よすが
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#940 [ん◇◇]
「椿さま、担当医を呼びましょうか?」

「いえ、寝れば治ります。なので佐々木さんも青野さまも、うつらない内にお帰りなさいませ」


ちなみに佐々木とはメイドの名前である。

「君がそう言うなら言う事を聞こう。明日また来させてもらうよ。ではね」

⏰:22/10/26 10:18 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#941 [ん◇◇]
爽やかな笑みを浮かべ、あっさりと要は帰ってしまった。そんな要にメイドである佐々木は戸惑い、椿を見るが、何も気にしてないように優しく佐々木に言った。

「佐々木さんも、ね」
「では、またお時間になりましたら、夕食とお薬を運ばせて頂きます」

メイドは頭を下げてから、出ていく際に部屋の明かりを消した。ベッドに身を沈め、天井を見つめながら椿は1人考える。こんな、お荷物の自分を婚約者扱いしてくれるのは嬉しい。優しくだってしてくれるし、こうやって顔も見に来てくれる。

⏰:22/10/26 10:18 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#942 [ん◇◇]
でも彼は心配してるような言葉を椿に向けながらも、その言葉に込もっている気持ちは空っぽのような気がしてならない。

 彼の目的は?

 椿は思い当たっている事がある。だがそれが本当なのかどうか、彼女にはまだ分からないのだった。



「椿、今日椿ん家寄っていい?」

 学校で掃除をしている時、美嘉が言った。椿は箒で床を掃く手を止めて、頷く。

⏰:22/10/26 10:19 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#943 [ん◇◇]
「ハイ。ちょうど今、綺麗な薔薇が咲いているので、是非美嘉ちゃんに見てもらいたいです.......」

「本当?椿ん家はいつも綺麗にしてるからなー。椿ん家の庭すっごい好き!」

無邪気に笑う美嘉を見て、どこかホッとする椿。こんな風に、美嘉はいつも椿に優しさと元気をくれる。椿は、自分にはもったいないとさえ感じる。だから美嘉が何かで悲しんだりしたら、自分が元気を与える事が出来ればいいなと考える。

「あ、絵子」

美嘉が絵子を呼び止める。

⏰:22/10/26 10:19 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#944 [ん◇◇]
「今日椿ん家行くんだけど行かない?」

絵子は一瞬パッと表情を明るくさせるが、しばらく考えてから「あ!」と声をあげた。

「ごめん!今日はお米の特売あるから帰る!」

と言うなりカバンを掴んで、猛スピードで教室から出て行ってしまった。その姿を見てから、椿と美嘉は顔を合わせる。

「絵子ちゃんも大変ですね.......」
「ある意味あの子が母親代わりみたいなとこあるからね」

⏰:22/10/26 10:20 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#945 [ん◇◇]
最近彼女の家に変化があったのか、忙しく動き回るもか楽しそうに毎日を過ごしている。そんな越に、椿は拍手したい気分だった。自分は恵まれていると思えば尚更に。

「じゃそろそろ行こっか」


 いつも通り、まっすぐ自宅へ帰る。
扉を開ければやはり大勢のメイド達が椿だけでなく美嘉にも挨拶をする。それも昔から知ってるので、美嘉はカラカラ笑って「たっだいまー」と気軽に返事をする。

⏰:22/10/26 10:20 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#946 [ん◇◇]
「お嬢様」

1人のメイドが椿を呼ぶ。

「要さまが来てらっしゃいます。お仕事を持ち込んでらっしゃいますので、お嬢様の挨拶はそれを済んでからの方がいいかと思われたんですが、ご本人はいつでも.......とおっしゃってました」

⏰:22/10/26 10:20 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#947 [ん◇◇]
今日も来たのかと椿はぼんやり思った。しかし、仕事をしているなら別に早く挨拶に行かなくてもいいだろう。こちらだって、美嘉がいるのだし。

「わかりました.......ありがとうございます」

しばらくの間は庭にいようと思い、自室に美嘉とカバンを置きに行ってからまた外へと出た。きちんと切り揃えられている植え込みや、青々とした芝生はいつみても美嘉に「すごい」と言わせるのであった。

⏰:22/10/26 10:21 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#948 [ん◇◇]
「こちらです」

薔薇が咲いている場所に美嘉を案内する。たどり着いた場所には、様々な形、色をした薔薇が無数に咲いていた。その周りを、2人は歩く。

「婚約者、本当にいたんだ。なんか信じられないや。いい人?」
「ええ、もちろんです。だって私なんかの婚約者になって下さるんですもの」

⏰:22/10/26 10:21 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#949 [ん◇◇]
心底そう思ってるらしく、椿は笑顔で美嘉にそう告げる。しかし美嘉は、椿をじっと見つめると、蔦が絡まったアーチの下で足を止めた。

「椿、美嘉は椿みたいな令嬢のしきたりとかは分からないけど、椿が嫌なら嫌って言っていいと思うよ」

椿は首を傾げてから、小さく頷きほのかに微笑む。嫌だなんて思ってない。美嘉や父のように心配してくれる人がいるのは、どれだけ有難い事かと彼女は思う。要も悪い人ではない。もしかしたら今日来たのだって昨日熱を出したから心配してくれたのかもしれないのだ。

⏰:22/10/26 10:22 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#950 [ん◇◇]
そう感じれば、嫌だなんて失礼な事を言う筈がないのだ。美嘉はまだ気にしたように椿を見るが、彼女は微笑み続けているのでそれ以上は何も言わなかった。ただ、そんな彼女だからこそ、ひそかにしらない所で、その小さな胸を痛めているのではないかと思えば、美嘉は悲しくなったのだった。

⏰:22/10/26 10:22 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#951 [ん◇◇]
庭を歩き回り、疲れただろうと美嘉に言い、椿は休憩を取るため部屋へと戻ってきた。メイドがお茶を運ぶと言ったが、自分ですると言い、今から取りにいく。出来る事はなるべくしておきたいのだ。椿1人では重たいティーセットを持てないと思い、美嘉もついてくる。

⏰:22/10/26 10:22 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#952 [ん◇◇]
「あ、セイロンだ。美嘉これ好きなんだー」
「そうだと思って用意してもらったんです」

ほのぼのと会話しながら部屋へ戻る途中、ある部屋の扉が少しだけ開いていたのに気づく。

⏰:22/10/26 10:22 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#953 [ん◇◇]
>>930-960

⏰:22/10/26 10:23 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#954 [ん◇◇]
>>920-960

⏰:22/10/26 10:23 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#955 [ん◇◇]
>>910-960

⏰:22/10/26 10:23 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#956 [ん◇◇]
>>910-940

⏰:22/10/26 10:24 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#957 [ん◇◇]
>>940-970

⏰:22/10/26 10:24 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#958 [ん◇◇]
>>970-999

⏰:22/10/26 10:24 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#959 [ん◇◇]
「もう、何か喋りなよ。わたしなんか死んでから独り言ばかりだよ?猫しか遊び相手いないし、つまんない」

 愚痴を言いながらも、わたしはわずかに微笑んでいた。孝の隣は居心地が良い。悪ふざけをしない孝は悪いもんじゃないなと、あの屋上でのひと時以来しばしば感じていた。沈黙すら楽しんでいる。

⏰:22/10/26 10:27 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#960 [ん◇◇]
「二時三十分か」

公園の時計を見て呟くと、孝の声とぴったり重なった。驚いて隣に視線を向ければ、孝も携帯電話の時計を見ていた。カチカチと、無造作にボタンを押す孝。先程の電話の件もあってつい画面を覗き込んだ。

「孝、何考えてるの?」

⏰:22/10/26 10:28 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#961 [ん◇◇]
画面にはわたしの名前と電話番号が映っていた。しばらく停止した後、孝は通話ボタンを押した。ゆっくりと耳に近付けると、呼び出し音が響く。三回.......四回.......。

出るはずがない、と確信しながら、孝の行動の意味を考えていた。結論、理解不能。八回目を過ぎると、孝は電話を切った。溜め息を吐く孝を横目に、少し気まずさを覚えた。

⏰:22/10/26 10:28 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#962 [ん◇◇]
孝が、教室で黙祷の時に見せた、わたしの机を見つめていた時のあの目をしていたのだ。何を考えているのか.......わたしにはわからない。そう、思っていた。孝の漏らした言葉を聞くまでは。


「.......千恵。おまえはもう帰ってこないんだな、本当に、」

⏰:22/10/26 10:28 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#963 [ん◇◇]
不意打ちだった。

 有り得ないと思っていたことが現実に起きた瞬間、わたしは顔に熱が昇るのを感じた。かぁっ、と頬が熱くなる。孝は、わたひを想ってくれていたのだろうか。張り合い相手がいなくなったのを、寂しがってくれていたのだろうか。わたしは初めて見た、孝のそんな姿を。

⏰:22/10/26 10:28 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#964 [ん◇◇]
九年前に反発しだした関係が、九年ぶりに修復に向かった気がした。よくわからないが、わたしは気恥ずかしさでいっぱいだった。この感覚は知っていた。昔、体験したことがある。ランドセルを落としたあの放課後の時と同じだった。

⏰:22/10/26 10:29 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#965 [ん◇◇]
自らの熱と、場の空気と、何より恥ずかしさに耐え切れなくなったわたしは、逃げるようにその場を離れた。

 わたしは走った。顔の熱は冷める兆しはなく、わたしのスピードを上げた。息切れはしないし、全力疾走なのに思うように速くない。夢の中の全力疾走のような感じだ。それでも。わたしは走った。息切れはないが疲労感が込み上げてくる。

⏰:22/10/26 10:29 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#966 [ん◇◇]
身体が脱力しきって走るのを止めた時、空を見上げれば茜色の夕空が夜を待っているところだった。嗚呼、不思議だ。わたしは死んだ。なのに。生きていたときより、こころが躍っているような気がする。わたしは怖かった。道標がない未来に怯えていた。突然、影のように闇に紛れて消えてしまうんじゃないかと。突然、煙のように空気に混ざって溶けてしまうんじゃないかと。

⏰:22/10/26 10:29 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#967 [ん◇◇]
だけど、いまは違う。わたしは怖くない。身体が熱い。実際の所、死んでから体温や気温などを感じる機能は遮断されていた。だから熱い、というよりは熱い気がするの方が正しいと思う。どちらにせよ、わたしはいま、赤面しているだろう。わたしの身体を取り巻く熱が引くまでに、かなり時間が掛かった。とっぷりと暮れた夜空の下、わたしは公園のベンチにいた。

⏰:22/10/26 10:29 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#968 [ん◇◇]
さっきの公園とは違う公園。いまにも切れそうな街灯に視線を送りながら、頭を抱える。変わっていない。九年前と。あの頃は子供だった、なんて、笑ってしまう.......わたしいまも子供だ。変わっていない。九年前と。わたしは九年前に、気持ちを置いてきてしまったのかもしれない。だけど、気付いてしまった。九年もの間、全く気付かなかったことに、わたしは、気付いてしまった。じわりじわりと熱が蘇ってくる。

⏰:22/10/26 10:29 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#969 [ん◇◇]
 わたしは、

 孝が、

 満天の星空の下、わたしはこころの奥底に秘めた気持ちを隠した。暗い暗いこころの奥に。二度と上がってこないように。気付いてしまった以上は、仕方がない。わたしは死んだのだ。

⏰:22/10/26 10:30 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#970 [ん◇◇]
わたしにはもう、道は残されていない。希望はないのだ。失望することがわかっている以上、封印してしまおう。それが良い.......そうしよう。その日、わたしはベンチで夜を明かした。



 月曜日の朝になった。退屈とは拷問に近い。孝がいるから学校に行く気もしないし、家に帰る気もしない。

⏰:22/10/26 10:30 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


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