Castaway-2nd battle-
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#264 [我輩は匿名である]
少々肌寒い春先の朝の風を受けて、群生しているススキの葉がカサカサと触れあう音がする。
本来であれば村の男衆は日が昇る頃には仕事に出ており、高台の畑で鍬を打ったり穂を刈ったりという
農作業の音が聞こえているはずであるのだが、今は人1人として見当たらず、鳥の鳴き声だけが静かに響いていた。
自分の影を睨むように眼下を眺め続けるハルキンの視界に、ラスダンの姿が見えた。
その後ろにはジェイト兄弟、ラスカ、スティーブの姿もある。
腰ほどの段差を飛び越えながら、ラスダンが言った。
:11/03/06 18:06 :P08A3 :Mq.0sahk
#265 [我輩は匿名である]
「間違いないね。一応調べてみたけど、やっぱり誰もいないみたいだ。人形も消えてる」
「……そうか」
ハルキンが一瞬目を伏せて答える。
パンデモ突入前、うじゃうじゃと蠢いていた人形。
それらはハルキンらがパンデモに突入すると同時に、見計らったように崩れ落ちた。
一応パンデモの居住区を一通り調べてはみたものの、人形はすべて動力を失っており、
それを操っていたと思しき人物、あるいは機械その他等も見当たらなかった。
もちろんパンデモの住人達も一っ子一人消えていた。戦闘があった様子すらない。
:11/03/06 18:07 :P08A3 :Mq.0sahk
#266 [我輩は匿名である]
突然不通になった通信機から…否、恐らくその前、ハルキンの前にセリナが現れた時から事は始まっていた。
パンデモには得体の知れぬ人形が蠢いており、嘲笑うかのように突入時にそれらは突然崩れ落ち、終いには人形は全て消え去る…
そして、嘘のように静まり返ったパンデモの風景。
その様子は、制圧を完了させた敵が、後に来るであろう自分達に対する見せしめのようにも思えた。
:11/03/06 18:07 :P08A3 :Mq.0sahk
#267 [我輩は匿名である]
思えた、が。
ハルキンの中には、ある確固たる確信があった。
そして。その如何によっては、これからさらなる戦闘が待ち構えている。
それを痛感したハルキンは、眉を八の字に寄せながら、困ったような呆れたような微妙な表情を浮かべて溜め息をついた。
:11/03/06 18:08 :P08A3 :Mq.0sahk
#268 [我輩は匿名である]
ラスダンが、ハルキンの顔色を伺うように少し覗きこむ。
「…どうする? 人形達はどうやら地下から上がってきたらしい痕跡があったけど…調べてみる?」
「いや…その必要はないさ」
そう言ってハルキンはまた目を伏せ、何かを思い出したかのように笑みを漏らした。
ラスダンが片眉を上げて、隣のラスカに目配せする。
目があったラスカは、首を傾げて肩を竦めるジェスチャーを返した。
その様子に気付いたハルキンが顔に少しの喜色を見せて、ラスダンらに頭を巡らせた。
「いや、すまんな。知り合いを思い出していたんだ。…おかげで次の目的地は決まった」
:11/03/06 18:09 :P08A3 :Mq.0sahk
#269 [我輩は匿名である]
「そりゃー足係の俺としては教えてほしいもんだな」
ジェイト兄弟の兄、フラットがバイクの座席をポンポンと叩く。隣ではブロックが「そうそう」と首肯していた。
ハルキンは頷いて答える。
「地球だ」
「…残念ながら俺らのバイクには異世界へのテレポート機能はついてないんだよな」
「安心しろ。アジトに戻れば地球へのゲートはまだ残っている。だがその前に寄ってもらうところが…」
「ちょっと、なんか勝手に話が進んでるみたいだけど? 説明はしないつもり?」
:11/03/06 18:09 :P08A3 :Mq.0sahk
#270 [我輩は匿名である]
割って入ったラスカが不機嫌そうな声を上げる。
というのも、パンデモに突入から今に至るまで、ハルキンは何かわかった風な素振りを見せるのみで録に何も喋っていなかった。
やっと口を開いたかと思えば、出てきた台詞は「地球に行くぞ」。
まったく何を考えているのか解らなかった。
「ああ、そうだな…だが、あんまり細かく説明していると長くなる。
時間も無いし結論から言うぞ。パンデモの連中…いや、恐らく敵味方全員だな。今は地球にいる」
:11/03/06 18:10 :P08A3 :Mq.0sahk
#271 [我輩は匿名である]
パンデモはその特有のスキルのおかげで、古今東西の様々なスキルを内包していると言っていい。
それらを狙って悪事を働こうとする者は、ウォルサーに目をつけられる前から存在していた。
パンデモ自体は住民全員がレンサーな事もあり、少々の規模の侵攻ではパンデモに被害は出ない。
だが当然、大規模な制圧行為が及ぶ可能性は考えられており、その対策も施されている。
近代化された族長の家や集落を斜めに渡る河などはその内のひとつだ。
:11/03/06 18:11 :P08A3 :Mq.0sahk
#272 [我輩は匿名である]
しかし、物理的な対策をいくら施そうとも、それを上回る圧倒的な物量で攻められれば、その侵攻を食い止める事は不可能である。
その為、パンデモでは敵の性質・総量に左右される事のない、スキルを用いたある対策が設けられていた。
「パンデモでは族長ともうひとつ、代々受け継がれている役職がある。
『管制役』と呼ばれるその“対策者”は、今は確かアリサの祖母だったな」
パンデモの存続を揺るぎないものとするための“対策者”管制役の持つスキルは、2つ。
1つは、パンデモ住民にも、そうでない者に対しても使える集団移動・転送用スキルだ。
:11/03/06 18:12 :P08A3 :Mq.0sahk
#273 [我輩は匿名である]
自動・任意問わず発動でき、対象者がいつどこにいようとも、距離どころか次元をも問わない同時ワープが可能な、極めて強力なスキル。
しかしそれは小規模な侵攻に対する住民の避難や敵の回避、統制等の為であり、つまりは『おまけ』に過ぎない。
重要なのはもう1つのスキルの方。
「物理・スキル問わず、またスキルの場合は発動者が住民・非住民の如何に関わらず、
パンデモに干渉している現象・事象・行為その他すべての動向を監視し、
そしてそれらにパンデモに害すると判断されたものが発見・発現された場合、そのすべてを自動的に『無効化・非接続状態』にするスキル…
それが、管制者の持つスキルだ」
:11/03/06 18:14 :P08A3 :Mq.0sahk
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