サークル ー番外編ー
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#1 [柚子]

安価
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#2 [柚子]

case.1 千晃

肩に乗せられた手の感触、後輪の重みを初めて感じた時私は、振り向くことができなかった。

通い慣れた大学からの帰り道、まさか自分がそんな経験をするとは思ってもいなかった。

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#3 [柚子]

私は狂ったように自転車のペダルを漕ぎ、自分のアパートへと急いだ。

駐輪場に着いたと同時に自転車を乗り捨てると、鍵もかけずに部屋へ向かった。

ペダルを漕いでいた時同様振り向く勇気は、私にはなかった。

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#4 [柚子]

部屋に入り鍵をかけると、玄関のドアに背中をもたれた。

大きく息を吐き出すと、いくらか落ち着きを取り戻すことができた。

だけど自転車の後ろに突然感じた違和感を思い出すと、寒気を感じずにはいられなかった。

あれは一体、何だったのだろう。

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#5 [柚子]

私は迷っていた。目の前にあるこのドアを開けるべきかどうか。

約束の時間は15分も前に過ぎていた。にもかかわらず私はまだ迷っていた。

結局私は、決めることができなかった。

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#6 [柚子]

優柔不断な私の代わりに結論を下したのは、15分もの間眺めていたドアだった。

さっさと中に入れよ。

とでも言わんばかりに、勢いよくそのドアは開いた。

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#7 [柚子]

「わっ!ビックリした〜」

ドアの前に立っていた私の姿を見た彼は、真ん丸い目で私に言った。

私は謝るのも忘れて、彼をまじまじと眺めた。

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#8 [柚子]

身長は170センチくらい。短めに切られた髪は、きれいな栗色をしていた。

(あ、いい色。どこの美容院行ってるんだろう…)

状況に似合わず、そんなことを考えていた私の耳に、再び彼の声が飛び込んできた。

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#9 [柚子]

「部長〜!お客さんみたいですよ」

私にではなく、部屋の中へ向けられたその声で、私は現実へ引き戻された。

もう逃げられない。

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#10 [柚子]

恐る恐る私は、開けられた部屋の中を覗き込んだ。

その部屋の中は、私の知る部室という場所とはかけ離れていた。

パソコン、ソファー、テーブルに椅子、冷蔵庫…

⏰:09/06/23 16:25 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#11 [柚子]

部室というより、誰かの部屋だと言われた方がしっくりくるような場所だった。

部屋には、ドアを開けた彼の他に男の人が一人と、女の人が三人いた。

女の人の一人が、私に向かって

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#12 [柚子]

「そんなとこに立ってないで、こっちに座って」

と、声をかけてくれた。

それから思い出したように

「千晃ちゃんだよね?」

と確認した。

私は頷き、言われるままにソファーに腰を下ろした。

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#13 [柚子]

ショートがよく似合う彼女は、私が口を開く間もないくらいてきぱきと、指示を出した。

あっという間に、私の前にアイスティーとロールケーキが置かれた。

持ってきてくれたのは、口調からも見た目からもふんわりとした雰囲気を放つ女の人だった。

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#14 [柚子]

(こんな可愛い人、うちの大学にいたんだ)

また脱線しかけた私の思考を呼び戻してくれたのは、ショートカットの女の人だった。

「遠慮せずに食べてね」

彼女に促されフォークを手に取ると、向かいのソファーに彼女も腰を下ろした。

⏰:09/06/23 16:28 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#15 [柚子]

「遅かったから、ここの場所がわからないんじゃないかと心配してたんだよ」

「あっ。すいません…」

約束の時間を15分も過ぎていたことを思い出し、私は下を向いた。

⏰:09/06/23 16:28 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#16 [柚子]

「あ、いやいや。時間のことは気にしないで。私らみんな暇人だから」

そう言って彼女は、さっきドアを開けた彼に視線を移した。

「迷子になっているかと思って、ちょうど純に探しに行かせようとしてたところだったんだ。入れ違いにならなくて良かったよ」

⏰:09/06/23 16:39 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#17 [柚子]

迷子どころか、迷うことなく部屋の前まで着いていた私は、気を遣わせてしまったことを申し訳なく思った。

全く別の意味で、確かに私は迷っていたのだけれど。

今私が抱えている“問題”を、相談していいのかどうか私は迷っていた。

⏰:09/06/23 16:43 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#18 [柚子]

ドアを目の前にしてなお、迷っていたのは、その“問題”が、あまりに現実離れしていたからだ。

話した途端、もしかしたら話している途中で、笑われおかしな子という烙印を押されてしまうかもしれない。

一度私の中に芽生えた不安を、私はどうしても拭うことができなかった。

⏰:09/06/23 16:45 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#19 [柚子]

「あ、と。自己紹介がまだだったね。私は部長の空。よろしくね、千晃ちゃん」

こちらこそ。と私が言いかけた時だった。

ずっと黙って、私のことを見ていた彼が口を開いた。

⏰:09/06/23 16:46 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#20 [柚子]

「部長は俺だ」

男の人にしか出せない、低く落ち着いた声だった。

(あ。この人、眼鏡外したら格好よさそう…)

そんなことを考えていた私の向かいに、空さんを押し退けるように彼が座った。

「部長の亮太です」

⏰:09/06/23 16:47 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#21 [柚子]

全く事態の飲み込めていない私は、戸惑いを隠せなかった。

その場を納めてくれたのはさっきの可愛いらしい女の人だった。

「二人ともやめなよ。お客さんの前で。部長なんて、空でも亮太でもどっちでもいいじゃない。千晃ちゃんもそう思うよね?」

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#22 [柚子]

突然意見を求められた私は、思わずコクコクと頷いてしまった。

「いや、重要だ!」

と譲らない亮太さんに、空さんも同意していた。

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#23 [柚子]

「あーもう。じゃあ千晃ちゃんに決めてもらおう。依頼が完了した時点で、部長に相応しいと思うほうを選んでもらう。これでどう?」

思いがけず重大な決断を任されてしまったけど、おかげでようやく話の本題に入ることができた。

⏰:09/06/23 16:49 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#24 [柚子]

喧嘩の仲裁をしてくれた女の人は

「私は、優ね」

と自己紹介をした後、私に聞いた。

「それで相談って?」と。

⏰:09/06/23 16:50 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#25 [柚子]

空さんと亮太さんの真剣な眼差しにたじろぎながら、私は自転車の話を始めた。

最初に誰かが後ろに乗っていると感じた時の話をした時点で、私が抱えていた不安は消えていた。

私の話を聞いても、二人の真剣な表情には変化がなかったから。

⏰:09/06/23 16:50 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#26 [柚子]

「その一回だけのことだろうと、次の日にまた自転車で大学に行ったんです」

空さんと亮太さんだけでなく、私の話を笑う人は誰もいなかった。

「行きは何も起こりませんでした。だから安心して、帰りも自転車に乗ったんですけど…」

⏰:09/06/23 16:52 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#27 [柚子]

「また誰かが後ろに乗っているような気配がした?」

そう言ったのは、優さんだった。

私は首を縦に振り、言葉を続けた。

「行きは何もないんですけど、帰りは…」

⏰:09/06/23 16:53 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#28 [柚子]

必ず背後に誰かの気配を感じる気味が悪いその自転車に、私は今も乗っている。

実家からの仕送りだけで一人暮らしをしている私には、新しく自転車を買い換える金銭的な余裕がない。

あの自転車だって、リサイクルショップで安く買ったものだ。

⏰:09/06/23 16:54 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#29 [柚子]

心霊の類いが好きな友達にそれとなく相談した私は、その時初めてこのサークルの存在を知った。

「学祭でコックリさんの店出してたサークルだよ」

と言われても、何のことだかわからなかった。

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#30 [柚子]

でも今、私の話を笑わずに聞いてくれている彼らを見ていると、相談して良かったと思える。

信じてもらえないかと思っていたのに、亮太さんは

「その自転車が見たい」

と言ってくれた。

⏰:09/06/23 16:57 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#31 [柚子]

「今日も乗ってきたから、自転車なら駐輪場にありますよ」

私が言い終わると同時に、亮太さんと空さんが立ち上がった。

食べかけのロールケーキを残して、自転車を置いた場所まで案内した。

黒いシンプルなママチャリが、私の自転車だ。

⏰:09/06/23 16:58 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#32 [柚子]

「この自転車です」

自転車を指差すと、亮太さんは黙って自転車を見つめていた。

空さんは

「へー。シンプルだし乗りやすそうだね」

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#33 [柚子]

と、見当違いにも聞こえる感想を述べた。

自転車を眺めていた亮太さんが言葉を発したのは、五分ほど経ってからだった。

「この自転車、しばらく貸してくれないか?」

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#34 [柚子]

「え…」

私は亮太さんの顔を見た。

「実際に乗ってみたいし、二、三日預かりたい」

「私この自転車がないと大学通えないんです」

⏰:09/06/23 17:02 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#35 [柚子]

家賃が安いからと、大学からも駅からも離れた場所を住居に選んだ私の交通手段は自転車しかなかった。

悩んでいると、空さんが大丈夫だよと言った。

「自転車を借りてる間は、亮太が車で送り迎えするから大丈夫だよ」

⏰:09/06/23 17:03 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#36 [柚子]

「え…でも…」

私は横目で亮太さんの顔を盗み見した。

(嫌そうじゃない…)

密かに心の中でガッツポーズをしながらも

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#37 [柚子]

「そういうことなら、別にいいですけど…」

と、少し困った顔をしてみせた。

内心、亮太さんに送り迎えしてもらえるという状況にウキウキしていたのは、言うまでもない。

⏰:09/06/23 17:28 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#38 [柚子]

話がまとまったところで、部室に戻った。

「自転車しばらく借りることにしたから」

空さんが部室に残っていた人たちに、そう説明していた。

「ってことは何かわかったんですか?」

⏰:09/06/23 17:28 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#39 [柚子]

質問したのは、純と呼ばれていた男の人だった。

「それを今から調べるんだよ」

亮太さんの口調から、純さんは部内でかなり下の立場なのだと私は理解した。

⏰:09/06/23 17:29 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#40 [柚子]

「調べるって…何かいい方法でも思い付いたんですか?」

純くんの言葉に、亮太さんがちょっぴり不敵な笑みを浮かべたことは、見なかったことにした。

「お前だよ」

⏰:09/06/23 17:31 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#41 [柚子]

「へっ?」

「お前が乗るんだよ。あの自転車に」

「えー。何で俺なんですか?部長が乗ればいいじゃないですか」

⏰:09/06/23 17:33 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#42 [柚子]

純さんが、亮太さんを部長と呼んだことを私以外には誰も気に止めている様子はなかった。

(やっぱり亮太さんがほんとの部長なんだ)

でも私は、その事実に気付いていないフリをすることにした。

⏰:09/06/23 17:34 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#43 [柚子]

部長さんって呼ぶより亮太さんって呼んだほうが、距離が縮まる気がしたから。

根負けした純さんが、やりますよと首を縦に振るまでの間、私は残っていたロールケーキを食べながら、亮太さんを眺めていた。

⏰:09/06/23 17:34 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#44 [柚子]

次の日の朝、約束していた時間ピッタリに部屋を出ると、アパートの下に亮太さんの乗った車が停まっていた。

車の知識がない私が見ても高級そうなその車に近付くと、亮太さんが中からドアを少し開けてくれた。

⏰:09/06/23 17:42 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#45 [柚子]

私のために、助手席に身を乗り出してドアを開ける姿に、朝からにやけてしまった。

大学に着き、車を降りるとき

「今日、あの自転車の検証するけど来る?」

と聞かれた、私は頷いた。

⏰:09/06/23 17:42 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#46 [柚子]

検証?と疑問に思いながらも、講義が終わるとすぐに部室へ行った。

部室には、一人だけ名前のわからない女の人がいた。

私と目が合うと一瞬驚いた顔をした彼女は、すぐに笑顔になった。

「今日はまだみんな来てないんですよ。でもすぐ来ると思うから、座ってゆっくりしてて下さい」

⏰:09/06/23 17:43 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#47 [柚子]

リスとかハムスターとか、小動物みたいな彼女は桃と名乗った。

話をしたら、私と同じ年だと分かった。

「桃でも、桃ちゃんでも、呼びやすいように呼んで下さいね」

⏰:09/06/23 17:47 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#48 [柚子]

タメだというのに、敬語を崩さない桃ちゃんに

「私のことも呼び捨てでいいよ」

と言うと、何故か桃ちゃんは照れたような顔をした。

⏰:09/06/23 17:48 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#49 [柚子]

「千晃だと恥ずかしいからちーちゃんって呼ぶね」

桃ちゃんはそう言ったけど私的には、ちーちゃんのほうが照れくさい気がした。

次に来たのは純さんだった。

⏰:09/06/23 17:50 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#50 [柚子]

桃ちゃんの話によると、純さんも同じ年らしい。

桃ちゃんが純くんと呼んでいたので、私も便乗して、純くんと呼ぶことにした。

亮太さんや空さんに比べてまだあどけなさの残る彼は、純さんより純くんの方がしっくりきた。

⏰:09/06/23 17:51 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#51 [柚子]

純くんが来てすぐに空さん、亮太さん、優さんも集まって検証開始となった。

私の自転車のまわりに全員が集まった。

中古のママチャリが、こんなに注目される日が来るとは、自転車自身も予想していなかっただろう。

⏰:09/06/23 19:32 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#52 [柚子]

亮太さんが「念のために」と、自転車の写真を撮った後で、純くんが自転車に乗った。

「とりあえず適当にその辺走ってこい」

亮太さんにそう言われた純くんが、息を切らして戻ってきたのは20分ほど後のことだった。

⏰:09/06/23 19:32 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#53 [柚子]

ブレーキでも壊れたのか、勢いを緩めることなく私たちの立っている場所に向かってきた。

「避けて下さい!」

純くんが、そう叫んでいることに気付いた時には、自転車はすでに目の前まで迫っていた。

⏰:09/06/23 19:34 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#54 [柚子]

(…ぶつかる!)

逃げるのも忘れ、固く目を閉じた私の体を自転車から守ってくれたのは、亮太さんだった。

頬が赤く染まるのを感じたのと同時に、自転車と純くんが地面に転がるのを見た。

⏰:09/06/23 19:35 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#55 [柚子]

「大丈夫?」

と心配する優さんとは対照的に、空さんは笑ってた。

「何やってんの?」

空さんは笑いながらも、起き上がろうとしている純くんに手を貸していた。

⏰:09/06/23 19:36 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#56 [柚子]

「笑い事じゃないですよ。止まらせてくれなかったんですから」

(止まらせてくれなかった?自転車が?)

私の頭の中に浮かんだ疑問は解明されないまま、純くんが事情を説明し始めた。

「後ろの人に話しかけたら、家に帰りたいって言ったんですよ。でも場所聞いたら隣町だったんで、明日にしましょうって言ったら怒っちゃって…」

⏰:09/06/23 19:37 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#57 [柚子]

純くんの話は、正直意味不明だった。

私はタイミングを見計らって口を開いた。

「あのー…後ろの人って誰のことですか?」

⏰:09/06/23 19:38 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#58 [柚子]

その場にいた全員の視線が私に集まった。

どういうことなのかは、純くんが教えてくれた。

「信じてもらえないかもしれないけど…」

という言葉で始まった純くんの話は、最初に宣言した通り信じられないような話だった。

⏰:09/06/23 19:39 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#59 [柚子]

だって純くん、自分は霊の声が聞こえるなんて言い出すんだもん。

話を聞いても半信半疑な私に、純くんはちょっと寂しそうに笑いかけた。

私は何だか申し訳ない気持ちになって

⏰:09/06/23 19:40 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#60 [柚子]

「明日一緒に隣町に行きたい」

と、口にしてしまった。

そんなわけで、私と純くんと後ろの人でのサイクリング?が決行されることになった。

⏰:09/06/23 19:40 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#61 [柚子]

隣町には、純くんの自転車に私が乗り私の自転車に純くんが乗って向かうことになった。

「遠いから休憩しながら行こうね」

まるで小さな子どもに話しかけるみたいに、純くんはそう言った。

⏰:09/06/23 19:42 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#62 [柚子]

(年の離れた妹でもいるのかな)

隣町までは、自転車で40分〜50分だと純くんは言っていた。

「休憩したり、目的の家を探したりするから一時間はかかるかな」

⏰:09/06/23 19:43 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#63 [柚子]

そう聞いた時には、いい運動になるなってくらいにしか考えてなかった。

すぐだと思っていた一時間を長く感じ始めたのは、自転車を漕ぎ始めて30分が経った頃だった。

「大丈夫?」

⏰:09/06/23 19:43 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#64 [柚子]

と、声をかけてくれていた純くんの問いかけに、笑顔を返せなくなっていた。

「近くに公園があるから、少し休憩しようか」

純くんの誘いを断る理由はなかった。

⏰:09/06/23 19:44 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#65 [柚子]

ベンチに座っていると、純くんが冷たいお茶とスポーツドリンクを買ってきてくれた。

「どっちがいい?」

と聞かれた私は、スポーツドリンクを指差した。

⏰:09/06/23 19:45 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#66 [柚子]

ペットボトルの蓋を開けると、一気に半分飲み干した私を見て、純くんがははっと笑った。

「疲れたでしょ?付き合わせちゃってごめんね」

「いえ…私のことだから」

⏰:09/06/23 19:46 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#67 [柚子]

「そっか。でもしんどくなったら無理しなくていいからね。部長が車で隣町まで来るから、いつでも迎えに来てもらえるから」

疲れていたせいか、純くんの優しい話し方が何だか嬉しかった。

⏰:09/06/23 19:47 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#68 [柚子]

最初は子ども扱いされてるみたいで、ちょっと嫌だったけど。

少しの休憩の後、私は自分から立ち上がった。

「もう大丈夫です。行きましょう」

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#69 [柚子]

休憩前よりもペースを落としてくれた純くんが、二度目の休憩を取ろうと言ったのは、隣町に入ってすぐだった。

隣町の町名の書かれた看板を通過して最初のコンビニで自転車をとめた。

「この近くみたいだから、一回部長に電話入れるね」

⏰:09/06/23 19:50 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#70 [柚子]

純くんの連絡を受けて、亮太さんがコンビニまで来ることになった。

待っている間に、私たちはその日二本目のペットボトルの蓋を開けた。

自転車に股がりながらコーラを飲んでいた純くんが、ペットボトルを地面に落としたのを見て、最初私は笑った。

⏰:09/06/23 19:51 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#71 [柚子]

でもそれは純くんにとって二回目の

“笑いごとじゃない”

事態だった。

「わ。わわっ。ちょ…ちょっと待って。部長と合流したらすぐ出発しますから」

あれは多分、後ろの人に言っていたんだと思う。

⏰:09/06/23 19:51 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#72 [柚子]

思えば、私が後ろの人の存在を信じたのはあの時だったかもしれない。

だって純くんが漕いでいないのに、自転車の車輪は回転を続けていたから。

驚いている私を残して、純くんを乗せた自転車は意思を持って走り始めた。

⏰:09/06/23 19:54 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#73 [柚子]

私は慌てて後を追った。

でも猛スピードで進む純くんに私が追い付けるわけもなく、何度目かの曲がり角で、私は純くんを見失った。

仕方なくとぼとぼと自転車を押しながらさっきいたコンビニまで戻ると、駐車場に亮太さんの車を見つけた。

⏰:09/06/23 19:55 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#74 [柚子]

車に駆け寄った私は、早口で事情を説明した。

話を聞いた亮太さんは

「そのうち連絡あるだろ」

と、落ち着いていた。

亮太さんの言葉通り、純くんからの着信があった時、私は助手席に座り、車内のクーラーで涼んでいた。

⏰:09/06/23 19:56 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#75 [柚子]

「どこにいるか分かった」

電話を切った亮太さんは、一度も迷うことなく純くんのいる場所まで車を走らせた。

純くんは、中学生くらいの男の子と一緒に一軒家の前に立っていた。

⏰:09/06/23 19:57 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#76 [柚子]

亮太さんの車を見つけ、車に向かって手を振る姿を見て私はホッとした。

事故に遇わないのが不思議なくらいのスピードで走っていたから。

「あのさ…」

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#77 [柚子]

車のそばまで来た純くんは、私を見ながら言った。

「あの自転車返してあげてもいいかな?」

「えっ?」

「あの自転車…あそこにいる男の子のお母さんのなんだ」

⏰:09/06/23 19:59 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#78 [柚子]

純くんは男の子に目をやりながらそう言った。

「でも私、リサイクルショップで買ったんだけど…」

純くんは少し声を落とし、頼むよって顔をした。

⏰:09/06/23 19:59 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#79 [柚子]

「あの子のお母さん、いつも自転車に乗ってたんだって」

「乗って…た?」

「うん。三ヶ月前に事故で亡くなったらしい」

私は返事に困った。

⏰:09/06/23 20:01 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#80 [柚子]

「いつもは自転車なのに、その日に限って乗り慣れてない車に乗った。酷い雨だったらしい」

純くんは、まるでその光景を見ていたかのような話し方だった。

お母さんかあの男の子のかどちらから聞いた話なのかは分からなかった。

「でも何で自転車がリサイクルショップに…」

⏰:09/06/23 20:02 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#81 [柚子]

私の質問の答えも、純くんは知っていた。

「盗まれたんだって。多分リサイクルショップに売ったのは、自転車を盗んだ犯人だと思う」

私も純くんも黙っていると、亮太さんが口を開いた。

「俺からも頼むよ。新しい自転車なら、俺が用意するから」

⏰:09/06/23 20:02 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#82 [柚子]

断る理由はなかった。

「返してあげて」

純くんの顔を見ながらそう告げると、純くんはホッとした表情をした。

何度も頭を下げ、お礼を口にする男の子に見送られながら、その家を後にした。

⏰:09/06/23 20:04 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#83 [柚子]

私が自転車を置いたままになっていたコンビニまで戻ると、亮太さんは後部座席に乗っていた純くんに車から降りるように言った。

「え?」

純くんは、ちょっと間抜けな母音を口にした。

⏰:09/06/23 20:05 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#84 [柚子]

「あの自転車、お前のだろ?」

「あ…」

純くんは諦めたように車を降りた。

「じゃ、明日部室で」

力なく手を振る純くんを置いて、車は発進した。

⏰:09/06/23 20:05 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#85 [柚子]

「何か悪いですね」

私がそう言うと、亮太さんは何のことかわからないという顔をした。

「純くんですよ。私が一緒に行きたいって言わなきゃ車で帰れたのに…って」

⏰:09/06/23 20:06 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#86 [柚子]

「あぁ…」

そう呟いた後で、亮太さんは笑った。

文字にするなら“ふっ”って感じの笑い方だった。

「あいつなら大丈夫だ。打たれ強いのが取り柄だからな」

⏰:09/06/23 20:07 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#87 [柚子]

言い方はともかく、純くんのこと信頼してるんだなって思った。

別れ際に、亮太さんは

「明日部室に来れるか?」

と、私に聞いた。

⏰:09/06/23 20:08 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#88 [柚子]

特に予定もなかったので、講義が終わったら部室に行くと伝えて、車を降りた。

その夜は、疲れていたハズなのに中々寝付けなかった。

何度となく、昼間のことを思い出しては寝返りをうった。

⏰:09/06/23 20:09 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#89 [柚子]

次の日部室のドアを開けると、亮太さんと空さんがいた。

「あ。ちーちゃんだ。いらっしゃい」

先に声を掛けてくれたのは、空さんだった。

⏰:09/06/23 20:09 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#90 [柚子]

ちーちゃんという呼び方は多分、桃ちゃんから聞いたんだと思う。

「今日はまだ二人だけなんですね」

私は二人の顔を交互に見た。

⏰:09/06/23 20:11 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#91 [柚子]

「純もいるぞ」

亮太さんは横目で、ソファーの方を見た。

ソファーからは、足が少しだけ見えていた。

「筋肉痛だって」

そう言いながら空さんは、茶化すように笑った。

⏰:09/06/23 20:11 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#92 [柚子]

「ちーと同い年なのに筋肉痛なんて情けない」

亮太さんの発した“ちー”という単語が、私を指すものだと気付くのに数秒かかった。

気付いた時には、すでに頬が赤くなっていた。

⏰:09/06/23 20:12 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#93 [柚子]

私の顔の赤さを二人が気にとめる様子がなかったのは救いだった。

数分後、優さんと桃さんが部室に来た。

純くんもソファーから起き上がり、全員集合となった部室で空さんが口を開いた。

⏰:09/06/23 20:12 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#94 [柚子]

「じゃあ…結論を聞かせてもらうとしましょう」

空さんの視線は、私に向いていた。

「えっ?えっ?」

戸惑いながらみんなを見ると、みんなの目も私を見ていた。

⏰:09/06/23 20:14 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#95 [柚子]

「どっちが部長か決まった?」

そう言って、ニッコリしたのは優さんだった。

「あ…」

そういえば、初めてこの部室に来た時にそんな話をしていた記憶がある。

冗談だとばかり思っていたのに本気だったらしい。

⏰:09/06/23 20:15 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#96 [柚子]

どっちが部長に相応しいかなんて、知り合って間もない私が決めていいのかわからなかった。

でも、どちらかの名前を口にしないとおさまりそうにない状況に、私は悩んだ。

空さんは、ハキハキしているし社交的な感じがする。みんなをまとめる能力もありそうだ。

⏰:09/06/23 20:16 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#97 [柚子]

亮太さんは、口は悪いけどみんなことを考えているのは伝わってくる。頭もキレそうだし、格好いい。

いや、格好よさは関係ないけど…。

私が迷っている間、みんなは黙って私が口を開くのを待っていた。

⏰:09/06/23 20:17 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#98 [柚子]

(うん。決めた!)

「部長は…」

私は名前を口にする前に大きく息を吸い込んだ。

その瞬間、みんなの表情が真剣になるのが分かった。

⏰:09/06/23 20:18 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#99 [柚子]

「純くん!」

あの時の、みんなの唖然とした顔は今思い出しても笑える。

「な…なんで!?」

身を乗り出して、空さんは聞いた。

「だって…」

⏰:09/06/23 20:19 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#100 [柚子]

私は純くんの顔を見ながら言葉を続けた。

「一番頑張ってくれたのは純くんだから」

空さんと亮太さんが反論する中、私は純くんに言った。

「ありがとう」

⏰:09/06/23 20:20 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#101 [柚子]

この後、純くんが亮太さんに

「部長なんだからお前が買ってやれよ」

と、私の自転車のお金を払わされそうになっていた。

⏰:09/06/23 20:22 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#102 [柚子]

空さんからは

「賄賂でも渡したんだ」

って問い詰められてた。

結局は

「私か亮太のどっちかって話だったんだから、今回の話は無効だ!」

⏰:09/06/23 20:23 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#103 [柚子]

という空さんの一言で、部長は誰かって話はひとまず保留になった。

最後にちょっとした騒ぎはあったけど、私は部費と称した亮太さんのポケットマネーで、新しい自転車を買ってもらった。

そして私は、今まで通りの生活に戻った。

⏰:09/06/23 20:24 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#104 [柚子]

みなさんも、何か非日常的なことでお困りの際は、あの部室を訪ねてみて下さい。

きっと彼らが、その悩みを解決してくれます。

ちょっとだけ騒がしくて、変わった人たちですが…。

⏰:09/06/23 20:25 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#105 [柚子]


case.1 千晃

>>2-104


⏰:09/06/23 20:29 📱:P906i 🆔:FroRXXEo


#106 [柚子]

case.2 門倉

雨の日だった。

その音は、雨でびしょ濡れになった人間が歩く足音を想像させた。

ペタペタと地面を歩く音に気付いたのは、眠りにつこうと布団に入った時だった。

⏰:09/06/24 14:49 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#107 [柚子]

クーラー代をケチって、部屋の窓を全開にしていた俺の耳は、その奇妙な音を拾った。

(傘パクられたのか?)

朝から雨が降っていたのに雨に打たれながら帰宅する理由はそれくらいしか思い付かなかった。

⏰:09/06/24 14:50 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#108 [柚子]

さらに言えば、その音が何故奇妙なのかという理由については考えることさえしなかった。

いくら窓を開けていたとは言え、自分の住んでいるマンションに帰ってきた人間の足音など聞こえるハズがないのに。

だけど俺は確かに感じた。マンションのエントランスを歩く雨に濡れた足音を。

⏰:09/06/24 14:51 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#109 [柚子]

次の日の夜、半分眠りにつきかけていた俺の耳にまたあの足音が聞こえた。

(昨日の人か?)

何が起きたら、二日も連続でびしょ濡れになるのか。何となく不思議に思い、俺は耳を澄ませた。

⏰:09/06/24 14:52 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#110 [柚子]

足音の人物は、エントランスから階段へ向かったようだった。

六階建ての俺のマンションには、エレベーターと非常階段がある。

その為、五階に住んでいる俺が階段を使ったことは一度もない。

⏰:09/06/24 14:53 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#111 [柚子]

わざわざ階段を使うなんて面倒くさい。それだけの理由だ。

一瞬何か引っ掛かったものの、すぐに二階に住んでいる人間だろうと勝手に納得し、眠りについた。

何かおかしい。

⏰:09/06/24 14:54 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#112 [柚子]

そう感じたのは、三日目の夜だった。

その日は連れが泊まりに来ていた。

夕方、大学から帰宅してすぐに飲み始めた俺たちは、11時を回る頃には横になっていた。

⏰:09/06/24 14:55 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#113 [柚子]

会話も減り、二人でテレビを観ていた時だった。

「トイレ貸して」

と、連れが立ち上がりトイレへ向かった。

トイレは部屋のドアの向こう、廊下の横にある。

⏰:09/06/24 14:56 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#114 [柚子]

連れがドアを閉めた音と、あの足音が聞こえてきたのはほぼ同時だった。

(またかよ…)

さすがに変に思った俺は、トイレから戻った連れに話しかけた。

⏰:09/06/24 14:57 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#115 [柚子]

「そういやさぁ、何か変な奴がいるんだよ」

「変な奴って?」

「何かいっつも雨に濡れてんの」

「は?」

意味がわかんないって顔をしている連れに、俺は足音の話をした。

⏰:09/06/24 14:58 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#116 [柚子]

「それってさー…」

俺の話を聞いた連れは、火をつけたばかりの煙草の煙を吐きながら言った。

「幽霊じゃね?」と。

最初俺は笑い飛ばした。幽霊何かいるわけねぇじゃんって。

⏰:09/06/24 14:58 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#117 [柚子]

「でもさー」

と、連れは窓に目をやりながら至って冷静な口調で言った。

「今日雨降ってないし」

全身に鳥肌が立った。俺の記憶でも、今日は一度も雨は降っていなかった。

⏰:09/06/24 15:00 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#118 [柚子]

「は?じゃあ何であいつびしょ濡れなの?」

一瞬ビビってしまったのを隠そうと、俺はわざときつい口調で言った。

「だからー…幽霊じゃねぇの?」

そんな俺の気持ちを無視して、連れはもう一度、幽霊という単語を口にした。

⏰:09/06/24 15:01 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#119 [柚子]

他に話すような話題もなかったこともあって、俺たちはその謎の足音について話をした。

「そもそもさー、五階に住んでるお前にエントランスにいる人間の足音が聞こえるわけねーじゃん」

するどいツッコミを入れた俺の連れは、新しい煙草に火をつけた。

⏰:09/06/24 15:02 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#120 [柚子]

「お前賢いな!やっぱ法学部は言うこと違うわ」

必要以上に俺に尊敬の眼差しを向けられた連れは、フーっと煙を吐きながら笑った。

「二つ目の疑問点は、何故びしょ濡れなのか…だな」

⏰:09/06/24 15:03 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#121 [柚子]

俺の言った法学部という言葉を意識したのか、弁護士みたいな口調だった。

「てっきり雨に濡れたんだと思ってたけど、違うんだよな?」

俺は窓に目をやった。雨どろこか月がハッキリと見えるくらいの空だった。

⏰:09/06/24 15:04 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#122 [柚子]

「幽霊だと仮定するなら、雨の日に死んだって線もあるな。もしくは水死とか」

「雨って気がするんだけどなー」

独りごとのように呟いた俺に連れは言った。

「よくある怪談なら、その足音はこの部屋に近付いてくるんだろうな」

⏰:09/06/24 15:06 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#123 [柚子]

人の部屋だからなのか、連れはそんな無責任なことを口にし、笑った。

その時はそんなことあるわけないと思い、俺も一緒になって笑った。

笑い話でなくなったのは、四日目の夜だった。

⏰:09/06/24 15:08 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#124 [柚子]

寝転がってテレビを観ていた俺の耳に、またしてもあの足音が響いた。

つけていたテレビの音が消え、代わりに足音が耳に聞こえてきた。

さっきまで快適だった自分の部屋が、全く別の場所のように感じられた。

聞きたくないのに、足音は勝手に俺の耳の中に響いてくる。

⏰:09/06/24 15:08 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#125 [柚子]

エントランスから階段へと歩く足音は、以前も聞いたものだった。

(二階、三階、四階…)

一度も使ったことのない階段のどこをそいつが歩いているのか、何故か手に取るようにわかった。

その足音は、五階で止まった。

⏰:09/06/24 15:09 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#126 [柚子]

ピタリと五階で止まった足音に、連れの言葉を思い出さずにはいられなかった。

“この部屋に近付いてくるんだろうな”

「…ってわけで、マジで俺の部屋まで来られたらたまんないって言うか何とかして下さいよ」

⏰:09/06/24 15:11 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#127 [柚子]

長々と足音の説明を終えた俺を、小動物みたいな女は見つめていた。

心霊サークルなのに怖がりなのか、連れほどの話術のない俺の話を、プルプル震えながら聞いていた。

「あの…どうするかは空さんか亮太さんに聞いてみないとわからないです」

「はぁ?」

⏰:09/06/24 15:13 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#128 [柚子]

声が大きかったのか、その女はまたプルプルと震えた。

(チワワだな)

チワワみたいな女は、何度もドアを振り返りながら、次の部員の登場を待っているようだった。

「あんた、名前は?」

⏰:09/06/24 15:13 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#129 [柚子]

肩を震わせながら俺の顔を見つめる姿は、実家で飼っているチワワそっくりだった。

犬のクセに果物が好きなそのチワワは、毎日のように缶詰の果物を与えられていた。

中でも桃缶が好物で、お袋の

⏰:09/06/24 15:15 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#130 [柚子]

「はーい、桃よー」

という言葉を聞くと、飛び上がって喜んだ。

いつしか、最初に付けた名前ではなく桃という言葉に返事をするようになってしまったくらいだ。

今では最初に付けた名前も忘れてしまうくらい、桃という名前が定着してしまった。

⏰:09/06/24 15:16 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#131 [柚子]

「桃果です」と答えた女の声は聞き返してしまいそうなくらい小さな声だった。

(桃…果?)

あまりの偶然に、俺は声をあげて笑った。

突然笑い出した俺は、さらに桃を怖がらせたらしい。少し潤んだその目も、犬の桃にそっくりだった。

⏰:09/06/24 15:17 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#132 [柚子]

しばらくして笑いのおさまった俺は、桃の目の前に両手を差し出した。

「え…」

戸惑っている桃の目の前で、その両手をバチンと思いっきり叩いた。

⏰:09/06/24 15:18 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#133 [柚子]

ビクンと肩が震え、みるみる涙目になる桃の姿に、俺はまた笑いが込み上げてきた。

犬の桃も、俺に寄ってきては同じことをされて、泣きそうな表情をしていた。

「ごめん、ごめん」

⏰:09/06/24 15:19 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#134 [柚子]

笑いながら、事情を説明しようとした時だった。

ドアの開く音と同時に、数人の話し声が聞こえてきた。

(タイミング悪いな…)

そう思いながら、ドアに目をやった。

⏰:09/06/24 15:21 📱:P906i 🆔:fPMxZ4Vo


#135 [柚子]

入ってきたのは、女二人だった。

一人はショートカットの美人系、もう一人はロングの可愛い系だった。

(当たり多いな…)

⏰:09/06/25 15:06 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#136 [柚子]

ハーレム状態の俺は、三人の顔を交互に見た。

「空さーん」

小走りで桃はショートカットの女の後ろに隠れた。

完璧に謝るタイミングをなくした俺は苦笑するしかなかった。

⏰:09/06/25 15:09 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#137 [柚子]

「ど、どうしたの?」

空と呼ばれていた女は、背中に張り付くように隠れている桃に聞いた。

「あの人…」

桃の言葉に、俺に視線が集まった。

⏰:09/06/25 15:11 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#138 [柚子]

「あー…えと。何かここに来たら心霊現象解決してくれるって聞いて来たんすけど…」

不審そうな視線に耐えられず、俺は説明した。

「あ。そうだったんだ。いやいや、私てっきり変な奴かと…」

⏰:09/06/25 15:14 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#139 [柚子]

そこまで言っておきながら空は両手で口を隠した。

苦笑しながら言葉を続ける空を見て、さっきの美人という単語を脳内で訂正した。

黙っていれば美人に。

⏰:09/06/25 15:17 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#140 [柚子]

「桃ちゃんはもう自己紹介したかな。私は空で、この子は優。よろしく」

そう言って空の差し出した手は、指の長いきれいな手だった。

「あ、こちらこそ…」

⏰:09/06/25 15:19 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#141 [柚子]

短い握手の後、残りの二人の部員が入ってきた。

二人はそれぞれ、亮太と純と名乗った。

ま、男はどうでもいいが、これで部員は全員のようだ。

⏰:09/06/25 15:22 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#142 [柚子]

「それで相談というのは?」

話を切り出したのは、亮太という男だった。

俺は桃を見ながら、話ならそいつにしたと言った。

同じ話を二回もさせられるのはごめんだった。

⏰:09/06/25 15:25 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#143 [柚子]

全員の視線を集めた桃は、また仔犬のように肩を震わせた。

「あ…はい。だいたいの話は私が聞きました…」

自信のなさそうな小さな声だった。

⏰:09/06/25 15:27 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#144 [柚子]

「そうなんだ。じゃあ桃ちゃん説明して」

そう言ったのは、俺の前に座っていた空だった。

指名を受けた桃は、ゆっくり話し始めた。

⏰:09/06/25 15:29 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#145 [柚子]

たどたどしい説明に、何度も俺が口を挟んだことは言うまでもない。

こんなことなら、俺が一人で話した方が楽だったんじゃないかと思ったほどだ。

ようやく説明を終えた俺は出されたアイスコーヒーを一気に飲み干した。

⏰:09/06/25 15:33 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#146 [柚子]

「で?」

グラスをテーブルに置くと俺は聞いた。

「何とかしてくれるのか?」

俺の質問に答えたのは亮太だった。

⏰:09/06/25 15:39 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#147 [柚子]

「とりあえずお前の部屋に行きたい。できればその足音が聞こえる時間に」

「は?あんたが?」

そう聞き返した俺に亮太は他に誰がいるんだって顔をした。

⏰:09/06/25 15:41 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#148 [柚子]

「まぁ…別にいいけど…。ただ条件がある」

俺は桃を指差して言った。

「こいつも一緒な」

二度目の指名を受けた桃は誰が見ても分かるくらい嫌がっていた。

⏰:09/06/25 15:48 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#149 [柚子]

亮太はそんなこと気に止める様子もなく

「もう一人連れてってもいいか?」

と聞いてきた。

断る理由もなく、俺は承諾した。

⏰:09/06/25 15:51 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#150 [柚子]

もう一人は優に決まった。

部屋の掃除もしたかったので、夕飯をすませた頃に再度集まるようにしてもらった。

さすがにAVとエロ本、ビールの空き缶だからけの部屋に、女を入れるのは気が引けた。

⏰:09/06/25 15:58 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#151 [柚子]

夕飯もそこそこに、掃除に励んでいた俺の部屋のチャイムが鳴ったのは夜10時を過ぎた時だった。

残っていた洗濯物を全部洗濯機に詰め込むと、玄関のドアを開けた。

ドアの前には、差し入れなのかコンビニ袋を下げた亮太が立っていた。

⏰:09/06/25 16:03 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#152 [柚子]

亮太の後ろには純と桃が立っていた。

俺と目が合った純は、軽く頭を下げた。

「散らかってるけど…」

そう言って、三人を部屋に入れた。

⏰:09/06/25 16:43 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#153 [柚子]

ワンルームの俺の部屋に、四人は少し狭く感じた。

「優が来るんじゃなかったのか?」

俺の問いに、亮太は急用だと答えた。

それ以上は何も聞くなとでも言うような口調だった。

⏰:09/06/25 16:46 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#154 [柚子]

俺が不良みたいな悪いイメージを持たれていた為に、優の代理で純が来ることになったという話を後になって桃から聞いた。

「足音が聞こえるのは、11時から12時だったな?」

部屋を見回していた亮太に聞かれ、俺は頷いた。

⏰:09/06/25 16:49 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#155 [柚子]

「先に階段を見てくるか」

時計に目をやりながら亮太が呟くと、純と桃が立ち上がった。

俺はどうするべきなのか迷い、亮太を見た。

⏰:09/06/25 16:51 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#156 [柚子]

「時間までには戻ってくるから、部屋にいてもいいぞ」

常に命令口調な亮太は俺にそう言った後、ベッドの下に視線を移した。

「まだ片付けも途中みたいだしな」

⏰:09/06/25 16:53 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#157 [柚子]

そう言った亮太の視線を追うと、ベッドの下に脱ぎっぱなしのボクサーパンツが落ちていた。

全部洗濯機に入れたつもりが、一枚残っていたらしい。

黒いボクサーパンツを見てしまったのか、桃は恥ずかしそうにうつ向いていた。

⏰:09/06/25 16:55 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#158 [柚子]

そんな流れもあって、俺は一人部屋で片付けを続けることにした。

裏返しの靴下を片方と、AVが一枚テレビの下から見つかった。

亮太たちが戻ってきたのは30分ほどしてからだった。

⏰:09/06/25 16:59 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#159 [柚子]

時計の針は10時44分を指していた。

「足音が聞こえるように」

と、亮太が消したテレビのせいで部屋には沈黙が訪れた。

⏰:09/06/25 17:01 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#160 [柚子]

沈黙も作ったのが亮太なら沈黙を破ったのも亮太だった。

「純、その袋取ってくれ」

うちに来た時、亮太が手に下げていたコンビニ袋の中身は予想通り差し入れだった。

⏰:09/06/25 17:03 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#161 [柚子]

さっき一人になった時にちらっと袋の中を見ていた俺は、中に入っているものが何か分かっていた。

缶コーヒーが二本、お茶が一本、それとリンゴジュースだ。

どれでも好きなのを、と勧められた俺は、明らかに桃の為に買ったであろうリンゴジュースを指差した。

⏰:09/06/25 17:07 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#162 [柚子]

あっ…という顔をした桃に笑いそうになりながら

「俺、カフェインアレルギーなんです」

と、存在するのかもわからないアレルギー名を述べた。

⏰:09/06/25 17:08 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#163 [柚子]

「部室でコーヒー飲んでただろ。それもブラックで」

そう言って亮太は、俺の手から取ったリンゴジュースを桃の前に置いた。

イタズラが失敗して苦笑している俺を、桃はちょっと怒ったような顔で見ていた。

⏰:09/06/25 17:12 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#164 [柚子]

言い訳をするのも見苦しいので、俺は大人しくブラックの缶コーヒーを手に取った。

その缶コーヒーの蓋を開けた時だった。

唐突に、でもハッキリとあの足音が聞こえた。

⏰:09/06/25 17:24 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#165 [柚子]

俺の部屋にいれば全員に聞こえるのか、三人とも身動きもせず耳を澄ませていた。

亮太が立ち上がったのは、エントランスから階段へと足音が移動した時だった。

「行くぞ」

⏰:09/06/25 17:26 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#166 [柚子]

どこに?と聞く暇もなく、亮太と純は部屋を出て行ってしまった。

出遅れたらしい桃は、まだ恐怖のあまり固まっていた。

今にも泣きそうになりながらも、必死に我慢している桃の姿に俺はある衝動に駆られた。

⏰:09/06/25 17:38 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#167 [柚子]

(抱きしめたい…)

あの時、そんなことしたら怖がられるという思いと、守ってやりたいという思いで、俺の頭の中でバトルが勃発していた。

怖さなんて、すっかり忘れてた。

⏰:09/06/25 17:41 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#168 [柚子]

散々迷った挙げ句、俺はベッドにあった布団を体育座りで震えていた桃にかけた。

頭からすっぽり布団にくるまった桃を、布団の上から抱きしめた。

「大丈夫だから…」

⏰:09/06/25 17:42 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#169 [柚子]

そう言った俺に、桃は何の返答もしなかった。

でも抵抗することもなかった。

時折り大丈夫だからとか、何かあったら守るからとかそんな臭いセリフを呟きながら、桃を抱きしめていた。

⏰:09/06/25 17:47 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#170 [柚子]

あんなこっぱすかしいセリフを吐けたのは、布団で顔が見えなかったせいだと思う。

少しして、布団から桃の笑い声が聞こえてきた。

俺は少し力を緩め、声をかけた。

⏰:09/06/25 17:49 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#171 [柚子]

「な…何だよ?」

桃は笑いながら

「キャラじゃない」

と言った。

その後で、「でもありがとう」って続けた。

⏰:09/06/25 17:51 📱:P906i 🆔:qTAOTeVI


#172 [柚子]

この後戻ってきた亮太と純に物凄い勢いで殴りかかられたのは忘れもしない。

桃が必死に説明してくれたおかげで、右頬にストレートを一発喰らっただけで済んだ。

正座させられた俺は、まだ怒りの収まっていない二人の様子をチラチラと見た。

⏰:09/06/27 12:06 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#173 [柚子]

「優連れて来なくて正解だったな」

ようやく亮太が口にした言葉はそれだった。

純も隣でうんうんと首を縦に振りながら同意していた。

⏰:09/06/27 12:07 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#174 [柚子]

「とりあえず何があったかは明日説明するから、部室に来てくれ」

亮太は俺を睨み付けながらそう言った。

「えっ?今説明してくれないんすか?」

⏰:09/06/27 12:09 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#175 [柚子]

わけが分からない俺を無視して、亮太は立ち上がった。

「帰るぞ」

亮太の声に、純と桃も立ち上がった。

⏰:09/06/27 12:11 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#176 [柚子]

(相当嫌われたな)

苦笑させられるのは、亮太たちと関わってから何度目だろう。

俺は黙って三人を玄関で見送って眠りについた。

⏰:09/06/27 12:14 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#177 [柚子]

次の日部室を訪ねると、空と名乗っていた女がいた。

二人でここにいたらまた変な誤解されるかなと思い、空から離れたソファーに腰をおろした。

そんな俺の心情を知ってか知らずか、アイスコーヒーを持ってきた空はそのまま俺の向かいのソファーに座った。

⏰:09/06/27 12:18 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#178 [柚子]

「亮太に殴られたんだって?」

笑いながら空は言った。

「あー…まぁ、あれは俺が悪いんで…」

殴られた頬を触りながら俺はそう答えた。

⏰:09/06/27 12:21 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#179 [柚子]

「桃ちゃん怖がりだからねー」

どうやら空には妙な誤解はされてないらしかった。

まぁ、そうじゃなきゃ俺の前に座ったりしないか。

⏰:09/06/27 12:32 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#180 [柚子]

次に部室に来たのは亮太だった。

俺を見るなり空に

「あんまり近づくと妊娠するぞ」

と言っていたけど、大人な俺はあえて笑顔で返した。

⏰:09/06/27 12:34 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#181 [柚子]

「話しただけじゃ妊娠しませんよ。もしかして妊娠する行為が何か知らないんですか?」

嫌味たっぷりの俺の言葉に空が笑い出した。

「亮太こんなんだけど彼女いるんだよ」

⏰:09/06/27 12:39 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#182 [柚子]

「ま…マジで!?」

(話し方とか眼鏡とかオタクにしか見えないのに…)

驚いて空の顔を見た俺は、次の空の言葉にさらに衝撃を受けた。

⏰:09/06/27 12:45 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#183 [柚子]

「昨日会ったでしょ?優が亮太の彼女だよ」

(な、何で?)

ってのが最初の感想だった。

今ってオタクブームなの?オタモテ!?

⏰:09/06/27 12:50 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#184 [柚子]

「そんなに驚いた顔しなくてもいいだろ」

そう言って亮太は空の横に腰をおろした。

俺はマジマジと亮太の顔を眺めずにはいられなかった。

⏰:09/06/27 12:53 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#185 [柚子]

「それで昨日の話だが…」

亮太が本題に入ろうとしているのに、俺は上の空だった。

だけどすぐに俺は、亮太彼女持ち説を忘れた。

⏰:09/06/27 12:56 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#186 [柚子]

「単刀直入に言うと、あの霊はお前の部屋に行こうとしていたんじゃない」

「え…えっ?」

俺は思わず身を乗り出した。

「あの霊の跡を追ったから確かだ」

⏰:09/06/27 12:58 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#187 [柚子]

「どこに行ってたんすか?」

俺の質問に、亮太は何の迷いもなく答えた。

「上の階だ」

「は?」

⏰:09/06/27 13:01 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#188 [柚子]

「さらに正確に言えば、お前の部屋の上にある自分の部屋に向かっていた、だな」

亮太の話はこうだ。

上の階に住む男が事故に遇い死んだ。管理人に聞いた話では、死体は雨でびしょ濡れだったらしい。

⏰:09/06/27 13:08 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#189 [柚子]

コンビニからの帰り道、急いでいた男は深夜の信号を無視し、トラックに跳ねられた。

「傘を持ってなかったらしいから、雨に濡れないよう急いでたんだろう」

というのが亮太の意見だ。

⏰:09/06/27 13:10 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#190 [柚子]

「何で俺の部屋にだけ足音が聞こえたんすか?」

話を聞き終えた俺は聞いた。

「さぁ…その男の傘でもパクったんじゃないのかお前」

⏰:09/06/27 13:13 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#191 [柚子]

「あ…」

亮太の言葉に、ある記憶が蘇った。

何日か前、近所のコンビニで立ち読みして店を出た俺は雨が降っていることに気付いた。

⏰:09/06/27 13:15 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#192 [柚子]

深夜にも関わらず、夕立みたいな激しい雨だった。

迷うことなく俺は傘立てにあったビニール傘をパクって家に帰った。

「うわ。お前最低だな」

⏰:09/06/27 13:16 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#193 [柚子]

俺の反応を見た亮太の言葉に反論する気は起こらなかった。

「ど…どうしたらいいんすか、俺!?」

「ま、別にどうもしなくていいと思うぞ」

⏰:09/06/27 13:18 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#194 [柚子]

暢気な口調で、亮太はそう言った。

「や、でも…その人が死んだのって俺のせいかもしれないじゃないですか?」

「お前のせいじゃない」

今度はハッキリした口調だった。

⏰:09/06/27 13:20 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#195 [柚子]

「誰のせいかってことなら信号を無視した本人のせいだし、夜中だからってスピードを出してたトラックの運転手も悪い」

さっきオタク呼ばわりした亮太が、急にかっこよく見えた。

亮太は最後にこう言った。

⏰:09/06/27 13:23 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#196 [柚子]

「気になるなら、傘だけでも返したらどうだ。玄関のドアノブにでも引っかけておけばいいだろ」

「なるほど!んじゃそうします。意外と頭いいんすね!!」

褒めたつもりだったが、亮太は変な顔をしていた。

⏰:09/06/27 13:26 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#197 [柚子]

結局は“部屋に霊が来る”と思い込んだ俺の勘違いだったわけで…。

でも亮太たちには感謝してる。足音も謎も解明してくれたし。

まぁ、何かあったらあのサークルに相談すれば間違いないと思う。

⏰:09/06/27 13:34 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#198 [柚子]

やたら命令口調のムカつく男がいるけど女の子らは、可愛いしな。

あ、でも桃にだけはちょっかい出さないように。

桃は今俺の彼女だからそこんとこよろしく。

⏰:09/06/27 13:38 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#199 [柚子]



case.2 門倉

>>106-198



⏰:09/06/27 13:40 📱:P906i 🆔:IQXY3RA6


#200 [柚子]

case.3 綾子

20歳になるまでに忘れなければならない言葉がある。

そんな噂話を聞いたのは、遥か昔、私がまだ小学生だった時だ。

⏰:09/08/10 20:20 📱:P906i 🆔:i4rwxxeQ


#201 [柚子]

よくある怪談。

でも当時の私を怖がらせるには十分だった。

その話を聞いた日は姉に一緒にお風呂に入ってもらったくらいだから。

⏰:09/08/10 20:22 📱:P906i 🆔:i4rwxxeQ


#202 [柚子]

怖さというのは、実際に身を持って体験でもしない限り、時と共に薄れていくものなのだろうか。

大学生になった私は、その話のことはすっかり忘れてしまっていた。

思い出したのは、つい先日のことだった。

⏰:09/08/10 20:24 📱:P906i 🆔:i4rwxxeQ


#203 [柚子]

姉と一緒に実家で夕飯を食べていた時だった。

その日の食卓は、20歳の誕生日を二週間後に控えた私の昔話で盛り上がっていた。

「昔は泣き虫だったのに、もう成人なんて早いわね」

⏰:09/08/10 20:32 📱:P906i 🆔:i4rwxxeQ


#204 [柚子]

とかまぁ、そんな感じで次々と私の恥ずかしい過去が掘り返されていた。

その中にあの話が出てきたのだ。

口にしたのは姉だった。

⏰:09/08/10 20:34 📱:P906i 🆔:i4rwxxeQ


#205 [柚子]

「綾子、昔はすっごい怖がりだったよね」

姉の言葉に、私は苦笑しながらとぼけてみせた。

「えー…そうだっけ?」

⏰:09/08/10 20:35 📱:P906i 🆔:i4rwxxeQ


#206 [柚子]

「そうだよ。綾子、学校で怖い話聞いてくるたびに私と一緒にお風呂入ってたもん」

苦笑するしかなかった。

とぼけてはみたものの、確かに私の記憶にある出来事だった。

⏰:09/08/10 20:41 📱:P906i 🆔:i4rwxxeQ


#207 [柚子]

「そういや何か20歳になるまでに忘れなきゃいけない言葉があるとか言ってなかったっけ?」

笑いながら姉が発した言葉で、眠っていた私の記憶が唐突に蘇った。

“*******”

⏰:09/08/10 20:47 📱:P906i 🆔:i4rwxxeQ


#208 [柚子]

その日からだ。私の周りで不可解なことが起こり始めたのは。

20歳までに忘れなければならない言葉。

あと二日で私は20歳になる。

⏰:09/08/11 00:07 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#209 [柚子]

「ふーん。それで不可解なことってゆうのは?」

私の話を聞いて、眼鏡の男はそう訊ねた。

5分は話していたであろう私の話は、ふーん。という一言でまとめられてしまった。

⏰:09/08/11 00:09 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#210 [柚子]

態度は悪いが、彼は一応このサークルの部長らしい。

「視えるんです。直接ではなく間接的にですけど…」

私の回答に、一瞬彼の目付きが変わった気がした。獲物を狙う動物みたいな視線。そんな感じだった。

⏰:09/08/11 00:12 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#211 [柚子]

「間接的に…とは?」

私と彼しかいない室内に、彼の言葉は静かに響いた。

「直接は視えません。でも鏡とか、何か物体を通すと視えるんです」

⏰:09/08/11 00:14 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#212 [柚子]

「物体を通すと、か…。鏡の他には?」

「電源の消えたテレビでも視えました」

「テレビか…」

⏰:09/08/11 00:16 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#213 [柚子]

「はい。テレビって消えた状態だと黒い色の画面ですよね。そこに部屋の物とかが反射して映ることあるじゃないですか」

ただ私が視たのは、物ではなく霊だったのだけど。

その時の様子を思い出し、寒気を感じた。

⏰:09/08/11 00:19 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#214 [柚子]

「なるほど…。他にはどうだ?」

「あと私が視たのは携帯ですね。同じように暗い画面の時に…」

友達のホームページを見ていた時だった。

⏰:09/08/11 00:21 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#215 [柚子]

背景を黒に設定している友達のホームページ。

そこにアクセスした時、携帯に私の顔が映った。

その私の顔の横に、それはいた。

⏰:09/08/11 00:23 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#216 [柚子]

ちょうど私の顔を覗きこむように、それは私を睨み付けていた。

驚きのあまり、怖さも忘れ振り向いたがそこには何もいなかった。

霊の気配なんて微塵もわからない私は、それ以上どうすることもできなかった。

⏰:09/08/11 00:25 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#217 [柚子]

あまりに頻繁に視るようになってきた私が、最初に相談したのは姉だった。

「そうゆう話なら、綾子の大学のサークルの人に相談してみたら?」

姉は私にそう言った。

⏰:09/08/11 00:27 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#218 [柚子]

「綾子の大学の学祭に行った時に、そのサークル、コックリさんやってたわよ」

姉の話によると、無料で心霊現象を解決してくれるらしい。

⏰:09/08/11 00:29 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#219 [柚子]

半信半疑だったが、他に頼る宛てもなかった私は

「一応相談してみる」

と、答えた。

⏰:09/08/11 00:30 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#220 [柚子]

「大人になったと思ってたけど、綾子もまだまだ子供ね」

と、姉は笑っていた。

おそらく、私の話など半分くらいしか信じていなかったのだろう。

⏰:09/08/11 00:31 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#221 [柚子]

でも、今私の目の前にいる彼は違うようだった。

真剣な顔で、私の話をぶつぶつと反芻している。

しばらく彼の顔を眺めていると、彼と目が合った。

⏰:09/08/11 00:33 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#222 [柚子]

「急に霊が視えるようになった原因に何か心当たりはあるか?」

彼に聞かれた私の脳裏に浮かんだのは、あの言葉だった。

「部長さんは今何歳ですか?」

⏰:09/08/11 00:35 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#223 [柚子]

質問を質問で返され、彼は少し面食らったような表情を浮かべた。

「21歳だが…」

それが何だという顔で私を見つめていた。

⏰:09/08/11 00:37 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#224 [柚子]

「私、あと二日で20歳になるんです」

彼はまた困惑したような表情を浮かべ、私を見つめていた。

「20歳になるまでに忘れなければならない言葉って知ってますか?」

⏰:09/08/11 00:40 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#225 [柚子]

「いや…聞いたことないな」

「小学生の頃、友達からその言葉を聞いたんです。ずっと忘れてたんですけど、二週間くらい前に思い出してしまって…」

私はそこで口をつぐんだ。思い出したのを姉のせいにしたくなかったからだ。

⏰:09/08/11 00:42 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#226 [柚子]

「その言葉を思い出してからなのか?霊が視えるようになったのは?」

彼に聞かれ、私は首を縦に振った。

「その話の流れからすると視えているのは同じ霊か?」

⏰:09/08/11 00:44 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#227 [柚子]

私は再び頷いた。

「なるほど…。その話が本当なら、その霊は20歳になるまでにその言葉を忘れなかったお前を狙いにきた霊ということになるな」

部長というだけあって、彼の話は筋が通っていた。

⏰:09/08/11 00:46 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#228 [柚子]

「それで、その言葉というのは?」

「*******」

彼の質問に、私が答えた瞬間だった。

⏰:09/08/11 00:47 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#229 [柚子]

部室のドアが開き、二人ほど中に入ってきた。

一人は若い男の子、もう一人は女の子だった。

「純、桃、ちょうどいいところに来た。お前ら誕生日は何月だ?」

⏰:09/08/11 00:49 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#230 [柚子]

「に…二月ですけど…」

先に答えたのは、男の子のほうだった。続けて女の子が小さな声で

「五月です」と答えた。

⏰:09/08/11 00:51 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#231 [柚子]

その答えを聞いた彼は満面の笑みを浮かべ言った。

「じゃあ純、お前はまだ19歳だな」

彼の意図がわかった私は、彼の顔を見た。

⏰:09/08/11 00:53 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#232 [柚子]

少年みたいにキラキラした瞳で

「純、お前*******って知ってるか?」

と口にした彼を見て

(この人絶対Sだ…)

そう思った。

⏰:09/08/11 00:55 📱:P906i 🆔:NffYOibQ


#233 [柚子]

彼が私の話を説明する間に女の人が2人、部室に入ってきた。

2人ともサークルの部員らしく、これで部員は全員揃ったようだった。

短時間で5人から自己紹介をされた私は全員の名前を覚えるのに必死だった。

⏰:09/08/14 12:33 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#234 [柚子]

私の相談を担当してくれるのは、最初に話を聞いてくれた部長さんと、純くん、桃ちゃんの3人に決まった。

「歳が近いほうが気楽なんじゃない?」

という空さんの意見が反映されたようだ。

⏰:09/08/14 12:41 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#235 [柚子]

部長さんから、故意にあの言葉を聞かされた純くんは少し不貞腐れたような顔をしていた。

「私のせいで巻き添え喰っちゃってすいません」

と謝ると

⏰:09/08/14 12:45 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#236 [柚子]

「悪いのは部長だから気にしなくていいですよ。綾子ちゃんに怒ってるわけじゃないから」

そう言って、笑顔を覗かせた。

いい人そう。ってのが純くんの第一印象だった。

⏰:09/08/14 12:49 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#237 [柚子]

桃ちゃんは

「20歳になった後で、その言葉を聞いた場合はどうなるんですか?」

と、泣きそうな顔をしていた。

⏰:09/08/14 12:50 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#238 [柚子]

「無効じゃない?」

そう口にしたのは、空さんだった。

部長さんと優さんも空さんの意見に同意するように頷いていた。

⏰:09/08/14 12:52 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#239 [柚子]

「20歳になってから聞いたら忘れる猶予がないし」

空さんは2人が頷くのを見て、そう続けた。

「そうだな。空の言うように無効じゃないと変だな」

⏰:09/08/14 12:57 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#240 [柚子]

口を開いたのは、部長さんだった。

「綾子が例の言葉を思い出してから霊が視えるようになったことを考えると、忘れなければならないというある種の契約みたいなものだと思うから」

⏰:09/08/14 13:00 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#241 [柚子]

契約という単語に、僅かだが背筋が寒くなった。

「うん。そうだね。20歳以上でその言葉を知っている人全員が対象だとしたら、この話はもっと有名になってるハズだね」

⏰:09/08/14 13:03 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#242 [柚子]

部長さんと空さんの会話はすごく理論的だった。

私には少し難しかったけど聞いているうちに、この人たちなら何とかしてくれるんじゃないかって気持ちになった。

⏰:09/08/14 13:05 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#243 [柚子]

「それで何か対策はあるんですか?」

2人の会話が終わるのを待って、純くんが訊いた。

「とりあえず…」

⏰:09/08/14 13:07 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#244 [柚子]

質問に答えたのは部長さんだった。

「ネット巡ってみるか」

心霊現象の解決にインターネットに頼るなんて少し意外だった。

⏰:09/08/14 13:13 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#245 [柚子]

インターネットの近代的なイメージと霊とは、何だかしっくりこない。

そんなことを考えていると部長さんが

「あったぞ」と、私たちのほうに振り返った。

⏰:09/08/14 13:16 📱:P906i 🆔:ODTjDhYo


#246 [柚子]

部長さんが開いていたのは都市伝説を集めたサイトだった。

「都市伝説?」

純くんが不思議そうな顔でパソコンを覗き込んでいる後ろから私もサイトに目を通した。

⏰:09/10/30 04:58 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#247 [柚子]

口裂け女やテケテケなどのタイトルに混ざって、あの言葉が載っていた。

クリックするとその都市伝説にまつわる話や情報が読めるようになっているようだ。

部長さんがマウスを動かしページを開いた。

⏰:09/10/30 05:01 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#248 [柚子]

そこに書かれていたのは、私の知っている話とほとんど同じだった。

“*******”

この言葉を20歳までに忘れないと霊が迎えに来るという内容だった。

⏰:09/10/30 05:04 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#249 [柚子]

「迎えに来るって何がですか?」

純くんの質問に部長さんは

「ここにソースになる話が載ってるぞ」

と、新しいページを開いた。

⏰:09/10/30 05:06 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#250 [柚子]

私は何とも言えない緊張感を覚えながらその話を読んだ。

それはある少女の話だった。

彼女には好きな人がいた。同じ大学に通うAくんだ。

⏰:09/10/30 05:09 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#251 [柚子]

Aくんはみんなから好かれている人気者だった。逆に彼女は友達のいない暗い子だった。

彼女はAくんとは違った意味でまわりの注目を浴びていた。

注目を浴びる原因は彼女の顔にあった。

⏰:09/10/30 05:13 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#252 [柚子]

彼女はかなりの出っ歯だった。そのせいで幼い頃から苛められてきた彼女はまわりの人間と距離をとるようになった。

出っ歯を気にして人と話すことができなくなった。

そんな陰気な雰囲気が余計に彼女を悪目立ちさせた。

⏰:09/10/30 05:15 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#253 [柚子]

「あの出っ歯の暗い子」

そんな風にまわりは彼女を笑った。それは大学に入学しても変わらなかった。

だがAくんは違った。自分から彼女に話しかけていた。

⏰:09/10/30 05:18 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#254 [柚子]

Aくんのような接し方をされたのは初めてだった。

しかもAくんは男前だし、人気者だ。彼女はAくんを好きになった。

だがAくんは彼女を利用していただけだった。

⏰:09/10/30 05:20 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#255 [柚子]

真面目に講義に出ている彼女に代弁を頼んだりノートをコピーさせてもらったり…と、楽して単位を取る為に彼女に近付いたのだ。

そのことは彼女以外みんな知っていた。

彼女だけ知らずにAくんへの想いを募らせていった。

⏰:09/10/30 05:22 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#256 [柚子]

Aくんの友達は

「お前悪い男だなー」

と笑い話にしていたが、たとえ利用されているだけでもAくんから話しかけられているということを妬む女子もいた。

⏰:09/10/30 05:25 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#257 [柚子]

その日は彼女の20歳の誕生日の前日だった。

彼女のことを妬む女子は、彼女にこう訊いた。

「Aくんに告白しないの?」

告白すればフラれるとわかっていてそう訊いた。

⏰:09/10/30 05:28 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#258 [柚子]

妬む女子を仮にB子としよう。

B子は彼女の味方のふりをしてAくんに告白するように彼女を説得しその気にさせた。

一時間ほど説得を続けB子はついに

⏰:09/10/30 05:31 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#259 [柚子]

「告白する!」

と、彼女に言わせることに成功した。

Aくんのもとへ向かう前に彼女は明日20歳の誕生日なのだとB子に言ったらしい。

⏰:09/10/30 05:33 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#260 [柚子]

「20歳までに恋人を作るのが夢だったの」

と言い残して彼女はAくんに告白しに行った。

B子も酷いがAくんはもっと酷かった。

⏰:09/10/30 05:34 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#261 [柚子]

「お前みたいな出っ歯と付き合えるわけないだろ」

彼女に告白されたAくんはそう言った。さらに

「お前鏡見たことあるのかよ?」

と、自分の持っていた鏡を彼女に渡したのだ。

⏰:09/10/30 05:36 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#262 [柚子]

でも彼女は純粋だった。

「じゃあこの出っ歯が治ったら私と付き合ってくれる?」

彼女は訊いた。

「あーいいぜ。治るんならな。ま、そんだけ出てりゃ矯正したって無理だと思うぜ」

⏰:09/10/30 05:39 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#263 [柚子]

そこまで言われても彼女のAくんへの想いはかわらなかった。

彼女はすぐにB子のところへ報告に行った。

「出っ歯さえ治れば付き合ってくれる」

⏰:09/10/30 05:42 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#264 [柚子]

その言葉がB子の怒りを駆り立てた。

「あんたの出っ歯、屋上から飛び降りるくらいの衝撃与えないと治るわけないじゃん!」

彼女は純粋だった。

⏰:09/10/30 05:44 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#265 [柚子]

「じゃあ私ちょっと試してくる!」

そう言って彼女は屋上へ向かいそのまま飛び降りた。

Aくんの鏡で自分の顔を見ながら飛び降りる姿を何人もの生徒が目撃していた。

⏰:09/10/30 05:47 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#266 [柚子]

「何だかかわいそうですね、この子…」

話を読み終えた純くんがそう呟いた。

他の部員さんもやりきれないような表情を浮かべていた。

⏰:09/10/30 05:50 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#267 [柚子]

唯一、部長さんだけは

「馬鹿馬鹿しい」

と、呆れていた。

話の信憑性はわからないけどこの話に出てくる彼女が迎えに来るというのが都市伝説のようだ。

⏰:09/10/30 05:52 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#268 [柚子]

その日はそれで解散ということになった。

翌日同じ時間に部室に集まる約束をし、家に帰った。

その夜は二回ほど“彼女”を視た。洗面所の鏡とテレビの画面に彼女はいた。

⏰:09/10/30 05:59 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#269 [柚子]

心なしか彼女の口元が出ていたように思えたのは、気のせいだろうか。

彼女を視たという話は次の日部室に行ってすぐに話した。

急がないと私の誕生日が来てしまう。

⏰:09/10/30 06:01 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#270 [柚子]

私の話を聞いた部長さんは純くんを呼んだ。

「お前、昨日何か視たか?」

部長さんの質問に純くんは首を横に振った。

⏰:09/10/30 06:03 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#271 [柚子]

「やっぱりそうか…」

と、呟いてから部長さんは私の顔をまじまじと見ながら

「残念だが俺たちに出来ることは何もない」

と言った。

⏰:09/10/30 06:06 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#272 [柚子]

「えっ?」

唖然とする私に、部長さんは説明した。

「迎えに来る女なんてものは初めから存在しない。すべて作り話だ」と。

⏰:09/10/30 06:08 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#273 [柚子]

「じゃあ私が視たのは一体何だったんですか?」

「霊ではないな。まだ…」

「まだ?」

私の隣で話を聞いていた純くんもきょとんとした表情をしていた。

⏰:09/10/30 06:11 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#274 [柚子]

「簡単に言えば綾子が怖いと思ったりあの話を信じる気持ちが呼んだもの…といったところだ」

「そんなはず…」

「だったら昨日視た時に、出っ歯に視えたのはどう説明する?あの話を読んで想像が膨らんだからじゃないのか?」

⏰:09/10/30 06:14 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#275 [柚子]

反論できずにいる私に部長さんは追い討ちをかけるように続けた。

「前は睨んでいる表情が印象的だと言っていたのに、今は口元に注目している。それに間接的にしか視えないのも実際には存在しないからと考えれば納得がいくしな」

⏰:09/10/30 06:17 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#276 [柚子]

「部長そんな言い方しなくても…」

純くんが間に入ってくれなかったら泣いてしまってたかもしれない。

相談しに来て責められるとは予想もしていなかった。

⏰:09/10/30 11:42 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#277 [柚子]

「純、お前だって証人だ。お前が何も視えなかったのは信じてないからだ」

嘘つきってレッレルを貼られた気分だった。

「いいか、よく聞け」

半泣きの私に、部長さんは言った。

⏰:09/10/30 11:45 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#278 [柚子]

「こうゆう都市伝説みたいなものは信じすぎたり怖がっちゃダメなんだ。今はまだ実体がなくてもお前の気持ち次第で本当になることだってあるんだ」

部長はさらに伝説を現実にするのは私みたいな人間だと続けた。

⏰:09/10/30 11:49 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#279 [柚子]

とことん上から目線なその言葉に、私は無言のまま部室を飛び出した。

その夜、夕食を終えた私は姉の部屋でこれでもかってくらい部長さんの愚痴をこぼした。

姉は笑いながら私の話を聞いていた。

⏰:09/10/30 11:52 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#280 [柚子]

「ほんっっとムカつく、あの男!」

と、暴言を吐く私に姉は

「まぁまぁ。でもその部長さんの言うことも一理あると思うよ」

と、部長さんの肩を持った。

⏰:09/10/30 11:54 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#281 [柚子]

「でも私、ほんとに視たんだよ!」

「はいはい。私だって可愛い妹が嘘ついてるなんて思ってないよ」

「じゃあ…」

⏰:09/10/30 12:07 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#282 [柚子]

「でも、視えたのは綾子が信じて怖がってるからってのはあると思うよ」

そう言って姉は私の頭をポンポンと優しく叩いた。

「そうゆうの信じてないって言うんだよ…」

⏰:09/10/30 12:09 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#283 [柚子]

「信じてるわよ。でも視えたにしても原因はあの言葉のせいじゃないと思うよ」

「えっ?」

「だって20歳の誕生日まで私も覚えてたから。あの言葉」

⏰:09/10/30 12:13 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#284 [柚子]

姉はもう一度私の頭をポンポンして

「気にしないのが一番よ。怖いなら今夜は一緒にいてあげるから」

と、微笑んだ。

⏰:09/10/30 12:16 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#285 [柚子]

それから姉と思い出話とか大学のこととか話した。

「綾子がもう20歳なんて信じられない」

って10回は言われたんじゃないだろうか。

⏰:09/10/30 12:18 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#286 [柚子]

気付いたら日付けが変わっていた。

「あ…」

携帯のディスプレイに表示された時刻に思わず声が漏れた。

⏰:09/10/30 12:21 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#287 [柚子]

私の声に姉も時刻を確認し笑顔を見せた。

「誕生日おめでとう。ね?私の言った通り大丈夫だったでしょ」

「うん。ありがとう」

⏰:09/10/30 12:23 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#288 [柚子]

「綾子の20歳の豊富はビビリを直すことだね」

などとからかわれながら夜中まで姉と話した。

誕生日から一週間。私はあの部室の前にいる。

⏰:09/10/30 12:39 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#289 [柚子]

結局あれ以来一度も霊もどきを視ることはなかった。部長さんの言葉は正しかった。

今日はその報告とこの間のお詫びに来た。

人数分のケーキも買った。

⏰:09/10/30 12:50 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#290 [柚子]

謝りにきたって知ったらあの俺様部長何て言うかな。

「やっぱり俺の言った通りだった」

と、得意気な顔をするかもしれない。

⏰:09/10/30 13:13 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#291 [柚子]

やっぱりちょっとムカつくけど、そんな顔を見るのもいいかもしれない。

少しだけドキドキしながら私は部室のドアをノックした―――…。

⏰:09/10/30 13:17 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#292 [柚子]



ーside storyー


卒業



⏰:09/11/07 12:21 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#293 [柚子]

“卒業”という二文字を意識しはじめたのは桃ちゃんの言葉だった。

「部長さんたちがいなくなったら寂しくなりますね」

頭の片隅ではもっと前から意識していたのかもしれない。

⏰:09/11/07 12:24 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#294 [柚子]

考えると悲しくなるから、わざと頭の隅の奥の奥のほうにしまっていたのかもしれない。

「そうだね。俺と桃ちゃんだけになっちゃうね」

力なく笑うと、桃ちゃんに背中を叩かれた。

⏰:09/11/07 12:26 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#295 [柚子]

「しっかりして下さいよ。純くんは次期部長じゃないですか」

「あー…うん。そうだね」

「嫌ですよ、私。せっかく部長さんたちのやってきたこのサークルを私たちの代でなくしてしまうの」

⏰:09/11/07 12:28 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#296 [柚子]

最近の桃ちゃんは少し変わった。

はっきりとまではいかないけど自分の意見を言うようになったしよく笑うようになった。

桃ちゃんの変化はいい意味でなのだけど、何となく寂しいような気がした。

⏰:09/11/07 12:35 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#297 [柚子]

空さんや部長さんの影響もあるかもしれないが、一番影響を与えているのはあの男かもしれない。

桃ちゃんの彼氏だ。

やきもちとかじゃなくて、何だか俺だけ置いてきぼりを喰らってるような気分にならずにはいられなかった。

⏰:09/11/07 12:37 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#298 [柚子]

部長たちの卒業式まで一ヶ月を切った頃だった。

部長が左の頬を腫らして部室にやってきた。

「どうしたんですか?」

という桃ちゃんの声に俺も振り向いて部長の顔を見た。

⏰:09/11/07 12:41 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#299 [柚子]

「親父と喧嘩した」

とだけ部長は言った。

詳しく説明してくれたのは少し後で部室に来た空さんと優ちゃんだった。

⏰:09/11/07 12:42 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#300 [柚子]

どうやら就職のことでパパさんと意見がわかれたのが原因のようだった。

「しっかし、あんたんとこの親父さん意外と手が早いんだねぇ」

あっけらかんと笑い飛ばす空さんの笑い声に少しだけ部内の空気が和んだ。

⏰:09/11/07 12:45 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#301 [柚子]

「昔っからだよ。しかも今回はグーで殴りやがった」

「亮太のことが心配なんだよ」

ふてくされている部長に、優ちゃんがそう言った。

⏰:09/11/07 12:48 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#302 [柚子]

でも部長の怒りはおさまらないようで、最後には

「あいつの会社に就職するのやめた」

などと言い出したのでさすがに空さんも優ちゃんも困った顔をしていた。

⏰:09/11/07 12:50 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#303 [柚子]

「就職しないって…それは亮太の勝手だけど生活はどうするつもりなの?」

空さんにしてはめずらしくまともな意見だった。

部長も黙ったまま聞いていた。

⏰:09/11/07 12:52 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#304 [柚子]

「就職しないと収入だってないんだよ。そしたらどうするの?結局はお父さんのお金をあてにするしかなくなるんじゃない?」

怒るかと思ったら、部長は笑いだした。

ふっふっふって感じの不適な笑い方で。

⏰:09/11/07 12:54 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#305 [柚子]

「決めた!俺が自分で会社を立ち上げる!!」

部長の言葉で一瞬静まり返った部室に、空さんの反論が飛んだ。

「バカか、あんたは。会社を作るのにもお金がいることくらいわかってんでしょ?資金は?どうするの?」

⏰:09/11/07 12:57 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#306 [柚子]

「金銭的なことは心配ない。小学校からやってたデイトレやら株やらで貯金なら余ってるからな」

小学生が株って!!とつっこむ雰囲気でもなく、俺は黙ったままだった。

結局何故か一人元気を取り戻した部長が

⏰:09/11/07 13:07 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#307 [柚子]

「そうと決まれば早速準備しないとな」

と、いそいそと部室を出ていくのをみんなで見送るしかなかった。

その時はとりあえず部長が元気になってくれてよかったくらいにしか考えてなかった。

⏰:09/11/07 13:09 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#308 [柚子]

三日ほど部室に顔を見せなかった部長が、満面の笑みで部室のドアを開けた時、部室には俺しかいなかった。

「なんだ、純しかいないのか」

「ちょっと!なんだって何ですか、なんだって」

⏰:09/11/07 13:12 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#309 [柚子]

「まぁいいか。お前に最初に見せてやるよ」

そう言って部長は一枚の名刺を俺に渡した。

「RYSM…?何ですか、これ」

⏰:09/11/07 13:19 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#310 [柚子]

「社名だよ、まだ仮のだけどな」

「ほんとに会社立ち上げちゃったんですか!?」

俺の反応が面白いのか部長は上機嫌で俺に訊いた。

⏰:09/11/07 13:22 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#311 [柚子]

「純、お前その社名の意味わかるか?」

「え…R霊感ある人、Y寄よっといで、S心霊現象、M求む…??」

全くわからずに適当にゴロを合わせただけの俺の答えは部長の笑いのツボをくすぐってしまったらしい。

⏰:09/11/07 13:25 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#312 [柚子]

「お前ほんっとバカだな」

と、散々笑った挙げ句俺の手から名刺を取り上げた。

右手に持った名刺を俺に見せながら

⏰:09/11/07 13:26 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#313 [柚子]

「ヒントをやろう」

と、笑った。

「ヒントですか…」

部長はSとMの間を指差し言った。

⏰:09/11/07 13:28 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#314 [柚子]

「もしお前も協力するならここにJの文字を入れてやる」

「あ…!」

ようやく社名の意味の理解できた俺は、不覚にも泣きそうになってしまった。

⏰:09/11/07 13:29 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#315 [柚子]

RYSJM

亮太、優、空、純、桃

安易にも思えるその社名は俺の涙腺を刺激するには、十分だった。

⏰:09/11/07 13:31 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#316 [柚子]

「なんだ、お前。もしかして泣いてんのか?」

「なっ…泣いてないですよ!」

「まぁ、いい。それでお前の返事は?」

もちろんイエスだった。まだみんなと過ごせる。断る理由はなかった。

⏰:09/11/07 13:34 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#317 [柚子]

次の日、新しく印刷した名刺が届いた。

五人全員揃ってから部長が一人一人に配ってくれた。

「ちょっと…これ、おかしいんじゃない?」

⏰:09/11/07 13:36 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#318 [柚子]

口を開いたのは空さんだった。

「何であたしの名前が三番目なのよ?」

と、頬を膨らませている。

部長は思い出したように笑いながら

⏰:09/11/07 13:37 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#319 [柚子]

「ゴロを合わせたらその順番になったんだ」

と、俺が言った言葉を引用して説明した。

「霊感ある人寄っといで、心霊現象じゃんじゃん求む…だからな」

⏰:09/11/07 13:39 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#320 [柚子]

「何それ。バカじゃない」

空さんの言葉に優ちゃんも桃ちゃんも笑いだした。

「考えたのは純だ」

みんなの視線が集まるのを感じ、俺は下を向いた。

⏰:09/11/07 13:41 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#321 [柚子]

部長だけでなく、優ちゃんや空さん、桃ちゃんにまで笑われながらも無事に社名が決まった。

簡単に言えば“何でも屋”のような仕事内容を考えているらしい。

もちろん心霊系の依頼がくることを部長は期待しているのだろうけど。

⏰:09/11/07 13:45 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#322 [柚子]

空さん、優ちゃんは就職したこともあって毎日ではないが手伝いに来てくると話していた。

俺と桃ちゃんも大学があるのだが、多分毎日のように呼び出されるのだろう。

部室が事務所になったくらいの変化しかないかもしれないなと思っていた。

⏰:09/11/07 13:52 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#323 [柚子]

実際しばらくは俺の予想通りだった。

新しく事務所となったマンションにみんなが集まり、依頼がない日はのんびりする。

サークルの延長みたいだった。

⏰:09/11/07 13:54 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#324 [柚子]

大学で依頼を受けた人の口コミでいくつか依頼が来ただけで、暇な日のほうが圧倒的に多かった。

最初に痺れを切らしたのは部長だった。

「何か心霊現象ないのか?浮気調査とかそんな依頼じゃなくて」

⏰:09/11/07 13:58 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#325 [柚子]

“何でも屋”として売り出したのが悪かったのか依頼と言っても心霊現象は一つもなかった。

彼氏が浮気してるかもしれない。

とか、探偵に頼むのは恥ずかしいというような依頼がいくつか来ただけだった。

⏰:09/11/07 14:02 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#326 [柚子]

おもちゃを買って貰えなかった子供みたいに拗ねている部長をみかねて、俺は口を開いた。

「お金になりそうにない依頼ならありますよ」

「ほんとか!?心霊関係の依頼だろうな?」

⏰:09/11/07 14:05 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#327 [柚子]

「心霊関係というか霊からの依頼…ですかね」

俺の言葉に部長は目を輝かせていた。

やっぱり子供だこの人。

俺はため息を一つつくと、その依頼について話し始めた。

⏰:09/11/07 14:08 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#328 [柚子]


*捕捉*

この辺りからもう一つ書いている来栖という小説と話がリンクしてくるので一応URL貼っておきます。

bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/11035/

⏰:09/11/07 14:11 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#329 [柚子]

「部長僕の家は知ってますよね」

「あぁ」

「大学から僕ん家に行く途中に地下鉄の駅があるのはわかります?」

⏰:09/11/07 15:11 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#330 [柚子]

俺の質問に部長はそれくらい当然だろっていうような顔をした。

「最近その駅の辺りを歩いていると聞こえるんです。女の子の声が」

「霊なのか?」

⏰:09/11/07 15:13 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#331 [柚子]

「まわりを見ても誰もいないし僕以外の人には聞こえてないみたいなので、多分…」

霊と聞いてテンションが上がったのか、暇を持て余していたからなのか、部長は今にも立ち上がって駅に向かいそうな勢いで

「霊に間違いない!」

⏰:09/11/07 15:15 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#332 [柚子]

と、断定した。

「でも自信ないですよ。僕には視えないんで…」

「いや、それは霊だな。間違いない」

笑うしかなかった。笑うというより苦笑?

⏰:09/11/07 15:17 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#333 [柚子]

「まぁ、霊かどうかは置いておいてですね、その声が言うんですよ。助けて。家に帰りたいって」

部長は真剣に俺の話を聞いていた。

「毎日じゃないんですけど聞こえるのはいつも同じ高校生くらいの女の子の声なんです」

⏰:09/11/07 15:20 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#334 [柚子]

「よし!」

そう言って部長は立ち上がった。

「その依頼受けよう」

「えっ?いや、でも確証はないですよ。しかも霊だったらお金にならないし…」

⏰:09/11/07 15:22 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#335 [柚子]

俺の言葉に部長は俺に軽蔑の眼差しを向けた。

「純、お前はいつからそんな金の亡者になってしまったんだ?」

いやいやいや。俺はただ部長の作ったこの会社の経営を心配してるだけですからっ!!

⏰:09/11/07 15:24 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#336 [柚子]

と、反論する暇もなく部長に連れられ地下鉄の駅へと向かうことになった。

久しぶりにカメラを首から下げている部長は、ここ最近で一番楽しそうに見えた。

「声が聞こるのはこの辺です」

⏰:09/11/07 15:35 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#337 [柚子]

そう伝えると部長は写真を撮り始めたので、俺も耳を澄ませて声が聞こえないか試してみた。

でも何分経ってもあの声は聞こえてこなかった。

「今日は何も聞こえませんね…」

⏰:09/11/07 15:41 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#338 [柚子]

だからそんなに張り切って写真を撮っても何も写らないかもしれませんよって意味で言ったのだが、部長の耳には届いていないようだった。

「帰ったら早速現像してみよう」

と、ニコニコしている。

⏰:09/11/07 15:43 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#339 [柚子]

仕方がないから部長の気の済むまで付き合うかと覚悟を決めた時だった。

「お前ら何やってるんだよ!」

背中から突然怒鳴り声が聞こえた。

⏰:09/11/07 15:45 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#340 [柚子]

明らかに俺と部長に向けられたその声に、写真を撮っていた部長も手をとめた。

「人が殺された場所の写真なんか撮って楽しいかよっ!!」

その言葉に最近この辺りのマンションで事件があったという話を思い出した。

⏰:09/11/07 15:52 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#341 [柚子]

ニュースでちらっと見ただけなので詳しい内容は覚えてないけど、今目の前にいる彼は事件の関係者なのだろうか。

今にも部長に殴りかかりそうな勢いだったので慌てて口を挟んだ。

「ちょ…ちょっと待って下さい。僕たちは別に楽しんでるわけではなくて…」

⏰:09/11/07 16:45 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#342 [柚子]

説明を終えないうちに部長が

「助けにきたんだ」

そう言った。

「はっ?」

今度は彼が呆気にとられたような顔をした。

⏰:09/11/07 16:50 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#343 [柚子]

「えっと…うまく言えないんですけどほんとです。助けにきたんです」

部長の言葉を捕捉しようとしたけど、なかなかうまい説明が思い付かなかった。

「説明難しいな…部長も何とか言って下さいよ」

⏰:09/11/07 16:51 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#344 [柚子]

横目で部長を見たけど助け船を出してくれる気はないようだった。

「多分言っても信じてもらえないと思うけど…」

一人テンパりながらも俺は説明を続けた。

⏰:09/11/07 16:53 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#345 [柚子]

「この道、大学の通学路なんだ。だからよく通るんだけど最近助けてって声がよく聞こえてて…」

こんな話をしてもどうせ信じてもらえないだろうなと思っていたらそこで初めて彼の表情に変化があった。

「…助けて?」

⏰:09/11/07 16:58 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#346 [柚子]

「はい。あと帰りたいって声も。多分同じ声だと思うんだけど」

「その声って高校生の女の子みたいな声じゃ…?」

一瞬聞き間違えかと思ってまじまじと彼の顔を見てしまった。

⏰:09/11/07 17:03 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#347 [柚子]

「お兄さんも聞いたんですか?あの声」

多分年上であろう彼に、お兄さんと名称をつけそう訊いた。

「聞いたというか…その声の主に会った…?のかな」

⏰:09/11/07 17:07 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#348 [柚子]

その言葉に部長が反応し

「それは生きてる時と死んでからとどっちだ!?」

って言いながら顔面ごと近付いて行った。

お兄さんはかなり焦った顔をしてた。

⏰:09/11/07 17:09 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#349 [柚子]

次々と質問を投げかける部長が怖かったのか、バイトに遅れそうだったのか、お兄さんは

「この先の来栖ってバーでバイトしてるんで、良かったら今度来て下さい」

と言って逃げるようにその場を去ってしまった。

⏰:09/11/07 17:11 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#350 [柚子]

それ以上その場にいても仕方なさそうなので、部長を説得して一度事務所に戻ることにした。

事件のことも調べたかったしね。

とにかく、この偶然が彼らとの出逢いのきっかけだったんだ。

⏰:09/11/07 17:14 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#351 [柚子]

「あ!ありましたよ部長。この事件じゃないですか?」

事務所に運んできたパソコンでニュースを検索していると、ちょうどあの駅の隣にあるマンションで女の子の遺体が発見されたというニュースが載っていた。

⏰:09/11/07 17:40 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#352 [柚子]

「酷い事件ですね…」

「そうだな」

いつもならこうゆう時、俺を押しのけてでもパソコンを見ようとするのにその時の部長はどこか上の空だった。

⏰:09/11/07 17:42 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#353 [柚子]

「写真現像しないんですか?」

と訊いてみても返ってきたのは「あぁ…」という生返事だった。

どうやらあの声の女の子よりも幽霊に会ったというあのお兄さんのことのほうが気になっているようだ。

⏰:09/11/07 17:45 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#354 [柚子]

俺は一度ニュースの画面を閉じると『来栖』と『BAR』で検索をかけてみた。

お兄さんの言っていたバーはすぐに見つかった。

営業時間や料金の書かれただけの簡単な紹介だったが住所はあの地下鉄の辺りだったから間違いないだろう。

⏰:09/11/07 17:50 📱:P906i 🆔:j/HSyc7s


#355 [柚子]

「部長これ見て下さい」

俺に促されて再度パソコンを覗き込んだ部長はさっきとは全く違う反応を見せた。

「8時からか…」

⏰:09/11/08 12:25 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#356 [柚子]

真剣な顔つきでそう呟いた部長は腕時計に目を落とした。

「行くか」

「えっ?」

「このバーにだよ。もうすぐ開店時間だし開店してすぐの方が店も空いてるから話聞きやすいだろ?」

⏰:09/11/08 12:27 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#357 [柚子]

そう言うと部長は優ちゃんと空さん、桃ちゃんに電話をし集合をかけた。

「今すぐ事務所集合」

という無茶苦茶な要求にも関わらず30分後には全員が事務所に集まっていた。

⏰:09/11/08 12:30 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#358 [柚子]

「ただ酒が飲めるって聞いたからさぁ」

と、空さん。

「何か面白い子がいるって亮太が…」

と、優ちゃん。

⏰:09/11/08 12:53 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#359 [柚子]

「部長命令は絶対です」

と、言ったのは桃ちゃんだった。

全員の色々な思惑を抱えながら来栖の店内へと続くドアを開けた―――。

⏰:09/11/08 12:55 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


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