微妙な10センチ。〜最終〜
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#447 [あき]
――――――

重い荷物を肩にかけ、フロアの扉を閉める。
薄暗い廊下を渡り、階段を降りると、淡い光の中に、既にロックの掛かった正面玄関が見える。
警備員のおじさんに、挨拶を済ませると、おじさんは、お疲れ様と労いをくれながら、ガチャリと自動ドアを開けてくれた。
外は、まだまだ蒸し暑い、湿気でどんよりとした空気の中、暗い道程を数百メートル裏手に回る。
朝から置いていた愛車に乗り込み、荷物を助手席にほおり投げるとほっと一息着いた。

⏰:09/09/16 00:58 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#448 [あき]
事務的に、携帯電話を開き、西条さんにメールを打つ。

[お疲れ様。今から帰りますっ!今日は車で出社したから、今から一時間くらいは電話に出れないよっ。]

ニコニコ絵文字も入れてみたりして、気分とは裏腹の文面を無機質に送信した。

仕事を終えた私には、この一時間と記した文面が重要な訳で
自由の身になれる自由でもあるのだ。

あれ以来、彼はより一層私を〈束縛〉した。
片時も携帯電話が離せない生活。
一時でも、彼の着信、受信に返事がないと、彼は狂ったように怒りだす。
私に課せられたのは、事細かい、密なる連絡だった。

⏰:09/09/16 01:12 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#449 [あき]
それは、入浴する時ですら、同じである。

一度、入浴中で電話を受けられなかった。
入浴中に鳴っていた数分間隔の不在着信履歴。彼には、入浴する時ですら報告を要するまでになっていた。

もう、すっかり言い返す気力すら奪われた私は、彼の言いなりでしかなかった。

だからこそ、私が編み出した技はこうして、時間を記す事により、私は自由を得ているのだ。

⏰:09/09/16 01:17 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#450 [あき]
[お疲れ。わかったよ。また帰ったら連絡して。]

西条さんからの受信を確認すると、携帯電話を鞄に入れる。
キーを挿し、セルを回すと、もう年代物の愛車は、ブルンと音を立てて動き出す。
ゆっくりと駐車場から頭を出して、大通りに滑り込ませた。
愛車で出社するのは久しぶりで、この大通りは、なかなかの手強い。しっかりと前を見据えて、車線変更のタイミングを見計らう。
上手く車線変更出来たなら、あとはこっちのもので。
お気に入りのBGMに鼻歌混じりで、ハンドルを握り、煙草に一本火をつけて、至福の時を過ごす。

⏰:09/09/16 01:24 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#451 [あき]
今日どうして、わざわざ許可を取ってまで、愛車で出社したかと言うと話は簡単。

明日からの一週間。
任せられたのは、大きな仕事だった。久しぶりに、大役を任せられたのだ。
数日前、メガネインテリ女上司に肩を叩かれた時には心が踊り、胸が弾んだ。
けれど、日時が近づくにつれ、のし掛かるプレッシャー…
そんなこんなで、結局、私はビビった。
必要以上に集めた資料は膨大な量になった。
結果、それらを持ち帰るには、愛車の出番となってしまったのだ。

⏰:09/09/16 01:46 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#452 [あき]
車を走らせて数十分。すっかり辺りは暗くなり、ライトが眩しさを覚える頃。
私は、ふと思い出す。

『…そういや…あれ、あったっけ?』

些細な日用品。
一人暮らしの身の上では、こんな事はしょっちゅうで、いつもなら、帰路に着く道中、最寄り駅付近のスーパーで購入する事が多かった。
今日もまた、切れかけている日用品をふと思い立つ。

⏰:09/09/16 01:53 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#453 [あき]
『…ま…あそこでいっか〃』

帰り道。
アパートまで、数分の場所に深夜まで開いている薬局を思い出す。
私は、この閃きと同時に、直ぐ様寄り道を決定した。
時折煙草に火をつけて、疲れた体を運転席に沈ませて、私はハンドルを握る。

堕落の底へ突き落とす悪魔が待ってるとも知らずに、私はお気に入りのBGMに合わせて、鼻歌を唄っていた。

⏰:09/09/16 02:00 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#454 [あき]
都会の街並みの渋滞をようやく抜けて、静かな田舎街まで戻って来る。帰路に着いてから四十分。思いの外、早く帰ってこられたようだった。私に残された時間は、あと二十分。
目の前の信号を右に折れると、もうそこは、小さなアパートがある。
その一部屋が、私の住処だ。

あと数分の距離。

私は、そのまま信号手前、薬局の駐車場へと車を滑らせた。

⏰:09/09/16 02:08 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#455 [あき]
なかなか大型薬局なだけあって、広々と作られた駐車場には、ぎっしりと車が停まっていた。俄然、ダルさマックスな私は、出入口付近にスペースを探してみるものの、全て埋まっている。私は仕方なく、建物横手になる、一角。見つけたスペース、やや大きめの両サイドの車に当てない様に、バックで愛車を滑らせた。停めて数秒。

(……ま…いっか…)


西条さんに連絡をしようと携帯電話を取り出してみたものの、これくらいなら大丈夫でしょうと、またバックにしまう。

⏰:09/09/16 02:18 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#456 [あき]
そして、そのバックを見つめて

(…重いし……〃)

そう思った。

私の商売道具とも言えるバックは、まるでドラ○もんのポケットばりに、何でも詰め込まれていた。
その上、今日は集めに集めまくった資料の束が入っている。
我ながら、今日の出来栄えは、腕の関節が外れるんじゃないかと思う程の重量になっていた。
勿論、この重量は、かなりの重要書類や、現金化すりゃ、大金に変わるような代物が詰め込まれている訳で、普段なら無意識に持ち歩いている。
だけど、今日は、たかが数分。
今、この状況で持ち出す程のもんでもないと思えた。

⏰:09/09/16 02:27 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


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