よすが
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#101 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしが意識を取り戻した時、それまでの記憶は失っていたけれど、両親のことはしっかり覚えていた。
父と母とどうやって暮らしてきたかは忘れてしまっていたが、目の前にいる二人は間違いなく自分の両親だと認識していた。
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⏰:08/04/08 00:21 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#102 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
もし、妹と四人で生活していたのなら、何故あたしの頭から妹だけがすっぽりと抜け落ちているのか。
それを考えると、何か不思議な力の存在を感じた。

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⏰:08/04/08 00:23 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#103 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――一体何が……?
あたしと妹に何があったの?
妹は……? 妹はどうして戻らなかったの?

ああ……思い出せない。


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⏰:08/04/08 00:23 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#104 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
先生はあたしたち家族について話し終えると、自分が知っていることはこれだけだと言って、あたしを落ち着かせる為に温かいお茶を煎れなおしてくれた。
気持ちが十分に落ち着く前に空が暗くなって来たので、あたしは呆然としたまま小学校を後にした。
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⏰:08/04/08 23:11 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#105 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
帰りがけ、先生がサトルに「ユキちゃんをお願いね」と言っているのが聞こえたが、あたしの頭の中を通り過ぎていった。

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⏰:08/04/08 23:12 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#106 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
電車の揺れに身を任せていると、急にサトルに手を引っ張っられて、降りるべき駅に着いたことに気付いた。

駅構内の人込みの中、サトルに手を引かれて歩く。
サトルの背中しか見ていなかったあたしは、すれ違う人に何度もぶつかり、その度にあたしの腕を掴むサトルの手に力が入る。
昔、ショッピングセンターで迷子になった時のことを思い出した。

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⏰:08/04/08 23:13 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#107 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――あの時と同じだ。
あたしはあの時のまま……一人では何も出来ない、弱いままだ。


でもサトルは違う。
前を向いてずんずん進んでいくサトルの表情は見えないけれど、後ろ姿だけで解る。

サトルは……逞しくなった。
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⏰:08/04/08 23:14 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#108 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あの時も強いと思ったけれど、今のサトルには“強い”よりも、“逞しい”という言葉が似合う。


こんな面倒なことに巻き込んだあたしを、サトルは気遣い、支え、信じてくれる。
それを無駄にはしたくない。

サトルが信じていてくれる間は、あたしは何も諦めない。

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⏰:08/04/08 23:14 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#109 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――でも……サトルは今、何を考えているんだろう?

「ねえ、サトル」

駅から家に向かう道の途中で、あたしは声をかけた。
あたしの手を引いて前を歩いていたサトルが、立ち止まると同時にくるっと振り向いた。
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⏰:08/04/08 23:15 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#110 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
振り向いたサトルの表情は、……笑顔だった。
いつもの、人懐っこい子犬のような笑顔。

「なあに?」

見慣れた笑顔が目の前にあった。

きっとサトルは、心配そうな、困ったような顔をしているんだろうと、あたしは思っていたのに。
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⏰:08/04/08 23:16 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#111 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ふふっ、……あっはっははは!」

急におかしくなってきて、あたしは吹き出してしまった。
あたしは何を心配してたんだろう?
何も心配することなんか無いじゃない!

まだ笑っているあたしを、サトルは不思議そうな顔をして見ている。
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⏰:08/04/08 23:17 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#112 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「何でもない!」

あたしはそう言って、今度は逆にサトルの手を引っ張って歩き出した。

「なにー? 一人で笑ってずるーい! 何が面白いの? 僕にも教えてよ!」

サトルがいつものようにギャーギャーと騒ぎ始めた。
あたしはそれがなんだか嬉しくて、「秘密だよ」とだけ言って歩き続けた。

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⏰:08/04/08 23:17 📱:SH903i 🆔:U9CTaOi2


#113 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
家に着く頃には太陽は沈み切って、立ち並ぶ街灯や看板の明かりが道を照らしていた。
あたしは別れ際、帰り道の間に考えていたことをサトルに伝えた。

「明日ね、図書館に行こうと思ってるんだけど。……一緒に来てくれないかな?」

街灯の光で、二つの影が地面に伸びている。
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⏰:08/04/09 01:01 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#114 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
明日は土曜で学校は休みだ。
あたしは、記憶喪失の原因になった事件のことを調べようと思っていた。

「珍しいね!」

目を真ん丸にして、嬉しそうにサトルがそう言ったけれど、あたしは何のことか解らない。

「ユキが僕についてきてなんて、今まで言ったことないよね」
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⏰:08/04/09 01:01 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#115 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――そうか、あたしが頼まなくてもサトルがいつもついてきてくれるからだ。

気がつかなかった。
あたしが一緒に居て欲しい時、何も言わなくてもサトルは来てくれてたんだ。

サトルは、どうしてあたしの気持ちが解るんだろう?
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⏰:08/04/09 01:02 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#116 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「え、ユキ? ちょっとっ……どうしたの? ごめん、何か嫌だった?」

気がつくと、あたしの目から涙が一筋流れていた。

「ち、違うのっ……ごめんね、サトル。嫌なことなんか無いんだけど……」

自分でも驚きながら、溢れる涙を拭い、サトルに無理矢理作った笑顔を見せた。
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⏰:08/04/09 01:03 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#117 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
多分この涙は、自分の不甲斐なさに対するものだと思う。
サトルがいつでもあたしを見てくれていたことに今更気付いた自分が、情けなかった。

「図書館一緒に行くから、だから泣かないで?」

そんなことで泣かないよ。
サトルの心配そうな顔がおかしくて、あたしは自然と笑顔になっていた。
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⏰:08/04/09 01:04 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#118 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うん、ごめんね。ありがと! じゃあ、明日ね」

あたしの笑った顔を見て安心したのか、サトルも笑顔で手をブンブンと振りながら帰って行った。



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⏰:08/04/09 01:04 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#119 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

―V―

次の日、あたしたちは約束通り街にある図書館に来た。

さすが大都市の市立図書館だけあって、建物は古いけれど大きくて立派だ。入り口を抜けてすぐの大階段などは、古い映画に出てきそうな雰囲気を持っている。
もちろん、書物の量もかなりのものである。
ここなら、昔の新聞なんかも閲覧出来るはずだ。
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⏰:08/04/09 01:05 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#120 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
十年前の新聞に、八歳の女の子が大怪我を負って意識不明になった、という記事があれば、きっとあたしのことだ。

「サトル、ここからここまで探して。あたしこっち探すから」

「はーい」

ちゃんと解ってるのかな、と不安になりつつ、新聞を一枚一枚めくって文字を眼で追う。
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⏰:08/04/09 01:06 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#121 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしと妹の事件が新聞に載っているという確信は無いけれど、確率は高いと思っていた。

――何か……些細なことでもいいから手がかりが見つかりますように……。



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⏰:08/04/09 01:10 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#122 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
何十枚、何百枚と新聞をめくったけれど、あたしが探している記事はどこにも見当たらなかった。
ふと腕につけている時計を見ると、針は三時過ぎを指していた。
昼過ぎに食事を取りに出た以外は、休憩もせずに探し続けていた。

――見逃してしまったかな、それともそんな記事無いのかも……。

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⏰:08/04/09 01:12 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#123 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そんな考えが頭をよぎり、一定のペースで新聞をめくっていたあたしの手が止まる。

サトルはと言えば、文句ひとつ言わず、あたしと同じくらい真剣な目で探してくれている。
あたしが感謝の眼差しで見ていると、そのサトルの目が新聞の一点に止まった。


「……あったよ」
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⏰:08/04/09 01:13 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#124 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルは新聞から目を離すこと無く、小声でそう呟いた。
あたしは慌ててサトルの見ていた新聞を覗き込んだ。


〈K市T町で姉妹である女児二人が行方不明になっていた事件で、姉の女児(8)が自宅近くのT山の山道で発見、保護された。発見時女児は意識不明の重体で県内の病院に搬送された。怪我の状態から、警察は誘拐事件として捜査、妹の捜索を進めている。……〉

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⏰:08/04/09 17:01 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#125 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「誘拐……」

体の力が抜けていくのを感じ、あたしは崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んでしまった。


――ゆう……かい?
あたしが? あたしと妹が?


――妹は……どうなったの?


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⏰:08/04/09 17:03 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#126 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

――どうしてあたしだけ、ここにいるの?

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⏰:08/04/09 17:04 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#127 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルが、立ち上がれないあたしを抱えて近くの椅子に座らせてくれる。
頭の中が真っ白になっていた。
あたしと妹が一緒に誘拐されて、あたしだけが瀕死の状態で保護された。


つまり妹は……もう、生きていないだろう。

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⏰:08/04/09 17:05 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#128 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの記憶の中に妹の存在は一切無いけれど、それでもあたしに妹がいたのは間違いないのだ。

その妹が、家族の元に戻ることもなく、あたしには存在さえ忘れ去られて……。



あたしの頭の中に両親の顔が浮かんだ。

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⏰:08/04/09 17:06 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#129 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
父と母は、どんな思いだったろう。

あたしは重体で見つかり、妹は行方不明のまま……。
見つかったあたしの意識が戻ったと思えば、記憶喪失。

せめて戻ってきたあたしの精神的負荷を軽くしようと、大切なはずのもう一人の我が子を無理に忘れるなんて……。


きっと両親が一番苦しかっただろう。
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⏰:08/04/09 17:07 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#130 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは心の底から父と母に感謝した。
もし幼かったあたしが事実を突き付けられれば、どうなっていたか解らない。

全ての記憶を取り戻したら、真っ先に父と母に伝えよう。
そして二人には、妹の不在をきちんと悲しんでもらおう。
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⏰:08/04/09 17:08 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#131 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの記憶の中の両親は、いつも笑顔だった。
きっと悲しむことさえも押し殺して、あたしを守ってくれていたのだ。


あたし自身のためだけではなく、両親と妹のためにも、何があったのか、どうして妹が戻らなかったのか、あたしが忘れてしまった全てをこの手の内に取り戻さなければならない。



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⏰:08/04/09 17:08 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#132 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
椅子に座らされたままのあたしの肩に、ふわっ、と何かがかけられた。
後ろを振り向くと、サトルが膝掛け用の毛布をかけてくれていた。

そしてまたすぐにどこかに行ったかと思うと、温かい缶コーヒーを二つ手にして戻ってきた。
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⏰:08/04/09 18:20 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#133 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「大丈夫?」

サトルはやはり小さな声でそう言うと、あたしの顔を覗き込む。

あたしは声には出さずに首を縦に振ってそれに答え、差し出された缶コーヒーを両手で受け取った。

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⏰:08/04/09 18:21 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#134 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしもサトルも口を開くことなく、ただ黙ってコーヒーを口に運んでいる。
少し離れたところから、誰かがノートに何かを書き込んでいるのだろう、カリカリカリ……という音だけが聞こえていた。

崖っぷちに立たされていたようなあたしの気持ちも、だんだんと落ち着いてきた。
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⏰:08/04/09 20:24 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#135 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ふとサトルの手元に目をやると、印刷用紙が一枚握られている。
あたしがそれを見ているのに気付いたサトルが、用紙を広げて見せてくれた。

新聞に載っていた事件の記事を印刷したものだった。
あたしが自分の考えに没頭している間にコピーしておいてくれたようだ。



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⏰:08/04/09 20:25 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#136 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
コーヒーを飲み終えて、あたしたちは図書館を出た。
外は北風が強く吹いていて、あたしは首に巻いたマフラーをぎゅっと締め直す。

「ねえ、サトルだったらどうする?」

帰り道、冬の澄んだ空気を夕日が染める中、あたしはサトルに疑問を投げかけた。
全てを明らかにしたいと思ったけれど、あたしの記憶が戻りそうな気配は全く無い。
ということは、今ある情報から、一つの真実を見つけださなければならない。
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⏰:08/04/09 20:26 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#137 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは、もう一度あの町に行って、以前住んでいた家やあたしが発見された場所を見てみたいと思った。
しかしそれが正しいのか、間違っているのか……あたしは迷っていた。
正解なんてものが無いことは解っているけれど。

あたしはただ単に、サトルに背中を押して欲しかっただけなのかもしれない。
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⏰:08/04/09 20:26 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#138 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「僕なら……うーん、そうだなあ。僕だったら、もう一回T町に行ってみるかな!」

サトルはあたしの隣を歩きながら、いつもの笑顔で、やっぱりあたしの欲しかった答えをくれた。

「そうだよね。明日、あの町に行ってみる」

「僕も行く!」

手を挙げかねない勢いで、サトルは元気いっぱいに声をあげた。
あたしは内心一緒に来て欲しいと思っていたけれど、サトルをこれ以上振り回しては申し訳ないという気持ちも大きかった。
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⏰:08/04/09 22:52 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#139 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「明日は中山先生には会わないよ?」

「いいの! 僕明日も暇だし、ユキの邪魔しないからさ」

邪魔なんかじゃないよ、サトル。
サトルに甘えるのは、これで最後にしよう。
そう決めた。

「ありがと、サトル」


そうしてあたしたちは、十二月の冷たい風が体を冷やす中、家路に着いた。



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⏰:08/04/09 22:53 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#140 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
家に着いて自分の部屋に入ると、あることを思い出した。


――そういえばあの夢……。
あの夢の女の子は六、七歳ぐらいに見えた。

あの子があたしの妹なのかもしれない。

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⏰:08/04/09 22:54 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#141 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
昨日、今日といきなりいろんな事実が目の前に現れて、夢のことをすっかり忘れていた。

夢を見た時、根拠もなにも無いけれど、あたしはあの女の子のことを知っているような気がしていた。

恐らく、あたしの心の底に閉じ込められた妹の記憶が夢に滲み出てきたのだろう。
あれはきっと……あたしの妹だ。


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⏰:08/04/09 22:55 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#142 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

―W―


終わりのない登り坂。
辺りは真っ暗。
ぽつりぽつりと間隔を開けて点されている街灯だけが道標。

「……忘れて……あたしは……」

あたしの横には小さな女の子。
風が強くて、聞き取りにくい。

「聞こえないよ、なあに?」

「……生きて……って……」



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⏰:08/04/09 23:00 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#143 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

すみません、続き出ちゃいました(;´д`)
[..続き]の先は改行しかないので、スルーして下さい



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⏰:08/04/09 23:03 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#144 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
明くる朝、目が覚めると涙が流れていた。
何か夢を見ていた気がするけれど、思い出せない。
涙がこめかみを濡らしているのが気持ち悪い。

体を起こして涙を拭き、出かける準備をし始めた。

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⏰:08/04/09 23:05 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#145 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――……どうして泣いてたんだろう。

夢の内容はさっぱり思い出せないけれど、とても悲しい気分だった。
なんだか、胸騒ぎがする……。



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⏰:08/04/09 23:05 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#146 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
天気は、晴れ。
正午過ぎに家を出てサトルと合流してから、あたしたちは再び電車で一時間かけてここにやって来た。

あたしは新聞のコピーを片手に、駅員にT山への行き方を尋ねた。
前に住んでいた家の場所は解らないので、まずあたしが発見された山道に行くことにしたのだ。

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⏰:08/04/09 23:07 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#147 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
駅員に教わった通りに二十分ほど歩くと、山道の入口が見えた。

「あー、ここだ!」

サトルが〈T山 山道入り口こちら〉と書かれた案内板を見つけて、歓喜の声をあげた。
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⏰:08/04/09 23:16 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#148 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
案内板が立てられているものの、その先にある道は遊歩道のような歩きやすいものには見えなかった。
案内板に従って山道に足を踏み入れたけれど、やはり舗装もなく地面が剥き出しで、山道というよりはただのけもの道のように思えた。


――この道の先で、あたしは見つけられたんだ……。

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⏰:08/04/09 23:17 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#149 [蜜月◆oycAM.aIfI]

まとめ(・ω・*)

プロローグ
>>4

―T―
>>5-46

―U―
>>47-118

―V―
>>119-141

―W―
>>142から

⏰:08/04/10 01:11 📱:SH903i 🆔:eoZecOgw


#150 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
昨日サトルがコピーしてくれた記事には、あたしが発見された詳しい場所が記されていた。
頂上に続く道から少し逸れた森の中に、あたしは倒れていたらしい。


「ハイキング日和だねー、今日は!」

サトルは無邪気にこの散策を楽しんでいるようだ。
跳びはねるように坂道を登ったかと思えば、木の幹や枝に触れてみたり。
都会育ちのサトルにとって、こんな自然の中で新鮮な空気を吸うことは珍しいのかもしれない。
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⏰:08/04/11 01:59 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#151 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
かくいうあたしも、この町に住んでいた頃のことは何も覚えていないのだけれど。

――でも……なんとなく、なんとなくだけどここは、

……懐かしい。


そう感じた。
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⏰:08/04/11 02:00 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#152 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
山道に舞い散った落ち葉を踏み締める靴の音、道の両脇を埋め尽くす木々の匂い、そこら中に生えている草花の手触り、風に吹かれた葉と葉のざわめき。
それら全てが、あたしの記憶を呼び起こそうと訴えかけて来ているような気がする。

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⏰:08/04/11 02:01 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#153 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしはサトルの後ろを歩いていた。
彼の足取りには迷いが無く、あたしはただその足跡だけを追いかける。
時折、あたしの方を振り返って他愛のない言葉をかけてくれるサトルの姿に、これがただのハイキングならどんなに楽しいだろうか、と思わされた。

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⏰:08/04/11 22:28 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#154 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そんな楽しい気分とは裏腹に、朝から感じていた胸騒ぎは大きくなる一方だった。
もしこれが記憶の戻る予兆であれば、今のあたしにとっては喜ぶべきことである。

しかし、そうではない、という確信のようなものが、あたしの心の中にあった。
この先に、あたしの生きる行方を狂わせてしまう何かが待ち構えている気がして仕方なかった。


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⏰:08/04/11 22:29 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#155 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
どれぐらいかかっただろうか、一つ目の分かれ道に辿り着いた。
随分歩いた気がしたけれど、まだまだ先は長いようだ。

分かれ道の真ん中に、〈山頂まで6km こちら〉、〈休憩所 こちら〉という二つの案内板がそれぞれ逆の方向に向けて立てられている。
目的の場所を指し示す案内板に従って、あたしたちは足を進めた。


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⏰:08/04/11 22:32 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#156 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「結構辛いね、坂道が……」

サトルが息を切らしながら、あたしを振り返る。

「うん、足場も悪くなってきたね」

上へ上へと登るに連れて、だんだんと道が悪くなってきている。
岩や石が埋まっていたり、木の根が縦横無尽に延びていたりで、平らな場所など一つもない。
大低の人は、さっきの休憩所を目的地にしているのだろう。
だんだんと周囲が鬱蒼としてきて、道幅もかなり狭くなった。
まだ夕方でもないのに、生い茂った葉のせいで辺りは薄暗い。

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⏰:08/04/11 22:47 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#157 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うわっ!」

急に地面が近づいたと思ったら、あたしは木の根につまづいて地面に手をついていた。
膝を強く打ってしまい、その痛みで顔が歪む。

「痛……」

「大丈夫!? 怪我は!?」

数歩先を歩いていたサトルが戻って来てくれた。
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⏰:08/04/11 22:48 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#158 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うん、大丈夫」

厚手のジーンズを履いていたので膝は無事だったけれど、手の平を擦りむいた。
でもこのぐらいの傷はなんてことない。

――それより……この土の感触……。

何かを思い出しそうな気がした。
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⏰:08/04/11 22:49 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#159 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは擦りむいた手の平で地面に触れてみる。
冷たくて、柔らかくて、湿っていて。

……そして、はっきりと土の匂いが嗅ぎ取れた。
土を撫でる度に、冬の冷たい空気に混じって懐かしい匂いがする。

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⏰:08/04/11 22:53 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#160 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは気が狂ったように地面を撫で回す。
傷口に土が入り込んでしまうのも気にせず、あちこちの地面を触ってみる。


――前にもあたし、こうして地面を撫でてた。


一心不乱に土を触っている内に、はっきりそう確信した。
あたしはここで、今と同じように地面に触れたことがある。

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⏰:08/04/11 22:56 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#161 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
目を閉じて、土を触り匂いを感じながら記憶を辿る。

――やっぱり何も思い出せないのかな……。


…………と、あたしの頭の中で変化が起きた。
これは記憶か? 想像か?
どちらかは解らないが、ある情景が思い浮かんだ。
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⏰:08/04/11 22:57 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


#162 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
目の前に広がる茶色の土。その地面とあたしの顔は、今にも口づけするかという近さだ。
多分、あたしはその時も何かにつまずいたのだ。
つまずき、地面に手と膝をついていた。
そして、多分、あたしは立ち上がりたくなかった。

あたしは、後ろにいた誰かを気にしていた。
気にしながら、地面を延々と撫でていた…………。

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⏰:08/04/12 22:09 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#163 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うっ……」

急に頭が痛み、浮かんでいた情景が途切れた。
あたしに残ったのは、手の平にジンジンと響く痛みと、土の匂いだけだ。

「ユキ!」

少し離れたところであたしを見守ってくれていたサトルが、慌てて駆け寄ってきた。
あたしは顔を上げて彼の方に向ける。

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⏰:08/04/12 22:10 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#164 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「大丈夫、大丈夫」

笑顔で答えようとしたのに、どうしてか表情が引き攣ってしまう。
幸い頭の痛みは一瞬で消え去ったけれど、頭に浮かんでいた情景まで完全に消えてしまった。


今のはあたしの想像だろうか?
それにしては、はっきりし過ぎていたような気がする。
感情まで鮮明に流れ込んできた。

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⏰:08/04/12 22:11 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#165 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
恐らく、あれはあたしの記憶、だ。

そしてそれが正しければ、あの情景は誘拐されたまさにその時の記憶に違いない。


あたしの中にはっきりと流れ込んできた感情……恐怖と怯え。

そして、とてつもない不安。


間違いない、あれはあたしが誘拐された時の記憶だ。
誘拐され、怪我を負わされる前の。


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⏰:08/04/12 22:12 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#166 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「サトル……」

あたしは無意識の内にサトルの名前を呼んでいた。
しゃがみ込んでいるあたしのすぐ横に居たサトルは、「ん?」とあたしの顔を覗き込む。


「あたし……思い出した……ここにいたの」


「うん」
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⏰:08/04/12 22:13 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#167 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルが次の言葉を待っているかように、あたしを見つめているのがわかる。
地面と向かい合わせになったあたしの右側から、痛いほどの視線を感じる。
けれどあたしはそれ以上何も言えず、地面を見つめていた。
地面からは何の答えも得られなかったけれど、懐かしい土の匂いは、ふわりとあたしの視線を受け止めてくれた。

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⏰:08/04/12 22:13 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#168 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――もうここまで来たら引き返せない。
行くしかない。


あたしは黙って立ち上がり、サトルに向かって頷いた。
それを見たサトルも安心したように微笑み、立ち上がって再び歩き出した。
自分の決心の甘さを恨みながらも、あたしはまたサトルの背中を追う。

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⏰:08/04/12 22:15 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#169 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
夢中で足を動かしている間も、あたしの頭の中は、さっきの情景とそれに対する不安でいっぱいだった。
あれがあたしの記憶なら、近くに妹がいたはずだ。
そして、犯人も。

思い出したくてここにきたのに、思い出すのが怖くて仕方なかった。
妹のことは思い出したい。
でも、犯人のことなど一つも思い出したくない。
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⏰:08/04/12 22:19 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#170 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
父と母から妹を奪った犯人。父と母を十年間も苦しめ続けた奴。
そんな奴のことを思い出すのが……妹の死を目の当たりにするのが、恐ろしかった。

――でも……もう戻れない。

そう、今更後悔しても遅いのだ。
あたしは、ほんの少しだけれど、過去に触れてしまった。
自ら求めて、手に入れたのだ。
今後戻りすれば、今以上に後悔するに決まっている。
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⏰:08/04/12 22:20 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#171 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは、両親と妹の為に記憶を取り戻すと決めたのだ。
もしかしたら、全てを知った後、知らなければよかったと後悔するかもしれないけれど。
それも含めてあたしは後悔しない。

――あたしは、知らなきゃならないんだから。


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⏰:08/04/12 22:21 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#172 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしとサトルは、さらに悪くなっていく山道を歩き続けた。
あたしの足は疲れて棒のようになり、あれだけはしゃいでいたサトルも、ただひたすら道の先だけを見て足を進めている。
狭い道の両側に広がる森は雰囲気を変え、妖しい空気を放つようになっていた。
不安定な足場と急な傾斜のせいで、息も白くなる寒さの中、あたしたちの顔には汗が流れている。
お互い肩で息をしていて、話す余裕も無かった。

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⏰:08/04/12 22:22 📱:SH903i 🆔:xQx.Xh9k


#173 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
黙々と歩き続け、二つ目の分かれ道を通り過ぎた。
頭上を見上げると、木々の葉の間から辛うじて差していた光さえ弱り、その隙間からはどんよりとした空が見える。
昼間はあんなに晴れていたのに、今にも雨が降り出しそうで、空気も冷たくなってきた。
新聞の記事によれば、あたしが発見された場所はもうすぐそこだった。
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⏰:08/04/13 21:56 📱:SH903i 🆔:HMtueqDg


#174 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
一心不乱に歩く。
だが、疲れのせいか、怖れのせいか。
無意識の内に、あたしの歩くスピードが落ちていた。
サトルが随分先にいる。

あたしは気を引き締め、走ってサトルに追い付いた。
サトルもかなり疲れていたようで、あたしが遅れていたことに気付いていなかった。
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⏰:08/04/13 21:57 📱:SH903i 🆔:HMtueqDg


#175 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしが走ってきたのに気が付いたサトルが、足を止める。
うーん、と伸びをして、彼は自分の足をさすった。

「ちょっと疲れたね」

あたしもサトルの横で足を止め、息を整えながらこくこくと頷いた。
足は悲鳴をあげる寸前だし、腰にも鈍い痛みを感じる。
体は汗をかくほど暑いのに、顔と指先は冷たくて感覚もないくらいだ。
サトルは、顔の前で手を丸めて、息を吐きかけている。
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⏰:08/04/13 22:03 📱:SH903i 🆔:HMtueqDg


#176 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「この辺かな……」

サトルが辺りを見回しながらそう言うので、あたしは新聞のコピーを差し出した。
まだ苦しくて、言葉を発する余裕が無かった。
あたしはコピーを渡すと同時に、疲れに負けて腰を下ろす。

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⏰:08/04/13 23:43 📱:SH903i 🆔:HMtueqDg


#177 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「すぐそこだ」

そう呟いて、サトルは山道から木々が立ち並ぶ山の中に入り込んでいった。
枝葉をかきわけ、一歩一歩確実に進んでいく。


あたしはそれを見ていた。
サトルの背中を、見つめていた。
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⏰:08/04/13 23:43 📱:SH903i 🆔:HMtueqDg


#178 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――なんでだろう。
サトルは足を止めないのに、あたしはなんで立つことも出来ないんだろう。


一度休んでしまった体は、再び動き出すのを拒む。
あたしの目は、枝をかきわけて進むサトルの背中に釘づけだった。

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⏰:08/04/13 23:44 📱:SH903i 🆔:HMtueqDg


#179 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――だめだ、……あたしも変わらなきゃ。後ろから見てるだけじゃだめ。
あたし自身のことなんだから。ほら、早く!

自分に喝を入れ、二本の足に、動け、と呼び掛ける。
それを何度も繰り返して、ようやく動き出すあたしの体。
ほっとしたような、緊張が増したような。
行きたいような、行きたくないような。
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⏰:08/04/13 23:45 📱:SH903i 🆔:HMtueqDg


#180 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし、あたしはこんがらがった感情をその場に置き去りにして、行動を開始した。
サトルがかきわけて出来た枝の隙間をくぐり、彼の横に並んだ。

「ユキは後ろにいなよ。枝で顔に傷ついちゃうよ?」

「いいの、それぐらい」
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⏰:08/04/13 23:46 📱:SH903i 🆔:HMtueqDg


#181 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしはきっぱりと答えると、目の前を遮る細い枝を押し曲げて道をつくる。
その向こうに張り出している少し太めの枝を、同じように避けて一歩進む。

怖いとか不安だとか、もう何も感じないように、あたしは目の前の障害物に意識を集中した。
サトルも尖った枝から自分の身を守るので精一杯のようで、一心不乱に手と足を動かしている。
一歩一歩、枝や幹を避けながらゆっくりと地面を踏み締める。

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⏰:08/04/14 00:23 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#182 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
数メートル進むのに何分かかっただろうか。
あたしたちの両手がひっかき傷でいっぱいになった頃、目の前にぽっかりと空間が現れた。
空間といっても、直径はあたしとサトルが並んで両手を広げたぐらいだ。

密集している周りの木々と比べ、その内側だけは不自然なほど何も生えていない。
しかし、そこを囲む木の枝が空間のほとんどを覆っていて、明るさはそれほど変わらなかった。

あたしは意を決し、空間に足を踏み入れた。
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⏰:08/04/14 00:24 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#183 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
柔らかい土が、あたしの靴底を受け止める。
思っていたより自分の気持ちが落ち着いていることに、逆に驚く。

ゆっくりと足を進め、あたしは空間の中心に到達した。
茶色い土、太い木、枯れた草、落ち葉。ぐるりと見回しても、それ以外何もない。
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⏰:08/04/14 00:25 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#184 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
この空間の中にあたしは倒れていたのだろう。
二人してこれほど苦労してたどり着いた場所にいたあたしを、なぜ発見出来たのかわからない。

昔はここまで荒れていなかったのだろうか。
それとも散歩中の犬かなにかが嗅ぎ付けたのだろうか。

もし、見つけてもらえなければ多分……あたしも死んでいたかもしれない。


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⏰:08/04/14 00:26 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#185 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしはその場に寝転んでみた。
空間のど真ん中に大の字になって、木や葉の隙間から空を仰ぐ。
また何か思い出せるかもしれないと思ったのだ。

横向きに寝転んだり、俯せになったりしてみた。
場所を変えて、木にもたれ掛かってみたり、座ってみたりもした。
けれど、何一つとして浮かび上がってこない。

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⏰:08/04/14 22:28 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#186 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しばらくの間、ごろごろ転がりながら待ってみたけれど、二度目の変化は訪れなかった。
あたしは諦めて立ち上がり、服についた土を払う。
すると、サトルがなにかを見つけたように木々の間を見つめているのに気付いた。

「どうしたの?」

「ねえ、これ……道じゃない?」
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⏰:08/04/14 22:28 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#187 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そう言ってサトルが指差した方をじっくりと観察してみると、トンネルのように一本につながった隙間があった。
わずかにだが、枝が折れていたり靴跡らしきものがあったり、人が通ったかのような痕跡も見て取れた。

――こんなところ、一体誰が通るんだろう?
もしかして、十年前あたしを見つけてくれた人……?

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⏰:08/04/14 22:29 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#188 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの目の前に、ひとつの手掛かりが現れた。
それをみすみす逃す訳にはいかない。

「行こう」

ここで立ち尽くしていても何も思い出せそうにもない。
かと言って、このトンネルの先には何も無いのかもしれないけれど。

それでも、自分から動かなければ何も見つけられない。
そう考えたあたしは、この道の先に行くべきだと思ったのだ。
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⏰:08/04/14 22:30 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#189 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルがいつもの笑顔で頷くのを見て、あたしは道とも言えない道に足を進めた。

狭いし、飛び出している枝は多いし、足場は悪い。
後ろを振り返るのは難しいけれど、葉や土を踏み締める靴音で、サトルが後ろからついてきてくれているのがわかる。
不安は、無い。

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⏰:08/04/14 22:31 📱:SH903i 🆔:a42MtXbw


#190 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
トンネルのようなこの道を進むにつれて、あたしはひとつの確信を得た。

やはりこの道を使っている人がいる。

さっきの空間までの道のりを考えると、今歩いているところはかなり歩きやすかった。
ちょうど人ひとりが通れるギリギリの隙間が続いていて、足元に落ちている葉や草の量も他の場所より少ない。
飛び出している枝はどれも、少し体をひねればうまく避けられる。
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⏰:08/04/15 22:03 📱:SH903i 🆔:OfU8ov5.


#191 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし歩きやすいとは言ってもそれはさっきの道と比べてのことで、やはり足場は悪いし時々は枝に引っかかれる。
あたしは顔を歪めながら、ゴールの見えない道を前へ前へと進む。

この道を通っているのは誰か。
その人物は、あたしの過去に関係があるのか。
何かを、知っているのか。
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⏰:08/04/15 22:05 📱:SH903i 🆔:OfU8ov5.


#192 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
今はまだ、何も解らない。
けれど、知りたければ進むしかないのだ。

あたしは後ろから響くサトルの靴音を聞きながら、何も考えず歩き続けた。

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⏰:08/04/15 22:06 📱:SH903i 🆔:OfU8ov5.


#193 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

足の痛みは、もう既に限界値を越えたように思えた。
この木のトンネルは、どこまで続くのだろう。

歩き続けた末に、あたしもサトルも疲れ果ててしまったが、それでも足を引きずるようにしてさらにゆっくりと進んでいた。
ふとトンネルの先に目をやると、乱立している木々の間から、自然の中にはありえない、灰色のコンクリートのようなものが見えた。
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⏰:08/04/15 22:07 📱:SH903i 🆔:OfU8ov5.


#194 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
驚きながらも少しずつ近づいていくと、それはコンクリートで出来た小さな建物だった。

建物の少し手前で、視界が開ける。
最後の木と木の間を通り抜けると、先ほどのものよりかなり大きな空間が現れた。
見上げると、さっきまで全く見えなかった空は、さらに雲を増やし、色を濃くしていた。
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⏰:08/04/16 18:53 📱:SH903i 🆔:ncWRAm.w


#195 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
その空間の真ん中に、コンクリートの建物が建っている。
近くで見ると、コンクリートを正方形に固めて壁の一部にドアを取り付けただけのものだった。
天井はどうか解らないが、見えるところに窓は一つも無い。


「なに、これ……」

不気味だった。
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⏰:08/04/16 18:54 📱:SH903i 🆔:ncWRAm.w


#196 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
自然しかないと思っていた山の中に、コンクリート製の箱がぽつりと置かれている。

あまりに不釣り合いで現実離れしたその光景に、あたしは次の言葉が出なかった。
それはサトルも同じだったようで、ぽかんとした顔でコンクリートの箱を眺めている。
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⏰:08/04/16 18:55 📱:SH903i 🆔:ncWRAm.w


#197 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは目の前にある異様な建物に、少なからず恐怖を覚えた。
戸惑いながら、その建物を観察する。
取り付けられたドアの近くに目をやると、焚火の跡のような燃えかすと灰が散らばっていた。

「ちょっと……ここ、誰か住んでるんじゃない?」
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⏰:08/04/16 18:55 📱:SH903i 🆔:ncWRAm.w


#198 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは小声でサトルに囁き、燃えかすの方を指で指し示した。
それを見たサトルは、驚いた表情でキョロキョロと周りを見回す。

「戻る?」

サトルに言われてあたしは少し迷ったけれど、引き返すのはやめた。
今さっきあたしたちが通ってきた森の中に戻り、木の影からコンクリートの箱を観察することにした。
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⏰:08/04/17 23:00 📱:SH903i 🆔:XxBpfdyc


#199 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし、見れば見るほど不気味だ。
箱の高さはあたしの身長より頭三つ分ほど高い。
ところどころにシミがあるのを見ると、それほど新しくはなさそうだ。
ドアは鉄製のようで、かなり頑丈そうに見えた。

――何のために作られたんだろう……?
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⏰:08/04/17 23:01 📱:SH903i 🆔:XxBpfdyc


#200 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
人が暮らすには不自由すぎないだろうか?
窓が無ければ中は完全に真っ暗だろうし、コンクリートだけで造られているなら今の時期かなり寒いだろう。

何より、こんな山の中に建てる意味がわからない。
食料を買いに行くだけでもかなり不便ではないか。

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⏰:08/04/17 23:02 📱:SH903i 🆔:XxBpfdyc


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