【SSS】超短レス短編祭り!【飛び入り参加OK!】
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#420 [[居場所(3/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
五年前に母さんが死ぬ前から、俺と親父は顔を合わせなくなっていた。
その頃はまだ引きこもりではなかったが、しかし俺は仕事に就いていなかった。
そんな俺を見たくなかったのだろう。
いつからかお互いに避けるようになり声を聞くこともなくなった。
そして母さんが死んだ。俺と親父をつなぐ唯一の人がいなくなった。
それはつまり、俺の居場所が無くなるのと同じこと。
そしてあの女が家に来て、俺は引きこもりになった。
でも俺には新しい居場所が出来た。
まだ幼かったカナコは俺に冷たくしなかった。
あまり言葉は交わさなかったけれど、俺達は通じ合っていたはずだ。目を見ればわかる。
母さんを失って俺は学んだ。
失いたくなければ自分の手で捕まえておかなければならない。
でなければ俺はまた居場所を失ってしまう。
かわいい妹を俺から奪うことなど誰にも出来ないのだ。
そうして俺はカナコを捕まえた。
もう二度と離さない。俺のかわいい妹……カナコ……。
:08/06/16 23:39 :SH903i :J7xrqn4I
#421 [◆vzApYZDoz6]
あげますよー
:08/06/23 03:05 :P903i :qKg5R2Vw
#422 [我輩は匿名である]
ageるよ
:08/06/24 09:22 :PC :MWJsF0yA
#423 [[時に残酷な。(1/3)]あに]
わたしが見る景色は、いつも同じ。 空の色が蒼から赤、黒へと変わりまた蒼に戻る。それの繰り返し。
退屈な日常を変えてくれたのは貴方だった。
行き交う人々が見向きもしなかったわたしを、貴方は見付けてくれたわ。
「綺麗だね」
「可愛いね」
貴方は毎日わたしのそばに来て、そう話しかけてくれる。
それだけで、わたしはまた美しくなれる。
貴方の無邪気な笑顔が見れるだけで幸せなの。
――たとえ、僅かな寿命だとしても。
:08/06/24 23:33 :SH903i :ER.bvmo2
#424 [[時に残酷な。(2/3)]あに]
太陽が高く昇っている。そろそろ、彼が来る頃ね。
ほら、やっぱり。
小走りで近づいてくる彼は笑顔で、とても素敵だわ。
「よかったあ。まだ、いたんだ」
少し息を弾ませながら安堵した表情を見せる彼。
わたし、貴方をいつでも待っているのよ?何を今更。
貴方といれるなら、この命、儚くても構わないわ。
今日もわたしに綺麗だと言って。
言葉を待っていると、彼の手が伸びてきた。そして、わたしの首を掴んだ。
:08/06/24 23:34 :SH903i :ER.bvmo2
#425 [[時に残酷な。(3/3)]あに]
次の瞬間、勢いよく胴体と切り離されてしまった。
何を!何をするの!?
嘘よ、どうしてこんなことを!
困惑するわたしに構わず、彼はわたしのカラダの一部を順にちぎり取っていく。
残酷な言葉を囁きながら。
「……リカちゃんはぼくのことを……すき、きらい……すき、……」
嗚呼、貴方の為になるならばこの命、差し上げ給う。
(彼等は時に残酷で。)
:08/06/24 23:36 :SH903i :ER.bvmo2
#426 [[時に残酷な。(3/3)]あに]
2回目の投稿です!
(^ω^;)
文章力がなくて申し訳ない。
また暇な時に投下させていただきます。
:08/06/24 23:38 :SH903i :ER.bvmo2
#427 [◇vzApYZDoz6]
し、白い俺もイケてる!
( ゚∀゚)o彡゚age!
:08/06/25 02:33 :D905i :OoNDRyOU
#428 [帰路(1/3)◆vzApYZDoz6]
がたんがたんがたん。
電車が私達2人の前を、音をたてながら通過する。
かんかんかん。
耳障りな警告音は鳴り止まない。
黒と黄色のスプライトポールの前で、次に通過するであろう電車を2人並んで待っている。
隣に立つ彼女が、なんて事ないように話し始める。
透き通ったその声は夜空に吸い上げられていく。
その先では、真冬の星空が燃えんばかりに瞬いていた。
まるで、これが最後の煌めきだと言わんばかりに。
冷たい夜風が吹き抜ける。
散った木葉が夜空に舞う。
かんかんかん。警告音が鳴り響く。
そして彼女は語り出す。
「もう、何年前の話になんのかなァ」
水色のジャンパーを羽織った彼女。
夏はショートだった髪も、今ではセミロング。
さりげなく存在感を放つフチ無しの眼鏡が、燃え上がる星空の光を淡く反射する。
奥の瞳が、踏み切りのランプの赤い光を吸収する。
黒と黄色のスプライトポールの前で、2人並んで立っている。
かんかんかん。電車はまだ通過しないのか。
ふと彼女を見てみる。
桃色のマフラーに、黒い手袋。彼女が寒がりだということは最近知った。
彼女は語る。透き通った声に混じる白い吐息が、乾燥した冬の空気に消えていく。
かんかんかん。乾燥した冬の空気に響き渡る警告音。
そんなものどうでもいいから早く電車を走らせろよJR。
「隣町に女の子が居てさァ。女の子。14歳。ちょうど今のあたしらと同い年」
:08/06/26 16:11 :P903i :yCWejlVo
#429 [帰路(2/3)◆vzApYZDoz6]
吐息は白く、私の頬は赤くなっていた。
彼女の横顔は、どこか黄昏て見えた。
かんかんかん。鳴り響く警告音。赤いランプ。
塾の帰り道。黒と黄色のスプライトポールの前で、2人並んで立っている。
寒空の下、脳内では先程解いた二次関数のグラフが蘇る。
A=√4。対になるB=−√4。
頭上では星空が輝くのをやめない。
それが例え死の直前だったとしても。
彼女の声はあの星空に届いているのだろうか。
揺れるセミロングの髪。
その向こうで、走ってくる電車のヘッドライトが揺れている。
「何でかは分からないけどさ」
寒さで手がかじかむ。彼女は大丈夫なのだろうか。
かんかんかん。鳴り響く警告音。赤いランプ。
吹き抜ける風がまるでノイズのように聞こえる。
それに身を任せて舞い散る木葉。
最後の1枚。終わりはすぐそこ。
そして彼女は語り出す。
「電車につっこんでさ」
かんかんかん。鳴り響く警告音。赤いランプ。
黒と黄色のスプライトポールの前で、2人並んで立っている。
:08/06/26 16:12 :P903i :yCWejlVo
#430 [帰路(2/3)◆vzApYZDoz6]
がたんがたんがたん。電車は音をたてながら、もうすぐそこまで迫っている。
聞き取りが難しくなる彼女の声。
横顔が、どこか遠くを眺めている。
かんかんかん。鳴り響く警告音。赤いランプ。
黒と黄色のスプライトポールの前で、2人並んで立っている。
がたんがたんがたんがたん。電車がもうすぐ目の前にやってくる。
そして彼女は語り出す。
「自殺したんだよね」
がたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたんがたん。
電車が私達2人の前を、凄まじい勢いで通過する。
まるで光のように。
黒と黄色のスプライトポールが上がっていく。赤いランプが消灯する。
彼女が掛けているフチ無し眼鏡が、燃え上がる真冬の星空の光を反射する。
なんて事ないように彼女は進みだす。
私もそれに続く。冷たい風もついてくる。
白い吐息を押しのけて、ノイズのように絡みつく。
頭の中で耳障りなあの音が蘇る。
かんかんかん。それは、終わりへいざなう警告音。
私は彼女の後ろ姿を眺めながら、顔も名前も何も知らないその女の子に、何かを想っていた。
:08/06/26 16:13 :P903i :yCWejlVo
#431 [◆vzApYZDoz6]
:08/06/26 16:15 :P903i :yCWejlVo
#432 [紫陽花]
ナナシさんのSSSはレベルが高すぎる!!Σ(゚Д゚)Ww
:08/06/28 08:32 :F905i :☆☆☆
#433 [[求めるもの(1/1)]紫陽花]
教室という小さな箱の中、規則正しく並べられた机と椅子。そして毎日飽きもせず、人形のようにそこへ行く自分。
吐き気がする
何のために、誰のために
何がしたくて、何を求めて
俺はここに立っている?
もう、うんざりだ!!
誰もいない教室
夕暮れの教室
規則正しい机と椅子
これを見ていると
全てを壊したくなる
世界を壊したくなる
誰のために
自分のために
何がしたくて
生きていたくて
何を求めて
縛られない羽を求めて
何がしたくて
自由になりたくて
誰もいない教室
夕暮れの教室
乱雑に置かれた机と椅子
まるで俺の心をあらわすように
---end---
:08/06/29 00:22 :F905i :☆☆☆
#434 [◆vzApYZDoz6]
保守!
:08/07/03 21:53 :P903i :Wub61Ubo
#435 [[愛しいあなた(1/1)桃色]]
タキシードに身を包み、バージンロードに立ってるあなた。緊張してるのが背中から伝わる。
少しくせのある襟足から、肩にかけての曲線が好き。小さくて引き締まったヒップラインも好き。たくましい腕でどんな困難も乗り越えて行けそう。だけど何より「真理」って呼ぶ優しい声が好き‥あなたの全部が大好きよ。
賛美歌をうたって誓いのキス。
初めて見る、キスをするあなたの姿‥
「奈緒子、シャッターチャンス!」友人に促されカメラを構えるあたし。
永遠の愛を誓います‥
レンズ越しの愛しいあなたへ‥‥‥
:08/07/04 16:40 :SH703i :Rip0ffE6
#436 [[名も無き花(1/1)桃色]]
先日、旦那と娘を連れて実家にご飯を食べに行った。
いつもは寄り付かない庭に、何となく出てみる。
誰も手入れをしていないので荒れ放題だ。
片言の日本語を話せるようになった娘が嬉しそうに
「おはな」
と言っている。
見ると伸びきった雑草の間に名も知らぬ白くて可愛いらしい花がいくつか咲いていた。
母にいつ植えたのか尋ねると、首を横に軽く振る。
だがその後語られた一言に私は心を揺さぶられた。
「あそこね、偶然かもしれないけど‥キューちゃんを埋めたところなのよ」
キューちゃんとは、昔幼かった弟が一生懸命に可愛がっていたハムスターの名だ。
なんだかいてもたってもいられずもう一度庭へ行き、娘と一緒に花壇の前で手を合わせた。
:08/07/05 01:51 :SH703i :/fZibtYw
#437 [桃色]
:08/07/05 01:53 :SH703i :/fZibtYw
#438 [咲笑]
桃色サンめちゃめちゃ文章上手ですね
もっと書いてほしいですP
:08/07/06 23:48 :W53S :u2w2uFNs
#439 [[闇夜の雨、月(1/1)]蜜月◆oycAM.aIfI]
真っ暗な空。それをどんよりと覆い隠す雲。そしてその雲が悲しみを誘うように落とす雨粒。
そんな雨の降る深夜に、一人の少女が空を眺めていた。
町も静まり返る時刻に、彼女は自室の窓枠に肘をかけ憂いを含んだ表情でぼんやりと一点を見つめている。晴れていれば月が存在するはずの一点を。
随分長い間そうして雲を眺めていた彼女は、おもむろに側にあった携帯電話を手に取る。折り畳まれたそのボディを器用に片手で開くと、小気味のよい音がした。
しかし液晶画面を見た彼女の顔は暗い。雲に覆われた空よりも。
(連絡……来ないなぁ)
口には出さずに心の中だけでそう呟くと、
「はぁ」
と小さなため息を一つ。恐らくは想い人からの連絡を待っているのだろう。
彼女は下唇を噛むと、親指を素早く移動させながらボタンを押し、何やら新しい画面を開く。
しかし指の動きは止まってしまった。
真剣な目で闇に浮かぶ白い画面を見つめる彼女。
しばらくしてようやく指を動かした。
ゆっくりとボタンに親指を乗せ、カチッ、と鳴らすと――画面は真っ黒になってしまった。
「ふぅ……」
携帯電話を折り畳みベッドに放り投げると、彼女は再び窓の向こうに目をやった。さっきと同じ姿勢で、肘を窓にかける。
しかし――その目には、固い決意の光が宿っていた。
:08/07/07 02:18 :SH903i :iEqgZovM
#440 [桃色]
>>438咲笑サン
ありがとうゴザイマス!
マタ話しが浮かんだら書かせていただきマスねp(^^)q
:08/07/07 11:28 :SH703i :uiLDk8VY
#441 [[記憶のカケラ(1/2)桃色]]
毎日毎日オレの世話を焼く女。飯の世話から何から何まで。
俺が何か言うたびに一喜一憂する女。
正直頭が上がらない。
それに、オレだけに見せる最高の笑顔‥
たまらない。こいつのためなら何でもできる。
だけど最近おかしいんだ。
今まで「アー」だの「ウー」だのしか言えなかったオレの口から、段々言葉が話せるようになってきた。
もちろんそれを聞くたびに、あいつはオレを抱きしめて喜ぶ。
それと同時にオレがオレじゃなくなってくんだ‥
:08/07/07 21:33 :SH703i :uiLDk8VY
#442 [[記憶のカケラ(2/2)桃色]]
‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥
『お誕生日おめでとう圭』
「圭が生まれてもう一年か」
「ねぇあなた、この間雑誌で読んだんだけど、赤ちゃんって前世の記憶があるらしいの。だけどそれを覚えているうちに話してしまわないように、おしゃべりができるまでに時間がかかるんですって」
「へぇ、じゃあ圭もその記憶ってのがまだあるのかな?」
「どうなのかしら?ねぇ、圭ちゃん‥」
:08/07/07 21:35 :SH703i :uiLDk8VY
#443 [[夏の教室(1/3)]紫陽花]
むせかえるような生ぬるい風。半袖のシャツから伸びる腕に容赦なく熱を浴びせる太陽。
そんな灼熱の外の世界とは裏腹に窓一枚隔てたこの部屋は心地良い一定の寒を保っていた。
まさに科学の進歩。この世界にとってクーラーはなくてはならない生活の必需品だろう。
「あの……さ」
そんな外とは別世界のこの部屋には一人の男と一人の女2、3個の机を隔ててが立っていた。さながら、その数メートルが彼らの心の距離と言ったところだろうか。
女の左手には教科書、右手には鞄のファスナーを開けようとしたのか小さな金具が握られている。
「……なに?」
女は男の顔も見ず淡々と帰り支度を進める。この男の話に、さほど関心がないようだ。
「葛城、これから帰る…よね?」
彼女の名前は葛城と言うらしい。男は下を向き、まるで親の様子をうかがう小さな子供のように怯えた表情で声を震わせながら彼女に問う。
:08/07/09 00:40 :F905i :☆☆☆
#444 [[夏の教室(2/3)]紫陽花]
「……えぇ、帰るわよ。授業、終わったもの」
彼女は手元の教科書から目を離さず数メートル先に立ち尽くす男に素っ気なく答える。
生徒もおらず、窓も閉め切ってある放課後のこの部屋には彼女の声だけが静かにそして微かに響く。
その言葉を聞いた瞬間、男は意を決したように両手の拳を握りしめ勢いよく頭を上げた。先ほどとは違い、彼の表情に怯えはない。
この男の決意が空気を伝い彼女にも届いたのだろうか、帰り支度をやめ彼女も顔を上げた。
そして二人の視線がぶつかる。
「あのさ、葛城。……俺一緒に帰っていい?」
彼女の瞳が一瞬動く。窓から差し込んでいる光は机と机、向かい合っている二人の間を静かに照らす。男の視線は真っ直ぐに彼女をとらえ、彼女も彼の視線に答えるように瞳を合わせる。
:08/07/09 00:41 :F905i :☆☆☆
#445 [[夏の教室(3/3)]紫陽花]
少しの沈黙。校庭で力の限り声を張り上げる野球部の声が聞こえるほど静寂は続いた。
「……別に、いいけど」
静寂を破ったのは彼女の方だった。
「本当に!?」
男の瞳は驚きと歓喜の輝きを放ち、きつく握られていた拳はいつの間にか解かれていた。
「私、教室の鍵を返してくるから先に昇降口で待ってて」
彼女はまたも視線を鞄に戻し帰り支度を始めた。
「分かった!!待ってるから」
そう言って男は顔を赤らめながら鞄を背負い、照れくさそうに彼女を見つめながら教室を後にした。
男がいなくなった直後、彼女は帰り支度をする手を止めた。そして、その手はゆっくりと上に伸び彼女の顔を覆った。
「……緊張した」
顔を覆った細く今にも折れてしまいそうな指の間から見える彼女の顔は照りつける太陽よりも熱を帯び、紅く紅く火照っていた。
彼女一人残された教室には既に電源の切られたクーラーからの残された冷気が漂っていたが、それほどの少量の冷気では彼女の火照った心を鎮めることは出来なかった。
---end---
:08/07/09 00:41 :F905i :☆☆☆
#446 [紫陽花]
あげ(・⌒・)
:08/07/11 23:55 :F905i :☆☆☆
#447 [[夏恋(1/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
夏休みに入ってもうすぐ一ヶ月。暑さはちっともましにならない。
ユウスケは今日も朝から遊びに出掛けて行った。学校の宿題なんてそっちのけだ。
多分、八月後半になってから家族を巻き込んで焦るんだろう。毎年のことだ。
十歳の夏休みを、ユウスケは心の底から楽しんでいる。
幼なじみのコウタやタモツと集まるのももちろん楽しいが、今年はいつもの夏と少し違っていた。
転校生の女子、ナツメさんも一緒なのだ。ナツメさんにはいつも世話係のようにおてんば娘のレイコがくっついているけど、お盆の間レイコは田舎に帰省している。ユウスケは邪魔者がいないのが嬉しかった。
「ナツメさん、今日はどこ行く?」
「オレ駄菓子屋でジュース!」
「タモツには聞いてないよ!」
「わたし、駄菓子屋さん行ってみたいな」
「えっナツメさん行ったことないの!?」
「うん、前に住んでたとこには無かったの」
:08/07/12 00:47 :SH903i :ImRIP7KU
#448 [[夏恋(2/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
四人は近所の古ぼけた駄菓子屋にやってきた。何歳なのか想像出来ないくらいしわしわのおばあちゃんが店番の駄菓子屋だ。
「おいコウタ、これ買ってくれよ! オレお金足りないや」
「やだよ〜自分で買ってよ〜」
タモツとコウタはチョコレート菓子を手にして言い合いをしている。
ユウスケはナツメさんに駄菓子屋のルールを教えてあげていた。
「これはあんまりおいしくないし高いからやめた方がいいよ、あ、コレ! このジュースはね、ここを歯でちぎって飲むんだ、それからこれは……」
ナツメさんは頷きながら興味津々といった様子で聞き入っていたが、急に見ていた駄菓子を手に取った。
「ユウスケくん、わたしこれにする」
「え、これ……?」
「うん。一緒に食べよう?」
ナツメさんが選んだのは、きれいな色の四角いグミがたくさん入った駄菓子だった。ユウスケの顔がみるみる笑顔になっていく。
「うん!」
:08/07/12 00:48 :SH903i :ImRIP7KU
#449 [[夏恋(3/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
駄菓子屋の外のベンチに座って、買ったばかりの駄菓子を開ける四人。タモツとコウタはすぐに食べ始めた。
「きれいね、このお菓子」
ナツメさんは爪楊枝に刺したグミを見つめるばかりでなかなか口に入れない。ユウスケもつられてグミを見つめた。
「ナツメさん、駄菓子屋楽しかった?」
「うん! あんなにお菓子があるなんてビックリしちゃった。スーパーより多いのね」
ユウスケの目に映るナツメさんの横顔は、夏の太陽に照らされてキラキラ輝いていた。
「ねぇ、食べよう! これ、まあまあおいしいからさ!」
ユウスケがそう言うと、ナツメさんは素直に頷いてグミを口に含む。
ゆっくりと味わって小さな一粒を飲み込むと、ユウスケに笑顔を見せた。
「ふふ、おいしい」
「でしょ!」
「ユウスケくんも食べて、ほら!」
たくさんのグミを、二人は笑顔で分け合った。残ったグミは、あと二つ。
「わたし……これ持って帰ろうかな」
「食べないの?」
「だって……食べたらなくなっちゃうもん」
ナツメさんは淋しそうに呟く。それを見て、ユウスケも少し淋しい気持ちになった。
「じゃあ僕も一個持って帰る! いい?」
これで二人とも淋しくない、ユウスケはそう思ったのだ。ナツメさんはびっくりしたように目を丸くした後で、「うん!」と満面の笑みを見せた。
暑い暑い夏の日、小さな恋の始まりです。
:08/07/12 00:49 :SH903i :ImRIP7KU
#450 [◆vzApYZDoz6]
保守
:08/07/27 19:38 :P903i :Dsn9imQ6
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