に弁解する京介を無視して、藍は招かれるままに家へ入っていった。

京介と藍は、担任にディナーでもご馳走してもらおうという魂胆でインターホンを押していた。

それなのに、出てきたのはすっぽんぽんにタオルケットを適当に巻いただけという格好の、しかもわりと美人の分類に入る保険医だったのだから。
京介がたじろぎまくるのは当たり前だった。

「なんだよ…俺は悪くないじゃん…」

⏰:08/04/15 04:00 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#112 [◆vzApYZDoz6]
「それで、今日はどうしたのかしら?」
「内藤先生に晩ごはんごちそうしてもらおうと思ったんですけど…」
「あらー♪ それなら私が作ってあげるわよ♪」
「あっ、本当ですか?」
「ええ♪ でも食材が無いから買い出しに行かないとね♪」

有紗はちょっと待っててね、と言い残して、着替えるためにパタパタと2階へ上がっていった。

それと同時に今まで玄関に留まっていた京介が、それを察したのかリビングに入ってきた。

「何してるのよ?」
「いや、上行ったかなーって…」
「ヘンタイ」
「なんでそれがヘンタイになるんだよ…」

⏰:08/04/15 04:01 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#113 [◆vzApYZDoz6]
「だいたいじろじろ見すぎなんだから! きもいし!」
「見てねーよ! いきなりあんな格好で出てきたら、誰だってびっくりするだろ!」

「あっ、そう。胸もおっきかったしね?」
「お前より全然でかいよな」
「京ちゃんのバカ!」
「いやっ、冗談だって!」

放っておけば延々と続きそうな痴話喧嘩を繰り広げる2人の尻目で、さっさと着替えを終えた有紗が2階から下りてきた。

着替えたと言ってもインナーの上にジャージを着ただけという、ものすごくアレな格好だが。

化粧も最低限のナチュラルメイクで、どうやら有紗は軽い外出程度なら外見はあまり気にしない性格らしい。

⏰:08/04/15 04:01 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#114 [◆vzApYZDoz6]
「あらあら、喧嘩?」
「京ちゃんがやらしい目で有紗さん見てたから」
「だからやらしい目では見てねーって! びっくりしただけだ」
「……もしかして私が原因かしら」

いたずらっぽく舌を出しながら、机の上に置いてあった財布をポケットに入れる。

靴を履きながら、また痴話喧嘩を再開している2人に声をかけた。

「どっちかついてきてくれない?」
「あっ、じゃあ私行きます!」

先に返事をしたのは藍。
京介を冷たく一瞥してさっさと歩き出し、玄関でもう一度振り返った。

「2階へ上がったらはったおすからね!」

そう言い放って乱暴に扉を閉めた。

⏰:08/04/15 04:02 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#115 [◆vzApYZDoz6]
バタン、と玄関のドアがやや強めに閉まる音が響く。

「…それはお前の台詞じゃねーだろ!」

あっという間に1人取り残された京介は、ドアに向かって文句を叫んでいた。

【なお、すぐにしょぼくれて大人しくなると思うので、スルーします。】


「…っておい待ちやがれてめえ!!…」


────────────


「……あれ?」
「どうかしたの?」
「なんか今、京ちゃんに『てめえ』って言われたような…」

ここは内藤宅の近所にある、普通のスーパーマーケット。
カートを押している藍が、謎の空耳を聞いていた。

⏰:08/04/15 04:03 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#116 [◆vzApYZDoz6]
「なんか分からないけど、京ちゃんがすごく哀れな気がする…」
「あら、ちゃんと心配してるのねぇ」
「べっ、別に心配なんかしてないですよ!」

会話しながら店内を回る。有紗が食材をカートへどんどん放り込んでいく。

「…有紗さんは、内藤先生と仲いいですよね」
「そーかしらねぇ…あっ、これも買っちゃお♪」

そう言って手に取ったのは伊勢海老。
まったく金銭感覚がよく分からない。

「藍ちゃんは、どうしてさっき京介くんと喧嘩したの?」

「…さっきの京ちゃんの言動にムカついたから」

「それ、なんでムカついたんだと思う?」

⏰:08/04/15 04:04 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#117 [◆vzApYZDoz6]
精肉コーナーで、牛から鶏まで一通りの肉をすべてカートへ放り込む。
一体何を作る気なのだろうか。

「……なんか、いやらしかったから?」

「ふふっ、まぁそれもハズレじゃないかもしれないけど♪ 的を射た理由が見つからないでしょ?
 『怒る』って、そんなものよ。何が気に入らないのか、あんまり分からずに怒鳴っちゃったりね」

一通り店内を回ってレジへ行くのかと思いきや、またUターン。

カートの中はすでに様々な食材で溢れかえっているというのに、まだ何か買うつもりらしい。

「『仲がいい』っていうのは、お互いに怒りあえる人のことだと思うの」

⏰:08/04/15 04:05 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#118 [◆vzApYZDoz6]
「喧嘩するほど仲がいい、ってことですか?」

「そうねぇ。自分が好いている相手には、自分の欲望が自然と向けられちゃうの。独占欲みたいなものかな。

 相手を知っている上で、それでも『ここがいや』だとか『こうしてほしい』だとか思うから、それを伝えるために怒るのよ。

 お互いがそれを抑えられないと衝突しちゃうんだけど、若いうちはそれがいいの」

「お話はなんとなく分かりますけど…」

2周目を終えて、ようやくレジへ歩みを向ける。

カートに詰め込まれた食材は、すでにカートから山盛りにはみ出していて、危ういところでバランスを保っていた。

⏰:08/04/15 04:06 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#119 [◆vzApYZDoz6]
「…若いうちは、って、有紗さんもまだ若いですよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」

レジに立つ店員が、山盛りのカートにおっかなびっくり手を付ける。
量も半端ないので、会計に時間が掛かりそうだ。

「でも、私も昔は喧嘩ばっかだったわねぇ…」

その間に、有紗はパンデモでのことを思い出していた。

母親であるイルリナを人質に連れ去られる、その前まではよく内藤と痴話喧嘩も妬いていた気がする。

その頃は、精神的にはまだまだ若かったのだろう。

「私が年取ったのは、絶対グラシアのせいよ!」
「えぇ!?」

⏰:08/04/15 04:07 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#120 [◆vzApYZDoz6]

「…グラシアで思い出したけど、クルサちゃんって一体どうなったのかしらねぇ…」

有紗は、内藤らが地球に帰ったすぐあとに地球への扉をくぐった。

ハルキンには『こっちで探しておいてやるから、好き勝手してこい』と言われていたが、やはりどうなってるかは気になる。

「確か地球にも移動できるスキル持ってたから、生きてるなら地球に来ると思うけど…やっぱり助かってないのかな…」

クルサがディフェレスで行方不明になっている事など、有紗は知らない。


今現在、クルサが移動系のスキルで地球に来ている事など、なおのこと知るはずもなかった。


⏰:08/04/15 04:08 📱:P903i 🆔:u1DQTzs.


#121 [◆vzApYZDoz6]

─内藤の場合─

内藤や京介らが住む地球の1都市、歌箱市。

田舎ではないが決して都会でもないこの歌箱市の空は、まだ光化学スモッグに汚染されていない。

空はいつもよりも青く、暖かに晴れ渡っていた。
これを春の陽気と言うのだろうか。

「今日はいい天気だな…」

そんな空の下で、内藤は愛車の赤いRX−8を走らせていた。

特に何か用事があるわけではない。
ピカピカに磨き上げている愛車に乗ってドライブするのが、内藤の数少ない趣味のひとつだった。

内藤の乗った車はやがて、歌箱市を一望できる高台にたどり着いた。

⏰:08/05/02 03:12 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#122 [◆vzApYZDoz6]
高台にある寂れた公園でエンジンを停めて、車から降りる。

眼下には、どこにでもあるような平凡な街並みが広がっていた。

「…平凡で、平穏で…代わり映えのない日々。こういうのが幸せだと思える俺は、もう若くないのかもしれんなぁ」

ここから見える景色は別に感動的でもなんでもない。
だがそれがいい。

パンデモにいた頃は、平凡な街並みをいいと思うことはなかっただろう。

「そうだなぁ、例のアホ共と関わったせいで、若さというやつを失ってしまったかな…」

それなりに昔のことだが、まだ鮮明に覚えている。
平和だったパンデモに突然現れた無法者。

⏰:08/05/02 03:12 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#123 [◆vzApYZDoz6]
友を操られ、愛する者を拉致され、否応でも立ち向かわなければならなくなった。

ハルキンと知り合い、パンデモを出て、バウンサーとして活動するようになる。
敵が地球のレンサーを狙っているという情報を掴み、単身地球へ向かった。
この街へ来たのは、それが初めだ。

狙われていたのは高校生。
常時見張っておくために、教員になった。

そこで出会った狙われていたレンサーが、京介と藍だ。

「あいつらは俺の子供みたいな気がしてたなぁ。
 もう完璧におっさんだな、俺は…いっそ子作りでもしてやろうか」

冗談っぽく言いながら自嘲ぎみに鼻で笑う。

⏰:08/05/02 03:13 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#124 [◆vzApYZDoz6]
「そういや…クルサはどうなったんだろうな」

敵に操られていたクルサだが、最終的には正気は取り戻している。

しかし、崩壊する要塞からハルキンとラスダンを助け、すぐに行方不明になっていた。

その後どうなったか気にはなっていたが、確かめようにも確かめられなかった。

「まぁ、いいか。漫喫に行くかな」

分からないことを考えても仕方がない。

さっさと思考を振り払い、内藤は愛車のドアを開けた。

にしても、パンデモにいた頃のことなど今は思い出す必要がない。

それなのに、なぜ今になって急に昔のことを思い出したのだろうか。

⏰:08/05/02 03:13 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#125 [◆vzApYZDoz6]

気が付けばもう夕方。
どうにも無駄に長い時間を公園で過ごしていたらしい。
これでは貴重な休日がもったいない。

そんなわけで漫画喫茶に向かっているわけだが、常識的に考えると漫画喫茶でも十分に休日を無駄にしているような気がする。

有紗といい内藤といい、パンデモ出身者はどうやら時間を伸び伸びと使うのが好きらしい。

ところでどうでもいいが、最近は風俗のお兄さん方が実によく頑張っている。

お気に入りの漫画喫茶に向かう途中の裏路地で、風俗の客引きにつかまった内藤はそんな感想を抱いた。

⏰:08/05/02 03:14 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#126 [◆vzApYZDoz6]
「ちょっとお兄さん、遊んでいかない?」
「ん? いや、漫喫行くんで」
「そんなこと言わずにさ〜。可愛いコいっぱいいるよ? 今なら女子十二おっぱい!」
「……8人いるってことか?」
「そうそう…いや違うよ、6人だ」
「4おっぱいも減っとるやないか! ぶち殺すぞ!!」
「ひっ、ひぃぃ!」

少し愉快な客引きを追い払い、内藤は再び歩き出す。

曲がりくねった裏路地を進み、表通りを横切る。
あと1つ曲がれば漫画喫茶へたどり着くというところで、不意に声をかけられた。

「幸せそうに過ごしてるじゃないか、バニッシ・ユーメント」
「!?」

⏰:08/05/02 03:14 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#127 [◆vzApYZDoz6]
慌てて振り返る。
裏路地の陰にある自販機にもたれかかるようにして、懐かしい人物が立っていた。

「いや…こっちでは内藤、だったよな」
「クルサ…!? お前生きていたのか…いや…」

少し混乱した頭を落ち着かせるように目頭を押さえ、再び目を開く。

しかし何度見ても、その姿に一瞬誰だか迷ってしまう。
実に半年ぶりだが、そこにいるのは紛れもなくクルサだ。
左腕から胸、首、左顔面に至るまで、すべてが金属に取って変わっているが。

それを見て苦い表情でうつむく内藤。
クルサも意識はあるらしいが、再会を喜ぶ雰囲気ではないのは明らかだった。

⏰:08/05/02 03:15 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#128 [◆vzApYZDoz6]
「お前…体を改造、されたのか」
「ああ。潰れたパーツを全部ね」

そう言いながら履いているズボンの裾をめくると、そこもやはり金属プレートでできていた。
内藤の顔がよりいっそう曇る。

「あまり罪悪感に浸らないでくれよ。バニッシは悪くない」
「だが…」
「今の僕にはあまり悠長に話してる時間が無いんだ。要件だけ幾つか手短に話すから、そのまま聞いてくれ」

内藤が小さく息をつく。
それを確認して、話し出した。

「まず、グラシアは生きている」
「…だろうな。お前が今そこにいる理由は、それ以外に見当たらない」

⏰:08/05/02 03:16 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#129 [◆vzApYZDoz6]
「そしてグラシアは組織を立て直し、諦めずお前らを狙ってる」
「それもまぁ…当たり前だろうな」

内藤が自嘲ぎみに笑った。
丘の公園で昔を思い出したのは、これの予兆だったのだろう。

「そして…連中は『SED』を持っている」
「なんだって!?」

うつ向いていた内藤が、今にもクルサに掴みかからんばかりに身を乗り出した。

「まだ万全じゃないグラシアに代わり、ウォルサーの新たな指揮官にヨシュアが着任した…と言えば分かるはず」
「ふん…とんだ厄介だな」
「ヨシュアは地球のレンサーをすべて狙っている。気を付けなよ」
「待て、お前はどうするんだ?」

⏰:08/05/02 03:16 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#130 [◆vzApYZDoz6]
「僕は命令を忠実に守るように改造されたから…今は命令が出てないだけさ。でもいつ出るかは分からない」
「それで『時間がない』か…」
「そういうわけだから、僕はもう行く。…そのうち戦うことになるかもしれない」
「…ま、覚悟はしとくさ」

⏰:08/05/02 03:17 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#131 [◆vzApYZDoz6]
呆れぎみに肩をすくめる内藤を見て小さく笑い、クルサは再び路地の中へ消えていった。

久々の再会は、半年前の戦いの続きを宣告されただけ。
悪い冗談だ。昔から運が悪いにも程がある。
だが、悲観している暇は無かった。

「しばらく漫喫には行けないな…」

角を曲がった先にもう見えている漫喫を名残惜しげに一瞥し、愛車が止めてある公園へ向かった。


⏰:08/05/02 03:17 📱:P903i 🆔:ANkVv1PE


#132 [◆vzApYZDoz6]

─京介の場合─

同時刻、内藤宅。

有紗はキッチンに向かい、どっさりと買い込んだ食材を使って調理中だ。

その様子を、リビングのテーブルに肘をつきながら眺める京介。
その向かいで、京介の顔をじっと眺める藍。

「……なんだよ?」
「私って京ちゃんにどうしてほしいんだろうと思って」
「なんだそれ…知らねーよんなもん」
「……ハァ…」
「お前今あからさまにため息ついただろ」
「あら、また喧嘩?」

そこへ有紗が、皿と食器を両手に割り込む。

「あっ、できた?」

有紗が楽しそうにピースサインを作った。

「バッチリ、ね♪」

⏰:08/05/07 02:43 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#133 [◆vzApYZDoz6]

「これは…藍さんや、代金はいかほどだったのかね?」
「知らないわよ、会計したの有紗さんだし…」
「さ、そんな事気にしてたらお腹一杯食べられないわよ♪」

有紗が作ってくれた料理は、予想以上に豪華だった。フカヒレのスープに子羊背肉のソテー、海老のワイン蒸しやホタテ貝のピュレ添え。
まるで、というか普通にどこかの高級レストランのフルコースだ。
これは代金が京介持ちになるのを見越した新手の嫌がらせだろうか。

「あの…お代金は…」
「これなんだ♪」
「へっ? クレジットカード…あ、名前が内藤篤史って!」
「財布忘れてたからちょっと拝借しちゃった♪」

⏰:08/05/07 02:43 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#134 [◆vzApYZDoz6]
親指を立てて無駄にいい笑顔を作る京介と有紗。
すでに箸をつけている藍。
外はすでに暗くなり雨が降り始めていたが、家の中は暖かい雰囲気で溢れていた。

「あっ、その豆腐ステーキは俺のだよ!」
「私が先にお箸つけたんだから私のよ!」
「あら、豆腐ステーキならまだあるわよ♪」
「さすが内藤、太っ腹!」

さらに良い笑顔を浮かべキッチンへ向かう有紗を横目に、京介が食事を再会する。

料理は予想以上に豪華だし、藍も何だかんだで喜んでいるようだ。
そして代金は内藤もち、と来れば、自然と京介の頬も緩む。

「今日は来て本当よかったなー」

⏰:08/05/07 02:45 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#135 [◆vzApYZDoz6]

「ふー、おいしかったぁ。ご馳走さま、有紗さん」
「ご馳走さま、内藤」
「あら、デザートもあるわよ♪」

有紗がキッチンへ向かう。
一般家庭にあるまじき料理を平らげ、京介と藍は一息ついていた。
そのとき玄関の扉が開いた音がしたが、降りしきる雨音のせいで3人の耳には届かなかった。

「有紗さん、念のために内藤には明日言っといて。数日はどこかに隠れねーと…」
「……あっ、京ちゃん…」
「………ただいま」
「って内藤!?」

固まる京介と、それをジト目で見つめる内藤。
普段なら鉄拳制裁なのだろうが、なぜか今日は手を出してこない。

⏰:08/05/07 02:45 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#136 [◆vzApYZDoz6]
雨に濡れて帰ってきたのだろうか、びしょ濡れのままで内藤はため息をついた。

「ほどほどにしろよ。安月給なんだから」
「ハイ、スミマセン、ハイ…」
「つうか川上は今から俺の部屋に来い」
「部屋でじっくり殺害を!?」

内藤に耳を引っ張られて連行される京介。
有紗と藍はそれを尻目に、とりあえずデザートを食べ出した。

⏰:08/05/07 02:46 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#137 [◆vzApYZDoz6]


「で、だ…川上」
「はいはい」
「お前、半年前のこと覚えてるか?」

内藤は濡れた服を脱ぎ、全裸のまま大真面目な顔で京介に問いかける。

京介は「え、こいつ何言ってんの?」というような目で見ていたが、内藤の真面目な表情とその言葉に、半年前のあの戦いを思い出した。

自分が少しだけ変わるきっかけになった事件。
藍のために戦った、たった1日の出来事。

「…忘れるわけがねーよ」

「あれは、終わった」

「ああ…終わった。でも何でいまさら?」

「あれな。まだ、おかわりがあるってよ」

⏰:08/05/07 02:47 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#138 [◆vzApYZDoz6]
ステテコとタンクトップに着替えながら、内藤は何でもないことのようにそう言った。

遠回しな言い方と、何気無いような振る舞い。
それは、現実を受け入れたくない、という心情の発露にも見えた。

「は? もうお腹一杯なんだけど」
「俺の財布は寂しくなりそうだ」

その態度は、あまりにらしくなかった。
内藤なら例え、そう、グラシアの残党が生き残っていたぐらいなら驚きもしないはずだ。

「今度はもっとでかいぞ。新しいボスキャラも増えたしなぁ」
「はぁ? 意味が分からん…話しづらそうなのは分かるけど」
「話しづらいな。まぁ聞け…」

⏰:08/05/07 02:48 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#139 [◆vzApYZDoz6]

「…内藤先生と京ちゃん、一体何話してるのかな?」
「さぁー…京ちゃんはもしかしたら殴られてるかも♪」
「タコ殴りにされてるのかな…ってまだデザート食べてるのに。
 話変えてっと…有紗さんはやっぱり内藤先生の傍に居たいから地球に来たんですよね?」

「んー、それが第一なんだけど…ちょっと探し物があってね」
「探し物…ってなんですか?」
「それは秘密ー♪」

「うーん、気になる…ってあれ? デザート無くなっちゃった」
「あら、結構買っておいたんだけど…女の別腹ってすごいわねぇ♪」

ちなみに、本日のディナーの総料金4万2千円也。

⏰:08/05/07 02:49 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#140 [◆vzApYZDoz6]

「…と言うわけだ」
「つうか話でけぇー…」

話を聞き終わった京介は、盛大にベッドに突っ伏した。
だがアレの匂いが少し鼻についたので、眉をしかめながら再び体を起こした。
シーツは洗われていないらしい。

「…つまり、グラシアがいた要塞よりもたくさんの組織が、スキル収集を目的に俺や藍やその他の地球にいるレンサーを狙っている、と。内藤はそれを本当だと信じてる」
「お前は信じないか?」
「内藤の言うことじゃなかったら絶対笑ってるよ…クルサって奴は1回見ただけだけど、信じられるのか?」
「確かに嘘をついてる可能性もあるが…そんな嘘つく必要があるか?」

⏰:08/05/07 02:50 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#141 [◆vzApYZDoz6]
確かにクルサがわざわざ嘘をつきに内藤に会いにいくのは、意味が分からないし必要もない。
本当の話なのだろう。

そしてより肥大した組織ウォルサーは、恐らくはグラシアの要塞の事件から半年の間に、準備を整えてきたはずだ。
それが今から動き出すとなれば、壮大な戦いになるだろう。
ましてや地球ではレンサーの認知度は無いに等しいのだ。
半年前とは比べ物にならない騒動になる。

「もう、いつ何が起きてもおかしくない。お前は確か…身体強化の名残があったよな」
「あるにはあるよ…前ほど強くはないけど」
「浅香は今何もできない状態だ。お前が守ってやれよ」

⏰:08/05/07 02:51 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#142 [◆vzApYZDoz6]
京介のスキルは確かに消滅したが、付加価値としてあった身体強化能力はまだ残っていた。
だが、それもどんどん弱まってきている。

(もし本当に敵がいて、遭遇なんかしたりしたら…)

半年前なら身体強化だけでも戦えた。
だがはたして今の状態で、いざという時に藍を守れるのだろうか。

京介の心情を察した内藤が、ゆっくりと口を開いた。

「…俺もアリサも1人で戦える。お前は敵に遭遇したら藍を守ることだけ考えてろ」
「……ん、分かった」
「アリサには俺が伝えておく。…藍に話すかどうかはお前が決めろ。とりあえず今日は帰るんだ」

⏰:08/05/07 02:52 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#143 [◆vzApYZDoz6]

「京ちゃん、どうしたの? さっきからずっと黙って」

最寄り駅から京介達の住むマンションまで、歩いて約5分。
藍と一緒に家路についていた京介は、先ほどの内藤の話についてずっと考えていた。

一応、軽く周囲を警戒しながら。
内藤の話は、まだ半信半疑だった。

「ね、京ちゃん。そういえばさっき内藤先生と何話してたの? 殴られてはいないみたいだけど」
「殴られて、って……まぁ色々話してたんだよ」

藍に言うべきかどうか、少し迷っていた。
さっきの内藤の口振りから察するに、どうやら内藤は有紗と共に敵を探すつもりだろう。

⏰:08/05/07 02:53 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#144 [◆vzApYZDoz6]
京介は、それならば身辺の警戒だけをしようと思っていた。

わざわざ敵を探しに行くのなんて面倒だし、戦いもできればしたくない。
というか、他人より少し身体能力が高いだけの今の自分が、どれだけ役に立てるのだろうか。

そうなると現時点で藍に話す意味もあまりないし、もし敵に遭遇したら藍を守りながら逃げればいい。
わざわざ自分から厄介事に関わる必要はないし、藍を関わらせる必要なんてもっとなかった。

「色々って何?」
「別にいいから…また今度話すからさ」
「ふーん。教えてくれないわけね」
「いやそういうのじゃなくて…」
「もーいいから」

⏰:08/05/07 02:55 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#145 [◆vzApYZDoz6]
そうとだけ言うと、藍はもう視界に入っている自宅マンションへさっさと歩いていった。

「何だよあいつ…最近変だな」

その理由はもしかしたら自分にあるのかもしれないが、考えても分からなかった。

「はー、敵さんもいるわけだし…問題が増えてばっかりだ」

大きくため息をつく。
考えすぎて知恵熱でも出しそうだ。

辺りはすでに真っ暗。
とりあえず明日も学校だし、今日は家に帰って休みたかった。
マンションへ小走りに向かい、1階の郵便受けを確認する。

チラッと横を見ると、上へ向かう階段が見えた。

(そういえば…敵さんはどこから来るんだ?)

⏰:08/05/07 02:56 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#146 [◆vzApYZDoz6]
半年前、ディフェレスへの扉は階段の横部分に出現した。
その扉がディフェレスに繋がったのは藍の能力だったが、扉を作ったのはウォルサーの誰かだ。

その誰かがもしまだ生きているなら、もちろん京介と藍がこのマンションに住んでいるのは知っているはず。
間違いなくここに扉を作るだろう。
もしそうなれば、寝込みを襲われただけで終わりだ。

京介の背筋に一瞬、悪寒が走った。
あまり考えたくはないが、その可能性は高い。
休む暇などあったものじゃない。

「これじゃ寝れないじゃん…明日内藤に相談するか…」

考えても埒があかない。
とりあえず、階段をのぼった。

⏰:08/05/07 02:56 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#147 [◆vzApYZDoz6]
とん、とん、と。
一定のリズムで階段を上がっていく。

そのリズムに合わせて、階段横のあの場所に、小さな光が生まれていた。
階段をのぼる音が小さくなっていくのに比例して、光は静かに、渦を巻きながら徐々に大きく膨れていく。

京介は気付かず、4階の自宅のドアに手をかける。
それと同時に、光の膨張が止まる。
光は階段横の狭いスペース全体に広がっていた。

京介がドアを開き、中に入る。
ドアが閉じられると同時に、光は弾けるように消え失せ、代わりに小さなドアが出現していた。

間も無くしてその小さなドアから、男が身を屈めて出てきた。

⏰:08/05/07 02:58 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#148 [◆vzApYZDoz6]
「到着ー、っとぉ」

頭にハンチング帽、口には煙草をくわえて。
コートのポケットには、ビニールフィルムが剥がされただけの新品の煙草が何箱も詰め込まれている。

ドアから出てきたのは、ロモだった。

「異常はなし、かぁ。おまえらぁ、出てきていいぞぉー」

小さなドアの向こうに向かって話しかけると、中からは同じ格好をした男がぞろぞろと出てきた。

10人程度だろうか。皆、特撮にあるような体にピッタリとしたラバースーツを着ている。

「どうですか、隊長」
「まぁいいんじゃねぇのぉ? とりあえず煙草がないか確認しとかないとなぁ」

⏰:08/05/07 02:59 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#149 [◆vzApYZDoz6]
ロモが少し目深にハンチング帽をかぶりなおす。
短くなった煙草をポイ捨て、すぐに新しい煙草を取り出した。
口にくわえて火をつけ、深くひと吸い。
煙を吐き出しながら、後ろの男たちに向き直った。

「お前らは俺が言うまで待機しとけよぉ。せっかくここから出てきたんだからなぁ」
「イエッサー!」

後ろの同じ格好の男たちが、一斉に同じ敬礼のポーズをとる。
それを見たロモは満足そうに笑い、再び振り返ってゆっくりと歩き出した。

⏰:08/05/07 03:00 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#150 [◆vzApYZDoz6]
「さぁーてとぉ。それじゃいっちょ、お仕事開始しますかねぇ…」

再びハンチング帽をかぶりなおす。
最後に煙草の煙を深く吸い、かかとで火を消した。

薄く笑みを浮かべながら、マンションを出る。
ロモと男たちの姿が、歌箱市の夜闇の中へと消えていく。

その姿が完全に見えなくなる頃には、階段横の小さなドアも消えていて。

跡には、煙草の吸い殻2つと微かな残り香があるだけだった。


⏰:08/05/07 03:02 📱:P903i 🆔:TWhWMPbI


#151 [◆vzApYZDoz6]
あげまーす
来週あたりに更新予定

⏰:08/07/07 16:15 📱:P903i 🆔:MX0aIOhE


#152 [我輩は匿名である]
あげますヾ(^▽^)ノ
主さん頑張って(>_<)

⏰:08/07/16 18:29 📱:F705i 🆔:sedW7TlQ


#153 [◆vzApYZDoz6]



「ちょっと、行先にじーちゃんのアトリエがあったんじゃなかったの?」
「あったんだけど…ないわねぇ」

同時刻。

ハルキンらとは別行動で祖父の家に向かう予定だったシーナとリーザは、どういうわけか未踏の場所に立っていた。

「おかしいわねぇ…どう考えてもアトリエの近場ではなさそうだし」
「会長の悪戯じゃないの? あの人、そういうのよくやるじゃん」
「まさかこの事態でそんな事はしないと思うけど…」

無いとは言い切れない、と認めるわけにもいかず、リーザが視線のやり場を探すように辺りをもう1度見回す。

⏰:08/07/22 21:23 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#154 [◆vzApYZDoz6]
市街地のようで、高層ビルこそは無いものの、鉄筋コンクリートで建築された様々な建物がある。
リーザらは、その建物のうち1つの入口の前に立っていた。

外に視線を向けると、建物の合間を縦横に縫うように、平たく均されたアスファルトが敷き詰められているのが見える。
アスファルトは白線で縦に仕切られ、その仕切りの上を車輪を履いた文明機器が行き交っていた。
その脇を、人間が歩いている。

祖父の家は、山間部のアトリエに付随する形で構えている。
どう考えても、この場所はアトリエのある山間部ではなかった。

⏰:08/07/22 21:24 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#155 [◆vzApYZDoz6]
「…とりあえず、歩いてみましょうか」
「そうだね、ここがどこなのか分からないし」

と1歩踏み出してみたものの、どこをどう歩けばいいのかも分からない。

迷ってはいけないと思い、後ろにあるであろうゲートを回収しておこうと振り返ったのとほぼ同時。
謎の声に話しかけられた。

「なんとも懐かしい顔じゃな」
「!?」

声の主は、振り返った先にいた。
地面に設置されたゲートの上に、回収させんとばかりに立っている。

声の主は、老人だった。
歳にして70歳前後だろうか。腰は少し曲がり、顔には無数の皺があった。

⏰:08/07/22 21:25 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#156 [◆vzApYZDoz6]
スーツのズボンにヨレヨレのカッターを着込み、右腕には事務作業用の籠手を着けている。

たじろいでいるリーザと目が合うと、皺だらけの顔にさらに皺をよせて、大きな笑みを作った。
リーザが慌てて頭を下げる。
それを、老人が掌を前に出して制止した。

「畏まる必要はないわい。しかし懐かしいの…最後に顔を見たのは、4つか5つの時だったかの?」
「あの…私達は貴方を存じないのですが」
「ん、そらそうじゃな。姓はハルトマン、名はリカルドじゃ。どう呼んでもらっても構わんよ」

老人は言いながら深々と頭を下げる。
態度を見る限り、敵ではなさそうだ。

⏰:08/07/22 21:25 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#157 [◆vzApYZDoz6]
「では、ハルトマンさん。1つお訊きしますが、ここは一体どこなのでしょうか」
「うん? ハルキンから聞いておるだろう?」
「ハルキンから…ってあたしはそんな話知らないけど」
「何じゃ、何も聞いておらなんだか。あの悪戯者め」

仕方ないな、と、ハルトマンが片目を伏せながら、呆れたように苦笑する。
そしておもむろに地面のゲートを回収し、後ろの建物へ振り返った。

「おいでなさい。詳しくは中で、じゃ。茶ぐらい出そうぞ」

そう言って中に入っていくハルトマンを、リーザが一礼してから慌てて追い掛ける。
シーナもそれに続いて中に入った。

⏰:08/07/22 21:26 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#158 [◆vzApYZDoz6]
中は予想外に広かった。

ロビーでは普通に立っている受付嬢に笑顔をもらい、また奥に並んでいるデスクでは、何人もの人が電話に出たり資料を集めていたりと、場立ちのように慌ただしく動いていた。

そして、ハルトマンは誰かとすれ違う度に挨拶をされる。
ハルトマンもその度に笑顔で返していた。

もしかすると、ここは事務所か何かで、ハルトマンは所長なのかもしれない。
そんな想像がリーザの頭に浮かんだ。

階段を上り、廊下を進む。
一番奥の部屋の前で、ハルトマンは歩みを止めた。

「ここがわしの部屋じゃ」

⏰:08/07/22 21:26 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#159 [◆vzApYZDoz6]
案内された部屋は、ある意味ではリーザの想像を裏切らないものだった。

来客用のものだろう、柔らかそうなソファーと年季のある接待机が脇に置かれ、奥には大きな木製のシックデスクが1つ、置かれている。
まさに偉いさんの部屋、といった感じだ。

横の戸棚を見やると、トロフィーやら賞状やらが無造作に置かれている。
それを眺めていたシーナが、おかしな点を見つけた。

置かれている賞状やトロフィーの授与者名が全て、『歌箱市長 駆藤 悠登』となっているのだ。

「歌箱市長、かるとう、はると…? 待って、歌箱市ってことは…」
「そう、ここは地球じゃ」

⏰:08/07/22 21:27 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#160 [◆vzApYZDoz6]
「地球…なんで?」
「主ら、ハルキンに渡されたゲートを使ったじゃろう? あれは、どの目的地を選ぼうがここに来るようになっておる。そういう風にわしが作ったんじゃ」

ハルトマンは言いながら、回収したゲートを取り出す。
1メートル四方ほどの大きさで、フィルムのように薄く、それを筒状に丸めていた。
そのゲートをおもむろに、デスクの脇にあるゴミ箱へ無造作に突き立てる。

「これは一方通行の使い捨てでな…1度使うと、もう使えなくなる。それを使うということは…何か、あったんじゃな?」
「ちょっと待ってよ。ハルトマン、あんたは何者なの?」

⏰:08/07/22 21:28 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#161 [◆vzApYZDoz6]
シーナが怪訝そうな顔をしてハルトマンに詰め寄る。
当然のように話を進めるハルトマンを、少し不審に思ったのだろう。

見ていたリーザが2人に割って入りシーナを制止した。

「止めなさい、シーナ。失礼でしょう」
「いや、構わんよ。そう言えば名前以外何も話しておらんかったな」

ハルトマンは来客用のソファーに腰掛け、向かいの席に手を差し出して2人に座るよう促した。

「お座りなさい。少し話が長くなる」

シーナとリーザが互いの顔を見合わせる。
リーザが遠慮深げに促されたソファーに腰掛け、シーナが少し肩を竦めながらそれに続いた。

⏰:08/07/22 21:29 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#162 [◆vzApYZDoz6]
<Font Size="-1">それを確認したハルトマンが、満足そうに手を引っ込めた。

「失礼します」
「ほっほ、そう畏まらんでもよい。楽にしなさい。」

顔の前で大げさに横手を振りながら、ハルトマンが再び立ち上がる。
デスクの上に置かれた急須にポットのお湯を注ぎ、3人分の湯飲みと一緒にお盆に乗せて戻ってきた。

「煎茶じゃ。遠慮はせんでよいぞ」

席につきながら、何か言おうとしていたリーザを牽制し、湯飲みにお茶を灌ぎ始める。
コポコポとお茶を淹れる音と共に、煎茶独特の芳ばしい香りが辺りに広がった。

⏰:08/07/22 21:30 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#163 [◆vzApYZDoz6]
それを確認したハルトマンが、満足そうに手を引っ込めた。

「失礼します」
「ほっほ、そう畏まらんでもよい。楽にしなさい。」

顔の前で大げさに横手を振りながら、ハルトマンが再び立ち上がる。
デスクの上に置かれた急須にポットのお湯を注ぎ、3人分の湯飲みと一緒にお盆に乗せて戻ってきた。

「煎茶じゃ。遠慮はせんでよいぞ」

席につきながら、何か言おうとしていたリーザを牽制し、湯飲みにお茶を灌ぎ始める。
コポコポとお茶を淹れる音と共に、煎茶独特の芳ばしい香りが辺りに広がった。
3人分の煎茶を灌ぎ終え、ハルトマンは茶を1口含んでから話を始めた。

⏰:08/07/22 21:31 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#164 [◆vzApYZDoz6]
「そうじゃな…とりあえずわしの紹介から始めようかの」

これから重要な話をするであろうに、場の雰囲気は非常に穏やかなままだった。
常に笑顔を崩さないハルトマンの存在が、そうさせているのだろうか。

「わしは元々地球に住んでおった。リカルド・ハルトマンと言うのはディフェレスに渡ってから使いだした名でな…駆藤 悠登のほうが本名じゃ」

「なぜディフェレスに行かれたのですか?」

「原因は分からん。俗にいう『神隠し』のような現象に見舞われ、気付けば向こうの世界におった。もしかしたら誰かの仕業かもしれんが、わしの身に何も起きておらんから可能性は低い」

⏰:08/07/22 21:32 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#165 [◆vzApYZDoz6]
「どうやらスキルやゲートとは別に、自然現象でディフェレスに飛ばされる事も稀にあるようじゃ。恐らくはそれじゃろうな」

最初は気だるそうにしていたシーナは、いつの間にか話を聞く顔が真剣そのものになっていた。
そう言えば、いつだったか内藤がそんな話を聞かせてくれた気がする。

「とにかく、わしは異世界で迷子になったわけじゃ。アテもなくさ迷い歩いておると、ある1つの集落を見つけた。それがパンデモじゃ」

時々煎茶をすすりながら、ハルトマンは話を進める。
決して楽しい出来事ではないのに、まるで幸せな思い出を反芻するかのように、穏やかな笑顔を絶やさなかった。

⏰:08/07/22 21:32 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#166 [◆vzApYZDoz6]
「そうしてわしはパンデモで保護され、長いことパンデモで暮らしておった。パンデモのスキルも身に付けてな」

「パンデモのスキルって…『ライフアンドデス』だっけ?」

「そうじゃ。あれはパンデモ特有のスキルではあるが、どうやらわしは潜在的にその力を持っておったようでな。…そうじゃな、今にして思えば、あの時パンデモにたどり着いたのは偶然ではなかったのかもしれん」

既に興味津々といった感じにハルトマンの話を聞いているシーナとは対照的に、リーザは俯いて深刻な顔色をしている。

この時リーザはある別の事を考えていたが、すぐに思考を止めた為に気付く者はいなかった。

⏰:08/07/22 21:33 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#167 [◆vzApYZDoz6]
「ディフェレスに飛ばされたのが12歳の頃じゃった。すぐにパンデモで暮らし始め、それからは実に50年以上の時をパンデモで過ごした」

また茶をすすり、今度は机の真ん中に置いてあった菓子折りに手を伸ばす。
煎餅を1枚つまんでシーナに差し出したが、遠慮されてしまったので残念そうに自分の口に運んだ。

「そして、65歳の頃にバニッシ…こっちで言う内藤がバウンサーの一員になった時に一緒にハルキンに誘われ、バウンサーに所属するようになった。族長の座をバニッシの父であるバッシュに譲り渡してな。そうして地球に再びやって来たのは、その直後じゃった」

⏰:08/07/22 21:33 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#168 [◆vzApYZDoz6]
「会長って誰でも誘うのねー、あたしなんて物心ついた時には既にラスカに怒鳴られてたよ」

シーナがハルトマンにつられてか、昔を思い出す。
シーナ、そして双子の姉のリーザは、記憶も無いほど幼い頃にハルキンに引き取られた。
2人が引き取られる前までは、ラスカはバウンサーの紅一点だった。
その当時10歳だったラスカは、同じ女の子であるシーナとリーザを妹のように世話していたものだった。

「そう言えばラスカもあたしと8つしか変わらないし…会長、ロリコンだったりして」

「ほっほ、言うのう。まぁ、あやつが連れてくるのは年端もいかぬ若い奴ばかりじゃったな」

⏰:08/07/22 21:34 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#169 [◆vzApYZDoz6]
「ハルキンが4、5歳のお主らを連れてパンデモにやって来た時は驚いたわい。なぜわしを誘ったのかと訊くと『地球へ行ってくれ』じゃらな」

ほっほ、と笑い飛ばす。
その姿は、とても70歳近くの老人には見えないほどに活気に溢れていた。

「『これから地球で活動する必要がある。お前が向こうでできるだけ地位の高いところに居てくれれば助かる』と言いおったよ。わしの本籍を抹消していなかった両親に感謝せんとな」

その時だけ一瞬ハルトマンの目が淀んだのをリーザは見ていたが、何も言わなかった。

「まぁ、そんなわけでわしは今、ここ歌箱市の市長をやっておる、というわけじゃ」

⏰:08/07/22 21:35 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#170 [◆vzApYZDoz6]
「うん、よーく分かったよ」

シーナが柄にもなく沁々と頷く。
ハルトマンの話は何より、その人柄は信用できるものだった。

ならば、と一言、ハルトマンが煎茶をすする。
湯飲みを置いて、少し真剣な顔つきでシーナとリーザを見据えた。

「思い出話にも花が咲いた事じゃし、そろそろ本題に入るぞ。今、ディフェレスではどうなっておる? ハルキンからは、グラシアを倒した事は聞かされておるが」

「それなんだけど、実は…」

シーナとリーザは、その後の出来事で知っている事を全て話した。
グラシアがまだ生きている事、新たな敵、地球とパンデモが狙われている事。

⏰:08/07/22 21:35 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#171 [◆vzApYZDoz6]
とにかく知っている事を子細に説明していく。
ハルトマンは、確認するように何度も小さく頷きながら、2人の話を聞いていた。

「……なるほど、そんな事が起きておったのか。しかしまた、随分とダッシュな展開じゃのう…」
「そのくせ更新遅いしね。作者は絶対やる気ないんだって」
「……2人とも、一体何の話をしているの?」
「え、何の話って現状の話じゃん。何言ってんの姉さん?」
「……何でもありません」

ふぅ、とリーザは1つ小さなため息をつき、煎茶を1口すすった。
ハルトマンが昔を語り出してから今まで1度も手をつけていなかったので、少しぬるくなっていた。

⏰:08/07/22 21:36 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#172 [◆vzApYZDoz6]
「ハルトマンさん…私達がここに来た理由なんですが」
「おお、まだそれは聞いていなかったな。どうしてじゃ?」

リーザは一度ためらうように湯飲みに視線を落とした。
しかし、すぐに決意のこもった顔でハルトマンを見据えた。

「シーナが無くした血風丸が、敵の手に渡っていました」
「…それは本当か!?」

どんな話をしていても笑顔を保っていたハルトマンまでもが、神妙な顔つきになる。

「祖父の仕業という確証はありません。しかし、敵がリリィと呼ぶバイクに…『SED』が搭載されています。恐らく、としか言えませんが」
「そうか…厄介な事になったのう」

⏰:08/07/22 21:37 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#173 [◆vzApYZDoz6]
2人が重苦しい雰囲気を出す中、シーナは明らかに不機嫌になっていた。
もはや話についていけていないのは自分だけだろう。
その疎外感が苛立ちの元になっていた。

次第に耐えかねて、とうとう口を開く。

「ねぇ、一体何の話をしてるわけ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「今はあなたが知る必要は無いわ」
「うむ…知ってしまうと、おまえさんにまで危険が及ぶ」
「はぁ、またそれ? ずーっとそればっかりじゃない」

もういい、とシーナは1人立ち上がり、部屋の扉へ向かってドスドスと歩いていく。
相当に不機嫌らしい。

⏰:08/07/22 21:38 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#174 [◆vzApYZDoz6]
「ちょっと、待ちなさい!」

リーザが声を張り上げたが、シーナは聞く耳を持たない。
扉を開け、ずかずかと部屋から出ていってしまった。
自分だけ蚊帳の外なのが、気に入らないのだろう。

肩を落としながら席に戻るリーザを、ハルトマンが目を細めて眺めた。

「もう…仕様がないわね」
「仕方ないじゃろう。今はまだ言えない事じゃ」

どっこいしょ、という要らぬ掛け声と一緒にハルトマンが立ち上がり、全身を使って伸びをする。

おもむろに壁掛け時計を見て時間を確認した。既に午後11時を回っている。
些か話しすぎたようだ。

⏰:08/07/22 21:38 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#175 [◆vzApYZDoz6]
「おまえさん達の寝床はわしが用意してやるが…敵が現れたりせんかのう」
「既に地球にも刺客が送りこまれてる、と敵は言ってましたけど」
「しかし、内藤からは何も聞いて…」

言いかけたところで、デスクに置かれた電話が鳴り響く。
ハルトマンが受話器を取り上げた。

電話の相手は、リーザにも聞こえる程の大声で。
その叫びは、ハルトマンの背筋を凍らせるには十分すぎた。


『すぐに来てくれ! 川上が敵に拐われた! すでに街の郊外まで敵が来ている、とにかくすぐに来てくれ!』


予想外に早い敵の進軍。
それを知らせた声の主は、内藤だった。


⏰:08/07/22 21:39 📱:P903i 🆔:L4Q41k3c


#176 [◆vzApYZDoz6]



時間軸は少し戻る。時刻でいえば8時半、ちょうどシーナとリーザが地球にやって来た頃。

家の近所にある自動販売機の前に、京介はいた。

「寝ようとは思っても、あんな話を聞いた後じゃなー…」

呟きながら、投入口にコインを入れる。
百円玉を1枚、十円玉を2枚。入れ終わったら『つめた〜い』のエリアにあるボタンを押す。

どうでもいいが、最近は英語表記が多く『つめた〜い』とか『あたたか〜い』とか書かれている自販機が少なくなった気がする。
いや、本当にどうでもいいんだけど。

出てきたファンタフリフリシェイカーを普通に振って、蓋を開ける。

⏰:08/08/29 22:03 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#177 [◆vzApYZDoz6]
ちなみにファンタフリフリシェイカーと言うのは、缶を振らないと飲めないという『炭酸ゼリー』。

食感はゼリーだが炭酸のようにシュワシュワしていて、作者はわりと好きなのだが、作者の周りでの評判は今ひとつ。
最近はリアルキアイダーと共に自販機でよく見掛けるようになった。

ちなみにリアルキアイダーと言うのはアニマル浜口とリアルゴールドがコラボレーションって話が逸れましたね、ごめんなさい。

とにかく、なかなか寝付けなかった京介は気分転換も兼ねてフリフr…ジュースを買いに外に出た、というわけだった。

ジュースは既に飲み干してしまったが。

⏰:08/08/29 22:04 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#178 [◆vzApYZDoz6]
「しっかし、明日からどーするかなぁ…」

飲み終えたスチール缶を、自販機の隣の空き缶入れに投げ捨てる。
が、惜しくもフチに当たって弾かれ、カラカラと音を立てて地面を転がった。

悔しそうには見えない舌打ちを1つ。
携帯電話を見て時間を確認すると、家とは反対の方向に歩き出した。
ついでに地面に横たわるスチール缶を蹴りだす。

「…よっ…と…ああ、そっちに行くなよ!」

カランカランと音を立てて、スチール缶でドリブルする京介。
思いのほか楽しそうだが、時間的に近所迷惑にはならないのだろうかと心配してしまう。

⏰:08/08/29 22:04 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#179 [◆vzApYZDoz6]
そうして向かった先はコンビニ。
空き缶ドリブルもあるし、気分転換はまだ続くようだ。
よくよく考えれば、寝るにはまだ早い時間だ。

表通りではなく路地からコンビニに向かうため、裏にある駐車場を通らないとコンビニには入れない。

「…ん?」

そのために駐車場に入ると、コンビニの裏にある煙草の自販機を睨む男が見えた。

手には吸いかけの煙草、足元にも煙草の吸い殻が数本落ちているというのに、まだ買うつもりなのだろうか。
男は無精髭を生やしていて、よく見るとリアルキアイダーを持っていた。

リアルキアイダー片手に煙草の自販機を睨む、無精髭の男。

⏰:08/08/29 22:05 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#180 [◆vzApYZDoz6]
それがよほど不自然に見えたのか、空き缶ドリブルをやめて不審な目で男を見る京介。

その視線に気付いたのか、空き缶ドリブルの音がうるさかったのか、男が軽く驚いたような様子で京介に振り返った。

「……いよぉーう」
「…? ど、どうも…」
「誰だ? ってぇ顔してるから教えてやるぜぇ。俺はウォルサーの雇われモンのロモ。あんたと、もう1人のお嬢ちゃんの身柄を頂きに来た」
「…っ!!」

とっさに身構える。
内藤から忠告を受けたその日にこれだ。

正直、戦いだとかそんなものに関わりたくなかった京介にとっては、まったく馬鹿馬鹿しい事この上なかった。

⏰:08/08/29 22:06 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#181 [◆vzApYZDoz6]
ロモは吸っていた煙草を地面に捨て、再び新しい煙草に火をつける。

「そぉーんなに警戒するってこたぁ…やっぱり誰か告げ口しちまったなぁ? セリナの姐さんは向こうにいる筈だし…クルサの坊っちゃんかぁ? ま、落ち着けよーう」

「…襲って来ないのかよ?」

「危害を加えるつもりはねぇよぅ。とりあえず落ち着けってぇ」

確かに見たところでは武器も持っているようには見えないし、戦う意思も感じられなかった。

だが、ロモがレンサーである可能性は高い。レンサーである以上、気は抜けない。

何より、スキルを持たない今の自分では満足に戦えるか分からないのだ。

⏰:08/08/29 22:07 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#182 [◆vzApYZDoz6]
「身柄を頂きにきたわりに、危害は加えない? どういうつもりだよ」

何かしてきてもすぐに対応できるように警戒しながら、構えだけ解く。

ロモはさっき火を着けたばかりの煙草を中程まで吸い、京介の右斜めあたりにポイ捨てた。
再び新しい煙草を一本取り出し、火を着ける。

「俺ァ争い事が嫌いなんでさぁー。できれば平和的についてきてほしいわけよぅ」
「それは無理な相談だな」
「だよなぁー、そうだよなぁー。じゃ、諦めるわぁ」
「…!?」

ロモはそう言うと、手にしていたリアルキアイダーを飲み干して地面に置き、京介の方へ向かって歩き出してきた。

⏰:08/08/29 22:07 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#183 [◆vzApYZDoz6]
ロモが動き出したのを確認して、素早く身構える。
その時に、ドリブルしていたスチール缶に足が当たりロモの前に転がった。

だがロモはスチール缶や京介をまったく気にもせず、当たり前のように隣を通りすぎる。
京介が慌てて振り返ると、ロモはまた煙草をポイ捨てしていた。

「…本気で帰る気か? 一体何しに来たんだ?」
「だぁから平和的に、っつうのが好きなんだよぅ。あんたぁ、戦いたいのかい?」
「いや…そういうわけじゃねーけど…」

そうだろう、と言いながらロモはまた煙草を取り出す。
呆れたヘビースモーカーだ。

⏰:08/08/29 22:08 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#184 [◆vzApYZDoz6]
まったく何を考えているのか分からなかった。
本当についてこいと言いにきただけなのか、それとも偶然会っただけで、武器を持っていないのか。

確かに、今遭遇したのは偶然だろう。
わざわざウォルサーの人間だと名乗ったのも、出鼻をくじいて主導権を握ろうとしたからなのかもしれない。

そう考えると、さっさと帰ろうとしているのも納得できなくはない。

(帰るって言ってるし、無理に突っかかる事もないか…?)

そう考えたのが甘かった。

ほんの少し、意識しない程度に緊張が解け、力が抜ける。
些細な無意識下での油断。

ロモはそれを見逃さなかった。

⏰:08/08/29 22:09 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#185 [◆vzApYZDoz6]
「あんたぁ…甘いねぇ」

ロモは鼻で笑い、京介に向かって吸いかけの煙草を指で弾く。

京介は視界こそロモに向けていたが、突然飛んできたために反応が遅れる。
自分に向かう煙草が、なぜかスローモーションに見えた。

その遅れた視界は、久しぶりに味わう命に関わる緊張感。
ただの煙草だというのに、距離が縮まるほどに心臓の高鳴りが早まっていく。
直感は、すでに己の敗北を認識していた。

「平和的にって話、ありゃ嘘だ」

ロモが捨てた煙草は計3本。京介の背後、右、前方に1本づつ。
今飛んできた4本目が、京介の左側。

それらが全て、爆発した。

⏰:08/08/29 22:10 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#186 [◆vzApYZDoz6]
「しまっ――!」

四方を囲まれ逃げることもできず、京介の体が爆炎に包まれる。
炎は大したことはないが、指向性を持った爆発の衝撃が京介を四方から押し潰した。

崩れ落ちる京介の目に映るのは、余裕で煙草をふかすロモの姿。
その煙草はまだ火を着けたばかりだったが、ロモは最後にそれを放り投げた。

放物線を描いて、京介の眼前に煙草が落ちる。
火の着いたばかりの煙草は小さな爆発を起こし、その衝撃はピンポイントに京介の顎を打ち抜いた。

(藍……くっ…そ…)

⏰:08/08/29 22:11 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#187 [◆vzApYZDoz6]

程なくして爆音を聞き付けたコンビニの店員が様子を見にきたが、そこにあったのは焦げた跡と煙草の吸いがら。

そして、コンビニに並べられている新商品のジュースの空き缶が2つ、転がっているだけだった。

⏰:08/08/29 22:12 📱:P903i 🆔:saOknxQ2


#188 [◆vzApYZDoz6]


時間軸は元に戻る。
午後11時半。ハルトマン達が内藤からの連絡を受けて、急ぎ足で内藤宅へ向かっているちょうどその頃。

歌箱市内のとあるホテルの最上階の一室に、窓から夜景を眺める1人の人間がいた。

男か女かはよく分からない。
というのも、体は細く小さくて、髪はさながら貞子のように長いため、見た目からは判断できないからだ。

その人間は窓辺からの景色に飽きる事なく、まるで何かを探しているかのように、ひたすらに外を眺めていた。

ちょうどその時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

⏰:08/09/17 23:57 📱:P903i 🆔:PrwlaPVk


#189 [◆vzApYZDoz6]
窓辺から離れ、緩慢な動作で扉を開けてやる。
ハンチング帽を被り、大きな荷物を担いだ男が入ってきた。

「いよーう、ただいま帰ったぜトビーちゃん。ほれ、オレンジジュース」
「……ん…お…かえり…」

入ってきたのはロモで、それを迎えた髪の長い人間はトビーだった。

トビーはロモからオレンジジュースを受け取りつつも、視線は大きな荷物に向けられていた。
ロモはそんなことお構いなしに、コンビニで買っておいたコンビーフにかぶりつく。

「コンビーフってなぁー男の味だよなぁー」
「………ねぇ…」
「んん?」
「…なに…それ…」

⏰:08/09/17 23:57 📱:P903i 🆔:PrwlaPVk


#190 [◆vzApYZDoz6]
当然コンビーフのことを訊いたのではない。
トビーが指差しているのは例の大きな荷物で、その荷物はモソモソと動いていた。

というか、普通に人だった。

後ろ手に縛られ猿轡をされているが、呻きすらしないところを見ると相当弱っているらしい。

見れば服の所々に焦げ跡がつき、破れている。
そのことからロモと交戦したんだろうということはわかるが、わざわざ連れ帰ってくるとは、一体何者なのだろうか。

「なにっておめぇ、こちらに転がっておわすのが地球人レンサーの川上京介くんよ」
「……なん…で…連れてきた…の…?」

⏰:08/09/17 23:58 📱:P903i 🆔:PrwlaPVk


#191 [◆vzApYZDoz6]
「いやそれがなぁ…不意にとはいえ会っちまった手前スルーするわけにもいかず、ついハッタリかまして連れてきちまってよぅ」
「…ばか」

実のところ、ロモが京介や藍を捕まえるために来た、という話は嘘だった。

ロモの仕事は、断層結界を張る役目であるトビーの護衛と身辺の世話。
ただそれだけなのに、ばったり会ってしまったのだから困る。

一応連れ帰ってきたものの、これからどうするかは考えていなかった。

「まぁ…しばらく置いとこうぜ。それよりトビーちゃんよぅ、ちゃんと仕事はやったのかい?」
「…まだ……さっき…ついたばかり…」

⏰:08/09/17 23:58 📱:P903i 🆔:PrwlaPVk


#192 [◆vzApYZDoz6]
「おーぅ、なら早めに終わらしちまいなぁ」
「…うん…」

トビーが地球に来た理由、それはやはり結界だった。

トビーのスキル『マイルーム』は、結界内の空間を自分の部屋として制御するもの。
それを使い、パンデモを外界から完全に隔離した。
それに引き続いて、歌箱市も隔離状態にするようだ。

トビーが窓際に歩み寄り、静かに手を合わせる。
何かを呟くと、ちょうどパンデモの時のように、空にノイズが走っていく。

正方形に展開したノイズが歌箱市を包み、スキルが発動された。

「…設定が…多い…」
「ま、適当でいいんじゃねーのぉ?」

⏰:08/09/17 23:59 📱:P903i 🆔:PrwlaPVk


#193 [◆vzApYZDoz6]
「…最初…が…かんじん…」
「ほー、よくわからんがまぁがんばりなぁ」

ロモは盛大にあくびをして、ソファーに寝転がった。
それを眺めながらトビーがオレンジジュースを飲み干し、再び作業に戻る。

夜中という事もあり、現時点で空のノイズ、ひいてはトビーのスキルに感づいているのは、京介だけだった。

明日にはウォルサーが総攻撃を仕掛ける手筈になっている。
これならうまくいく。トビーはそう思っていた。


だが、まだウォルサーの誰もが把握していないレンサーが2人、地球にいることを、トビーは知らなかった。


⏰:08/09/17 23:59 📱:P903i 🆔:PrwlaPVk


#194 [我輩は匿名である]
あげ(o>_<o)

⏰:08/11/14 05:16 📱:F705i 🆔:iMSVso2.


#195 [我輩は匿名である]
更新する暇が無さすぎる…待っているお方、本当に申し訳ない

⏰:09/01/04 03:56 📱:P903i 🆔:k88rkEec


#196 [我輩は匿名である]
 


突然感じた揺れに、朦朧としていた意識が鮮明さを取り戻す。
瞼を上げて、なお眼球にしがみつく微睡みを指先で拭い、ハルキンは顔を上げた。

先程から聞こえるのは、耳先が風を切る音と犬が地を蹴るかすかな音、それらをかき消さんばかりに響くバイクの走行音だけ。

フラットのバイクの後部座席にまたがっていたハルキンが、前を覗きこむようにしてバイクから少し身体を乗り出し、辺りを見回す。

と同時に揺れが収まる。後ろを振り返ると、荒れた砂利道がテールランプに照らされ、そして離れていく。

どうやら先程までこの砂利道を走行していたらしい。
今は舗装された道に戻り、車体は安定を保っていた。

⏰:09/03/11 21:52 📱:P903i 🆔:MWxFamuw


#197 [我輩は匿名である]
前方に顔を向ける。
目に写る景色は、バイクのヘッドライトに照らされた小さな範囲のみで、辺りは依然として漆黒の闇に包まれたままだった。

ハルキンが眉間にしわを寄せながら、腕時計に目をやる。
現在の時刻は、午前4時21分。
最後に時計を確認したのは、午前4時前だった。いつの間にか眠ってしまったようだ。

⏰:09/03/11 21:53 📱:P903i 🆔:MWxFamuw


#198 [我輩は匿名である]
パンデモ到着までは、まだ時間がかかる。
居眠りはいい仮眠になったが、それでも眠気がつきまとう。

ハルキンは深く息を吸い、その眠気を振り払うように大きく息を吐き出した。

⏰:09/03/11 21:53 📱:P903i 🆔:MWxFamuw


#199 [我輩は匿名である]
周囲には建造物も、動物すらもいない、ただただ広大な草原。
その真ん中にひたすらまっすぐ通じている道を、バイク2台と犬1匹が走り続ける。

バイクの運転席に股がるのはフラット・ブロックらジェイト兄弟。
ブロックのバイクの後部座席にはラスダンが乗っている。

犬というのは、ハルキンのペットのスティーブだ。
犬にしては体はかなり大きく、それに見合って足も速く体力も大したもの。

背中にラスカを乗せて、かれこれ4時間は最高スピードを維持するバイクに、遅れをとらずに走り続けていた。

⏰:09/03/11 21:54 📱:P903i 🆔:MWxFamuw


#200 [我輩は匿名である]
変わる事のない景色を見続けるのにもすぐに飽きがきて、ハルキンは再び身体を後部座席に預けた。




──どれだけ走っただろうか。

気が付けば、見渡す限りまで延々と続く地平線の先が、わずかに白んできている。
もうすぐ夜が明ける。

再び時刻を確認する。午前5時47分。
そろそろパンデモが見えてくる頃だ。

⏰:09/03/11 21:56 📱:P903i 🆔:MWxFamuw


#201 [我輩は匿名である]
「お前ら、現場に着いた後の手筈を確認しておくぞ」

ハルキンが周囲の音に負けないよう、声を張りながら言った。

「まずはラスカが結界の有無を確認、結界があればその性質を確認して解除だ。
解除はバレても構わん、どうせ侵入すればすぐバレる」

「了解」

「次いでラスダンはサイレントハッカーでパンデモの状況を確認しろ。後の判断は状況次第だ」

「了解」

一息置いて、バイクを駆る兄弟2人に顔を向ける。

⏰:09/03/11 21:57 📱:P903i 🆔:MWxFamuw


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