【コラボ企画】秋のラノベ祭り投下スレ【withイラスト板】
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#232 [No.007◆vzApYZDoz6]
体が沈む。
さっきから何度も何度も手を掻き回しもがいているが、浮き上がる気がしない。
確実に沈んでいる。
ここは何処だろうか。
遥か頭上で、小さく弱々しい光源が靄を湛えて揺れている。
体は無重力の最中にいるかのように浮わついていた。
見えない圧力が微かに全身の肌に伝わる。感触は酷く冷たく、水のそれに近い。
だが息苦しさはなかった。むしろ気持ちよくすらある。
脳は頭上の光を追えとしきりに叫んでいるが、体が底へ底へと導かれているようだった。
次第に脳も叫び疲れ、沈んでいく体に身を預けていく。
目がまどろみ、瞼が重くなり、意識が薄れていく。
「ねぇ」
透き通った女性の声。
閉じかけていた瞼を開くと、沈んでいく先の底に女が立っていた。
白装束を身にまとい、後ろ手に巨大な刀のようなものを持っており、異様な雰囲気を感じる。
何より肌が極端に白い。白すぎて青緑色に見えるくらい白い。
長い前髪で顔はよく分からないが、薄く微笑む口元も色がなく、生気が感じられない女だ。
:08/11/03 19:18 :P903i :LUmIhgZI
#233 [No.007◆vzApYZDoz6]
「抗わなくていいの?」
数メートル先に見えている底から俺を見上げ、無感情に聞いてきた。
「ここは意識の大海。底まで沈むことは、意識の底辺に辿り着いた事…つまり『死』を意味するの」
ふふふ、と不気味に笑いながら、女は後ろ手の刀を担ぎ面にふりかぶる。
「そして私の役目は、底辺に辿り着いた人間の命を刈り取る事」
女との距離はすでに1メートルもない。
切迫する死を避けようにも、すでに俺の体が脳の拘束を振りほどいていた。
女は足を広げ、柄を握る手を静かに引き絞る。
俺の体はその所作に導かれるままに、女の正面に向かっていった。
「さようなら。罪深き人間」
意識の海底に足がつく。
同時に、女が俺の体を肩から袈裟懸けに斬り裂いた。
:08/11/03 19:19 :P903i :LUmIhgZI
#234 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:21 :P903i :LUmIhgZI
#235 [No.008(1/2)◆vzApYZDoz6]
「よぉ」
「……誰? どこにいるの?」
「お前の後ろだ」
「後ろ…? 誰もいないじゃないか」
「当たり前だろ。俺は、お前の『影』だ」
「影…?」
「ここはお前の精神世界だ。お前は青く、俺は真っ黒で長い。お前は今、心に深い闇を抱えている。だがそれは不変的なものではなく、変えようと思えば変えられるものだ」
「……つまりは僕次第、か……」
「言ってみろよ。俺にはお前が何を抱えているかまでは判らない」
:08/11/03 19:22 :P903i :LUmIhgZI
#236 [No.008(2/2)◆vzApYZDoz6]
「……話したところで…君に何かできるのかい? この寂しさを救えるのかい?」
「甘ったれるなよ。さっきも言っただろう、変わるかどうかは他ならぬお前次第だ」
「判っているさ。でも、僕は君ほど強くなれそうにない」
「んなこたぁねーよ。俺はお前の影だぞ? 俺は、お前だ。俺にできることはお前にもできるんだよ。全てはお前次第だ」
「………」
「立ち上がれ。でなきゃ俺は…ひいてお前はいつまでも小さいままだ。前進しなくちゃ始まらないんだ。それでも不安なら一度後ろを向けよ。俺は、いつだってそこにいる」
「……そうだね。全ては僕次第なんだ…」
「たまに落ち込んだって誰も何も責めやしねーよ。だが、ずっとそのままじゃできることもできないんだぜ?」
「うん…思い出したよ。僕にはまだやることがあるんだ」
「1人でいたくなったらまた来な。ここにいるのはお前1人だが、独りぼっちじゃない」
「……ありがとう。もう起きるよ」
「そうしとけ。精々気張れよ」
「それじゃ」
「ああ。達者でな」
:08/11/03 19:23 :P903i :LUmIhgZI
#237 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 19:25 :P903i :LUmIhgZI
#238 [No.009◆vzApYZDoz6]
白い雲のはるか上、おとぎ話でよく見る空に浮かぶお城の庭に、2人はいた。
肩を並べて庭の端から足を投げ出して、今日も下界を眺めていた。
向かって右の気だるそうな男が悪態をつく。
「ひでぇよなー、神様にしてくれるっつーもんだからお願いしたら、その代償が『一生童貞』だもんな」
「ひどい…」
「神様つっても童貞卒業する権利くらいあるよな?」
「あると思う…」
「待てよ、神様なんだから何でもできるだろ? 女の子を作ればいいじゃん」
「試したけど無理だった…」
「試したのかよ…まぁでも、地上の女の子を拐えば問題ないよな?」
「拐ったけど無理だった…」
「拐ったのかよ…つうか何で神様を童貞にできるの? この話、誰に持ちかけられたんだっけ?」
「知らない…」
「あれ? あれは確か俺が女子更衣室に行こうとしたときに…あれ?」
「デジャヴ…」
2人は今日も童貞。
明日も明後日もその次も、2人はずっと童貞だ。
:08/11/03 19:26 :P903i :LUmIhgZI
#239 [◆vzApYZDoz6]
>>238『the・童貞』
童貞はどこまで行っても童貞でした。
:08/11/03 19:27 :P903i :LUmIhgZI
#240 [No.010◆vzApYZDoz6]
日射しが強い。
見渡す限りの砂漠。渇いた砂粒が吹き荒ぶ中、幾重にもうねる砂丘の中腹に彼女はいた。
焼き付くように照りつける太陽の光を背に受けて、彼女はうずくまっている。
やがて小さなため息をつき、目の前にある中身のない宝箱の蓋を静かに閉じた。
「これもハズレかぁ……」
手にしていた巻き紙を広げ、目を細めて繁々とそれを眺めた。
1人の男が残した置き手紙。
祖国の英雄であり、実の父親でもあるその男が彼女の前から姿を消したのは、およそ2年前。
早朝、彼女が男を起こすために向かった時には、すでにもぬけの殻と化していた部屋。
その中央に置かれた羊皮紙には、ある大陸の地図に加えて男の筆跡で一文が記されていた。
『近く蛻と成るその日までここにいる。願わくば捜し当てよ』
当時は祖国から捜索隊が編成されもしたが、消えた目的すら不明なために暫くして捜索は打ち切られた。
だが彼女は捜し続けた。
『蛻』とは死者の事。つまりそれは、男の死期が近い事を示唆する手紙だった。
彼女は手紙が自分宛であると思っていた。
俗世を嫌った父親の最初で最後の我儘に、自分を付き合わせたのだろう、と。
「……次は何処だっけ」
物思いに耽る思考を振り払い、紙を丸めて立ち上がる。
コンパスを取り出して目指す指針を確認した。
次は、北だ。
「絶対に見つけてやるんだから」
果てなく続く砂漠の道を、彼女は1歩踏み出した。
:08/11/03 19:28 :P903i :LUmIhgZI
#241 [◆vzApYZDoz6]
>>240『父を求めて三千里』
これは作者の中で設定が浮かびまくって、泣く泣くSSSにしました
なんか親父の手紙の暗号を考えたりしたなー
:08/11/03 19:30 :P903i :LUmIhgZI
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