微妙な10センチ。〜最終〜
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#407 [あき]
『じゃ、打ち合わせを…』
『いいよっ〃ここは、俺の得意先だもんで今更いらん〃よく知ってるからっ。それよりも、荷物、車に乗せようか?』
西条さんは、変わらない爽やかな笑顔で、歩き出すと私の荷物を掴み、乗ってきたんであろう小さな社用車のトランクに、また軽々と荷物を乗せた。
苦しい胸を隠しながら、二人並んで、責任者と顔合わせ、打ち合わせ、そして談笑へと進んでいく。
西条さんの得意先だけあって、また私は、彼の然り気無いアドバイス、サポートに乗っかる形で、話を進めればいいだけ。
何のトラブルもなく、丸く収める事が出来、二人で車に乗り込んだ時には、もうお昼を回っていた。
:09/09/07 03:06
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#408 [あき]
『…暑いねぇ〃』
『…そうですね〃』
『……』
『……』
小さな車内。沈黙が続く。途中、コンビニに寄ってランチを買った。
初めて会った時、あの時も確か、昼食はお弁当だった。緑の多い公園のベンチに二人並んで食べたんだ。あのお昼から、私達の時間は始まった。その急速な時間の流れの中、傷付き傷付け合って…
私達は、あの時と同じ位置に立つ。
何もなかったように、ただ、仕事パートナーとして。
同じ場所に立った。
:09/09/07 03:15
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#409 [あき]
あの公園は、何も変わってはいなかった。
時折吹く風に、緑がざわざわとなびいて、心地良い場所。
よく見ると、ここは、付近のOL達の憩いの場所なのか、他のベンチにもお弁当を広げる人が見受けられた。
日陰のベンチを探し、私達は並んで座る。
気まずさから、即座に買ったばかりの冷えた野菜ジュースを吸い込んで、サンドイッチを開ける。
失せた食欲だけど、もこもこと無言でほお張ってみた。
西条さんもまた、気まずいのか、何なのか…
即座にパンを被りつき、缶珈琲をぐびりと飲んだ。
:09/09/07 03:22
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#410 [あき]
『…久しぶりだね…』
空に向かって煙が高々と登っていた。
飲み干した珈琲の空き缶にとんとんと煙草を叩いて西条さんは言った。
飲み干した野菜ジュースのパックを丁寧に折りたたみながら、そうだねと答える。
煙の匂いが、風に乗って私にかかる。
その後に、甘い香水の香り。
私は、サドイッチの袋を丁寧に折りたたみ、マヨネーズがついちゃったと、自分に笑ってみせた。
今思えば、それは
手先を見つめる事で、顔をあげないでいい方法を模索していたのかもしれない。
:09/09/07 03:39
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#411 [あき]
『…元気だった?』
『まぁ…〃』
二本の煙草の煙が空に登る。眩しい太陽は、私達をジリジリと照りつけながら、時折、気持ちよい風がすり抜けた。
『まさかとは思ってたけどっ…〃』
『来ちゃ悪かった?』
私は、ハハハと笑ってこの場を誤魔化す。
西条さんは、ふっと笑って煙を空いた缶珈琲にポイッといれた。
差し出されたそれに、私もポイと入れる。
缶の中で、ジュッと音がして。
二本の火は呆気なく消えた。
:09/09/07 11:18
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#412 [あき]
『そんな事ないよ〃』
在り来たりな言葉で、私は返す。
『朝、出社したら今日から来る担当者があきの名前に変わってて、驚いた。』
『…そりゃ、今朝急に変わったんだもん〃』
西条さんは、そんなのありなのかと、笑った。
『……だから、迷ったね。』
そして、そう呟いた。
:09/09/08 00:49
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:YinlIU3I
#413 [あき]
『あきは、俺に会いたくないんじゃないかって。だから、こっちも担当変わろうかって、考えたね。』
そう呟きながら、彼はまた胸ポケットから煙草を取り出し火を付けた。ふわりと煙の匂いがする。
私はその声に聞こえないふりをした。
視線を下に向け、パンツスーツの裾を直す。
『…いやなら、明日から変わるよ!〃』
開き直った彼の声に私は、視線を戻して、どちらとも言えない笑顔を向ける。
:09/09/08 01:01
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:YinlIU3I
#414 [あき]
『仕事でしょっ。〃仕方ないよねっ。』
そしてそう言った。
馬鹿な私は、そう言うしか出来なかった。
あの夜、喧嘩別れをしたままの数ヶ月間。この地方の出張話が出る度に、自分に当たるはずがないと頭で理解しながら、心のどこかでは、望んでいた。
仕事で来れば会えるんじゃないかって少し期待した。
もう一度、会って話がしたかった。
だけど、妙なプライドが邪魔をして、それは言えなかった―…
:09/09/08 01:07
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:YinlIU3I
#415 [あき]
『…仕方ない…かっ〃』
西条さんは、はははと笑って、ベンチを立った。私も後を追うようにベンチを立ち、彼の背中を見る。飄々と背の高い彼の背中は、とても大きかった。
『いつまでもサボってないで、午後からの仕事しますかっ!』
『はいっ〃しますかっ!』
助手席に乗り込み、彼の運転で私達は市内を走り抜ける。仕事パートナーとして会話を繰り返し、淡々と案件をこなしていく。
ただ、それ以降、二人でいても、彼は私を《あき》とは呼ばなくなった。彼は私を私の―役職―で呼ぶ。
最後まで。ホテルに着く最後まで、それを貫き通していた。
そして…
:09/09/08 01:16
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:YinlIU3I
#416 [あき]
『……わかりましたっ〃宜しくお願いしますっ。』
翌朝、私を迎えに来たのは―…
彼と似ても似つかない全くの別人だった。
『西条が、急用が出来まして、私が残りの二日間担当を引き継ぎましたので。』
ロビーに立つ、そのおじさんは、そう言って私に名刺を渡してきた―…
:09/09/08 01:22
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:YinlIU3I
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