Castaway-2nd battle-
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#82 [◆vzApYZDoz6]
几帳面な姉に比べて、少し大雑把なシーナ。
普段でも考えるよりに先に行動に移すシーナが口を開いて出た言葉は、ある意味シーナらしかった。

「じゃあさ、もう刀がどうとか何でもいいから、私はどうすればいいわけ?」

リーザは少し驚いたようにシーナを見つめたあと、嬉しいような呆れたような笑みを浮かべた。

「とりあえず一旦帰ってから…祖父の家に行きましょう」
「じいちゃんの?」
「確認しなきゃね…戻りますよ」

ほら、とエンジンがかかっているバイクを指す。シーナもそれに倣ってバイクに向かう。
黒い巨人が雪を撒いて駆け出し、基地を後にした。


⏰:08/04/04 23:56 📱:P903i 🆔:26nYEW4A


#83 [◆vzApYZDoz6]



ラスダン達がウォルサー基地跡を後にしたのとほぼ同時刻の、パンデモの集落。

今は地球にいる内藤と有紗の出身地でもあるこの場所は、言ってしまえばド田舎だった。

集落があるのはディフェレスの西端。
盆地となっていて周囲を切り立った谷に囲まれているせいで、意図せずとも外界から隔離された地域になっていた。

それにより集落外からの物資調達がほぼ不可能なため、集落の民がそれぞれで作物などを作り、それを集落内で持ち合わせる事によって生活している。

建物のほとんどが高床式の木造、道具などもすべて手製の木造で、文明の利器などは見当たらない。

⏰:08/04/08 22:46 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#84 [◆vzApYZDoz6]
だが、集落の中心に位置する1軒の建物内だけは、近代化が進んでいた。

その建物は木造だが、鉱製品の発電機が据え置かれている。
内部は外観とは180度反対で、白い床にタイルの溝が縦横無尽に走っていた。

中にはパソコンやプリンター、モニターに通信機といった設備が調っている。
パンデモ内ではあまり耳にしない電子音が響いていた。

そこは、パンデモのいわゆる『外交湾』であった。
いくら外界から隔離されているとは言え、外界との連絡や情報交換は必要だ。

そのために、集落の長の家にもなっているこの建物内に、近代設備をこしらえている。

⏰:08/04/08 22:47 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#85 [◆vzApYZDoz6]
その中で、無線通信機を耳に当てて話している男がいた。

男の名は、バッシュ・ユーメント。
バニッシ・ユーメント、つまり内藤の父親であり、50歳でパンデモの43代目の若き族長となった人物でもあった。

『……そういうわけだ、頼むぞ。まぁ、お前族長なんだから大丈夫だろう?』
「てめぇ…他人事だと思ってやがるな」

通信機から聞こえるあっけらかんとした声。
バッシュは額に手を当てて呆れたような仕草をした。

「パンデモの人間はざっと100人はいるぞ? 制圧なんて、本当なのか?」
『俺もできるなら嘘と思いたいさ。だが、そうもいかないらしい』

⏰:08/04/08 22:48 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#86 [◆vzApYZDoz6]
「その100人全員がレンサーでもか?」
『敵さんは大組織だからなぁ。その気になりゃ、人はいくらでも集められるだろ』

相変わらず他人事のように話す声に呆れ、バッシュが首根っこを掻きながら、眉間にしわを寄せた。
ため息をつき、分からんな、と再び通信機に向かって話しだす。

「その組織の存在は認める。こういった事態のときのために、わざわざ家を改築して通信機やらパソコンやらを調達してあるんだ。外界からの助け船をいつでももらえるようにな」

『なら、いったい何を疑ってるんだ?』
「わりと本気でお前の頭だが」
『ぶち殺すぞ』

⏰:08/04/08 22:49 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#87 [◆vzApYZDoz6]
バッシュが、怖い怖い、と言いながら受話器に繋がるコードをいじくりだした。
バッシュが疑っているのは敵の規模と、その目的だ。

『目的なら言ったろ、スキル収集。敵の大将は他人のスキルを使えるんだ』

「その能力も、支配権を得たスキルの所持者から離れてしまうと意味がないんだろう? 人数の問題から考えても、そこまでしてやるメリットが見当たらない」

数人のレアスキルを狙っているだけなら、過去にグラシアがイルリナをさらったときのように少人数ですむ。
しかし、パンデモ全員のスキルを狙うなら、集落をまるごと制圧するぐらいでないと無理だろう。

⏰:08/04/08 22:50 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#88 [◆vzApYZDoz6]
さらに、パンデモの民は全員がレンサーだ。
レンサー1人で、普通の武装した人間だけなら5人は相手にできるだろう。

バッシュやイルリナなどの手練れもいる事から考えて、武装しただけの普通の人間なら制圧するのに最低1万人は必要になってくる。
かといって、それだけの大規模な集団を動かせば、外界からの助力が入り制圧は不可能になる。

『穏便に済ますなら、多少の人数はいるだろうな』
「ネイティブレンサーがそんなに数集まると思うか?」
『普通に武装した連中かもしれんぞ』
「だから、それならさすがに外界から助け船が出るっての」
『まぁそれはそ──プツッ』

⏰:08/04/08 22:51 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#89 [◆vzApYZDoz6]
「おい、どうした?」

通信が突然途絶えた。
話しかけても、通信機はなんの反応も示さない。
バッシュは舌打ちをしながら、乱暴に受話器をほうり投げた。

と同時に、バッシュの視界の端、窓の外で異変が起こった。

空の端にノイズが走る。
そのノイズは増えていき、パンデモの集落上空を少しずつ黒で染めていった。
バッシュが窓に張り付き集落を見渡すころには、既に正方形に展開したノイズがパンデモ全体を覆っていた。

「なんだ…?」

バッシュが空を睨む。
太陽が薄れていき、昼過ぎだったはずの集落が夜の景色へと変わっていく。

⏰:08/04/08 22:51 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#90 [◆vzApYZDoz6]
否、星が出ていないのだから夜ではない。
パンデモが闇に包まれている、と言った方が正しいだろう。
文明の利器が存在しない集落内では、バッシュがいる家以外はまったく光が見当たらなかった。

だがしばらくすると、薄れていた太陽が元に戻っていく。
景色は明るくなり、何事もなかったかのように普段どおりのパンデモの風景に戻っていった。

「消えた…? 日食、じゃないよな」

少し気にしながらも、窓から離れた。
イルリナに先程の通信内容を伝えるために家を出る。

この時、敵の大軍がパンデモのはるか地下で蠢いていることなど、バッシュには知る由もなかった。

⏰:08/04/08 22:52 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#91 [◆vzApYZDoz6]

パンデモの端に位置する修練場に、集落内には絶対に存在しない、車が停めてあった。

修練場を囲む崖沿いに止められた、大きめのワゴン車。その車内。
スモークが貼られた後部座席の窓から、男が1人、回復していくパンデモの日光を眺めていた。
その隣であぐらをかいて目を閉じる、もう1人に向かって話しかける。

「トビーちゃん、うまーくやったじゃねぇのぉ」
「…日光…風…例外、設定調節…固定…」

陽気な声の男からトビーと呼ばれた人間は、男か女かはよく分からない。
と言うのも、髪が長すぎて顔が見えず、声も男か女か釈然としないものだからだ。

⏰:08/04/08 22:53 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


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