○アダムの唄○
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#129 [紫陽花]
その後も一心不乱に目玉焼きを食べていた央里だったが、しばらくして唐突に口を開いた。
「お袋さ、昨日の夜すげー悲しそうな顔してたけど……何で?」
「あら、母さんそんな顔してた〜?見間違いじゃないの〜?」
ケタケタと不自然なほど笑いながら真紀は答えた。
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#130 [紫陽花]
だが、央里は黙ったまま真紀を見つめる。
心の中を探るように、切れ長の目を真っ直ぐに真紀に向けて。
「……このご時世に、自慢の愛息子が旅にでちゃうのよ?それも人類の未来を背中に背負った上での危険な旅に」
真紀の手にあるコーヒーの水面が揺れる。
微かに、震えているのだ。
「あなたが生まれた時から、いつかはこうなるって分かってた。でも……!!」
マグカップを勢いよく机に置き、そのまま両手で顔を覆った。
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#131 [紫陽花]
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#132 [紫陽花]
今にも消え入りそうな声で胸の内を話した真紀は、
いつもの威勢のいい真紀ではなく“母”であるがゆえに背負っている辛さを耐えている一人の人間だった。
きっと央里を不安にさせないように、この今にも全てを侵食していくような不安という暗闇を、押し込めてきたのだろう。
「お袋……」
「ごめんね。こんなこと言ったら不安になるのは央里なのにね……」
真紀は顔から両手をはなし、ぎこちない笑顔で央里を見る。
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#133 [紫陽花]
「俺は大丈夫だから!!
それにそんなに心配しなくても俺、絶対帰ってくるし!!」
白い歯を見せてニカっと笑う央里。
「まったく、その自信家なところは誰に似たんだか……」
「お袋からの遺伝だよ!!」
:08/08/24 23:48
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#134 [紫陽花]
自然と真紀の口元にも笑みが広がった。
その顔を見て、満足そうに央里は立ち上がり食器を台所へと運ぶ。
「央里」
名前を呼ばれた央里は、台所からリビングに顔だけ出して真紀を見た。
「頑張りなさい」
央里は食器を置いてそれに答えるように、右手でピースサインを表した。
:08/08/24 23:50
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#135 [紫陽花]
――――――………
――――………
あれから一週間。
央里と傳はまだ出発していなかった。
衛が言うには、これから行く目的地へ送った手紙の返事が帰ってこないらしく、本当に訪れていいのか定かではないのだそうだ。
:08/08/24 23:50
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#136 [紫陽花]
そして出発できない理由の一つに、傳の体調が優れないという事もあった。
この一週間の間にまたも黒スーツの男が央里の命を狙ったのだ。
「次がないんだ……」
と独り言のように何度も呟き、いつも以上にしつこく追ってきた。
それから逃れるために“アダムの唄”を連続して使ったために、傳の体が耐えきれず倒れてしまっていた。
:08/08/24 23:51
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#137 [紫陽花]
「傳!!今日の体調はどうだ?」
お粥の乗ったお盆を左手にもち勢いよく部屋に入る。
この一週間、傳に自分のベッドを占領されている央里たが、自分を助けるために倒れたということを考えると何もいえなかった。
「だいぶ、ま…し……」
「そうか!!まぁ、無理すんなよ」
そういって傳にお粥を渡す。
:08/08/24 23:52
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#138 [紫陽花]
“アダムの唄”を説明した時とはまるで別人のように無口になった傳。
央里は以前、なぜ喋らないのかと問うたことがあった。
「喋るのは嫌じゃないけど、口の筋肉動かすと、疲れるじゃん……」
いかにも傳らしい答え。
その時、央里も傳に
「なんで、いつも教室で一人なの……?」
と問われていた。
:08/08/24 23:53
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