よすが
最新 最初 🆕
#120 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
十年前の新聞に、八歳の女の子が大怪我を負って意識不明になった、という記事があれば、きっとあたしのことだ。

「サトル、ここからここまで探して。あたしこっち探すから」

「はーい」

ちゃんと解ってるのかな、と不安になりつつ、新聞を一枚一枚めくって文字を眼で追う。
.

⏰:08/04/09 01:06 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#121 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしと妹の事件が新聞に載っているという確信は無いけれど、確率は高いと思っていた。

――何か……些細なことでもいいから手がかりが見つかりますように……。



.

⏰:08/04/09 01:10 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#122 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
何十枚、何百枚と新聞をめくったけれど、あたしが探している記事はどこにも見当たらなかった。
ふと腕につけている時計を見ると、針は三時過ぎを指していた。
昼過ぎに食事を取りに出た以外は、休憩もせずに探し続けていた。

――見逃してしまったかな、それともそんな記事無いのかも……。

.

⏰:08/04/09 01:12 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#123 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そんな考えが頭をよぎり、一定のペースで新聞をめくっていたあたしの手が止まる。

サトルはと言えば、文句ひとつ言わず、あたしと同じくらい真剣な目で探してくれている。
あたしが感謝の眼差しで見ていると、そのサトルの目が新聞の一点に止まった。


「……あったよ」
.

⏰:08/04/09 01:13 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#124 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルは新聞から目を離すこと無く、小声でそう呟いた。
あたしは慌ててサトルの見ていた新聞を覗き込んだ。


〈K市T町で姉妹である女児二人が行方不明になっていた事件で、姉の女児(8)が自宅近くのT山の山道で発見、保護された。発見時女児は意識不明の重体で県内の病院に搬送された。怪我の状態から、警察は誘拐事件として捜査、妹の捜索を進めている。……〉

.

⏰:08/04/09 17:01 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#125 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「誘拐……」

体の力が抜けていくのを感じ、あたしは崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んでしまった。


――ゆう……かい?
あたしが? あたしと妹が?


――妹は……どうなったの?


.

⏰:08/04/09 17:03 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#126 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

――どうしてあたしだけ、ここにいるの?

.

⏰:08/04/09 17:04 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#127 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルが、立ち上がれないあたしを抱えて近くの椅子に座らせてくれる。
頭の中が真っ白になっていた。
あたしと妹が一緒に誘拐されて、あたしだけが瀕死の状態で保護された。


つまり妹は……もう、生きていないだろう。

.

⏰:08/04/09 17:05 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#128 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの記憶の中に妹の存在は一切無いけれど、それでもあたしに妹がいたのは間違いないのだ。

その妹が、家族の元に戻ることもなく、あたしには存在さえ忘れ去られて……。



あたしの頭の中に両親の顔が浮かんだ。

.

⏰:08/04/09 17:06 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#129 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
父と母は、どんな思いだったろう。

あたしは重体で見つかり、妹は行方不明のまま……。
見つかったあたしの意識が戻ったと思えば、記憶喪失。

せめて戻ってきたあたしの精神的負荷を軽くしようと、大切なはずのもう一人の我が子を無理に忘れるなんて……。


きっと両親が一番苦しかっただろう。
.

⏰:08/04/09 17:07 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#130 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは心の底から父と母に感謝した。
もし幼かったあたしが事実を突き付けられれば、どうなっていたか解らない。

全ての記憶を取り戻したら、真っ先に父と母に伝えよう。
そして二人には、妹の不在をきちんと悲しんでもらおう。
.

⏰:08/04/09 17:08 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#131 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの記憶の中の両親は、いつも笑顔だった。
きっと悲しむことさえも押し殺して、あたしを守ってくれていたのだ。


あたし自身のためだけではなく、両親と妹のためにも、何があったのか、どうして妹が戻らなかったのか、あたしが忘れてしまった全てをこの手の内に取り戻さなければならない。



.

⏰:08/04/09 17:08 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#132 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
椅子に座らされたままのあたしの肩に、ふわっ、と何かがかけられた。
後ろを振り向くと、サトルが膝掛け用の毛布をかけてくれていた。

そしてまたすぐにどこかに行ったかと思うと、温かい缶コーヒーを二つ手にして戻ってきた。
.

⏰:08/04/09 18:20 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#133 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「大丈夫?」

サトルはやはり小さな声でそう言うと、あたしの顔を覗き込む。

あたしは声には出さずに首を縦に振ってそれに答え、差し出された缶コーヒーを両手で受け取った。

.

⏰:08/04/09 18:21 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#134 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしもサトルも口を開くことなく、ただ黙ってコーヒーを口に運んでいる。
少し離れたところから、誰かがノートに何かを書き込んでいるのだろう、カリカリカリ……という音だけが聞こえていた。

崖っぷちに立たされていたようなあたしの気持ちも、だんだんと落ち着いてきた。
.

⏰:08/04/09 20:24 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#135 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ふとサトルの手元に目をやると、印刷用紙が一枚握られている。
あたしがそれを見ているのに気付いたサトルが、用紙を広げて見せてくれた。

新聞に載っていた事件の記事を印刷したものだった。
あたしが自分の考えに没頭している間にコピーしておいてくれたようだ。



.

⏰:08/04/09 20:25 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#136 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
コーヒーを飲み終えて、あたしたちは図書館を出た。
外は北風が強く吹いていて、あたしは首に巻いたマフラーをぎゅっと締め直す。

「ねえ、サトルだったらどうする?」

帰り道、冬の澄んだ空気を夕日が染める中、あたしはサトルに疑問を投げかけた。
全てを明らかにしたいと思ったけれど、あたしの記憶が戻りそうな気配は全く無い。
ということは、今ある情報から、一つの真実を見つけださなければならない。
.

⏰:08/04/09 20:26 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#137 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは、もう一度あの町に行って、以前住んでいた家やあたしが発見された場所を見てみたいと思った。
しかしそれが正しいのか、間違っているのか……あたしは迷っていた。
正解なんてものが無いことは解っているけれど。

あたしはただ単に、サトルに背中を押して欲しかっただけなのかもしれない。
.

⏰:08/04/09 20:26 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#138 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「僕なら……うーん、そうだなあ。僕だったら、もう一回T町に行ってみるかな!」

サトルはあたしの隣を歩きながら、いつもの笑顔で、やっぱりあたしの欲しかった答えをくれた。

「そうだよね。明日、あの町に行ってみる」

「僕も行く!」

手を挙げかねない勢いで、サトルは元気いっぱいに声をあげた。
あたしは内心一緒に来て欲しいと思っていたけれど、サトルをこれ以上振り回しては申し訳ないという気持ちも大きかった。
.

⏰:08/04/09 22:52 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#139 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「明日は中山先生には会わないよ?」

「いいの! 僕明日も暇だし、ユキの邪魔しないからさ」

邪魔なんかじゃないよ、サトル。
サトルに甘えるのは、これで最後にしよう。
そう決めた。

「ありがと、サトル」


そうしてあたしたちは、十二月の冷たい風が体を冷やす中、家路に着いた。



.

⏰:08/04/09 22:53 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#140 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
家に着いて自分の部屋に入ると、あることを思い出した。


――そういえばあの夢……。
あの夢の女の子は六、七歳ぐらいに見えた。

あの子があたしの妹なのかもしれない。

.

⏰:08/04/09 22:54 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#141 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
昨日、今日といきなりいろんな事実が目の前に現れて、夢のことをすっかり忘れていた。

夢を見た時、根拠もなにも無いけれど、あたしはあの女の子のことを知っているような気がしていた。

恐らく、あたしの心の底に閉じ込められた妹の記憶が夢に滲み出てきたのだろう。
あれはきっと……あたしの妹だ。


.

⏰:08/04/09 22:55 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#142 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

―W―


終わりのない登り坂。
辺りは真っ暗。
ぽつりぽつりと間隔を開けて点されている街灯だけが道標。

「……忘れて……あたしは……」

あたしの横には小さな女の子。
風が強くて、聞き取りにくい。

「聞こえないよ、なあに?」

「……生きて……って……」



.

⏰:08/04/09 23:00 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#143 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

すみません、続き出ちゃいました(;´д`)
[..続き]の先は改行しかないので、スルーして下さい



.

⏰:08/04/09 23:03 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#144 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
明くる朝、目が覚めると涙が流れていた。
何か夢を見ていた気がするけれど、思い出せない。
涙がこめかみを濡らしているのが気持ち悪い。

体を起こして涙を拭き、出かける準備をし始めた。

.

⏰:08/04/09 23:05 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#145 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――……どうして泣いてたんだろう。

夢の内容はさっぱり思い出せないけれど、とても悲しい気分だった。
なんだか、胸騒ぎがする……。



.

⏰:08/04/09 23:05 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#146 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
天気は、晴れ。
正午過ぎに家を出てサトルと合流してから、あたしたちは再び電車で一時間かけてここにやって来た。

あたしは新聞のコピーを片手に、駅員にT山への行き方を尋ねた。
前に住んでいた家の場所は解らないので、まずあたしが発見された山道に行くことにしたのだ。

.

⏰:08/04/09 23:07 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#147 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
駅員に教わった通りに二十分ほど歩くと、山道の入口が見えた。

「あー、ここだ!」

サトルが〈T山 山道入り口こちら〉と書かれた案内板を見つけて、歓喜の声をあげた。
.

⏰:08/04/09 23:16 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#148 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
案内板が立てられているものの、その先にある道は遊歩道のような歩きやすいものには見えなかった。
案内板に従って山道に足を踏み入れたけれど、やはり舗装もなく地面が剥き出しで、山道というよりはただのけもの道のように思えた。


――この道の先で、あたしは見つけられたんだ……。

.

⏰:08/04/09 23:17 📱:SH903i 🆔:APNEtQ/Q


#149 [蜜月◆oycAM.aIfI]

まとめ(・ω・*)

プロローグ
>>4

―T―
>>5-46

―U―
>>47-118

―V―
>>119-141

―W―
>>142から

⏰:08/04/10 01:11 📱:SH903i 🆔:eoZecOgw


#150 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
昨日サトルがコピーしてくれた記事には、あたしが発見された詳しい場所が記されていた。
頂上に続く道から少し逸れた森の中に、あたしは倒れていたらしい。


「ハイキング日和だねー、今日は!」

サトルは無邪気にこの散策を楽しんでいるようだ。
跳びはねるように坂道を登ったかと思えば、木の幹や枝に触れてみたり。
都会育ちのサトルにとって、こんな自然の中で新鮮な空気を吸うことは珍しいのかもしれない。
.

⏰:08/04/11 01:59 📱:SH903i 🆔:WPZmRcek


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194