Castaway-2nd battle-
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#12 [◆vzApYZDoz6]
陽もだいぶ西に傾いてきた時間。
高校の1階。独特の匂いが漂う保健室の奥のから、カチャカチャと陶器が擦れる音がする。
カップに飲み物を注いでいるのだろうか。やがて白い蒸気が音の出所からゆっくり上がり、辺りに広がる紅茶の香りが保健室の薬品臭を消し去った。
陶器の音が止む。
湯気が溢れる3つのティーカップを乗せたお盆を両手で持って、白衣を纏った1人の女性が奥から姿を見せた。

「本当に京介ちゃんと藍ちゃんは寝てばっかりなんだからね♪」

彼女はディフェレスの住人で、本名はアリサ。
地球では内藤 有紗と名乗る、4人目の『普通じゃない』人間。

⏰:08/02/24 03:05 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#13 [◆vzApYZDoz6]
有紗は半年前の戦いでは、母親を人質に取られていた為に京介らと敵対していた。
今ではすっかり内藤と仲睦まじく、半ば無断で地球に来て内藤と同棲生活を送っている。
ちなみに苗字は『内藤』だが、結婚はしていない。

有紗「寝るのはいいけど、もう少しバレないように寝たら?♪」

声のイントネーションが高いのは彼女の癖。
そのせいでどこか楽しそうに聞こえる独特の声を発しながら、保健室の片隅にあるテーブルにお盆を置く。
熱い紅茶が淹れられたカップを自分の席の前に1つ置き、もう2つを前の席に座る2人の前に置いて、有紗は席についた。

⏰:08/02/24 03:12 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#14 [◆vzApYZDoz6]
京介「どうも。…数学は寝るなっていう方が無理だよ」
藍「左に同じくです。紅茶、いただきますね」
有紗「どうぞー♪まぁ確かに数学はしんどいわねぇ♪」
京介「だろ?だから寝てるの」
藍「京ちゃんは数学以外でも寝てるじゃない」
京介「そりゃお前もだろ」

席に座り紅茶の入ったカップを啜るのは京介と藍。
2人は授業が全て終わった放課後にこの保健室で、怒る気のない内藤に代わって有紗に説教を受けていた。
これはほぼ毎日の事で、今では説教とは思えないような雑談になっている。
そのおかげもあってか、京介と藍、保険医である有紗の3は、実に仲が良かった。

⏰:08/02/24 03:14 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#15 [◆vzApYZDoz6]
有紗に関しては、この説教タイムの為に何故か3人分の紅茶と茶菓子まで持参するほど。
この説教と題した雑談は、内藤の業務が終わり有紗が帰る夕方6時頃まで続く。
放課後の3人での雑談は、殆んど日課のようになっていた。

有紗「藍ちゃんは寝てばっかりなわりに勉強できるわよねぇ♪家で勉強してるのかしら?♪」
藍「そんなにしてないですよ」
京介「右に同じく。あっ、ケーキ貰っとこ」
有紗「あら、言ってる事が藍ちゃんと一緒♪仲良いわねぇ♪」
京介「それはもう、愛のなせる技だよ」
愛「何言ってるのよもう!」
京介「サーセンw」
有紗「…本当に仲良いわね…♪」

⏰:08/02/24 03:17 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#16 [◆vzApYZDoz6]
雑談の最中に保健室のドアが開き、内藤が姿を現した。

有紗「お疲れさまー♪」

有紗が内藤に飛び付く。
内藤は特に避けようともせず腕に抱き付かれ、そのまま紅茶のカップと茶菓子を片付け始めた。

京介「…2人も負けず劣らず仲が良いと思うけど」
藍「そうよね」
内藤「いや一応お前らも教え子だし、俺もどうかと思うんだが…」
有紗「そんなのいいじゃない♪」

終始微妙な顔をする内藤がカップと茶菓子の片付けを終え、いつも通り解散する。

この時はまだ気付いていなかった。
半年前の戦いは、まだ終わっていない事に。
この平和な生活がもうすぐ終わる事に。

⏰:08/02/24 03:19 📱:P903i 🆔:3QfaolFo


#17 [◆vzApYZDoz6]
冷気が、道が、白い景色が、次々と流れていく。
ここはもう1つの世界、ディフェレス。その中の北国ローシャ。
それはマフラーの排気熱を纏い、吹き荒ぶ凍嵐を切り裂いて、雪煙を撒き散らし走っていた。

胸部と脚部の2つのコクピット。流線型の人形フォルム。漆黒に染められた巨大なアルミフレーム。
それは、合体した2台のバイクだった。

あの戦いから半年。
一度解散したメンバーが再び集う。
兄弟が駆る鉄の巨人は、双子の女剣士と諜報員を乗せて、かつての決戦地へ走っていた。

本来なら味方である1人の人間と、剣士が忘れてきた1本の刀を回収しに。

⏰:08/02/26 02:05 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#18 [◆vzApYZDoz6]
ジェイト兄弟は半年の間に、バイクを大掛かりに改造した。
合体した状態では、胸部と脚部それぞれのコクピットは1人乗りだったが、装甲展開時に後部座席をコクピットに取り込むようにした。
結果、今の巨人は6人乗り。
胸部に兄弟の弟ジェイト・ブロック、双子の剣士シーナとリーザ、脚部には兄弟の兄ジェイト・フラット、ラスダン。
自動操縦を可能にしたおかげで、普通の移動ぐらいならば運転は不要になった。
兄弟は腕を組んでふんぞり返り、流れていく外の景色をボンヤリと眺めている。

こうして眺めていると、いつかの要塞は思ったより街に近い事に気付く。

⏰:08/02/26 03:15 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#19 [◆vzApYZDoz6]
半年前の戦いの最終舞台となった要塞基地。
聳え立つ山々に囲まれたそこへ行くには、山の中腹にあるトンネルを通る他に道はない。
そのトンネル付近からは、靄に隠れながらも薄ぼんやりと近くにある街の全景が見えている。
バイクに翼でも付けて空から行けば早かったかな、等と栓の無い事を考えている内に、巨人はトンネルに入った。

フラット『もうすぐだな』
ブロック『うん…』

指向性の通信マイクでその会話を交わしたきり、通信はない。
5人全員がどこか複雑な気分を抱いたままで押し黙り、それでも巨人はその漆黒の体躯をトンネルの闇に同化させ、長い無機質にトンネルを走り続ける。

⏰:08/02/26 03:17 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#20 [◆vzApYZDoz6]
やがて見えてきた出口の、小さな光。
それはすぐに全体に広がり、暗闇続きの視界を白ませる。
目が慣れてくる頃には、巨人の足は止まっていた。

周囲には切り立った山々が聳え立つ。
自然が作り出した盆地の中央に、人間の手によって作られた基地。
その基地の中央に構える要塞は、今はミサイルと爆弾により廃墟と化している。
春先とはいえ北国で、更に標高も低くはないそこは、まだ雪に覆われていた。

巨人がゆっくりと地に膝をつく。
胸部、脚部のコクピットの前面をカバーしていた装甲が前に開き階段状になる。そこから、5人が寒さに身震いしながらも降り立った。

⏰:08/02/26 03:19 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#21 [◆vzApYZDoz6]
ブロック「…寒いな」
リーザ「寒いですね」
フラット「もうちょい厚着すりゃ良かったな」
シーナ「あら、冷暖房完備にしたからコートなんて要らねぇぜ!って言ったのは誰だったっけ?」
フラット「降りなきゃいけない事忘れてたんだよ…」
ラスダン「さ、早いとこ行こう」

ラスダンが肩を竦めながら、廃墟要塞へ無防備に歩き出す。
シーナとリーザも平然とそれに続くが、ここは元要塞。どこに敵がいるか分からない。

ブロック「おい、いきなり行くなよ。危ないだろ」
ラスダン「大丈夫、誰もいないよ。少なくともこの基地周辺はね」
ブロック「はっ?…あ、そういやそうだったか」

⏰:08/02/27 02:41 📱:P903i 🆔:gXUb2t3s


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