あの場所まで
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#1 [ミツバ]
:09/07/02 10:17 :D904i :VF6A2bjE
#2 [ミツバ]
紫陽花に空から滴が落ちてくる頃、私はベッドの上で横になっていた。
窓につく水滴がツーと流れるのを黙って見ていた。
ピピッピピッ。
脇から体温計を取り出すと37度5分まだ熱はあるみたいだ。
:09/07/02 10:50 :D904i :VF6A2bjE
#3 [ミツバ]
今日は彼氏も私も休みだった。
毎日仕事をして疲れているはずの彼が休みの日は必ず私と一緒にいてくれる。
昨夜より熱が下がった事をメールで伝えた。
:09/07/02 12:28 :D904i :VF6A2bjE
#4 [ミツバ]
『紗代里の熱が下がってよかった。今日はおとなしくしてろよ』
そう優介は返事をしたが、紗代里はこのままただ寝てるなんてしたくなかった。
『海に行きたい。気分転換したら元気になる』
さらにそう伝えた。
:09/07/02 12:32 :D904i :VF6A2bjE
#5 [ミツバ]
♪♪♪
すぐに紗代里の着信音が鳴った。
寝っ転がったまま電話に出た。
体調の確認をし、どうやら一緒に行ってくれるみたいだ。
:09/07/02 12:56 :D904i :VF6A2bjE
#6 [ミツバ]
窓を再び見るとまだ、しとしとと雨は降っていた。
紗代里はゆっくりと白いTシャツに袖を通した。
:09/07/02 13:26 :D904i :VF6A2bjE
#7 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
2人並んで立っていると、運良く片瀬江ノ島行きの電車がホームへと流れ込んできた。
お昼を過ぎて、あまり人が乗っていない車両へ足を踏み入れた。
窓ガラスは曇り、水滴が斜めに流れていた。
:09/07/02 13:32 :D904i :VF6A2bjE
#8 [ミツバ]
シュー…
ドアが閉まりゆっくりと電車は海へと走りだした。
建ち並ぶ住宅を通り過ぎ一つ一つの家の間が広がってくる時、優介は口を開いた。
「具合悪くなったら、すぐ帰るからな?」
心配そうに覗き込んできたので、紗代里はゆっくりと微笑んだ。
:09/07/02 13:53 :D904i :VF6A2bjE
#9 [ミツバ]
ガタン、ゴトン
心地良く揺れる。
古くなって、少しザラザラしたシートを紗代里は逆撫でしながら車内に貼ってある無数の広告をぼんやり見つめていた。
シュー…
電車はゆっくり止まり、老夫婦が乗車した。
:09/07/02 17:04 :D904i :VF6A2bjE
#10 [ミツバ]
「よいしょ、ふぅ〜」
手すりに掴まりながら、私達と向かい合わせに老夫婦はゆっくりと腰を下ろした。
「こっちはジドジドしてんなぁ」
「梅雨だば仕方ねぇ」
老夫婦は話し始めた。
老夫婦が話す方言が紗代里にはどこか懐かしく聞こえる。
:09/07/02 17:13 :D904i :VF6A2bjE
#11 [ミツバ]
微笑ましいなぁと思い、紗代里は優介を見ると彼はこくり、こくりと眠っていた。
紗代里は優介の肩に自分の頭をのせ、自分もいつかあぁなりたいと思っていた。
:09/07/02 17:20 :D904i :VF6A2bjE
#12 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
紗代里はおじいちゃんっ子だった。
小学生の頃、夏休みになると田舎へ車か新幹線で毎年行く。
山ばっかりの場所で遊園地なんてないけど、そんな事構わなかった。
:09/07/02 17:28 :D904i :VF6A2bjE
#13 [ミツバ]
庭にある野菜をおばあちゃんと採って、夕飯のおかずにしたり、おやつに食べたりする。
夏休みの宿題なんか目も触れず一緒に来た幼いイトコと一日中走り、遊び回る。
小学生らしく本当に自由気ままな生活だった。
:09/07/02 17:33 :D904i :VF6A2bjE
#14 [ミツバ]
どこか行く時は必ずおじいちゃんが車を運転してくれた。
それに乗って一緒に好きな物を買ってもらっていた。
今思えば、本当におじいちゃんは孫に甘かったなとしみじみ思う。
:09/07/02 17:36 :D904i :VF6A2bjE
#15 [ミツバ]
おもちゃながらにフィルムも入れるとちゃんと撮れる赤いカメラは、もう手元にはないけれど買ってくれた時は嬉しくて夢中で遊んだ。
他にもきっと生まれた時から沢山の物を知らず知らずにもらっていたはずだ。
大人になって使われなくなった勉強机は荷物置き場へと化し、本来の役目を終えながらも今もあるそれは、確か両親とおじいちゃんとおばあちゃんが買ってくれたものだ。
:09/07/02 17:44 :D904i :VF6A2bjE
#16 [ミツバ]
頭の悪い子供だったから、机に向かって勉強をするなんてほとんどなかったような気がする。
今になってもっと使ってあげればよかったなと後悔した。
あんな立派な物を買ってくれたのに、ごめんね。
:09/07/02 17:46 :D904i :VF6A2bjE
#17 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
ツー…
頬に流れる冷たいものにびっくりして紗代里は目が覚めた。
いつの間にか一緒に眠ってしまったようだ。
優介はまだ眠っていた。
:09/07/02 17:49 :D904i :VF6A2bjE
#18 [ミツバ]
紗代里は涙を拭った。
久しぶりにおじいちゃんの夢を見た。
会いたいな、そう思いながら電車は片瀬江ノ島駅へと流れ込んでいく。
:09/07/02 17:51 :D904i :VF6A2bjE
#19 [ミツバ]
久しぶりに来たなぁと紗代里は外に目を向けると改札に白い帽子をかぶるおじいちゃんが見えた。
「…似てる…」
夢を見たせいだろうか、紗代里はいるはずのない自分のおじいちゃんに見えた。
カタンッ、プシュー…
「終点片瀬江ノ島、忘れ物ございませんようお気をつけください」
車内にアナウンスが広がった。
:09/07/02 18:32 :D904i :VF6A2bjE
#20 [ミツバ]
「ん〜…紗代里?」
両手を上げ、ぐぐっと伸びをながら優介は目を覚ました。
あんな風格のおじいちゃんはどこにでもいる。
紗代里は優介に向き直って、にっこりと笑いながら言った。
「着いたよ、行こう」
:09/07/02 18:39 :D904i :VF6A2bjE
#21 [ミツバ]
電車を降りた瞬間から磯の香りがする。
海が近くにある証拠だ。
改札を出ると、優介が持ってきたビニール傘を紗代里の上に差し一緒に傘の中へ入った。
:09/07/03 16:30 :D904i :sF4vWAHo
#22 [ミツバ]
「島まで行こうか」
優介がそう提案したのと同時に紗代里もそう言おうとしていたので、やっぱり気が合うなと思いながら頷いた。
「一番高い所まで行きたいな」
紗代里は島の方を向いて優介の腕を引いた。
賑わうはずの駅前には梅雨のせいか人がいなかった。
:09/07/03 16:38 :D904i :sF4vWAHo
#23 [ミツバ]
降りてからも降るしとしと雨に少し嫌気を差しながらも、ピチョンと静かに聴こえる音は嫌いではない。
紗代里はそのまま腕を絡めて水溜まりを避けながら歩いた。
一緒に優介も同じように歩く。
:09/07/03 16:51 :D904i :sF4vWAHo
#24 [ミツバ]
ひと昔前の商店街のような少し古くなった店達を通り過ぎ、島へと続く橋がある。
すぐ左側には海が見える。
灰色の空と同じように、海もまた綺麗な色ではなかった。
:09/07/03 17:08 :D904i :sF4vWAHo
#25 [ミツバ]
波打つ黒い海を紗代里は歩きながら見つめた。
「また夏に来よう」
優介は前を向きながら言った。
「そうだね、花火大会もあるしまた来よう」
紗代里一度優介の方へ顔だけ向いて再び海の方へ目を向けた。
:09/07/03 17:17 :D904i :sF4vWAHo
#26 [ミツバ]
訂正
>>15『おもちゃながらにフィルムを入れると〜』
>>25『紗代里は一度優介の方へ〜』
所々すみません
:09/07/03 17:28 :D904i :sF4vWAHo
#27 [ミツバ]
見つめた先の海岸に人はいなかった。
脇を通るはずの車道にさえポツリ、ポツリと2台の車しか橋を渡りきるまで走っていなかった。
江の島に着くとすぐに年月を重ね薄く古くなってしまった青銅の鳥居が見えた。
:09/07/04 14:08 :D904i :2xlbwZBE
#28 [ミツバ]
青銅の鳥居は干物屋や魚屋、先へ続く参道を守っているかのように小さきながらも堂々と立っていた。
魚の生臭いような匂いが強まった。
店先に立つおばちゃんは雨に負けじと元気よく声を張っていた。
:09/07/04 14:12 :D904i :2xlbwZBE
#29 [ミツバ]
ここまで来ると観光客もチラホラいた。
紗代里は口を広げ、いっぱいに空気を取り込む。
鼻から吐くと体内にある酸素に塩気を足したような気分になった。
:09/07/04 14:16 :D904i :2xlbwZBE
#30 [ミツバ]
「磯のいい香りがする」
紗代里は言った。
「そうだな」
優介も大きく息を吸い込んだ。
すると、ずっと奥にある朱色の鳥居に先ほどの白い帽子を被る人が微かに見えた。
:09/07/04 14:19 :D904i :2xlbwZBE
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