微妙な10センチ。〜最終〜
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#66 [あき]
詰め込みに詰め込まれた2日目スケジュール。
まさに時間に追われている感覚。
この現場が終われば、次の現場へと強制連行される。連行されるがままに、またひたすら営業スマイルを作り、ひたすら与えられた業務をこなす。
『もぉ無理ーっ!!』
休憩がてら立ち寄った緑の多い公園。
ベンチに、まさしく【大】の字になって、もたれかかって、ジリジリと上がる気温に叫ぶ。
『弁当食べる?』
そんな私に、いつの間にか用意してくれた、私の昼食。ただし弁当。
が手渡された。
:09/07/10 23:10
:W65T
:VckcM2.Y
#67 [あき]
『有難うございますっ〃』
食事イコール弁当。
この方程式が成り立つ場合。
だいたいが独り者。
この西条さんも例外ではないと、密かに確信した。
正直、私は惣菜弁当は苦手だけど、営業スマイルで、せっかくの好意を受け取った。
『隣、いいですか?』
顔に似合わず、妙な気遣いに、私は笑顔で、どうぞとベンチ脇に座り直す。
彼はガサガサと自分用の弁当を袋から取り出して、いただきますと、丁寧に、両手を合わせていた。
:09/07/11 22:51
:W65T
:mPQOWP3.
#68 [あき]
仕方なく、手渡された弁当を私も開けた。
見事な、ザッ幕の内。
取り揃えられた高カロリーかつ、カチカチのおかず達に、食欲を奪われる。
内心、げんなりしながら、パックの緑茶をちゅーちゅーと吸い込んだ。
吸い込みながら、チラリと隣を見ると、彼の口は、まるで、ブラックホールのように、次から次へと食べ物が吸い取られている。
よくもまぁ、この暑い中、この弁当を…
ちょっと笑える。
『食欲旺盛ですね…』
『ん?そうですか?』
『おいしい?』
『この弁当、なかなか美味いですよ〃』
『へーっ…』
:09/07/11 23:01
:W65T
:mPQOWP3.
#69 [あき]
初めててとも言える何気ない会話。隣の勢いに触発されて、一口、また一口とお弁当を食べる。たいして変わり映えのしない味だったけれど、なぜか美味しく感じた。
『ほんとですね〃』
『でしょ?〃』
突然、こんな所に飛ばされて、昨日会ったばかりのこの人と、なぜ、緑の豊かなこの公園で。木陰のベンチに座って、惣菜弁当を頬張っているのか。
なんだか、この滑稽さに笑いが込み上げた。
『ん?』
『いえ…〃』
気持ちいい風が、私達の間をすり抜ける。
ぐじぐじ悩んでる自分が馬鹿らしくなった。
西条 祐介。
彼の放つ風が、私を癒やしてくれた。
:09/07/11 23:30
:W65T
:mPQOWP3.
#70 [あき]
午後からの仕事もそつなくこなし…
というか、そもそも
まだまだ下っ端なのに、意に反して、現場を離れ知識だけを叩き込んでいる、しかも地方者の私より?
ベテランの粋に達するはずが、まだまだ現役で現場に立ち続けている、現地人の西条さんの方が
遥かに合理的かつ、スムーズかつ、何事にも詳しい訳で…
だけど、立場的には、私の方に権限がある訳で…
《…でいいですか?》
《…の方がいいと思いますが。どうしますか?》
私は結局、ただただ、言われる事に、うんうんと頷いているだけ。
彼に仕事をこなしてもらった。と言っても過言ではないのである。
そんな日中を過ごし、ホテルに戻ったのは、19時を回っていた。
:09/07/12 19:47
:W65T
:6jrEfyzs
#71 [あき]
『今日もお疲れ様でした。有難うございました〃』
車を降りる時、そう言った私に、運転席に座る西条さんは、にこりと笑って言った。
『携帯聞いてていいですか?』
初日に交換した私の名刺には、携帯までは印刷されていない。
個人情報保護法なんちゃらというやつのおかげらしい。
確かに、あと4日も一緒に組むのだから、彼の判断は的確。いつかは必要になるだろう。
私は、ポケットから携帯を取り出して、じゃ、鳴らしますねと笑って言った。
:09/07/12 19:55
:W65T
:6jrEfyzs
#72 [あき]
彼の携帯が短く鳴って、頂きました。と笑って言ったのを確認すると、私はまた、携帯をポケットにしまう。
『じゃ、明日も9時に迎えに来ます。』
『はい。宜しくお願いします〃』
走り去る車に、私は手を振って、フロントから鍵を受け取ると、また狭苦しい部屋に入った。
ポケットの携帯電話を、テーブルに置いて、重すぎる鞄を椅子に置いて。
ジャケットを脱いで…
バックから、もう一つの携帯を取り出した。
マナーモードを解除しつつ、そのまま、ベッドに転がって、しばらく睨めっこしてみた。念力すら込めてみる。
しばらくして、バカバカしくなって…
今夜も諦めた。
そして、あの夜からずっと。こうやって、心のどこかで、待ってる自分が、悲しくなった。
:09/07/12 20:12
:W65T
:6jrEfyzs
#73 [あき]
走り去る車に、私は手を振って、フロントから鍵を受け取ると、また狭苦しい部屋に入る。
ポケットの携帯電話を、テーブルに置いて、マナーモードに設定する。
重すぎる鞄を椅子に置いて。堅苦しいスーツを脱いで。さっと持参した部屋着に着替える。
パチンとテレビを点けて、タバコを一本吸って。
今日もお疲れ様。
と自分を労ってあげる。
そして…
バックから、もう一つの携帯を取り出した。
:09/07/12 20:16
:W65T
:6jrEfyzs
#74 [あき]
マナーモードを解除して、確認していく。
この時間が、一番至福の瞬間で、開放感に溢れる瞬間だった。
記された内容に、一件一件、返事をしながら、私自身の時間を楽しむ時間なのだ。
だけど最近は違う。
確認だけして、そのまま閉じる。返事する気分になれないのだ。
そして、ベッドに転がって携帯電話を見つめる。
なんなら少し念力まで送ってみる。
そして、諦める…
あの夜からずっと。
こんな事を繰り返す自分。心のどこかでは待ってる自分。
そんな自分に悲しくなる時間だった。
:09/07/12 20:26
:W65T
:6jrEfyzs
#75 [あき]
すると、テーブルに置いたマナーモードの携帯が、ブルブル震えた。
テーブルの上で震えるもんだから、不愉快極まりない異音を奏でている。
時計を見ると、19時30分を過ぎた頃。
ほんの30分前に、今日1日を終えた所なのに。
肩の荷物を下ろした所なのに。
こんな時、仕事関係者しかしらないこの携帯が震えるのは、ほんとに嫌だ。
だけど、無視を出来ないのが、また、仕事用携帯電話の特性だった。
私は仕方なくベッドから起き上がり、手に取った。画面を確認してみる。
:09/07/12 20:35
:W65T
:6jrEfyzs
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