虹色のオセロ
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#600 [ゆーちん]
「おい、泣くな」

「あのさ…笑うなよ?」

「おう」

「俺の子供じゃないんだって」


落胆した。

私も泣きたくなった。

そんな展開、誰も望んでないよ。


「何…で、だよ」

仁士もひどく動揺していた。


「すみれちゃんがそう言うんだから、そうなんだよ。それに、日数も合わない」

⏰:09/05/09 13:01 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#601 [ゆーちん]
「他に男がいた、って事?」

「…らしいね」

「何だよそれ…」

ため息しか出なかった。

栄之助を今すぐ抱き締めてあげたくなった。


「仁士、ごめん」

我慢できなかった。

気付いた時にはペラペラと口が動いてた。

⏰:09/05/09 13:02 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#602 [ゆーちん]
「栄之助、私だよ。聞こえる?」

「…え、ママ?なんで?」

「ごめんね。仁士の事、責めないであげて。私が無理矢理盗み聞きしてたの」

「アハッ…そっか」


泣きながら笑う栄之助が、フッと脳裏をよぎる。


「栄之助、私…あんたに何て言ったらいいか」

⏰:09/05/09 13:02 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#603 [ゆーちん]
「何も言わなくていいよ。それより、いま二人は柴田家?」

「そうだけど」

「俺も行っていい?一人でいると虚しいんだ。ママと仁士の前でバカみたいに泣きたい気分」


鼻をすすりながら精一杯明るい声を出す栄之助。

⏰:09/05/09 13:03 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#604 [ゆーちん]
「おいで。仁士と待ってるから」

「うん」


電話を切ると、仁士は眉を下げながら私に笑いかけた。


「俺と栄之助の友情が崩れたら、どう責任取ってくれんの?」

「…ごめんなさい。いてもたってもいられない状態になりまして」

⏰:09/05/09 13:03 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#605 [ゆーちん]
仁士は優しく笑いながら
「いいママじゃん」
と言って私の頭をポンッと叩いた。

その手はそのままレオに行き、栄之助が来るまでの数分間、仁士はレオと、私は一人で過ごした。

私と仁士の間に、会話がなかった。

お互い、考え事をしていたからだと思う。

⏰:09/05/09 13:04 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#606 [ゆーちん]
インターホンが鳴るなり、私はドアを開けて、目が潤んでいた栄之助を抱き締めた。


「はいはい、中でやれよ」

仁士は、私と栄之助が抱き締め合ってるのを見て呆れながら笑ってた。

⏰:09/05/09 13:05 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#607 [ゆーちん]
ドアを閉めて中に入る。

私は、栄之助を抱き締めながら泣いていた。

この私が泣いていたんだよ?

生徒に興味のない私が、生徒の悲しい事実を知って、涙を流す。

私、変わっちゃったね。

⏰:09/05/09 13:06 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#608 [ゆーちん]
「ママが叱ってくれたから、俺、納得するまですみれちゃんに説得したんだ。ウザがられても容赦なく」

「うん」

「そしたら、すみれちゃんため息吐きながら言ったんだ。栄之助の子供じゃない、って」

「…うん」

「舞い上がりすぎて、すみれちゃんと最後にそういう事した日忘れててさ。よく思い出したら日数が全然合わなくて。間違いなく俺の子供じゃないんだ」

⏰:09/05/09 13:06 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#609 [ゆーちん]
「うん」

「でも赤ちゃん殺すなんて可哀想じゃん。だから俺の子供じゃなくてもいいからって言ったんだけど…ダメだった。昨日、勝手に手術してて…俺、もう訳わかんなくて」

「あんた偉いね。ママの誇りだよ」

「日曜から水曜まで粘って、木曜に赤ちゃんいなくなって…そんで今日。学校行く気にもなんなくて放心状態の俺にすみれちゃんから別れを告げられ…みたいな?笑っちゃうよね」

⏰:09/05/09 13:07 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#610 [ゆーちん]
栄之助は泣きながら無理矢理笑顔を作ってた。

私は子供みたいに栄之助の手を握りながら泣いた。

仁士は何も言わず、ただ黙ってレオを抱っこしていた。


「笑わないよ。小さな命を守ろうとしたあんたを笑う奴がいるなら私がそいつ、ぶん殴る」

⏰:09/05/09 13:07 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#611 [ゆーちん]
「怖っ」

泣き笑いする栄之助。


「栄之助、よく頑張ったね。あんたならまた素敵な女の子に出会って、小さな命にも出会えて、幸せになれるよ」

「…だといいね」

⏰:09/05/09 13:08 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#612 [ゆーちん]
泣き疲れているのと、一人になるのが嫌な栄之助をベッドに寝かせてあげた。


今夜だけはママに甘えて眠れ、っていうサービスだよ。

って言っても、もう栄之助は夢の中なんだけどね。

⏰:09/05/09 13:09 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#613 [ゆーちん]
「七海、俺帰るよ」

「あ、うん。今日はありがとね」

「どういたしまして」

「盗み聞きバラしてごめんね」

「いいって。そんな事でいちいち怒る奴じゃないから、栄之助は」

「…うん」

「それより、見直したよ七海の事」

「何が?」

⏰:09/05/09 13:09 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#614 [ゆーちん]
「薄情で感情移入とかしない人なのかと思ってたけど、今日もそうだしこの前の喧嘩の事もそうだし…なんか最近の七海変わったな」

「…そ?」


ちょっと自覚あるんだけどねー。

⏰:09/05/09 13:10 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#615 [ゆーちん]
「そっちの方がモテるよ」

「アハハ、あんたいっつもそれだね。大体モテるったって誰に?あ、保泉にモテるってのは無しだか‥」


ムチウチになるんじゃないかってぐらい、あまりに突然だった。

腕引っ張られて頭だけ残す感じ、わかる?

アレ、なかなか首が痛いもんだね。

⏰:09/05/09 13:10 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#616 [ゆーちん]
あと唇。


いきなり重ねたもんだから、歯が当たってかなり痛かった。


「保泉じゃなくて俺に」


こんな展開も望んで無かったんだけどなー…たぶん。

⏰:09/05/09 13:11 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#617 [ゆーちん]
「キス下手な奴にモテてもな」

案外、冷静でいれた。


「七海が出っ歯だからじゃね?」

「はぁ?違うし」


仁士は笑いながら、ぶつけた唇を指で撫でてくれた。


「そんじゃまた学校でね、先生」

「遅刻しちゃダメよ、委員長」

⏰:09/05/09 13:11 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#618 [ゆーちん]
疑惑のキスだけを残し、仁士は帰ってった。

私、何してんだか。

まさか、あの仁士にキスされるなんて思ってもみなかった。

後々、襲ってくる余韻に頭を悩ませながら栄之助の隣で眠った夜。

全然安眠できなかった。

⏰:09/05/09 13:12 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#619 [ゆーちん]
翌朝。

二人で目を覚まし、ベッドから出る前に栄之助は私にキスをした。


そのキスで、昨日仁士にもキスされた事を思い出した。


「おはよ」

「あ、うん。おはよ」


朝食を済ませ、栄之助は気分転換したいからってレオの散歩に行ってくれた。

⏰:09/05/09 21:55 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#620 [ゆーちん]
待ってる間、何もせずにテレビを見て過ごした。


でもやっぱりテレビの内容なんか頭に入んなくて、キスされた後の仁士の笑顔ばかりがリピート再生されてしまう。


あの勝ち誇ったような笑顔…むかつく。

⏰:09/05/09 21:55 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#621 [ゆーちん]
「ただいま」

「おかえり。散歩ありがとね」


特に何かをする訳でもなく、ぼんやりと過ごした。


あえて、すみれちゃんや赤ちゃんの話は避けて。


でもやっぱちょっとは気になる。

⏰:09/05/09 21:56 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#622 [ゆーちん]
そんな気持ちを感じ取ったのか、栄之助はソファーに寝転がりながら話し始めた。


「すみれちゃんへの未練はね、もうないよ。でも赤ちゃんへの未練…っていうか罪悪感があって。俺の子供じゃないけど可哀想な事したな、って」

⏰:09/05/09 21:56 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#623 [ゆーちん]
「うん」

相づちをうつ事しかできない私に、栄之助は話してくれる。


「昨日たくさん泣いて、ちょっと気持ちラクになったよ。ママと仁士のおかげ。助かった、ありがと」

「ううん。私なんも出来なかったけど」

「抱き締めてくれて嬉しかったよー」

⏰:09/05/09 21:57 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#624 [ゆーちん]
あ、いつものバカ猿スマイルだ。

久しぶりに見たよ、その笑顔。


「ねぇママ」

「ん?」

「ここらが潮時だと思うんだ。色々とけじめ付ける時が来たみたい」

「…何が?」

⏰:09/05/09 21:57 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#625 [ゆーちん]
体を起こし、ソファーに座り直した。


「はっきり言うね」

「…」


何となく、栄之助が今から言う事がわかる。


聞きたいようで聞きたくない。


「俺ママが好きだったよ。女として」

⏰:09/05/09 21:58 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#626 [ゆーちん]
ほらね、こういう話はあんまり聞きたくないもんだよ。


「だからキスしたし、それ以上もした。甘え知らずだったから、その反動でママが欲しいだなんてただの口実」


…私と仁士の予想またまたビンゴ。


「でも栄之助はママとしての柴田七海を選んだじゃん」

⏰:09/05/09 21:58 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#627 [ゆーちん]
「うん。ママの事が好き過ぎて失いたくなかったもん。体の関係なんかいらないから、ずっと俺の近くでいて欲しかった。それくらい好きだったんだよ」

「…女として?」

「たぶん恋愛感情を越えた愛みたいなのがママにはあったんだ。ママは特別な存在だから」

⏰:09/05/09 21:59 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#628 [ゆーちん]
「そんな褒めても何も出ないよ」


栄之助は猿みたいに笑った。

私も、その笑顔好きだったよ。

私だって今思えば栄之助への気持ちは、恋愛感情じゃなく、特別な愛だったのかもしれない。

⏰:09/05/09 22:00 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#629 [ゆーちん]
「ママに俺の気持ちバレた時はマジ耐えられなくてさ。軽蔑されて離れてくんだろなって思ってて、自分から離れてみたけどママは相変わらずですっげぇ嬉しかったよ。
ちょうどその頃すみれちゃんと付き合って…って言っても成り行きだったんだけどね」

⏰:09/05/09 22:01 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#630 [ゆーちん]
「成り行き?」

「酒に酔ってて、知らない内にホテル行っちゃってたんだ。お互いヤッた覚えはないんだけど。
それで、すみれちゃんと色々話してたら、なんか気が合うから付き合っちゃおっか〜ってなって、付き合った」

⏰:09/05/09 22:01 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#631 [ゆーちん]
「じゃああの日更衣室に私が呼び出した時、彼女できたって…」

「そう、すみれちゃん」

「そうだったんだ」

「すみれちゃん、本当に明るくて元気で年上だから安心できる人だったんだ。段々好きになりかけてた。いつの間にかママへの恋愛感情消えて、すみれちゃんに移ってた。でも結果これだもんね」

⏰:09/05/09 22:02 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#632 [ゆーちん]
「また私に戻ってくんの?その恋愛感情ってのは」


ニッと笑った私。

栄之助もニッと笑う。


「自惚れちゃだめだよママ。いつだって自分がモテるみたいな自信、怖いよ?」

「あら、そう」

⏰:09/05/09 22:02 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#633 [ゆーちん]
ふざけあうのはここだけ。


栄之助のニンマリ顔は、スッと消えて、優しい笑顔になる。


「もうママをそんな風には見ないよ」

「…そ」

「それでね、すみれちゃんに気持ち移った時、客観的にママを見てみたんだ」

⏰:09/05/09 22:03 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#634 [ゆーちん]
「何それ」

「そしたらさ…俺わかっちゃったよ」

「何を?」

「ママの気持ち」

「私の?教師やだなーって気持ち?」

「そういうんじゃない。また違う気持ち」

「何?わかんない」

⏰:09/05/09 22:03 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#635 [ゆーちん]
「ママ、素直になりなよ」


素直も何も、私何にも思い当たる気持ちなんか無いよ。


「ん?」

「俺は、はっきりさせたよ?だからママもはっきりさせなきゃ」

「だから何を」

⏰:09/05/09 22:04 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#636 [ゆーちん]
「好きなんでしょ?仁士」

呆れた。

ここまで引っ張ってそれ?

「私が仁士を好き?んなわけないじゃん」

「無意識?」

「いやいや、無意識も何も私、恋なんかしてないし」

「ふーん」

何なのよ、その嫌な笑み。

⏰:09/05/09 22:04 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#637 [ゆーちん]
「まぁ、そう言い切るならそれでいいけど?」

「いい、とかじゃなくて何も無いよ」

「あっそ。まぁいいや。じゃあそろそろ帰るね」


ん〜、後味悪いな。


「あ、月曜はちゃんと登校しなよ」

⏰:09/05/09 22:05 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#638 [ゆーちん]
「わかってるよ、先生」

「…もうママって言わないの?」

「んー、どうだろ?たまに言うかもね。言い慣れちゃったし。でももう柴田七海っていうママから卒業する。甘えたりもしないよ。これからは教師と生徒」

⏰:09/05/09 22:05 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#639 [ゆーちん]
やけに晴れ晴れした顔の栄之助。


「たまには友達しようよ。またレオに会いに来てあげて」

「ママがそう言うなら遊びに来ちゃおっかなー」


好きなんかじゃなかったけど、やっぱママの役目が終わるのって寂しいもんだね。

⏰:09/05/09 22:06 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#640 [ゆーちん]
「全く他人になるのは無理だもん。たまには連絡しなよ。ママ卒業だからって、母校に帰っちゃいけないルールなんて無いから」

「うん、ありがと」


栄之助は玄関で靴を履く。

そしてクルッと振り返り、猿みたいな笑顔を見せながらこう言った。

⏰:09/05/09 22:07 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#641 [ゆーちん]
「大好きだったよ、ママ」


だった。

その過去形が妙に寂しかった。


「最後に、いい?」


私は頷いた。

なんちゃって親子の最後のキスは、そっと触れるだけのキスだった。

⏰:09/05/09 22:07 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#642 [ゆーちん]
もうこれで私と栄之助がキスする事はないんだ。


「それじゃ、バイバイキーン」

「うん、バイバイ」


栄之助がドアを閉めた途端、涙の変わりにため息が出た。

⏰:09/05/09 22:08 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#643 [ゆーちん]
まるで恋人が永遠の別れの前にするキスみたいで、ちょっと切なくなった。

そんな土曜日のお昼前。

モヤモヤ感がうざったくて、買い物に行き、気分を紛れさせた。

夜は友達と飲んで、酔っ払いながら帰宅。

日曜は二日酔いでくたばっていた。

何も考えたくない。

そんな、ちょっぴり暴走ぎみな週末が開け、とうとう月曜日になった。

⏰:09/05/09 22:08 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#644 [ゆーちん]
「おはようございます」

「あっ、おはよう」


あれ?

仁士、超普通じゃん。

避けたりしないの?

気まずくないの?

恥ずかしくないの?

「栄之助来てるよー」

「あぁ、うん。そうだね。よかった」

「何キョドってんの?」


仁士が私の顔を覗き込みながら、笑った。

⏰:09/05/11 13:49 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#645 [ゆーちん]
ドS確定。

絶対わざとだよ。


周りを確認してから、仁士に耳打ちした。


「何でキスなんかしたの」


耳打ちが終わると仁士はまた笑いながら言う。


「え?したっけ?」

⏰:09/05/11 13:50 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#646 [ゆーちん]
じゃあ、何か?


私が欲求不満のあまり幻覚でも見たのかと思わせたいのかい?


んなわけねーだろ。


27歳をからかうんじゃねぇよ!

⏰:09/05/11 13:51 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#647 [ゆーちん]
てゆーか、私も私だよ。

処女じゃないのに、いちいち動揺するなっつーの。

土曜日、栄之助が余計な事言ったせいで変に意識しちゃうじゃんかー!

私がこいつを好き?

ありえないよ!

⏰:09/05/11 13:51 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#648 [ゆーちん]
それからの仁士は、何の変わりも映えもない、いつもながらの仁士。


あのキスは無かった方向で進めるつもりらしいので、私も無かった事にする。


栄之助は、やっぱちょっと変わった。


馴れ馴れしさが無くなった。

⏰:09/05/11 13:52 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#649 [ゆーちん]
屋上でおサボりしてても、もう『ママ』って呼びながら現れる人はいないんだ。


これが普通なのに、違和感だらけでぎこちない。


あんまり居心地がよくなかった。

⏰:09/05/11 13:52 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#650 [ゆーちん]
その週の最後にマラソン大会を開催した。


バレーボール大会の時とは違い、これは予行練習は無しみたいです。


「柴田先生はここに立って、生徒を誘導してやってください」

「はい」

⏰:09/05/11 13:53 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#651 [ゆーちん]
寒い!

じっとしてるだけだから、寒いのなんのって。

サボりたいけど、さすがに今回は無理だ。

誘導係だなんて地味だし寒いから、来年からは違う係になるよう願おう。

⏰:09/05/11 13:54 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#652 [ゆーちん]
先に1〜3年の女子が走る。


「おーい、ななみーん」

「ななみんも走ろ〜」

「ななみん、私もう無理」


みんな私に愛想振りまいてないでしっかり走れ。

すっかり違う学年にまで【ななみん】が浸透していて嬉し恥ずかしだよ。

⏰:09/05/11 13:54 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#653 [ゆーちん]
女子が終わると男子。

先頭集団はだいたいが3年生だけど、私がよく知る2年生もばっちり混ざってた。

さすが猿と委員長。

先頭集団の中でも目立つねぇー。

⏰:09/05/11 13:55 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#654 [ゆーちん]
ふざけながら走ってるのかと思ったら二人は大真面目だった。


私がいた事にも気付いてないんだろうな。


「ななみん助けて」

「俺もうだめ」

「介抱してー」

⏰:09/05/11 13:55 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#655 [ゆーちん]
後半の奴らはこんな調子。

しっかり走れよナマケモノ!

…って、マラソン大会なんか出た事ない私が言うなって?

そりゃ失礼。

⏰:09/05/11 13:56 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#656 [ゆーちん]
そして無事マラソン大会は終了。

学校に戻り、順位を見てみた。

ほぉー、こりゃすごい。

1〜3年共通順位で、栄之助が6位。

仁士は4位だった。

あいつら運動神経よすぎ。

⏰:09/05/11 13:58 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#657 [ゆーちん]
「どう?見直した?」

順位表を見ていた私に後ろから声をかけて来たのは、4位の人。

「んー、微妙。4位だとメダル無いじゃん」

「はぁ?素直におめでとうって言ってくれないんですか?」

「言わなーい」

「モテませんよー」

仁士はそう言って、どっか行っちゃった。

何だ、あれ。

⏰:09/05/11 13:59 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#658 [ゆーちん]
「お、いた。6位」

教室近くの階段に座っていた栄之助。

友達の輪から外れ、私のところに来てくれた。

「凄い?」

「まぁまぁかな」

「いぇーい」

「ちょっと話さない?」

「いいよ」

場所を少し移動した。

生徒のみんなはマラソン大会が終わった達成感でニコニコしている。

私の隣にいるこの子もニコニコしていた。

⏰:09/05/11 14:00 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#659 [ゆーちん]
「春のバレーボール大会でなんとなく運動神経いい奴なのかなとは思ってたけど。6位だなんて大健闘じゃん」

「まぁね〜。運動神経だけが取り柄だし」

「頭も良かったら言う事ないのにねー」


嫌味のつもりが、栄之助は大笑いしだした。

⏰:09/05/11 14:00 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#660 [ゆーちん]
「それって、仁士の事じゃん」

またそれ?


「…だから違うってば」

「頭いいし運動神経もいいし何だかんだ優しい奴だもんな、瀬川仁士って男は」

「あんたさ、やけに私と仁士をくっつけたがってるよね?」

⏰:09/05/11 14:01 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#661 [ゆーちん]
「だってー、両想いなのに強がってる同士なんだもん」

「はぁ?両想いなわけないじゃない」

「ふーん?」


私の事より、栄之助の話をしたくて呼び出したのに。


調子狂うよ。

⏰:09/05/11 14:01 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#662 [ゆーちん]
「あ、そうだ。ママは卒業したんだから、先生かななみんって呼ばなきゃじゃん?どっちがいい?」

「どっちでもいいよ。みんなみたいにななみんって呼べば?」

「でも気に入ってないんでしょ?」

「うん」

「じゃあ俺が新しいあだ名考えたげよっか?」

「ダサかったら殴るからね」

⏰:09/05/11 14:02 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#663 [ゆーちん]
「んー、しばたん」

「…え?」

「柴田に、んを付けてみた」

「付けてみた、じゃねーよ。ダサすぎ」


殴ってやった。


「アハハ、冗談冗談」

「2Cって、ん付けんの流行ってんの?」

「そうなのかな?」

「ダサすぎだから」

⏰:09/05/11 14:03 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#664 [ゆーちん]
「そう?別に普通だよ。ななみんもしばたんも」

「私はヤダけど」


猿は笑った。

その笑顔を見るだけでも、救われた気分になる。

って、自己満足だけどね。

⏰:09/05/11 14:03 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#665 [ゆーちん]
「もう、ななみんでも何でもいいよ。それよりさー」

「ん?」

「元気になって、よかった」


栄之助の笑顔は優しくなる。


「マラソンしてる時にさ、色んなモヤモヤ吹っ飛ばしてやったよ!」

⏰:09/05/11 14:05 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#666 [ゆーちん]
「真面目な顔で走ってたよね。私がどこにいたか知ってる?」

「え、コースのどこかにいたの?」

「やっぱ気付いてなかったか。誘導係で寒い中、つったってたよ」

「そりゃお疲れだ」

「今も寒いね。そろそろ戻ろっか」

⏰:09/05/11 14:05 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#667 [ゆーちん]
立ち上がり、私たちは教室に戻る。


もうすぐ校内放送が入り、表彰式が行われる。


「あ、ねぇ」

「ん?」

「俺もう大丈夫だからね。心配してくれてありがと」

「あぁ…うん」

「完全復活とまでは、まだいかないけど、ちゃんと元気だから」

⏰:09/05/11 14:06 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#668 [ゆーちん]
だったら、よかった。


「俺に世話やいてないで、そろそろ自分の世話しないと」

「だーかーらぁ」

「柴田七海には何度お礼しても、しきれないよ。俺の青春を支えてくれた人として永遠に感謝する」

「何だそれ」

「ありがとう」

⏰:09/05/11 14:06 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#669 [ゆーちん]
栄之助に、ありがとうを言われると苦しくなる。


「それじゃ」

「うん、バイバイ」


栄之助が立ち去ると、タイミングよく仁士が通りかかった。


ある意味、ナイスタイミング。


「また会ったね、4位」

⏰:09/05/11 14:07 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#670 [ゆーちん]
「俺の事ストーカーしてんの?」

「この状況だと、それ私のセリフ。私はここにいて、あんたが通りかかった。あんたが私のストーカーしてんでしょ?」

「んなムキになんなくても」

⏰:09/05/11 14:08 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#671 [ゆーちん]
おっといけない、私としたことが。


栄之助が余計なことをベラベラと吹き込むもんだから、過剰反応になってしまう。


こっちが子供みたいで、なんか悔しい。


「で、結局何してたの?こんなとこで一人寂しく突っ立っててもイケメンは現れないぞー」

⏰:09/05/11 14:08 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#672 [ゆーちん]
「栄之助と話ししてたの」

「あぁ、親子の時間」

「…もう親子ごっこは終わったよ。ママ卒業したんだって。栄之助から聞いてないの?」

「ママ卒業?何それ。聞いてない」

「もうキスもハグもしないんだって」

⏰:09/05/11 14:09 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#673 [ゆーちん]
「ふーん」

「あんたにキスシーンを見られちゃうことも、もう無いってわけ」

「人を覗き魔みたいに言うなよ」

「だって、よく遭遇したし。胸まで見られてるんだよ私」

⏰:09/05/11 14:10 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#674 [ゆーちん]
「好きで見たわけじゃないし。それに‥」

「ペチャパイって言うのは無しだから」


仁士が笑った。

言う気だったのかよ。


そこでちょうど校内放送が入ったので、仁士ともバイバイ。

表彰式は1〜3位までしか対象者じゃないから、仁士も栄之助も興味なさそうに式に出ていた。

⏰:09/05/11 14:10 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#675 [ゆーちん]
そんなマラソン大会も終わり、いよいよテスト期間。


波乱の幕開け…な、予感。

⏰:09/05/11 14:11 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#676 [ゆーちん]
―――

「蕾夢、頼むね」


…やっぱり。


言われると思った。


前までの私は、この兄弟の力になりたいとかって思えたんだけど、今は…。


いや、力になりたいのは確かなんだけど、あのキス以来、仁士と話すとイガイガするってゆーか。

⏰:09/05/11 14:14 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#677 [ゆーちん]
関わりたくない、とまではいかないけど…仁士が何考えてるかわかんないから、怖い。


色んな意味で。


「いいけど…」

「けど?」

⏰:09/05/11 14:14 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#678 [ゆーちん]
仁士は来ないで、なんて言えるわけもなく
「何でもない」
と、誤魔化した。


あぁ〜!

歯がゆい!

スッキリしない!


自分で自分が意味不明!

⏰:09/05/11 14:14 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#679 [ゆーちん]
「ななみちゃーん」


…癒されよう、この天使に。


「いらっしゃい」

「あっ、れおー」


そそくさと部屋に上がり、レオとじゃれ始めた。


微笑ましい。

微笑ましすぎる。

⏰:09/05/11 14:15 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#680 [ゆーちん]
「悪いね」

「別にいいよ。どうせ暇だし」

「最近、親が育児放棄ぎみで。託児所も毎日行かせすぎで嫌がるし。テスト期間だからバイトは休みにしてもらったけど、蕾夢の面倒見てると結局勉強できなくなるしさ…」

⏰:09/05/11 14:16 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#681 [ゆーちん]
「若者よ、しっかり学べ!」

「ありがと」


仁士に言われるありがとうは全然苦しくない。

むしろ泣きたくなる。

何で?


「蕾夢、また後でな!」

「にいに、おべんきょ、がんばってねー」

「おう。七海ちゃんの言うこと聞けよ」

「あーい」

⏰:09/05/11 14:16 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#682 [ゆーちん]
弟にバイバイして、にいには帰ってった。

私に蕾夢を預け、仁士は家に帰って勉強。

で、また夜中に蕾夢を引き取りに来るって約束だ。

一緒にご飯食べて、テレビ見て、お風呂入って、眠って。

今までの、夜間バイトの時に預かってたみたいなもんだ。

夜中に仁士が眠ってる蕾夢を抱っこしながら帰る。

そんなテスト期間だった。

⏰:09/05/11 14:17 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#683 [ゆーちん]
蕾夢を預かるのはテスト期間だけだと思っていた。

だからテスト最終日、友達と飲みに行く約束をしていた。


「悪い。今日だけもう1日追加」

「なんで?もう友達と飲みに行く約束しちゃったから無理だよ」

「バイト休めなくて。親もいないんだ」

⏰:09/05/11 14:18 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#684 [ゆーちん]
「託児所は?」

「嫌がってる」

「…でも仕方ないよ」

「どうしても無理?」

「無理」

「…わかった」

⏰:09/05/11 14:18 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#685 [ゆーちん]
ちょっと期限が悪くなった仁士は、あっさり私から離れていった。


「おはよ、ななみん。仁士と喧嘩?」


いつの間にか、私をななみんと呼ぶようになっていた栄之助だ。

⏰:09/05/11 14:19 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#686 [ゆーちん]
「ううん、別に」

「ふーん。それより今日の答え教えて?」

「はぁ?」

「留年しそう」

「頑張れ、若者!あんたが留年したら大いに笑ってあげる」

「ひどーい」

こうやって栄之助と笑い合ってる最中も、頭は瀬川兄弟のことでいっぱいだった。

⏰:09/05/11 14:20 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#687 [ゆーちん]
わかってるよ、蕾夢が託児所を嫌がってる事。

私が見てあげればいいだけなのに。

友達との約束だって、また違う日に変えることは簡単。

私は、瀬川兄弟の力になりたいだけ。

なのになんで頼られすぎると、意地悪したくなるんだろう。

⏰:09/05/11 14:20 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#688 [ゆーちん]
テストが終わると、みんな開放ムード。

でも委員長だけは喜んでなさそうだった。

そりゃそうだよね。


「瀬川くん」

「…」


こっち見て、目を反らした。

イコール無視られた!

一部始終を見ていた栄之助が「やっぱ喧嘩してんじゃん」って言いにくるぐらい、仁士の無視はあからさまだった。

⏰:09/05/11 14:21 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#689 [ゆーちん]
学校から帰り、そのまま友達との約束場所に向かった。

居酒屋に入り、ビールを飲む。

…美味しくない。

最悪だ。

原因は瀬川兄弟。

「七海、どしたの?」

「元気なくない?」

「やっぱ教師って大変なんだな」

みんなが心配してくれる。
楽しい席で、私みたいな奴がいると雰囲気が悪くなるのもわかってるんだ。

⏰:09/05/11 14:22 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#690 [ゆーちん]
電話なんかかかってきてないのに、かかってきたフリをした。


「みんなごめん。学校から呼び出しだ。きっとテストの事で。だから行くね!私のことは気にしないで、飲みまくってよ!また誘って」

⏰:09/05/11 14:23 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#691 [ゆーちん]
惜しまれつつ、退散。

自分で言うなって?

うん、気分が晴れてきた。

私の足取りも軽い。

ヒール音は、仁士の家へと向かっていった。

⏰:09/05/11 14:23 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#692 [ゆーちん]
ピーンポーン…

よし、まだバイトの時間じゃないから家にいるはず。

ガチャ…

「はい」

ほらね。

「よっ!」

「えっ、七海?何でいんの!」

ナイスリアクション!

「蕾夢の子守り」

「友達と約束は?」

⏰:09/05/11 14:24 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#693 [ゆーちん]
「嘘ついて帰って来た」

「何で…」

「だって私、あんたの先生だもん。生徒が困ってるときは助けてあげないと」

仁士が笑った。

「調子いい時だけ教師を名乗る癖、なんとかしたら?」

「それに、あんたら兄弟の力になるのって、悪くない」

私も笑った。

⏰:09/05/11 14:24 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#694 [ゆーちん]
―――

仁士の家から、私の家へと移動した3人。

蕾夢は託児所に行かなくなったので、喜んでいた。

「らいむね、ななみちゃんのおうち、すきー」

私もあんたの笑顔すきー。

「七海ちゃんも蕾夢がおうちに来てくれると嬉しいよん」

⏰:09/05/11 14:27 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#695 [ゆーちん]
「だってね、れおいるもん!」


…おいおい、私がいるからじゃなくってレオ目当てかよ。


「ブッ!」

「笑うな、にいに」

⏰:09/05/11 14:27 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#696 [ゆーちん]
「だって…」

「レオに負けたみたい、私」


まぁ、いいけど。

七海ちゃんは、そんなおちゃめな蕾夢が好きだから。

⏰:09/05/11 14:28 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#697 [ゆーちん]
私の家に着くと、仁士はすぐにバイトへ向かう。

「ありがと。よろしくな」

やっぱり仁士にありがとうを言われると泣きそうになる。

でも、飲み会を抜けて来てよかったって思う。

そんな仁士の笑顔は今日も泥だらけになって来るんだって思うと、喉元がムズムズした。

⏰:09/05/11 14:28 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#698 [ゆーちん]
深夜1時を回った頃、仁士が帰って来た。


「おかー」

「ただー」

「最近の若者は何でも略せばいいと思ってんの?」

「七海が振ったんだろ」

「すぐ人のせいにするぅ」

「それより、起きてたの」

「おん。飲んでた」


ちょっとばかしビールなんか飲んだものだから、酒恋しくなり、蕾夢を寝かせてから一人酒を楽しんでいた。

⏰:09/05/11 14:29 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#699 [ゆーちん]
「酔ってる?」

「全然。なんか今日は酔えない」

「何で?」

「んー、わかんない」

仁士は煙草、私はお酒。

二人して黙りながらテレビを見た。

深夜番組ってなんでこんなに面白いんだろ。

二人でハマっちゃって、気が付けば1時間も経っていた。

⏰:09/05/11 14:30 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#700 [ゆーちん]
「テレビも終わったし、帰るか」

「明日の朝辛いだろうね」

「お互い様な」


仁士はベッドに行き、栄之助を抱き上げた。

起きかけたけど、また仁士の腕の中で眠る。

毎回毎回この瞬間がヒヤヒヤする。

途中で起こしちゃうのが可哀想だから。

⏰:09/05/11 14:30 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#701 [ゆーちん]
玄関で仁士は言った。


蕾夢が起きないように小声で。


「今日は本当助かった」

「最初断ってごめん」

「それは仕方ないから」

「そんな風に思ってなかったくせに」

「え?」

「私が断ったら一気に不機嫌になってた」

⏰:09/05/11 14:31 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#702 [ゆーちん]
「そう?」

「うん」

「それはきっとアレだな」

「何」


背の高い仁士は私を見下ろしながら言う。

「失恋した気分にでもなって、無意識に不機嫌になってたのかも」

「…無意識とかタチ悪い」

⏰:09/05/11 14:31 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#703 [ゆーちん]
言葉や合図はなかった。

そういう雰囲気でもなかった。

なのに蕾夢を抱っこしたままの仁士は、私にキスをした。

この前の下手くそなキスとは大違い。

今日は首も唇も痛くない、優しいキスだった。

⏰:09/05/11 14:33 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#704 [ゆーちん]
「何でこんな事するの?」

「何だその質問。処女か!」

「だって…」

「元若者よ、たくさん悩め」

「…元って何よ。失礼しちゃう」

仁士は笑いながら帰ってった。

⏰:09/05/11 14:33 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#705 [ゆーちん]
あー、酔えない理由わかった。

緊張してたからだ。

仁士が帰った途端、急に酒が体中に巡った気がした。

おかげでベッドに入ってるはずなのに、宙に浮いてるみたいだったよ。

何で仁士に緊張してんの?って疑問は明日考えよう。

今日はもう寝る。

明日は学校だ。

⏰:09/05/11 14:34 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#706 [ゆーちん]
翌朝はひどい頭痛で目が覚めた。

ちょっと寝坊して慌てて用意したせいで、昨日の事を思い出す暇もなかった。

だから学校に着いて仁士を見た時、不意討ちのビンタを食らったような気分になった。

昨日キスしたのは、幻なんかじゃなくって現実だったはず。

あんなに平然でいられると現実だったっていう自信がなくなる。

⏰:09/05/12 08:58 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#707 [ゆーちん]
あぁー、イガイガする!

栄之助、あんた言ったよね?

私と仁士は両想いだ、って。


ちょっくらハッキリさせますか。

いつまでもこのままじゃ嫌。

⏰:09/05/12 08:59 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#708 [ゆーちん]
と、いうわけで4時間目に仁士を更衣室に呼び出した。


「僕、サボるキャラでもないんですけど」

「なーにが、僕よ。僕ってキャラでもないでしょ」

⏰:09/05/12 09:00 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#709 [ゆーちん]
久しぶりの更衣室は寒かった。

屋上に行きたかったけど、今日は天気が悪いからきっとここより寒いだろう。

「どしたのー。オセロでもする?」

まだ何を言われるのかわかってない仁士は、ロッカーに入れているオセロを取り出し、ベンチの上に置いた。

⏰:09/05/12 09:00 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#710 [ゆーちん]
「オセロしながら話す?」

オセロ盤を挟み、私も仁士もベンチに座る。

「何の話だよ」

「…どの話かわかってるくせに。弟が寝てるからって抱っこしながらアレは無いっしょ」

⏰:09/05/12 09:01 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#711 [ゆーちん]
すると仁士は笑った。

やっと気付いたみたい。

「で!元若者はたくさん悩んで、たくさん考えたけど、やっぱりよくわかんない。現若者よ、答えを教えろ!」

「じゃあオセロに勝ったら教えてやるよ。はい、スタート」

⏰:09/05/12 09:02 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#712 [ゆーちん]
と、いうわけでいきなり始まったオセロ勝負。

勝てる!と確信してからの仁士の逆転劇はすごかった。

「はい、七海の負けー」

その笑顔、ムカつく。

「悔しいからもう一回」

「何回やっても結果は一緒」

「…結果とかどうでもいい。勝たなきゃ教えてくんないんでしょ?私、知りたいもん」

⏰:09/05/12 09:03 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#713 [ゆーちん]
仁士といる時に感じる、この息苦しい雰囲気は何なんだろう。

じれったくてイライラする。

「今どき、処女でもそんな発言しないぞ」

「だって私、あんたの先生なんだよ?からかってるなら辞めてくんないと、お互い大変なだけじゃん」

⏰:09/05/12 09:03 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#714 [ゆーちん]
「…栄之助にはキスさせんのに、俺はダメって事?」

あ、不機嫌になった。

「栄之助で学んだんじゃん。いくら教師って仕事が面倒でも、不真面目にキスしてると痛い目に遭うだけだって」

「痛い目って?」

⏰:09/05/12 09:04 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#715 [ゆーちん]
「結局はお互い辛かっただけ」

「…辛かったんだ?」

「ママしてる間は辛いだとか思わなかったんだけど、いざ私から去ってく時はやっぱ辛かったよ」

「それは栄之助を好きだったから?」

「違う。そうじゃない」

⏰:09/05/12 09:04 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#716 [ゆーちん]
なんで栄之助も仁士も、好きだの嫌いだのこだわんのよ。

もぉー、頭爆発しそう。


「その気がないなら、もうからかわないで」

「…」

「あんたとは、友達みたいな感覚で楽しかったのに…キスなんかするから私どう接していいかわかんなくなってきてんの」

⏰:09/05/12 09:05 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#717 [ゆーちん]
仁士は何も言わず、オセロを眺めてた。


「キスしてる時はいいかもしんない。でもその後の私の頭の中ぐちゃぐちゃになんの。あんたは、なんない?」

⏰:09/05/12 09:06 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#718 [ゆーちん]
仁士はゆっくり顔を上げた。

目が合う。

「ぐちゃぐちゃになるよ」

「だったら‥」


真面目な顔は似合わない。

私は、冗談言ってニッて笑うクラス委員長の顔の方が好きだな。

少しばかり眉を下げて、私の言葉を見事に遮り、こう言った。

⏰:09/05/12 09:06 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#719 [ゆーちん]
「嬉しすぎて、ぐちゃぐちゃになるんだよ」

辞めて、栄之助の二の舞になるのは嫌だ。

「そんな嘘、いらない」

「嘘じゃねぇよ。嫌いな奴にキスしたりもしないし、幼なじみとキスしてイチャついてる所見てヤキモチ妬いたりもしない」

⏰:09/05/12 09:07 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#720 [ゆーちん]
「もう…そんな事聞きたいんじゃない!あんたは私をどうしたいのよ!」

回りくどい事をせずに最初からこう聞けばよかったものの、冷静を装うのに必死で変に遠回りする言葉を選んでいた。

もう冷静なんて保っていられるわけもなく、気付いたら半泣きになりながら叫んでた。

⏰:09/05/12 09:07 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#721 [ゆーちん]
早く仁士の返事が聞きたいのに、何にも言わないで私を見ているだけだった。

ムカつく、本当ムカつく。

何で私があんたごときに半泣きにされなきゃなんないの。

「聞いてんの?あんたは、私を、どうし‥っ」

⏰:09/05/12 09:08 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#722 [ゆーちん]
オセロがベンチの上から勢いよく落ちた。

それと言うのも、私が引っ張られたからだ。

私が仁士の腕の中に無理矢理引っ張り込まれたせいで、オセロは落ちてしまった。

「どうしたいか言えば、その望みは叶えてくれんの?」

⏰:09/05/12 09:09 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#723 [ゆーちん]
痛い。

体も痛いし、心臓だって痛い。

こいつは人を抱き締める力の加減ってもんができないの?

でも心臓が痛いのは、また別の理由だって事…気付かないフリしてる私が嫌い。

⏰:09/05/12 09:09 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#724 [ゆーちん]
「…離して」

「離しちゃったら、お前泣くじゃん」

「もう泣かしてる」

仁士の制服が濡れた。

化粧が滲んで、汚れも付いた。


「どうしたいもこうしたいも、もうお前だってわかってんじゃねぇの?」

⏰:09/05/12 09:11 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#725 [ゆーちん]
「…わかんない」

「あえて言うなら、あと10年早く生まれたかった」


もっと濡れたし、もっと汚れた。


「私はあと10年遅く生まれたかった」

⏰:09/05/12 09:12 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#726 [ゆーちん]
栄之助、認めるよ。

私は仁士が好きなんだ。

私が教師じゃなかったら、仁士が生徒じゃなかったら…。


「もうやだ」

「俺もやだ」

「こんなガキんちょのどこがいいのか自分でもわかんないよ」

「俺だってこんな色気の無いババァのどこに惚れちゃったんだろ」

⏰:09/05/12 09:12 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#727 [ゆーちん]
理由を考えるのは辞め。

もう頭は爆発した。

優しいキスはどこにもなくって、無我夢中にお互いの欲を重ね合った。

この前、歯をぶつけて怪我した唇が少しだけ疼く。

⏰:09/05/12 09:13 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#728 [ゆーちん]
「…さっきの休み時間、煙草吸ったでしょ」

だってキスが苦いから。

「緊張ほぐすのにね」

ふーん、緊張してたんだ。

私もだよ。

⏰:09/05/12 09:13 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#729 [ゆーちん]
「どこで吸ったの?」

「秘密」

「あんまり無茶してるとバレるよ。委員長が喫煙で謹慎なんて助けようが無いから」

「…もう、そういうの辞めよ。俺といる時は教師とか生徒とか忘れたい」

「無理だよ。どうあがいてもやっぱり私は教師で、あんたは生徒。結ばれる運命じゃない」

⏰:09/05/12 09:14 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#730 [ゆーちん]
だったら何でキスしたんだろう。

言動が矛盾してるよ、私。

「俺と付き合うのは不可能な事なんだ?」

頷いた。

⏰:09/05/12 09:15 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#731 [ゆーちん]
「両想いでも?」

頷いた。

「好きなのに?」

どうしよう、頷けない。

好きなのに付き合えないパターンなんて柴田七海の人生には初めての事だから、すぐに頭が回らないの。

⏰:09/05/12 09:15 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#732 [ゆーちん]
「ごめん、私そんなに器用じゃない」

「栄之助に油売ってた時は器用に過ごしてた」

「栄之助への好きと、あんたへの好きは違うの。わかるでしょ?」

⏰:09/05/12 09:16 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#733 [ゆーちん]
仁士はよりいっそう抱きしめる力を強めた。

「…無理」

「無理って言われても、私だって無理だよ。もう頭爆発して再起動に時間掛かりすぎる」

「…年中無休で爆発してるくせに」

「愛の言葉を囁きながら、喧嘩売るのが得意なの?」

⏰:09/05/12 09:16 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#734 [ゆーちん]
この状況でまだ冗談ぶっかませる余裕があるなら、私なんかいなくても大丈夫でしょ。


「仁士には仁士の未来がある。私みたいなババァに十代の貴重な時間使うのは勿体ないよ。元十代が言うんだから間違いない」

⏰:09/05/12 09:17 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#735 [ゆーちん]
「お互い好き同士なのに付き合えないって事を学んだ十代の傷は、俺の心から一生消えないんだろうな」

「…だって、仕方ないじゃん。私は仁士が好きだから、お互いの為を思って言ってるの」

「教師と生徒が付き合うのって、そんなに不可能な事なの?」

「…うん。私は17の男のママをする不真面目さはあっても、真剣な恋をする真面目さはない。仁士と付き合っていける自信がないんだよ」

⏰:09/05/12 09:17 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#736 [ゆーちん]
仁士は、私から離れた。


体が冷たい風に抱かれる。


仁士の腕が恋しくなるけど、自分で選んだ道だ。

戻れない。

⏰:09/05/12 09:18 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#737 [ゆーちん]
―――

あれからどうなったかって?

仁士は苦しそうな顔をして更衣室から出てったよ。

私は泣いた。

久しぶりに恋愛絡みで泣いた。

泣いて泣いて、しっかりしなきゃって自分に喝入れた。

⏰:09/05/12 09:23 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#738 [ゆーちん]
でも、放課後にあった職員会議の内容なんか全く覚えてないくらい、頭の再起動には時間がかかった。

家に帰り、レオを抱き締めて眠った。

涙が勝手に流れてた。

⏰:09/05/12 09:23 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#739 [まあ]
気になリます

⏰:09/05/13 20:16 📱:D904i 🆔:XB6F8LH6


#740 [ゆーちん]
>>739まあさん

今から更新します

⏰:09/05/14 09:54 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#741 [ゆーちん]
翌日、そのまた翌日、そのまたまた翌日…あの日から3日目の今日まで、まだ一度も仁士とは話してない。

学校には来てるみたいだけど、私の授業の時にはいなかった。

どうやら仁士は栄之助に私の事を言ったらしく、栄之助まで私を避けた。

⏰:09/05/14 09:55 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#742 [ゆーちん]
栄之助は背中を押してくれた人だから、ちゃんと報告を兼ねて話がしたいのに、私が話しかけようとすると上手く姿を消すんだ。


ねぇ私、17の男の子に避けられるだなんて、去年の今頃想像なんかした?

しなかったよね。

どうすればいいのか、わかんないよね…。

⏰:09/05/14 09:55 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#743 [ゆーちん]
「ななみん、バイバーイ」

「バイバイ、また明日」

放課後は学校中が一気に賑やかになる。

期末テストが終わり、結果が知らされ、留年なのか補習なのか進学なのか、それぞれがやるべき事をやらなければいけない春休み前。

⏰:09/05/14 09:56 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#744 [ゆーちん]
無事に春休みを迎えられる仁士、補習を受けないと進学できない栄之助。

放課後、その二人に呼び出された。

私が今やらなきゃいけない事は、呼び出された更衣室に行く事だ。

バックレたりせず、素直に呼び出しに従う。

⏰:09/05/14 09:56 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#745 [ゆーちん]
ガチャ…

「女子更衣室に男子生徒が2人も侵入してる」

栄之助は笑ってたけど、仁士はいつもながらのクール顔って感じ。

てゆーか仁士の顔をまじまじと見るのが久しぶりすぎて、心臓バクバク。

⏰:09/05/14 09:57 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#746 [ゆーちん]
「今日だけはママって呼んじゃうから」

「…別にいいけど」

猿スマイルは、私の心にちょっとばかしの余裕をくれる。

「ここで二人が愛を確認しあったのは、仁士から聞いた。俺の言った通り、両想いだったでしょ?」

⏰:09/05/14 09:57 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#747 [ゆーちん]
私と仁士からは【気まずい】オーラ発生させまくってるのに、栄之助は空気を読むのが下手くそなのか、空気を読んであえての行為なのか…むちゃくちゃ明るく会話を進める。

「何で好き同士なのに付き合わないの?」

⏰:09/05/14 09:58 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#748 [ゆーちん]
「それは私と仁士が‥」

「教師と生徒だから、って答え以外で」

「それ以外に理由は…」

「無いんだ」

私は頷いた。

仁士は何も言わず、栄之助の隣で座っているだけ。

息苦しいよ、何か喋ってよ、ねぇ仁士。

⏰:09/05/14 09:59 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#749 [ゆーちん]
「その教師と生徒が付き合うのは、不可能ってママは仁士に言ったんだよね?」

「そうだよ」

「不可能ねぇ…」

すると栄之助は、私に正方形の板を手渡した。

カラフルな板には、升目が入っている。

⏰:09/05/14 09:59 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#750 [ゆーちん]
「何これ」

「よーく思い出して。文化祭1日目に3人でここでオセロした事」

年取ると、記憶力は低下する。

どうでもいいって判断した出来事だったら尚更覚えてない。

でも私の脳は、どうでもいいって判断しなかったらしく、ちゃんと記憶してくれていた。

⏰:09/05/14 10:00 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#751 [ゆーちん]
―――…

「仁士強すぎー」

「手加減しろよー」

「手加減してるよ?」

「絶対嘘だよー」

私と栄之助VS仁士でのオセロ対決。

二人VS一人なのに、クラス委員長を負かすのはなかなか難しい事だった。

⏰:09/05/14 10:00 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#752 [ゆーちん]
「つーかオセロって何で白黒なわけ?気分滅入っちゃう」

と、栄之助が嘆く。

「色に疑問持つ人、初めて見た」

私と仁士が笑うと、栄之助は子供のようにムキになりながら言った。

⏰:09/05/14 10:01 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#753 [ゆーちん]
「白黒のテレビより、カラフルなテレビのがいいだろ?それと一緒。白黒よりレインボーなのがいいの」

「ほぉー…」


栄之助の勢いに納得しかけたけど、すぐに仁士に叱られてた。

「一緒じゃねぇよ。石は二面しかないのに、どうやってレインボーとやらに出来んだよ。あんたも先生のくせに、ほぉーとか言ってんじゃねぇよ」

⏰:09/05/14 10:02 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#754 [ゆーちん]
17のガキ猿と27の頭の悪いババァは、クールな金髪頭に叱られた。


「じゃあ仁士はレインボーなオセロは無理だって言いたい訳?」

と、栄之助。

⏰:09/05/14 10:02 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#755 [ゆーちん]
「当たり前」

たこ焼きを食べながら仁士は呆れて言った。

「よーし、わかった。そのレインボーなオセロ、いや、虹色のオセロとやらを俺は作ってみせるからな!」

…本当のバカか、この猿。

張り合うとこじゃねぇし。

⏰:09/05/14 10:03 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#756 [ゆーちん]
「栄之助、無理だよ。二面しかない石を虹色にしちゃったら、もうその時点でオセロじゃないしルール変わっちゃうよ」

私もりんご飴を舐めながら栄之助に忠告。

白と黒しかないオセロを、赤青黄色だなんて…

「不可能」

仁士が言った、その不可能って言葉が妙に頭に残ってしまう。

⏰:09/05/14 10:03 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#757 [ゆーちん]
「俺の辞書に不可能なんて‥」

「あるだろ。そこカッコつけるとこじゃない」

「もぉー!いちいちクールだな瀬川仁士さんよぉ?」

「お前はいちいちバカだな栄之助ちゃん」


仁士と栄之助のこういう会話を見てるのが楽しかった。

⏰:09/05/14 10:04 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#758 [ゆーちん]
「俺は絶対に虹色のオセロ、作るからな〜。んで、将来は教科書に残るような発明者として活躍すんの」

「虹色のオセロを作った、渡辺栄之助って?」

「そう!」

「あっそ、せいぜい頑張ってねー」

「つーわけで、もう一戦!ほらママ、ぼーっとしてないでやるよ」

⏰:09/05/14 10:04 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#759 [ゆーちん]
―――…

あれから栄之助は、虹色のオセロの事なんて忘れちゃってたし、私と仁士も忘れてた。

栄之助がこれを渡す今の今まで、虹色のオセロは不可能だって思ってたんだから。

「あんた…バカ?」

⏰:09/05/14 10:05 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#760 [ゆーちん]
「バカじゃないよ。将来は発明者として名を残す偉い人」

「こんなんじゃ名前残る訳ないでしょ」

栄之助に渡されたもの、それは、虹色のオセロ。

盤が虹色になった、虹色のオセロ。

⏰:09/05/14 10:05 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#761 [ゆーちん]
「これだって、れっきとした虹色のオセロだよ。不可能なんて無い。考え方や違う方向から見てみれば、不可能も可能になるんだよ」

バカ猿にこんな事教えられるなんて思ってもみなかった。

「ママと仁士が付き合うのだって不可能じゃない。先生と生徒が付き合うのだって考え方や見方を変えれば、無理な事なんかじゃないんだよ」

⏰:09/05/14 10:06 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#762 [ゆーちん]
あぁ、やだ…泣きそう。

「それ言うために、このカラフルな盤、作ってくれたの?」

「これ作るの大変だったんだよ?3日かかった?なぁ仁士」

仁士は今だに口を開かない。

「仁士と栄之助で作ったの?」

「そうだよん。キラキラしてて綺麗でしょ?ペンキ乾かすのって結構時間いるんだね」

⏰:09/05/14 10:07 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#763 [ゆーちん]
「こんな板とか、どうしたの?」

「それはー…そういう話は、仁士に聞きなよ?俺そろそろ帰るね」

えっ、やだ、待ってよ。

今あんたが帰ったら、仁士と二人きりじゃん。

気まずいし、恥ずかしいし、緊張だし…どうすればいいのかわかんない。

⏰:09/05/14 10:07 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#764 [ゆーちん]
「えっ、栄之助…」

「俺は、ママが好きだから仁士と幸せになってもらいたいの。変な意地張んなくていいから、そろそろ自分の幸せ考えなよ、ママ」

栄之助は最後まで笑ってた。

意地じゃなくて怖いんだよ。

あんたの時みたいに、無意識のうちに相手を傷つけちゃうから。

⏰:09/05/14 10:08 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#765 [ゆーちん]
ガチャンと閉まった扉。

二人きりの更衣室。

目の前にいるのに目が合わない、好きな人。

「その板ねー」

「え?」


3日ぶりの仁士の声は床に向かって吐き出される。

俯いてないで私を見てよ。

⏰:09/05/14 10:09 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#766 [ゆーちん]
「工事現場から貰って来た。ペンキ塗るハケも借りた。小学生ぶりに図工とかしたもんだから、栄之助とペンキだらけになりながら頑張った」

「…そう、なんだ」

「俺、虹色のオセロの話なんか忘れててさ。栄之助に、七海に告ったのに付き合うのは不可能だってフラれたって報告したら、あいついきなり虹色のオセロだとか言い出してさ」

⏰:09/05/14 10:09 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#767 [ゆーちん]
「うん」

俯く顔が少し上がったけど、やっぱり私を見てくれない。

「石じゃなくて盤を虹色にするなんて思わなくてビックリした。でもあいつなりに無い頭使って俺らの事応援してくれたんだよ」

⏰:09/05/14 10:10 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#768 [ゆーちん]
「そうだね」

「栄之助ってバカだけど、バカの説明って考えが単純だから凄い納得できちゃって。石だろうが盤だろうがレインボーに塗れば、虹色のオセロなんだって言われた時は、不可能は不可能じゃないって思えた…って、なんか今のセリフ、カレーライスマンの歌詞みたいだったな」

⏰:09/05/14 10:10 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#769 [ゆーちん]
やっと仁士が笑った。

「不可能は不可能じゃない?そんな歌詞あった?」

「あったよ。ラストの曲。栄之助が七海に向けて書いた曲に」

「…忘れちゃった」

「また歌ってやるから覚えろよ」

「…うん」

⏰:09/05/14 10:11 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#770 [ゆーちん]
いや、話ズレてるから。

そうじゃなくて、私が言いたいのは…

「不可能とか無理とか言われても諦めきれない時は、どうすればいいんですか。先生」


私が言いたいのはね…

「私も諦めきれないんだけど、どうしたらいいかわかる?瀬川くん」

⏰:09/05/14 10:11 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#771 [ゆーちん]
「好きなんだけど、七海の事。めちゃくちゃ好き」


やっと目を見てくれたのに、涙のせいで仁士がぼやける。


タイミング悪いぞ、私の涙腺!


「私も…好き…なんだけど…意味わかんないくらい」

⏰:09/05/14 10:12 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#772 [ゆーちん]
ベンチに座る仁士が私の手を引っ張った。

むちうちにはならないよう、ゆっくりとね。


「泣くなよ。俺が泣かしたみたいで気分悪い」

「あんたが泣かしたんじゃん」

「そうなの?」

「わかってるくせに!ムカつく!」

⏰:09/05/14 10:13 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#773 [ゆーちん]
教師と生徒が付き合うのは不可能だって?

3日前、そんなしょぼい事言った自分を殴り飛ばしたいね。

不可能なんてあるもんか。

好きなんだから仕方ないじゃん。

⏰:09/05/14 10:13 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#774 [ゆーちん]
理性もモラルも糞食らえ。

私は仁士の先生だけど、頭爆発するくらい好きなの。

⏰:09/05/14 10:14 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#775 [ゆーちん]
3日前のあんたが余計な心配しなければ、3日前から幸せになれてたかもしれないのに。

3日間も、この苦いキスを欲しがらなくて済んだのに。

3日前の自分、バカ!

⏰:09/05/14 10:14 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#776 [ゆーちん]
「まっずー」

「あんたねぇ。そこはまずくても、涙の味でしょっぱいねとか可愛く言うもんでしょ?」

「俺そんなキザな事できないから」

「どこがよ!この板作ってくる時点でキザだよ」

⏰:09/05/14 10:15 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#777 [ゆーちん]
「それは栄之助の提案だもん」

「その栄之助の提案に乗ったあんたも共犯じゃ‥」

「はいはい、もうわかった。うるさい」


…キザだよ。


キスで私の言葉を遮るんだから。

⏰:09/05/14 10:15 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#778 [ゆーちん]
「まっずー」

「あ?」

「煙草の味がする」

「禁煙しようか?」

「…出来ないくせに」

「出来るもーん。栄之助だってまた禁煙始めたし、一緒に頑張ったら‥」

「しなくていい。このまずいキス、好きだから」

⏰:09/05/14 10:16 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#779 [ゆーちん]
「うっわ、キザ」

「あんたには負ける」

どんなにキスしても足りない。

やっと手に入れた幸せが、あまりにもデカすぎて怖いくらいだよ。

⏰:09/05/14 10:16 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#780 [ゆーちん]
好き、好き、好き!って大声で叫んでやりたくなる。


でも今は、このキスをもうちょっと味わいたい。



END

>>2アンカー
>>感想板

⏰:09/05/14 10:17 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#781 [ゆーちん]
>>2アンカー

>>4感想板

⏰:09/05/14 10:17 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#782 [こころ]
ゆーちんさん素敵な作品を作ってくださってありがとうございます

失恋したばっかりなんですが…なんか少しだけ希望が持てました

⏰:09/05/14 18:46 📱:F904i 🆔:wPnOwE/.


#783 [我輩は匿名である]
上げておこう

⏰:09/05/15 08:26 📱:N903i 🆔:Qa5LZVnc


#784 [さや]
めっちゃおもしろかったですス

⏰:09/05/16 23:00 📱:W62SA 🆔:Z8QZvyRY


#785 [すぅ]
作品全部見てます
めっちゃ好きです
神だと思います~
ぜひまた書いてくださいx

⏰:09/05/19 14:52 📱:W51S 🆔:s3RBChHA


#786 [我輩は匿名である]
あげ

⏰:09/06/10 13:27 📱:N903i 🆔:☆☆☆


#787 [さりな]
まだ読んでない人いたら読んでほしい

⏰:09/06/15 00:30 📱:SH903i 🆔:ByB3uVtM


#788 [我輩は匿名である]
あげっ

⏰:09/07/10 10:47 📱:P903iTV 🆔:☆☆☆


#789 [はる]
やばい面白かったです!

⏰:09/08/02 10:35 📱:SO706i 🆔:UMi4TRyQ


#790 [我輩は匿名である]
めっちゃすごぃ。

⏰:09/08/02 13:36 📱:P02A 🆔:J3SgovQY


#791 [我輩は匿名である]
あっげ

⏰:09/08/19 07:43 📱:P903iTV 🆔:☆☆☆


#792 [こころ]
絶対消えてほしくないからあげ

⏰:09/09/18 00:32 📱:F904i 🆔:Et1eTErs


#793 [我輩は匿名である]
↑万が一消えてもHPありますから大丈夫ですよ

⏰:09/09/18 15:12 📱:P903iTV 🆔:☆☆☆


#794 [▽]
すきなのであげ(^ー^)

⏰:09/09/20 11:56 📱:W52SH 🆔:DBbi.SnY


#795 [´ω`]
あげあげ

⏰:09/10/03 18:44 📱:820N 🆔:HyamwjI2


#796 [:/ぶーちゃん]
>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000

⏰:10/05/03 15:39 📱:N02A 🆔:nuh.5A1A


#797 [健太郎]
一言言わせてください…

すごいよかったです

⏰:10/05/14 03:09 📱:SH01B 🆔:1lT.ZG9g


#798 [我輩は匿名である]
>>100

⏰:10/05/21 22:53 📱:F905i 🆔:☆☆☆


#799 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800

⏰:10/05/22 00:13 📱:812SH 🆔:wY818Rms


#800 [我輩は匿名である]
800

⏰:10/05/23 03:03 📱:F905i 🆔:☆☆☆


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