○アダムの唄○
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#132 [紫陽花]
今にも消え入りそうな声で胸の内を話した真紀は、
いつもの威勢のいい真紀ではなく“母”であるがゆえに背負っている辛さを耐えている一人の人間だった。
きっと央里を不安にさせないように、この今にも全てを侵食していくような不安という暗闇を、押し込めてきたのだろう。
「お袋……」
「ごめんね。こんなこと言ったら不安になるのは央里なのにね……」
真紀は顔から両手をはなし、ぎこちない笑顔で央里を見る。
:08/08/24 23:48
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#133 [紫陽花]
「俺は大丈夫だから!!
それにそんなに心配しなくても俺、絶対帰ってくるし!!」
白い歯を見せてニカっと笑う央里。
「まったく、その自信家なところは誰に似たんだか……」
「お袋からの遺伝だよ!!」
:08/08/24 23:48
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#134 [紫陽花]
自然と真紀の口元にも笑みが広がった。
その顔を見て、満足そうに央里は立ち上がり食器を台所へと運ぶ。
「央里」
名前を呼ばれた央里は、台所からリビングに顔だけ出して真紀を見た。
「頑張りなさい」
央里は食器を置いてそれに答えるように、右手でピースサインを表した。
:08/08/24 23:50
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#135 [紫陽花]
――――――………
――――………
あれから一週間。
央里と傳はまだ出発していなかった。
衛が言うには、これから行く目的地へ送った手紙の返事が帰ってこないらしく、本当に訪れていいのか定かではないのだそうだ。
:08/08/24 23:50
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#136 [紫陽花]
そして出発できない理由の一つに、傳の体調が優れないという事もあった。
この一週間の間にまたも黒スーツの男が央里の命を狙ったのだ。
「次がないんだ……」
と独り言のように何度も呟き、いつも以上にしつこく追ってきた。
それから逃れるために“アダムの唄”を連続して使ったために、傳の体が耐えきれず倒れてしまっていた。
:08/08/24 23:51
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#137 [紫陽花]
「傳!!今日の体調はどうだ?」
お粥の乗ったお盆を左手にもち勢いよく部屋に入る。
この一週間、傳に自分のベッドを占領されている央里たが、自分を助けるために倒れたということを考えると何もいえなかった。
「だいぶ、ま…し……」
「そうか!!まぁ、無理すんなよ」
そういって傳にお粥を渡す。
:08/08/24 23:52
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#138 [紫陽花]
“アダムの唄”を説明した時とはまるで別人のように無口になった傳。
央里は以前、なぜ喋らないのかと問うたことがあった。
「喋るのは嫌じゃないけど、口の筋肉動かすと、疲れるじゃん……」
いかにも傳らしい答え。
その時、央里も傳に
「なんで、いつも教室で一人なの……?」
と問われていた。
:08/08/24 23:53
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#139 [紫陽花]
央里も学校では遠巻きに扱われ、一人疎外感を感じるときがあった。
馬鹿みたいに群れるのが嫌いなだけで、人と喋るのは嫌いじゃない。
むしろ好きな方。
ただ、人が怖いだけなのだ。
相手が心の中で自分をどんな風に思っているのか。
自分は嫌われているんじゃないのか?
そんな誰しも心に秘める他人への恐れが、央里にはとても巨大な壁のように感じられていた。
:08/08/24 23:55
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#140 [紫陽花]
「俺が一人でいるのは、お前と似たよーな理由だよ」
そんな針鼠のような外側にトゲを持つ央里の心は、自分と傳は似たもの同士だと思っていた。
だからアダムの話も信じたし、傳が倒れたときは大きな責任が重くのしかかってきたのだ。
:08/08/24 23:56
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#141 [紫陽花]
「はやく元気になれよ!!ちゃちゃっとイヴを探して安全になろーぜ」
央里はちょびちょびとお粥を食べている傳にピースサインを送る。
「…………」
傳はコクリと肯くだけ。
それだけで満足したかのように、央里はお盆と傳を残して部屋から出て行った。
:08/08/24 23:57
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