サークル ー番外編ー
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#1 [柚子]
:09/06/23 16:04
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#2 [柚子]
case.1 千晃
肩に乗せられた手の感触、後輪の重みを初めて感じた時私は、振り向くことができなかった。
通い慣れた大学からの帰り道、まさか自分がそんな経験をするとは思ってもいなかった。
:09/06/23 16:15
:P906i
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#3 [柚子]
私は狂ったように自転車のペダルを漕ぎ、自分のアパートへと急いだ。
駐輪場に着いたと同時に自転車を乗り捨てると、鍵もかけずに部屋へ向かった。
ペダルを漕いでいた時同様振り向く勇気は、私にはなかった。
:09/06/23 16:15
:P906i
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#4 [柚子]
部屋に入り鍵をかけると、玄関のドアに背中をもたれた。
大きく息を吐き出すと、いくらか落ち着きを取り戻すことができた。
だけど自転車の後ろに突然感じた違和感を思い出すと、寒気を感じずにはいられなかった。
あれは一体、何だったのだろう。
:09/06/23 16:17
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#5 [柚子]
私は迷っていた。目の前にあるこのドアを開けるべきかどうか。
約束の時間は15分も前に過ぎていた。にもかかわらず私はまだ迷っていた。
結局私は、決めることができなかった。
:09/06/23 16:20
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#6 [柚子]
優柔不断な私の代わりに結論を下したのは、15分もの間眺めていたドアだった。
さっさと中に入れよ。
とでも言わんばかりに、勢いよくそのドアは開いた。
:09/06/23 16:21
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#7 [柚子]
「わっ!ビックリした〜」
ドアの前に立っていた私の姿を見た彼は、真ん丸い目で私に言った。
私は謝るのも忘れて、彼をまじまじと眺めた。
:09/06/23 16:22
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#8 [柚子]
身長は170センチくらい。短めに切られた髪は、きれいな栗色をしていた。
(あ、いい色。どこの美容院行ってるんだろう…)
状況に似合わず、そんなことを考えていた私の耳に、再び彼の声が飛び込んできた。
:09/06/23 16:22
:P906i
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#9 [柚子]
「部長〜!お客さんみたいですよ」
私にではなく、部屋の中へ向けられたその声で、私は現実へ引き戻された。
もう逃げられない。
:09/06/23 16:24
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#10 [柚子]
恐る恐る私は、開けられた部屋の中を覗き込んだ。
その部屋の中は、私の知る部室という場所とはかけ離れていた。
パソコン、ソファー、テーブルに椅子、冷蔵庫…
:09/06/23 16:25
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#11 [柚子]
部室というより、誰かの部屋だと言われた方がしっくりくるような場所だった。
部屋には、ドアを開けた彼の他に男の人が一人と、女の人が三人いた。
女の人の一人が、私に向かって
:09/06/23 16:25
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#12 [柚子]
「そんなとこに立ってないで、こっちに座って」
と、声をかけてくれた。
それから思い出したように
「千晃ちゃんだよね?」
と確認した。
私は頷き、言われるままにソファーに腰を下ろした。
:09/06/23 16:26
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#13 [柚子]
ショートがよく似合う彼女は、私が口を開く間もないくらいてきぱきと、指示を出した。
あっという間に、私の前にアイスティーとロールケーキが置かれた。
持ってきてくれたのは、口調からも見た目からもふんわりとした雰囲気を放つ女の人だった。
:09/06/23 16:27
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#14 [柚子]
(こんな可愛い人、うちの大学にいたんだ)
また脱線しかけた私の思考を呼び戻してくれたのは、ショートカットの女の人だった。
「遠慮せずに食べてね」
彼女に促されフォークを手に取ると、向かいのソファーに彼女も腰を下ろした。
:09/06/23 16:28
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#15 [柚子]
「遅かったから、ここの場所がわからないんじゃないかと心配してたんだよ」
「あっ。すいません…」
約束の時間を15分も過ぎていたことを思い出し、私は下を向いた。
:09/06/23 16:28
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#16 [柚子]
「あ、いやいや。時間のことは気にしないで。私らみんな暇人だから」
そう言って彼女は、さっきドアを開けた彼に視線を移した。
「迷子になっているかと思って、ちょうど純に探しに行かせようとしてたところだったんだ。入れ違いにならなくて良かったよ」
:09/06/23 16:39
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#17 [柚子]
迷子どころか、迷うことなく部屋の前まで着いていた私は、気を遣わせてしまったことを申し訳なく思った。
全く別の意味で、確かに私は迷っていたのだけれど。
今私が抱えている“問題”を、相談していいのかどうか私は迷っていた。
:09/06/23 16:43
:P906i
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#18 [柚子]
ドアを目の前にしてなお、迷っていたのは、その“問題”が、あまりに現実離れしていたからだ。
話した途端、もしかしたら話している途中で、笑われおかしな子という烙印を押されてしまうかもしれない。
一度私の中に芽生えた不安を、私はどうしても拭うことができなかった。
:09/06/23 16:45
:P906i
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#19 [柚子]
「あ、と。自己紹介がまだだったね。私は部長の空。よろしくね、千晃ちゃん」
こちらこそ。と私が言いかけた時だった。
ずっと黙って、私のことを見ていた彼が口を開いた。
:09/06/23 16:46
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#20 [柚子]
「部長は俺だ」
男の人にしか出せない、低く落ち着いた声だった。
(あ。この人、眼鏡外したら格好よさそう…)
そんなことを考えていた私の向かいに、空さんを押し退けるように彼が座った。
「部長の亮太です」
:09/06/23 16:47
:P906i
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#21 [柚子]
全く事態の飲み込めていない私は、戸惑いを隠せなかった。
その場を納めてくれたのはさっきの可愛いらしい女の人だった。
「二人ともやめなよ。お客さんの前で。部長なんて、空でも亮太でもどっちでもいいじゃない。千晃ちゃんもそう思うよね?」
:09/06/23 16:47
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#22 [柚子]
突然意見を求められた私は、思わずコクコクと頷いてしまった。
「いや、重要だ!」
と譲らない亮太さんに、空さんも同意していた。
:09/06/23 16:48
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#23 [柚子]
「あーもう。じゃあ千晃ちゃんに決めてもらおう。依頼が完了した時点で、部長に相応しいと思うほうを選んでもらう。これでどう?」
思いがけず重大な決断を任されてしまったけど、おかげでようやく話の本題に入ることができた。
:09/06/23 16:49
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#24 [柚子]
喧嘩の仲裁をしてくれた女の人は
「私は、優ね」
と自己紹介をした後、私に聞いた。
「それで相談って?」と。
:09/06/23 16:50
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#25 [柚子]
空さんと亮太さんの真剣な眼差しにたじろぎながら、私は自転車の話を始めた。
最初に誰かが後ろに乗っていると感じた時の話をした時点で、私が抱えていた不安は消えていた。
私の話を聞いても、二人の真剣な表情には変化がなかったから。
:09/06/23 16:50
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#26 [柚子]
「その一回だけのことだろうと、次の日にまた自転車で大学に行ったんです」
空さんと亮太さんだけでなく、私の話を笑う人は誰もいなかった。
「行きは何も起こりませんでした。だから安心して、帰りも自転車に乗ったんですけど…」
:09/06/23 16:52
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#27 [柚子]
「また誰かが後ろに乗っているような気配がした?」
そう言ったのは、優さんだった。
私は首を縦に振り、言葉を続けた。
「行きは何もないんですけど、帰りは…」
:09/06/23 16:53
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#28 [柚子]
必ず背後に誰かの気配を感じる気味が悪いその自転車に、私は今も乗っている。
実家からの仕送りだけで一人暮らしをしている私には、新しく自転車を買い換える金銭的な余裕がない。
あの自転車だって、リサイクルショップで安く買ったものだ。
:09/06/23 16:54
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#29 [柚子]
心霊の類いが好きな友達にそれとなく相談した私は、その時初めてこのサークルの存在を知った。
「学祭でコックリさんの店出してたサークルだよ」
と言われても、何のことだかわからなかった。
:09/06/23 16:56
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#30 [柚子]
でも今、私の話を笑わずに聞いてくれている彼らを見ていると、相談して良かったと思える。
信じてもらえないかと思っていたのに、亮太さんは
「その自転車が見たい」
と言ってくれた。
:09/06/23 16:57
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#31 [柚子]
「今日も乗ってきたから、自転車なら駐輪場にありますよ」
私が言い終わると同時に、亮太さんと空さんが立ち上がった。
食べかけのロールケーキを残して、自転車を置いた場所まで案内した。
黒いシンプルなママチャリが、私の自転車だ。
:09/06/23 16:58
:P906i
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#32 [柚子]
「この自転車です」
自転車を指差すと、亮太さんは黙って自転車を見つめていた。
空さんは
「へー。シンプルだし乗りやすそうだね」
:09/06/23 17:00
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#33 [柚子]
と、見当違いにも聞こえる感想を述べた。
自転車を眺めていた亮太さんが言葉を発したのは、五分ほど経ってからだった。
「この自転車、しばらく貸してくれないか?」
:09/06/23 17:00
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#34 [柚子]
「え…」
私は亮太さんの顔を見た。
「実際に乗ってみたいし、二、三日預かりたい」
「私この自転車がないと大学通えないんです」
:09/06/23 17:02
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#35 [柚子]
家賃が安いからと、大学からも駅からも離れた場所を住居に選んだ私の交通手段は自転車しかなかった。
悩んでいると、空さんが大丈夫だよと言った。
「自転車を借りてる間は、亮太が車で送り迎えするから大丈夫だよ」
:09/06/23 17:03
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#36 [柚子]
「え…でも…」
私は横目で亮太さんの顔を盗み見した。
(嫌そうじゃない…)
密かに心の中でガッツポーズをしながらも
:09/06/23 17:27
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#37 [柚子]
「そういうことなら、別にいいですけど…」
と、少し困った顔をしてみせた。
内心、亮太さんに送り迎えしてもらえるという状況にウキウキしていたのは、言うまでもない。
:09/06/23 17:28
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#38 [柚子]
話がまとまったところで、部室に戻った。
「自転車しばらく借りることにしたから」
空さんが部室に残っていた人たちに、そう説明していた。
「ってことは何かわかったんですか?」
:09/06/23 17:28
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#39 [柚子]
質問したのは、純と呼ばれていた男の人だった。
「それを今から調べるんだよ」
亮太さんの口調から、純さんは部内でかなり下の立場なのだと私は理解した。
:09/06/23 17:29
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#40 [柚子]
「調べるって…何かいい方法でも思い付いたんですか?」
純くんの言葉に、亮太さんがちょっぴり不敵な笑みを浮かべたことは、見なかったことにした。
「お前だよ」
:09/06/23 17:31
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#41 [柚子]
「へっ?」
「お前が乗るんだよ。あの自転車に」
「えー。何で俺なんですか?部長が乗ればいいじゃないですか」
:09/06/23 17:33
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#42 [柚子]
純さんが、亮太さんを部長と呼んだことを私以外には誰も気に止めている様子はなかった。
(やっぱり亮太さんがほんとの部長なんだ)
でも私は、その事実に気付いていないフリをすることにした。
:09/06/23 17:34
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#43 [柚子]
部長さんって呼ぶより亮太さんって呼んだほうが、距離が縮まる気がしたから。
根負けした純さんが、やりますよと首を縦に振るまでの間、私は残っていたロールケーキを食べながら、亮太さんを眺めていた。
:09/06/23 17:34
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#44 [柚子]
次の日の朝、約束していた時間ピッタリに部屋を出ると、アパートの下に亮太さんの乗った車が停まっていた。
車の知識がない私が見ても高級そうなその車に近付くと、亮太さんが中からドアを少し開けてくれた。
:09/06/23 17:42
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#45 [柚子]
私のために、助手席に身を乗り出してドアを開ける姿に、朝からにやけてしまった。
大学に着き、車を降りるとき
「今日、あの自転車の検証するけど来る?」
と聞かれた、私は頷いた。
:09/06/23 17:42
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#46 [柚子]
検証?と疑問に思いながらも、講義が終わるとすぐに部室へ行った。
部室には、一人だけ名前のわからない女の人がいた。
私と目が合うと一瞬驚いた顔をした彼女は、すぐに笑顔になった。
「今日はまだみんな来てないんですよ。でもすぐ来ると思うから、座ってゆっくりしてて下さい」
:09/06/23 17:43
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#47 [柚子]
リスとかハムスターとか、小動物みたいな彼女は桃と名乗った。
話をしたら、私と同じ年だと分かった。
「桃でも、桃ちゃんでも、呼びやすいように呼んで下さいね」
:09/06/23 17:47
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#48 [柚子]
タメだというのに、敬語を崩さない桃ちゃんに
「私のことも呼び捨てでいいよ」
と言うと、何故か桃ちゃんは照れたような顔をした。
:09/06/23 17:48
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#49 [柚子]
「千晃だと恥ずかしいからちーちゃんって呼ぶね」
桃ちゃんはそう言ったけど私的には、ちーちゃんのほうが照れくさい気がした。
次に来たのは純さんだった。
:09/06/23 17:50
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#50 [柚子]
桃ちゃんの話によると、純さんも同じ年らしい。
桃ちゃんが純くんと呼んでいたので、私も便乗して、純くんと呼ぶことにした。
亮太さんや空さんに比べてまだあどけなさの残る彼は、純さんより純くんの方がしっくりきた。
:09/06/23 17:51
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#51 [柚子]
純くんが来てすぐに空さん、亮太さん、優さんも集まって検証開始となった。
私の自転車のまわりに全員が集まった。
中古のママチャリが、こんなに注目される日が来るとは、自転車自身も予想していなかっただろう。
:09/06/23 19:32
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#52 [柚子]
亮太さんが「念のために」と、自転車の写真を撮った後で、純くんが自転車に乗った。
「とりあえず適当にその辺走ってこい」
亮太さんにそう言われた純くんが、息を切らして戻ってきたのは20分ほど後のことだった。
:09/06/23 19:32
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#53 [柚子]
ブレーキでも壊れたのか、勢いを緩めることなく私たちの立っている場所に向かってきた。
「避けて下さい!」
純くんが、そう叫んでいることに気付いた時には、自転車はすでに目の前まで迫っていた。
:09/06/23 19:34
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#54 [柚子]
(…ぶつかる!)
逃げるのも忘れ、固く目を閉じた私の体を自転車から守ってくれたのは、亮太さんだった。
頬が赤く染まるのを感じたのと同時に、自転車と純くんが地面に転がるのを見た。
:09/06/23 19:35
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#55 [柚子]
「大丈夫?」
と心配する優さんとは対照的に、空さんは笑ってた。
「何やってんの?」
空さんは笑いながらも、起き上がろうとしている純くんに手を貸していた。
:09/06/23 19:36
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#56 [柚子]
「笑い事じゃないですよ。止まらせてくれなかったんですから」
(止まらせてくれなかった?自転車が?)
私の頭の中に浮かんだ疑問は解明されないまま、純くんが事情を説明し始めた。
「後ろの人に話しかけたら、家に帰りたいって言ったんですよ。でも場所聞いたら隣町だったんで、明日にしましょうって言ったら怒っちゃって…」
:09/06/23 19:37
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#57 [柚子]
純くんの話は、正直意味不明だった。
私はタイミングを見計らって口を開いた。
「あのー…後ろの人って誰のことですか?」
:09/06/23 19:38
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#58 [柚子]
その場にいた全員の視線が私に集まった。
どういうことなのかは、純くんが教えてくれた。
「信じてもらえないかもしれないけど…」
という言葉で始まった純くんの話は、最初に宣言した通り信じられないような話だった。
:09/06/23 19:39
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#59 [柚子]
だって純くん、自分は霊の声が聞こえるなんて言い出すんだもん。
話を聞いても半信半疑な私に、純くんはちょっと寂しそうに笑いかけた。
私は何だか申し訳ない気持ちになって
:09/06/23 19:40
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#60 [柚子]
「明日一緒に隣町に行きたい」
と、口にしてしまった。
そんなわけで、私と純くんと後ろの人でのサイクリング?が決行されることになった。
:09/06/23 19:40
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#61 [柚子]
隣町には、純くんの自転車に私が乗り私の自転車に純くんが乗って向かうことになった。
「遠いから休憩しながら行こうね」
まるで小さな子どもに話しかけるみたいに、純くんはそう言った。
:09/06/23 19:42
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#62 [柚子]
(年の離れた妹でもいるのかな)
隣町までは、自転車で40分〜50分だと純くんは言っていた。
「休憩したり、目的の家を探したりするから一時間はかかるかな」
:09/06/23 19:43
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#63 [柚子]
そう聞いた時には、いい運動になるなってくらいにしか考えてなかった。
すぐだと思っていた一時間を長く感じ始めたのは、自転車を漕ぎ始めて30分が経った頃だった。
「大丈夫?」
:09/06/23 19:43
:P906i
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#64 [柚子]
と、声をかけてくれていた純くんの問いかけに、笑顔を返せなくなっていた。
「近くに公園があるから、少し休憩しようか」
純くんの誘いを断る理由はなかった。
:09/06/23 19:44
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#65 [柚子]
ベンチに座っていると、純くんが冷たいお茶とスポーツドリンクを買ってきてくれた。
「どっちがいい?」
と聞かれた私は、スポーツドリンクを指差した。
:09/06/23 19:45
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#66 [柚子]
ペットボトルの蓋を開けると、一気に半分飲み干した私を見て、純くんがははっと笑った。
「疲れたでしょ?付き合わせちゃってごめんね」
「いえ…私のことだから」
:09/06/23 19:46
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#67 [柚子]
「そっか。でもしんどくなったら無理しなくていいからね。部長が車で隣町まで来るから、いつでも迎えに来てもらえるから」
疲れていたせいか、純くんの優しい話し方が何だか嬉しかった。
:09/06/23 19:47
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#68 [柚子]
最初は子ども扱いされてるみたいで、ちょっと嫌だったけど。
少しの休憩の後、私は自分から立ち上がった。
「もう大丈夫です。行きましょう」
:09/06/23 19:48
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#69 [柚子]
休憩前よりもペースを落としてくれた純くんが、二度目の休憩を取ろうと言ったのは、隣町に入ってすぐだった。
隣町の町名の書かれた看板を通過して最初のコンビニで自転車をとめた。
「この近くみたいだから、一回部長に電話入れるね」
:09/06/23 19:50
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#70 [柚子]
純くんの連絡を受けて、亮太さんがコンビニまで来ることになった。
待っている間に、私たちはその日二本目のペットボトルの蓋を開けた。
自転車に股がりながらコーラを飲んでいた純くんが、ペットボトルを地面に落としたのを見て、最初私は笑った。
:09/06/23 19:51
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#71 [柚子]
でもそれは純くんにとって二回目の
“笑いごとじゃない”
事態だった。
「わ。わわっ。ちょ…ちょっと待って。部長と合流したらすぐ出発しますから」
あれは多分、後ろの人に言っていたんだと思う。
:09/06/23 19:51
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#72 [柚子]
思えば、私が後ろの人の存在を信じたのはあの時だったかもしれない。
だって純くんが漕いでいないのに、自転車の車輪は回転を続けていたから。
驚いている私を残して、純くんを乗せた自転車は意思を持って走り始めた。
:09/06/23 19:54
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#73 [柚子]
私は慌てて後を追った。
でも猛スピードで進む純くんに私が追い付けるわけもなく、何度目かの曲がり角で、私は純くんを見失った。
仕方なくとぼとぼと自転車を押しながらさっきいたコンビニまで戻ると、駐車場に亮太さんの車を見つけた。
:09/06/23 19:55
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#74 [柚子]
車に駆け寄った私は、早口で事情を説明した。
話を聞いた亮太さんは
「そのうち連絡あるだろ」
と、落ち着いていた。
亮太さんの言葉通り、純くんからの着信があった時、私は助手席に座り、車内のクーラーで涼んでいた。
:09/06/23 19:56
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#75 [柚子]
「どこにいるか分かった」
電話を切った亮太さんは、一度も迷うことなく純くんのいる場所まで車を走らせた。
純くんは、中学生くらいの男の子と一緒に一軒家の前に立っていた。
:09/06/23 19:57
:P906i
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#76 [柚子]
亮太さんの車を見つけ、車に向かって手を振る姿を見て私はホッとした。
事故に遇わないのが不思議なくらいのスピードで走っていたから。
「あのさ…」
:09/06/23 19:58
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#77 [柚子]
車のそばまで来た純くんは、私を見ながら言った。
「あの自転車返してあげてもいいかな?」
「えっ?」
「あの自転車…あそこにいる男の子のお母さんのなんだ」
:09/06/23 19:59
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#78 [柚子]
純くんは男の子に目をやりながらそう言った。
「でも私、リサイクルショップで買ったんだけど…」
純くんは少し声を落とし、頼むよって顔をした。
:09/06/23 19:59
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#79 [柚子]
「あの子のお母さん、いつも自転車に乗ってたんだって」
「乗って…た?」
「うん。三ヶ月前に事故で亡くなったらしい」
私は返事に困った。
:09/06/23 20:01
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#80 [柚子]
「いつもは自転車なのに、その日に限って乗り慣れてない車に乗った。酷い雨だったらしい」
純くんは、まるでその光景を見ていたかのような話し方だった。
お母さんかあの男の子のかどちらから聞いた話なのかは分からなかった。
「でも何で自転車がリサイクルショップに…」
:09/06/23 20:02
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#81 [柚子]
私の質問の答えも、純くんは知っていた。
「盗まれたんだって。多分リサイクルショップに売ったのは、自転車を盗んだ犯人だと思う」
私も純くんも黙っていると、亮太さんが口を開いた。
「俺からも頼むよ。新しい自転車なら、俺が用意するから」
:09/06/23 20:02
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#82 [柚子]
断る理由はなかった。
「返してあげて」
純くんの顔を見ながらそう告げると、純くんはホッとした表情をした。
何度も頭を下げ、お礼を口にする男の子に見送られながら、その家を後にした。
:09/06/23 20:04
:P906i
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#83 [柚子]
私が自転車を置いたままになっていたコンビニまで戻ると、亮太さんは後部座席に乗っていた純くんに車から降りるように言った。
「え?」
純くんは、ちょっと間抜けな母音を口にした。
:09/06/23 20:05
:P906i
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#84 [柚子]
「あの自転車、お前のだろ?」
「あ…」
純くんは諦めたように車を降りた。
「じゃ、明日部室で」
力なく手を振る純くんを置いて、車は発進した。
:09/06/23 20:05
:P906i
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#85 [柚子]
「何か悪いですね」
私がそう言うと、亮太さんは何のことかわからないという顔をした。
「純くんですよ。私が一緒に行きたいって言わなきゃ車で帰れたのに…って」
:09/06/23 20:06
:P906i
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#86 [柚子]
「あぁ…」
そう呟いた後で、亮太さんは笑った。
文字にするなら“ふっ”って感じの笑い方だった。
「あいつなら大丈夫だ。打たれ強いのが取り柄だからな」
:09/06/23 20:07
:P906i
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#87 [柚子]
言い方はともかく、純くんのこと信頼してるんだなって思った。
別れ際に、亮太さんは
「明日部室に来れるか?」
と、私に聞いた。
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#88 [柚子]
特に予定もなかったので、講義が終わったら部室に行くと伝えて、車を降りた。
その夜は、疲れていたハズなのに中々寝付けなかった。
何度となく、昼間のことを思い出しては寝返りをうった。
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#89 [柚子]
次の日部室のドアを開けると、亮太さんと空さんがいた。
「あ。ちーちゃんだ。いらっしゃい」
先に声を掛けてくれたのは、空さんだった。
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#90 [柚子]
ちーちゃんという呼び方は多分、桃ちゃんから聞いたんだと思う。
「今日はまだ二人だけなんですね」
私は二人の顔を交互に見た。
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#91 [柚子]
「純もいるぞ」
亮太さんは横目で、ソファーの方を見た。
ソファーからは、足が少しだけ見えていた。
「筋肉痛だって」
そう言いながら空さんは、茶化すように笑った。
:09/06/23 20:11
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#92 [柚子]
「ちーと同い年なのに筋肉痛なんて情けない」
亮太さんの発した“ちー”という単語が、私を指すものだと気付くのに数秒かかった。
気付いた時には、すでに頬が赤くなっていた。
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#93 [柚子]
私の顔の赤さを二人が気にとめる様子がなかったのは救いだった。
数分後、優さんと桃さんが部室に来た。
純くんもソファーから起き上がり、全員集合となった部室で空さんが口を開いた。
:09/06/23 20:12
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#94 [柚子]
「じゃあ…結論を聞かせてもらうとしましょう」
空さんの視線は、私に向いていた。
「えっ?えっ?」
戸惑いながらみんなを見ると、みんなの目も私を見ていた。
:09/06/23 20:14
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#95 [柚子]
「どっちが部長か決まった?」
そう言って、ニッコリしたのは優さんだった。
「あ…」
そういえば、初めてこの部室に来た時にそんな話をしていた記憶がある。
冗談だとばかり思っていたのに本気だったらしい。
:09/06/23 20:15
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#96 [柚子]
どっちが部長に相応しいかなんて、知り合って間もない私が決めていいのかわからなかった。
でも、どちらかの名前を口にしないとおさまりそうにない状況に、私は悩んだ。
空さんは、ハキハキしているし社交的な感じがする。みんなをまとめる能力もありそうだ。
:09/06/23 20:16
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#97 [柚子]
亮太さんは、口は悪いけどみんなことを考えているのは伝わってくる。頭もキレそうだし、格好いい。
いや、格好よさは関係ないけど…。
私が迷っている間、みんなは黙って私が口を開くのを待っていた。
:09/06/23 20:17
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#98 [柚子]
(うん。決めた!)
「部長は…」
私は名前を口にする前に大きく息を吸い込んだ。
その瞬間、みんなの表情が真剣になるのが分かった。
:09/06/23 20:18
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#99 [柚子]
「純くん!」
あの時の、みんなの唖然とした顔は今思い出しても笑える。
「な…なんで!?」
身を乗り出して、空さんは聞いた。
「だって…」
:09/06/23 20:19
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#100 [柚子]
私は純くんの顔を見ながら言葉を続けた。
「一番頑張ってくれたのは純くんだから」
空さんと亮太さんが反論する中、私は純くんに言った。
「ありがとう」
:09/06/23 20:20
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