よすが
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#240 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
小さな体のあたしは、男の大きな手に引かれながら坂道を歩いている。
あたしの小さな影と男の大きな影が、足元から進む先に向かって長く延びていた。
あたしは自分の影の頭を踏もうと、出来る限り歩幅を広げてみたけれど爪先さえ届かない。
そうこうしている内に、ただの遊びにいつの間にか真剣になってしまっていた。
躍起になって、飛んだり走ったりして影を追う。

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⏰:08/04/23 13:05 📱:SH903i 🆔:n.zKpr4g


#241 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしが自分だけの影踏みに熱中していると、いつの間にか辺りが暗くなっていた。


いや、暗くなったと言うよりも、この世からあたし以外のものが全て無くなったようだ。

どこを見ても闇、闇、闇。

さっきまで手を繋いで隣を歩いていたはずの男も、空をオレンジに染めていた太陽も、あたしが踏み締めていたはずの地面さえも、今はどこにも見当たらない。

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⏰:08/04/23 13:05 📱:SH903i 🆔:n.zKpr4g


#242 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そう。これは夢なんだ。
夢だから、何が起きてもおかしくない。どんなことも起こり得る。

光が無いように見えるのに、あたしの手ははっきり見えた。
そこで、あたしは自分の体をもう一度見下ろしてみる。
やはり、小さいままだった。
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⏰:08/04/23 13:06 📱:SH903i 🆔:n.zKpr4g


#243 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
周りを見回しても、やはり永遠に続く闇しかない。
しかし夢だと解っているからなのか、恐れは無かった。

自分がどこに立っているのかも解らないまま、あたしは歩き始めた。
一歩、また一歩、さらに一歩。
右足と左足を交互に前に出す。
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⏰:08/04/23 13:07 📱:SH903i 🆔:n.zKpr4g


#244 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
地面を踏む感覚はあるのに、あたしの足の下は深い闇。何も、無い。
前に進んでいるつもりだけれど、実は後ろに進んでいたとしてもあたしは気付かないだろう。

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⏰:08/04/25 00:30 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#245 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
どれだけ歩いても、あたしの瞳に映るのは黒過ぎるほどの黒だけだった。
景色が変わらないため、十キロ歩いたのか、十メートルしか進んでいないのか、全く解らない。

「はぁ……」

あたしは思わずため息をついてしまった。
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⏰:08/04/25 00:30 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#246 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
何だか疲れた。
頭も体も、疲労という重りを付けられたような鈍さを感じる。
あたしは音もなく、見えない地面に静かに寝転んだ。

このまま、泥のように何も考えず、何も感じずに眠ってしまいたい。
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⏰:08/04/25 00:31 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#247 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは目を閉じ、夢の中で眠りにつこうとした。


……。


…………。



………………?

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⏰:08/04/25 00:32 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#248 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――眩しい……。

目を閉じているのに、まぶたを透かして差し込んでくる痛いほどの光。
さっきまでの闇が嘘だったかのような明るさ。
あたしは思い切って、ゆっくりとまぶたを上げてみた。

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⏰:08/04/25 22:07 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#249 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「!?」


目の前にあったのは、真っ白な世界と、

……“あたし”?


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⏰:08/04/25 22:07 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#250 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは開いた目を直ぐさま閉じた。今のは“あたし”だよね、と自分に問いかける。
確かに“あたし”だった。

夢というのは、本当に不思議なものだ。
次に目を開けたら、“あたし”は消えていて憧れのスターが目の前にいるかも。
あたしはそんな馬鹿なことを考えながら、再びゆっくりと目を開ける。

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⏰:08/04/25 22:08 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#251 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし眼に映る光景は、さっきと変わらなかった。

真っ白な世界の真ん中で、小さなあたしは“あたし”を見上げていた。
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⏰:08/04/25 22:09 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#252 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは何も言わず、向かい合っている“あたし”の黒い瞳を見つめる。向こうもただ黙って、あたしの瞳を見つめ返す。

彼女の瞳は幸せに満ちていて、とても優しい笑顔であたしを包み込んだ。

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⏰:08/04/25 22:09 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#253 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
光以外に何も無い沈黙の空間で、あたしと“あたし”はただ見つめ合う。
お互いの瞳を見つめるのに、どのくらいの時間を費やしただろうか。
“あたし”がまず口を開いた。

「あたし、幸せだよ」
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⏰:08/04/25 22:10 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#254 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
“あたし”は本当に幸せそうに小さく呟く。優しい笑顔。
その顔を見ればわかる、とあたしは思った。でも口をついたのは別の言葉だった。

「どうしてこんな夢を見せるの?」

夢に出てくるってことは伝えたいことがあるからに違いない。
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⏰:08/04/25 22:11 📱:SH903i 🆔:ZORuxzbU


#255 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
……いや、それは死者にだけ許された行為かもしれない。もしくは生き霊?
しかし、もはやあたしは死んでいるのだ。
幼いあたし。記憶として十八歳のあたしの中で生きているはずのあたしは、そこにいないのだから。

「そう、あたしはあなたを殺してしまった。そしてあなたの復活を望んだ」
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⏰:08/04/26 22:26 📱:SH903i 🆔:PBcoUI3k


#256 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしが口に出さなかった言葉に、“あたし”は答える。

「あたし、幸せなんだよ」

再びそう言う“あたし”は、さっきと違い悲痛な表情を見せる。

「あたしだけ、幸せなの。記憶から、幼いあたしを消して。妹も消して。
どうして消してしまったの? あたしは……あなたと妹を犠牲にしたの?」
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⏰:08/04/26 22:27 📱:SH903i 🆔:PBcoUI3k


#257 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
逆に問い返す“あたし”は顔を歪め、今にも泣き出しそうだった。
“あたし”の疑問と悲しみを消すように、あたしは答える。


「それでいいんだよ。あたしたちはそれを望んだの。あなたに殺されることを望んだ。
あなたの幸せの為なら、あたしたちは消えてしまうことさえ喜んだよ」
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⏰:08/04/26 22:28 📱:SH903i 🆔:PBcoUI3k


#258 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの満足気な言葉を聞いて、“あたし”はより一層顔を歪め、泣いた。息を吸い、吐き、しゃくり上げた。


人の犠牲の上に生かされた“あたし”。
その犠牲さえも忘れ去った“あたし”。


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⏰:08/04/26 22:29 📱:SH903i 🆔:PBcoUI3k


#259 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
その罪の意識と感謝の念が、幼いあたしに伝わる。

「泣かないで、ユキ? こうしてここで会えたんだから。あなたはあたしを甦らせてくれた。あたしはそれがすごく嬉しい。
……ありがとう」

朗らかな笑顔でそう言うと、幼いあたしは“あたし”の前まで来て、“あたし”の両手を握った。
“あたし”の涙はもう止まっていて、眩しい白さが目に痛い。
手と手を繋いで、幼いあたしを見下ろす。

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⏰:08/04/26 22:30 📱:SH903i 🆔:PBcoUI3k


#260 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「もう、全部、思い出したでしょ?」

――うん。思い出した。

“あたし”は幼いあたしの言葉通り、八年間の全てを取り戻した。
まるでこの繋いだ両手を伝わって、幼いあたしが大切に守っていた記憶が“あたし”に流れ込んでくるようだ。激しい勢いをもって、一気に。
頭の中に、鮮明に蘇る過去の記憶。流れるように八年分の断片が通り過ぎてゆく。
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⏰:08/04/27 23:23 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#261 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
でも本当は“あたし”はその全てを知っていたんだ。
涙がやんで渇いた目を閉じると、さらにはっきりくっきりと思い出せる。
ひとつひとつ、全て大切な思い出。長い間忘れてしまっていた宝物。

再び涙が溢れる。閉じた瞼の隙間からとめどなく流れてゆく。
“あたし”はそれを拭うこともせず、ひたすら記憶を巡らせる。
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⏰:08/04/27 23:23 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#262 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
産まれたてのあたしを抱く母の手……父の背中……母の優しい笑顔……父の腕の温もり……
あの町の景色……いつもの散歩道……懐かしいあたしたちの家……家族が集まるリビング……母の手伝いをしたキッチン……あたしたちの子供部屋……

その頃の幸せな気持ちも一緒に蘇る。涙が止まらない。
記憶に浸っている“あたし”の手を握りしめたまま、幼いあたしが語りかける。
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⏰:08/04/27 23:24 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#263 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「サトルとハナが待ってる。もう目を覚まさなきゃ」

その言葉がきっかけだったかのように、さらに記憶と涙が溢れ出てくる。

幼いサトル……大好きな幼馴染み……幼いハナ……あたしのかわいい妹……
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⏰:08/04/27 23:24 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#264 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

――そうだ。ハナ。ハナ。あたしのかわいい妹。ハナ。まだ歩けないのにいつもはいはいであたしの後をついてきたハナ。

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⏰:08/04/27 23:25 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#265 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――それに、サトル。知ってたんだ。引っ越した街で出会ったんじゃない。サトル。大好きな幼馴染み。産まれた時から知ってた。サトル。

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⏰:08/04/27 23:25 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#266 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
閉じ込めていた記憶の中の二人の姿を頭に映し、“あたし”は夢の世界を終わらせて二人の元へ還ろうとする。
目を閉じたまま、ハナとサトルのことを強く想う。

“あたし”の両手に感じていた幼いあたしの小さな手の平の感触が消えてゆく。

――ありがとう、あたし。
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⏰:08/04/27 23:26 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#267 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
やっと巡り逢えた過去のあたしとの時間は、今終わりを迎えた。
でも寂しくはない。あたしの体の中で記憶として彼女は生き続けるから。

目を閉じていても眩しかった白い光も、だんだんと薄れてゆく。
小さな点になった光がやがて消え去ると、再びあたしのまぶたの裏は闇に支配された。

――ハナ……サトル……


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⏰:08/04/27 23:27 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#268 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

まとめ(・ω・*)

プロローグ
>>4

―T―
>>5-46

―U―
>>47-118

―V―
>>119-141

―W―
>>142-220

―X―
>>222-267

⏰:08/04/27 23:33 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#269 [蜜月◆oycAM.aIfI]
まとめ(・ω・*)

プロローグ
>>4

―T―
>>5-46

―U―
>>47-118

―V―
>>119-141

―W―
>>142-220

―X―
>>222-267

⏰:08/04/27 23:34 📱:SH903i 🆔:0Tdrl5r6


#270 [骸]
これとってもおもしろいです
ホントに
とっても気に入りましだ゙
応援してるんで頑張ってくださいx

⏰:08/04/28 00:10 📱:auST34 🆔:BWSWOahM


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