○アダムの唄○
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#11 [紫陽花]
央里と黒スーツとの距離は2〜3メートル。黒スーツは央里の質問に答えるわけでもなく、右足を一歩前に進めた。
「ずっと君を捜していたんだよ。いや〜長かった。これで僕の仕事も終わりだ」
両手を横に広げ、満足そうに男は央里に向かってさらに足を進める。
:08/07/23 23:46
:F905i
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#12 [紫陽花]
「ちょっと!!俺の質問に答える気ないの?」
それでも男はゆっくりと、一歩また一歩と央里に近づく。二人の距離は確実に縮まってきた。
端から見ればこの炎天下に両手を広げ少年に歩み寄る男なんて気持ち悪すぎるだろう。
それに依然として男の口元には笑みがこぼれ、表情の分からない顔でも歓喜していることぐらい読み取れる。
:08/07/24 21:45
:F905i
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#13 [紫陽花]
央里は瞬時に黒スーツの男から視線をはずし相手に背を向ける形で歩き出した。
“コイツ……なんかやばい”
央里の第六感がそう告げる。
相手に背を向けるのは危険かもしれないがここは、逃げるのが一番だ。
「待てよ」
:08/07/24 21:46
:F905i
:QCllXyKU
#14 [紫陽花]
央里が背を向けた瞬間、男は再び彼を呼び止めた。
ただ先ほどと違って男の呼び声が酷く冷たい。この暑い熱の世界の中で、この声だけが氷のように冷たく、鋭い氷柱となって央里の行く手を阻む。
央里の足は動かなくなった。いや、正しくは動けなくなったのだ。その場の空気がピンと張りつめる。そう、切れる前の糸のようにキリキリと引っ張られ、一瞬でも気を抜けばすべてが切れてしまうようなプレッシャーを、央里はたったあの一言で感じていた。
:08/07/24 21:47
:F905i
:QCllXyKU
#15 [紫陽花]
行き交う人たちは楽しそうにおしゃべりを続け、外は暑いねと、愚痴をこぼす。だが呼び止められた央里には周りを気にする余裕なんてもはや残されていなかった。
スーツの男に呼び止められ、先ほどの威勢の良さとは反対に央里は汗すらも拭うことも出来ず、膝は小刻みに揺れる。
:08/07/25 23:11
:F905i
:Zi..nvuo
#16 [紫陽花]
あの男は何者なのか?
分かっていることはただ一つ。央里の体から発せられている、
“アイツには近づくな”
という危険信号だけ。
そして逃げられないと分かった今、相手に背中を向けたままというのは自殺行為に値する。
央里は意を決して勢いよく後ろを振り向き再び黒スーツの男に視点を会わせた。
が、央里の瞳には両手を広げた変な男が映るのではなく、驚きのものが映し出された。
:08/07/25 23:12
:F905i
:Zi..nvuo
#17 [紫陽花]
「動かないでください」
黒スーツの男の広げられた両手はいつの間にか胸ポケットへと滑り込み、あるものを掴みだしていた。そしてソレは、しっかりと央里の頭にねらいを定める。
「おじさん……ここ日本だよ?物騒じゃないのかなぁ」
スーツの男に握られていたソレとは、拳銃。央里の顔は恐怖にゆがみ、恐怖と不安の混じり合った汗はゆっくりと頬を伝って顎先から地面へとたれ落ちる。
:08/07/25 23:13
:F905i
:Zi..nvuo
#18 [紫陽花]
行き交う人々は最初こそドラマか何かの撮影だと思い込み通り過ぎ去っていったが、どうにもカメラが見あたらない、と騒ぎ出していた。
“本当にあの少年は殺されるのではないか”と。
そして一人の女性が鞄から携帯電話を取り出し、隣にいた男性の後ろに隠れるように電話をかけ始めた。
:08/07/25 23:14
:F905i
:Zi..nvuo
#19 [紫陽花]
ちょうど黒スーツの男の後ろ側に位置して女性は電話をかけたため、スーツの男には死角となってそれは見えない。
“このまま、時間を稼いでれば警察が……”
男は依然として銃口を央里の頭にあて引き金に左人差し指を掛けている。央里の視野の真ん中には銃口と黒スーツの男を、端っこの方ではしっかりと女性をとらえ、瞬きさえも忘れて双方に気を配る。
「はい、早く来てください!!」
:08/07/25 23:15
:F905i
:Zi..nvuo
#20 [紫陽花]
女性は電話をし終え口元に添えていた右手を央里の方へ向け小さくガッツポーズをする。
さながら、後少し踏ん張れとエールでも送っているのだろう。
央里は横目でソレを確認する。
“あと少し……”
央里に希望の光が射し込んできた。
その光はすぐに消えてしまいそうなほどか細いものだが、今の追いつめられた央里の精神には十分な支えとなった。
:08/07/25 23:16
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