微妙な10センチ。〜最終〜
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#100 [あき]
また涙が溢れて来た。
この西条 祐介たる人。
やっぱりいい奴じゃん…
女は弱ってる時に、妙な男心をかけられると、非常に弱い。
そう作られた生き物なのだ。
『ごめ…もうちょっと泣かせて…理由は聞かないで…』
そう言って。
また泣けてきた。
:09/07/19 20:11
:W65T
:uu9YQiaQ
#101 [あき]
ただただ、静かな時間が流れる。
電話口で、泣き出す私に、それを黙って受け止める彼。しばらく泣いて、本当に何だかスッキリ。
ありがとうと言う私に彼は最後に言った。
僕には、これしか言えないからと前置きを残し。
《…今日は、もう仕事しなくてよしっ!!
今から、すぐにシャワー浴びて、そのままぐっすり寝る。これは今からの業務だから守って下さい。
そして
また明日あなたを待ってますね。》
そう言って、電話口で笑った彼。
泣いていたのに。
つられて私も笑っていたー…
:09/07/19 20:23
:W65T
:uu9YQiaQ
#102 [あき]
その日から、西条さんはあの夜の事は何も聞かない。言わない。
ただ、淡々とハンドルを握り、時折くだらない冗談を言っては、それに答えるかのように、私もおどけてみせる。
そんな西条さんとの些細な事が全てを事を忘れさせてくれ。
そうして。
私の一週間は終わろうとしていた。
近付いてきた別れの日。
:09/07/22 20:29
:W65T
:mmCe/RwQ
#103 [あき]
一週間前、初めて会ったターミナル。
少し早めに出発した車は、予想を覆し、流れに流れ、出発の一時間前にターミナルへと滑り込んだ。
『じゃ…お疲れ様でした。いろいろと有難うございました〃』
ひょいとおろしてくれた大きな荷物を彼から受け取ると、私は笑顔を見せた。
『お疲れ様。こちらこそ。有難うございました。時間、余りましたね。』
『まっ。ギリギリになるよりかは、いいですよ〃最後に美味しいもの食べて時間潰しますっ。』
『そうっ。』
『うんっ。』
:09/07/22 20:38
:W65T
:mmCe/RwQ
#104 [あき]
『…じゃぁ』
『…じゃぁ』
そう言って私は背中を向けた。ガラガラとやりすぎたでか荷物が私の後ろをついてくる。
来る時よりも、重くなったのは、彼がくれたご当地土産が入っているから。
《こっちじゃ有名な食い物やから。うまいよ?》
《そうなんだ〃ありがとう。》
私は振り返らずに、真っ直ぐ歩いた。
ターミナルを抜けて、タクシーが行き交う中横断歩道を渡り、改札口へと抜けるエスカレーターに乗る。
後ろを見てはいけないような気がした…
:09/07/22 20:45
:W65T
:mmCe/RwQ
#105 [あき]
エスカレーターが私を上へと運ぶ。
右下になっていくターミナル。
エスカレーターが終わる。目の前には、忙しそうに行き交う人。
ここを降りれば。
私は、もうあれに紛れるんだ。
もう終わる…
終わっちゃう…
エスカレーター終点。
ちらりと右下。
ターミナルを見た。
彼が、車の前で、大きく手を振っていた。
:09/07/22 20:50
:W65T
:mmCe/RwQ
#106 [あき]
『ありがとう!!ばいばいっ!!』
思わずそう叫んだ。
笑顔で、一生懸命手を振った。
右下。小さくなった彼が何かを叫んでいる。
雑音に紛れて、彼の声は聞こえなかった。
私は、またバイバイと大きく手を振って、エスカレーターを降り、人混みの中に消えた。
そして
私の一週間が終わりを告げた…
はずだった。
:09/07/22 20:56
:W65T
:mmCe/RwQ
#107 [あき]
『…で?何してるんですかっ!?〃』
『いや…お互い様でしょ。』
私は人混みに紛れたものの。まだ改札を抜ける気分にもなれず。
周辺を少し見物した後、改札が見える駅ビルの広場で、ベンチに座った。
夜風と街のネオンがとても気持ち良くて。一人座っていた。
そんな時
さっき別れたはずの、西条さんの声がした。
振り返ると。
なぜか、彼が立っていた。
:09/07/22 21:08
:W65T
:mmCe/RwQ
#108 [あき]
『だって時間まだあるし。西条さんこそ、まだ帰ってなかったの?びっくりした〃』
『タバコ買いにね…〃そしたら、まだいるから。』
『そっか〃』
西条さんは、ついでに最後まで付き合いますよと言って、横に座った。
いいですか?とタバコをトントンと叩いた。
私が、微笑むと、どうもと言って、なおちゃんとは違う仕草でカチリと音がして。なおちゃんとは違う匂いの煙が私を包んだ。
:09/07/22 21:17
:W65T
:mmCe/RwQ
#109 [あき]
妙な沈黙。妙な間。
なんとなく、西条さんが言いたい事がわかる。
だけど私は、それを言われたからと言って、どう答えていいかわからなかった。出来る事なら、触れないで欲しい。このまま終わらせて欲しい。そう願った。
何気ない会話を繰り返し、そろそろ、改札を抜ける時間。
『じゃ…そろそろ行きますね。』
『…えぇ。…あの…あの日。何もしてあげられなくてごめんね。あの時、俺はそう言ってやるしかできなかった。』
彼は、私の予想とは違う言葉で、最後にそう言った。
:09/07/22 21:25
:W65T
:mmCe/RwQ
#110 [あき]
なんの事?なんてとぼけてみた私に、西条さんは、こらこらと笑った。
それでも、おどけてみせる私に、西条さんは、ケラケラと笑いながら、心配して損したと言った。
私は、すっくと立ち上がり、お尻の汚れをぱんぱんっと叩きながら言う。
『…偶然の西条さんの電話に救われた〃ありがとう。あとっ…酷い事言って、ごめんなさい。じゃぁ。これでっ!!気をつけて帰って下さいねっ。また来ますっ!!』
彼の返事を待たずに私は歩きだす。
その私の背中に向かって、今度はハッキリと聞こえる声で、こう言った。
:09/07/22 21:35
:W65T
:mmCe/RwQ
#111 [あき]
『また電話していいですかっ!?』
驚き振り返る私。
『…あなたの番号。残していいですか?』
一週間、毎日となりに居たんだ。彼が、サラリと言ったこの言葉に、どれだけの勇気が詰まっているか、目に見えてわかった。
彼の後ろに、なおちゃんの顔が浮かぶ。
大人の振りした少年の西条さんの後ろに
少年のくせに大人のふりしたなおちゃんの顔。
そのなおちゃんが、浮かんでは…消えた。
私は彼の言葉に微笑んで、頷いた。
:09/07/22 21:49
:W65T
:mmCe/RwQ
#112 [うる]
あげます! 待ってます☆
:09/07/24 17:11
:911SH
:h6.39XXU
#113 [あき]
うるさん、ありがとうです
ー”
また数時間かて帰路につく車内。猛スピードで流れる景色を眺めながら、どこか西条さんの笑顔がちらついた。一週間、となりにいた彼は、いろんな一面を私に見せた。
仕事に向かう姿勢。
休憩時間にふと見せる彼自身。
どちらも、私には居心地が良かった。
そしてあの夜の
思いもよらない言葉に。
駅での言葉。
私の中で、何かが変わりつつあったー…
:09/07/25 19:40
:W65T
:tBOBuo2E
#114 [あき]
大きな駅まで数時間。
そこから電車を乗り継ぎ、自分の街まで戻って来た頃には、もう深夜だった。
本来ならば、バスを利用して、自宅近くまで戻れるはずが、もちろんバスは遥か前に終了している。
重すぎる荷物を引きずりながら、タクシーを探した。
けれど、こんな田舎町の小さな駅にタクシーなんて簡単には見つからない。
歩けない距離でもないが、今の私の体力、またこの時間。想像しただけで吐き気がする。
『参ったな…』
思わず声が漏れた。
:09/07/25 19:47
:W65T
:tBOBuo2E
#115 [あき]
周囲を見渡す。
駅周囲に建つ、寂れたホテルが、弱々しい光を放っていた。しばらくホテルと睨めっこ。
このままあの寂れたホテルに泊まるか。
いや
出来る事なら、帰りたい。歩くか。
いや
おぞましい。
バックから携帯電話を取り出す。
ピコピコと画面と睨めっこ。
こんな時間に起きていて、尚且つ、迎えに来てくれそうな人…
いないね…。
:09/07/25 19:52
:W65T
:tBOBuo2E
#116 [あき]
半ば、自宅に戻るのは諦める。私は目の前にある寂れたホテルらしき建物に向かって歩きだした。
握り締めた携帯電話。
それを見つめて、立ち止まる。迎えに来れるはずもないとそもそも、リストから外した名前。
【ひま?】
そうメールを送った。
口は悪くて、偉そうで。
喧嘩ばっかで、むかつくし、可愛げないし、優しくない。だけど、私がピンチの時は必ず助けてくれる。
やっぱり優しいあいつ。
私を元気百倍にしてくれるあいつに。
ただ、一言、言葉が欲しかっただけ。
期待はしてないけれど…やっぱりそれでも期待した。
:09/07/25 20:32
:W65T
:tBOBuo2E
#117 [あき]
【なに?】
珍しくすぐに返事が戻ってくる。
これだけで、少しだけ気分が晴れてしまう自分が、本当に情けない。
【ひま?】
同じ文面を送り返す。
またすぐに返事が戻ってきた。
【だから何?】
【家に帰れないの…】
:09/07/25 20:37
:W65T
:tBOBuo2E
#118 [あき]
【意味がわかんね】
今の状況をかくかくしかじかと文面に綴る。
送信して数分で、また戻ってきた。
【タクシー呼べば】
そんな事言われる前から、わかってるし。
ただなんとなく、期待しただけ。
わかってた。
だけど
嘘でも、冗談でも、何だって良かった。
仕方ないなぁ。待ってろ。
そのたった一言を…期待しただけだった。
:09/07/25 21:33
:W65T
:tBOBuo2E
#119 [あき]
眠そうなフロントマンらしきおじさんに、鍵をもらうと、その古ぼけて寂れたホテルの部屋に荷物を置いた。
カビ臭い部屋には、一昔前の装飾品、そしてベッドが置いてあった。
ベッドに倒れ込む。
遥か昔。
夜の街、酔っ払いの私を何度も迎えに来てくれた。
恐怖の夜、遥か向こうにいた私を探し迎えに来てくれた。
もう迎えには来てくれない彼。
綺麗に整えられたホテルに佇む西条さん。
寂れたホテルに背を向けるなおちゃん。
いつから、どこで、何が変わったのか、わからなかった。
:09/07/25 21:45
:W65T
:tBOBuo2E
#120 [あき]
脱ぐ気力も体力も失ったスーツのポケットで、携帯が震える。
画面を見ると、名前が表記されていた。
―
『はいっ』
《お疲れ様です。無事に家につきましたか?》
電話を通して聞く声は、今の私には、罪だ。
それでも、明るく笑いながら、今の状況を伝える私に、西条さんは、そうだったのと、苦笑いをしながら、自分も今帰ってきたよと、あの優しい、なまりのある声で、そう言った。
:09/07/25 21:53
:W65T
:tBOBuo2E
#121 [あき]
お疲れ様から始まった電話は、この一週間の話になり、互いを労い、互いを認め合い、そして笑い合った。
《またこっちに来る時は教えて。飯でも奢るよ!》
『わかりましたっ〃ま…当分はないと思いますけどねっ〃』
《はははっ〃了解。じゃ、おやすみ》
『おやすみなさい』
そう言って電話を切った時、一時間が過ぎていた。既に時刻は、深夜を通り過ぎて、、深く深く街も人も眠りについている時間。
物音ひとつしない静寂。
私は、また一人になった…
:09/07/25 22:02
:W65T
:tBOBuo2E
#122 [あき]
携帯電話をテーブルに置いて、カビ臭い小さな浴室でシャワーを浴びた。
濡れた髪もそのままに、またベッドに倒れ込む。
倒れ込んだ先に手に取った、もうひとつの携帯電話。お気に入り待ち受け画面が記されているままだ。その携帯をベッドに放り投げて何かを諦める。
こんな夜をもう何日繰り返したんだろうか。
なのに、人間は、どんなに闇に包まれいても、お腹も減るし眠くもなる。
生きている以上、仕方ないのだけれど。
もう疲れた。
このまま朝になんて、こなきゃいいのに…
私は、またそう思いながら、また明日を迎える為に、今日を終わらすのだ。
自然と重くなる目と、体をベッドに任せた。
:09/07/25 22:31
:W65T
:tBOBuo2E
#123 [あき]
体が夢心地になり出した頃。頭の上で携帯電話が鳴った。手を伸ばし、眩しい画面を見つめる。
【どうにかなったのか?歩いてるとか言うなよな。馬鹿。】
愛想も何もない嫌みの文字に、もう遅いよなんて、思ったのに…
【馬鹿とはなんだ。どうにもならなかったから、近くのホテルに泊まったしっ。】
少し嬉しかった。
:09/07/25 23:21
:W65T
:tBOBuo2E
#124 [あき]
《あの時、迎えに来てくれなかったじゃん!!》
《迎えに来て欲しいなら、そう言え。》
《タクシー呼べばって言ったのは誰?》
《あれは、アドバイスだ。》
《あれは、迎えに来てって言ってるもんでしょぉ?》
《めんどくせ。どうにかするって言ったろうが》
《そこは空気読んでよっ!まっ言ったからって来ないでしょうがねっ。》
《俺は、どうにもならんな、行ってやるつもりでしたけど?》
:09/07/25 23:34
:W65T
:tBOBuo2E
#125 [あき]
あれから数日後。
ふとした電話でこう会話した。
なんだ‥
変わってないじゃん。
ただ私達には言葉が足りないだけなんだ。
私達、まだ、こんなにも楽しく話せるんじゃん。
普通に話せるんじゃん。
変わってないよね。
私達…
なのに、この寂しさはなんだろう。
そっか。
長く居すぎて。
私達、もっと必要な、大切な何かを失ってるんだ…
そう気付いた。
:09/07/25 23:42
:W65T
:tBOBuo2E
#126 [あき]
いつしか私達は、何も語らなくなったし、何も言わなくなった。
言葉を交わさなくても、何が言いたいのかを理解できるし、時間を重ねなくても、傍にいると思えていた。
それは、私達が、出会ったあの頃から。
再開したあの日から。
重ねた時間や、重ねた言葉が、歩いた道が、そうさせたに違いない。
あの頃みたいに、だらだらと電波を駆使して時間を重ねなくても
あの頃みたいに、長々と時間を重ねなくても。
私達は何かを共有していた。
それで満足していたんだ。
:09/07/26 01:48
:W65T
:G/V7tpkE
#127 [あき]
だけど、本当は、それじゃダメなんだ。
きちんと言葉を交わさないと、自分の思いは伝わらないんだ。
相手の思いも伝わらないんだ。
きちんと時間を共有していないと、自分の気持ちは確かめられないんだ。
相手の気持ちもわからないんだ。
そっか。
私達。そういや
たった一言。
好きって言葉すら
言えてないね。
心だけじゃ…
不安だよ。
:09/07/26 01:59
:W65T
:G/V7tpkE
#128 [あき]
あの出張から、時間が経った。
私は、毎日を仕事に追われ、早朝から深夜まで、仮面を付けた日々。
ただ、唯一違う事が起きた。
西条さん。
あの日から、彼が毎夜、私の携帯電話を鳴らす。
お疲れ様から始まって、1日の報告を費やし、おやすみなさいで締めくくる。
その時間が、毎夜毎夜続く。
いつしか
彼は、遠方にいる知人。
私の中で、そう位置付いていった。
:09/07/26 02:07
:W65T
:G/V7tpkE
#129 [あき]
その夜、また彼からの電話。私は帰宅して、ソファーに体を投げ出したところ。
―ピッ
『はいはーいっ』
《おーっ。お疲れい》
『お疲れ様ですっ。』
また何気ない会話。
私は、ジャケットを脱ぐと、煙草に火をつけながら、彼の声を聞いた。
《なに?今帰ってきたの?》
『うん。疲れたしっ』
彼の方言にも、もう幾分か慣れた。(※文章では標準語ですが、彼は方言なまりで話ます。)
:09/07/26 02:13
:W65T
:G/V7tpkE
#130 [あき]
『西条さんは?』
《俺は今から帰るんだよね。》
だいたい彼は、会社から帰宅道中に、私の携帯を鳴らす。それから約一時間の道のりを、私達は共有するのだ。そして、彼が無事に帰宅する頃、私の睡魔は限界に近づいて、じゃぁまたと終了する。
そんな毎日だった。
:09/07/26 02:24
:W65T
:G/V7tpkE
#131 [あき]
彼の言葉を聞きながら、今夜も、そろそろ私の睡魔も、限界だと思った頃。
私の瞳孔がかっぽ開く言葉が、飛び込んできた。
《俺の事、どう思ってる?》
『どうって?何んですかっ〃きゅうにっ。』
笑って流す私に
彼は静かに、言った。
《…彼女になってくれる?》
それは突然の―告白―だった。
:09/07/26 02:33
:W65T
:G/V7tpkE
#132 [あき]
『なっ…何言ってるんですかっ!〃』
突然の出来事に、私は笑った。
いや、正確に言うと、とっさに、私でいる為の防御策。笑う。しか出来ないでいたのだ。
本当は、バクンと音が鳴って、ぎゅっと胸が掴まれて。、毛穴という毛穴がかっぽ開いて、その穴から妙な汗が吹き出していた。
《俺、結構真剣なんだけどっ…。君の気持ちを聞かせて欲しいな。》
そう、彼は私にトドメを刺した。
:09/07/26 02:57
:W65T
:G/V7tpkE
#133 [あき]
『はっ…鼻水出たっ!〃』
突然の告白に、なんとも色気のない返事をしてしまう。
仕方ない。
本当に、あまりの事に、鼻水が吹き出たのは事実で、冷静さを失った私は、ばか素直に、その現状を伝えてしまったのだ。
そんな私の答えに、彼は、きたねーと、笑っていた。
『何を突然言い出すかと思ったらっ〃もうっ!そりゃ吹き出ますよっ!!〃』
:09/07/26 03:03
:W65T
:G/V7tpkE
#134 [あき]
《でも、俺、そうゆう飾らない君が好きなんだよね〃。彼女なる?》
『いやいや…〃話飛びすぎでしょ…』
《そう?》
もう。
勘弁して下さい。
西条 祐介。
新人種だ。
イケイケオラオラなんですね…
私、鼻水どころか
脇汗が止まりませぬ…
:09/07/26 03:12
:W65T
:G/V7tpkE
#135 [あき]
やはり、女の涙は武器なのかもしれない。
ただ、私は見せる相手を間違った事も明確だった。
彼は、言った。
あの夜、泣いてる私に何もしてあげられなかった事が、悔しかった。
間違いなく男で泣いてるんであろう君を守ってやりたいと思った。
笑う昼の私と
泣いてる夜の私
頭から、離れなくなったと−…
そう言った。
:09/07/26 03:30
:W65T
:G/V7tpkE
#136 [あき]
『そんな事言われても…』
《わかってる。だから最終日、駅に消えて行く君を見送りながら、忘れようと思った。一週間の思い出だと言い聞かせて君を見送った。 だけど、君はいた。とっくに帰ったと思ったハズの君が…いたんだよなぁ。なんか、そしたら、もう止められなくってさっ…そして、君は笑ってくれた。》
あの時、私は、彼の想いに微笑んだんだ。
彼のあの勇気に、私は微笑んだ…彼にとっては、それが全てだった。
:09/07/26 03:48
:W65T
:G/V7tpkE
#137 [あき]
《君の気持ちを知りたい。俺は泣かさないよ。》
優しさ溢れる声で、そう言った西条さん。
嬉しかった。
素直に嬉しいと思えた。
『うん…。嬉しいです。ありがとう…でも…』
私、好きな人がいるんです。その、私を泣かせる男が好きなんです。
だから…貴方の事は…
《好きにはなれん?》
私の心を察したように、呟いた、彼のその言葉にはたと気付く。
:09/07/26 04:28
:W65T
:G/V7tpkE
#138 [あき]
好きな人…
好きな…
好き………?
好きってなんだろ。
『…わかりません。』
私は彼の言葉に小さくそう答えた。
誰かが誰かを好きだと思うその気持ちが。
好きって気持ちが
好きって言葉が。
わからなかった。
:09/07/26 04:42
:W65T
:G/V7tpkE
#139 [あき]
わからないという言葉は、時に、とても便利だけど、使い方によっては、とても傷付ける言葉だった。
《わからない…か…〃》
私の言葉に、寂しそうに呟く西条さん。
それにさえ、私は何も返せなかった。
本当にわからない。
『好きって何ですか…?どんな気持ちが、好きって事なんですか…』
私がやっと出た言葉は、彼にとっては、意味のわからない返事だけだった。
:09/07/27 19:58
:W65T
:LBoOeDds
#140 [あき]
《それは、オレにもわかんないなぁ〃…好きって気持ちは、考えて出る言葉じゃないからさ。》
正論だと思う。
でも、私には、やっぱりわからない。
いや、だからこそ、わからなくなったのかもしれない。
『でも、西条さんは、私を好きって思ったんですよね?何を基準に判断したんですか?好きって気持ちは、どんな事ですか?何をもって、好きって事になるんですか?…私にはそれが、わからないんです…好きって何ですか…』
それでも言葉は止められなかった。
:09/07/27 20:14
:W65T
:LBoOeDds
#141 [あき]
《なぁ…どうしたんだよ?君を苦しめる、何があるの?》
食ってかかるように、言葉を吐き捨てる私に、彼はそう言った。
『…ごめんなさい…本当に、それすら、わからないんです…』
今にも泣き出しそうな私に、彼は、優しく言った。
《…好きって気持ちは、考えて出るようなものじゃない。自分に向き合えば、出てくる気持ちだよ。俺の気持ちは伝えたから。後は君次第。》
そして、おやすみと言って電話を切った。
:09/07/27 20:31
:W65T
:LBoOeDds
#142 [あき]
その夜は、梅雨がもうすぐ始まると知らせる程の、蒸し暑く、どんよりとした空だった。
チクチクする頭痛で薬を飲んだ。
窓を開けると、なまるぬるい風がふわりとカーテンを揺らす。
就寝前の煙草に火をつけて、外に向けて吹きかける。白い煙は、暗闇にふわりと馴染んですぐ消えた。
運悪く、ポツリポツリと雨が落ちてくる。
やはり、明日は頭痛が激しいな。そう考えた。
《自分に向き合えば…》
頭をガンガンと締め付けて、眠れそうになかった。
:09/07/27 20:55
:W65T
:LBoOeDds
#143 [あき]
翌朝、案の定外は雨だった。朝一番のニュースでアイドル化したお天気お姉さんが、今日1日雨模様だと、いかにも、用意されたピンクの傘をさしながら言った。チャンネルを変えると、今度は、タレント化したアナウンサーが、梅雨対策グッツをにこにこと紹介していた。
リモコンをテーブルに置くと、くだらない番組に、飽き飽きしながら、特殊メイクを施す。睡眠不足がリアルに肌に出てくる年頃だと痛感した。
天気が悪い日は、頭痛が激しい。カフェインは頭痛を刺激すると聞いた。
甘ったるいカフェオレをぐびりと飲み干した。
:09/07/27 21:25
:W65T
:LBoOeDds
#144 [あき]
自動扉を抜けて、カウンターに座る綺麗なお姉さんに、おはようと、挨拶をした。そのまま、カウンター横の、真新しいドアを開ける。おはようと声をかけると先に出社してる仲間が、朝の準備に忙しそうだ。まだまだ馴れない真新しい匂いに鼻先に残しながら、事務所奥、隠れ階段から二階へ上がる。
与えられた小さなロッカールームに入ると、誰かが消し忘れた早すぎる冷房が、雨に濡れた私をヒヤリとさせた。
自分の名前の前に立ち、扉を開くと、小さなスペースに、与えられた制服。与えられた名札がしまい込まれている。
私はさっと着替えて、名札を首からかけた。
朝からつきたくないものだけれど…
やっぱり溜め息が漏れた。
:09/07/27 21:45
:W65T
:LBoOeDds
#145 [あき]
私は、この場所は苦手だ。
ここは、せわしなく電話が鳴り、パソコンの機械的な音と、睨まれるように、いつも上司の視線を感じる。ただ、この箱の中で、自分に与えられた書類をミスのないように、淡々とこなしながら、淡々と時間だけが流れていくだけ。
小さな名札を自前のスーツに付けて、私を必要としてくれる人の元へ駆けつけて、私らしくサポートしてあげる。
私が小さな時に憧れ、そして掴んだ、大好きだった場所。そこに立つ事は、ほぼなかった。
大きな箱の中にある小さなスペースで、サポートする人達をサポートする。
今、これが私に与えられた仕事だった。
:09/07/27 22:08
:W65T
:LBoOeDds
#146 [あき]
もう、私が、現場に立ってた事すら知らない子達が、現場の書類を持って元気良く外に飛び出す姿を見送る事にも慣れた。
いつまでも現場主義を貫く先輩の背中を見つめる事もやめた。
そして、私は、与えられた名札に連なる、妙な資格と、妙な肩書き。
それをブラブラと首からひっかけて…
ただ、毎日を過ごしていた。
新人時代から、私を影で支えてくれた、上司ぬらりは、私が部署が変わっても、いつも気にかけてくれた。私にとっては、いつまでも上司だった彼は、この春、定年退職をした。
苦楽を共にした、同期のさえちゃんは、恋を貫き通し、数ヶ月前に、寿退社をした。
私はこの場所で一人ぽっちになった…
:09/07/27 22:17
:W65T
:LBoOeDds
#147 [あき]
一人ぽっち…
かつて笑い合った仲間は、半分は辞めて、半分は生き残った。
だけど、生き残った、かつての仲間とは、もう会話もしない。部署が違えど、同じ社内。もちろん、いくらでも会う訳で。
正確に言うと…
元気?最近どう?
なんて、上辺の笑顔で、当たり障りのない会話をそつなく話すだけ。
もう、昔のように、飲みに行く事もなくなった。
初めは、寂しかった。
悲しかった。
どうしてと悩んだ。
だけど、気付いた。
無理もない。
右も左もわからない下っ端ぺーぺー新人だった私が、あれよあれよ、上へ上へと登り、今では、冷暖房完備の箱でちょこんと座って、かつての仲間に、ああしろ、こおしろと、言ってるんだから。
女の世界。
みんなが、みんな、素直に受け入れる訳はない。
:09/07/27 22:33
:W65T
:LBoOeDds
#148 [あき]
正確に言うと…
元気?最近どう?
なんて、上辺の笑顔で、当たり障りのない会話をそつなく話すだけ。
もう、昔のように、飲みに行く事もなくなった。
初めは、寂しかった。
悲しかった。
どうしてと悩んだ。
だけど知った。
右も左もわからない下っ端ぺーぺー新人だった私が、あれよあれよ、上へ上へと登り、今では、冷暖房完備の箱でちょこんと座って、かつての仲間に、ああしろ、こおしろと、言ってるんだから。
女の世界。
みんなが、みんな、素直に受け入れる訳はない。
:09/07/27 22:35
:W65T
:LBoOeDds
#149 [あき]
《あきは上司に気にいられてるからね〜〃》
《うまく取り入ったよね〜〃》
《あきが言えば、上司もうんって言うんじゃない?〃》
そう言われた時に、初めて知った。
ああ。そっか…
そうゆう事か…。
私は、ただ毎日を仕事に夢中になっただけ。
促されるまま、試験を受けただけ。
似合う部署に移動を命じられ、似合う仕事を命じられただけ。
こんな立場が欲しいなら、すぐにくれてやるっ!!
私は現場に戻りたいっ!!
言われる度に、あはは、まさかと、笑いながら、血が止まるかと思った程に、拳を握り締めた。
:09/07/27 22:48
:W65T
:LBoOeDds
#150 [あき]
ただひとり、新人時代から、公私共に面倒見てくれる、先輩だけが、そんな噂や、声に、悔し涙を流す私を、優しく抱き締めて、期にしない。辞めんじゃないよ。と声をかけ続けてくれた。現場に戻りたいと泣いた夜も、彼女は、せっかくの期待を裏切るなと言った。
彼女は、いつまでも
出来損ないの可愛い教え子。
でいさせてくれた。
彼女がいるから、私は、続けられているもんな様だ。
まぁ、そんな話はさて置き、私は、寝不足に加えて、昨夜の衝撃、馴れない仕事に、その日、溜め息だらけだった。
:09/07/27 22:58
:W65T
:LBoOeDds
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