微妙な10センチ。〜最終〜
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#397 [あき]
ホームに立ち、その時を待つ。
到着したそれに乗り込み、今からの数時間、私に与えられたその窓側の席に座った。
直ぐ様走り出した景色を、ぼんやりと眺めていると。
胸がざわついた。
思わず、胸を掴んで息を整える。
流れる景色を見つめ、今日もまた雨が降り出しそうな1日だなと、そう思った。
:09/09/06 19:17
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:WpaU5fD.
#398 [あき]
数ヶ月ぶりに舞い降りた駅は、何も変わっていなくて。相変わらずの景色。あれから数ヶ月。それよりも前、この出で立ちでこの場所に立つのは半年振りの事。スーツの衿を正し、あの時と同じように重すぎる荷物を引きずりながら、私はあの場所へ向かう。
改札を抜けると、すぐに声をかけられた。
『〜〜社の方ですか?』
額の汗をふきながら、小太りの小さなおじさんが、ペコリと頭を下げる。
:09/09/06 20:39
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#399 [あき]
『はい〃宜しくお願いします。この度は、急遽担当者が変わりまして、ご迷惑をおかけしました。』
私は、そのおじさんに頭を下げる。
『いえっ〃こちらこそ、宜しくお願いします。では、車まで案内しましょう。』
『ありがとうございます。』
今回のパートナーは西条さんじゃなかった。
ホッした反面……
少し寂しかった。
:09/09/06 20:44
:W64S
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#400 [あき]
また、ロータリーにあのボックスタイプの車が停まっていた。
トランクを日除け変わりに使い、タバコを吸っていた彼の姿を思い出す。
『この車ですっ。荷物入れましょう。』
『…はい〃ありがとうございます。』
彼と同じ。
彼と同じイントネーションと、彼と同じ方言で、新しいパートナーは言った。
:09/09/06 20:52
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#401 [あき]
静かに動き出した車内で、急遽変更になった事を改めて詫びた。
詫びながら、この三日間の打ち合わせを兼ねようと、私は聞く。
勿論、こちらには、事前に今回の担当者である田中の名前は流れていたはずで、田中で、全ての段取りが組まれていたはずなのだ。
それを今朝、突然に私の名前が電話にて伝えられたはず。
突然の担当者変更は、てんやわんやになったに違いない。
『問題起きませんでした?』
『そんな事があったんですか。大変でしたね〃』
私は、疑問を隠しきれず、暑苦しいおじさんの顔を見返す。
:09/09/06 21:09
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#402 [あき]
おじさんパートナーは、私の言葉を他所に、冷房のスイッチを強に合わせる。
『暑いですなぁ。もう少ししたら、冷えますから、待って下さい。』
西条さんよりも強い方言なまりは、年配独特さを感じた。
生ぬるい風を体一杯に感じたながら、私は気にしないで下さいと笑った。
『で…あの…打ち合わせは??』
冷えてきた冷房風に、私の髪がなびく。少し気持ち良かった。
『ああ、私にはいいですよ。私にされても、わからんです〃』
:09/09/06 21:25
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#403 [あき]
そう言うと、おじさんは、また、前を向いて、暑い暑いと嘆いていた。おじさんは、ようやく私の顔を見て、不可解な顔をする私を理解したのか、ハハハと笑って言った。
『ああっ!私はね、今はただの運転手です〃私にはあんた達の仕事は専門外ですわ〃ちゃんと担当者がいますから、そこまでお送りしますからねえ。』
おじさんは、そう言って、笑った。
移動中も、何十年も勤め上げたこの会社を先月定年して、雑用係として会社に残った身の上だと、自分の過去を笑って話てくれた。
私は、笑ってそうでしたかと、当たり障りのない返事を繰り返す。
私が送り届けられる場所に向かう間
ざわついた胸が今にも爆発しそうだった。
:09/09/06 21:55
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#404 [あき]
『あそこですよ』
おじさんが指差した先に、小さな建物が見えて来た。
私は、頷きバックから資料を取り出す。
資料を、再度読み直し、頭の中で整理する。
なにせ、今朝、早朝五時に突然割り振られた仕事なのだ。
下準備、事前打ち合わせは田中がしている。
私にはこのファックス用紙だけが頼りだった。
『ここで、担当者とも合流して戴きますから。うちの若手ホープですよ!あいつなら、任せても大丈夫ですわ』
おじさんは、笑っていた。バクンとした心臓が、おじさんに聞こえまいかと、私もまた笑ってみせた。
:09/09/07 02:37
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:N97iV3Fg
#405 [あき]
車を降りて、おじさんは笑顔で走り去る。
若手ホープと呼ばれる担当者と合流すべく、私は建物前に立った。
こちらは、梅雨なんて関係ない位の眩しい日差し。時計を見ると、まだお昼前だというのに、気温は上がりきっているように思えた。
見つけた小さなベンチに腰掛けて、私は資料を読み直す。
到着して、五分。
『お待たせして申し訳ありません』
頭の上で聞こえた声に…。
外れて欲しかった胸騒ぎが的中した事を知るには、十分過ぎる程の声だった。
:09/09/07 02:46
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#406 [あき]
『……』
『……』
少しの沈黙。
私は立ち上がり、顔を上げる。
『…また三日間、宜しくお願いします。』
『…こちらこそ。』
久しぶりに見た西条さんは、最後に見たあの時よりも、少し日焼けしていた。
ブルーの淡いシャツに、ネクタイを締めて、少し細めの眼鏡をかけ…
あの頃と同じ香水の香りがした。
:09/09/07 02:52
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