微妙な10センチ。〜最終〜
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#360 [あき]
『何?どしたっ…?』

案の定、さえちゃんは、綺麗なハンカチをバックにしまうと、私の顔を覗き込む。

『何がっ?〃何でもないよっ〃』

私は、笑って答える。
だけど、自分自身、もう、指が、せわしなくトントンとテーブルを叩いている事にも、気分が煙草を吸いたくてソワソワしている事にも気づいていた。

『そろそろ、出ようかっ〃?』

さえちゃんが、そう言ってくれる。私は、何事もないように、そうだねと微笑み、席を立った。
次、どこ行こうかなんて話をしながら、さえちゃんと打ち合わせ。
その間も、ずっとバックの中で振るえ続ける携帯電話を無視し続けていた。

⏰:09/08/26 00:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#361 [あき]
互いの愛車に乗り込んで、さえちゃんの愛車が、カフェの駐車場をスルリと抜け出し、大通りに向かう。数台後ろを、私が追うように車を動した。大通りの信号、スルリとさえちゃんの車は直進して行った。私の前で、信号は赤に変わる。どんどんと前へ進む彼女の愛車を見送りながら、ハンドルを握り溜め息をついた。携帯電話をバックから取り出した。
−不在着信−
ピカピカとランプが点滅していた。見なくても相手が誰かわかる。片手で画面を操作してみて、着信履歴を確認する。今朝、掛かってきたさえちゃんからの着信履歴はすっかり消えていた。
仕方がないので、発信履歴から、さえちゃんの名前を探した。

⏰:09/08/26 14:01 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#362 [あき]
場所はわかるから、気にせず先に向かってと、さえちゃんに伝えると、すぐに電話を切った。
すると、待ってたかのようにまた携帯電話が震える。
しばらく見つめて、諦める様子のない着信に、私が諦める。
−ピッ。
『…はいっ。』

《…どうして電話出ない?》

不機嫌を露わにして彼は言った。

『…ごめんなさい。マナーモードにしてたから。気付かなかった。』

これは、ありきたりな理由で
最近、彼によく使う言い訳。
とっさについた嘘。

⏰:09/08/26 14:28 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#363 [あき]
《どうしてマナーにする必要がある?》

『…カフェだしっ。友達と会ってるから…』

《だったら、まずそう言えよ。こっちは心配するだろ?》

『…ごめんなさい…』

本当は、言いたい事は、山ほどある。だけど、自分の気持ちを押し殺した。彼が、こうなったら私は何も言わさせてもらえない。
ただ [ごめんなさい] この六文字しか受付けてはもらえないのだ。それが、わかるから、この場を終焉にする為には私は全てを飲み込むのだ。
運転中だからと電話を切った。

どんよりとした空から、ポツポツと雨が降り出した。

⏰:09/08/26 14:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#364 [あき]
目的地に着いた時には、しとしと降りしきる雨となっていて、私は、濡れないように、玄関へと走った。

『お邪魔しまーすっ。』

勝手知ったる他人の家。
二人が付き合いだした頃から、この家には、よく遊びに来た。
洋風な建物に真っ白な壁。
外観には似合わず、殺伐とした部屋は、彼女が出入りをするようになって、見る見る変わった。玄関を開けると、エプロン姿のさえちゃんが、降ってきたねぇ!と笑顔で出てきた。

『やだよねーっ。』

『食べてくでしょ?彼も、あきが来るって連絡したら喜んでたよーっ!!早く帰って来るって〃』

『うんっ。〃』

⏰:09/08/26 15:04 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#365 [あき]
エプロン姿のさえちゃんは、とても綺麗だった。
本当に幸せそうだった。
そんな彼女の横に立っていると、私まで幸せな気分になれる。
そしてまた
心底、羨ましいと思えた。

私も幸せになりたい。

より一層、強く思った。
強く強く。自分もこうなりたい。そう願った−…

今思えば、この頃から、私自身が壊れていって。
大切なものを失い始めていて。

もうどうしようもなくなった
未来(今)の私がいる。

⏰:09/08/26 15:36 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#366 [あき]
久しぶりの再会は、時間を忘れて真夜中まで盛り上がる。
時刻は日付も変わり、テーブルの上には、いくつもの缶ビールが転がり、いくつものお菓子の袋が開いて、ウーロン茶の雫がテーブルを濡らしていた。
一人はソファーで地響きを奏でながら、完全に伸びている。

『…寝ちゃたねっ〃』

『うんっ。まっ…楽しかったんでしょっ〃』

さえちゃんは、聖母のような微笑みで、淡い色の大きなブランケットを彼にフワリとかけた。彼の寝顔にクスリと笑うと、ポンポンとお腹を叩いた。

⏰:09/08/26 15:47 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#367 [あき]
二人でテーブルを片付け、静かな時間が流れる。
私は換気扇の下、カチリと火をつけた。フワリと煙が換気扇に吸い込まれていく。
ふと、リビングを見ると、さえちゃんは、彼に寄り添うように、ソファーにもたれて、テレビを見ながら温かい紅茶を飲んでいた。
『さえちゃん……』

『んー?』

彼女は、テレビから私に視線をくれる。

『……今幸せ…?』

私の全てを吸い込んでいく換気扇の下、煙草の火が、灰皿に落ちた。

⏰:09/08/26 15:56 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#368 [あき]
彼女は、照れた様に微笑んだ。

『そだね…〃』

とても静かな時間だった。
じわりと胸が熱くなった。

『そっか…〃いいな…』

そう呟いた私に、彼女は、すっくと立ち上がり、私の傍へと歩み寄る。
慌てて、煙草を消して、換気扇を強にする。
こっち来たらダメだよと笑う私に、じゃここからねと言って、キッチンの入り口に立った。
彼女の目は真剣で、私は、ドキンとした。

⏰:09/08/26 16:03 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#369 [あき]
『…あきは?幸せ?』

そう問う目を、私は直視できない。

『……ま…ね…』

ハハハと笑い、煙草をポケットにしまうと、彼女の横をすり抜けるように、キッチンを出た。
そんな私の背中に彼女は言った。

『ねぇ、その恋は、楽しい?』


どくんと胸が鳴った。
リビングに抜けようとした足が一瞬止まる。止まったけれど、後ろを振り返れなかったー…

⏰:09/08/26 16:09 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


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