よすが
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#570 [○○&◆.x/9qDRof2]
時間と比例して塞がる傷は、私の心も一緒に閉ざしてしまったのだろう。ひと月もしないうちに私と孝はお互い嫌いになっていた。そのまま時は流れ、気が付けば高校生になっていた。

時間が進んでも私と孝の関係は変わることはなく、時計はあの小学生時代で止まったまま卒業と入学を二回ずつ繰り返して今に至る。

⏰:22/10/25 17:22 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#571 [○○&◆.x/9qDRof2]
どうして私たちの関係は拗れてしまったのだろう。仲が良かった日々の時計はあの日に止まってしまい、新しい時計が刻み始めたのだろうか。なら、今度の新しい時計もいつか止まるのだろうか。次に動き出す時計にはどんな日々が待っているのだろう。
止まった時計が、もう一度動くことはあるのだろうか。

⏰:22/10/25 17:23 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#572 [○○&◆.x/9qDRof2]
空を見上げる私は不意に込み上げてきた哀しさに胸を押さえ付けられた。
同時に、新しい時計はもう止まっているのだと気付いた。
そして、次の時計はないのだということも。

⏰:22/10/25 17:23 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#573 [○○&◆.x/9qDRof2]
あまりに色々なことが頭に蘇りすぎて、忘れていた。私は、死んだのだ。
あの日の時計は止まったまま、私自身の時計は停止してしまったのだ。家に帰ろう…。私は曇り空を見上げた。

閉められた玄関をくぐると孤独感の波に苛まれた。

⏰:22/10/25 17:23 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#574 [○○&◆.x/9qDRof2]
家には人の気配がなかった。その無人の静けさだけが私の孤独感を増していく。家を歩き回っていると、私はあることに気付いた。私の抜け殻がない。
安置されていた場所に敷かれていた布団も綺麗に片付けられていた。

「火葬場かな」

⏰:22/10/25 17:24 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#575 [○○&◆.x/9qDRof2]
ぼうっと遺体があった場所を見つめる私の口から自然と出た答えに、何故か全身が脱力した。これからどうするかなど、見当も付かない。道標が欲しい。私は壁に寄り掛かると、体育座りで小さく縮こまった。…そういえば。

⏰:22/10/25 17:24 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#576 [○○&◆.x/9qDRof2]
死んだ者は四十九日を使って知り合いに挨拶巡りをすると聞いたことがある。使命ではなさそうだが、私もやるべきなのだろうか。四十九日が終わったら、次には何があるのだろう。疑問は次から次へと出てくる。私は暇潰しも兼ねて挨拶巡りをしようかとしばらく思案したが、自分が火葬されるところなど見たくないと思い断念した。

⏰:22/10/25 17:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#577 [○○&◆.x/9qDRof2]
私はこの暇な時間を潰すために街に繰り出すことにした。相変わらず身体の浮遊感や無呼吸のような息苦しさには慣れない。靴が土を踏みしめても何の感触も伝わってこない。風が草木を揺らしても私の肌をくすぐることはない。これからもこの違和感に慣れることはないだろう。

⏰:22/10/25 17:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#578 [○○&◆.x/9qDRof2]
私は太陽の陽射しに目を細めた。街中を歩いていて不思議に思ったことがある。たまにちらりと目が合う人がいるのだ。彼等には私の姿が見えているのだろうか。試しに話し掛けてみるが、ほとんど反応は得られなかった。しかし中には反応する人もいた。

⏰:22/10/25 17:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#579 [○○&◆.x/9qDRof2]
ただそれは話し掛ける前に逃げてしまう人たちだった。私は面白くなってつい後を付けたりなど意地悪をした。
ふと、これが取り憑くってことなのかなと尾行しながら自らに対して苦笑いを零した。それと、もう一つ気になったのは猫だ。動物たちは過敏に私に反応する。

⏰:22/10/25 17:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#580 [○○&◆.x/9qDRof2]
通り掛かれば首を回してこちらを伺い、近寄れば目を丸くする。中には威嚇する猫もいた。私はここでも悪戯心に駆られて追い回したりした。小さな背中をしなやかに動かして逃げる猫。
久々に得られた感覚に胸を撫で下ろす。

⏰:22/10/25 17:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#581 [○○&◆.x/9qDRof2]
私はここに居るのだと。三日前まで当たり前のようにいたその世界が突然愛しく思えた。私はここに居る。まだ、存在している。切なさと哀しさが入り混じる中、私は確かに実感した。日が傾いて街が夜に入り出した頃、私は再び帰宅した。暗闇が濃くなると、ふと私の体が闇に溶けてしまいそうな錯覚に陥る。

⏰:22/10/25 17:27 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#582 [○○&◆.x/9qDRof2]
またもや家には誰もおらず、電気を付けることも叶わない私は暗い部屋の中で家族の帰りを待った。どういう訳か、その日は誰一人として帰ってくることはなかった。一度だけ鳴った電話の呼び出し音が、寂しく響いた。やはりソファで夜を明かすのには慣れない。私は軽い苦痛を感じながらも朝を待った。

⏰:22/10/25 17:27 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#583 [○○&◆.x/9qDRof2]
照り付く太陽が真上に差し掛かった頃、母と父が帰ってきた。昨日の孝の様子を見るために朝は早くに家を出たから、家族とは一昨日の晩から会っていないことになる。三日ぶりの両親の姿は、何だか不思議に感じた。両親は何故か喪服ではなく、普段着であった。

⏰:22/10/25 17:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#584 [○○&◆.x/9qDRof2]
父はまるで会社帰りのようにいつものスーツを身に纏っていた。更に不審に思ったのは、心なしか母も父も元気に見えることだった。前向きな両親のことだからいつかは吹っ切れるとは思っていたが、予想よりかは遥かに早い。
私としては少しでも早く明るくなって欲しかったから少し安心した。

「あなた、今日会社はどうするの?」

⏰:22/10/25 17:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#585 [○○&◆.x/9qDRof2]
リビングのソファに座る私の横に鞄を落として、母が訊いた。

「今日も休むことにした。大丈夫、会社には連絡してあるからさ。明日から行くよ」

「そう?じゃ、お昼にしましょうか」

ネクタイを解く父の横を通り過ぎて母はキッチンに姿を消した。
ワイシャツ姿になった父は私の隣に腰掛ける。母の鞄を邪魔くさそうに退けると小さく溜め息をついた。

⏰:22/10/25 17:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#586 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>600-630

⏰:22/10/25 17:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#587 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>630-660

⏰:22/10/25 17:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#588 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>660-690

⏰:22/10/25 17:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#589 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>590-620

⏰:22/10/25 17:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#590 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>620-650

⏰:22/10/25 17:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#591 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>650-680

⏰:22/10/25 17:30 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#592 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしはテレビの電源を付ける父を見ながら、ちょっと前までは自分もこの輪の中にいたんだなあと頬を緩めた。ふとテレビの上にある電子時計が目に入れば、今日は日曜日だと認識する。

⏰:22/10/25 17:45 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#593 [○○&◆.x/9qDRof2]
休日にも仕事があったなんて、お父さんは大変だな。労いの言葉を考えていたら、突然携帯電話が鳴った。この曲は私の携帯だ。父は「何の音だ?」と立ち上がり音源を探し始めた。

「良枝、携帯が鳴っているみたいだけど、おまえのじゃないのか?」
「携帯?いいえ、私のじゃないみたい。この曲、千恵のじゃない?」

⏰:22/10/25 17:45 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#594 [○○&◆.x/9qDRof2]
キッチンから帰ってきた返事に「千恵の?」と呟いた父は何かを思い出したように母の鞄を漁り始めた。

「あったあった」

上半身を上げた父の手には私の携帯電話が握られていた。私の携帯電話はどうやらあの事故から無傷だったようだ。

「千恵の携帯に電話がきてるぞ」

⏰:22/10/25 17:46 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#595 [○○&◆.x/9qDRof2]
着信音が消えると当然のように携帯を開く父に「勝手に見たら千恵が怒りますよ」と母が訝しいげな顔を覗かせた。ごもっともだ。いくら死んだとはいえ、娘の携帯を見るのは失礼だろう。

「それもそうだな…と、おや?」

⏰:22/10/25 17:46 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#596 [○○&◆.x/9qDRof2]
これは…、と父が眉をしかめた。私は不審に思い、父の凝視する携帯を覗き込んだ。

「良枝、確か孝君って男の子が千恵の友達にいたよな?」

そう言う父の横で驚く私。
着信履歴のディスプレイに映し出されていたのは、孝の名前だった。

「ええ、いますけど.......」

それが?と疑問を含ませた母の声。

「どうやら、その彼からだ」

⏰:22/10/25 17:46 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#597 [○○&◆.x/9qDRof2]
ちょうど料理を終えた母は炒飯を両手に抱えてリビングに姿を現した。皿をテーブルに並べ終わると母も父の横から携帯を覗く。

「孝君から?あら本当。珍しいわね。千恵の口から孝の名前を聞いたのは小学校以来だから、何だか久しぶりね」

エプロンで手を拭いながら懐かしそうに目を細める母に、父は小さく笑いを落とす。

⏰:22/10/25 17:46 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#598 [○○&◆.x/9qDRof2]
「そういえば、そんな悪ガキもいたな。何だ良枝、ダメとか言いながら結局おまえも千恵の携帯を見てるじゃないか」

依然として笑いながら言う父に、母はむっとしながら眉を潜めた。

「私はいいんですよ。千恵とはとても仲が良かったですもの。そんなことより、ご飯出来ましたよ。早くテーブルについてください」

⏰:22/10/25 17:47 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#599 [○○&◆.x/9qDRof2]
はいはい、と苦笑しながら携帯電話をソファに置くと、父はテーブルに歩いて行った。わたしの脳裏に孝の姿が過ぎった。どうしたんだろう。私の葬式があった日から、孝のことばかりだ。柄にもなく昔のことを思い出すときも、孝とのことばかり。

⏰:22/10/25 17:47 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#600 [○○&◆.x/9qDRof2]
走馬灯にしては長すぎるし、内容が孝中心すぎる。私は自分に苛々してきた。死んだ時にひどく頭でも打ったのだろうか。人のことでこんな風に悩むなんてこれまでになかった。ましてや相手はあの孝ときた。

⏰:22/10/25 17:47 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


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