微妙な10センチ。〜最終〜
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#141 [あき]
《なぁ…どうしたんだよ?君を苦しめる、何があるの?》

食ってかかるように、言葉を吐き捨てる私に、彼はそう言った。

『…ごめんなさい…本当に、それすら、わからないんです…』

今にも泣き出しそうな私に、彼は、優しく言った。

《…好きって気持ちは、考えて出るようなものじゃない。自分に向き合えば、出てくる気持ちだよ。俺の気持ちは伝えたから。後は君次第。》

そして、おやすみと言って電話を切った。

⏰:09/07/27 20:31 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#142 [あき]
その夜は、梅雨がもうすぐ始まると知らせる程の、蒸し暑く、どんよりとした空だった。
チクチクする頭痛で薬を飲んだ。
窓を開けると、なまるぬるい風がふわりとカーテンを揺らす。
就寝前の煙草に火をつけて、外に向けて吹きかける。白い煙は、暗闇にふわりと馴染んですぐ消えた。
運悪く、ポツリポツリと雨が落ちてくる。
やはり、明日は頭痛が激しいな。そう考えた。

《自分に向き合えば…》
頭をガンガンと締め付けて、眠れそうになかった。

⏰:09/07/27 20:55 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#143 [あき]
翌朝、案の定外は雨だった。朝一番のニュースでアイドル化したお天気お姉さんが、今日1日雨模様だと、いかにも、用意されたピンクの傘をさしながら言った。チャンネルを変えると、今度は、タレント化したアナウンサーが、梅雨対策グッツをにこにこと紹介していた。
リモコンをテーブルに置くと、くだらない番組に、飽き飽きしながら、特殊メイクを施す。睡眠不足がリアルに肌に出てくる年頃だと痛感した。
天気が悪い日は、頭痛が激しい。カフェインは頭痛を刺激すると聞いた。
甘ったるいカフェオレをぐびりと飲み干した。

⏰:09/07/27 21:25 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#144 [あき]
自動扉を抜けて、カウンターに座る綺麗なお姉さんに、おはようと、挨拶をした。そのまま、カウンター横の、真新しいドアを開ける。おはようと声をかけると先に出社してる仲間が、朝の準備に忙しそうだ。まだまだ馴れない真新しい匂いに鼻先に残しながら、事務所奥、隠れ階段から二階へ上がる。
与えられた小さなロッカールームに入ると、誰かが消し忘れた早すぎる冷房が、雨に濡れた私をヒヤリとさせた。
自分の名前の前に立ち、扉を開くと、小さなスペースに、与えられた制服。与えられた名札がしまい込まれている。
私はさっと着替えて、名札を首からかけた。
朝からつきたくないものだけれど…
やっぱり溜め息が漏れた。

⏰:09/07/27 21:45 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#145 [あき]
私は、この場所は苦手だ。
ここは、せわしなく電話が鳴り、パソコンの機械的な音と、睨まれるように、いつも上司の視線を感じる。ただ、この箱の中で、自分に与えられた書類をミスのないように、淡々とこなしながら、淡々と時間だけが流れていくだけ。
小さな名札を自前のスーツに付けて、私を必要としてくれる人の元へ駆けつけて、私らしくサポートしてあげる。
私が小さな時に憧れ、そして掴んだ、大好きだった場所。そこに立つ事は、ほぼなかった。
大きな箱の中にある小さなスペースで、サポートする人達をサポートする。
今、これが私に与えられた仕事だった。

⏰:09/07/27 22:08 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#146 [あき]
もう、私が、現場に立ってた事すら知らない子達が、現場の書類を持って元気良く外に飛び出す姿を見送る事にも慣れた。
いつまでも現場主義を貫く先輩の背中を見つめる事もやめた。
そして、私は、与えられた名札に連なる、妙な資格と、妙な肩書き。
それをブラブラと首からひっかけて…
ただ、毎日を過ごしていた。
新人時代から、私を影で支えてくれた、上司ぬらりは、私が部署が変わっても、いつも気にかけてくれた。私にとっては、いつまでも上司だった彼は、この春、定年退職をした。
苦楽を共にした、同期のさえちゃんは、恋を貫き通し、数ヶ月前に、寿退社をした。
私はこの場所で一人ぽっちになった…

⏰:09/07/27 22:17 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#147 [あき]
一人ぽっち…
かつて笑い合った仲間は、半分は辞めて、半分は生き残った。
だけど、生き残った、かつての仲間とは、もう会話もしない。部署が違えど、同じ社内。もちろん、いくらでも会う訳で。
正確に言うと…
元気?最近どう?
なんて、上辺の笑顔で、当たり障りのない会話をそつなく話すだけ。
もう、昔のように、飲みに行く事もなくなった。
初めは、寂しかった。
悲しかった。
どうしてと悩んだ。
だけど、気付いた。
無理もない。
右も左もわからない下っ端ぺーぺー新人だった私が、あれよあれよ、上へ上へと登り、今では、冷暖房完備の箱でちょこんと座って、かつての仲間に、ああしろ、こおしろと、言ってるんだから。
女の世界。
みんなが、みんな、素直に受け入れる訳はない。

⏰:09/07/27 22:33 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#148 [あき]
正確に言うと…
元気?最近どう?
なんて、上辺の笑顔で、当たり障りのない会話をそつなく話すだけ。
もう、昔のように、飲みに行く事もなくなった。
初めは、寂しかった。
悲しかった。
どうしてと悩んだ。
だけど知った。
右も左もわからない下っ端ぺーぺー新人だった私が、あれよあれよ、上へ上へと登り、今では、冷暖房完備の箱でちょこんと座って、かつての仲間に、ああしろ、こおしろと、言ってるんだから。
女の世界。
みんなが、みんな、素直に受け入れる訳はない。

⏰:09/07/27 22:35 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#149 [あき]
《あきは上司に気にいられてるからね〜〃》

《うまく取り入ったよね〜〃》

《あきが言えば、上司もうんって言うんじゃない?〃》

そう言われた時に、初めて知った。

ああ。そっか…
そうゆう事か…。

私は、ただ毎日を仕事に夢中になっただけ。
促されるまま、試験を受けただけ。
似合う部署に移動を命じられ、似合う仕事を命じられただけ。
こんな立場が欲しいなら、すぐにくれてやるっ!!
私は現場に戻りたいっ!!

言われる度に、あはは、まさかと、笑いながら、血が止まるかと思った程に、拳を握り締めた。

⏰:09/07/27 22:48 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


#150 [あき]
ただひとり、新人時代から、公私共に面倒見てくれる、先輩だけが、そんな噂や、声に、悔し涙を流す私を、優しく抱き締めて、期にしない。辞めんじゃないよ。と声をかけ続けてくれた。現場に戻りたいと泣いた夜も、彼女は、せっかくの期待を裏切るなと言った。

彼女は、いつまでも
出来損ないの可愛い教え子。
でいさせてくれた。
彼女がいるから、私は、続けられているもんな様だ。
まぁ、そんな話はさて置き、私は、寝不足に加えて、昨夜の衝撃、馴れない仕事に、その日、溜め息だらけだった。

⏰:09/07/27 22:58 📱:W65T 🆔:LBoOeDds


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