よすが
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#420 [蜜月◆oycAM.aIfI]
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暖かい陽射しが差し込む放課後の教室。
自分達以外に誰もいなくなったその教室で、あたしとサトルは窓際に並べられた席に座って数カ月前のことを思い出していた。
「あの日さぁ、帰ったら父さんと母さんにすっっごく怒られたんだよぅ。まだ覚えてるよ、あの時の父さんの怒った顔」
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:08/06/07 23:55
:SH903i
:febosBlc
#421 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルが膝の上に置いた通学バッグをドスドスと叩きながら不服そうにため息をついた。
もうすでに三度は聞いた話だ。
「いつまで言ってるの?」
あたしはクスクスと笑いながらサトルの頭をこずく。
「だってさぁ、ホント怖くて……まぁいーや、でもよかったね!」
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:08/06/07 23:55
:SH903i
:febosBlc
#422 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしがまだ笑い続けているのを見てサトルは話題を変えた。
「うん。……ありがとね、サトル。本当にありがとう」
なんだか照れてしまうけれど、改めて感謝の気持ちを真っすぐに伝えた。
それを聞いたサトルは嬉しそうに笑っている。
あたしは照れ隠しに首から下げたチェーンに通されたシルバーの指輪を指先で弄んでみた。
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:08/06/07 23:56
:SH903i
:febosBlc
#423 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「そろそろ行こっか!」
前の席の机に腰掛けていたサトルがストンと床に降りて教室のドアに向かって歩き出した。
「そうだね」
あたしも椅子から立ち上がって、サトルの後に続く。
ドアのすぐ横にある電灯のスイッチを切りドアを閉めると、あたしたちはある場所に向かった。
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:08/06/07 23:56
:SH903i
:febosBlc
#424 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あの冬の日、あたしの目に映ったものは白いセーターを着た人間だった。
髪はほつれロングスカートは泥々。
だけどその顔はあたしのよく知る顔……いや、あたしそのものだった。
信じられなかった。目の前にあたしがいる。
現実に起こり得ないことだというのは解っている。
けれど、あたしはまさか生きているなんて微塵も思っていなかった。
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:08/06/07 23:57
:SH903i
:febosBlc
#425 [蜜月◆oycAM.aIfI]
……そう、あたしと同じ顔をした、ハナが。目の前にいたのだ。
信じられなかったけれどそれしか有り得ない。
思考がその答えにたどり着いた時には、地面に膝を落としたあたしの体をハナの腕が包み込んでいた。
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:08/06/07 23:57
:SH903i
:febosBlc
#426 [蜜月◆oycAM.aIfI]
僅かに月の光が辺りを照らす。
木々が立ち並ぶ中であたしとハナは再会を果たした。
あたしは申し訳無さと嬉しさと喜びと感謝と後悔とその他いろいろな感情が複雑に絡まりあって涙を抑え切れず声を上げて泣いた。
ハナはただ黙ってあたしの体を抱きしめている。
後ろからサトルが近づいてくる音が聞こえた。
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:08/06/07 23:58
:SH903i
:febosBlc
#427 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ユキ?」
あたしの名前を呼んだサトルの声は優しく、包みこむような穏やかさを感じる。
その温かさに少しずつ気持ちが落ち着いてゆく。
鳴咽が止み、ハナの肩に埋めていた顔を上げるとすぐ側にハナの顔があった。
小さな切り傷がたくさんついた真っ白な肌が痛々しくて、あたしの目にさらに涙が溢れる。
「ハナ……」
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:08/06/07 23:58
:SH903i
:febosBlc
#428 [蜜月◆oycAM.aIfI]
同じように膝をついたハナの腕があたしの背中から肩に移り、真正面から見つめ合った。
ハナの茶色の瞳は透き通っていて、その純粋な眼差しに全てを見透かされているような気分になる。
堪らなくなってあたしは下を向いて口を開いた。
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:08/06/07 23:59
:SH903i
:febosBlc
#429 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ハナ……ごめんね、あたしハナを犠牲にして今まで……ごめんなさい、本当にっ……忘れてたのに……あたしだけ……」
ハナに謝りたくて、でもどう伝えれば良いのかわからなくて、あたしは支離滅裂に言葉を吐き出す。
「ユキ、」
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:08/06/07 23:59
:SH903i
:febosBlc
#430 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナの声。
昔より大人びた、でもほとんど変わらない落ち着いた声にあたしは顔を上げた。
「ユキ、いいんだよ」
もう一度あたしの名を呼び、ハナは話し始める。
「ユキは何も悪くない。ユキが負い目を感じる必要なんてないの。
あの時ここに残ることを選んだのは、あたしだから。ユキに忘れさせたのも、あたし。
それにユキは、あたしとの約束守ってくれたじゃない」
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:08/06/08 00:00
:SH903i
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#431 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「約束……」
「思い出したら迎えに来てね、って。思い出してくれた。こうして今ここに来てくれた。
こんなにフラフラになってまであたしを見つけ出してくれたんだもん」
ハナがあたしの額から頬を優しく撫でる。
目の前の顔は静かに微笑んでいて、暗闇の中でそこだけ輝いているみたいだった。
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:08/06/08 00:00
:SH903i
:aqXUJcpA
#432 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「……幸せだった?」
ハナの問いかけに胸が詰まる。
ハナが全てを投げ出して忘れ去られていた時、あたしが何不自由ない温かい時間を過ごしていたのは事実なのだ。
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:08/06/08 00:01
:SH903i
:aqXUJcpA
#433 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「あたしは怖くなかったよ。来てくれると思ってたから。何もかも投げ出したけど、何ひとつ諦めなかった。
ユキがあたしの分まで生きてくれてるって信じてたから、あたしはあの日から今まで、死んでるのと変わりないようなこの長い時間を耐えられた。
楽しかった? 普通の幸せを手に入れた? あたしの分まで全力で生きた?」
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:08/06/08 00:01
:SH903i
:aqXUJcpA
#434 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの目を見ながら一つ一つゆっくりと尋ねるハナの言葉に恨みや妬みは感じられなかった。ただ純粋に、離れていた時間を取り戻したいという気持ちだけがあたしに突き刺さる。
「……幸せだったよ。ハナの分まで、みんなから愛してもらったよ」
あたしの答えを聞いてハナは顔いっぱいに笑みを浮かべた。
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:08/06/08 00:02
:SH903i
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#435 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「もっと教えて、ユキの十年。何が楽しかったか、どんなことがあったか。全部知りたい」
そうだ。
別々に過ごした十年はあたしたちにとって分かち合うべき時間であって、あたしはハナの十年を、ハナはあたしの十年を知らなくちゃならない。
十年の全てを語り尽くすには長い時間がかかるけれど、それはこれから先にたっぷりある。
あたしたちが離れることはもう二度とないのだから。
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:08/06/08 00:03
:SH903i
:aqXUJcpA
#436 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「うん、全部分け合おう。あたしの十年は、ハナの十年でもあるんだもん」
あたしは腕を広げてハナの体を思いっきり抱きしめた。
「ハナ、ユキー!」
叫びながらガバッと抱き着いてきたのはサトルだ。すっかり忘れていた。
ハナとあたしが抱き合っているところにさらに覆いかぶさってきたサトルは号泣している。
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:08/06/08 00:03
:SH903i
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#437 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「よかったー! あぁ〜もうホントによかったー! うあぁぁぁん」
さっきまで静かだったのは我慢していたからのようで、それがはち切れて大変なことになっている。
サトルを自分達からはがして、あたしとハナは顔を見合わせて吹き出した。
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:08/06/08 00:05
:SH903i
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#438 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「もう、サトルはホントに変わらないねぇ」
そんなことを言いながら楽しそうにしているハナを見てあたしは、これは夢じゃないんだと実感していた。
そして。
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:08/06/08 00:06
:SH903i
:aqXUJcpA
#439 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「わぁー!」
「きゃあ!」
急に辺りが光に包まれ、大きな爆発音が響いた。
一瞬にして闇に戻ったかと思うと、再び空から眩しいくらいの光が降り注ぎ地面を揺らすような低い音が届いた。
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:08/06/08 00:06
:SH903i
:aqXUJcpA
#440 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「花火だ!」
立ち上がって叫んだかと思うと、サトルはもと来た方向へと走り出す。
あたしたちが呆気にとられてその姿を見ていると、くるっと振り返ってパタパタと手招いた。
「二人とも何してるの、早く!」
サトルの焦った声にあたしとハナも慌てて立ち上がり、サトルの後に続いて走り出した。
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:08/06/08 00:07
:SH903i
:aqXUJcpA
#441 [蜜月◆oycAM.aIfI]
再びコンクリートの箱がある場所へと戻ったあたしたちは、空を見上げて息を飲んだ。
どこから打ち上げられているのかわからない花火は、あたしの視界いっぱいに光の粒をばらまいた。
ぽっかりと木々を失った空間は、まるでその為に用意された特等席であるかのように空を切り取っている。
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:08/06/08 00:07
:SH903i
:aqXUJcpA
#442 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは言葉を忘れたように、ぽかんと口を開けて明るくなったり暗くなったりする空を眺めていた。
しばらくそうして立ち尽くしていたら、ハナが口を開いた。
「あの時も、花火があがってたね」
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:08/06/08 00:08
:SH903i
:aqXUJcpA
#443 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そういえば……十年前あたしがここを去った時、意識が途絶える直前に花火が打ち上げられていたんだった。
空に広がった光がハナの顔を照らしていたのをよく覚えている。
「うん」
今、あたしの隣にいるハナは、空の一点をじっと見つめている。
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:08/06/08 00:17
:SH903i
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#444 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「毎年この時期に花火があがるの。近くで花火大会があるんだと思うけど……。
ユキがいなくなって、何にもなくなったあたしの唯一の楽しみだったんだ、冬の花火」
「ハナ……」
見上げていた顔を隣にいたハナに向ける。
ハナは相変わらず空を眺めている。その表情は生き生きとして、希望に満ちていた。
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:08/06/08 00:18
:SH903i
:aqXUJcpA
#445 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ハナ、あたし……」
「ストップ! ……今謝ろうとした? さっきも言ったけど、ユキが負い目を感じる必要はないんだよ? あたしがこうなることを望んで選んだんだから」
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:08/06/08 00:20
:SH903i
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#446 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの顔を見てそう囁くと、笑顔のハナはまた明るく彩られた空を見上げる。
ハナはあたしが罪悪感を感じることを望んでいない。
それならあたしは謝らないでいよう。
そのかわり、これから先あたしはハナに感謝し続けよう。
ハナがこの十年間をあたしに捧げてくれたように、この先の全てをハナに捧げよう。
それがあたしの返し方だ。
「ハナ、ありがとう」
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:08/06/08 00:21
:SH903i
:aqXUJcpA
#447 [蜜月◆oycAM.aIfI]
その第一歩、あたしは感謝を言葉にしてハナに捧げた。
空で弾ける花火に照らされたハナの横顔は、穏やかで喜びに満ちていて美しい。
自分の顔と同じはずのそれは、全く別のものだった。
離れていた十年がそうさせたのだろう。
あたしとハナは見た目こそ同じだけれど、内側には絶対に重ね合わせることの出来ない違いがある。
どうやったって今のハナの気持ちをあたしが理解することは出来ない。
しかし、これから時間をかければ、もしかしたら。
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:08/06/08 00:21
:SH903i
:aqXUJcpA
#448 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルがあたしとハナの周りを跳び回りながら花火に向かって叫んでいる。
あたしはハナの横顔から上空に視線を移し、この先の幸せな未来を明るく瞬く空に思い描いた。
火花が煌めく夜空の向こうに、温かくて希望に満ちた未来がはっきりと見えた気がした。
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:08/06/08 00:22
:SH903i
:aqXUJcpA
#449 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/06/08 00:25
:SH903i
:aqXUJcpA
#450 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/06/08 00:27
:SH903i
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