街がスカーレットに染まる時
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#101 [ぎぶそん]
数日後の放課後、私は写真を撮る最適な題材となる「景色」を探す為、ぼんやりと街を歩き続けていた。
普段は足を入れたことのない地下道を下りてすぐ、茶髪の若い男性がギターケースの上に座って弾き語りをしているのが見えた。
斉藤和義の「歌うたいのバラッド」を、楽譜も何も見ずに慣れた様子で歌い続ける。
ストリートライブという奴か。
私は思わず立ち止まり、彼の真正面にくるように反対側の壁に腰を下ろした。
少しだけ、いつか真織が「スカーレット」を歌っていた時と同じ空気がそこに流れていたから。
:09/12/02 00:15
:SH705i
:nIbz/fOI
#102 [ぎぶそん]
男性のその歌を聴き入って間もない内に、彼はその一曲を歌い上げた
彼が顔を上げ、数メートル先にいる「客」の私に声を掛ける。
「…こんにちは!」
彼の目尻のシワがくっきりと表れる。
黒目がちなその瞳は、都会の空気に濁ることなく光を発していた。
この人、普段他人に恨みを買われることがないだろうなと思った。
「今日は雲一つないいい天気ですね」
「え?ああ、そうですね」
差し障りのない天候の話から二人の会話は入っていく。
一時も彼は笑顔を崩さないでいた。
:09/12/04 00:36
:SH705i
:36M7fz9.
#103 [ぎぶそん]
そうして話はだんだんとお互いのことについて進んでいく。
男性の名前は村山啓司さん。
ここら近辺にある私立大学の四年生らしい。
私は彼に自分の名前と身分、そして今何か写真を撮る為に色んな場所を歩き回っていることを伝えた。
「音楽はどんなの聴くんですか?」
啓司さんが口元を緩ませて私に問う。
「スピッツが好きです」
「…スピッツ!いいですよねー。
僕もよく聴きますよ」
彼の声のトーンが上がる。
そして彼は自分の目の前に広げてあった持参のファイルノートを、パラパラとめくり出した。
:09/12/04 15:20
:SH705i
:36M7fz9.
#104 [ぎぶそん]
「久しぶりだから歌えるかは分からないけど…」
啓司さんが一度、コホンと小さく咳ばらいをした。
その数秒後彼がギターに手をやると、地下道に乾いたギターから奏でられる「ロビンソン」のイントロが響く。
それを男らしい重量感のある声で、彼が歌い続ける。
真織が普段スピッツを歌う時とはまた違う世界観が漂っていた。
そういえば、真織はまだ私の前でこの歌を歌ってくれてないなと思った。
私は首から提げていたカメラを自分の顔の前にやった。
レンズ越しに彼と彼を取り巻く全てを見つめる。
:09/12/06 00:27
:SH705i
:T9/Xo4o6
#105 [ぎぶそん]
シャッターの音が彼の弾き語りを邪魔しないようにと、遠慮しがちに鳴る。
被写体となった彼は、若干顔に恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
「良かったらまた遊びに来てください。
毎週木曜日のこの時間帯は、いつもここにいますんで」
ストリートライブが終わった後の立ち話の際に、彼にこう伝えられた。
私は時間の許す限りは何度でもここへ来ようと思った。
一枚の写真に収めても、何度でも自分の目で見たい風景を見つけたから。
私は啓司さんの純朴そうな風貌と物越しの低い姿勢に、人間としての魅力を感じた。
:09/12/06 00:45
:SH705i
:T9/Xo4o6
#106 [我輩は匿名である]
楽しみにしてます(^^)
:09/12/06 06:08
:SH906iTV
:NvD7CL3s
#107 [ぎぶそん]
翌日。軽音学部の定期ライブ本番がいよいよ次の日と迫った。
夜、私と真織はお互いの子供時代について語り明かすこととなった。
彼は小学生の頃から大勢の前で面白いことをやってみせたり、それによって皆を笑わせるのが好きだったらしい。
ムードメーカーな所は今とはほとんど変わってない様子。
「あの頃は皆でサッカーの練習サボって、誰かの家で皆でポケモンのアニメ観てたっけなあ」
テーブルに頬杖をつき、天を仰いで彼が言う。
「今でもポケモンのゲームやってるの俺だけなんじゃね」という呟きに私は笑った。
:09/12/07 21:53
:SH705i
:xg7qNZ7o
#108 [ぎぶそん]
そして中学生の頃にギターを覚え、文化祭で当時「Brand‐New Myself〜僕にできること」がブレイクしたチャコールフィルターのコピーを演ってみたらしい。
懐かしい。解散するには惜しいバンドだった。
「高校は男子校だったよ。
野郎共でワイワイ騒ぐの好きだし」
彼が紙パックのジュースを音を立てて吸う。
私は元彼の優哉も同じような理由で、高校は男子校に通っていたという話を思い出した。
たったそれだけの記憶が蘇っただけで、視界にぼんやりと靄がかかる。
心に何か見えないトゲが刺さる。
:09/12/07 22:12
:SH705i
:xg7qNZ7o
#109 [ぎぶそん]
「かなめは?どんな感じだった?」
彼の問い掛けでふと我に返る。
彼がこれから私からどんな話が聞けるのだろうと、好奇心旺盛の目で見てくる。
私は口数が少なくて、周りとの壁を作っていた幼少期を送っていた。
クラスに一人は存在するような、休み時間も誰とも馴染もうとせず席に座ってるような子だった。
そうに告げると、「あー、そんな感じがするわ」と納得したように言われた。
「そういえば一人だけ、『千明』って子はちょっかいを出してくれていたなあ」
私はある同級生の存在を、記憶の片隅から思い出した。
:09/12/07 22:29
:SH705i
:xg7qNZ7o
#110 [ぎぶそん]
小六の時同じクラスになった富田千明は小学生ながら美容やお洒落に関心を持っていて、実にませた子だった。
長身で子供離れしたスタイルを持っていたので、自分自身を高めたいという意識が早熟したのだろう。
そんな彼女は、自分とは対照的な地味で存在感の薄かった私を「あだっち」という愛称で呼び、放課後になるとちょくちょく遊びに誘ってくれた。
本屋でファッション雑誌を立ち読みしたり、グラウンドでやっているサッカー部の練習を眺めていたりしていた。
私は彼女といる時、いつも楽しくないと感じたことはなかった。
:09/12/10 00:28
:SH705i
:AKXQnaXE
#111 [我輩は匿名である]
111
:09/12/10 03:23
:SH904i
:wT5Q3hb6
#112 [ぎぶそん]
小学校を卒業した後は私は公立の、千明は私立の中学校へとそれぞれ進学することとなった。
小六の頃は夜になるとよく千明から自宅に電話が掛かってきていたが、中学に入ってからは新しい友達が出来たからなのかぱったりと音信が絶えた。
中学二年になりたての頃、千明が不登校気味だということを共通の知人から聞いた。
頭髪を派手に染め、露出の多い服を着て、コンビニの前で同じような仲間とたむろしているのをちょくちょく近隣に住む住民から目撃されているらしい。
私はそれを耳にした時、ただ千明らしいとだけ思った。
:09/12/13 00:37
:SH705i
:S2K0AsXE
#113 [ぎぶそん]
同じ年の秋に、偶然彼女と会った。場所は二人でよく行っていた本屋。
外見は不良そのものだったが、心もそうだとは彼女の変わらない優しい雰囲気からは感じられなかった。
彼女は私とは視線を合わせず、すれ違い様に「ばーか」とだけ告げた。
これが今の所、私が彼女を見た最後の瞬間だ。
その後風の噂で彼女は十五で十歳以上年の離れた男性との間に子供を身篭り、そのまま結婚したということを聞いた。
元気してるかな、千明。
もう一度会えた時は、あの時「ばーか」の意味を聞かせて欲しい。
:09/12/13 01:01
:SH705i
:S2K0AsXE
#114 [ぎぶそん]
「で、高校三年間もまた友達がいない生活だった」
私は過去の話を、自虐気味に閉じてみた。
それを真織は煙草の煙で咳込み、上手く笑えずにいた。
今思えば、千明が初めてだったかも知れない。
家族以外で、私を必要としてくれていた人。
中学校に入学した当初、千明は「あだっちがこっちの学校に転校してくればいいのに」と周りに口にしていたことがあったらしい。
その後、彼女は学校に通わなくなった。
私は嬉しかった。彼女の印象に私が残っていることが。
それと同時に悲しくなった。彼女の力になれなかったことを。
:09/12/13 01:21
:SH705i
:S2K0AsXE
#115 [のん]
書かないんですか?
更新楽しみにしてます
:10/01/30 07:24
:W56T
:msLOlqqg
#116 [ぎぶそん]
「またいつか出会うよ、忘れた頃にさ。
そんなもんでしょ?人生って」
彼が何時になく静かに煙を吐く。
表情もどこか儚げで哀しい。
今になって気づいたけど、彼は細くてとても綺麗な指をしている。
おかしな表現をすると、煙草を吸うのにも、ギターを弾くのにも持ってこいの指だ。
「明日のライブ、楽しみにしてるから」
私はその場を立ち上がり、ベッドへと向かった。
――あなたにも、もう一度会いたいと思ってる人がいるの?
喉元で詰まってしまった言葉を、深い心の奥底まで沈めながら。
:10/02/23 19:03
:SH705i
:C1TvH8W.
#117 [ぎぶそん]
翌日。
目覚ましのベルが鳴る前に起きてみたが、部屋に真織の姿はなかった。
きっと今頃、本番前の最後の予行練習に精を出していることだろう。
ライブに行くということを意識しながら、箪笥の奥で眠っていたジーンズを取り出す。
上は真織専用の衣類ボックスから、適当に選んだ黒のTシャツを拝借させてもらった。
鏡の前に立つボーイッシュな自分に、苦笑いを送る。
化粧はほんの気持ち程度にすることにした。"本日の主役"なんてのは私じゃないし。
テキトーテキトー。
:10/02/23 19:21
:SH705i
:C1TvH8W.
#118 [ぎぶそん]
――そろそろかな。
私は時計の針に目をやった。
予定では加奈がアパートに訪ねて来て、一緒にライブハウスまで行くことになっている。
そこでタイミング良くメールが届き、机の上の携帯が振動する。
宛先はその彼女から。
「ごめぇん。
昨日鈴木君誘ってOK貰ったから彼と行くねぇ!
また向こうで会お!」
彼女の自由気ままな性格は例えるならネコかな、なんて笑ってしまう。
そういえば、スピッツの歌にはネコがよく出て来るなぁ。
バンド名は犬だけど、草野さんは犬よりネコが好きなのかな、なんて思ってしまう。
:10/02/23 19:39
:SH705i
:C1TvH8W.
#119 [いちご]
更新楽しみにしてます
頑張ってください!
:10/03/07 09:53
:P903i
:Cgyk5OOo
#120 [ぎぶそん]
部屋を出て、自転車を漕ぎ目的地を目指す。
どんよりとした雲が、今日の街の景色を冴えなくしている。
でもそんなことはお構いなしに、私の漕ぐスピードは上がる。
チケットの右隅に書いてある地図によると、駅から歩いて五分したところにある、商店街の外れにある小さな建物の二階がライブハウスの場所となる。
地図どおりに進んでみたところでライブハウスの看板を見つけ、自転車をその辺に止めて階段を上がる。
すぐ目の前にいた男女も、はやる気持ちで二階へと駆け上がっていっていた。
:10/03/11 00:55
:SH705i
:r3kx0MPo
#121 [ぎぶそん]
「あ、イトウマオリンのルームメートの噂の足立さんだ。
今日は来てくれたんだね!」
ライブハウスのドアの前には、前に一度だけ会ったことがある三年の田口さんがチケットもぎりの係として立っていた。
彼にチケットを渡し、半券を返された。
「マオリンたちの出番はもうすぐだから、前の方に行って待っておくといいよ」
田口さんが優しく甘い顔をして微笑む。
とりあえず、時間内にたどり着くことが出来たみたいだ。
私は薄暗い人だかりの中に入った。
:10/03/11 01:03
:SH705i
:r3kx0MPo
#122 [ぎぶそん]
加奈の姿を探しながら、前の方へと歩み寄っていく。
想像以上に人と人とで混雑していて、気をつけて歩かないとぶつかりそうになる。
「かなめっ!」
ふいに誰かに肩をポンッと叩かれた。
「静香!来てくれたんだね」
同じアルバイト先の中野静香だった。
数日前バイトの終わりにチケットを渡し、その時は「行けたら行く」と言われていた。
個性的なデザインのTシャツに、フリルのロングスカート。
彼女の金色の髪の一部に入ってる赤いメッシュは、照明が落ちていてもはっきりと認識出来る。
:10/03/11 01:11
:SH705i
:r3kx0MPo
#123 [ぎぶそん]
「前言ってた年下の彼氏が出たら教えてね!」
「彼氏じゃないよ、ただのルームメート」
静香と話し込んでいたさなか、突如ライブの開始時刻を示すBGMが大音量で鳴る。
人声で喧騒していた会場も、一気に静かになった。
ステージ上で、真織を含む一年生の四人が現れた。
それぞれが所定の位置につき、予めそこに置いてあったギターやベースを手にする。
ステージの中央にいる真織がパーカーをまくり、スタンドマイクに手をかける。
反対の手でしっかりとエレキギターのネックを握りながら。
:10/03/11 01:43
:SH705i
:r3kx0MPo
#124 [ぎぶそん]
「えー、僕たち一年生バンドはこれからスピッツの曲を演奏します。
一生懸命練習したので、数十分の間お付き合いよろしくお願いします」
彼が照れ笑いを浮かべ、大きな目を見開き客席を見回す。
大学生となって初めてとなるライブに、流石の彼も緊張している様子が伺える。
「せーのっ…、マオリン頑張れー!」
客席の隅で、同じサークルの女子たちが声援を送っていた。
彼がその人らに向かって小さく礼をする。
私の前では決して見せてはくれない顔を、。
毎日顔を合わせている彼が、今日は何故か遠くに感じた。
:10/03/12 21:24
:SH705i
:9QYPeqek
#125 [ぎぶそん]
彼らは最初に「けもの道」を演奏し始めた。
出だしの「東京の日の出 すごいキレイだなぁ」が、私の中で特にお気に入りのフレーズである。
本当にキレイなのかどうか、私は実際にカメラを持ってその目で確かめに行ったことが以前ある。
その言葉に嘘偽りはなく、日が完全に昇るまで無言のまま見つめていた。
例えば夢を追って上京してきた若者にとっては、それはもっと輝かしく見えるものかも知れない。
その時撮った写真は、ベッドの側の壁に貼ってある。
目を覚ますと、その写真が一番に私の視界に入ってくる。
:10/03/12 21:37
:SH705i
:9QYPeqek
#126 [ん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑
:22/10/27 07:22
:Android
:DE5DdzBs
#127 [ん◇◇]
:22/10/27 12:06
:Android
:DE5DdzBs
#128 [ん◇◇]
:22/10/27 12:06
:Android
:DE5DdzBs
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